★ 憎しみを映し出す鏡 ★
クリエイター天海月斗(wtnc2007)
管理番号312-6647 オファー日2009-02-11(水) 00:24
オファーPC 四幻 アズマ(ccdz3105) ムービースター その他 18歳 雷の剣の守護者
ゲストPC1 四幻 ヒジリ(cwbv5085) ムービースター その他 18歳 土の剣の守護者
<ノベル>

 風が吹き、落ち葉が舞い、雲が太陽を覆う。
 冬の光景が聖林通りを染める中、四幻アズマは大きな紙袋を両手に抱え、歩いていた。
「ちょっと買いすぎちゃいましたか?」
 苦笑しつつアズマは、後ろで歩く兄の方を見る。
「買える内に買った方が良いだろ。これでしばらくは豪華な食事を楽しめる」
 紙袋から顔を出すと、四幻ヒジリは軽く笑う。
 買い物に付き合ってくれた兄に、微笑む事で感謝の意を示すと、アズマは視線を前に戻す。
「あ……」
 アーケードの真ん中を陣取る二体の異形に、アズマは言葉を失う。
 目の前には縁が髑髏で出来た巨大な鏡があって、黄金の髑髏と白銀の髑髏は二人をまっすぐ見据えていた。
「久しぶりだな……金鬼(きんき)銀鬼(ぎんき)」
 兄の声でアズマは我に返り、頭の中に異形達の過去が過ぎる。
 作中で金鬼と銀鬼は、太陽の光を体に貯めて、何倍ものエネルギーに変えて解き放ち、人々の逃げ惑う姿を楽しむ妖怪だったが、二人によって倒された。
 倒したはずの相手が目の前に居る事に戸惑いを覚え、アズマの顔からは冷や汗が垂れる。
「本当に久しぶりだよ、憎むべき敵よ……」
「理由は分からないが、我らもお前達と同じ舞台に立てた。引っ越し祝いは命で十分だ」
 禍々しく笑う、金鬼と銀鬼からは黒いオーラが発生し、周囲の空気を重苦しい物に変えた。
 その瞬間、アズマの脳裏に一つの結論が出る。
紙袋を地面に置くと、頬を両手で軽く叩いて、二体を睨んだ。
「ここだと皆の迷惑になります。近くに空き地がありますから、そこでやりましょう」
 口調は静かだったが、有無を言わせない力強さがあった。
 アズマが歩き出すと、金鬼、銀鬼も後に続く。
(強くなったなアズマ……)
 幾多の試練を乗り越え、たくましくなった弟を見て、ヒジリは口元に軽い笑みを浮かべて一行を追った。
 四人はそれぞれ、自らの信念を持って歩を進める。舗装された地面に異なる四つの足音が響き渡った。


***


 連れて来た場所は周りに何一つ物が無く、雑草が伸び放題になった空き地だった。
 周囲を見回しながらヒジリは紙袋を遠くに置いて、金鬼、銀鬼とにらみ合うアズマの隣に立つ。
「そう、いきり立つな。見てみろ」
 弟と異形達を放すと、ヒジリは空を指差す。
 この日は北風が吹きすさび、朝から太陽が姿を現さず、銀幕市の人々は肌寒い思いをしていて、アズマも体の震えが止まらなかった。
「今日は真冬並みの寒さで、一日中曇りだ。太陽が無ければお前らの得意技も使えないだろ?」
 勝ち誇ったようにヒジリは宣言する。
「クククククク……ハハハハハハハハハ!」
 しかし返ってきたのは、狂気がこもった笑い声だった。
 金鬼、銀鬼は、剣の守護者達を見つめ、鏡に姿を映し出す。
「一度負けた相手に何の策も無く、挑むと思っているのか?」
「太陽など必要無い。これが我らの新たな力だ!」
 金鬼がアズマを、銀鬼がヒジリを映し出すと、眩い光が鏡から放たれる。
 反射的に二人は手で顔を覆い、光が収まるのを待つ。
「もう良いぞ。絶望を知るがいい」
 声が聞こえるとアズマは、ゆっくり目を開く。
「そんな……」
 ショックを受けた声が聞こえると、ヒジリも弟と同じ光景を見る。
「なるほど。まさしく鏡だな」
 皮肉っぽく言うと、自分達と同じ姿をした異形達は、歪んだ笑みを浮かべた。。
 アズマに姿を変えた金鬼はヒジリを見る。
ヒジリに姿を変えた銀鬼はアズマを見る。
「愛すべき兄弟の技で殺されるなんて、芸術的だとは思わないか?」
「あの時の屈辱、ここで返す!」
 決意を叫ぶと、二人は一気に距離を詰め寄り、右手を突き出す。
 金鬼の手からは雷の砲撃が放たれ、銀鬼の手からは土石流が放たれる。
 轟音と爆風が響き、砂埃が舞うと、草原は荒野に変わった。
「良い光景だな銀鬼」
 金鬼は戦いの舞台を見つめ、恍惚に満ちた表情を浮かべる。
「全くだ。跡形も残らず吹き飛んだのは残念だが、我らの悲願は達成出来たな……」
「勝負を焦りすぎなんじゃないですか」
 流暢な声が空から聞こえ、二体が見上げると同時に膝が顔に直撃した。
 同じ顔に攻撃する事を戸惑いながらも、二人の飛び膝は綺麗に決まって、偽者達は後方に吹っ飛ぶ。
「初めからフルスイングだから、攻撃が見え見えのバレバレだったぞ」
「あなた達、新しい力を得て、私達の身体能力の高さ忘れたんですか?」
 ヒジリとアズマは、笑いながら吹っ飛ばされた二体を見た。
 手で土を握り締めながら、金鬼が立ち上がると、怒りに満ちた顔で両手を突き出す。
「力の前では全て無力だ!」
 両手から放たれ土石流を、二人は空高く飛び上がってかわす。
「雷に貫かれろ!」
 銀鬼が叫ぶと、白かった雲が黒く変わり、雷雲から一筋の稲妻が落ちる。
 ヒジリの顔を蹴り飛ばすと、アズマは胸から雷の剣を取り出し、頭上に掲げて稲妻を受け止めた。
「少しやりすぎだぞ。お前ら……」
 地面に降り立つヒジリは胸に手を置く。
 命の源である剣を取り出すと、上空で円を描くように振り回す。
「これ以上被害を出す訳にはいかない。新技『土蛇』を受けてみろ!」
 叫びと共に剣が伸びる。
 ワイヤーで連結された刃は、ヒジリの手で激しく振り回され、そこに居た全てを多い囲む。
「何だこれは!?」
「こんな技、知らぬぞ……」
 剣で円形状のドームが作られる様子に、金鬼と銀鬼は戦う事も忘れ、慌てふためく。
「二人とも、私達の全てを知っている訳じゃないみたいすね」
 体を金色に輝かせながら、アズマは地面に降り立つ。
 常に電気を帯びている宿敵の姿を見ると、二体は震える手で胸に手を置き、剣を取り出す。
「憶測だが、奴らは自分達の記憶を元に、技をコピー出来るんだと思う」
「つまり、ここで身に付けた『帯電モード』や『土蛇』は真似っこ出来ない訳ですね……」
 兄弟間で戦力の分析が終わると、アズマは両手に力をこめる。
 雷は瞬く間に集まり、彼の両手は神々しく光り輝いた。
「何をする気か知らないが……我らは復讐を成し遂げるだけだ!」
 半ば自棄気味に金鬼が突っ込むと、銀鬼も後を追う。
 二つの刃が向かっても動じる事無く、アズマは兄を後ろに隠す。
「これが私の新技『神ナル蛇』だ!」
 電気は半月状の刃に変わり、大きく振りかぶって力任せに投げ飛ばすが、金鬼はしゃがんでかわす。
「逃げろ!」
叫びを聞くと銀鬼は横っ飛びでかわし、刃は剣の壁に飲み込まれた。
「兄と違って、くだらない技だ……」
 立ち上がると金鬼は腕を組み、アズマを侮蔑する。
「その鎖は?」
 アズマの手には雷の鎖が持たれていて、乱暴に振り回すと銀鬼は慌てて金鬼の下に走り出す。
「もう遅いですよ……」
 鎖を力任せに寄せると、風が吹いた。
 風を体で感じた頃には、体は真っ二つに引き裂かれ、剣の守護者を語る偽者は元の姿に戻って、地面に力無く落ちる。
 アズマが鎖をたぐり寄せると、大きな蛇が描かれた半月の刃は持ち主の手元に戻った。
「やはり、お前たちも進化していたんだな……」
 震える声で金鬼が言い、這いずりながら銀鬼の方に向かおうとする。
 しかし、手を伸ばした先にあった物は黒いフィルムだった。
「すまない、お前らは私達とは異なる存在になっていたから……」
「気に病む事は無い」
 ヒジリは辛そうに話し出すが、金鬼の声は落ち着き払っていて、フィルムを握り締めながら最後の言葉を話し出す。
「分かっていたさ。ここに実体化してから、自分が黒い何かに侵食されていくのを。我が我である内に止めてもらいたかったが、倒してくれたのがお前達で良かった」
 話していく内に下半身は黒いフィルムに変わり、上半身もフィルム化が進み出す。
「感謝するぞ、我が修羅なる友よ……」
 二つの黒いフィルムだけが荒野に残った。
 アズマは黙って拾い上げ、ポケットに詰め込む。
「帰ろう。皆が心配する」
 兄に肩を優しく叩かれると、アズマは紙袋を手に取って歩き出す。
 寂しげな背中をヒジリは黙って見つめていた。悲しみを乗り越え、強くなってくれる事を願った。それが自分達を友と呼んでくれた者の願いだから。


***


 太陽が銀幕市を照らす中、アズマとヒジリは公園の片隅に居た。
 かつての宿敵が眠る地に立つと、積まれた小石の前でヒジリは手を合わせ、アズマはポケットから黒いフィルムを取り出す。
「お墓に一緒に入れてくださいね」
 スコップで地面を掘ってフィルムを埋めると、兄と一緒に手を合わせる。
 お祈りとお悔やみが終わると、ヒジリは持っていたビニール袋から、乾電池を一つ取り出しテ墓の前に置く。
「あなたが蛇だって事はアズマに教えました。もう間違えないから、安心して下さい」
 兄の報告が終わると、アズマはポケットから二枚の眼鏡拭きを出し、乾電池の隣に置く。
「皆、向こうの世界で喧嘩しないで下さいね。私達も仲良しさんで居ますから」
 笑いながら話すアズマの肩をヒジリは力強く叩き、二人は談笑しながら墓を後にした。
 二人にエールを送るように、太陽の光を浴びて乾電池が光り輝いた。

クリエイターコメント再びのオファーありがとうございます。仲良しのアズマ、ヒジリの二人を書けて、私もとても楽しかったです。

理想とする二人が書けていたら、私もとても嬉しいです。これからもがんばります。よろしくお願いします。
公開日時2009-02-27(金) 18:40
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