★ No Reason. ★
クリエイター鴇家楽士(wyvc2268)
管理番号103-2768 オファー日2008-04-24(木) 03:51
オファーPC シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
ゲストPC1 ルウ(cana7787) ムービースター 男 7歳 貧しい村の子供
<ノベル>

 もう初夏だというのに、肌寒い日だった。空には鈍色の薄い雲がかかり、日の光を隠している。あちらこちらから「寒い」という言葉が聞こえるが、寒さに強いルウにとってはどうということはない。小柄な体で、人をかき分けるようにしながら歩いていると、唐突に声がかかった。
「ねぇキミ、シャノンさんの友達だよね?」
 ルウはびくり、と体を震わせると、怖いという気持ちを抑え、声のした方を向いた。そこには、長い黒髪の女性が穏かな笑みを浮かべ、立っている。男物に見える服装と黒いバンダナが、その容貌にあまり似合っていなかった。
「……おばちゃん、だれ? ぱぱのこと、しってるの?」
 ルウの言葉に、女性は苦笑いを浮かべる。
「『おばちゃん』はヒドイなぁ。一応まだ『おねえちゃん』な歳のつもりなんだけど」
「ごめんなさい……おねーちゃん」
「まあいっか。あたしのことはキリって呼んで。ヨロシクね」
「キリ? よろしく」
 ルウは、キリと名乗った女性が差し出した手を、まだ警戒しながらもそっと握る。
「それでね、シャノンさん、待ち合わせの場所に来られなくなったから、あたしが代わりに迎えに来たの。行こう」
 そういうと、キリはルウの手を引き、さっさと歩き始めてしまう。
 仕方なく、ルウも歩き出す。
 でも――と、ルウは思った。念のため、シャノンに連絡してみた方が良いのではないだろうか。そうして、立ち止まり、ポケットから携帯電話を取り出した時、意識が暗転した。



 シャノンは約束の場所で、ひとり待っていた。しかし、ルウはなかなか来ない。何かあったのだろうか――そんな不安がよぎった時、携帯の着信音が鳴る。ディスプレイには、ルウの名前が表示されていた。
『お前の連れは預かった』
 シャノンが言葉を発するよりも早く、まだ若い男の声が、そう告げる。男の声に聞き覚えはなかった。しかし、自慢になどならないが、恨まれる当てなど幾らでもある。
『丸腰で、誰にも知らせずに来い』
 そして、場所を伝えると、一方的に通話は切れた。
 それと同時に、シャノンは歩き出す。



 ルウは、体の震えを止められずにいた。怖くてたまらない。ここはどこなのだろう。周囲を見回しても、冷たいコンクリートの壁しか見えなかった。自分でも訳が分からないままに、嗚咽が漏れる。
 すると、鈍い衝撃が左頬を襲う。体がよろけた。何が起こったのか理解できないまま目を見開くと、銃を持ったキリの視線がこちらを見下ろしていた。何か怖い道具で殴られたらしい、と分かると、また涙がぶわっとこみ上げてきて、目から零れ落ちる。口の中に、嫌な味が広がった。何度も味わったことのある味。つらい味。
「静かにしてくれる? あたし、うるさいガキは嫌いなの」
 キリの目は、とても冷ややかだった。まただ、と思ったら、自然に言葉が口をついていた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……るうはわるいこ……ごめんなさい! ごめんなさい!」
 そして、体をぎゅっと丸め、両手で口を精一杯塞ぐと、またこみ上げてくる声を抑え込む。
 怖い、怖い、怖い。
 恐怖に押しつぶされそうになりながら、ルウは心の中で、『ぱぱ』、と呼び続けた。



 薄暗い林の中に、その建物はあった。
 元は工場か何かだったのだろうか。飾り気のないコンクリートの壁で出来ている。周囲には、誰もいない。
 十分に注意しながら建物の中に入ると、がらんとした空間の中に、機械や金属、ダンボールなどが打ち捨てられていた。人のいる気配はない。そのまま少し進むと、明かりが見えた。どうやら地下室のようだ。
 シャノンは迷わず、階段を下りた。

 部屋に入ると、中にいた者たちが一斉にこちらを向く。
 男が五人、女が一人。そして――ルウ。
「ぱぱ! ぱぱぁ!」
 こちらを見て目を輝かせるルウの顔は赤く腫れ、口の端からは血が流れていた。それを目にした途端、怒りが、火柱のように体を突き抜けた。
「貴様ぁっ!」
 シャノンの怒号に応えたのは、耳をつんざく銃声だった。シャノンの髪がひとひら落ちる。
「立場をわきまえなさい。抵抗するなら、このガキを殺す」
 そう言って女は、銃口をルウのこめかみに突き立てた。ルウは、歯をがちがちと鳴らし、声も出せずに震える。
 女の顔には見覚えがあった。確か、キリという名だ。以前、とある組織にかかわった時に出会った。
「意外だな。組織に義理立てするような輩とも思えないが」
 シャノンの言葉に、キリは冷ややかな笑みを浮かべると言う。
「あたしは組織になんてなんの感慨もない。ただ、あたしの大切な『人形』を壊したあんたが許せないだけ」
 その組織では、『人形』と呼ばれる人型の武器が製造されていた。その形態と、周辺で数多くの人々が姿を消していたことから見て、何から作られるのかは想像がつく。シャノンはそれと戦い、打ち倒したことがあった。
「そんで、俺らは組織を潰されたのが気に食わねぇってワケだ」
 そこに、黒のニット帽を目深にかぶり、迷彩柄のシャツを着た男が、ニヤニヤと笑いながら口を挟む。声からして、電話をかけてきた男だ。
「だからさぁ、死んでくれねぇ?」
 男はそう言うと、シャノンの鳩尾に蹴りを入れた。シャノンは後ろによろけ、尻餅をつく。普段ならばどうということはないが、今抵抗すれば、ルウの命が危ない。何とか隙をうかがうしかない。
「どこ見てんだよ!」
 ルウの方に視線を向けていたシャノンの頬を、別の男の拳が捉える。そのまま、シャノンは固い床に倒れこんだ。血の味が口の中に広がる。それを合図としたかのように、周囲の男たちが一斉にシャノンへと暴行を加え始めた。
「やめて! なぐっちゃだめ!」
 見かねて叫んだルウを、キリは靴のかかとで蹴り倒す。ルウは、力なく床に突っ伏した。
「うるさいガキは嫌いって言ったでしょ? ほら、あんたがうるさくするせいで、あんたのパパはもっとヒドイことをされる」
 意地悪な笑みを浮かべながら言ったキリの言葉で、男たちの暴行は、さらに激しさを増す。シャノンは痛みに耐えながらルウの方を見る。ルウは泣きたいのを一生懸命堪えているようだった。シャノンは安心させようと、笑顔を浮かべる。ルウは戸惑いながらも小さく頷いた。

「もっと苦痛を味わわせたかったけど、そろそろ終わらせようかな。……この銃ね、銀弾が入ってるの。きちんと急所に当ててあげるからね」
 延々と続くかと思われた暴行の後、キリはそう言うと、ゆっくりとシャノンに近づく。流石に銀弾で急所を打たれれば、シャノンも危ない。けれども、この機を逃す手はなかった。
 キリが銃を構えたその時。
 シャノンは両腕の力で体を浮かせると、片足を軸にし、もう片方の足でキリの持つ銃を蹴り上げた。その早業に、誰もが一瞬動けない。
「しまっ――!?」
 キリが声を漏らした時には、彼女の体はシャノンの蹴りにより、壁際まで吹き飛んでいた。硬い壁に激しく体を打ち付けられ、キリは苦悶の声を上げる。その隙を逃がさず、シャノンは素早くルウの元へと駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「ぱぱっ……!」
 涙を目にいっぱいに浮かべ、抱きついてくるルウを優しく抱き返しながら、シャノンはそのまま部屋の隅へと移動した。そしてルウをそこに座らせ、彼をかばうようにして犯人たちに向かい合う。
「ルウ、俺がいいというまで、目と耳を塞いで我慢してろ。すぐ終わらせる」
 シャノンに笑顔で言われ、ルウは頷くと、両手で耳を塞ぎ、体を丸めて目を閉じる。
「『すぐ終わらせる』だと!? ――っざっけんな!」
 ニット帽の男が手を振り上げると、男たちは一斉に銃を構える。
 だが、銃声とともに悲鳴を上げたのは、男たちのほうだった。シャノンは先ほど、キリの銃を拾っておいたのだ。
 シャノンはそのまま、うろたえている男たちの中に突っ込む。もともとこの程度の輩なら苦労もしないが、虚をつかれた形の男たちをあしらうのは簡単だった。突き上げた肘はあごを砕き、繰り出した足は体を弾く。
 そこで、シャノンは見た。
 虚ろな瞳のひとりの男――『人形』。
 嫌な、予感がした。
 考えるよりも早く、シャノンの足はルウの元へ向かう。そして、うずくまっているルウを抱えると、地下室から飛び出した。
「そいつらを喰らえ!」
 その瞬間、キリの叫びと、男たちの断末魔の叫びが重なる。

 シャノンは出来るだけ建物から離れると、大きな木の陰にルウを座らせた。
「ルウ、ここから動くな」
 そう言ったシャノンを見て、またルウは泣きそうになるが、我慢し、ゆっくりと頷いた。シャノンは片手でルウの頭を撫でると、その場を急いで離れる。
 それと同時に、轟音が林に響いた。
 工場の方から、土煙が上がっている。やがてそこから、キリと、ぬらぬらと赤黒く光る『人形』が姿を現した。あれは恐らく、仲間だった男たちの血だろう。
「大した期待はしてなかったけど、あそこまで使えないなんて残念。……まあ、文字通り『人形』の血肉にはなったからいいけど」
 そう言ってキリは、微笑を浮かべる。
「最初から殺すつもりだったんだろう」
 シャノンの言葉に、キリはくすくすと笑った。
「だって、一般人を使うと色々面倒じゃない。足がつく可能性もあるし。でも、ああいったヤツらなら、別に一人や二人いなくなっても分かんないでしょ? 『組織の復讐だ』って言ったら、あっさりついて来たわ」
 爆音。
 シャノンが、『人形』に向けて銃を放った音だ。
 銃弾は『人形』の眉間に吸い込まれ――
 それだけだった。
 シャノンは地を蹴り、跳躍する。そのすぐ下を、赤黒い影が通り過ぎる。
 速い。普通の人間であれば、避けられなかっただろう。
 『人形』はくるりと向きを変えると、無表情のまま、再び襲い掛かってきた。シャノンは木を蹴ると、間合いを取って地面へと降り立つ。
 以前戦った『人形』には、『核』となるものが存在していた。それを破壊しない限り、『人形』には何のダメージもない。その時は眉間に埋め込まれていたので、念のために狙ったのだが、流石にそんなに簡単には行かないようだ。
 シャノンが考えている間にも『人形』はこちらへと向かってくる。シャノンは体を捻りながら足払いをかけた。『人形』は地面に突っ伏したが、もちろんそんなものは時間稼ぎにしかならない。
 このまま戦いが長引くのはまずい。こちらは体力が殺がれる一方で、決定打もない。
 その時、シャノンの脳裏にある考えが浮かんだ。
 ――試してみる価値はある。
 『人形』はさらに攻撃を仕掛けてくる。繰り出して来る拳も足も速い。シャノンはそれを避け、あるいは受け流しながら、『キリとの』距離を縮めていった。それに気づいたキリは身をよじり、『人形』も慌てて手を伸ばす。キリが『マスター』であることを考えれば、守ろうとするのは当然のことに思える。
 だが、シャノンがつかんだキリの、見た目よりはずっと重厚なバンダナが外れ、眉間に現れたのは、赤く脈打つ物体。
 ――『核』だ。
 そして、銃声が林の中にこだました。

「ど……うして、分かったの……?」
 キリは、肩で荒い息をし、遠くを見ながら尋ねた。
「貴様が無傷だったからだ」
 キリは、シャノンの蹴りにより、壁に叩きつけられた。骨の一本や二本折れていてもおかしくはないし、もし何ともなかったとしても、すぐに余裕で話せるほどには回復しないだろう。
「そう……あたしって、いつも……詰めが甘いのよね……」
 額に張り付いている『核』の残骸の蠢きは、弱くなっている。『人形』も、もう動かない。
「残念……完敗だわ」
 そう言って目を閉じると、キリは呼吸をするのをやめた。



「ぱぱ、どこにいくの?」
「遊園地だ」
 日はもう、傾きかけている。
 二人は街をゆっくりと歩いていた。その穏やかさにホッとする。まるで、先ほどまでの状況が嘘かのようだった。
 繋いでいるルウの手が、微かに震えているのを感じ取り、シャノンは努めて優しく握った。すると、ルウもぎゅっと握り返してくる。
「でも、ゆうえんち、こわいひといない? またなぐられない? だいじょうぶ?」
「ああ、俺がいるから大丈夫だ。怖いことは忘れよう」
 そう言って、シャノンはルウをそっと抱きかかえる。突然のことに、少し戸惑ったルウだったが、やがて、首に抱きついてきた。
「……すまなかった。俺のせいで、怖い思いをさせて」
 大切だから、傷つけたくはない。ずっと辛い思いをしてきたからこそ、それを楽しい思いで塗りなおしてやりたい。けれども、自分のせいで、また辛い思いをさせてしまった。
「ぱぱのせいじゃないよ。ぼくがわるいこだから……」
「ルウは悪い子なんかじゃない」
 抱きしめる手に、力がこもる。
「だったら」
 ルウは、シャノンから体を離すと、じっとシャノンの目を見た。
「……ぱぱもわるくないよ。ぼくがわるくないなら、ぱぱもわるくない!」
「そうか」
 何とも子供っぽい理屈だとも思ったが、ルウの優しさが胸にしみた。思わず、また抱きしめる。
「もう夕方だから、これから遊園地でパレードがあるみたいだぞ」
「ぱれーど? それすごい?」
「ああ。キラキラするんだ」
「きらきら? たのしみ!」
 はしゃぐルウを見て、自然に笑みがこぼれた。
 自分には、大切な人たちがいる。
 だから守りたい――ただ、そう思う。

クリエイターコメントこんにちは。鴇家楽士です。
お待たせ致しました。プライベートノベルをお届けします。この度は、遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

ヴィランズに関しては、どんな感じにするか迷ったのですが、思うままに描かせていただきました。それも含め、少しでもノベルを楽しんでいただければ幸いです。

それでは、オファーをありがとうございました!
またご縁がありましたら、宜しくお願い致します。
公開日時2008-05-12(月) 20:50
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