★ 雷の守護者と電気ウナギ ★
クリエイター天海月斗(wtnc2007)
管理番号312-4168 オファー日2008-08-14(木) 23:16
オファーPC 四幻 アズマ(ccdz3105) ムービースター その他 18歳 雷の剣の守護者
ゲストPC1 四幻 ヒジリ(cwbv5085) ムービースター その他 18歳 土の剣の守護者
<ノベル>

 黄色い髪を靡かせ、紫色の瞳を持った青年、四幻アズマはメモを片手に聖林通りを歩いていた。
「野菜が安い八百屋さんは……あった!」
 近所のおばちゃんから教えてもらった八百屋を見付けると、今日の夕食に必要な食材を買って帰ろうとする。
「今日はカレー、カレー……あ!」
 アズマが鼻歌を歌いながら歩いていると、前から自分と同じ瞳の色をした茶色い髪の青年が見え、彼に向かって元気良く手を振る。
「ヒジリ! こっちだよ〜!」
 名前を呼ばれヒジリはアズマの元に向かうが、その顔は恐怖で強張っていて、彼の前に立つと息を切らせながら話し出す。
「こっちには来ていないか?」
 真剣な表情でヒジリは言うが、アズマはキョトンとした顔で彼をジッと見た。
「何の話してるの? それより、私ちゃんとカレーの材料買った……」
「来やがった!」
 アズマが笑顔でビニール袋を上げようとした時、ヒジリは彼の手を取って走る。2人の後ろを、白い何かが追いかけて来る。
「何あれ?」
 呆けながらアズマが聞くと、ヒジリは懐からSF映画『エレクトロバスターズ』のパンフレットを取り出す。
「ここの敵がムービーハザード化して、襲ったんだよ!」
 半ば自棄気味にヒジリは言い、アズマに敵が載っているページを見せた。それは発電所で働く機械が暴走した物で、クラゲ型の機械を主人公達がライフル銃で撃ち落している様子が描かれていた。
「じゃあ今、襲って来ているのって……」
 アズマが呟くと同時に、クラゲ型の機械達は距離を詰め寄って彼等に飛びかかり、2人の体を覆いつくす。
「街の皆も、この攻撃で病院行きだ……」
「なら早めに退治しないとね!」
 苦しそうに言うヒジリに、アズマは体中を金色に光らせ、両手を大きく広げて自分に群がっていたクラゲ達を吹っ飛ばした。
「あんまり私をバカにしない方がいいですよ」
 体中から電気を発しながら、得意げにアズマは言ったが、クラゲ達はすぐに起き上がって2人を睨む。
「コイツ等は発電所で働いてんだぞ。多少の電気は食事みたいな物だ!」
「ごめん。何か事態は悪化したみたいです」
 呆れながら言うヒジリに、アズマは申し訳なさそうに前を指して言う。そこにはクラゲの大群が居て、電気を出しているアズマをジッと見つめ、今にも飛び掛ろうとしていた。
「どうしよう……」
「取り合えず、存分に力を発揮出来る所まで走るぞ!」
 2人はクラゲから逃げる様に全力で走り出した。クラゲ達もエネルギーを発してくれるアズマを追い、銀幕市に現れた脅威は、新たに現れた2人のスターによって解決しようとしていた。



 自分達に纏わり付くクラゲ達を払いのけながら、2人は戦う場所を探し続けていた。
「ヒジリ兄さん! あそこ!」
 アズマが指差した先には誰も居ない寂れた公園があった。2人は体に付いているクラゲを全て落とすと、公園へ駆け込む。
「ここなら迷惑は掛からない。どれぐらいで出来る?」
「大体5分。その間お願い!」
 目を閉じて意識を集中するアズマを見て、ヒジリは胸に手を置き、向かってくるクラゲ達を睨んだ。
「こっから先は通さないぞ……『土盾』!」
 叫ぶと同時に、ヒジリは胸から土の剣を取り出し、それを巨大な土の盾に変え、出入り口の前に突き立てる。クラゲ達の体当たりの音だけが響いた。
「ギリギリだからな。巻きで頼むぞ!」
 ヒジリが言う通り、土の壁には決壊が出始めていて、クラゲ達の体当たりも威力を増していた。アズマは力強く頷いて、体中から発せられた光を両手に集める。
「もう大丈夫……解除して!」
 頼りがいのある声を聞き、ヒジリは土盾を解除し、クラゲ達を公園に入れた。皆は一斉にエネルギーを発している青年へ突っ込んで行く。
「これなら吸収は出来ない筈だよ……『雷柳』!」
 力強い叫びと共に、アズマの手から数枚の柳葉飛刀が飛ぶ。雷で作られた刃は体を貫き、内部の機械をショートさせ、派手なスパークと共にクラゲは地面に落ち、黒いボロボロのフィルムに戻った。
「その調子だ! ガンガン攻めろ!」
 兄の声援を受けると、アズマは立て続けに雷柳を放つ。クラゲ達は次々と貫かれ、黒煙を放ちフィルムに戻り、最後の1体にもアズマは大きく振りかぶり、雷柳を投げようとする。
「待て! ソイツは残せ」
 突然言われアズマは体勢を崩しそうになるが、ヒジリの言う通り、クラゲを両手で押さえ付けて身動きを取れなくした。
「それから大元の情報を引き出せ、最近出来る様になったんだろ?」
 そう聞かれ、アズマは得意げに頷き、目を閉じ微量の電気をクラゲに浴びせ、メモリーにある情報を自分の脳内に映し出す。
「大きくて黒い物にクラゲ達が群がってますです……」
 アズマの脳内に映し出されたのは、多数のクラゲ達が大元と思われる黒い物に寄り添い、電気を発している様子だった。情報を得ると雷柳でクラゲを貫き、アズマはヒジリを見た。
「クラゲ達が電気を取っていたのは、黒い物の為みたいだよ」
「そうだな。ソイツを倒しに……」
 ヒジリがこれからの事を考えていると、前方から地響きが聞こえ、2人は木の陰に隠れる。
「来るぞ……あれが総締めだ!」
 そう言ってヒジリが指差した先には、アスファルトの地面を抉り、はって進み続ける巨大な蛇だった。10m近くある黒蛇は憎しみが篭った目で辺りを見回し、ボロボロのフィルムを見付けると、口を大きく開いた。
「私の大切な部下を殺したのは誰だ!」
 黒蛇の声は町中に響き、アズマは耳を塞いで、うずくまったが、ヒジリは力強い足取りで前へ出る。
「私だ。理由は分かるな?」
「黙れ!」
 2人は一触即発の状態になっていて、アズマも恐る恐る間に入り、話しかける。
「あなたは誰ですか?」
 場違いな質問にヒジリは呆れた顔を浮かべるが、蛇は軽く笑うとアズマに対し頭を下げ、自己紹介をする。
「失礼。私の名はウロボロス、君達に死を与える者だ」
「ウロボロスさんですね……あなた確か『ウナギ』ですよね?」
 『ウナギ』呼ばわりされ、それまで平静を保っていたウロボロスの顔に怒りの色が見え、ヒジリは両手で口を押さえ笑いを堪えた。
「誰が鰻だ! 私は蛇だ!」
「ねぇヒジリ? 『ウロボロス』って名前のウナギなんて居たっけ?」
 額に青筋立てて話すウロボロスに構わず、アズマは顔を真っ赤にさせて口元を押さえるヒジリに聞く。
「あれは鰻じゃなくて、神話の蛇……」
「もういい!」
 ヒジリは笑いを堪えながら説明しようとするが、ウロボロスは2人に尻尾を振りかざした。まともに食らった2人は飛ばされ木に激突し、力無く倒れこむ。
「ヒジリ、あのウナギ野放しにしたら危険だよ」
「そうだな……見ろ」
 兄に言われてアズマが見上げると、自分達を見下した目で見つめ、舌をチロチロと出している黒蛇が居た。
「選ばせてやる。絞め殺されるのと、丸呑みにされるの。どっちが良い?」
 勝ち誇った顔でウロボロスは言い、辛そうに腕を押さえている2人の前に顔を出し、舌を出して挑発する。
「どっちも嫌だね。私達は黙って殺される訳には行かない。バイトも合格したしな」
「本当? おめでとうヒジリ!」
 バイトに合格したと聞くと、アズマはヒジリの手を取り、満面の笑みで彼を祝福した。場違いなアズマの態度に、ヒジリとウロボロスは呆れた顔を浮かべる。
「喜んでくれるのは嬉しいけどさ……」
 ヒジリが申し訳なさそうにウロボロスの方を見ると、彼は2人を微笑ましい顔で見ていた。
「あくまで日常を忘れない、その心情は中々だ。こっちも敬意を払い全力で潰させてもらう」
 そう言うとウロボロスは2人から離れ、大きく口を開けた。
「見せてやる。これが私の必殺技だ!」
 叫びと共に、ウロボロスの口から電撃の刃が放たれ、2人は別々の方向へ逃げて避けるが、刃が通った地面は抉れ、後ろの木も真っ二つに引き裂かれていた。
「これ以上かわすと、町にも被害が出るね……」
「大丈夫いつも通りで行くぞ。防御は私がするから、アズマは戦え!」
 ヒジリは力強くアズマの肩を叩いて送り出した。兄の声援を受けると、アズマは胸に手を置き光り輝く偃月刀を取り出すと、ウロボロスに向けて突き出す。
「覚悟してください。『雷月』であなたを倒すです!」
 自分の決意を叫び、アズマは力強く飛び上がり、ウロボロスの頭に向け、剣を振り下ろすが、黒蛇は寸前で攻撃をかわし、無防備な彼の体に頭突きを食らわせる。
「今度はこっちの番だ!」
 ウロボロスの口が開き、アズマに向け雷の刃が放たれる。
「させるか!」
 ヒジリが弟に手を向け念じると、彼の体は瞬く間に地面へ落ち、雷の刃は空を切った。ウロボロスが下を見ると、大の字で地面に埋まるアズマの姿があった。
「私の能力の1つ重力操作だ。ちなみに重くするだけじゃないぞ」
 得意げな口調で言うと、ヒジリは自分の体を浮かすとウロボロスの前に立つ。
「頼むから大人しくしてくれ。私達も平和な解決を望んでいる」
「聞けない相談だな。私の部下を殺しておいて、そんな事が良く言えるな?」
「あれは話が出来ない状態だったし、それに町の皆にも襲い掛かったから……ウォ!」
 話の途中でウロボロスはヒジリの体に噛み付き、彼の胴に毒の牙を食い込ませた。顎を動かすたび、牙から毒液が漏れ、ヒジリの体に浸透していく。
「ヒジリ!」
 アズマはヨロヨロとした足取りで立ち上がり、自分の兄を噛み砕こうとする黒蛇へ憎しみの視線を向けた。
「ヒジリをどうするつもり? あなたの目的は何?」
「コイツにはこのまま死んでもらう。目的? そうだな、欲するままに電気を食らい続けるかな。この町に光が無くなるまでな!」
 ウロボロスはヒジリを噛む力を強めながら言うと、アズマは力強く立ち上がり、左足を後ろに持って行き、雷月をウロボロスに向ける。
「させない……それだけは!」
 真剣な表情でウロボロスを睨むと、アズマは力強く飛び上がり一筋の光と化した。光は黒蛇の頭を目がけ飛んでいったが、彼は寸前でかわし、光は頬を掠めるだけで終わり、アズマは空中で元の姿に戻った。
「ここまでだな小僧! 貴様も食らってやる!」
 頬から黒いオイルを流しながら、ウロボロスは口を開きアズマも飲み込もうとする。
「いえ……私の勝ちです」
 頭から落ちながら、アズマが冷静な口調で言うとウロボロスの顔色が変わった。口がだらしなく開き、ヒジリを地面へ落とす。
「馬鹿な、何がどうなって……」
 ウロボロスは自分に起こった事が理解出来ないまま前のめりに倒れこみ、2人が地面に着地すると同時に、地響きが鳴って戦いの終わりを知らせた。
「ナゼ……ダ? コンナコトニ……」
 黒蛇の口から発せられる言葉は、先程までの流暢な物では無く、機械的で片言な物になっていた。苦しそうに口をパクパクと動かすウロボロスの前にアズマが立つ。
「種明かしをするよウロボロス。見た目ウナギでも、あなたは機械だ。それなら私の雷月で一撃だよ」
 アズマは大人びた顔を浮かべ雷月をウロボロスに見せた。刀はバチバチと音を立てながら電磁波を発し、黒蛇の意識が更に遠のく。
「あなたが例え雷を食らう機械でも、食いすぎは毒って事だよ。これからは自重するんだな」
 吐き捨てる様に言うと、ヒジリはアズマの肩を叩いて公園を出て行こうとする。
「マテ……ワタシニトドメヲサセ……」
 2人に対しウロボロスは震える声で言う。アズマは渋い表情を浮かべ、黒蛇の元に向かい、彼の顔を見て話し出す。
「あなたは戦える状態じゃないです。もうしないのなら、私達もこれ以上は……」
「アマエタコトヲイウナ!」
 冷静に諭そうとするアズマをウロボロスは一喝する。彼は目を閉じて怯えたが、黒蛇は構わずに話を続ける。
「ショクジヲトメルコトハデキナイ、ソレニワタシノナカデ、クロイモノガシンショクシテイル。タノム、ワタシガワタシデイラレルウチニ……」
 目に涙を浮かべながらウロボロスは話すが、アズマは辛そうな顔を浮かべるだけで、話をまともに聞けず、助けを求める様にヒジリの方を向く。
「やってあげろ。それがウロボロスの為でもある……」
 それだけ言うと、ヒジリも俯いて辛そうな顔を浮かべた。アズマは唇を噛み締めると、胸に手をやって雷月を取り出す。
「分かりましたです。あなたの分まで、私達ここで頑張るです!」
 自分の決意を叫ぶと、アズマはウロボロスの横を素早く通り抜け、渡り切ると同時に黒蛇の体は裂かれていき、完全に体が2つに別れた。
「アリガトウ……」
彼は2人に微笑みかけると、ボロボロのフィルムに変わった。
「よくやった。立派だったぞ」
 ヒジリは辛そうな顔でうつむく、アズマの肩を叩いた。兄の顔を見ると彼は暗い表情のまま顔を上げ、話しかける。
「私のやった事は正しいのかな?」
「それは、これから分かる事だよ、今日は帰ろう」
 兄の言葉を受けるとアズマは力無く頷き、トボトボとした足取りで彼の背中を追った。公園に残されたフィルムは風と共に飛んで行き、跡形も無く消えていった。



 ウロボロスの事件から一週間後、アズマはメモを片手にヒジリのバイト先を探していた。
「ここだね『うな政』って」
 目的地の鰻屋『うな政』を見付けると、アズマはのれんをくぐり、威勢の良い掛け声に出迎えられ、座敷の席に1人座る。
「今日は私が奢るから、遠慮なく食べろ」
 そこに板前服に身を包んだヒジリが、湯飲みに入ったお茶を彼に差し出すと、すぐに調理場へ戻って行った。料理が来る間、アズマは物珍しそうに店内をキョロキョロと見回す。
「ウナギが一杯……」
 店内には鰻の絵や写真が沢山あり、アズマは首をコクコクと動かしながら見続けていた。
「出来たぞ」
 ヒジリはテーブルに重箱を1つ置くと、調理場に戻って行った。蓋を開けると香ばしい匂いがして、茶色く光り輝いている鰻重が出ると、アズマは生唾を飲み込むと同時に1人の宿敵を思い出す。
(ウロボロスさん……きっと、もっと生きたかっただろうな……)
 目に涙を貯めながらも、アズマは割り箸を割り、おしぼりで目頭を押さえながら、鰻重に箸を伸ばして行く。
(私、あなたの分も頑張って生きます。だから安心して眠って下さい。私頑張るです!)
 心の中で硬く決意を固めると、アズマは鰻重を頬張った。口の中にタレの甘みと鰻の甘みが広がり、幸せそうな顔を浮かべるが、すぐに真剣な表情に戻り、良く味わって食べる。
「だから鰻じゃないって……」
 その様子を調理場からヒジリは呆れた様に見ていたが、従業員に呼ばれると皿を洗い出した。2人の兄弟は新たな世界で、新しい物語を築こうとしていた。誇り高き黒蛇の事を胸に秘めながら。

クリエイターコメント今回はオファーありがとうございました。全力を持って2人の兄弟の話を書かせてもらいました。気に入ってもらえたら嬉しいです。電気繋がりと言う事で、大ボスはこうしました。

これからも皆様の為、全力を持って作品に取り組みたいと思います。本当にありがとうございました。
公開日時2008-09-02(火) 01:00
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