★ 彷徨うはブルマの夢 ★
<オープニング>

 綺羅星学園の高等部の教室から悲鳴があがった。
「なに、これぇ」
「どうしたの?」
 悲鳴をあげた女の子にクラスメイトが声をかける。そうすると、悲鳴をあけだ女の子が震えながら自分の体操着を取り出して見せた。その体操着、上着のほうは普通によいのだが、問題は下だ。
 黒いブルマ。
 指定の夏服から冬服にかわる今の季節。
 外での運動は寒いので、女子も下は長ズボンを履けるようになる。だが、そのズボンなどがなく、黒いブルマの一着のみ。
「私、ちゃんとズボンももってきたはずなのに」
「やだ、私も」
「やだぁー、私のほうも」
「げ、私も」
 女子達の視線が、一斉に男子に向いた。
 何故ならば、クラスの女子の体操着のズボンがすべてなくなっていたからだ。
 しかし、そんな疑いの目を向けられた男子としてたまったものではない。
「まてよ。そんな風に睨むなら、俺らの持ち物でもみて……げ、俺もブルマ」
「俺もだ」
「わいも」
「おいどんも!」
 男子の体操着もすべて下はブルマ。
 騒ぎを聞きつけた他のクラスの者たちも自分たちの持ち物を見たところ、体操着の下だけがブルマ。
 それも男子、女子という差別なく。



「今回は、無差別ブルマ強制事件だ」
「はぁ」
 銀幕市でおこるトラブルを引き受ける対策課にて、銀幕の愛と平和を守ると豪語している刑事であるサムは、つかれきった死んだ魚のような目で植村の前に立っていた。顔だけは真面目に、ブルマの話をするのだ。
「今回の容疑が濃いと思った。これを捕まえて、簀巻きにしてきた」
 サムがそう言って足元に転がっていた簀巻きを持ち上げた。
 簀巻きにされているのは、以前に綺羅星学園の女生徒にただいなる迷惑をかけて対策課のお世話となったコメディホラーの出身の吸血鬼である。見た目だけは無駄に美形な金髪碧眼の彼は、ぶんぶんと首を横に振った。
「ワタシ、チガイマスヨ。ブルマ、なんかシリマセーン」
「なら、こんなバカなことするやつ、誰だ」
 サムが言うと吸血鬼は一瞬考えたように黙ったあと、あっと目を見開いた。
「……タブン、『悪魔』ジャナイノデスカ?」
「あくま?」
 こくこくと頷く吸血鬼。
「ハイ。ワタシと同ジホラーコメディシリーズのキャラの一人デス。『悪魔』ハ、ブルマ大好キです。コノヨの人タチミンナ、ブルマ姿で生活スレバいいとオモッテマス」
「……それは、男もなのか」
「男のブルマでご飯三杯、ヤツナライケマス」
 サムは眩暈がした。いろいろな意味で。
「チナミニ、私ハ女性ノぼいんぼいんのぶりんぶりんでしたらご飯三杯」
「そんなことは聞いてない」
 サムは思わず懐の銃を取り出して、このアホの額にあててしまうところであった。それをぎりぎりなんとか理性で耐えた。
「その悪魔、どうして、こんな大量のブルマを」
「悪魔、ブルマヲ召喚デキマス。アイツ、魔法デブルマをイクラダッテ手元にヨビヨセラレマス。モチロン、生キテイル人ニブルマ姿にスル魔法モツカエマス」
「……それ以外は」
「デキマセーン。私タチノ様ナコメディキャラ。タフ以外ハ、コレクライしかデキマセンヨ。ハハハハ」
「言ってて悲しくない?」
「チョビットデスネ!」
 吸血鬼は笑いながら親指をぐっとたてる。元気な吸血鬼だ。
「アト、コメディナノデ、悪魔ニ通用スル悪魔祓いノ能力一切通用シマセーン」
「悪魔ね。どうやったら捕まるんだ」
「ブルマガアレバ、ヤツナラキマスネ。あ、アト、すばらしいブルマ姿ニオビキヨセラレルカモシレマセン。ア、コレ男デモ、女デモイイソウデスヨ」
 すばらしいブルマ姿とはなんなのか。あと男でも女でもブルマ姿ならば、とりあえずいいというのか。
「……植村さん」
 サムは微笑む。
 植村は、なんとなくサムが次に言い出しそうなことを察していたが、とりあえず、微笑み返しておく。
「対策課のほうで、こちらのトラブルのほうはお願いします」
「はぁ……えっ」
「無差別ブルマ強制事件、どうぞ。解決してください」

種別名シナリオ 管理番号757
クリエイター槙皇旋律(wdpb9025)
クリエイターコメント 今回はホラーコメディ映画の『悪魔』による綺羅星学園の生徒、みんなにブルマを履かせようという企みです。彼の企みを阻止してください。
『悪魔』はコメディ映画で、基本的な悪魔に対するお祓いに関するものは効果ありません。つまり、聖水やら聖書は効かないようです。
 彼は魔法を使えます。ブルマを召喚するというものです。逆に言えば、ブルマしか召喚できません。(攻撃能力ほぼ皆無)ただし、これは生きている人間にブルマを履かせることも出来るという魔法です。(精神攻撃能力無限大の可能性あり)

参加者さまで悪魔と対峙した場合、悪魔の魔法によってブルマ姿になることもあるかもしれませんので、ご注意ください。(下のみブルマで、上のほうは、そのときの服装のままです。着物などの場合は下着の上にブルマというようなぱっと見はわかりませんが、地味にもブルマになります)

 ブルマがあると、おびき寄せられるかもしれません。

参加者
紀野 蓮子(cmnu2731) ムービースター 女 14歳 ファイター
空昏(cshh5598) ムービースター 女 16歳 ファイター
大教授ラーゴ(cspd4441) ムービースター その他 25歳 地球侵略軍幹部
森砂 美月(cpth7710) ムービーファン 女 27歳 カウンセラー
<ノベル>

「無害なほうじゃないか。ふふ」
 カンフー服に緑の髪の毛を三つ網で一つにした空昏は事件のおおかたをきいても飄々とした態度を崩さずに言った。
「空昏さん、そんな考えではいけませんよ。ことによっては大変な被害なんですから」
 上は白の着物、上は赤の袴という巫女姿の紀野蓮子がやんわりと嗜めた。
「レンコくんは、かたいな。たかだかブルマを履くだけじゃないか」
 同じ映画の出身である二人、銀幕市に実体化したあとは同じ映画の出身者たちとは同居している大切で、それでいて奇妙な絆で結ばれた仲間。
 ちょうど二人が道を歩いていると憂鬱そうな綺羅星学園の少女がいたので、つい気になって蓮子が声をかけたのだ。事情を聞くと、それはいけないと蓮子が空昏を引き連れて対策課に来たのだ。そのとき、大教授ラーゴが事件の依頼を引き受けているところであった。
「そのブルマで、とっても困ってるんですよ」
 綺羅星学園のカウンセラーである森砂美月が言う。
グラフィティ柄のワンピースにスパッツ、上にはジャケットを羽織った彼女は被害にあった女生徒たちから事件の話を聞かされた。それはいけないと自分の休みを利用して対策課に報告しに行ったら、すでに事件として処理されていたので彼女は進んで綺羅星学園の部外者である協力者たちの案内役を買って出たのだ。
「ブルマを召喚する悪魔か」
 大教授ラーゴが意味深に呟いた。
「悪魔さんが黒幕なんですよね」
 蓮子は自分の手の中にあるパンフレットにふと目を落とした。
 依頼を受けたとき、この事件の犯人ともいえる悪魔の情報をまずは集めた。
 パンフレットにある悪魔は、肩までかかる長い黒髪を一つに束ねて肩にかけ、白いシャツに黒いズボン。さらには黒いマントを羽織っている。顔は美形といってもいいほどに整えられている。しかし、その片手にはなぜかブルマがしっかりと握られている。
 悪魔の能力については吸血鬼のほうから情報を提供してもらった。ときどき話しがなんだかヘンな方向に脱線したが。
「アイツハ変態デス。ブルマよりもぼいんぼいんノホウガイイトイウノニ」
「ほぉブルマ愛好家か」
「あなたはいいものをお持ちで」
 吸血鬼は真面目くさった顔で大教授ラーゴの胸に見とれていた。そんな吸血鬼も蓮子、空昏、美月の視線に慌てて視線を逸らした。
「多分、アイツは、世界スベテをブルマニシタイノデス。その能力ガアリマスカラ。どこでもカシコデモぶるま召喚デキマス!」
 そういって吸血鬼は言葉を締めた。
 吸血鬼の情報はあんまり役立つとはいいがたいが、それでもないよりはマシだ。
 事件を解決するためとはいえ部外者が学園に入るというので、美月がすぐに許可をとってくれて、建物の中にはすんなりと入ることが出来た。
 綺羅星学園は、清楚な建物だ。この学園は生徒の自由性を重視し、ムービースターでも入学できるようになっている。
 平日であったのに生徒たちは一瞬、部外者たちに驚きはしたが、美月がいるというのに警戒を解いた。
 綺羅星学園の有能なカウンセラーである美月は生徒たち――特に少女たちには人気があった。おっかなびっくり、女生徒たちは美月たちを遠まわしに見つめていた。美月は微笑むと、彼女たちはぎこちなくも笑顔を返した。
「徹底的な聞き込みをして出現ポイントを予測して、誘き出せればよいのだがな」
 大教授ラーゴが顎に手を当てて言う。
「だったら、生徒には私のほうが声をかけてみますね」
 美月が微笑んだ。
 おっかなびっくりな生徒たちに美月が声をかけると、女生徒たちはくすぐったそうに笑って応じた。
 美月がブルマ事件を調べているというと笑みを消して女生徒たちは険しい顔を作った。
「んー、いきなりだったからね」
「確か、二年のクラスが騒いでて、それからみんなのクラスを見たら、かわってたんだよねぇ」
「高等部のは、ほとんどかわってたよ」
 女生徒たちは口々にしゃべっていく。
 無論、その中には噂に尾ひれがついたものもあるだろうから、話半分に聞いていく。そうして女生徒たちが口々に愚痴のようなブルマ騒動の話をしていると、男子生徒も気がついて駆け寄ってきた。
 女生徒たちは美月に憧れを持つように、男生徒たちは憧れと仄かな恋愛感情を抱く者は少なくない。彼らは美月の役に立とうと自分たちの知る情報のすべてを提供してくれ、証拠でもあるブルマも提供してくれた。
 ただし、そうした生徒たちの話を聞いて大教授ラーゴは美しい眉を顰めた。
「これでは、特定できそうにないな」
 話を聞くと無差別としかいいようがないからだ。
「やはり、ブルマでおびき出すか」
 と言う大教授ラーゴの手に男子生徒提供のブルマが握られていた。
 空昏が大教授ラーゴの手にあるブルマを見て眉を顰めた。その横にいる蓮子もきょとんとした顔でブルマを見ている。
「どうするつもりですか、それ」
 困惑する美月。
 そんなメンツに対して大教授ラーゴはブルマを片手に持つと胸を張った。大きな胸が揺らぐ。
「身につけ、それによって悪魔をおびき出すのだ」
 堂々と言われて、その場の者たちは困惑した。
「あ、あの、おびき寄せるのでしたら、生徒さんたちにきていただくとかは」
 蓮子が言うと、その場にいた生徒たちはぶんぶんと首を横に振った。
「犯人つかまえたいけど、はずかしいよ」
「俺、男だし。そんなものの身につけ方、わかんねぇよ」
 情報提供には積極的であった生徒たちも、ブルマになるというのはいやなのか慌てて否定する。
「なんだ。お前たちは、着用方法もわかからないのか?」
 大教授ラーゴは眉を顰めたあと、周りを見回した。
「着替えるところは」
「あ、こっちにありますけど」
 大教授ラーゴに美月が頷き、更衣室に案内した。
 生徒たちが勉強をする教室がある建物から出てグランドの横に位置する体育館。建物の舞台側、校舎側は水呑み場があり、それら二つにドアがある。
 水呑み場からはいったドアの壁際には男子と女子の更衣室がある。
 更衣室の中に大教授ラーゴが入っていくと、ものの五分で出てきた。その大教授ラーゴの下半身は、なんと素足。着用しているのは、黒いブルマ。
「どうだ?」
 大教授ラーゴのブルマ姿。彼女は恥じることもなく、むしろ凛々しい姿だ。
「露出が多いですね」
「す、素足が丸見えだな」
 真面目かつ真剣な大教授ラーゴのブルマ姿に空昏と蓮子ははじめてのブルマ着用姿に驚いているようだ。美月としても、さすがにブルマを着用するのというのは、恥ずかしいらしく頬を赤くして視線を泳がせている。
 大教授ラーゴのブルマ姿、かなりさまになっている。
「うむ。こないな、やはりみながブルマ姿になれば」
「え、ええ、そ、そんなの私には似合いません」
「ぼ、ぼくは、え、遠慮しておくよ」
「私も、ちょっと」
「仕方のないやつらだな。そのようなこともあろうかと用意はしてある」
 ぱちんと大教授が指を鳴らすと、不意にうぃぃんと音をたてて廊下に突然と人間たちの姿に現れた。老人から、幼児、若者まで男女入り乱れて体育館いっぱいにブルマ姿である。
「これは一体?」
「数が多ければひっかかるだろう。老若男女ブルマ祭り立体映像装置を仕掛けて投影してみた。おい、男子ども、ちょっと手伝え」
 大教授の鋭い呼びかけに男子たちが何か託されて、頷くと舞台のほうに消えていく。何かしら罠をはったようだ。
 男子生徒たちが罠のために消えたあと、ブルマを履いていない残りの者たちは、このブルマ祭りでは目立つ。ブルマを履くか、はたまた隠れていろと大教授ラーゴに言われて、彼女たちは隠れるという道を選んだ。女子更衣室に隠れ、ドアからそっと外をうかがう。大教授ラーゴはブルマ姿で仁王立ちしている。その前ではブルマ、ブルマと幼児から年寄りから男も女もわいわいと騒いでいる異常な空間だ。
「ここまで罠だとこないんじゃないのか?」
「うーん、難しいかもしれませんね」
「そこまで相手が知的かってことですね」
 一応、この場では浮くので隠れている三人がひそひそとしゃべる。
 そんな中で黒いマントを身につけた美形がふらふらとやってきた。
「ブルマ、ブルマ、ブルマ、なんて素敵なブルマ祭り」
「かかったようだな」
 にやりと大教授ラーゴは腰に手をあてて仁王立ちで笑う。
「さらにブルマを召喚デス。ブルマを空から降らせるのデス! ぶるまさぁん」
 ぶるまさぁんとは、悪魔がブルマを召喚する呪文である。
 悪魔は嬉しそうに笑い片手をあげると、ぽんと音をたてて宙に黒ブルマが現れた。そのとき大教授ラーゴが指を鳴らす。
 ぽんとブルマが消えた。
「ブルマが! なぜデス!」
 悪魔が叫び声をあげると、再び片手をあげる。
 ぽんと音をたててブルマが現れたはずなのに、とたんに丸い金タライにかわり、悪魔の脳天を打った。
「げぶっ!」
 金タライが地味にきいたらしく、頭をおさえて悪魔はその場にしゃがみこむ。
 これは大教授ラーゴの片手に握られた小さな黒いリモコン。――物体転送装置による地味ないやがらせだ。
 ぱっとブルマ祭りの映像が消えた。
「おい、いまだ。お前たち」
 その言葉に隠れていた三人が部屋から出てくる。そのときには、悪魔は頭を抑えたまま顔をあげ、目の前から消えたブルマ天国に悲痛な顔をし、残った者たちを睨みつけた。
「罠だったんですねっ」
「気がつかないほうが可笑しいというものだ」
 大教授ラーゴの言葉に悪魔は悲惨たる顔になった。
「なんて鬼なんデス! 私好みのトラップを使い、私に反撃を許さないとは……鬼な」
「ふん。貴様のような馬鹿にいわれたくない」
「う、うう、そんなことないデス。みんな、はじめはわからない、履いていればきっとわかるブルマのよさ!」
 きっと悪魔は大教授ラーゴの傍らにいる三人のうら若き生贄を見た。
「ブルマさまああん」
 悪魔が声をあげると、ぽんと音をたてて何かが変化した。
 蓮子、空昏、美月がブルマ姿になったのである。
 ただし、美月はワンピース姿なので見た目に、それとはわからない。しかし、他の二人はばっちり生足の見えた黒いブルマの姿である。
「ふ、見たか。ブルマの魔法」
 悪魔ががしっと拳を握り締める。
 何が起こったのかわからない彼女たち。
「きゃあああ」
 蓮子が真っ赤になって悲鳴をあげた。それに空昏が我にふりかかった物事を理解し、自分の生足を見た。
「嫌なものだねこれは!?」
 空昏が声を荒らげる。
「なんでこんな足を出さなくちゃいけないんだ、いや可愛い格好は嫌いじゃないがこれは違うだろうというかそうだこう寒くなってきた時期に足を出さなきゃいけない理由はないんじゃあないのかね!」
 早口にそこまで混乱した頭で空昏は叫びあげる。
 悪魔は、ふふっと不適に笑った。
「よく似合っているじゃないか。ん、一人、ブルマが見えないが」
 悪魔が美月を見て残念そうに呟く。
「なんてことするんですかぁあああ」
 蓮子のパンチ。
 慌てて悪魔が飛びのくとき、空昏が扇を放つ。
「僕の生足なんて兄さまでさえほとんど見られたことないんだぞ!」
 空昏は目に涙を浮かべて扇を構えるのに蓮子が隙を守るように攻撃を繰り出す。
 蓮子と空昏は同じ映画の出身で、元は敵同士。彼女たちは体で相手の攻撃のタイミングを覚えている。見事なコンビネーションだ。それも空昏のロケーションエリアが発動すると板張りの道場となる。これは、その場にいる者の能力補正する効果がある。それによって攻撃力があがった乙女二人の攻撃はすさまじい。かわりに持久力をおとされた悪魔は息をあげつつ逃げる。
「はぁあああ!」
 空昏が扇を投げたのに悪魔がふりかえり、両手でぱんっと受け止めようとした。白羽取りの要領でかっこよく扇を受け止めようとしたが、思いっきり額につきささった。
「っ……なんてこするだぁ」
 血をだらだらと流しながら、悪魔は叫んだ。
 悪魔とて負けていられない、ギャグ映画で鍛えた身のこなしで彼女たちの攻撃をなんとか避けるとロケーションエリアの時間が過ぎ、普通の体育館に戻っていく。
「耐え切ったぜ!」
「おのれ! ちょろちょろと! 僕の恥ずかしさを思い知るがいい」
「そうですよ、こ、こんな、こんなぁ」
「ふん、ブルマのよさに身悶えるが……はっ、殺気」
 げしぃと悪魔の背中が思いっきり蹴られた。悪魔がふりかえると、美月が立っていた。微笑みを浮かべて。それは空昏のロケーションエリア効果だけではない。なぜならば、もう効果はなくなっているはず。
「私、女の子の敵には容赦ないんですよ」
 美月の中のスイッチがはいったらしい――それは、運動が得意ではない美月が例外的に身体能力を発揮する隠れたスイッチ。
 絶対零度の微笑みを浮かべているのに悪魔の背中がぞくりと震えた。何かやばいものに触れてしまった。この世には、決して足を踏み入れてはいけない領域があり、その領域に悪魔は思いっきり片足をつっこんでしまったのだ。
「……ブルマが、いま、ちらっと見えた。ちらぶるまも美しい」
 ぷっち。
 音としたら、そんな音だろう。
 美月の何か大切な緒が切れてしまった。
「片腕くらいなくしてもいいかしら」
「え、あっ」
 笑顔の美月に悪魔が喘いだ。
「それとも、フィーラに食べて貰おうかしら」
 美月は肩にのっているパステルカラーのバッキーを両手に抱えて悪魔の前に突き出す。フィーラが口を開けるの慌てて悪魔が首を横に振った。
 いつもは可愛い先生が、今日は怖い。それをみている女生徒たちはあまりのかっこよさに目をきらきら輝かせた。
「な、なっ」
「まぁ、おしおきが必要ですよねぇ。変態には」
「へっ、や、やだーい」
 怖すぎる美月に悪魔が慌てて逃げ出そうとしたとき、がくんっと悪魔の膝が落ちた。今更、空昏のロケーションエリアの効果が出てきたらしい。息が荒れ、疲れがピークに達する。悪魔がふらつくのに、上からブルマの網がかかった。
「お、おおお、ブルマ。素敵というよりも、これはパラダイス」
 大教授ラーゴが男子生徒を使って用意させた網である。しかし、なぜ、ブルマなのか。
 ブルマの網にかかって嬉しそうな悪魔。しかし、ブルマにされて混乱している乙女二人の鉄槌が悪魔の脳天に落ちた。血盛気んたる乙女たちの蹴り、殴りに悪魔が悲鳴をあげるが、無論、助ける者は誰も居ない。
 大教授ラーゴはブルマ姿のまま立って哀れなる悪魔を見下ろした。
「愚かな」

 乙女たちの天罰を下され、悪魔は伸びた状態で転がっていた。両手両足を縛られている。大教授ラーゴが作り出したブルマの網を改良して作られたブルマの縄である。
「道行く人をブルマにするなんてつまらないに決まってるじゃないか! 寒い、それに下半身のおしゃれを奪ってどうするつもりなんだと僕はいいたい!」
 未だにブルマ姿である恥ずかしさのあまりに空昏の言動は、かなり混乱している。
「そうですよ。そうですよ。こ、こんな……いいですか。とりあえず、正座ですよ。正座をしてください」
「座れないデスよ。こんな状態……けぼぇ」
「座りなさい」
 美月が悪魔の足を踏みつけていた。そして絶対零度の笑顔で命令した。
「はい。わかりました」
 悪魔は飛び上がり、その場に正座した。
「おしゃれを奪うなんてありえませんよ。これでは、せっかくのロリータの意味もありません」
「そうですよ。こんなおしゃれを奪うようなことしてはいけません」
「だって、ブルマはいいんですよ。ねぇそこの凛々しい方」
 悪魔が大教授ラーゴを見つめる。
 彼女だけが、この場でブルマを悪くいわないからだ。
 大教授ラーゴはふっと笑った。
「この世をブルマで満たすという夢は良い。然し、ブルマは溌剌とした歓喜を喜びこそすれ、拒絶の悲鳴を浴びせられるなど望みはすまい。それは愛ではなく、侮辱だ。全身全霊誠心誠意をこめてブルマに非礼を詫びろ!」
 びしっと大教授が悪魔を指差すと、まるで否妻に打たれたように悪魔は絶句し、俯いた。
「そんな……私は間違っていたのか」
 絶望の呟きをしつつ、ふと悪魔は顔をあげた。
「けど、怒れるブルマに囲まれているのもいいデスね」
「……このブル魔をどうしたものかね」
 ブルマ好きの悪魔なのでブル魔と空昏は命名した。
「説得して改心させます。三時間くらいブルマ撲滅とか耳に囁きかければきっと」
 あるいみ拷問のようなことを口にする蓮子が拳を握り締めている。悪魔はじたばたと足を動かし始めている。そんな悪魔を美月が蹴った。
「……仕方ないわ。最終手段に出ましょう」
「最終手段?」
「あるところに連行しましょう」
「へっ」
 にっこりと美月は笑って、悪魔の首根っこを掴んだ。
「どういうことになっても、名誉のために伏せておきますから」
「へ、え、ああああああ」
 美月によっていずこへと連れ去られる悪魔の可愛そうな声だけが響いた。

クリエイターコメント この度は参加、ありがとうございます。
 みなさんの凛々しいブルマ姿がみれまして、大変祝福でした。
 本当にありがとうございました 
公開日時2008-10-14(火) 18:10
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