★ 無知の罪 ★
クリエイター西(wfrd4929)
管理番号172-5058 オファー日2008-10-20(月) 23:56
オファーPC 香玖耶・アリシエート(cndp1220) ムービースター 女 25歳 トラブル・バスター
<ノベル>

 力を得るということは、決してたやすいことではない。特に未知なるもの、この世の理を超越した力であればあるほど、体得は難しいものだ。
 だが、それを一度手にしてしまったら……・偶然であれ、必然であれ、その過程に関係なく、過ぎた力は人を変える。

――世界が、変わって見える。どうしたのかしら。私は、どうしてしまったのかしら?

 生きた例が、ここにあった。少女の名は、カグヤ・アリシエート。数ある孤児として生まれ出でながら、エルーカとして生きる事を選んだ者である。
 この生き方を定めてから、まだ時間はさほどたっていない。己の得た力に新鮮さを感じ、またそれに付随する社会的地位に、彼女は酔いしれていた。舞い上がっていたと、言い切ってよい。

――羨望のまなざしが、こんなにも快いものだったなんて。嫉妬さえ、今は嫌いじゃない。だって、それは私の力の証明だから。

 エルーカとは、ヨーロッパの一地方で、知を追及する一派として誕生した……ひとつの教義である。後にこの言葉は、召喚師そのものを指すようになった。
 しかしこれは、教義が人の目に触れるにつれ、現れてしまった負の側面でもある。それだけエルーカが、誤解されやすい位置にいたことの現われであった。
 エルーカの本来の目的は、精霊と契約することにより彼らが持つ知識を得ること。純粋な探求の教えであったのだ。実際、精霊召喚によって強い力を得ることは、ただの副産物。新たな精霊と戦闘を行う際、また自らに降りかかる火の粉を払い除ける際、エルーカ達は精霊を召喚し、戦う必要があった……という、つまりはただの過程である。
 彼らも初めは、知りたかっただけなのだ。真理を追究し存在を把握し、世界への理解を深める。ただ、この世の理の体現者となることだけを、望んだはずである。
 だが古代、暗黒時代において、知識を得ることは力を得ることに等しい。エルーカは自らの力を振るう事に関して、なんら制限はなかったから、副産物の方が強烈に目を引くのは、当然のなりゆきであったのだろう。
 なにより、エルーカを理解する者とて、人間である。世を忍ぶ隠者でさえ、現実社会の目からは逃れられない。力は、そこにあるだけで、良くも悪くも人をひきつける。エルーカの実践者が、権力と結びつき、力の行使を提供することによって利益を得る……。そんな構図が現れてくるにつれ、エルーカはいつしか、『探求者』から『精霊召喚の魔導師』へとその意味合いを変えていった。
 エルーカの祖が見れば、嘆くべき現状であったろう。だが、現在のエルーカに、単なる探求者であれと言った所で、何人が耳を貸したことか。
 この一介のエルーカ。カグヤ・アリシエートとて、得たばかりの力に溺れ、有頂天になっている。過去において、数多くのエルーカがそうであったように、彼女もまた、権力者に取り入っていた。
 正確には、向こうから願い出て、カグヤがそれを受け入れた、と言うべきなのだろうが、それはさておき。彼女とて、弱者から強者へと成り上がった、今の立場が気に入っていた。これを放棄することなど、思いもよらぬことであったに違いない。
「セラフ?」
 戯れに、己をこの地位にまで押し上げてくれた、精霊の名を呼ぶ。
(何か用か? エルーカよ)
 声だけが、頭の中に響く。彼女が契約した精霊は、破壊を本分とする、闇色の天使。契約さえ済ませてしまえば、正式な召喚の手続きを行わずとも、簡単な会話くらいはできる。
「今日の目標は、なんだったかしら? あの領主さま、すごく丁重に接してくれたけど、回りくどくて……とても全部は覚えていられなかったもの」
(我ならば、記憶していると思ったか。……まあ、よい。エルーカに力を貸してやるのが、我が役割ゆえ、な)
 カグヤの脳裏に、必要な情報が全て叩き込まれた。
 契約した精霊とエルーカは、精神でつながっている。心で思うだけで意思の伝達も出来るし、記憶の受け渡しもそう難しくはない。
「……ふーん」
(どうかしたか?)
 どことなく、カグヤは違和感を感じていた。彼女は自分の能力を信じている。このセラフを信頼する気持ちに、嘘はなかった。……出会いが、どうであれ。
「権力者の考えることって、わからないわ。敵対勢力の貴族を狙うって言うのならともかく、村一つを潰したがるなんて……」
 セラフから教えられた情報に、誤りはないのだろう。なら、この妙な命令に、どんな意味があるというのか。
 出来ない、というのではない。だが、やるべき理由も見出せないのに協力するほど、彼女は考えなしではなかった。
(そこまで、伝えねばならんか。本当に、覚えてないのだな)
「……悪かったわね。でも、やることはちゃんと覚えているのよ? 焼き払え、ってね」
 カグヤの力に目をつけ、祭り上げた者は、一地方の領主。権力といっても、国家の中央に入り込むほどのものは持ち合わせていない相手だった。
 もっとも、限定されているとはいえ、領主はその区域では絶対的な君主といって良い。これに頼られるほどの力を持っているのだと、そう思えば、気分も良くなろうというものだが――。
「昨日殺してきた連中だけじゃ、足りないのかしら?」
 セラフから、また記憶を受け取ると、脳裏に領主からの言葉が蘇る。

――その村は、敵勢力の根城となっております。これを潰さねば、後に禍根を残すばかり。見た目は小さく、静かに見えますが……なぁに。そう見せかけているだけで、ございますよ。

(人間は、欲深きもの……そして、疑い深きもの。保身の為に、都合の悪い存在は、全て消さねば安心できぬのだろう)
「首謀者を討つだけでは、終わらないわ。根元まで刈り取らないと、いくらでも沸いて出てくる。……なるほど、ね。納得できなくもないわ」
 カグヤは、すでに昨日、一仕事終えたところであった。彼女は一つの依頼を片付けるごとに、相応の報酬と、歓待を受けている。
 本来、上に頂くべき対象から、崇められている。その事実は、カグヤの自尊心を多いに満たし、やる気を起こさせる大元にもなっていた。
「でも、いい加減飽きてくるのよね。これが終わったら、しばらく休ませてもらおうかしら」
 もともと彼女は孤児であり、厳しい渡世にさらされてもいる。犯罪に手を染めたことも、一度や二度ではなく、権力者におもねるよりは、反発する側の人間であった。報酬の大きさに目をくらませていても、無理をしてまで貴族の為に働こうとは、なかなか思えないはずである。
(嫌なら、拒否すれば良かろう。エルーカは、現世の何者にも従わぬ)
 セラフにとっても、エルーカは単なる手段に過ぎない。探求の志さえ忘れなければ、他は些事。犯罪を重ねようが、善行を積もうが、どうでも良いことであった。
「別に、嫌だって言ってるわけじゃないの。……そうね。思い出す限りでは、領主さまの方に理があるみたいだし。村を焼くなんて、外道のやることだけど、それがもっと多くの外道から、領民を守ることになるなら……私は、あえて汚名をかぶってあげるわ」
 そして、彼女は依頼されたとおり、標的となった村へと向かう。
(他の有象無象ではなく、他でもない自分が選ばれた、という現実への昂揚感。感情を封じ、犠牲よりも多くの他者を救えると信じて、非道を成す。しかしそのどこかで、己を悲劇の主人公のように思う、度し難い陶酔感。――ああ、なんという人の愚かしさ。なんとも面白きことよ……)
 セラフには、カグヤが滑稽な道化師のようにも見えた。契約者には読み取れぬほどの、心の奥底で、彼は彼女を嘲笑った。しかし、決してそれを口には出さぬ。セラフは、事の始めから、この件について傍観する事を決めていた。結果として、彼に都合の良い方向に転ぶのではないかと、半ば期待していたからである。
(一番の理由は、見ていて愉快だから、なのだが。どうやら、しばらくは退屈せずに済みそうだ……)
 カグヤがどのような巧言を労され、これを引き受けたのか。それを知るには、数日前の出来事から、思い出さねばなるまい――。



 カグヤがセラフと出会い、契約してエルーカとなった、そのすぐ後のこと。
 彼女は全てを失い、新たな一歩を踏み出さねば成らなかった。あてになるものといえば、自己の肉体と、セラフのみ。これをいかに活用すれば、不自由なく生きることが出来るだろう?
「……力は、力。でも、これだけで出来るのは、せいぜいが押し込み強盗くらいかしら?」
 得た物の強大さに浮かれてはいたが、彼女は現実の厳しさを忘れたわけではない。エルーカとなった。それはいい。問題は、いかに生きるかだ。
 押し込み強盗は短絡的過ぎるが、荒事に使えば、いくらでも成功が見込める力には違いない。カグヤは強くなった以上、弱者の立場に甘んじることはないと考えている。
 富が欲しい。栄華を知りたい。英知を見せびらかし、崇められるのは、どんなにか心地よいだろう。
 何より、これからは奪われる心配は、しなくていいのだ。自分から何かを奪おうとするものは、セラフが片付けてくれる。今の彼女に、不安はない。それがさらに一層、気を大きくさせていた。
(今の貴様では、それが限界か。やるなとは言わぬが、程度が低いな。それでは、エルーカの名が泣こう。もう少し大きく、視野を広くするべきだ) 
「かもね。――具体的には?」
(さて……ともかく精霊と契約を行え、といいたいところだが、まだしばらくは、能力の向上に励まねばなるまい。それも兼ねて、しばらくは現世に関わるのも、手ではあろう)
 自己の修練を忘れてはならない。エルーカの目的は精霊の契約と、それによる知識の習得にある。まず、セラフが許す限りの知識をカグヤに与え、その実践に励ませる必要があった。
 彼女がセラフを得られたのは、ほとんど偶然の産物。召喚師としての素養がないのだから、これからいきなり他の精霊と向かい合っても、契約にこぎつけるのは難しいだろう。
 だから、次の目標が見つかるまでに、カグヤの身体と精神を状況に適応させねばならないのだった。実践の場が必要なのは、その為でもある。
(貴様はまだ目覚めたばかり、エルーカとしては未熟すぎる。我が破壊の力は、闘争に用いてこそ、真価を発揮するもの……貴様はいささか『人が良すぎる』。まずは、奪うことに、慣れるが良い)
「奪う? ……そこらの木石で試しても、意味はないの?」
(精霊は、精神を糧とする。自意識のない物体からは、エルーカとして得るものがない。その点、強い自我と感情を持つ生き物……人間の存在は、非常に都合が良いのだ)
 それはセラフにとって都合が良い、ということで、カグヤの事情は含まれぬ。だが彼女はそれを指摘することも出来ず、契約した精霊の意気の大きさを知るのみだ。
(渇望せよ! あのときの想いを忘れるな。それが、エルーカとしての貴様に、より大きな力を与えるであろう……)
「わかった。で、何をすればいいのよ」
 ここで自分なりの答えを出さず、セラフに頼るのが、彼女の未熟さであった。
 結局の所、カグヤは彼を頼みにしなければ、何も出来ない。後年はともかく、当時の彼女は思考も練れておらず、セラフからの忠告以外に、指針とすべきものがなかったのだ。
(適当な街で、我が力を振るえ。度々繰り返せば、権力者の目に留まろう)
「自身を売り込めってこと? でも権力者に取り入れば、確実に実践できるなんて保証が、どこにあるのかしら」
(代々のエルーカは、そうして力量を付けていった。貴様も、それに習え。……心配するな。我が保証する)
 半信半疑であったが、カグヤは言うとおりに実行した。
 ほどなく彼女は領主の目に留まり、幾度かセラフの力を見せ付けてやると、それだけで相手は落ちた。カグヤは、自分を高く売り付けることに、成功したのである。もちろん、エルーカとして。
 実践の場に困らない理由も、すぐにわかった。カグヤは政争、権力闘争の激しさを、ここで教え込まれたのである。
 己が成り上がるためなら、敵を陥れるのは当然の戦略。これには武力の行使(証拠隠滅・暗殺)も含まれており、彼女の力はそれを行う立場から見れば、ひどく魅力的に映るのだそうだ。
 こちらが対象になったときに、身を守る手段としても、最適であるらしい。カグヤにその辺りの機微は理解できないが、セラフが言うには『間違っていない』……とのこと。
「まあ、いいか」
 カグヤは、自己を正当化する。敵とするのは、市井の無辜の民ではない。汚らしい、貴族の連中だ。
 他人を虐げて生きているような奴らを殺すのに、なんで躊躇しようか。また彼らを利用して名声を得られるのなら、これ以上の事はない。なにより――。

――貴女の力が、皆を救うのですよ!

 自分を迎え入れた、領主の言葉が蘇る。もう若くはない、初老の貴族であったが、口からつむがれる言葉には、誠意と熱意があった。カグヤが抱いていた、あらゆる貴族像から、かけ離れた存在。故に、彼女もそれを信じた。
「ふふっ」
 カグヤは、楽しくなって、嬉しくなって、つい笑ってしまった。
 これから彼女が敵とするのは、民から恨まれている貴族。他人から尽くされるのを当然と考え、搾取に何の罪悪も感じぬクズなのだ。それを正義に目覚めた領主殿と、自分が倒して行く。
 いままで自分が受けていた恥辱を、そのまま相手に返した上で、感謝され、讃えられる。しかもこれが自己の成長に役立つというのだ。なんという好循環であることか! カグヤが喜び勇むのも無理なからぬことと言えよう。
 彼女は、最後まで気付けなかった。貴族の老獪さというものも、この時のカグヤは、まるで理解してはいなかったのだ――。



 カグヤはこうして、一地方の領主に協力することになり、思う存分にエルーカの技術を実践していったのである。
「セラフ!」
(承知)
 最初は、敵領主の私兵が相手だった。鉄の武具で身を固めた兵士を、彼女は一手で薙ぎ払う。
(何度でも繰り返すが、我の力は破壊の力。結果的に何かを破壊できるのなら、手段は問わぬ。刺し、斬り、貫き、叩いて潰す。あるいは燃やし、凍え、溺れさせる。なんでも構わん。想像せよ! 我は、その実行の為に、あらゆる現実を破壊させるだろう)
 ある者は見えぬ刃で斬り倒され、ある者は何かによって押しつぶされた。さらにもう一度カグヤが手を振れば、それが鍵となって、セラフが現実を破壊する。
「ひっぎぎ、がぁ――」
「いでえ……ああ、い、いや、だ。こんな――」
「……げぇ」
 地獄絵図であった。それを作り出した本人でさえ、戦慄を覚えるほどに。

――知るものか。どうせこいつらも、悪党と同類なんだから。

 しかし、カグヤはためらわなかった。かつて奪われたことへの憎しみが、殺人への嫌悪を覆い隠し、彼女を突き動かす。
(敵は、兵ぞ。気を抜けば、こちらが斬られる。致命傷を負えば、死ぬ。……やる前に、やるのだ)
「喧しいわよ? セラフ。そんなこと、言われなくてもわかってる」
 凄惨な戦いではあったが、害意のある人間が相手である。彼女の心は、そう痛まなかった。
 ほどなく、私兵集団は、その息の根を止められる。途中で逃げ出した連中もいたが、これは放置した。エルーカを敵に回したとわかれば、もう二度と、無謀な戦いは挑んでこないだろうから。



 カグヤはこうして、敵の防備を徐々に剥いでいった。敵対する領主は、彼女を押しとどめること叶わず、ついにたった一人、孤立する所にまで追い詰められる。
 そしてカグヤは、準備が整ったと見れば、臆することなく敵の本拠地に赴き、あらゆる障害を排除して領主と対峙した。この時にはもう、すでにセラフの力は最大限にまで引き出せるようになっていた。本当に一瞬、それも手の届く範囲に限るが、弱い力ならば即座に発動できるほどに。
 カグヤは名実共に、エルーカの名に相応しい存在へと、成り切ったのである。いかなる意味でも不安のない、万全の態勢であった。
「最後に言い残すことがあるなら、聞いてあげるけど?」
 強者の余裕を表すような、カグヤの言葉。
 彼女は確かに、エルーカとして希有な才能の持ち主であった。まさに結果論であったが、セラフ当人が舌を巻くほどに、急激な成長を遂げている。しかし、それは自負心をも肥大化させる結果となり、自分は何者にも犯されない――という自信が、他者への高圧的な態度として現れていた。
「……下賎の者が。調子に乗るのも、たいがいにするがいい」
 彼女と対面したのは、まさに貴族と言う肩書きに相応しい、贅を凝らした衣装を身につけていた。また、その私室も豪勢な装飾が成されており、これが搾取の上に成り立ったいるかと思うと、なおさら腹が立つ。
「その下賎な者に、殺されようとしている貴方は何なのかしら? 口の利き方に気をつけることね。楽に死ねるかどうかも、私の気分次第なんだから」
「私を誰だと思っている? 貴族であるぞ? この地の統治を任された、領主であるのだ。お前の非礼。百回処刑しても余りある」
「――へぇ。まあ、いいけど。……で? 串刺しと股裂きと首刈り、どれを選ぶの?」
「それは……貴様の刑罰にこそ、妥当であろう。出来るならば、その首、掻っ切ってやりたいわ!」
「ああ、そう。首刈りで決まりね」
 そうして、彼女がセラフの力を振るおうとした時――貴族は、苦し紛れに呟いた。
「哀れなことよ。自分が何をしているかも、わからんか」
「……何?」
 ぴたりと、カグヤの動きが止まる。一時、刑の執行を取りやめて、彼女は貴族に問いただす。
「聞き捨てならないわね。私のどこが、哀れだって言うのよ」
「エルーカよ。まさか自覚がないのか? ……ふむ。教養がないというのは、不便な物なのだな。――無知とは罪、か。やはり、古人の言葉には、少なからず真理が含まれているものらしい」
「いいから、答えなさい。話している間は、処刑を待ってあげる」
 この期に及んで、何を言い出すのかと、カグヤは苛立つ。しかし、無視も出来ぬようで、有無を言わさず殺すことは、せずにいた。
「おお、傲慢だな。人のものを頼む態度ではない。――殺せ」
「は?」
「殺すがいい。私は、何も言わぬ。それこそが、最高の復讐になるゆえな……」
「苦しみながら、死ぬことになるわよ?」
「どちらにせよ、結果は変わらんさ。逃れえぬ死ならば、誇りを持って受け入れる。貴族とは、そういうものであるぞ」
 彼は、堂々と、言い放った。悪党が、何を今更……と。カグヤは、激昂する。
「ご大層な事を言うじゃない。どんなに誇ろうが、悪行は悪行。腐りきったプライドに、価値なんてないわ」
「何を勘違いしているのかは知らんが……搾取にしろ、弾圧にしろ、秩序の為には必要なことでもある。否定するのは勝手だが、お前が私と同じ立場であったなら、そうしなかったという保証はなかろう?」
「あるわ」
「どこに?」
「私の心が、『誇り』が、それを許さないからよ。わかったなら、もう死んで」
 男の首が、宙を舞った。胴体から切り離されたそれは、家具にぶち当たり、床に打ちつけられる。
 セラフは命じられるままに、動いた。結果として、貴族は死んだ。それで、この件は片付いたのである。

――くだらないわ。まともに相手にしたのが、間違いだった。

 カグヤは、依頼の成功を報告する。自分を見出してくれた領主は、それを事の他喜んでくれて、手を握っては賞賛し、良く彼女の自尊心を満たした。
「これで、いいのね」
 カグヤは、自分の行いが間違っているとは、思わなかった。あの領主様はこちらを評価してくれるし、敬ってくれる。貴族のくせに、他人を尊重し、認めてくれる。それだけで、何もかも許してやりたくなるのだ。――そう、疑問に思うことなどない。自分のために宴を催し、貢物もよこしてくれる。その費用は必要経費であり、なんら後ろめたく感じる必要はないのだ。
 ……セラフは、何も答えなかった。あの光景も眺めていたはずだし、彼女の考えも、見通せているだろうに。
(良い傾向だ。らしく、なってきたではないか。――このまま、無自覚に進むがいい。道は、こちらで整備しておいてやる)
 先ほど切り落としたはずの、貴族の首が。
 墓場の中から、哂っているような……そんな気配を、どこかで感じ取っていた。



 そして、今日にたどり着く。受けた依頼の詳細は、ある村の破壊。
 この一帯を焼き払い、後も残さず消滅させろとの、命令であったが――。
「一人残らず、焼き殺せ……とまでは、言われていないものね。適当にやるわよ、セラフ」
(ほう? 中には無関係の、善良な村人もいる。それらを、おもんばかってのことか)
「悪い? 私は『善意』で協力しているの。善の領主が、悪の領主を倒す手助けを、しているのよ。皆殺しなんて、領主さまが望むはずがないわ。……汚名自体は、私がかぶるとしてもね」
(ふむ。だとしても、やり方が強引に過ぎぬか? いや、これこそ今更といえば、今更であるが――)
「……そりゃあ、ね。多少は人死にも出てしまうでしょうよ。でも、悪党の根絶の為に必要だって言われたなら、やるしかないじゃない」
 カグヤは、矛盾を感じつつも、反抗したいとまでは思っていない。都合のいい後ろ盾を、失いたくないのか。妥協しながら実行することで、持て余しそうな感情を、処理している。
 セラフはそうと知っていながら、何食わぬ顔で助言した。彼にとっては、カグヤの感情も、娯楽に過ぎなかったから。
(ならば、なおさら徹底すべきではないかな? 逃した一人が、悪人であったらどうする?)
 それを見越しての、消滅命令ではないかと、セラフは主張する。確かに、言われてみれば、そのように取れなくもないが……。
「やりたくないことは、やりたくないの。貴方にだって、指図されるいわれはないわ。私は……エルーカ、なのよ」
(まさしくエルーカだ。やることなすこと、それらしくなってきた。ああ、良かろうとも。好きにするがいい。召喚師の使命さえ忘れなければ、我に不都合などないのだからな)
 言い回しが迂遠になってきたセラフを無視して、カグヤは行動を開始する。
 もう、村のすぐ近くにまで来ていた。ここからは、一方的な展開。ただ力を振るえば、一時間で村は炭と化すだろう。
 ……だが、目標を前に正気を取り戻したのか、カグヤはちょっとした疑問を抱いた。

――穏やか過ぎる。危険な村なら、もっと治安が乱れていて、汚くていいはずなのに。

 敵対勢力と結びつき、多くの悪漢が逃げ込んだとか、元々その手のならず者の手で栄えていたのだとか……。
 依頼された領主からは、良くない話を聞いていたから、拍子抜けする。たとえ見せ掛けだけでも、こうものどかな雰囲気でいられるものだろうか?
(早くしたほうがいいぞ。こちらの情報は、すでに伝わっているはずだ。姿を確認されれば、逃げられる恐れがある。早々に燃やしてしまえ)
「わかってるって、いってるでしょ? 貴方、最近おかしいわよ」
(何とでもいえ。『あまりにも』秀でたエルーカに育ってしまったのでな。新たな精霊が見つかり次第、契約してもらわねばならん。気が急いているのよ)
「はいはい。……まったく、こんな場所に、精霊が現れるとも思えないけれど」
(わからぬぞ……?)
 戯言には付き合ってられぬとばかりに、カグヤは力を顕現させた。セラフの能力を用いたそれは、たちまちのうちに村中へと広がる業火となる。
 そのつもりはなかったのだが、力み過ぎたらしい。村全体を覆いつくす浄化の炎は、建物どころか、村人にも悲鳴をあげさせる猶予を与えなかった。
「あ……」
 あまりの成果に、惚けている間に、村は焼け落ち――ほどなく、鎮火した。燃える速度がありえぬほどに速かったのは、セラフがそれだけ高位の精霊であることも示す。また、これだけの破壊を行使できた、己の成長にも、感嘆してよい場面であろう。しかし、何かが引っかかった。何が、とまでは、明確に出てこないが。
(これでは、逃げる間もなく焼け死んだであろうなぁ? ……うむ。まあ、良いではないか。命令どおりには、違いないのだから)
「そう、よね。そうだよね?」
(ああ、間違いないとも。貴様は良くやったよ)
 必死で誤魔化し、取り繕うとするカグヤ。それを楽しそうに見つめるセラフの視線を、彼女ははたして気付いていたのだろうか?
(……少々、強めに力を流してやった。これで、種は撒いたぞ? 良く、育て)
 彼女には読み取れぬほど、深い思考の中で。セラフは、不穏な策に想いをはせていた。
 エルーカの成長に必要な、全ての要素。それを彼は、自発的に用意してやろうと考えていたのだ。この暗い発想を、カグヤが嗅ぎつけるのは、かなり後のことになる。


 二つ目の村を焼き、三つ目は街を部分的に消滅させて……ようやく、カグヤは仕事を完遂させた。
「後味が悪いかな。……でも、得られた物は多いし。仕方なかったって事で――問題ないよね」
 領主からは、追加で謝礼を贈られた。あまりに多すぎたので、持ち運びに苦労するくらいなら……と。高価な宝石に変えてもらい、また旅に出る。
「いいの? 留まらなくて。あそこから、拠点も作れたと思うんだけど」
(エルーカは、定められた住居を持ちにくい。精霊を求めて、あちこちを探らねばならないからだ。定住などしていては、まともに務めを行えぬだろう?)
「それもそうね。――じゃあ、次はどの辺りを目指そうかな? また同じ事を繰り返した方が、いい?」
(いや……)
 セラフは、考えるそぶりを声だけで現すと、続けて言う。
(近場で、少し様子を見るか。しばらくすれば、精霊に巡り合えるかも知れぬのでな)
「当てになるの? その勘」
 カグヤは聞いたが、セラフはお茶を濁すばかり。仕方がないので追求せず、言うとおりに近くの町でしばらく休息を取っていた。
「……え?」
 そんな彼女に、ある噂が届く。セラフの言葉などよりも、よほど大きな。カグヤにとっては何よりも重大な、事柄であった。

――無実の罪で、焼かれた村がある……? それって、何のことよ。

 噂が指し示す地が、心当たりのある場所だから、たまらない。事の真偽を確かめずにはおれず、彼女は周辺を回り、さらに情報を掻き集めた。
 その上での結論。

――嘘よ。

 カグヤは信じなかった。
 彼女が求めていたのは、噂を裏付ける証拠ではなく、これが偽りであるという証明だった。どうしても、自分が騙されていたのだとは、思いたくなかったから。
(カグヤ。精霊が、現れる)
 そんな時に、セラフから精霊の出現を告げられた。彼女としては、それどころではなかったのだが――エルーカならば、目に見える機会を逃すわけにはいかない。
 セラフの言に従い、彼が指定する場所へと赴く。……そこは皮肉にも、彼女がかつて焼いた、村の跡地であった。


「まさか、またここに出向くことになるとはね」
 カグヤは呟いて、焼け跡を見回した。……確かに、ただならぬ雰囲気が漂っているのが、わかる。これが精霊が現れる前の、兆候なのだろうか。
(そろそろ、来るぞ。焼かれた村の怨霊どもが集り、一つの形を成そうとしている)
「怨霊?」
(人の怨念が、この世に残した妄執。凝り固まった想いが、現世に影響を与える為に成した、一種の思念だ。それ、見よ。この村だけではなく、一帯の怨念すらも吸い取って、精霊が顕現する様を――)
 カグヤの目にも、写っていた。暗い色を伴いながら、怨念が一点に集い、徐々に肉を形作っていく有様が。

――なによ、これ。なにをどうしたら、こんな恐ろしいものが出来るのよ!

 そしてついに、完成する。総毛立つような、凄まじい咆哮と共に、憎悪の精霊は現れた。
『ぎぎぎ、痛い。苦しい……。ひ、うひひ――きぎゃぎゃぎゃぎゃッ!』
『お前も、私のお友達? ……こっちに、来ようよ。一緒に、泣こう? 皆で、苦しもうよ……』
『来゛いぃぃ……おばえも来゛いぃぃ。一人だけで楽してるんじゃねぇぇ……!』
 人の顔が、いくつもくっ付けられた、球体の肉隗。それが宙に浮き、それぞれが好き勝手に喋っている。
 真ん中にある、一際大きな男性の顔。それがぎょっと目を見開き、カグヤをにらんだ。
『お、オ、おおおウゥゥ――! 何ぞ? 我輩を呼ぶものは、誰ぞォォォ!』
 これが主人格であるらしく、彼が大きな声で怒鳴ると、他の顔は全て沈黙した。カグヤが契約を行う準備は、これで整ったのである。
(首尾よく出てきたな。さあ、エルーカよ。契約を交わすのだ)
「ちょっと、待って。……聞かなきゃならないことが、あるの」
 現世にあれば、悪霊としか表現できぬような、おぞましい精霊。それを形にした原因が、何であるのか。
 恐ろしい予感を前に、確かめねばならぬという衝動に負け、彼女は口を開く。
「質問して、いい?」
『許す! 我輩は、ぬしの問いに答えようぅぅ……』
「あなたの、姿。それは、この地の怨念の為に、そうなったの?」
『然、りぃぃぃ。この者どもは、元は善良で愚かな民であった。それが、いわれのない罪で焼き殺され、多くの無念を生み出した……。敵対する領主を支持した、という。ただそれだけの一点を持って、ある領主の命で断罪されたのだ。エルーカよ。ぬしは知っているはず……実行者たる、ぬしには、想像も付いているであろォォう。我輩が現れたのも、それ、ゆえよ……』
 ここでようやく、カグヤは己の罪と向き合った。

――そん、な。私は、騙されて。たかだか、貴族の勢力争いの為に、利用されたの? 罪のない村人を、殺しつくしてしまったというの!?

 一種の、見せしめであったのだろう。ちっぽけな村でも、自分を支持しないのならば、躊躇わずに潰してのけるぞ……という。あまりの不潔さに、カグヤは目の前が真っ暗になった。
 浮かれていた。酔っていた。言い訳ならば、いくらでも思いつく。しかし、当人は知っていた。あえて、目をそらし、考えていなかったのだと。己の怠慢、傲慢が、招いた事態であると。
 間違いなく、この結果は、己が原因である。その事実からは、もう、目をそらすことさえ許されなくなってしまった。
(精霊は、嘘をつかぬ。嘘をつくのは、人間だけだ)
 セラフの言葉が、嫌に耳にこびりついた。相手の証言を疑う余地さえ、ここにはない。膝を付き、地面に手を付け、唸る。
「うぅ……」
 許されるなら、わめき散らして、泣き叫び、子供のように癇癪を起こして……全部忘れて、眠ってしまいたかった。
『死にたくない……死にたくなぁい……。お母さん、どこにいるの……』
『いひ、いひひひ……みんなみんな、ここにくるんですよ。一人だけ生きてるなんて、許さない……』
『私の、せいなのか。村が燃えるのは、私の……。憎い、憎いィィ……私も、あいつも、どいつも、こいつもォォォうゥゥ……』
『この子だけは、この子だけは……お許しを。神様、神様かみさまカミサマ――何故なのです……!』
『おばえも死デェェェッ!』
 だが、再び紡がれ始めた恨みの声が、彼女を現実へと引き戻す。見たくないものを突きつけられて、信じたくない結論を見せられて、カグヤは今にも押しつぶされそうな気持ちであった。
(エルーカよ! 契約を。今更貴様が嘆こうと、人々の死は覆らぬ。精霊が喰らった魂も、救われることはない)
「どうして! 私は、そんなつもりじゃなかったのに! 悪いのはあいつよ! あの領主よ! あいつを恨めばいいじゃない!」
 一転して、自分を雇った貴族を罵るカグヤ。いい気持ちにさせてくれた相手には、こんな裏があったのか。
 もう理屈なんてどうでもいい。自分にだけ悪意が向けられることに、彼女は耐えられなかった。
『知らぬ……。我輩は、こやつらの感情など知ろうとも思わぬ。おお、この顔どもは、覚えてはおるまい。ただ己が殺された理不尽に憤り、生きているもの全てを羨む、浅ましい怨念に過ぎぬ。事の是非も、真に恨むべき相手も、判断しようがないのだ……』
 憎悪の精霊は、見た目に合わぬ冷厳さを持って、カグヤに接した。落ち着いた口調に合わせて、恨みの声も静かになって……再び、この場には静寂が戻った。
「嫌……」
 硬直した空間を裂いたのは、カグヤ。拒絶の声が、その場に響く。
「私は嫌よ! どうしてこんなのと契約を結ばなきゃならないの!」
『こんなのとはご挨拶であるな。まあ、良い。……我輩を厭う理由があるなら、別に無理強いもせぬが?』
 憎悪の精霊は、まるで執着する様子がない。何の理由があってのことか、取り乱したカグヤには想像さえ出来ぬが――ここでセラフは、再び口を開いた。
(拒否は許されぬ。貴様はエルーカなのだぞ? 契約こそエルーカの務め。精霊を集め、永遠に彷徨うことこそ力の代償。我と貴様の糧とするべく、憤怒と憎悪に塗れた精霊と契約せよ)
「他のを探せばいいじゃない! よりにもよって、こんな――」
(勘違いせぬことだ。我は、強要しているのであって、希望を聞いているのではない。こと契約に関して言えば、我々精霊の側に分があるのだ)
 セラフは続けて、その理由を並べ立てる。怒りも焦りも感じられぬくせに、異様なまでの迫力が、伝わってくる。カグヤはそれに、すっかり圧倒されてしまった。
(務めを放棄するならば、魂ごと喰らい、存在そのものを抹消する。エルーカとなるということは、契約を結び続け、ありとあらゆる知識の探求……汚らわしい事実さえも飲み込んでいくことを、了承する誓いに他ならぬ。――そもそも、要求を満たし続けねば、我々精霊が手を貸す理由など、どこにもないではないか)
 呆然とするカグヤに、改めてセラフは告げる。
(契約を結べ、エルーカ。我はその為に、あらゆる現実を破壊して見せよう。貴様が、契約によって知識を運び続けるならば……我は、いくらでも貴様の力になろう)
「あ……うぅ……」
 目の前で、いや、ずっと自分が犯し続けた罪に、カグヤは絶望していた。安易に力を求めた、その代償の大きさにおののきながらも、逃れることは叶わないのだと知る。
 立ち上がり、虚ろな表情を浮かべながらも、彼女は憎悪の精霊と相対した。
『我輩との契約を、望むかァァ?』
「は、い。……望み、ます」
『ならば、我輩に真名を与えぇぇいぃぃ……。力はすでに、見せて、もらった。契約するに相応しい、エルーカよ。細かい儀式など、我輩は好まぬ……さあ、我輩を呼べぇぇいぃぃ……』
 救い難い罪を犯し、絶望を突き付けられても。それでも、消えてしまいたくはなかった。

――死にたくない。死にたく、ないよ……。

 それはきっと、とても寂しくて、救われない物なのだろう。精霊の顔に浮き出た、苦悶と憤りの表情を見ると、その悲惨さに目を覆いたくなる。
 だから、カグヤは恥と自覚しながら、愚かしさを把握しながら……契約を結ぶ事を、選んだのであった。
「レギオン。……貴方の名は、レギオンよ」
『ほほぉう……よかろう、気に入った。我輩の名は、レギオン! 事来たらば、その名を叫ぶが良い! さすれば我が力、貸し与えてくれようぞぉぅぅ……』
 レギオンとは、マルコによる福音書、第五章に登場する悪霊の名である。精霊に悪霊の名を付けようとは、皮肉に過ぎるであろうか? しかし、この容貌をみれば……このおぞましき姿を考えれば、むしろ正当な評価であったのだろう。
 何より、醜い名を付けることで、己が犯した罪を忘れぬように……と。そのような心理も、働いていたのかもしれない。
『契約は成立した。今は、一時の別れを……。セラフとかいう、粗忽者にもよろしくな! ふぅふはははははァ――』
 憎悪の精霊。レギオンと名づけられたそれは、宙に溶け込むように、消えていく。カグヤは無表情で、何も考えていないような目で、見送った。
(ふざけた事を抜かす奴……これは、警戒すべきかもしれんな?)
 なおも呆けたままのカグヤを尻目に、セラフは思考する。
 数多の憎悪を糧に現れた、あの精霊。その生まれからは信じられぬほどに、協力的だった。
(いかなる意図があってのことか? ――解せん。憎悪を制するのに、一戦する覚悟さえ、決めていたのだが。第一あの振る舞いからして、とても尋常な精霊とは思われぬ)
 さりとて、こちらの害になる様子もない。あの聞き分けのよさが、かえって不気味ではあった。
(まあ、良いわ。我に比肩するほどの、力がある訳でもない。どうとでも、なろうよ)
「……セラフ? 何か、考えてたの?」
 やっと、見せ掛けだけでも普段の調子を取り戻したのか。カグヤからの声で、セラフは意識を彼女へと向けた。
(いや? レギオンとやら、なかなか面白い奴ではあるようだと。そう思っただけのことよ)
「どうかしら。私には、わからないわ……」
 彼女には、考察する余裕さえ、今はない。休養が、必要であること……それだけが、ハッキリしていた。

――強者の傲慢。気付かぬうちに……理解したふりをして、誰かを傷つける。自分を正当化して、悪いのは自分じゃないと思い込む。……ああ、そうよ。私は、何もわかっちゃいなかった。もう、私は誰にも誇れない。次は誰を傷つけ、殺すことになるか……わかったもんじゃ、ないんだから……。

 己が成した、悪行の象徴。村の焼け跡を背後に、カグヤは荒野を進む。
 これらの罪を背負ってでも、エルーカとして生きる事を選んだ。彼女は、死にたくなかったのだ。あまりに多くの死を見つめてしまったから、その恐ろしさに、耐えられなくなっているのだ。
 セラフの思惑も、レギオンの不可解さも、カグヤはまるで考えしようとしなかった。彼女がそれに向き合うのには、これより数年の歳月が、必要だったのである――。



クリエイターコメント このたびはリクエストを頂き、まことにありがとうございました。
 今回、設定に関して、かなり踏み込んでしまい……やり過ぎた内容に、なってしまったかもしれません
 もし、問題があるようならば、ご連絡ください。ただちに、修正させていただきます。

 いかがでしょう? ご希望通りの出来上がりに、なっておりますでしょうか?
 そう思ってくださるならば、幸いです。では、また機会があれば、よろしくお願いします。
公開日時2008-11-11(火) 22:00
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