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<ノベル>
「ふむ、これは」
対策課の依頼一覧を見ながら、白闇はそう呟いた。
彼の視線に止まったのは、イリアに関する依頼。一通り内容を読んで頷き、対策課に依頼を受ける旨を伝える。
困った時はお互い様。自分や相方も最初は困っていたところを助けられた事だし。それに今回は高度な魔法関連の依頼ということもあり、自身がこれまで身につけてきた知識や技術を総動員することになりそうだ。こんな機会は滅多にないから、実は少し楽しみでもある。
「イリアです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。何でも屋の白闇だ」
なので、職員に連れられてやってきたイリアと初対面した時、肌で感じる魔力に目を見張りつつ楽しみが増していたりもしたのだった。
とはいえもちろん依頼はきちんとこなすわけで。
「まずは……そうだな、イリアさんの知り合いも探した方がいいと思うが、どうする?」
「そうですねー……とりあえず山の方に行ってみましょう。私達の住んでいた町って森の中でしたし」
まずはイリアの知り合い探しから。服を作る方はどうにかなっても、材料はやはりオリジナルに沿った方がいいだろう。だから、ラルフだけでも見つけておきたい。
それに、白闇の魔法は強力だが効果時間が短い。なので探査魔法を使うのもある程度あたりを付けた場所の方がいいだろうと思ったのだ。
「――制御理論はなかなかに視点の付け所が面白い」
「魔法陣の高速安定描写は相当な技術が必要ですよね――」
別世界の魔法への興味から白闇がイリアの出身映画を見ていたこともあり、道中の会話は魔法談義となっていた。
行き先は、自然公園。イリアの実体化した場所もそのあたりらしいので、彼女が気付かなかっただけで近くに探し人がいることも考えられた。
一言に魔法と言っても、世界毎に様々な設定がなされているわけで。構成・制御・魔力源・作用等々、お互いの世界にない設定があったり同じ事に対して別の理論が使われていたり、またまた共通するところもあったり。映画や設定資料を見るのもいいが、こうして使い手と直接話すことで得られるものというのもまた非常に意義深い。別の視点から見ることで新たな発見があり、それがさらに自身を高めることに繋がったりもするのだ。
もちろん出身映画だけでなく個人としての魔法観もあるわけで、そうなるとつい聞きたくなることもあるわけで。
「そういえばイリアさん、この世界では魔法を使えないと聞いたのだが」
「ああ、ファルが居ませんからね」
「確かイリアさんは空間魔力との対話で魔法を使うタイプだったと思うが、この世界の魔力では駄目なのか?」
「どうなんでしょうね。出来なくはないと思うんですけど、やっぱり色んな世界の魔力が混ざっているのかなかなか姿が捉えられなくて」
「そうか、元の世界ではファルさんだけだったから混在していると」
「ええ、難しいですね」
イリアがこちらで魔法が使えない理由。ファルの不在を何らかの形で補う方法があればと思ったが、どうやら相当に難しいらしい。
「まあ、魔力を込めるくらいは出来ますからマジックアイテムの類は使えるでしょうけれど」
「ふむ」
そう言われて、ふと思う。例えば、発動された魔法陣自体の状態を見たりくらいなら出来るのではないか。
「もし出来れば、だが」
「はい」
「探査魔法を使う時に、方陣の構成などを見てもらえないか」
「そういえば維持が苦手なのでしたっけ」
「ああ。数分で効果が切れるものだから、もし問題点など有れば指摘してもらえると嬉しい」
「分単位の時点でかなり高度だと思うのですが……」
そのあたりは価値観の違いか、あるいはやはり出身の違いか。ともかく、白闇の頼みは二つ返事で受け入れられた。アドバイス出来るかどうかまでは分かりませんけどねと言われたが、それはまあ仕方ないだろう。
そんな話をしているうちに、自然公園にたどり着いた。
「それじゃ、とりあえずやってみるぞ」
「お願いします」
そうイリアに声をかけ、スッと鮮やかに魔法陣を描き上げる白闇。程なく周囲の様々な情報が彼の頭の中に飛び込んでくる、その中に探している存在は――居た。
「こっちだ」
「はいっ」
陣が解けないうちにと森の中へ駆ける2人。程なく見つかったのは、雑草を食べている丸っこい巨大芋虫。そしてそれを取り囲む幾人かの人々。
「あー、ラルフくーん」
長年の親友との再会に大喜びで駆け寄るイリア。それを見てラルフを囲んでいた人々は少しだけ警戒を解いた。どうやら危険なモンスターかもと恐れていたらしい。白闇が対策課からの案件を説明すると彼等はあっさりと納得した。銀幕市民はこういった事態に結構慣れている。
「ねぇ、翠螺ちゃんは見なかった?」
背中を撫でながら問いかけるイリアにに首を振るような仕草を見せるラルフ。ということは。
「もう1度、だな」
「そうですね、ファルも見つかっていませんし」
そう言って再び陣を描く白闇。しかし、その後あちこち移動しながら探査魔法を使ったものの、実体化していないのか探し人がこれ以上見つかることはなかったのだった。
結局、あまり時間をかけるのもどうかということで適当な所で切り上げることとなった。
「残念だったな」
「まあ、そのうち会える可能性があると思えば」
イリアはそう言うが、親しい関係にあった者達といきなりはぐれてしまうのは不安であろう。可能性は、あくまで可能性でしかないのだから。
とはいえ、それは口にしてどうにかなるものではない。そして今やるべき事は。
「次は魔法服作りだな。希望とかはあるか?」
「それでしたら、職員の方が雑誌を薦めてくれまして」
魔法服作り。こういうのはやはり本人の希望を聞くべきだろう。職員が気を効かせたのか、彼女はゴシック&ロリータ系統のファッション誌を持ってきていた。
またも魔法談義をしながら、先程の方陣の維持方法なども話し合いながら2人と1匹は白闇の家へ向かっていた。
白闇は世界の外側に立つものとして原作世界で膨大な知識を得、またそれを蓄え続けることを義務づけられていた。また膨大な時間を生きているため様々な技術も身につけている。もちろん生地作りやレースの手編みだって出来るし、魔法に関してはお手の物。伊達に何でも屋を営んではいないのだ。
「それで、服のデザインはどうする?」
「そうですねー……」
ラルフに糸を出して貰っている間に、白闇とイリアは雑誌を見ながら服の形を相談していた。ちなみに服の方陣は既に紙に書き出してある。彼にかかれば方陣の読み取りは一目で出来てしまったりするのだ。
デザインが決まったら、次は型紙起こし。ここでミスをすると後々泣くことになったりするので慎重に、ものによっては少しゆとりも持たせつつ。
一通り服のデザインなどを話し合い、後日また連絡する旨を伝えて白闇は一度イリア達に帰ってもらった。単に作るとは言っても生地作りからとなるとそれなりに時間がかかるし、その間付き合ってもらうよりは彼女がこの街に慣れたり探し人を見つけるのに時間を使った方がいいだろうとの判断だ。
今回、白闇は出来る限り手作業で進めたかった。魔法を使って作ることももちろん出来たが、1つ1つ丁寧にこなす方がより良いものが出来るし、仮に魔法で作って彼女の魔力と相性が悪かったら困るわけだし。
縦糸を織り機に張り、カタン、コトンと優しい音色を奏でながら、丁寧に横糸を通してゆく。
必要な生地を一通り織り上げ、レースは手編みで。あまり待たせてしまっても何なので、今回は比較的手早く編める方法で。もちろん方陣を編み込むのも忘れずに。
材料が一通り揃ったら、次はいよいよ服作り。
生地を型紙に合わせて裁断し、順に縫い合わせてゆく。もちろん、各過程での魔力抑制効果付与も忘れずに。
ミシンを使った方が早く綺麗に仕上がるのは分かっていたが、ここでも白闇は手縫いにこだわった。
それは、白闇なりの気遣い。
魔法は、想いを映すから。
自らの手で作業をすれば、それだけの想いを込められるから。だから、出来る限り手作業で、一手間一手間に想いを込めて。
イリアがこの街で上手くやっていけるように。この街の魔力と早く仲良くなれるように。そして、大切な人達を見つけられるように――。
数日後。
再びイリアを家に招き、服の試着をしてもらう。
「どうだ」
「……暖かいです」
その答えは、物理的な感覚からではなく。白闇が込めた想いがしっかりと伝わったからで。試着を終えて部屋から出てきたイリアの表情に、白闇も思わず表情がほころんだ。
「このたびは本当にありがとうございました」
魔法服としての問題もなかったようで、数着の服を鞄に詰めたイリアと一緒に白闇は市役所へ向かっていた。
「なに、私も結構楽しかったし。物に問題もなかったようで何よりだ」
それに勉強にもなったしなと返すと、いえいえそんなと微笑みがまた返ってきて。
実は一緒に行動したことでほんの少しだけ魔力が上がっていたり、余った糸や端切れはもらえたりもしたのだが。何よりも前に助けられた自分が別の誰かを助けられ、そして喜んでもらえたことが嬉しかった。
想いを紡いで繋がって、それが新たな笑顔を生んで。夢が現実になる街では、なおのことそういった連鎖が輝きを増すのかもなと思いながら。
いつしか2人分の影は市役所の前に立っていて、そして吸い込まれていったのだった。
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クリエイターコメント | まずはご参加下さった白闇様、そしてお読み下さった皆様、 ありがとうございました。 ノベル本編に関してはプレイングとキャラ設定からあった方が自然かなと、 シナリオ本来の目的の他に軽い魔法談義なども入れてみました。 お気に召していただければ幸いです。
それとオープニング等に関しては前回以上に反省しています。 毎回至らなさを痛感してはいるのですが、 直す方向を間違えてより悪くなっていては元も子もないですね。 あまり長々と反省文を書くのも何ですし、 精進いたしますので生暖かい眼で見守っていただければ幸いです。
まだまだ未熟者ですがこれからもよろしくお願いします。 それでは、今回はこれにて失礼いたします。 |
公開日時 | 2008-11-04(火) 19:50 |
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