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<ノベル>
●事件の欠片と更生への道を求めて
「彼奴ら、強盗じゃったのか! 彼奴ら、ゆるせん……!」
番長は怒っていた。なぜなら、先日、たまたま通りがかった幼稚園で、子供達と親しげに遊んでいた男達が強盗であることを市役所の対策課で聞いてしまい、そのまま、この依頼を受けてしまっていたからだ。
彼らをなんとしてでも正さなければならない。――彼は、そんな気持ちになっていた。
幼稚園に来るのは毎週火曜日、金曜日には、恵まれない人たちに対して、炊き出しなども行っている彼ら。
彼らが、なぜ、物品を奪う行為をしなければならないのか、番長は、道を歩きながら、思案していた。目的地は、自然と彼らが通う幼稚園へと足を向いていた。
「何故、彼奴らは奪うと言うことをしなければならんのか……、分からんじゃきに。
そう言えば、今日は火曜じゃけん。行ってみる価値はあるかもしれん」
一方、その頃、メルヴィン・ザ・グラファイトは既にその幼稚園を訪ねていた。
普段は座学の身ではあるが、今回は彼らが暗躍する映画「俺たちは、悪魔? それとも、天使?」を知っていて、彼らに実際、会いたくて訪れていた。
子供達は、既に「おじちゃん、遊ぼ〜よ〜」とか「おじちゃん、ここに座って〜」とおままごとや、鬼ごっこなどの遊び相手に引っ張りだこである。
「あ、ああ、ちょっと待ってくれないか? 私も体が一つなのだよ」
優しくいさめると、子供達はすぐに「うん」と頷き、そのまま、違う子達と遊んでいた。
それから、暫くすると、数人の男達が幼稚園へと遊びに来た。
「おっし、みんな、今日もお兄さん達、美味しいお菓子を持ってきたぞ!」
年の頃が20代後半の男が、子供達に声をかけた
「うわ〜い! お兄ちゃんありがとう!!」と、一斉に子供達はその男の方へ向かう。
そして、60代前半の妙齢の男を見たとき、男達は深々とお辞儀をした。
「貴方も、ここへはよく来るんですか?」
「ああ、そうだとも、君たち違う日に来ているけどね。ただ、その日が休みなので、今日来たんだ」
「そうですか……。なら、僕たちのお菓子を配るのを手伝って頂けませんか?」
「ああ、構わんよ。」
「ありがとうございます。では、教室の方へ参りましょうか?」
「ああ」
メルヴィンが頷くと、子供達と共に、彼らは教室の中へと入っていった。
「ふぅ〜ん、そんな風変わりな強盗団が居るの。でも子供達の味方になのでしたら、彼らに、そう言う方面で仕事を与えることは出来ないのでしょうか?」
市役所で、鈴木 菜穂子は対策課の植村と市民活動サポート課の北里と話をしている。
「そうですね。彼らにそれを前提に、あちこちの保育園でもそう言うことが出来るかどうか、確認してみましょう。
まぁ、大前提として、彼らに自首して貰わないと行けないのですが……」
杓子定規的なお役人の対応である。 その対応に、彼女はいらだちを隠せずにいられないでいるが、それを見透かしたのか、北美はこう言った。
「でも、プラスアルファーの芸があれば、それを使って老人ホームとか病院の小児病棟の訪問とかも出来るかもしれません。色々、私の方で当たってみます」
その言葉を聞いた彼女の苛立ちは、少し収まっていた。彼らの更生のために、手を貸してくれることになったのだ。
「ありがとうございます。色々助かります」
彼女がこう言い、お辞儀をすると、植村も北美に対して、「助かります」と深々と一礼した。
その後、彼女は植村から彼らが通う幼稚園の場所を教えて貰い、彼らが居る幼稚園へと赴く事にした。彼らを説得するために……。
既に、幼稚園に入っていたメルヴィンは、彼らから配るよう頼まれたお菓子を見つつ、それを貰ったときの子供達の無邪気な笑顔をみつつ、それを幸せそうに見つめる先生をみつつ、子供達にお菓子を配る彼らの様子を見て「なぜ、彼らは強盗するのか?」という疑問を持ちはじめた。以前から持っていた疑問がふわっと浮いてきたような形だ。
単なる愉快犯なのか?
それとも、某かの目的のためなのか?
彼らは、天使の顔をした悪魔なのか?
それとも、悪魔の顔をした天使なのか?
その目的を知ると共に、それを止めるのが今回の話。それをするために、彼は今、ここにいる。
「おじちゃ〜ん、お菓子ぃ〜〜」
子供の声に、ふっと我に返ったメルヴィン。
「ああ、すまん、すまん。みんな、仲良く分けるんだぞ」と言うメルヴィンの言葉に、子供達は元気よく、返事を返した。
お菓子を配り終えた男達は、子供達の相手を少ししていく。
子供達の扱いには多少慣れているところもあるのか、子供達は彼らの言うことを聞きつつ、楽しく遊んでいる。
「お兄ちゃん、次これで、遊ぼ〜」
「お兄ちゃん、一緒に遊んで〜」
「おじちゃん、僕たちとドッジボールをしようよ!」
彼らは、ドッジボールや鬼ごっこの相手、ブランコで一緒に遊んだりしていた。
ひとりぼっちだった子も彼らやメルヴィンが声をかけることにより、その輪の中に入っていった。
そして、彼らが幼稚園を去ろうとしたとき、「すまないが、私の用事にもつきあって頂けないかな?」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、メルヴィンは言った。
「僕たちは、構いません。時間もかなりあるみたいですし……」
午後三時、あちこちで、軽い休憩を取る時間ではあるが、番長は幼稚園へと足を向けていた。
彼の頭に同じ疑問が、ふっと浮かんでは消え、消えては浮かんでいた。
「彼奴ら、何故、物を盗むのか?
盗むだけが目的なのか?
盗んで、何かをするために盗むのか?」
同じように、鈴木の頭にもこんな疑問がわいていた。
「何が目的で、物を盗むのかしら?
ゲーム感覚で物を盗む?
それであれば、冗談ではない。そんなこと、すぐに止めないといけないわ。
市役所に掛け合ってみたけど、彼らに合う活動なんてみつかるのかしら、不安だわ」
「わからんじゃけぇ……。何が目的なのか?」
番長は呟くように言いながら、前から「ボスッ!」と人がぶつかる音がした。
「あ、ごめんなさい!」
前から、女性の声がして、一歩軽く下がってみるとやり手のOLの様な格好をし、眼鏡をかけた女性が、そこに居た。
「こっちは、大丈夫けんど、おまんさんは大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですけど、大の男が何ぼんやり考えているのよ。まったく……」
「わ、われ、わしに喧嘩売っとんか、コラ!?」
「喧嘩を売るも何も、貴方がぶつかってきたんでしょ?」
「な、なんじゃと! わぁれ、一度しばいたろか!」
番長が興奮して彼女の胸座を掴もうとした瞬間、数人の男と妙齢の男性が通りかかった。
「彼奴ら、老人を何処へ連れてくんか……。おまえ、一緒についてこんかぁ」と、番長は彼女の手をガシッと掴み、そのまま、彼らの跡を追いかけた。
「あなたには、謝ると言う言葉は無いのですか!」と言う菜穂子の抗議の声を無視しながら……。
そのあと、男達がやってきたのは、ダウンタウンにある洒落たカフェ。ジャズがかかり、モダンな雰囲気がする店内に入り、6人掛けの席に案内され、老紳士が一番外側に座るように席につく。
店員がメニューを持ってくると、各々好きな飲み物を注文していく。
そして、注文を終えて、給仕が厨房に向かった後、徐にメルヴィンは一つの新聞記事を彼らに見せた。
「この事件、どう思うかね?
犯人は、奇妙な叫び声を上げて、」
記事には、先日、ミッドタウンの「聖林通り」にある宝飾店「シルバーナ・フォレスト」に強盗が押し入って、1億5,000万円の宝石が盗まれたと書かれていた。
「だとしたら……、あなたは、私たちにどうするつもりですか?」
「さぁね」
メルヴィンは、こういって肩をすくめた後、口に紅茶を一口含み、徐に彼が口を開く。
「被害総額1億5,000万円だそうだ。そんな大金、何のために使うんだとおもうかね?」
「仮に、私がその犯人だとしたら、それらは、恵まれない子供達のためにつかうでしょうね」と笑みを浮かべて男は言った。
その後はたわいもない会話を続ける。あそこの幼稚園のこと、彼らが行っている福祉活動について……。
色々な話しをしたあと、後刻、彼らの家で会うことを約束し、その場を離れることとなったが……その時、学ランを身に纏った大男とOL風の女性が、その店に入ってきた。
学ランを身に纏った大男は、店に入るなり、老紳士の側にいる男の胸座を掴む。そのまま、「おんどりゃ、餓鬼の夢を壊しやがって!!」と男の方を殴りかかる。
「待ちたまえ!!
貴方は人を殴りに来たのかね?
その様な蛮行は、私の話が終わってからにしてくれたまえ」
老紳士は怒りを押し殺し、感情のまま殴ろうとした青年を静かに諭した。
「す、すまん……」
そう言って、青年を静かにさせた老紳士は、話を続けた。
「では、また、後刻、お会いしましょう」
彼らが居なくなったカフェで、メルヴィンは、彼らにこう尋ねた。
「君たちも、この事件を追っているのか?」
「ええ……」
「あ、ああ、そうじゃけん。じゃが、なんで、おまえは、あの時俺を止めたのじゃ?」
「腕力を使うのは最後の手段、彼らとて、そう考えているでしょう。
下手に、力を使わずに穏便に済ませる方が良いでしょう」
「うっ……」
そのあと、軽く自己紹介を済ませ、メルヴィンはこう告げた。
「あとで、彼らの居るところへ向かうことになっている。出来れば、貴方たちにもついてきて欲しい」
彼の申し出に彼らも、二つ返事で快諾した。
●説得、そして……
喫茶店で、暫く時間を潰した後、3人は、彼らが指定した場所へと向かった。
ダウンタウンにある小さなアパート、そこが、彼らの居場所だった。
アパートの入口の所で一人の青年が待っていた。
「お待ちしてました。そちらの二人は?」
「ああ、さっきの喫茶店で、色々話しを聞いてたら、君たちに会いたいと言うことで連れてきたんだ」
「そうですか……。分かりました」
「突然の訪問で申し訳ありません。私、鈴木と申します」
「わしは、番長って言うじゃけぇ。さっきはすまんかった」
「いえいえ……」と青年は言っているもののちょっとした番長に対して嫌悪感が残っていた。
「では……」
青年は、彼の自室へと案内した。
小さな部屋に質素な暮らしである。
「どうぞ。何も無いところですけど、お掛け下さい」
礼儀正しく彼はぺこりとお辞儀して、彼らを上座に座らせた。
部屋は質素という言葉が最も当てはまる雰囲気で、必要最低限の物以外、何一つ置かれていなかった。
「では、あの事件の犯人は君達なのだね? で、1億5千万円は何に使うつもりだったんだね?」
「ええ、あの一件は、私たちがやりました。お金については子供達や恵まれない人たちに使うつもりでした」と青年は静かに答えた。
彼は、精悍な顔をした好青年ではあるが、何処か影があるように3人には思えた。自分で用意したコーヒーを一口口に含み、話を続けた。
「私たちは、昔、同じ孤児院に居た仲間達なんです。それぞれの事情で、その孤児院に来たんですけど、その孤児院も閉鎖されて……。最初は生きるためにやってたんです」
青年は、静かに語る。
「で、映画の外に出たあなたたちはなぜ、こう言うことをしたですか?
ちょっと紹介が遅くなり、申し訳ありません。私は、鈴木 菜穂子と申します。
たまたま、あなたたちの話を伺って、市役所にそう言う活動を大きく広げることが出来るかどうか掛け合ってみました。結果はまだ分からないですが、もし、心を入れ替えてくれるのであれば、そう言う話もあります」
用意されたブラックコーヒーを静かに飲み、菜穂子は彼にそう告げた。
「これも、映画の延長線なのですが、私たちが恵まれなかった分、彼らには幸せになって貰いたいと思ったからです。それに……」
「「それに……」」
番長とメルヴィンが静かに最後の言葉を繰り返す。
「私たち、ここに来て、子供達や私たちよりも恵まれない人たちを見て、自分たちが何とかしなければと思ったんです」
「だから、強盗をしたと……」
「ええ」
番長は、静かに話す。
「それは、おまえが分かってるはずじゃけぇ。子供達に夢を与えているのにの……」
「そうですね。子供達に夢を与えているのですから……。私たちがそう言うことをしてはいけないはずですよね」
「それから、一つ聞きたいのだが、なぜ、黒い全身タイツで、強盗をしたのかね?」
「それは、僕たちがあくまでも犯行をしていることをアピールするのと、それと、同時にカモフラージュすることを目的にしていたんですけど、すぐに分かってしまいましたね。
それに、ここでの稼業は、この一件だけにするつもりです」
「なら、私は、この家業に足を洗うというのかね?」
「ええ、ですが、私たちは、盗みしかできない身。足を洗ったとしても、何が出来るのでしょうか?」
彼は、メルヴィンや菜穂子におそるおそる尋ねてみる。
「う〜む、私としては弁当屋をすればいいと思うがね。例えば、売れ残った弁当を次の日、恵まれない人たちに振る舞うことも出来るだろうし……」
メルヴィンがこう言うと、番長が、こう言った。
「おまえら、そう言うことをやってたんじゃきに、その経験を生かして、『防犯こんさるたんと』とかやってみたらどうじゃ?」
意外な男の意外な発言、かといって、その方が銀幕市内の人たちにも役に立つかもしれない。
「いきなり二つの選択ですか……。私たちの経験が活かせるとなると、防犯コンサルタントかもしれませんし、安価で美味しい料理を提供しつつ、それを貧しい人たちにですか……」
そのとき、菜穂子の携帯が鳴る。
「ちょっと失礼します」
菜穂子はそう言って、一旦席を外す。
「もしもし」
「突然の連絡、失礼します。銀幕市役所市民活動サポート課の北美です。先ほどのボランティアの件ですが、私立の病院で一カ所見つかりました。もしよかったら、今週中に連絡を頂きたいと思います」
北美の声が彼女の心に響く。彼らを更生する術が見つかったのだ。それだけでも彼女にとって、うれしいことはない。
「あ、ありがとうございます!
すぐ連絡させますので、はい、宜しくお願いします!」
そして、彼女が電話を切り、部屋に戻ると共に、こう告げた。
「あなたたちにボランティアをして欲しいところが見つかったわ。
私立の病院の小児病棟で、子供達のために何かやってくれないかしら?」
「え……」
彼は、自分たちの「子供達や恵まれない人たちのために色々支援する」という行動が、初めて人に認められたような気がした。
「分かりました。このことはみんなに伝えます。そして、私たちは20人いますから、10人ずつに別れて、弁当屋と防犯コンサルタントをやってみようと思います。ただ……」
「ただ……」
菜穂子がそう繰り返すと、「警察に自首しようと思います。世間を騒がせたのは、間違いないことですし……」と青年は申し訳なさそうに言った。
「そうか。それなら、それで良いだろう。私も出来ることがあれば、手伝わせて貰うよ」
老紳士はこういうと、菜穂子は、市役所の北美の連絡先を伝え、番長は「わしも、手伝えるときには、来るじゃけぇ。気軽に呼んでくれ」と出来る限り、手伝う旨を伝えて、去っていった。
その後、警察に自首した彼らは、担当した刑事に意外なことを言われ、追い返されたそうだ。その刑事も彼らの善行を小耳に挟んでいたのだ。
「皆さん、何か勘違いをしていませんか?
強盗したなんて、物騒なことを言わないで下さい。あなたたちは、何もしてないじゃないですか。逆に子供達や恵まれない人たちが喜んでいるのに、そんな強盗をした凶悪犯と、貴方たちが同じだなんて、信じたくありません。きっと、あなたたちは悪い夢を見ているのです」
彼らは、弁当屋と防犯コンサルタント会社を起業し、その間に、子供達や恵まれない人たち、そして、病に苦しむ子供達のために、ボランティアを、自ら進んでしたそうだ。
それが、追い返した刑事へのお礼と、更生への道筋を付けた3人への恩返しなのだから……。
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クリエイターコメント | ご参加頂きました皆さん、お疲れ様でございました。 皆さんの思いは、彼らの届いたと思います。(でなければ、こういう終わり方にならないかと思います。) また、一部、皆さんのご希望に添えない部分もあったかと思います。本当に申し訳ございません。 また、次の機会に私のシナリオにご参加頂けると幸いです。 今回は、ご参加頂きまして、ありがとうございました。 |
公開日時 | 2008-10-05(日) 21:40 |
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