★ 夜魔の饗宴 ★
<オープニング>

 ――うーん……今日は帰ったら何しようかな……。
 大学の講義を追え、彼女は自宅へと帰宅中であった。人気のない夕方の路を歩いていた。
 家に帰ったら、まずしたいことはホームページの更新だ。彼女は同じ趣味の仲間と、ホームページにてオリジナルのBL小説を公開していた。
 完全にオリジナルのみで、2次創作はしていない。しかも、エッチより、萌えを重視したBL小説を載せていた。
 ヒット数も順調に伸び、今は小説を書いて、その反応を見るのが最大の楽しみだった。
 しかし、小説を書く前に、まずは今日大学で出された印度哲学史の宿題を終わらせなければならない。
 彼女は大学の教育学部に通っていて、印度哲学史は専門ではないが、何となく面白そうなので、一般教養で取ったのだ。教育学部に通っているからといって、彼女の夢は教師になることではない。図書館司書の資格をとって、図書館にBLの小説を沢山置くのが夢であった。
 そんな風に色々とBLについて考えを巡らせていると……正面に一人の青年が立っているのに気づいた。
 青年……というべきか、少年、というべきか、微妙な年齢の男の子だった。線の細そうな感じがいささか気になるが、でも、筋肉はつくべきところにはしっかりついてそうだ。格好いいとも言えるし、可愛いとも言えるし、美形とも言える。まさにBLの受け役としても、攻め役としても色々妄想の余地のある、そんな男の子だった。
 彼女はその青年をこっそり目で観察する。
 ――うーん、受けかなぁ……やっぱり……。でも、攻めも捨てがたいよね……。まあ、どっちにしてもいい目の保養になった。
 ところが青年の前まで来たとき、その青年が彼女の進路をさりげなく塞いでくる。そして彼女に声を掛けてきた。
「ちょっといいか……?」
「う、うん……なあに?」
 道でも聞かれるのかな、と思って、彼女は気楽に応じる。彼女はフレンドリーな腐女子を自称しているのだ。
「今、暇か?」
「はい?」
「暇なら、ちょっと付き合って欲しい」
 ――これナンパ!?
 彼女は警戒した視線を青年へ向ける。ううん、ナンパならまだいい。下手したら、何かのセールスか、宗教の勧誘、もしくは最悪風俗店への勧誘かもしれない。
 美青年は彼女は大好きだ。でも、こんな怪しい状況でついていくつもりはない。彼女は即断即決、その誘いを断ることにする。
「すみません、今、忙しいんです」
 実際、彼女は色々(妄想で)忙しいのだ。無駄な時間など使っている時間はない。しかし、青年はその彼女の腕をぎゅっと掴む。
 彼女はその腕を振りほどこうとする。
「何するんですかっ! 放してください! 大声出しますよ!」
「やっぱりこういうのは苦手だな……だが……こうしないと俺も、生きていくことができないんだ」
 青年はじーっと彼女の目を覗き込む。その目を見ているうちに、何だか、彼女は頭がぼーっとしてきた。この目の前の青年になら、何をされてもいい。そんな気分になってきた。
「すまない……」
 そういうと、青年は彼女にキスをした。何だか、そのキスをされていると、まるで体力が吸い取られるように、身体の力が抜けてきた。そしてキスが終わった途端、疲労で、ぺたんと道に座り込む。
 そして青年は彼女の手を放して、そのまま歩き去る。
 しばらくしてから彼女は正気に返る。
 って、知らない男性にキスを奪われた!? 初めてだったのに!?
 ショックだった。できることなら、あの男性を抹殺したい。こんなのあまり酷すぎる。
 彼女は泣きたい気持ちでいっぱいだった。それに動けないくらい、身体もだるい。
 結局、そのまま座り込んで泣いているところを通行人に発見され、彼女は病院へと運ばれていった。

「はーい、そこのおにーさん!」
 人気のない夜道を歩いていたところを、突如女の子が腕に抱きついてきた。
 この冬なのに、何だか薄着をしている。ロリ顔だけど、巨乳。そんな男の理想そのものの女の子だった。
「な、何? いきなり!?」
 腕に女の子の胸の柔らかい感触を感じながら、彼は慌てふためく。
 女の子はそんな彼へ気軽な感じで言ってくる。
「ねぇねぇ? あたしと遊んでいかなーい?」
「遊ぶ? でも、その……」
 彼は悩む。彼はごく普通の冴えないサラリーマンだ。こんな俺に声を掛ける女の子なんて、何か裏があるに決まってる。
「いやいや、俺、忙しいんだ。今日は結構」
「そんなこと、言わないで、ねぇ……遊んでいこうよ〜?」
「でも……」
 困った。怪しいことは分かっているが、これは彼の人生において唯一であり最大のチャンスである可能性もある。
 なかなか決断が出せないでいると、女の子はじれたような顔になり、じーっと彼の顔を覗きこんでくる。
「もう! やだなぁ……こうなったら、強引な手段、使うしかないじゃない……」
 女の子は彼の瞳を覗き込んでくる。その目を見ていると、何だか頭がぽーっとして、女の子の言うことなら何でも聞いてあげよう、という気になってくる。
 その女の子は背伸びをすると、顔を彼に近づけ、強引に彼の唇を奪った。そんなことをされても彼は嫌な気分にはならなかった。むしろ、幸せな気分でいっぱいだった。
 彼女の顔が彼から離れる。途端、何だか、物凄い疲労感を感じて、彼はぺたんとその場に座り込む。疲労のあまり、うごくのも億劫であった。
「あれ……どうしたんだ、俺?」
 ぽーっとした頭でも、その疲労が異常なことは、彼にも分かる。
 女の子はそんな彼を見下ろして、にっこりと微笑む。
「ごちそーさま」
 そして彼へ投げキッスを送ると、上機嫌にスキップしながら、その場を去っていった。

 青年の名はクラン、女の子の名はユラ、と言った。
 今の二人の背中にはコウモリの羽が生えている。その正体は人間とは違うみたいである。
 二人はアジトとも言うべき無人の廃ビルの屋上で、会話していた。
 ユラはクスクス笑いながら、上機嫌にクランへ言う。
「今日は10人から生気を回収したわ。今日はあたしの勝ちね」
 クランは不機嫌そうに言う。
「別に勝負をしているつもりはない。生きるために必要なことだから、しているだけだ」
「つまらなーい。いいじゃなーい。最近はいい男がなかなか連れないし、数くらい自慢してもぉ〜。それにあたし達、生気を吸えば吸うほど、強くなるのよ?」
「用はそれだけか? 他に用がないなら、俺は少し休ませてもらう」
「もう、本当につまらない男ね。もういいわよ!」
 くるりと背中を向けて歩き去っていくクランヘ、ユラはペーッと舌を出す。
 まあ、でも、確かに休むのも必要かもしれない。このビルはユラとクランの呼び出した数体のラルヴァが見張りをしている。ここなら、休むのにも適していた。
「まあ、あたし達、夜魔に本来睡眠は必要ないんだけどね、でも、寝るのも楽しいし、少しだけ、休息を取るとしましょう」
 彼女も屋上からビルの中へと入っていった。

 対策課は今日も大忙しだった。
 里村桃子は上司である植村直紀に呼び出される。
 今回の仕事は、町の人々がキスされた途端次々と生気を吸われ病院に運び込まれる事件の調査と解決であった。
「犯人は分かっています。『夜魔の饗宴』という映画に出ていたクランとユラという2人のインキュバスとサキュバスのムービースターです」
 直紀の話によると、二人の能力も分かっているらしい。
 1つは誘惑能力で目を合わせた異性を意のままに操ることが出来るみたいである。
 1つはキスした相手の生気を啜り取ることが出来るみたいである。
 さらに身体能力も高く、コウモリの羽を出し入れして空を飛ぶことが出来、ラルヴァという白い芋虫上の敵を召喚し、命令して戦わせたりすることができるらしい。
 武器はユラが投げナイフ使い、クランが二丁拳銃使いであるらしい。
「至急解決のための人員を雇って、事件を解決してください」
「でも、異性の人が相手の目を見ると誘惑されちゃうんですよね? それで、でも、二人をおびき出すには囮作戦が手っ取りはやいですよね?」
「ええ、そうですけど……」
「それって、やっぱり女装男装して、囮作戦をするのが一番ですよね?」
 直紀はちょっと困ったように曖昧な笑みを浮かべる。
「別に囮作戦でも普通に囮を立てて、囮とは反対の性別の人に見張っててもらうのもありだと思いますけど……? とりあえず方法は他の方と相談してくださいね。二人のムービースターを捕らえるのが仕事だと思ってください。それ以外はまかせます」
「はい!」
 早速桃子は仕事のための人員を集めることにした。

種別名シナリオ 管理番号921
クリエイター相羽まお(wwrn5995)
クリエイターコメント こんにちは、相羽まおです。
 初めましての方は初めまして♪。また会えた方は、またお会いできて嬉しいです♪。ふつつかものですけど、どうか宜しくお願いします。
 すっかりお久しぶりになってしまいましたけど……是非、参加して、楽しんでいただけると嬉しいです♪。

 今回はサキュバスとインキュバスの退治シナリオです。退治といっても、命までとるかどうか、それとも別の解決手段を取るかは、お任せします。基本は二人の夜魔を捕らえる話です。
 勿論、対策課からの依頼、という形でなくても、事件に関わってくださって構いませんからね。
 桃子はOPだけのNPCの予定です。多分本文には出ないような気がしますけど、何かPCの方から要望があれば出る可能性がある、という感じです。

参加者
四幻 ミナト(cczt7794) ムービースター その他 18歳 水の剣の守護者
ジョニー・キャラダイン(crfy8265) ムービースター 男 29歳 本人
<ノベル>

 銀幕市の対策課から、四幻ミナトは正式に夜魔退治の依頼を受けた。早速ミナトは、対策課の女子更衣室を借りて準備を行う。
 ミナトは躊躇い無くその身に纏っている衣装を脱いだ。大胆にも下着姿だけとなり、裸体が晒される。その身体付きは、無駄のないしなやかな線を描いていて、明らかに少年から青年になろうとしている時期特有のものだった。
 その身体に、ミナトは手馴れたように女物の衣服を纏っていく。それが終わると丁寧に自分の顔に化粧を施していった。
 一連の作業を終え、鏡に映った自分の顔を見てみた。そこには清楚な格好をした美少女がいた。ミナトは鏡の前でポーズを取ってみる。うん、自分はいつも通り可愛い。
 借りた化粧道具を片付けると、ミナトは女子更衣室を出た。
「じゃあ、いってきまーす」
 あまりの変身ぷりに絶句している対策課の男性署員に見守られつつ、ミナトは夜の街へと繰り出していった。
 と言っても、特に目当ての場所があった訳ではない。夜魔が出没するという、大体の目安の場所に向ってみることにする。
 通りを歩く男性が皆、振り返ってミナトのことをみる。中にはわざわざ立ち止まり、ミナトが立ち去るまでじーっとミナトに見とれているものもいるくらいである。正直、悪い気はしない。
 ――さてと、人通りの多いところにいても……夜魔に襲われにくいよね……。
 ミナトは歩きながら、頬に指を当てて、首をこてんと可愛らしく倒し思案する。とりあえず繁華街を一通り歩いてから、今度は人気のない方へ行ってみよ。まるで雪のような純白のコートに身を包んだミナトは、バッグを片手に人気の少ない方へと向っていった。
 そのミナトの手が不意にぎゅっと掴まれる。
「よっ! 彼女ぉ、一人ぃ?」
 背後からミナトに声が掛けられた。夜魔かと思って、ミナトは期待して、首だけ声の方向に顔を向ける。
 そこにはいかにも軽そうな男の子たちが3人ほどいた。彼らは爽やかな微笑を浮かべながら、ミナトの顔を覗きこんでくる。
「うわ……遠目で見ても可愛い、と思ったけど……近くで見てもすんげ可愛い」
「あ、あの……」
 ミナトは上目遣いで、少し困ったように男の子達を見上げる。その様子はまさに食べてください、と言っているようでもある。
 実際、ミナトはこのピンチな状況を困りつつも、どう切り抜けるか楽しんでいた。この男の子たちが夜魔には見えない。しかし、男の子の心境は男の子のミナトなら手に取るように分かる。上手く口車で切り抜けることなど、たやすいこと……と思っていた。
「おにーさんたちの他にこの辺りでナンパしている人、いませんでしたか?」
「うん? ナンパ? 違うよ。キミがさっきからあてもなく町を歩いているみたいだから、困っているのかな、と思って、声を掛けてみたんだ」
「本当にそれだけ?」
「……というのは口実で、本当はキミに声をかけたくて仕方なかったんだ。何か探している店とかあるなら、俺達も手伝うよ。といっても探しているのは店じゃなくて……えっと、ナンパしている人?」
 うっ……意外に勘が鋭い。でも、一般人を巻き込むつもりは、ミナトにはなかった。そのことが動揺を生み、思わずそれまでの余裕を忘れて、慌てて男の子たちの腕を振りほどいてしまう。
「さあ、どうでしょう? でも、ごめんなさぁい、あたし、用事があるから、失礼しまーす!」
 その道を塞ぐように、男の子の一人が立ちふさがる。
「待てよ、危険だって。わかんないかなぁ……キミ……そんな格好でこの辺りをうろついてたら、食べてください、と言ってるようなものだぞ?」
 ちょっとマジな顔をして、男の子は言う。
 まさにその通りのつもりだったので、図星を指されて、ミナトは困ってしまった。そして助けを求めるように……視線を周囲へ泳がせた。

「よう、色男。お前の名前を教えろ」
 ジョニー・キャラダインは夜魔らしい少年を見つけ、声を掛ける。その少年はいかにも怪しげなオーラを出しているジョニーを警戒したように見つめ返す。当然名乗りなどしない。
「そうか。それがお前の答えか? 俺の熱いヴェーゼを食らえ」
 ジョニーはいきなり少年にキスをした。少年は微かに眉を顰めるが、とりあえず抵抗はしない。突然ジョニーは眩暈を覚えた。少年に精気を吸われたのだ。
 その場にジョニーはへたり込む。そうしながら、いかにも自分は少年とキスをするのが気持ち悪くて吐き気を催したような仕草を、弱弱しいながらもしてみせている。
 少年――いや、夜魔クランは、冷ややかに、虫けらよりも嫌悪を催すものを見つめるように、ジョニーを見下ろした。
「何だ、こいつは?」
 クランにしてみれば、勝手にキスして勝手に自爆した変な奴に過ぎなかった。そのまま普通にスルーして、次の獲物を探して街を彷徨う。
 少女を発見した。とても可愛い少女だ。その娘が3人組の男の子たちに囲まれ、何か揉めているみたいである。興味を覚えて、クランはそちらへ向ってみることにする。

 同じ頃、彼女も街中を夜魔を探して、歩いていた。彼女のファーストキスを奪った男を、どうしても許すことが出来なかった。
 ――絶対……このままただじゃおかないんだからっ!
 その執念が実を結んだのか、ついにあの夜魔らしい少年を見つけた。
 丁度、夜魔は、ジョニーにキスを奪われているところだった。その光景を彼女はバッチリ目撃した。しかし、そこに萌えなどまったくなかった。BLとホ●は違うのだ。
「腐女子を舐めんな……」
 彼女は吐き捨てると、そのまま夜魔をこっそり尾行する。夜魔は彼女に付けられているとは思ってないらしい。このまま尾行を続けるか、それとも声をかけるか、彼女は悩む。
 すると夜魔は、3人組に囲まれて困っている感じだった、少女の格好をした人の方へ、と向かっていった。彼女も夜魔の後を追った。

 男の子たちに囲まれ、ミナトが困っていると、ぐいっと肩を掴まれ、抱き寄せられる。
 そこには……ミナトが探していた人物、クランという名の夜魔がいた。
「悪いな、先約だ。この子は、俺と約束していたんだ」
 クランは男の子たちを見回して、毅然と言う。
 男の子たちはちょっと驚いた様子を見せて、ミナトに尋ねた。
「そうなのか? 本当なのか?」
「え、えっと……はい」
 こうして目当ての人物に会えたのだ。ミナトは当然、話を合わせる。
「そっか……えっと、お前……」
 男の子たちは躊躇いながらも、クランに向って言う。
「そのお前……こんな可愛い彼女、もっと大事にしてやれよ? こんな場所で1人にさせたら危ないんだからな、分かってるな?」
 男の子たちは結果的にミナトを困らせることになったとはいえ、本当にミナトのことを心配していたようだ。
 クランは淡々と男の子たちの顔を見返して、答える。
「当然だ。言われるまでもない」
「それならいいんだ。またな! 彼氏に飽きたら、ここに連絡してくれよ」
 男の子達は携帯番号の書かれた自作の名刺を、強引にミナトへ持たせると、その場を去っていった。その未練たっぷりに何度も振り返ってくる後姿を見て、ミナトは小さく手を振りながらも、不覚にもクスクスと笑ってしまった。
「大丈夫か……?」
 クランはミナトの顔を覗きこんでくる。顔の近さに不覚にもどきっとして、顔を紅くしながらも、ミナトは頷く。
「はい」
「こんなところにいると、さっきの奴らのいった通り、変な奴に狙われるかもしれない。早く家に帰ることだ」
「でも……」
「でも?」
 ミナトは不安そうにクランを見上げる。そして……ぎゅっとクランの服を掴む。
 クランは納得したように言った。
「ああ、それなら、心配しなくてもいい。送っていく」
「ううん、違うんです……」
「違う?」
「あたし……家に帰りたくない……」
 そうだ、クランにはアジトまで案内して貰わないといけないのだ。このままお持ち帰りしてお願い、とミナトはクランを見つめる。
 クランはミナトを見つめながら、ゆっくりと顔を近づけてきた。
「仕方ないな……ここなら、人通りがあるし、倒れたら誰かが警察に連絡してくれるだろう……」
「えっ?」
 不意にミナトの唇がクランの唇で塞がれた。ミナトは一瞬ボーッとしたものの、直ぐにクランを突き飛ばす。幸い、精気はまだ吸われてないみたいだ。
 クランは驚愕の表情になる。
「何!? 誘惑の能力が利かない!? まさか……おまえ、男か!?」
「男では……ないんだけどなぁ?」
 にっこり、とミナトは微笑む。それはもしミナトが同性だとしてそれを知ってても、誑かされてしまうような、そんな魔性の笑みだった。
 しかし、たった今拒まれたばかりのクランは、それに騙されなかった。
「ちっ……」
 クランは翼を広げ、夜空を舞う。
「あ、待ってよー」
 そのクランをミナトは追跡することにした。

 二人のキスシーンは彼女も見た。それどころか、しっかりデジカメで撮影した。
 何を話しているか分からないが、彼女の勘がミナトの正体を、女装した少年と一目で見破った。
 彼女はカメラをぎゅっと抱いて、しばらく呆ける。女装やショタは彼女の趣味ではないが、彼女の趣味は、青年や幼すぎない少年が無理矢理だけど愛のある感じのとか、あとは例えば少年ばっかり出てくる某野球漫画みたいな感じが好きなのだが、実際目の前で起こった光景は、ジャンルを超越した萌え、と言ってよかった。
 呆けている間に、いつの間にか二人ともいなくなっていた。ようやく彼女は正気に返り、頭の中で悔しがる。
 ――きー、逃したか!
 悔しいし、これくらいでは気は晴れないけど、仕方ない。彼女は踵を返し、戦利品であるデジカメを自宅に持ち帰ることにした。

 追跡した結果、廃ビルに辿り着いた。廃ビルなのに、一角に明かりがついている。
 ――あそこだね!
 ミナトは廃ビルに飛び込み、そのまま階段を駆け上がる。
 明かりのついた部屋には、二つの人影があった。
 一つは少年、一つは少女。
 あの二人が、夜魔のクランとユラだ。さらに周囲には白濁した液体でできた、白い芋虫みたいなうごめくものが数体ある。あれが対策課の資料にあったラルヴァであろう。
 ラルヴァに周囲を取り囲ませながら、ユラは興味深そうにミナトを眺めてくる。
「へー、この子があなたの言ってた子〜?」
「ああ」
 クランは頷く。ユラは満足にそうに、ミナトを見て、色っぽくしなを作ってみせた。
「可愛いわね……ねえ、あなた……あたしといいことしない?」
「いいこと……?」
 ミナトは訳が分からず、きょとんとユラを見つめ返す。
「そうよ〜? 男と女が二人で一緒にすること、と言えば分かるでしょ?」
「あ、違う、違う」
「違う?」
「僕、男じゃないよ」
「えっ……? だって、クランの誘惑の能力が利かなかったんでしょ?」
「それは僕には性別はないから。僕の本体は剣なんだよ」
「あら……じゃあ、それなら……あたしが男にしてあげるわ」
 ユラは瞳でじーっとミナトの瞳を捕らえながら、近づいてくる。そしてにっこりと微笑む。
「それともクランの方が好み?」
 ユラはミナトへ誘惑の能力を使っているのだろう。しかし性別のないミナトにはユラの能力も通じない。
「でも、どっちも嫌だ! 精気吸われたくないし、それにあなた達を退治するのが、僕の任務だから」
 能力が通じないことを悟り、ユラは悔しそうな顔をするものの、ラルヴァに命じる。
「なら……無理矢理というのもいいわね。ラルヴァたちを使ってあなたを捕まえてみせるわ!」
 ラルヴァたちは一斉にミナトへ飛び掛る。
 ミナトはロケーションエリアを展開する。周囲の光景が太陽の輝く真夏の海岸へと変わる。
 海水を周囲への壁とし、ミナトはラルヴァの攻撃を防いだ。ラルヴァは何だか、水を怖がるように、水の周囲をうろうろしている。
 ――あれ? もしかして……。
 ミナトはラルヴァへ水を浴びせかける。ラルヴァは水分を吸い取り、ぐしゃぐしゃになり、崩れ去る。やっぱり……水が弱点みたいである。
 ――じゃあ、あの二人はどうだろう?
 水を操る能力を使い、ミナトは大量の水を二人の夜魔へ浴びせかける。
「いっけー!」
「きゃぁ!?」
 二人に水がかかった。
「いやん!?」
 ユラはぺたんとその場に座り込む。水を浴びたせいで、服がスケスケである。元々きわどい格好をしていたせいもあり、その姿はすごいエロかった。ユラは恥ずかしそうに両腕で胸を隠す。
 クランもびしょ濡れだったが、こっちは特に気にした様子はなかった。頭を振って、水で濡れた髪から雫を周囲へ飛ばす。服が身体に貼り付き、何とも言わない色気をかもし出していた。
「どう? これに懲りたら……もう無理矢理なんて、やめるんだよ?」
 ミナトは二人へ近づき、その前に立つ。これでもう勝負はついたもの、と思っていた。だから……油断していた。
 突如ユラに襲い掛かる人影がいた。それは、クランに精気を吸われ、カサカサに干からびたジョニーであった。
 ジョニーはユラの唇を奪う。
 そして……

 *  *

 干からびたジョニーの骸が海岸に転がっていた。
 しかし誰もそれに注意を払わない。いや、そっとクランがジョニーを抱き上げる。そして……お姫さまだっこして、ゆっくりと海の方へと歩いていき……ぽい、と海に流して捨てた。
 精気は吸ったものの、ユラもまだ胸を両手で隠したまま、ぐったりしていた。
「無理矢理キスされるのが、あんなに嫌なものだったとは……」
 ユラは、ハァと溜息を吐く。
 ミナトは目を輝かせて、尋ねる。
「じゃあ……分かってくれた?」
「ええ、あれほどのきもい存在にキスされて、ようやく悟ったわ。今度からはちゃんと相手の了承を取る。精気吸わせてもらっていいか、って」
「よかった……」
 ミナトはにっこり、と微笑んだ。
「それでその……」
 ちょっと恥ずかしそうに、ユラは上目遣いでミナトを見上げる。
 ミナトは不思議そうにユラを見返す。
「なあに?」
「あなたからその……吸っていい?」
「だーめ、僕には好きな人がいるから」
「そっかぁ……」
 ユラはちょっとがっかりしたように、うな垂れる。そのユラの頭をクランがポンポンと叩く。
「行くぞ」
 ユラは不思議そうにクランを見上げて、それから理解したようにこくんと頷いた。
 ミナトは慌てて二人を呼び止めようとする。
「待って! 一緒に対策課来てよ、後始末したいし?」
「縛られるのは好きではない。俺達は、奔放な性質の存在だからな」
 クランとユラは背中にコウモリの翼を生やして、空へと舞い上がる。二人はミナトの方を向いて、最後に声を掛けた。
「また会おう」
「じゃね、次にもし会うことがあったら、あなたのこと、本気で口説くわよ」
 ミナトは追うかどうしようか迷ったものの、とりあえず二人の言葉を信じて、今は見逃すことにした。
 それから思い出したように水を操り、ジョニーの遺体を回収する。ジョニーは精気を二人に吸い尽くされ、見るも無残な状態であった。
「あーあ、可哀想に……でも、まっ、いいか」
「俺はまだ死んでねぇ!」
 ジョニーはむくり、と起き上がり、叫ぶ。ミナトはそれを見て、信じられないものを見つめるように、ジョニーを見下ろす。
「あ、生きてた……」
「あれくらいで、死んでたまるか!」
「ふーん、そうなんだ、じゃね、おじさん」
 ミナトは軽く手を振って、関わるつもりはない、というようにその場を後にした。慌ててミナトを追いかけようとしたジョニーは転がっているスイカに躓いて、こてんと倒れた。

 彼女はミナトとクランのキスシーンを早速パソコンに落として、ホームページに載せた。
 タイトルは「好きな人の気をしたくて、女装した美少年、彼氏にキスを奪われる」というタイトルである。
 8割以上……というか10割以上、妄想が入っていたが、彼女は気にしない。
 今はクランに吸われた以上のパワーで彼女は漲っていた。早速、欲望に突き動かされるままに、創作活動を開始した。

 今宵も街中に夜魔は出没する。
 そんな夜魔に、あなたも狙われるかもしれない……。
 でも、安心して欲しい、二人の夜魔は、もう無理矢理人を襲うようなことはしないから。

 おしまい☆

クリエイターコメント ふう……楽しかった☆。

 こんにちは、相羽まおです。
 男の人視点で文章書くのは苦手なんですけど、今回はミナトさんはある意味男の子だけど男の子じゃないという感じだったので、結構書きやすくてすらすらと書いてしまいました。本当にミナトさん書くのは楽しかったですよ♪。
 ジョニーさんはここまでいじっていいのかな、と思いつつ、存分にいじらせていただきました(笑)。ジョニーさん、有難うございました!
 もし機会があったら、また参加してくださいね。この二人の夜魔が出てくる続編も構想中ですから。

 それではまた会えることを楽しみにしています♪。
公開日時2009-01-28(水) 19:30
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