★ バランス・ゲーム ★
クリエイター淀川(wxuh3447)
管理番号873-5741 オファー日2008-12-09(火) 21:49
オファーPC ミサギ・スミハラ(cbnd9321) ムービースター 男 25歳 生体兵器(No.413)
ゲストPC1 シフェ・アースェ(cmhd3114) ムービースター 男 21歳 ミンネゼンガー
<ノベル>

 銀幕市のダウンタウン、そのとあるマンションの一室。本来であればいつも通りの平和なやり取りがされているはずの一室で、今日は若干の険悪な空気が流れていた。その部屋に住んでいるミサギとシフェは二人が共有するスペースに置く物の相談で相反する答えを出していて、お互い譲るつもりは毛頭無いらしい。おかげで一気に共有スペースに漂う空気は悪化。息をするにも辺りに響いてしまっているのではないかという幻想に囚われる程である。ミサギはいつもから無表情な顔ではあるが、いつもより目を細めている。シフェはシフェで口をへの字に曲げてミサギを見ている。
「だから、せっかくの共有スペースなんだ。ゆっくりリラックス出来るような空気じゃないとダメだろう」
「だかラ、オレはコレの方が落ち着くんだと言ってイるじゃないカ」
「ミサは良いかも知れないけど俺は落ち着かないんだよ」
 ミサギは『見た目や印象よりも利便性がある』家具が良いと主張。デザインもシンプルで、強度もあって長持ちする金属の家具がいい。あとはプラスチックやそういった人工的なものがいい。なぜなら、人工的に作られたものは無駄がなく用途の為に特化した形状になっている。そう、使いやすさが大事なのだ。道具とはそういうものであるべきだ。他に使わないものは置いておくべきではない。というよりも実際問題食事に必要な机と椅子さえあれば他のものは要らないじゃないか、という主張である。
 一方シフェは『木などを使った自然な雰囲気』になるような家具が欲しいと言っている。別に装飾は派手なのは自分も嫌いだし地味で良いし機能的でも一部金属とかでも全然構わないのだが、やはり木製の家具が出す自然な風合いと、自分の飼っている金魚とか植物などの生き物を共有スペースに置いて土を引いて自然の中にいるように空間を演出すればきっと落ち着く、と言うのだが。
「……ちょっト待ッた。今聞き流しソウになったケド、土をココに敷くダッテ?」
「だって、その方が自然に近いし、植物も元気になるだろ?」
 思い出したようにミサギが突っ込みを入れる。家の中に土。都会の中の大自然を作ろうとでもしているのだろうか。それはちょっと勘弁して欲しいと付け足すとシフェはなんで?と不思議がっている。
「イヤ、そう言ウ事ジゃなイ」
「じゃあどういう事だよ」
「雑草生えタリ虫が出ルダろ。ダからダメ」
「そういう問題?」
「そうイウ問題」
 お互いちょっとずれているのか、突っ込みもボケも上手く入らず空気はどんどんと重たくなっていく一方である。

 小休止。

 じゃあこうしよう、と取り出したのは木とプラスチックで出来たピースを使ったバランスゲームだった。よくある三つを並べて縦横交互に並べて積み上げ、積んでいるところからお互い一本ずつ抜いて上に新たに積んでいくアレである。なぜピースに木とプラスチックがあるかといえば、お互いが「こっちがいい」を引かなかった為であるのだが、ここで譲るという選択があれば話しはここまで来なかったのだろうとも言い切れない。双方、その姿勢は譲る気は毛頭ないようだ。それが一段一段木とプラスチックが交差して綺麗な模様を作りながら何もない共有スペースの床へと積み上げられていく。
 まず、第一手はシフェからだった。指で軽く押してみて動いたものをスルリ、と抜き去る。一番初めは簡単であるはずなのになぜだろうか、手に汗が滲んでいる。
「俺は本気だから」
 シフェが真剣な顔つきでミサギを見やる。それに答えるようにミサギも返事はしなかったがピースをひとつするりと抜いた。まるでシフェの本気に答えるかのように。そして二人はひとつ溜息をつき、口の端が上へと上げた。
 ひとつ、またひとつと抜かれ積まれていくピースたち。当初の3分の4ほどに伸びているそれはいつ崩れてもおかしくない程に伸びていた。しかし、お互い一向に引こうとはせず、ただただ目の前のピースを黙々と上へ上へと積み上げている。吐く息一つにも気を使い、ピースを抜く時の手の動きを最小限にし、更に乗せる時の衝撃も僅かで済むように上から乗せずに横から滑らせるように乗せる。二人とも精密機械並みの動きをしていた。
 しかし、このまま行くと必ずどちらかは倒してしまう。そのタイミングは自分たちでも正直分からない。それならば……
「……なにしてんの」
「……そっちコソ」
 出した答えは『妨害する』ことだった。シフェが抜く番になるとタイミングを計って急に立ち上がったり、あくびをしたり。ミサギが抜く番になると
歌を歌いだしたり発声練習をし始めたり。ある程度は双方共に華麗にスルーしていたのだが、どんどんとそのやり方は悪質になっていった為に我慢し切れず己の能力を使い始めたのだった。ゲルをピースにばれない程度につけ、動かしやすい所を動かないようにしたり、魔声で危ないピースを引かせようと誘導したり……もはや妨害する事がメインとなりつつあった。さすがに堪忍袋の尾はそんなに頑丈には出来ていない。
「大体大人気ないとか思わないのか!」
「そっちコソさっキからチマチマと邪魔シて来ているジャないカ」
 苛立ちもピークに差し掛かり、にらみ合ってバチバチと目から火花が上がっているようなそんな一触即発の空気……の時に触れても居ない(もはや塔、とも言える高さの)ピースたちがガラガラと音を立てて崩れてしまった。もうピースたちのバランスやらなんやら色々限界だったのだろう。
「これっテ……」
「ドローゲーム?」
 二人が顔を見合わせる。そして大きく溜息をつくと一気に力が抜けてしまった。嗚呼、なんて下らない事でイライラしていたのだろうか。片付けもせず二人は床へと寝ころがった。
「で、ドウスル?家具」
「うーんと、俺は別にミサが好きにしてくれればいいかな、ってちょっと思い始めた」
「奇遇だナ。オレも思っテタ」
「じゃあ意見を半々なんてどうだろう」
「いいンじゃなイカ?……たダし、土を敷き詰メるのは止めてクレな」
 えー、とシフェは口を尖らせたが、すぐにくすくすと笑い始めた。それを見てミサギも表情が緩んだように見える。すぐにいつもの和やかなムードへとその日は変わっていったのだった。

 後日。

 共有のスペースに家具を入れ終え、配置を完了させた二人が満足そうな顔で笑みを交差させる。机は金属パイプ脚のガラステーブルで機能重視だけどちょっとオシャレに、椅子は座るところが木製で冬も座った時に冷え過ぎないように。小物は我慢したけれど溺愛している4匹の金魚と植物はしっかりと配置させてもらった。置いているものはシンプルながらも機械的なものと自然な物の適度な配置である。ちょっとだけ違和感はあるけれど使っていればきっと慣れるだろう。きっと案外受け入れるのは簡単な事なのかもしれない。金魚の餌は交互にね、とシフェが声をかけるとアレは非常食なんじゃナイのかとミサギが言う。そんな可哀想なことしないから!と言えばあふれる笑顔でやり取りを交わす。一瞬だけ金魚って食べられたっけ?と頭をよぎった事は忘れる事にして。
 相手も自分も譲らない、そうじゃなくて。たとえ意見が食い違っていてもどうやったら最良の結果になるか。まるでバランスゲームのようで。それを考える方が難しいし、楽しいのだと気が付いた冬の日。街には鮮やかなイルミネーションが灯って眩しく、道を行く人々は笑顔に溢れていた。空からは雪がちらついて、それを二人で暫くの間見つめていた。

クリエイターコメントメリークリスマス!です。
プラノベお届けにあがりました。
一部分本気でほのぼのって空気ではないですが、大目に見てやってください。

相反するタイプのお二方で書いていてとても楽しかったです。あとは、その、キャラ崩壊してないといいなーって思ってます。が、頑張ってギャグにならないようにしてたんですがやはりそのもごもご。

とても楽しく書かせていただけました。お二方の新しい素敵な生活に期待しつつ。
今回は有難う御座いました。ご満足いただけたら幸いです。
公開日時2008-12-25(木) 22:10
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