★ 一緒にいるという、こと ★
クリエイター有秋在亜(wrdz9670)
管理番号621-6595 オファー日2009-02-08(日) 17:06
オファーPC ウルクシュラーネ・サンヤ(ctrt1084) ムービースター 男 19歳 影を駆使する領主
ゲストPC1 植村 直紀(cmba8550) エキストラ 男 27歳 市役所職員
<ノベル>

 銀幕市、市役所前。ひとりの青年が、その建物を見上げていた。
「ここが、『市役所』ですか……」
 年若い青年の名は、ウルクシュラーネ・サンヤ。短くまとめられた灰色の髪は陽光を跳ね返して綺麗に輝いていた。色の白い肌が黒の神官服との対照でいっそう白く見える。彼は丁寧に服の裾を小さく払い、襟元を整え、最後に右目にかけたモノクルを少し直すとその建物に向かって一歩を踏み出した。
 陽のあたる午後。すらりと伸びた彼の影が僅かに蠢いた……ようにも見えた。

 *

「こんにちは、今日はどうなさいましたか?」
 さわやかな笑顔が、ウルクを出迎えた。ムービースターさんの住民登録なら、対策課。あっちだよと案内されてやってきたのだが、カウンタの中で対応しているのは意外と若い青年だった。そして眼鏡をかけたその男が、彼に気付くとにっこりと微笑んだ、というわけだ。
「あの……こちらに来るように言われたのですが」
 実体化したばかりなんですね、と彼は頷いた。
「私は植村直紀といいます。ここ、映画実体化問題対策課の職員です、よろしくお願いしますね。ええと、実体化についてはご存知ですか?」
「いえ……ここが全く違う世界らしいというのはわかってきたのですが……」
「ではそこから説明いたしますね。この街は、銀幕市といいまして――」
 植村がいくつか書類を取り出しながら説明を始めた。銀幕市の魔法のことや、現状。ムービースターの立場などを一通り説明した後、一枚の紙を取り出した。
「で、住民登録をお願いしているんです。こちらに記入していただいているのですが」
「はい」
 ここに名前をと言われてペンを手に取る。名前……ウルクシュラーネ・セレスタ・サニーニャレウストとフル表記すべきだろうかとしばし悩んでいると、植村が名前の表記方法に困っていると思ったのか、声を掛けてきた。
「こちらで登録する名前ですから、都合上はっきりしたお名前が無い場合なんかは通り名などで登録をお願いしているのですが……」
「通り名、ですか」
 普段名乗っているウルクでもいいのだろうか。常々名前も呼びやすいように短ければよかったと思っていたところだ……しかし、気が付いたらいつもの癖で『ウルクシュラーネ・サンヤ』とサインしていた。
「はい。では、名前を書いていただいたら、こちら、に……」
 植村の言葉が突然途切れた。ぽかんとしてこちら……いや、少し後ろを見つめてきているのに気付いて振り向こうとしたその時。
「ウルク様ーぁ」
「はい?!」
 のしっ、と肩から頭に加わる重み。見上げれば少女が笑顔をこちらに向けている。しかしただの少女でないのは一目瞭然で、彼女の頭には二本の角が生えていた。
「め……メラトですか?! 出てこないように言ったは……」
 はずですよねと言い終わらないうちに、突然彼の影からひょこんとまた別の姿が現れた。一角獣のようなすっと伸びた角を額に持つ少女が、ウルクにくっついたままあたりをきょろきょろ見回している。それと同じくして真っ黒な鴉の翼を持つ青年が現れた。
「レリィ……にシャーリィエ、だから――」
「ウルク様、メラトだけお許しになるのはずるいってもんでござんすよ」
 背に翼を畳み、鴉の足を持ったシャーリィエが口を尖らせる。
「私は、そもそもメラトに、許した……覚えは……あのメラト、そろそろ降りてくだ――」
「そうよメラト」
 横から口添えしてくれた女性に礼を言おうとすれば、それは見慣れた顔で。
「テルテ……何もあなたまで」
 名を呼ばれて、鰭のような耳を少し揺らすと、鱗をもつ女性がふふっと微笑んだ。彼女は呆然とこちらを見ている植村に気付いてにっこりと微笑んだ。ウルクがとにかく場の収集をつけようと口を開きかけたその時。
「除者にする気か?」
 豪快な笑い声と共に、頭に一本の角を持つ姿が現れ、なすすべもないままウルクはその影……アイトニーに押しつぶされた。
「うわ――!?」
 皆が寄ってたかって楽しげにウルクに寄る。押しつぶされて床に伏したウルクを、植村が心配そうにカウンタから身を乗り出して窺った。
「あ、あの……大丈夫、ですか?」
「大丈夫だ」
 また耳慣れない声がして横を向いた植村の目に映ったのは、狼の頭を持つ、獣頭人身の男性だった。その姿自体は、ムービースターの多いこの町ではそう驚くものではない。しかし……植村は口を開いていた。
「あの……皆さんどこから現われてらっしゃるんですか?」
 その問いに狼頭の男性は、「影だ」と短く答えるとウルクから一人一人剥がし始めた。やはりいつの間に現われたのか、影のように真っ黒な女性が立ってそれを手伝い始める。彼女は植村と目が合ったことに気づいて僅かに首をかしげて見せた。表情があまりうまく読み取れないが、優雅なその仕草は、どうやら微笑んだようだ。
「大丈夫、ですか?」
「ええ、驚かせてしまって、すみません……」
 狼頭の男……ミカルメドゥと影のようなヴィラメリアに助け起こされて、ようやっとウルクは再び立ち上がった。眼鏡をかけなおした植村に騒がしくしてすみませんと苦笑いを向けると、彼は次々と現れて、しかもウルクにくっついている面々を最初は目を丸くしてみていたものの、やがて面白そうに微笑んだ。
「ええと、皆さんにも住民登録のご説明を?」
「――お願いします」
 彼らは、ウルクの影に潜んでいる『忍び』だ。異形であるがゆえに多くの人から疎まれることが多いが、とあるきっかけからウルクは彼らと親しくしていた。忍びたちの方もウルクを慕い、こうして普段は彼の影に潜んで彼と行動を共にしている。銀幕市に初めて来たとき、何があるかわからないから、出てくるのではないと言い含めたはずだったのですけどとウルクは思いながら、植村が皆にまた説明するのを聞いていた。
「それでは、こちらに……」
 しかし、言いつつ新たな紙を取り出そうとした植村をよそに、メラトがカウンタに身を乗り出すと、先ほどウルクが使っていたペンを手にして書きかけの紙を引き寄せた。
「ウルク様の傍にいるー」
 喜々として名前のそばに自分の名前を記す。と、それを見ていた周りが我も我もとペンを回して書き込み始めた。
「あっ、あのですね――」
 奪い取ろうと手を伸ばすウルクの指をひょいっと避けて最後にヴィラメリアが紙を受け取り、さらさらとそこにサインした。
「ヴィラ……そこは止めてくれるものと」
「ええと、七人ですから七枚……あれ」
 やっと枚数をそろえた植村の前に、はい、と突き出された紙にはごっちゃとウルクを含めた八人分の名前が詰め込まれていた。目を上げれば満面の笑みを浮かべている子鬼の少女を始めとする、ウルクの忍びたち。
「すみません……止められなくて」
「いえ、大丈夫ですよ。それなら、新しいものに、皆さんで書き込まれてはどうでしょう」
 持ってきた紙のうちの一枚を抜き出して、植村が手渡す。
「わぁい、ありがとうございます」
「これでウルク様と一緒ー」
 はしゃぐメラトやシャーリィエの横で、ペンを握って嬉しそうにレリィが微笑んだ。

 *

 結果、書き上がった書類を見てウルクは小さくため息をついた。自分の名前やら何やらの後に、ずらずらずらっと忍びたちの名前が書き連ねられている。この書き方は間違ってるんじゃないんでしょうかとうっすら思う反面、皆の名前が同じ紙に集まっていることが、自然と彼の頬を少し緩めた。きっとここでも、うまくやっていけそうな気がする。
「どうですか、書きあがりました?」
 ペンを置いたウルクを見て植村が訪ねてきた。それに頷きつつ紙を差し出すと、彼は書き洩らしが無いかチェックをした後で、一つ頷いた。
「これで登録は大丈夫です」
「ありがとうございます」
 ほっと一息ついて胸をなでおろすウルクに、植村は微笑んだ。

「――ようこそ銀幕市へ」

 こうしてウルクシュラーネと忍びたちの銀幕市での生活は、ちょっとした騒動の内に始まったのである。
 ……ちなみに後日、ウルクは皆を連れてきちんと先日騒ぎのお詫びにいったとか。



クリエイターコメントこのたびは、オファーありがとうございました。
素敵な領主さんの、銀幕市デビュー。

お楽しみいただければ、幸いです。
公開日時2009-03-04(水) 19:10
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