★ 【ムービースターの新生活】魔法使いの困り事 ★
<オープニング>

 銀幕市に魔法がかかって以来、日々登場するムービースター達。
 ある者はすぐに銀幕市になじみ、ある者は悪事を働きヴィランスと呼ばれ。
 でも、やっぱり戸惑いながらこれからどうするかを模索するスターが一番多いのではないだろうか。



 気付いたら、独りぼっちになっていた。
「あれ? 翠螺ちゃん? ラルフ君?」
 黒の特徴的な衣服に杖といった魔法使い風の女性の呼びかけに、応える者は居ない。
「ファル……も、居ない?」
 彼女にとって、呼べば必ず応えてくれるはずの存在も、やっぱり何も応えない。
 そして彼女は気付いた。
「ここ、どこ?」
 今いる場所が、本来の居場所と全く違う世界らしいという事に。


「植村さん、仕事の調子はどう?」
「あ、草間さん。ご覧の通りですよ」
 高梨が新たに実体化したムービースターの相手をしている傍らで、草間は植村に声をかけた。
「相変わらず大変そうなところ悪いんだけど、1件追加になりそうだわ」
「はい?」
 どういう事ですかと怪訝な顔をした植村に、あれねと草間は高梨の方を指さした。

「イリア・ファリー様。20歳で魔法使い。間違いありませんね」
「はい、大丈夫です」
 あれから程なく通りがかった市民に市役所に連れてこられた女性――イリアは、説明を受けつつ住民登録を無事に済ませていた。
「翠螺ちゃん達はこちらには来ていないのですか?」
「宇佐美翠螺様とラルフ様ですよね。残念ながら、少なくとも市役所にはデータがありません」
「そうですか。うーん……」
 済ませたのは良いが、原作の近しい人達が来ていない事を確認するとなにやら悩ましげな表情に。
「あの、どうかしましたか?」
「それが……」
 なにやら言いにくい悩みがあるらしく数瞬ためらったものの、説明しない事には仕方ないとイリアは口を開いた。
「その、着替えのあてが無くて」
「あー……」
 そんなに多くはないが、こういう事はたまにある。能力等の関係で普通の服を着られないスターもいるのだ。
「えっと、どんな服が必要なんですか?」
「それがですね……」
 だが、色んなスターが実体化している銀幕市なら大抵の場合どうにかなる。仕事柄スターに割と詳しい高梨は話を聞いて頼めそうな人に目星をつけようと思ったのだが。
「私の服、翠螺ちゃんの特製なんです。服飾錬金学には詳しくないので上手く言えないんですけど、ラルフ君の糸から服の魔力と魔力抑制効果を私に合わせて作っているらしくて。私、魔力ものすごく高くてたまに暴走とかしてましたから、殆ど制御出来るようになったとは言ってもいつも翠螺ちゃんの服を着ていたので普通の服で大丈夫か自信が無くて」
 簡単に誰かに頼める話ではなかった。ごく稀にだがこういうこともある。しかも、今回は輪をかけてやっかいな方で。
「あの、もし暴走したらどうなってしまうのですか?」
「元の世界通りなら、の前提ですけど」
「はい」
「半径キロ単位で吹き飛ばしてしまうか、私自身がしばらく暴走魔獣化してしまうか、になる可能性が高いです」
 もしもの場合が、シャレになっていなかった。
「え、えーと。魔法で複写とかは出来ないんですか?」
「それが、こっちに来てから魔法が使えなくなっていて」
 念のため、思いついた方法を尋ねてみたものの別の悩みまで打ち明けられてしまう。
「それはどういう事情でしょうか」
「ファル……魔法を司る精霊みたいな存在なんですけど、それがこっちの世界に来ていないのか意思疎通が出来なくて――」

「……というわけ」
 依然話し中の2人に背を向け、草間は植村に向き直った。
「はあ、つまり彼女の着替え探しの手伝いを募集して欲しいと。ついでにファルさん達が見つかればなおよし、ということですね」
「さすが植村さん、話が早い」
 そんな事を言いつつ2人とも表情は硬い。そりゃ、下手すれば一大事なのだから仕方ないが。
「で、イリアさんってあのイリアさんですよね」
「そ。『月と樹と魔法使い』シリーズ本編の魔法使い」
 以前、外伝の「死出の扉」絡みの事件で使った資料集を再び見ながら植村はざっと目的を整理した。
「必要なのは魔力と親和性の高い糸、それと魔力抑制効果を織り込んだ服を作れる人、になりますね」
「服というか生地作りからになりそうだけど。あと、魔法勘の優れた人も必要じゃないかしら。ファル探しもそうだし、かなり高い抑制効果あるから魔法使い系のスターが直接触れたりすると危ないかもしれないわ」
 さすがにリオネの魔法には影響しないでしょうけど、って。
「そんなに強力なんですか?」
「並の魔法は無防備状態でも無効化してしまうくらいだったしねえ」
 苦笑しながらもしっかりと手元のパソコンで依頼文の編集をやっているあたりはさすがと思いつつ。
(普段からこれだけしっかりしてくれていればいいのですけどねぇ)
 妙な徒労感と共に、なぜだか高梨に同情せずには居られない気分になった植村であった。

種別名シナリオ 管理番号796
クリエイター水華 月夜(wwyb6205)
クリエイターコメントこんにちは、水華です。
【ムービースターの新生活】の第2弾は魔法使いの着替えと、
ついでに人探し(?)な依頼です。

まず着替えに関して。
前回と同じく着の身着のまま実体化しているので、
魔法服はもちろん衣類は一通り用意しないといけません。
今回は服の入手ではなく、糸から作ることになります。
しかも魔法服の専門知識が必要です。
原作でのイリアの魔力は主神級かそれ以上という設定なので、
並の魔法服ではおそらく無理だと思います。

イリアの魔法服ですが、見た目にはゴシックテイスト強めの
ゴシック&ロリータ服になります。
但し製作過程で何重にも魔力抑制能力付加が行われているので、
魔法使い系のスターの方は下手に触らない方が無難でしょう。
ちなみに原作での製作過程は、まずラルフ(草食の巨大芋虫)が
月光で育つハーブを食べて糸を排泄。
それを翠螺が生地に仕立て(ここは普通の生地作りと同じ)、
その後服飾錬金術なる技術で魔法耐性を加えつつ服に仕立て上げます。
レースは総手編み又は練金加工(ケミカルレースの魔法版と思って下さい)で、
こちらにも魔力抑制の方陣が編み込まれています。
服として完成した後、実際にイリアが着て魔力を浴びることで
イリアの魔法服として完成します。
ゴシック&ロリータ服になるのは
パニエやレース・フリル等で魔力抑制効果を高めているからです。
なおラルフ、翠螺両名共にイリアの魔力の影響を受けていて、
服にもそれが影響しています。
ついでにハーブも影響を受けていたりします。

ということでこちらの世界でそれぞれの代替え手段を見つけて下さい。
もちろんイリアも同行、職員は高梨に限り連れ出せる可能性があります。
糸は親和性さえあれば大丈夫なので適当にあたりをつければいいでしょう。
服作りの方は魔法、洋裁(ついでに布作り)両方面の
知識や技術が必要になるでしょう。

ちなみにファル達を見つけられた場合、服作りの一部を手伝ってもらえます。
具体的には以下の通りです。

ファル:必要な魔法知識を教えてもらえます
ラルフ:糸を入手出来ます
翠螺:材料が有れば服を作ってもらえます

ラルフと翠螺が見つかれば服作りの問題は一気に解決しますが、
実体化している保証はありません。
またファルが見つかるとイリアが魔法を使えるようになりますが、
こちらも実体化している保証はありません。
あと魔法が使えるようになっても服の複写は出来ません。


ちなみに、同系列の作品ですが元の時代が全く違うため、
この前の事件の姫は今回の件に関しては無力です。
授業で習ったり後継者に指導されたりしているので
イリアは姫のことを知っています。
あと、イリアは常に一定量の魔力を放出しているので、
同行すると多少の魔力を帯びることになる可能性が高いです。
魔法使い系のムービースターの方なら魔力量が増える事になるでしょう。

なお、オープニングで暴走の可能性に触れていますが、
よほど精神負荷がかからない限りまず大丈夫です。
一応シリーズですが各シナリオは独立したお話ですので
連続参加も1話だけの参加も大歓迎です。
それでは、皆様のご参加をお待ちしています。

参加者
白闇(cdtc5821) ムービースター 男 19歳 世界の外側に立つ者
<ノベル>

「ふむ、これは」
 対策課の依頼一覧を見ながら、白闇はそう呟いた。
 彼の視線に止まったのは、イリアに関する依頼。一通り内容を読んで頷き、対策課に依頼を受ける旨を伝える。
 困った時はお互い様。自分や相方も最初は困っていたところを助けられた事だし。それに今回は高度な魔法関連の依頼ということもあり、自身がこれまで身につけてきた知識や技術を総動員することになりそうだ。こんな機会は滅多にないから、実は少し楽しみでもある。
「イリアです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。何でも屋の白闇だ」
 なので、職員に連れられてやってきたイリアと初対面した時、肌で感じる魔力に目を見張りつつ楽しみが増していたりもしたのだった。
 とはいえもちろん依頼はきちんとこなすわけで。
「まずは……そうだな、イリアさんの知り合いも探した方がいいと思うが、どうする?」
「そうですねー……とりあえず山の方に行ってみましょう。私達の住んでいた町って森の中でしたし」
 まずはイリアの知り合い探しから。服を作る方はどうにかなっても、材料はやはりオリジナルに沿った方がいいだろう。だから、ラルフだけでも見つけておきたい。
 それに、白闇の魔法は強力だが効果時間が短い。なので探査魔法を使うのもある程度あたりを付けた場所の方がいいだろうと思ったのだ。


「――制御理論はなかなかに視点の付け所が面白い」
「魔法陣の高速安定描写は相当な技術が必要ですよね――」
 別世界の魔法への興味から白闇がイリアの出身映画を見ていたこともあり、道中の会話は魔法談義となっていた。
 行き先は、自然公園。イリアの実体化した場所もそのあたりらしいので、彼女が気付かなかっただけで近くに探し人がいることも考えられた。
 一言に魔法と言っても、世界毎に様々な設定がなされているわけで。構成・制御・魔力源・作用等々、お互いの世界にない設定があったり同じ事に対して別の理論が使われていたり、またまた共通するところもあったり。映画や設定資料を見るのもいいが、こうして使い手と直接話すことで得られるものというのもまた非常に意義深い。別の視点から見ることで新たな発見があり、それがさらに自身を高めることに繋がったりもするのだ。
 もちろん出身映画だけでなく個人としての魔法観もあるわけで、そうなるとつい聞きたくなることもあるわけで。
「そういえばイリアさん、この世界では魔法を使えないと聞いたのだが」
「ああ、ファルが居ませんからね」
「確かイリアさんは空間魔力との対話で魔法を使うタイプだったと思うが、この世界の魔力では駄目なのか?」
「どうなんでしょうね。出来なくはないと思うんですけど、やっぱり色んな世界の魔力が混ざっているのかなかなか姿が捉えられなくて」
「そうか、元の世界ではファルさんだけだったから混在していると」
「ええ、難しいですね」
 イリアがこちらで魔法が使えない理由。ファルの不在を何らかの形で補う方法があればと思ったが、どうやら相当に難しいらしい。
「まあ、魔力を込めるくらいは出来ますからマジックアイテムの類は使えるでしょうけれど」
「ふむ」
 そう言われて、ふと思う。例えば、発動された魔法陣自体の状態を見たりくらいなら出来るのではないか。
「もし出来れば、だが」
「はい」
「探査魔法を使う時に、方陣の構成などを見てもらえないか」
「そういえば維持が苦手なのでしたっけ」
「ああ。数分で効果が切れるものだから、もし問題点など有れば指摘してもらえると嬉しい」
「分単位の時点でかなり高度だと思うのですが……」
 そのあたりは価値観の違いか、あるいはやはり出身の違いか。ともかく、白闇の頼みは二つ返事で受け入れられた。アドバイス出来るかどうかまでは分かりませんけどねと言われたが、それはまあ仕方ないだろう。

 そんな話をしているうちに、自然公園にたどり着いた。
「それじゃ、とりあえずやってみるぞ」
「お願いします」
 そうイリアに声をかけ、スッと鮮やかに魔法陣を描き上げる白闇。程なく周囲の様々な情報が彼の頭の中に飛び込んでくる、その中に探している存在は――居た。
「こっちだ」
「はいっ」
 陣が解けないうちにと森の中へ駆ける2人。程なく見つかったのは、雑草を食べている丸っこい巨大芋虫。そしてそれを取り囲む幾人かの人々。
「あー、ラルフくーん」
 長年の親友との再会に大喜びで駆け寄るイリア。それを見てラルフを囲んでいた人々は少しだけ警戒を解いた。どうやら危険なモンスターかもと恐れていたらしい。白闇が対策課からの案件を説明すると彼等はあっさりと納得した。銀幕市民はこういった事態に結構慣れている。
「ねぇ、翠螺ちゃんは見なかった?」
 背中を撫でながら問いかけるイリアにに首を振るような仕草を見せるラルフ。ということは。
「もう1度、だな」
「そうですね、ファルも見つかっていませんし」
 そう言って再び陣を描く白闇。しかし、その後あちこち移動しながら探査魔法を使ったものの、実体化していないのか探し人がこれ以上見つかることはなかったのだった。
 結局、あまり時間をかけるのもどうかということで適当な所で切り上げることとなった。
「残念だったな」
「まあ、そのうち会える可能性があると思えば」
 イリアはそう言うが、親しい関係にあった者達といきなりはぐれてしまうのは不安であろう。可能性は、あくまで可能性でしかないのだから。
 とはいえ、それは口にしてどうにかなるものではない。そして今やるべき事は。
「次は魔法服作りだな。希望とかはあるか?」
「それでしたら、職員の方が雑誌を薦めてくれまして」
 魔法服作り。こういうのはやはり本人の希望を聞くべきだろう。職員が気を効かせたのか、彼女はゴシック&ロリータ系統のファッション誌を持ってきていた。


 またも魔法談義をしながら、先程の方陣の維持方法なども話し合いながら2人と1匹は白闇の家へ向かっていた。
 白闇は世界の外側に立つものとして原作世界で膨大な知識を得、またそれを蓄え続けることを義務づけられていた。また膨大な時間を生きているため様々な技術も身につけている。もちろん生地作りやレースの手編みだって出来るし、魔法に関してはお手の物。伊達に何でも屋を営んではいないのだ。

「それで、服のデザインはどうする?」
「そうですねー……」
 ラルフに糸を出して貰っている間に、白闇とイリアは雑誌を見ながら服の形を相談していた。ちなみに服の方陣は既に紙に書き出してある。彼にかかれば方陣の読み取りは一目で出来てしまったりするのだ。
 デザインが決まったら、次は型紙起こし。ここでミスをすると後々泣くことになったりするので慎重に、ものによっては少しゆとりも持たせつつ。

 一通り服のデザインなどを話し合い、後日また連絡する旨を伝えて白闇は一度イリア達に帰ってもらった。単に作るとは言っても生地作りからとなるとそれなりに時間がかかるし、その間付き合ってもらうよりは彼女がこの街に慣れたり探し人を見つけるのに時間を使った方がいいだろうとの判断だ。
 今回、白闇は出来る限り手作業で進めたかった。魔法を使って作ることももちろん出来たが、1つ1つ丁寧にこなす方がより良いものが出来るし、仮に魔法で作って彼女の魔力と相性が悪かったら困るわけだし。
 縦糸を織り機に張り、カタン、コトンと優しい音色を奏でながら、丁寧に横糸を通してゆく。
 必要な生地を一通り織り上げ、レースは手編みで。あまり待たせてしまっても何なので、今回は比較的手早く編める方法で。もちろん方陣を編み込むのも忘れずに。
 材料が一通り揃ったら、次はいよいよ服作り。
 生地を型紙に合わせて裁断し、順に縫い合わせてゆく。もちろん、各過程での魔力抑制効果付与も忘れずに。
 ミシンを使った方が早く綺麗に仕上がるのは分かっていたが、ここでも白闇は手縫いにこだわった。
 それは、白闇なりの気遣い。
 魔法は、想いを映すから。
 自らの手で作業をすれば、それだけの想いを込められるから。だから、出来る限り手作業で、一手間一手間に想いを込めて。
 イリアがこの街で上手くやっていけるように。この街の魔力と早く仲良くなれるように。そして、大切な人達を見つけられるように――。


 数日後。
 再びイリアを家に招き、服の試着をしてもらう。
「どうだ」
「……暖かいです」
 その答えは、物理的な感覚からではなく。白闇が込めた想いがしっかりと伝わったからで。試着を終えて部屋から出てきたイリアの表情に、白闇も思わず表情がほころんだ。

「このたびは本当にありがとうございました」
 魔法服としての問題もなかったようで、数着の服を鞄に詰めたイリアと一緒に白闇は市役所へ向かっていた。
「なに、私も結構楽しかったし。物に問題もなかったようで何よりだ」
 それに勉強にもなったしなと返すと、いえいえそんなと微笑みがまた返ってきて。
 実は一緒に行動したことでほんの少しだけ魔力が上がっていたり、余った糸や端切れはもらえたりもしたのだが。何よりも前に助けられた自分が別の誰かを助けられ、そして喜んでもらえたことが嬉しかった。
 想いを紡いで繋がって、それが新たな笑顔を生んで。夢が現実になる街では、なおのことそういった連鎖が輝きを増すのかもなと思いながら。
 いつしか2人分の影は市役所の前に立っていて、そして吸い込まれていったのだった。

クリエイターコメントまずはご参加下さった白闇様、そしてお読み下さった皆様、
ありがとうございました。
ノベル本編に関してはプレイングとキャラ設定からあった方が自然かなと、
シナリオ本来の目的の他に軽い魔法談義なども入れてみました。
お気に召していただければ幸いです。


それとオープニング等に関しては前回以上に反省しています。
毎回至らなさを痛感してはいるのですが、
直す方向を間違えてより悪くなっていては元も子もないですね。
あまり長々と反省文を書くのも何ですし、
精進いたしますので生暖かい眼で見守っていただければ幸いです。

まだまだ未熟者ですがこれからもよろしくお願いします。
それでは、今回はこれにて失礼いたします。
公開日時2008-11-04(火) 19:50
感想メールはこちらから