★ 風と氷と不幸な強盗 ★
クリエイター陸海くぅ(whxr5851)
管理番号458-4818 オファー日2008-09-30(火) 22:19
オファーPC 四幻 カザネ(cmhs6662) ムービースター その他 18歳 風の剣の守護者
ゲストPC1 四幻 ヒサメ(cswn2601) ムービースター その他 18歳 氷の剣の守護者
<ノベル>

「どうしてこんな事になったのかな? ヒサメ」
 初夏の木々のように美しい緑の髪をポニーテールにした少女が軽く首をかしげて横にいる少女に問いかける。
「そうですわねぇ……あえて言うなら、カザネが前もってお金を用意していなかったからじゃないでしょうか」
 丁寧な言葉遣いで少女・ヒサメが答えた。
「おらそこ! 黙ってろ!」
 カザネとヒサメ、二人の少女の小さな呟きを耳聡く聞きつけた男が二人を怒鳴りつけた。
「ほんと、なんでこんな事になったんだろ……」
 目の前で、現在進行形で起こっている銀行強盗篭城事件を眺めながら、自分の運の悪さに思わずため息をついた。


 話は数時間前に遡る。カザネとヒサメは夕飯の買出しの為に二人で買い物に出たのだが、量を買うには所持している金額が少ないと気付いて銀行に立ち寄ることにした。
 元々が和風ファンタジー生まれである彼女たちに、銀行のATMは手強い相手だった。暗証番号をうろ覚えだったり、時間のかかり過ぎで『もう一度最初からお手続きください』と言われたり。多少の時間を犠牲に、ようやくお金を引き出し終えた二人は安堵の表情を浮かべながら銀行を後にしようとする。と、唐突に。
「全員動くな! 俺たちゃ銀行強盗だ!」
 そう叫びながら、数人の男たちが入ってきた。手馴れているのか打ち合わせが完璧なのか、男たちはスムーズに配置につく。カウンターで行員に金を要求する者、店内にいる客や行員を一箇所に集めて見張る者。様々ではあったが、その手際は良かった。
 足手まといになりそうだからなのか他の理由があるのかはわからないが、集められた人の中から妊婦や老人などが開放され外に出される。カザネとヒサメの二人は、当然のように店内に残された。剣だから性別とか関係ないのにな、などと思ったりもしたが、黙って従う事にしておいた。
 そんな風に手際良く強盗に入った男たちだったが、お金を詰めた行員の不器用さに時間をとられて警察に銀行を包囲されてしまうと、強盗たちは急遽方針を変えて人質をとっての篭城を選んだ。
 入り口のシャッターを半分ほど閉め、人質を数人で見張り、強盗の一人が入り口で警察に逃走用の車を要求する。
 そして数時間……。


「車一台用意するのにどんだけ時間かかってんだ! 十分以内に車が用意できなきゃ人質を一人殺す! 後は一分毎に一人ずつ、車が来るまで殺していく! それが嫌ならさっさと車を用意しろ!」
 興奮気味に交渉役の男が叫ぶ。緊張の持続に我慢できなくなってきたのか、他の強盗たちもウロウロと歩き回っている。
(そろそろまずいかな……)
 数多くの死線を潜り抜けたカザネは、強盗たちの様子を見てそう思った。高まった緊張感は神経を過敏にし、尚且つ思考力を奪っていく。精神力の強い人物やムービースターならともかく、ただの人間である彼らに思考力と理性を保ちながら、緊張感による感覚の向上だけを要求するのは酷というものだろう。
 事態は急を要する。そもそも、十分以内に車が用意されても人質が全員無事に開放される保障は無い。かといって、行動を起こしても時間をかけると人質に危害が及ぶ可能性がある。それだけは避けなければいけない。
 二人は顔を見合わせて小さく頷く。
(まずは強盗の正確な人数を把握する)
 カザネは静かに目を閉じ、集中する。
 ふわり、と小さく風がなびく。元々風の流れにくい建物内で風を使うのは難しいのだが、そうも言っていられない。精神を集中させて風を流す。
 一人……二人、三人…………。
 風の流れで人数を把握する。
「ふぅ……」
 本当に小さく、息を吐く。そして、強盗の目に触れないように、ヒサメの背中を指で軽く叩く。一つ……二つ……三つ……。
 トントンと背中に軽く触れる指の回数で、ヒサメはカザネから強盗の人数を知る。人質周りに三人、交渉役の一人、カウンターに座って全体を見回しているのが一人、合計五人。
 一番厄介なのは周りにいる三人。これをほぼ同時に処理できなければ人質に危害が及ぶ可能性がある。カザネが回風癒合を使っても、近くにいる場合、隠し持っているかもしれないナイフ等を使われると厄介だ。拳銃の弾丸は防げても、繰り出されるナイフを打ち落とす事はできないのだから。
 ならば……と、ヒサメは近くにあった、他の客が持っていて集められるときに落したのであろうペットボトルを手繰り寄せ、キャップを外す。そしてゆっくりと中の液体を床に零し始めた。染みのように床に広がる液体、水。それをカザネが風を使って細く伸ばしていく。その先は三人の強盗の足元。
 ゆっくりと時間が流れ、やがて人質の周囲にいる三人の強盗の足元にまで水が伸びた。カザネからの指の合図でそれを知ったヒサメは水に自分の指をつけ、精神を集中させた。
 わずかに大気の温度が下がる。ピシリ、と軽く音を立ててヒサメが指で触れている水が凍り始め、それは徐々に水の軌跡を追い、やがて周囲にいる強盗の足元近くまで達する。
(今だ!)
 心の中で叫び、ヒサメは力を強めに解放する。パキン! と強い音を立てながら水は一気に凍りつき、それは水の流れた後を伝って強盗にまで伸び、床と足を固定した。
「な、なんだ!?」
 狼狽した声で強盗が声を上げたその瞬間、カザネが力を解放し回風癒合を発動する。突然風が吹き始め慌てる強盗と人質。それを気にする事もなくヒサメは動いた。
 それは一瞬の出来事だった。まさしく瞬きをする間に、人質たちの周囲にいた強盗のうち、近い距離の二人と入り口にいた強盗が音もなく倒れた。そして今、入り口に立っているのは雪のように白い髪を後ろに束ねている、美しい少女。
 ことここに至って、呆然としていた強盗たちは我に返り、狙いを定めずに人質に向けて拳銃を発砲。しかしその弾丸は人質どころか、その近くにまで届くことなく力を失って床に転がる。
 虚しく響いた発砲音を聞き終える頃には、カザネが人質の周囲にいた残り一人の強盗を打ち倒し、凛とした表情で立ち上がっていた。
 残る強盗はカウンターに陣取っていた一人のみ。今の一瞬の行動を見て、ここにいる全員が彼女らがムービースターである事に気がついたはず。にも関わらず、残った強盗は不敵に微笑んで拳銃を捨て去り、ゆっくりとヒサメへと歩を進めてきた。対するヒサメも強盗に向き直り、ゆっくりと歩み始める。
 お互いが後数歩という距離まで来るとピタリと止まる。
「貴方……お強いですわね。私の攻撃範囲を把握して歩みを止められたのですか?」
 にこやかにヒサメが強盗に問いかける。
「さぁ……どうかなっ!」
 言葉とともに気を吐いて、強盗は右足を強く踏み込んで右拳を繰り出す。なにがしかの武術の心得があるのだろう、その拳はヒュオッ! という風を切る音を立ててヒサメに迫る。その拳の軌跡を冷静に読んで、ヒサメは迫る腕を取ろうと右手を差し出す。
 ヤバい! 強盗の直感がそう告げた。瞬間的に強盗は左腕をヒサメの右腕に叩きつけ、反動を利用して右腕を強引に引き戻した。そしてそのまま勢いを殺さずに体を回転させ、ヒサメに右の裏拳を叩き込みに行く。その強盗を裏拳を、弾かれた自らの右腕の肘を利用して上に打ち上げるヒサメ。そのまま腕を伸ばして強盗の喉元へと右足の踏み込みと同時に右手を伸ばす。裏拳を打ち上げられて体勢の伸びきった強盗にそれを避ける術は見当たらず、ヒサメの右手が強盗の喉を捕らえた。
「……私の力は氷。まだ抵抗するのでしたらこのまま喉から貴方を凍らせる事もできますが……どうしますか?」
「…………参った」
 その言葉を聞いて、ヒサメは手を喉から離す。強盗は崩れ落ちるように床に座り込んだ。

「ねぇ、カザネ? 本当に良かったのですか? 警察が来る前に帰ってしまっても……」
「ん? いいんじゃない? 警察に説明してたら、帰るのが遅くなっちゃう。そしたら、ホタルが怒るよ? それでも良かった?」
 買い物袋を手に提げて、カザネはヒサメに聞き返す。
「それは困りますね」
「でしょう? だったらもう気にしないの。さ、早く帰りましょ」
「そうですわね」
 そう言うと、二人は帰路へつく。うるさいくらいに響くパトカーのサイレンの音を背中に聞きながら……。

クリエイターコメントアクションシーンメインになりすぎてカザネさんの出番が少し少なかったでしょうか? 腕が未熟で申し訳ありません。
しかし今回は楽しく書かせていただきました。初の女の子メインのお話でしたので(笑
また機会があれば、よろしくお願いいたします。
公開日時2008-10-02(木) 23:00
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