★ 時空を越えた絆 ★
クリエイター陸海くぅ(whxr5851)
管理番号458-4999 オファー日2008-10-17(金) 22:09
オファーPC 霧生 村雨(cytf4921) ムービースター 男 18歳 始末屋
ゲストPC1 玉綾(cafr7425) ムービースター 男 24歳 始末屋/妖怪:猫変化
<ノベル>

「なんで俺が追われなきゃならないっすか〜!」
 辺りに絶叫が響き渡る。彼の名は玉綾。『大江戸始末屋騒動紀』という映画から実体化した、猫妖怪のムービースターである。
 もっとも、本人は銀幕市も実体化も何も理解できておらず、わかっているのは今自分が何かの事件の犯人に間違われて追われているという事実だけである。
「犯人めー。必ず捕まえて、俺の容疑は晴らしてやるっすよ!」
 銀幕市に来てから数日、何も食べていない空腹感に苛まれながら叫んだ彼の声は、虚空へと消えていった……。


「あいつは一体ドコをほっつき歩いてるんだ」
 そう呟きながら銀幕市を歩き回っている彼は霧生村雨。『大江戸始末屋騒動紀』から実体化してきたムービースター。自らの体内に宿した魚の妖怪『氷魚』の力でもう一人、同じ映画から実体化してきた事を知った彼は、そのもう一人――玉綾――を探して銀幕市を歩き回っている。
「まったく、いつも心配……いや、迷惑ばかりかけやがって」
 別に誰が見ているわけでもないのに、思わず言い直す。
「面倒だが、探さないわけにはいかないからな」
 誰かに言い訳するかのようにそう言って、村雨は再び歩き出した。


「おぉ、おぉ。こっちに来てから珍しく美味そうな匂いがすると思ったら……こいつはご馳走だぁ。大人しくワシに食われろぉ」
 赤黒く大きな体躯。頭部からは見るからに硬質そうな一対の角が生えている。伝承に残る“鬼”の姿を体現したような、そのモノの前には今、その鬼から逃げ惑う玉綾がいた。
「なんで俺があんたなんかの餌にならないといけないんっすか! 絶対にイヤっす!」
 言いながら、時々振り返って鬼の様子を見つつ全速で走る玉綾。四足疾走していることに果たして気付いているのかどうかすらも怪しかった。
 対して、追う鬼の動きそのものは大仰でゆったりしているのだが、玉綾に離される事なく距離は徐々に詰まっているとさえ思えた。あきらかに何かの映画から実体化したその鬼の説明の付かない追跡速度は、ホラー映画で車に追いつくゾンビと同じ性質を持っているのだろう。
「ほぅらほら、もっと逃げろ。そして恐れろ。恐怖は一番の調味料だぁぁ」
 楽しそうな口調で追いかける鬼。玉綾は言葉を返す余裕もなさそうに必死の形相で走っている。
 道もわからず、右へ左へ走り回る玉綾。それを的確かつ迅速に追う鬼。捕まると命を失いそうな鬼ごっこは、やがて終わりを告げる。玉綾が逃げ込んだ道の先が袋小路だったのだ。
「あ〜あぁ、残念残念。追いかけっこはもう終わりだぁ」
 言って、にやぁ、と下卑た笑いを浮かべながら差し出されてくる鬼の腕が玉綾に近付く。
「せめて……せめて最後に会いたかったっす、ご主人ー!」
 そう叫んで、強く瞼を閉じたその刹那。
「ネコオ! 跳べ!」
 強い口調の声。聞き覚えのあるその声に、玉綾の体は声の主を確認する事もなく、跳躍を行う。目前まで迫っていた鬼の手のわずか先をするりと抜けて上空へと玉綾の体が浮き上がる。
 突然動きの良くなった原因を探ろうと、鬼は声の主を見やる。その視界に、白っぽい棒状のものが映る。ソレは鬼の顔に当たると硝子が割れるような軽く高い音を立てて弾け、粉が飛び散った。
 粉を浴びた瞬間、鬼は顔をしかめる。退魔香か! と叫んで舌打ちすると、足を踏ん張り力いっぱい跳躍してその場を離れた。
 玉綾が大地に降りてくる。
「お前はどこにいても騒がしいな」
 着地し終わった玉綾に声がかけられる。ほんの数日聞いていないだけなのに、懐かしさで彼の視界が揺らぐ。
「ご……」
「ん?」
「ごしゅじぃぃ〜〜ん!!」
「えぇい、やかましいっ! それよりもあいつを追うぞ!」
「えぇ〜? なんでっすかー? あんな怖いの追いかけたくないっすよー」
「あんなもん放っておく事ができると思うのか? 大体、荒事はお前の仕事だろうが。さっさと行くぞ」
 どこか漫才のような空気を醸し出しながら、結局は村雨の言う事を聞いて付いていくところに、彼を尊敬していると理解できた。

「見つけたぞ、鬼」
 大きな体をゆすりながら、退魔香を拭い去ろうと四苦八苦している鬼を探し出した村雨たち。
「ぬぅ、何故ここが……そうか貴様、猫の怪か! 香の匂いを追ってきたか」
 香を拭い去ろうとしていた手を止めて立ち上がる。
「猫の怪と術師か……。面倒だが仕方が無い、相手をしてやろう」
 そう言ってギロリと村雨たちを睨み付ける。その一睨みには人を恐怖に陥れる力があった。まさしく鬼の形相である。
「一つ、間違っているな」
 その鬼の形相を涼やかな顔で受け流し、懐から香を取り出しつつ続ける。
「俺は術師じゃない。始末屋だ」
 それだけ言うと、村雨は派手に振りかぶって手にした香を鬼に投げつける。
「ふん、そんな見え見えの香に当たってはやれんな」
 言って右に動いて香を避ける。瞬間、鬼の右腕に何かが当たる感触があった。目をやると、黒い香がはじけて粉を撒き散らしているのが見て取れた。
「派手に動かした逆方向で仕掛けをする。手品の基本だぜ?」
 左手を見せ付けるように動かして不敵に微笑む。その笑みに挑発されるように鬼は村雨に一撃を加えようとするが、その体が上手く動かない事に気付いた。
「貴様、何をした!?」
「今、あんたに使った香は“封神香”と言ってな。物の怪の動きを止める効果がある。ま、どうやらあんたみたいな大物になると動きを鈍らせるのが精一杯だったようだが……それで十分だ。行けるな、ネコオ?」
 村雨はちらりと傍らを見やった。そこには玉綾が、猫が獲物を狙う時のように四つ足で姿勢を低くした状態で待機していた。
「いつでもいけるっすよ、ご主人!」
 それを聞いて、村雨は無言で鬼を指差す。それを合図にしたように、玉綾は一瞬重心を後ろに下げると、すぐに両の足で大地を蹴る。
 空気を切り裂き、弾丸のような速さで鬼に突進する。最中、玉綾の爪が伸びた。刃のように伸びたその爪は狙い過たず鬼の喉元を切り裂く。
「ぬぅぅ……ワシがこんな未熟な猫の怪と術師にしてやられるとは」
 それを最後に、巨躯を大地に横たえた。
「大丈夫ですかー! こちら、対策課です!」
 遠くから、そんな声が聞こえてきた。


「ご主人、これからどうするっすか?」
 村雨の半歩右後ろに付いて歩きながら、玉綾は彼に問いかけた。
「まずは住民登録だな。それが終ったら買い物をして、この銀幕という街での俺たちの家に帰って夕飯だ」
「メシ……メシ!?」
 自分が数日の間食事を取っていなかったのを思い出して腹を鳴らす玉綾。
「あぁ、そうだ。宴だな。俺たちの再会の宴……」
 そこまで言って、村雨は一度言葉を切った。玉綾が、ご主人? と問いかける。
「いや、例え世界を超えても出会えた俺たちの絆の宴……かな」
 本当に小さく、周りの誰にも聞き取れないほどに小さく、村雨は呟いた。
「今、何か言ったっすか? ご主人」
 そう言うと玉綾は村雨の顔を覗く。その顔に村雨のパンチが飛ぶ。
「な、何するっすか、ご主人〜! 痛いっすよ〜!」
「うるさい。お前は黙って俺の言う事を聞いてればいいんだよ!」
 叫んで、プイとそっぽを向く。
「なんてひどい事を言うんすか、ご主人〜! それでもご主人すか! 人でなしっすよ〜!」
 けなしあいながらも、そっぽを向きながらも、村雨も玉綾もその顔には笑顔が浮かんでいた。
 何があっても信頼しあえる、相棒。二人のやり取りからは、それが強く感じられるようだった。

クリエイターコメント 期待されていた要望を全て詰め込む事はちょっと無理でしたが、できるだけやってみました。
 今回が一番、規定文字数をやりくりするのに苦労しました。趣味で書いてたら二部作とかになってしまいそうな勢いでしいた(苦笑
公開日時2008-10-19(日) 16:20
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