★ オーバーホーム ★
クリエイター梶原 おと(wupy9516)
管理番号589-6058 オファー日2008-12-23(火) 18:31
オファーPC クラウス・ノイマン(cnyx1976) ムービースター 男 28歳 混血の陣使い
ゲストPC1 鳳翔 優姫(czpr2183) ムービースター 女 17歳 学生・・・?/魔導師
ゲストPC2 麗火(cdnp1148) ムービースター 男 21歳 魔導師
<ノベル>

 クリスマスをしようと、無駄にきらきらした目で──電話だが、想像は容易くついた──提案されたそれを、断りきれないのが敗因なのだろうか。気乗りしないような返事をしてもしつこく食い下がってくるから、渋々出かけてきてやったのに。
 何故、彼より先に天敵がそこに居座っているのだろう。
「僕のほうが、先に声をかけられたからに決まっている。そんな単純なことさえ理解できないなんて、ちょっと見ない間に光の速さで馬鹿になっているようだな」
「誰がそんなこと言ったよ!? 俺が解せないのは、俺より先にお前が呼ばれた理由だ!」
「ふむ? ……愛、かな」
 僕のほうがより愛されているんだなとやたらと納得した風に頷いている最悪の敵──名前を鳳翔優姫という──が、どこまで本気で言っているのか分かったものではない。
 けれどそれがどれだけ真実に基づかない冗談だとしても、かちんとくる程度には気が悪い。
「っ、真顔でボケんな!」
「事実を受け入れられなくなったら、人間、終わりだぞ。……ああ、悪い、眼鏡もやしは人間じゃなかったか」
 これは僕のミスだったと素晴らしくいい笑顔で謝罪までされ、思わず拳を握り締める。彼の気配を察して火の精霊がここぞとばかりに集ってくるが、それを嗾ける暇も止める暇もなく、何だか楽しそうだねぇとやたらめったら呑気で場違いな声が聞こえてきて殺意の方向が変わる。
「やっぱりクリスマスは仲良しにしないと。良い子のところにしかサンタさんは来ないんだからねっ」
「どこが仲良しに見えるんだ、お前の目は節穴か!? つーかどうして俺よりこいつが先に来てるんだ、そもそもこいつが来るなんて聞いてねぇよ!」
 腹立たしいと躊躇いなく足を振り上げると、両手で箱を抱えていたこの部屋の主──クラウス・ノイマンの腰に直撃し、痛いよひどいよおとーさんを蹴飛ばしちゃいけませんて法律がどうのこうのと嘆き始める。
「うるせぇ、質問に答えろ!」
「え、ええー、だって早くに連絡しないと二人とも用事が入るかもしれないでしょ!? でも朝早くにかけたら麗火は怒るじゃないか、電話だって切っちゃうしぃ」
「しぃとか言うな、しぃとか!」
 気色悪いと冷たく切り捨てるが、優姫に先に連絡が行った理由には僅かながら納得がいった。今日はたまたま起きていたから普通に電話に出たが、いつもならばあの時間の電話は意地でも出ないか、出たところで全力でかけてきた相手を罵って怒鳴りつけて居場所が判明しているのならば火精を嗾けまでしてまた寝る。くらいやる気はする。
「気じゃなくてするだろ、というかしただろ」
 つい先日と淡々と指摘してくる優姫の言葉で、クラウスはがくがくと震えるようにして頷く。
「麗火の寝穢さときたら、何度死にかけたか分からないよ……っ」
「生きてんだから、いいだろが」
 文句あるのかとばかりにじろりと横目で睨みつけると、どうしてこんな我儘さんに育ったんだろう、教育方針は間違ってなかったはずなのに等々、わざとらしく嘆くクラウスにますます目が据わる。
 優姫はちらりとそんなクラウスを見た後、視線だけで部屋を見回した。
「でもこれも呼んだなら、こっちの居候先を借りたほうが広かったんじゃ?」
 多分に彼ら三人が座って食事をするだろうテーブルだけで一杯一杯、といった部屋は、クラウスが一人で暮らす分には十分でも客を招くには手狭だろう。
 クラウスもそれは理解しているようだが、だってねだってねと目をうるうるさせて身を乗り出させてきた。
「俺もここじゃ狭いから場所を提供してくださいって言いに行ったんだよ、頑張ったんだよ!? でもさ、だって何かもう話しかけただけで瞬殺されそうなオーラが禍々しく渦巻いててそしたらもう、場所を貸してくださいなんて全然言い出せる空気じゃなかったんだよーっ!」
 俺も生命は惜しいからごめんね狭いけどでもアットホームな感じだよね!? と必死の体で同意を求めてくるクラウスの顔を、うぜぇと押し退けた。
 確かに彼を居候させてくれている家主は、機嫌が悪いと何をするか分からない。けれどクラウスの場合はかなりの高確率で被害妄想だろうから、今からでも場所を移すことは可能に思う。
(でもまぁ、一応用意してくれてたんだしな……)
 それを今更台無しにするのも悪い気がするから、話題を変えるべく口を挟んだ。
「そんなことより、飯は? ご馳走って言うから来てやったんだけど」
「それは後でのお楽しみ! まずはこれ、優ちゃんと麗火の二人でちゃんと飾り付けるんだよ」
「……ツリー?」
 さっきクラウスが抱えていた箱を覗き込み、一番上にあるトナカイのオーナメントを持ち上げながら優姫が語尾を上げた。
「何でこの年になって、しかもこいつと一緒にツリーなんか飾らなくちゃならないんだ!?」
「それは僕の台詞だ、ひょろ眼鏡。クラウスさん、僕一人でやるから」
「誰がひょろ眼鏡だ、コラ!!」
「ひょろで駄目ならヘナヘナ眼鏡。赤眼鏡。もやし眼鏡。ヘタレ眼鏡。根性なし眼鏡、」
「眼鏡か。どこまでいっても眼鏡か、ちょっとはそこから離れらんねぇのかってそれよりヘタレはこいつだろ、クラウス=ヘタレであってそれだけは断然拒否する!」
「ちょっ、地味に俺まで傷ついてるんですけど!? おとーさんはヘタレじゃないもんっ」
「だからいい年こきすぎた野郎が、もんとか言うな!!」
「やれやれ。突っ込みだけが自慢のお前が同じことの繰り返ししかできなくなったら、突っ込み王の名前も返上だな」
「そんな汚名、即座に返上してやらぁ! 突っ込み王って何だよ、お前らがボケ倒しすぎるのが問題なんだろって黙々とツリーの飾りつけ始めてんじゃねぇ、言いっ放しか!」
 力一杯怒鳴りつけるのに、優姫はやれやれとばかりに頭を振るだけで、こちらを見ようともしないで部屋の片隅に無駄に陣取っている樅の木を、あれこれと飾り出している。
 これではまるで自分だけが嫌だと駄々を捏ねているようではないかと苦虫を噛み潰していると、麗火も大人になりなねとばかりにぽんと肩を叩かれるのが鬱陶しい。
 とりあえず自分の手が痛いほど力一杯クラウスの手を跳ね除けて、じんじんするその手でオーナメーンとを取り上げると優姫とは反対側に回って飾り始める。
「うんうん、仲良くしてたらサンタさんが来るからねっ。俺は料理の様子を見てくるから、仲良くするんだよ」
 仲良くねと煩いほど繰り返してクラウスがキッチンに向かうと、優姫がこれ見よがしに溜め息をついた。
「クラウスさんは悪い人じゃないけど。赤ひょろ眼鏡と仲良くって辺りは、ちょっとな……」
 いただけないと聞こえよがしに愚痴る優姫に、ひくりと頬が引き攣る。
「人が大人しくツリーの飾りを手伝ってやってるのに、喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩? 僕がお前と? 瞬殺できるのは目に見えてるのに、そんなへなちょこ相手に喧嘩を売る必要なんてどこにあるんだ?」
「さっきから絡んできてるのはお前のほうだろ!」
「仕方ないだろう、暇なんだ。お前如きでも僕の暇潰しになるならと思ったけど……、役立たず」
 はぁあ、と相変わらずわざとらしい溜め息に、持っていたオーナメントがめきょっと不吉な音を立てる。
 やるのやるのやっちゃうのね!? とばかりに火精が勢いづいていくが、止める気になれずに暴走させてやろうかと考えていると額に激痛が走る。
 ぐはっと声を上げて蹲ると、足元に軽く変形した星が落ちている。因みに彼が歪んだ物は、未だ手の中にある。
「オーナメントが変形する勢いで投げつけてくる奴がどこにいる!?」
「ここ。お前の目の前」
「っ、その喧嘩、買ってやらぁ!!」
 受けて立つなり、ぼぼぼぼぼと麗火の周りに鬼火のように火が現れる。
 それをちらりと一瞥した優姫は、薄っすらと口許に柔らかな色を刷いた。極悪なまでに見惚れんばかりの微笑は、薄ら寒くなる恐怖を喚起する。
 ここがどこかも忘れて本気で攻撃しかけた時、何やってるのー! と悲鳴紛いのクラウスの声が割り込んできた。
「二人とも何本気の臨戦態勢!? 駄目でしょ、俺の部屋だよ、壊したら弁償なんだよ俺そんな金ないしってそれ以前に仲良くって言ったでしょ!」
「うっせぇ、こいつが売ってきた喧嘩を買ってやっただけだ!」
「大丈夫、壊した物はこいつが弁償するから」
「何で俺だよ!」
「僕が壊すのはお前だけだから。物を壊すのはそっちだろ?」
「お前如きに俺が壊されるかっ!」
「弁償は任せるけど喧嘩しちゃ駄目ーっ!」
 それは駄目絶対駄目おとーさん泣いちゃうよ!? と鬱陶しく割り込んでくるクラウスごと攻撃してやろうかと半ば本気で考えていると、めっ、と指を突きつけられた。攻撃決定。
「ちょちょちょちょちょちょっと待った、火精が勢いづいてるよおとーさんに攻撃って何事!? そんな悪い子にはもうご飯作ってあげないからね!?」
 それでもいいのと半分泣きながら抜かれたのは、伝家の宝刀。やっぱりこっちも攻撃の手を止めようとしていなかった優姫ともども、ぴたりと行動が止まる。
「それは激しく困る。馬鹿もやしはともかく、僕には食べさせてくれるというのは?」
「喧嘩両成敗って言うでしょ、仲良くしなさいっ!」
 ちょっぴり髪がちりちりと焦げ臭くなりながらも、びしっと断言したクラウスの言葉で一時休戦を余儀なくされる。
「ちっ、命拾いしたな……」
「どこの悪役だ、お前……」
 脱力しながら突っ込んだ麗火は、残り少なくなってきたオーナメントを取り上げてツリーの飾り付けに戻る。
 優姫も仕方なさそうに肩を竦めると、雪に見立てた綿をツリーに巻きつけ始める。
 しばらく疑わしげにじぃと作業を眺めていたクラウスは、へにゃんと笑ってよしよしと何度か頷くとまたキッチンに戻っていく。
 そうしてクラウスの姿が見えなくなると、またぞろ空気が険悪になっていく。
「お前のせいで」
「お前が悪い」
「まだやる気か、コラ」
「お前が態度を改めろ」
「態度がでけぇのはお前のほうが、」
 ぴしぱしと火花が散りまくり、再び臨戦態勢に入りかけるとクラウスがぬっと顔を突き出してきた。
「……ケーキ作るの、やめようか?」
「「なかったら暴れる」」



「それじゃあ改めて、メリークリスマース!」
 いいね、楽しいね、クリスマスだね、あったか家族だねーとひたすらぽわぽわと喜んではしゃいでいるクラウスの前で、優姫と麗火は黙々と食事を続けている。
 いつもなら険悪な空気はやめようよとクラウスの泣きが入るところだが、美味しい食事の前では言葉は不要。寧ろ野暮。と固く信じている二人にとって、食事中の沈黙は何より雄弁な料理への賞賛に代わると知っているから、余計にクラウスはご機嫌になっていく。
 三人の食卓にしてはかなりの量の料理が並べられていたが、瞬く間に片付いていく。
「あ、そろそろプティングも出そうか」
「クリスマスプティング?」
「そうそう。普通のケーキも焼いたけど、お約束だしね」
 言いながら一度キッチンに姿を消したクラウスが、小振りの皿を持って戻ってくる。続くケーキもこれも平らげる気でいる二人の子供たちは、珍しく仲良く期待に満ちた顔で──多分にどちらも分かり辛いが、長い付き合いと親の愛(強調)でクラウスには分かるらしい──プティングを見つめている。
 嬉しくなったクラウスは、これはおとーさん特製だよと自慢に胸を張りながら慎重に切り分けて二人の前に置いた。
「さあ、どうぞ」
 勧めると二人ともほぼ同時にそれを口に運び、それから複雑な顔をしてそこで凍りついた。
 わくわくと見守っていると、優姫がまずそのコインを掌に落としてじーっと眺める。次に麗火も同じくそれを吐き出し、徐にフォークで残ったプティングを崩し始めた。
「クラウス……、お前、何枚コイン入れてやがる!?」
「え、ええー、だってどっちか片方にだけじゃなくて、おとーさんは二人共に幸せになってほしいって、」
「……僕は寧ろコインのないケーキのほうが幸せだ」
「つーかこれはコイン入りのプティングじゃなくて、コインのプティング和えだ!」
「違うって、だってプティングの中にコインをこう、だばだばーっと、」
「だから、だばだば入れるもんじゃねぇっ!!」
 作り直しを要求するとクラウスの襟首を掴んで本気の殺意を向けてくる麗火に、優姫も重々しく頷いて同意を示している。
 おとーさんの愛なのにぃと泣きを入れても、今回ばかりは聞き入れてもらえそうにない。泣く泣く作り直しを受け入れ、もう一つのケーキを取りに行くと、麗火が溜め息が追いかけてきてがっくりと項垂れた。


 麗火の苦笑がどこか柔らかいのも、仕方なさそうな溜め息をついた優姫の口許が僅かに緩んでいるのも、今のクラウスは知らないけれど。二つ目のケーキを運んできた頃には、気づくかもしれない。

クリエイターコメント本気で大晦日(下手したら元旦)のクリスマスになってしまいました……。反省は連ねていくと地球を一周しそうな勢いですが、思いきり楽しんで書かせて頂きました、ありがとうございますー!
ヘタレたお父さんが素敵すぎて、如何にかっこよくヘタレさせるか(?)に尽力して、書いた本人がヘタレを貫いたというような始末ですが。それでもお父さんと同じくらいの愛ならば大量に込めて……!
頑張ったつもりですが、最強呪文を上手に生かしきれたでしょうか。気を抜くと喧嘩にばかり力を注いでいて、着地点を見失いがちでしたが。アットホームな空気が……ちょっとでも……蟻の触覚の先ほどでも感じて頂けましたら幸いです。
お届けが本気でこんな時期になってしまって、申し訳ありません。お正月でもクリスマスでいい! とゆー剛毅で素敵なオファーを、ありがとうございました!
公開日時2008-12-31(水) 20:40
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