★ ジャングル風呂は危険がいっぱい ★
<オープニング>

 銀幕市にオープンした巨大温泉施設、『スパワールド銀幕』。中でも目玉なのは、本物のジャングルと見紛うほど広い、ジャングル風呂であった。
 TVにも取り上げられたことで話題にのり、オープン初日から、大繁盛であった。

 少女もそんな宣伝に釣られて、ジャングル風呂にやってきた1人であった。
 脱衣所で服を脱いで、タオルを身体に巻いて、湯船に向かう。
 ジャングル風呂は、ここで唯一の混浴。水着禁止で、湯船にタオルをつけるのも禁止。恥ずかしいけど、でも……やっぱり入ってみたい!
 と、そのとき、少女の目の前の茂みが揺れた。
「だぁれ?」
 少女は茂みを凝視する。そこから登場したのは……紛れもない虎であった。
「きゃぁ!」

「ジャングル風呂が猛獣に占拠されました。至急、自体の収拾に当たって欲しいです」
 『対策課』から来た植村直紀が、依頼を皆に伝える。
 ジャングル風呂でムービーハザードが発生した。動物パニックものの映画のムービーハザードらしく、ジャングル風呂には猛獣が闊歩しているらしい。
 今は人は襲われていないが、お腹がすけば猛獣のことだから、人を食べようとする恐れがある。その前に、事件を解決して欲しいそうだ。
 ジャングル風呂の中にいる人々は、結界みたいなのがあるらしく、外に出られない。猛獣を全て無力化しない限り、結界は解けないそうだ。
 それだけ聞いて現場へ向こうとする皆さんを、直紀は呼び止める。
「それと……大変申し上げにくいのですが……」
 まだ何か話があるらしい。
「事件の現場となったジャングル風呂に入るには……温泉に入るのと同じ状態にならないといけないのです……何だか結界がお風呂場という要素に妙に作用してしまったらしく……。つまり……裸……タオルを付けるのは可ですけど……じゃないと中に入れないみたいです。それに服は持ち込めないみたいです……」

種別名シナリオ 管理番号483
クリエイター相羽まお(wwrn5995)
クリエイターコメント こんにちは、相羽まおです。
 皆さんとは初めましてですけど、どうか宜しくお願いしますね♪。
 これがわたしの初シナリオとなります。どうか、こんな不慣れなマスターでもいいと興味を持ってくださった方は、参加してみてください。

 今回はジャングル風呂ネタにしてみました。
 温泉ネタは他にも色々あったのですけど……今回は初めてということもあって、一番私が書きやすいネタを選んでみました。
 ジャングル風呂の中にいる猛獣は3匹です。

 ・ゴリラ
 ・トラ
 ・アナコンダ

 です。この3匹を何とかすれば、ムービーハザードは収まり、ジャングル風呂から人々が脱出できるようになります。
 何とかする、といっても、殺してしまう必要はありません。意識を失わせるだけでも、十分です。でも、殺してしまうのも1つの解決法です。

参加者
レモン(catc9428) ムービースター 女 10歳 聖なるうさぎ(自称)
柝乃守 泉(czdn1426) ムービースター 女 20歳 異界の迷い人
清本 橋三(cspb8275) ムービースター 男 40歳 用心棒
新倉 アオイ(crux5721) ムービーファン 女 16歳 学生
ガーウィン(cfhs3844) ムービースター 男 39歳 何でも屋
<ノベル>

 スパワールド銀幕。その建物の前には、何台か「対策課」の車両が止まっていた。ここから中に突入して事件の解決にあたる3人をサポートするのだ。しかし、「対策課」の人たちはサポートで、あくまで事件を解決するのは突入する3人に委ねられていた。
「なんであたしが対策課に行く時だけ、こーゆー事件ばっかなワケ!? マジありえない!!」
 現場に到着して、新倉アオイは心底嫌そうにぎゃあぎゃあ騒ぐ。それを聞いて、ガーウィンはやれやれ、と溜め息を吐いた。ここまで来る途中も、アオイはずっとこの調子だったのだ。
「そんなに悪い仕事じゃないと思うけどなぁ……報酬までもらえて、さらにその上、食材までGET。結構なことじゃないか」
「信じらんないッ!? 相手を食べる気なのッ!? そんなグロイこと、よくできるわねッ!!」
「グロって……ヘビとかは、鳥肉の味がしておいしいらしいぞ。でも、じゃあ、どこら辺が気にいらないんだ?」
「そんなの決まってるじゃないの……まったく……」
 アオイは顔を赤くして、ごにょごにょと下を向いて、小声で呟く。ハテナマークを浮かべて、ガーウィンはアオイの顔を覗き込んだ。ガーウィンには、何でそこでアオイが赤くなったのか、分からなかったのだ。それを見て、恥ずかしがっていたのを隠そうと、殊更きつめにアオイはツンと顔を背けた。
「おじさんには若い子の気持ちは分からないだろうけどねッ!」
「……んーっ? 泉、分かるか?」
 問いかけられて、ガーウィンの相棒の柝乃守泉は困った顔をする。
「あ、えっと……その……」
 何と説明しようか、必死に考えるけど、ここで男の人のガーウィンに丁寧に説明するのはやっぱり恥ずかしい。困って、必死に両手を広げて横にパタパタ振る。ガーウィンはそんな泉を見て、ポン、と泉の頭に手を置いた。
「…………?」
「いいぜ、無理しなくても。どうやら、聞いちゃわりぃ話みたいだったな。悪かったな、困らせて」
 ガーウィンは優しく笑う。
「あ、えっと、その……」
 それを見て、泉はさらに慌ててしまう。
 ガーウィンは泉から目を離して、アオイを見る。と、そこにいる筈のアオイはもういない。
「何してるのよー!! 早く行くよ!」
 見ると、アオイは相棒のキーと共に、もう既にかなり先の方まで歩いていた。あれだけ嫌がっていたのに、行動力は人一倍である。ガーウィンと泉は顔を見合わせて、クスリと微笑み合った後、急いでアオイの後を追った。

「でも、嫌だなァ……混浴だなんて……何で水着禁止なのよ……」
 ぶつぶつ文句はいいながらも、ここは女子更衣室なので人目を気にせず、勢い良く、アオイは身に着けている服を脱いでいった。
「はい……本当に。でも、仕事だから、仕方ないです……」
 泉の方も、異性には慣れてないものの、同性なら特に気にしてはいないので、アオイのことも特に気にならずにのそのそと服を脱いでいく。しかし着替えが遅いので、アオイが服を全て脱ぎ終えた頃には、まだ泉はようやく上着を脱ぎ終えたところだった。
 全ての服を脱ぐと、アオイはビキニの水着を身に付け出す。泉は驚いて思わず声を出した。
「新倉さん……? それは……?」
「しーっ……内緒ね? やっぱりタオルの下、何も着ないのは嫌じゃん」
「でも……」
 それで大丈夫なのかな? と泉は不安に思った。しかし、それを素直に言っていいのか迷う。アオイは、その気配を察したものの、泉とはあまり親しい関係でなく、その上、同年代の女の子との人付き合いは苦手なので、なんと言っていいか、困ってしまった。
「まあ……試してみるだけ。それだけだから! それなら、いいでしょ?」
「……はい」
 まだ不安だったものの、試すだけと言っているし、それならいいか、と納得する。そして服を全て脱いで、タオルを巻きつけると、アオイへ声を掛ける。
「じゃあ、いきませんか? ガーウィンさんも待っている、と思いますし?」
「うん、OKOK! いこいこ!」
 アオイはビキニの上からタオルを巻きつけると、キーを肩に乗せ、このときのために用意した“秘密兵器”とスチルショットを持ってパタパタと出口に向かって歩いていった。泉も、その後に続いた。
 そして……。
 …………。
「あれ?」
 アオイが扉から出た先は、脱衣所だった。いつ引き返したのか、自分でも分からない。周囲には泉の姿はない。泉はもうとっくに、お風呂場の中に入ってしまっているようだ。
「あれ、あれ、あれれ?」
 アオイは再びくるりとターンして、お風呂場に入る。しかし、出た先はやっぱり脱衣所だった。
 アオイはターンして、扉からお風呂場へ何度も何度も入ろうとした。しかし何度やっても出た先は脱衣所だ。
「やば……これが結界の効果みたいだね……」
 おそらくアオイはタオルの下に水着を着ていたから、お風呂場に入れなかったのだ。キーもアオイの身に着けているものと判断され、アオイと一緒に入れなかったのだろう。泉はタオルの下は裸だから、入れた。その結果、泉とはぐれてしまった。
「こんなことなら……泉の言うとおりにしておくんだったなぁ……」
 アオイは後悔したものの、今はそんなこと言っている場合じゃない。逸れた泉が心配だ。
「急がないと!!」
 アオイは慌てて、自分のロッカーに戻る。そして“秘密兵器”とスチルショットを横に置いて、勢い良くロッカーに放り投げるようにパッパと水着を脱ぐと、荷物を持って慌ててお風呂場へ走っていった。

 ジャングル風呂で起こった異変に、気付いている人は意外と少なかった。
 絶対無敵でゴージャスな美女――レモンさまも異変にはまだ、気付いていなかった。
「何故水着じゃ駄目なのよ!」
 プンプンとレモンさまはお怒りのようだ。でも、そう不満を言いながらも、タオル姿ですっかりとリラックスしてジャングル風呂に浸かっている。……もしかして……意外と気に入っている??
 周囲の男性客はレモンさまにすっかり見入っていた。ウサギとは言え、これだけの美女が裸に近い格好でいるのだから、やっぱり意識してしまうのだ。
 でも、子供にはそんなレモンさまの魅力は分からない。
「あー、ウサギさんだ、ウサギさんがいる〜」
 小さい子供が無礼にもレモンさまを指差して、騒いでいる。レモンさまは眉に潜めた。
「まったくもう……落ち着いて、お風呂にも入ってられないわ……」
 レモンさまはざばっとお風呂を出る。そしてジャングルの中を歩き出す。
 レモンさまは今日はジャングル風呂を視察に来たのだ。遊びじゃないのだ。のんびり湯船に浸かりにきたのではないのだ。
 周囲の細かいところまで観察しよう、とレモンさまはタオル姿で散策をする。
 そんなとき、悲鳴が正面から聞こえた。
「まったく……もう……何なのよ? 痴漢でも出たの?」
 と口ではぶつぶつ文句を言いながら、悲鳴のあった方に全力で向かう。そこにはトラに睨まれている少女がいた。
「何であんた達こんな事してるのよ!」
 レモンさまはトラが少女を襲おうとしているのを見て取り、トラに抗議する。しかし、トラは本当にただのトラのようだ。喋る能力はないみたいである。
 トラは唸り声をあげて、じりじり……とレモンさまに近寄ってくる。レモンさまは身構える。
「ハハァン……? あたしと遣り合おう、というの? いい度胸しているわね……まったく……」
 レモンさまはお顔を凛々しく引き締めると、唇を舐めて湿らせ、ゆっくりとMy杖を構えた。

 ガーウィンと泉はアオイと逸れたあと、どうしようか相談し、一先ず温泉を見て回ることにした。アオイなら直ぐに合流するだろう、と結論したのだ。そしてまず湯船の方へ向かって歩いていたとき、前方から悲鳴が聞こえた。
「いくぞ、泉ッ!!」
 ガーウィンは走り出す。
「はいっ!」
 と泉も慌てて後を追う。
 そこにはトラと、それに対峙するかのように立っている巨大ウサギとがいた。巨大ウサギの後ろには怯えた素振りの少女がいる。悲鳴はこの子があげたものだろう。
 トラは走ってくるガーウィンを見ると、強敵と見なしたのか、身を翻し、茂みの中に飛び込んで、姿を消した。
「待ちなさいッ!!」
 ウサギはその後を追おうとする。そこに、ガーウィンは割って入る。
「待ちやがれ、逃がしはしないぞッ!!」
 ガーウィンは銃を構えた。ウサギは驚いた顔をする。
「何、あなたッ! 何で邪魔するのよっ! もしかして……あのトラの仲間っ!?」
「トラの仲間ではないが……ジャングル風呂で猛獣が暴れているという通報があったんでな。そうことで、あんたも捕獲させてもらうぜッ!」
 それを聞いて、ウサギはプルプルと全身を振るわせる。そして、大声でガーウィンに怒鳴り返した。
「あたしは猛獣じゃないわよっ! なんて失礼なの、あんたッ!」
 ウサギは少女の持っていた桶を奪い取るとガーウィン目掛けて投げつけた。桶はカポンとガーウィンの頭に命中する。
「いててっ……抵抗するかっ! それなら、遠慮なく退治させてもらうぜッ!」
 慌てて泉はガーウィンを止めに入った。さっきからチラチラ2人のやり取りを観察していたけど、どう見ても、このウサギ、悪い人には見えない。それに、「対策課」で依頼された退治すべき猛獣は、ゴリラ、トラ、アナコンダ、だった筈である。これは多分、ガーウィンが勘違いしているのだろう。
「あの……ガーウィンさんっ! 人違いですっ! この人は猛獣じゃない、と思いますっ!」
「だから、あたしのどこが猛獣なのよ!?」
 ウサギはカンカンに怒ってる。ガーウィンは驚いたように上から下に、じーっとウサギは見つめた。その視線にウサギは思わずたじろぎ、タオルを引っぱって、胸元を隠す。
「な、なによっ……?」
「なんだ違うのか……じゃあ、今晩の晩飯に……」
 有無を言わさずウサギのうさぎキック(見事な足蹴り)がガーウィンに決まった。
「付き合ってられないわっ!! あたしはあたしで、トラを何とかしてくるわっ!」
 ウサギはそういうと、くるりと踵を返して、今、去ったトラの後を追った。
「いててっ……何だよ、まったく……」
 ガーウィンは訳が分からないという顔をしている。それで泉はガーウィンが怪我をしていることを思い出し、慌ててガーウィンに駆け寄った。そして傷口に蒼炎を灯し、ガーウィンを癒す。
「痛みが引いた、すげぇな。まったく便利な能力だぜ」
「はい。よかったです、軽い怪我で。重い怪我だと……私に癒せるかわからなかったですから」
「軽い怪我でも治せるのは有難いぜ」
 2人もトラの後を追って、走り始めた。

 出会いはいつも突然だ。
 その日はたまたまこのスパワールド銀幕の無料券をもらい、清本橋三はジャングル風呂に来ていた。そこで、その御仁と出会ったのだ。
「異国の御仁か……」
 橋三は湯船で休憩してるゴリラの隣に、躊躇いもなく腰を下ろした。
 ゴリラの発見は20世紀になってからであり、それ以前は架空の動物として誰も存在を信じていなかった。江戸時代出身である橋三は、もちろんゴリラがいても猛獣とは思わず、“言葉と見た目がちょっと変わった外国人”と勘違いしたのだ。
 ゴリラは、「うほっ?」と橋三を眺める。気にせず、橋三は話を続ける。
「おまえさん、逞しい体つきをしているな。やはり、特別に鍛えているのか?」
 ゴリラは言葉など当然分からず、ウホウホ、言っている。しかし、それを聞いて、橋三は納得したように頷く。
「なるほど……それは凄い努力をしたのだな。どれ……お近づきの印に、俺が奢って進ぜよう」
 橋三はゴリラを連れ出そうと腕を引っ張る。ゴリラは気を悪くしたように、ブンと橋三の頭目掛けて、その太い腕を振り落とした。しかし、橋三は何事もなかったように、あっさりその腕を避ける。
「おや? 触られるのは嫌だったか? それはすまないことをした」
 ゴリラは戦慄を覚えた。猛獣は自然と自分より強い動物を見分けることができる、という。橋三は、自分より……遥かに強い。
 ウホ……とゴリラは頭を下げ、怯えたように橋三を見つめる。その視線を橋三は勘違いする。
「ああ、この刀傷か? そんな怯えないでも、大丈夫だ。おおっ、これか? この脇腹の傷はこの前、剣之進殿に斬られたときの傷でな……斬られ屋をしていると傷が耐えないものだな。だが……なあに、おまえさんが怖がる必要はない。といっても、これじゃ、説得力がないだろうがな」
 橋三は大らかに笑う。
 とそのとき……茂みが大きく揺れ、アーアアーという雄たけびとともに、蔦にぶら下がったレモンが凄い勢いでゴリラに蹴りを放った。
 ゴリラは激しい勢いで、お湯の中に倒れこむ。
「大丈夫!? 怪我はないかしら!? って、あんたは……」
 レモンは橋三を見て驚いた顔をした。橋三とは、バレンタインのチョコレートダンジョンのときにもあったし、それに年末の「対策課」のアルバイトをしているとき一緒に仕事したこともあったので、顔を覚えていたのだ。橋三も当然、「対策課」でぶつぶつ不満を言いながらアルバイトしていたウサギのことは覚えていた。
「レモン殿……いきなり、何をする?」
「清本!? そこをどきなさいッ!!」
 レモンはゴリラにうさぎキックを放とうとダッシュする。しかし、橋三はその攻撃をあっさり見切り、ゴリラを庇い、レモンとゴリラとの間に割って入った。そして橋三は鞘から素早く刀を抜く。
 このまま接近したら、斬られる!? そう感じたレモンは思わず間合いを取り、My杖を構える。
「何よっ!? 邪魔する気ッ!?」
「いきなり何をする?」
「そいつを倒さないと、この騒ぎは収まらないのよっ! そこをどきなさいッ!」
「ええい、狼藉は許さんぞ。御仁は俺の友だ。友を傷つけるというなら、俺を倒してからにするんだな」
 橋三は剣を構えると、くるんと剣を裏返す。峰打ちの構えだ。
 一方、レモンもMy杖をしまって、低く構えを取る。橋三相手では、生半可な技は通用しない。一撃必殺のラビット流星拳に全てを賭ける、とレモンは覚悟を決めた。
 2人はじりじりと間合いを詰める。そして、勝負をつけようと、一気に走り出そう、としたとき……
「きゃあ、どいてどいて!?」
 2人の横の茂みから、少女の声がした。
 そして、そこから、にゅっとアナコンダが顔を出した。アナコンダに続いて、少女とバッキーが飛び出す。
 あとから飛び出した少女のことを、レモンは知っていた。以前、チョコレートダンジョンの依頼で一緒したアオイだ。バッキーの名前はキーだ。しかしアオイもキーもレモンのことを覚えないみたいだった。
「えーっと、そこのウサギとそこのサムライ、逃げて!!」
 ちなみにそこのサムライこと橋三とも、アオイはチョコレートダンジョンの依頼で一緒していたが、それもチラ見程度だったので、やっぱりアオイは覚えていなかったみたいである。
 アナコンダは目の前にいたレモンと橋三に向けて、牙を剥く。いけない、とアオイは地面に立膝をついて、スチルショットを構える。タオルの中身が見えてしまいそうな際どい格好だが、アオイはそんなことには気づく余裕もない。
「2人とも伏せて!?」
 アオイは叫ぶ。
 しかし、その必要はなかった。レモンは迫ってきたアナコンダの背後に回りこむと、尻尾をむんずと掴み、まるで武器のようにくるくる振り回した。そしてアナコンダを橋三とゴリラへ向かって叩き付けた。
「まとめて倒してあげるわよッ!!」
 だが、その飛んできたアナコンダを、橋三は峰うちで斬りつけて、軌道をずらす。そのままアナコンダは橋三の脇に落ち、その勢いで盛大な水しぶきを周囲へ撒き散らした。
 そして……その衝撃で、ハラリ……と、アオイの巻いていたタオルが落ちた。
 時が止まった(かのようにアオイには感じられた)。
 硬直していたアオイは、自分の身体を見下ろし……
「きゃぁぁ!?」
 アオイは悲鳴をあげて、落ちたタオルを慌てて抑える。そしてその場に蹲る。小ぶりな胸とか、少女らしい細身だけど未熟なプロポーションだとかは、しっかり橋三とレモンの目にも焼きついた。勿論2人とも女の子の裸には興味なかったが……突然、そんな様子を見せられて、勢いがそがれてしまった。
 レモンと橋三は顔を見合わせ、そして構えを解く。
「み、見た……?」
 涙目でアオイは橋三を見上げた。レモンは女の人だからいいけど、橋三は男の人だ。男の人に裸を見られたのが、凄いショックであり、恥ずかしかった。見ていないで欲しい、と強く願った。しかしその願い空しく、橋三はあっさり言った。
「ああ、なんというか、やわっこい体つきで、驚いたぞ。それに傷一つない綺麗で白い肌だった」
 アオイは橋三へ目掛けて、手にもっていたスチルショットを、思い切り投げつけた。
「もーっ……サイティッ!」
 何だかよく分からないが、アオイが怒っているのが分かったので、橋三は大人しくその一撃を顔で受ける。そして一言、静かに声を返した。
「……気が済んだか?」
 カーッとアオイは赤くなった。橋三にひどいことをしてしまった、と感じたのだ。でも、それで素直に謝るのもアオイの意地っ張りな性格としては無理だったし……それにやっぱり見られたことはショックだったから、自分から謝るのは嫌だった。
 心がずきずき痛みながらも、アオイは話題を変えた。
「もう……2人とも何で戦ってたの……?」
「ええ、それはね……このバカがね?」
 レモンはアオイに事情を説明した。そして橋三も事情を説明する。その話を聞いているうちにアオイは落ち着きを取り戻し、全て話しを聞き終わると、やれやれとため息を吐き出した。
「じゃあ、問題は簡単じゃん……」
 アオイはゴリラに向き直り、指を突きつける。
「えっと、あんた? もう悪いこと、しないよね?」
 その勢いに押され、またレモンと橋三の破壊ぶりを見て怯えていたゴリラは、素直にコクコク頷いた。
 橋三は朗らかに笑い、アオイに礼を言う。
「これでレモン殿も満足であろう。友人を助けてくださって、すまなかったな」
「ふんだ……別に、あんたのためにしたんじゃないだからッ! 仕事だったから!」
 アオイは赤くなって顔を逸らす。でも、橋三の屈託のない態度に、アオイの中にあった橋三への罪悪感はいつしか消えていた。
 そんなアオイの様子をキーは不思議そうに眺めつつ、キーキー鳴いていた。

 爆発音がした。
「――何かあったの!?」
 その音に気づき、アオイは音の方角へ駆け出していった。ゴリラとアナコンダを保護した後、アオイはその見張りを橋三とレモンに任せて、トラとガーウィン&泉ペアを探していたのだ。
 アオイのいた場所から虎のいた場所は直ぐ近かったらしく、直ぐに戦っているガーウィンを見つけた。ガーウィンの背後には、泉もいる。アオイたちがアナコンダとゴリラを捕まえている間、ガーウィンはトラと爆弾を使って戦っていたみたいである。
「ガーウィン、加勢するよ!」
 泉はそう声をかける。しかし、肝心のスチルショットはさっきの騒ぎで故障してしまった。武器がない。でも、アオイが加勢する必要もなかったみたいだ。ガーウィンは次第に爆弾でトラを追い詰め、いよいよ、最後の一撃を今まさに加えようとするところまで辿り着く。
「さあ、とどめだ。泉、今日はトラ鍋にするぞ!」
 ガーウィンは最後は銃で止めを刺そうと構える。しかし……
「駄目ですっ!!」
 泉はガーウィンの腕にしがみついた。猛獣とは言え、生き物が殺されよう、とするのを、見過ごせなかったのだ。
「うわ……何をする!?」
「だから……駄目ですってば!」
 泉はしっかりガーウィンの腕にしがみつく。胸がガーウィンの腕に当たっているが、泉は当然そんなこと、気にしない。そしてもみ合っているうちに……ガーウィンの腰のタオルが解けた。
「あ……」
 アオイはそれをまともに見てしまった。
「……?」
 遅れて、泉もしっかり目撃する。
 2人とも硬直する。
「まったく、泉、何で邪魔するんだ? ……って、んーっ、どうかしたか?」
 取れたタオルのことなど、ガーウィンは気にせず、ただ2人の少女の態度がおかしいことにだけ気づいて、2人を見比べる。
「ぎゃァァァ!? ガ、ガ、ガーウィンさんッ!?」
 泉は悲鳴を上げた。
「もう……ちょーサイテー!!」
 アオイはぎゃあぎゃあ言い、顔を赤くしながら、手にした“秘密兵器”をガーウィン目掛けて投げつけた。それをガーウィンはひょいと避ける。
「おいおい、どうしたんだよ、本当に……?」
「いいから……隠して! 隠してよ!!」
 アオイは必死に言う。
 一方泉の方は、既にパニックのあまり、硬直して動けないでいる。その泉の足元に“秘密兵器”はぽとりと落ちた。“秘密兵器”は缶の中に入っていたのだが、缶の蓋が開いて、“秘密兵器”は泉の足元にバラまけかれる。
 その呆然としていた泉へ、虎が飛び掛る。
 ガーウィンのモノに意識を奪われていたアオイも、アオイと言い争いしていたガーウィンも、反応が遅れて、トラに対処できなかった。
「いづみィィ!?」
 ガーウィンは大声で叫び、慌てて銃を構える。
 しかし間に合わずトラは泉に飛び掛り、泉を押し倒し……そして泉の胸に頭をすりすりとすりつけた。
「えっ……?」
 動物に好かれやすいとは言え、猛獣にまで好かれるとは思わなかった。泉は驚いてしまう。
 泉の足ともに転がっている“秘密兵器”を見て、アオイは納得したように言う。
「やれやれ……どうやら、効果あったみたいだね……」
 アオイの“秘密兵器”……それはまたたびだったのだ。またたびといえば、猫を酔っ払わせる効果がある。本物のトラに効果があるのか分かまでは分からないが、一応、このムービーハザードの効果で出来たトラには、効果があったみたいだ。、
 トラは無邪気に泉の胸元にすりすりする。泉はタオルがずれないようにしっかりガードしながらも、途方に暮れた声を出す。
「ガーウィンさぁん……どうしましょう……。私……すっかり好かれてしまったみたいです〜」
「猛獣とは言え、ここまで泉に慣れた動物を、殺すことは出来ないな」
 ガーウィンは茶目っ気たっぷりに言い、微笑を浮かべてから、銃を下した。
 そのガーウィンの声に釣られて、アオイは思わずガーウィンの方を見て、そして直ぐに顔を赤くした。
「もういいから……格好つけてないで、早く隠してよッ!!」
 少女たちの様子に首を傾げながらも、ガーウィンは素直にタオルを腰に巻いた。

 3匹の獣を捕らえたおかげで、ムービーハザードは無事に消えた。
 アオイとガーウィンと泉は、捉えた獣を連れて、「対策課」に帰還する。獣は動物園が引き取ってくれるそうだ。
 その3人を橋三とレモンは見送り、のぼせる前に自分たちもお風呂を上がることにした。
「レモン殿、知っているか? 『ふるぅつぎゅうにう』というものがあるらしい」
「ええ、知ってるわよ」
「湯上がりはそれを作法に則り飲むのが決まりなのだ」
「作法?」
 レモンは眉を顰める。橋三はフルーツ牛乳を買うと、その作法というのを実演してみせる。
「ほれ、レモン殿もしてみようじゃないか?」
 …………。
 さすがにうら若き乙女が、腰に手を当てて牛乳を一気飲み、という作法を真似るのは恥ずかしすぎる。
「やらないわよ、そんなこと!」
 レモンはツンと顔を逸らすと、橋三と別れた。
 でも、そのあとレモンは、美味しそうに飲んでいる橋三を見てて、自分もフルーツ牛乳が飲みたくなり、こっそり買って飲んだのだった。

クリエイターコメント こんにちは、相羽まおです。今回はこのシナリオにご参加していただいて、有難うございました。
 皆さんのプレイングを読んで、色々想像しつつ、楽しく執筆することが出来ました。これも楽しいアクションをかけてくださった皆さまのおかげです。本当に感謝しています。
 物語を書くのって、本当に楽しいですね♪。

 性格とか口調とか、こんな感じで平気かな、と思いつつ、書いていました。
 もし、皆さんの考えていたのとイメージが違っていたら、教えていただけると嬉しいです。今回はシナリオ訂正という形ができるか分かりませんが、でも、次回またお会いしたときは、しっかり皆さんの口調と性格とを書けるようにしたいですから。

 もし機会があれば、また、参加してくださいね。よろしくお願いいたします♪。
公開日時2008-04-07(月) 19:20
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