★ 【ピラミッドアタック】マサクゥルダンス ★
<オープニング>

 銀幕市の片隅に出現した巨大なピラミッド。
 それは、銀幕市民たちの好奇心と冒険心に応え、スリルに充ちた冒険の場を与えてくれた。ピラミッドの探検に参加したものたちの中には、いくばくかの財宝を手にしたものもいたという。
 だが……
 探検隊の冒険譚は、この騒動の序章でしかなかったのである。

  愚かにも禁忌を冒せしものどもよ
  王の怒りが命ずるまま、死の翼にふれるべし――

 どくん、と、ピラミッドがふるえたかのような、錯覚があった。
 そして、人々は、ピラミッドより解き放たれたさまざまな脅威が、街を脅かしていることを知ったのである。

 ★ ★ ★

 はぁはぁと荒い息遣いが、駆け足の立てる音と入り混じり、カビと砂のにおいに満ちた通路に響き渡っている。フワッと黒い風が過ぎれば、熱い血のにおいもそこに混じった。
 銀幕市に突然現れたピラミッド。探検隊も結成され、くまなく探索の手も入った。すべての探検隊が引き払ったあとのピラミッドに、女がたったひとりで入っていったことを、ピラミッドの監視係が目撃している。
 女は数時間後、弾丸のような勢いでピラミッドから逃げ出してきた。どういうつもりで単身ピラミッドに入っていったのだろうか。女は黒づくめで、いかにもアクション映画に出てきそうな風貌だった。身体のラインがくっきり生えるレザースーツ姿で、腰の両側にはデザートイーグルが収まったホルスター。そのうえ、細身の長剣を持っていた。
 おそらく、ムービースターだろう――孤高の女戦士といった役どころにちがいない。
「ヴォアアアアァア!!」
「グハァアアアァア!!」
「チッ……!」
 女戦士は血を飛ばしながらピラミッドを脱していた。しかし、追っ手がいる。ボロボロの包帯と武装で身を固めたミイラ兵士だ。傷ついた身体をひるがえして、女は追いすがってきた2体のミイラに立ち向かった。
「この世の邪悪め! そんなに私の命が欲しいか!」
 白い肌に黒い肌、赤い瞳と唇。女戦士は顔立ちも体型も、まるでモデルのように美しかった。コアなアクション好きなら気づいたかもしれない。彼女は、『ブラックスター』という近未来ハードアクション映画の主人公、ミランダだった。獣人や吸血鬼を相手取る孤高のダークハンターという設定だ。ひとりでピラミッドのミイラどもを成敗しようとしていたのかもしれない。
 映画でもわりとよくケガをしていたので、現実でも無傷ではすまなかったようだ。手負いながら、ミランダはなんとか2体の追っ手を倒した。
「……またか。次から次へと……」
 肩で息をしながら、ミランダは赤い瞳でピラミッドを睨む。今度は4体だ。いや、6体、10体……もっといるかもしれない。ミイラの追っ手は、ヨランダを目指して、渇いた叫び声を上げながら走ってくる。
「いいだろう。皆殺しにしてやる! 最後の1匹まで、殺しつくしてやる!」
 確かに。
 確かに、皆殺しにできれば、ミランダももう追われない。彼女はピラミッドの中で、執拗に狙われるほどの何かをしでかしたようだ。彼女は町を背にして、銃と剣を構えるのだった。

種別名シナリオ 管理番号119
クリエイター龍司郎(wbxt2243)
クリエイターコメントお久し振りでございます。龍司郎です。
今回のイベントにもこうして参加させていただきます。
このシナリオでは、単独でピラミッドに潜りこみ、何かしでかした結果、ミイラ兵士にしつこく命をつけ狙われることになった女戦士と共闘していただきたいと思ってます。
ミランダにはミイラに命を狙われ続けるという呪いがかかってしまっていると言っても過言ではありません。すでにHPも底をつきかけているので、助けてやってください。
次から次へとわいてくるミイラをバッタバッタなぎ倒したい暴れん坊さんにオススメのバトルシナリオです。若干、一筋縄ではいかない部分もありますが、バトルをお望みの方はどうぞヨロシクお願いします。

参加者
ティモネ(chzv2725) ムービーファン 女 20歳 薬局の店長
シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
八之 銀二(cwuh7563) ムービースター 男 37歳 元・ヤクザ(極道)
梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
ランドルフ・トラウト(cnyy5505) ムービースター 男 33歳 食人鬼
<ノベル>

 呪いによって各地で災難が起きている中、矢之銀二(ヤノ ギンジ)はピラミッドの様子を見に行こうとしていた。こういった状況にもすっかり慣れてしまっているので、わりと平然としていた。ただ、砂混じりの風がピラミッドから吹きつけてくるから、彼の白スーツと灰色の髪は、うっすらとベージュを帯びているように見えた。
「よぅ、銀二さんじゃねぇか」
 熱い風のあいだから、梛織(ナオ)の声が飛んできて、銀二を呼び止めた。梛織もいつもどおりのルックスだったが、白いシャツは銀二同様砂まみれだったし、明らかに機嫌が悪そうだった。
「梛織君か。特に呪いもかかってないみたいで安心した」
「そうとも言い切れねぇよ、コレだぜ。呪われてる」
 梛織は顔をしかめて、服を払った。バフバフと細かい砂が舞い上がる。
「事務所の中なんかもっとひどくてさ」
「なるほど。掃除にうんざりして二人で散歩か」
 銀二は薄く笑いながら梛織の背後に目をやった。梛織は二人で歩いてきたつもりはなかったので、不思議な顔をして振り向く。そこには、黒づくめと言っていい風体の男がいた。彼は笑みつつ、ポケットに手を入れて、二人に歩み寄ってきた。
「シャノンさんじゃないですか。尾けるくらいなら声かけてくださいよ」
「尾けていたわけじゃない。俺は誰かさんと違ってあてもなくブラブラしていたんじゃなくてな。たまたま俺が行きたい方向がこっちだっただけだ」
 梛織は反論しなかった。砂まみれになった万事屋事務所の掃除がイヤになって、あてもなくブラブラしていたのは事実だ。自分はそんなに簡単に行動真理を読まれるほど単純なのだろうか、と彼は余計にテンションが下がった。
「こんなときに済ませたい用事でも?」
「血と汗の臭いには敏感でな。おまけにアンデッドの臭いまで充満しているとあれば、無視もできない」
 アンデッド……。現在の銀幕市において、ソレは即ちミイラを指す。ミイラであれば、すでに何度も見たし、大立ち回りを繰り広げたこともある。銀二と梛織は、血と汗の気配がするというシャノンの言葉を聞いて、真顔になった。
「こっちだ」
 二人が何を問わんとしていたか、シャノンにはわかった。だから彼は、すすんで、自分が行きたい方向へ二人を案内した。


 ワラワラワラワラと群がってくるミイラは、多分ピラミッドの中からわいて出てきているのだろうけれど、ハタから見れば、どこからともなくわいて出てきているようにしか見えない。ミイラの群れに終わりはなかった。その人海戦術はあまりにも執拗で、ファラオは、ミランダというただ一人の女を、どうあっても仕留めたいらしいことがうかがえる。
 そしてミランダは映画上の性格の設定を、意地でも押し通すつもりらしい。逃げようともせず、満身創痍である自覚はありながら、果敢に戦っていた。
 疲れた体の動きは鈍い。
 ミイラ兵士は、棘つきの無骨な棍棒を振りかぶった。ミランダの背中に、ソレは打ち下ろされていく。
 ガギッ、と鈍いような甲高いような音が響いた。ミランダも驚いて振り返る。彼女の赤い瞳の中に、漆黒の大鎌が割り込んでいた。
「お助けします」
 あるかなしかの笑みをそっと広げて、色白の女が鎌を振り上げた。
 ティモネ。その浮世離れした雰囲気と、現実ではなかなか見かけない大鎌から、彼女はよくムービースターと間違われる。しかし、彼女の肩には、緑色のバッキーが乗っていた。
 一体どこから来た。どうして助ける。
 ミランダの顔には一瞬だけそんな疑問が浮かんでいたが、すぐに消えた。今はそんなことを問いただしている場合ではない。
 ティモネは微笑を絶やさず、音もなく軽々と、黒い鎌で薙いだ。ミランダの背後にまわるミイラどもは、ことごとく、ティモネの鎌に輪切りにされる。斬られたミイラの体は、軽く爆発して、砂のような粉末を撒き散らした。
 天使やギリシャ神の石像のように、ティモネの笑みは顔に張りついて離れない。あまりにも大きな武器なのに、風を切ってほとんど音がしない。まるで死神のようだった。その死神が、ピクッ、とほんの一度だけ刃を止めた。
 どうやら、また新しく助っ人が来たらしい。ティモネが鎌を止めなくても、彼なら簡単にかわしただろうか。
「こんばんは」
 スキンヘッドに、ヴィランズとしか思えないようなコワモテ。けれども彼は、二人の戦う女に、そう紳士的な挨拶をした。
「加勢しますよ。この最悪な夜を、良い夜にしましょう!」
 ランドルフ・トラウト。
 彼が着ていた服の袖が、バリバリと裂けた。音を立てて筋肉が盛り上がっていく。変化したあとのドルフの姿は、アメコミでよく見かける風貌になっていた。その能力もまた、一見同様にヒーローらしくはなかったが、彼はミランダの返答も待たず乱闘に加わった。ティモネはすでにランドルフを味方と判断し、ミイラ相手に鎌を振っている。
 赤い瞳を光らせ、必死の形相で戦っていたミランダの負担は、目に見えて減っていった。しかし、ミイラは倒しても倒しても、途切れることなく現れる。これではまるで映画の中ではなく、ゲームの中にいるようだ。
 ミイラの兵士は乾いた大声を張り上げるだけで、言葉らしい言葉も喋らない。だが、彼らが狙っているのはあくまでミランダらしい。ティモネとランドルフが加勢したところで、彼らが戦力を増やしている様子は見られなかった。ただ、ティモネとランドルフの体力にも限界はある――このカーニバルは、いつまで続くのだろう。
 豪腕でミイラの上半身を吹き飛ばし、ランドルフはほんの少しだけ心配になった。背後にまわったミイラを殴りつけがてら、ティモネとミランダの様子を見る。ティモネは相変わらず、美しいとも言えるほど洗練された動きでミイラを斬り飛ばしているが、彼女はムービースターではない。どうする、ロケーションエリアを展開しようか。
 ランドルフは、すぐにその考えを実行しなかったことが得策だったとじきに知る。
「随分楽しそうに踊っているな」
 ミイラの粉末と砂の風の向こうから、笑みをこらえたような声が聞こえてきたのだ。
「俺もそのショーで踊らせてもらおうか……」
 銃声が立て続けに起こった。ほんの2秒の間に、何発の銃弾がばらまかれたかわからない。ティモネは声の主に笑みを見せ、ランドルフはわずかに首をすくめた。銃弾が怖かったのではない。銃声がやかましすぎたからだ。
 ミランダ。ティモネ、ランドルフの周りを囲んでいたミイラが、13匹ばかり頭を失って崩れ落ちた。
「……シャノンさん。こんばんは」
 ティモネは大鎌を下ろし、二丁拳銃を引っ提げて現れた、シャノン・ヴォルムスに挨拶をした。


「オイオイオイ。俺が相手する分も残してくれなかったのか」
 砂の風の向こうから、また男が現れた。すっかり砂色になってしまった八之銀二だ。急ぎ足でやってきた様子だったが、シャノンがあらかた片づけてしまった現場を見て、苦笑いをしてみせる。
 銀二の後ろには、梛織がいた。もう、服と髪がかぶった砂を払うのはあきらめている。彼には洞察力があった。シャノンが感じた血と汗と不死者の匂い、無傷のティモネとランドルフ、肩で息をしている手負いの女――ひと目で手に入った情報を手早くまとめて、梛織は見事なプロポーションの女戦士に近づいた。
「どうも、初めまして。万事屋やってる梛織です。ずいぶん大勢に囲まれてたみてぇだけど、大丈夫?」
 女は返事もしなかった。ただ、ギラリと赤い目で梛織を睨んだだけだ。怒られたような気がして、梛織はちょっと驚いた。それに、初めて見る女戦士だが、少し見覚えがあったのだ。確か、こんな顔がアップになったジャケットのDVDを見たような……。
「……アレ? ひょっとして、ミランダ……?」
「なんだ、梛織君の知り合いか?」
「いや、映画見ただけさ。ムービースターが映画鑑賞ってのもヘンな話だけど、『ブラックスター』はさ、アクションがクールだから参考になると思って」
 ミランダは汗を拭いもせず、そして、名乗りもしなかった。もちろん、危機を救ってくれた通りすがりに礼も言わなかった。それどころか、理不尽といえるほどの敵意と怒りを放っているようにも見えた。
(随分ご機嫌ナナメだなあ)
 銀二や梛織が思ったそのとき――、シャノンが叫んだ。
「左だ!」

 ズアッ!!

 郊外から吹き付ける不自然な砂嵐。その砂塵の中から、ボロボロの、黒ずんだ犬が飛び出してきた。その牙も爪も、丸腰の銀二さえ狙わず、ミランダに向けられていた。
 梛織がものも言わずに跳び蹴りを見舞った。
「っと!?」
 犬を蹴り飛ばして着地したその目の前に、いきなりミイラ兵士の顔面が現れて、梛織は素早く屈む。屈んで、足払いを仕掛けた。骨と皮ばかりの足は粉砕されて、兵士はむなしく地面に倒れる。
 顔を上げてみれば、唸りを上げて嵐がピラミッドのある方角から吹き付けていた。舞い上がる砂の中に、走り寄ってくるミイラの集団が見えた。四肢の細い、猟犬のミイラも混じっているようだ。砂嵐は、あの集団が作り上げているのではないかと思ってしまうほどの勢いで、彼らは迫ってくる。
「あの数を一人で、ってのはちょっとな、ミランダ」
 梛織はニッと笑ってミランダを見た。彼女は第二波を睨みながら武器を構えなおしただけ。
「ようし。俺にも出番が回ってきそうだ」
 銀二はネクタイをゆるめ、ゴキゴキ肩と首を慣らす。
 ミランダめがけて棍棒を振りかざすミイラに、銀二は素早く近づいた。ミイラはミランダしか見ていない。背後に回るのも、首をホールドするのも簡単だった。
「どぉうりゃっ!!」
 ボロの革鎧を着てはいるものの、相手は水分も筋肉も失ったミイラなので、銀二は拍子抜けするほどあっさり、その体を頭上まで持ち上げられた。
 干からびた長躯にアルゼンチン・バックブリーカーをかければ、ミイラの背骨はむなしくへし折れて、その体は真っ二つになった。砂のようなミイラの残骸を頭から浴びつつ、銀二は次の獲物に目をつける。やはり、その敵の目的もミランダだった。自分には目もくれないミイラに、銀二はタックルをぶちかまして転ばせた。ばらばらと骨や皮膚を撒き散らしながら倒れたミイラの両足を掴む。
 次の技はジャイアントスイングだった。
「ううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 熱い嵐の音にも負けない気合を発しながら、銀二は兵士を振り回した。兵士はなぜか棍棒を持ったままだった。遠心力で伸びた腕が、棍棒が、周囲のミイラをなぎ倒す。振り回されるミイラもボロボロになり、崩壊直前になったところで、銀二は思いきり放り投げた。
 放物線を描いて落ちていくミイラの先には、ランドルフがいた。銀二がパスしたミイラを、オーガの太い腕が殴りつける。ミイラは花火のように爆ぜた。牙が生えた口元をゆるめて、ランドルフは銀二に向かって太い親指を立てる。
「カンペキです。八之さん、ジャーナルでお名前をよく見てましたが、いつからレスラーに転向したのですか?」
「結構流されやすいタチでな。最近はプロレスのDVDに夢中なんだ。……ところで、俺も、あんたの名前はジャーナルで見てたよ」
 ふふん、と二人が同時に笑ったときだ。二人のそばを兵士が駆けていった。銀二とドルフの目と腕は、同時に動いた。打ち合わせをしたワケでもないのに、二人はミイラ兵士に見事なクロスボンバーを炸裂させていた。
 ランドルフと銀二は仲良く共闘している。梛織はミランダの背後を固め、ティモネは遊撃に当たっていた。ティモネの武器のリーチは長く、自然とその流麗な動きも大きくなってしまう。仲間やミランダの動きの邪魔になるのを避けている。
 シャノンもまた、仲間が増えたことで動きに制限がついた。さっきのように、弾丸をばらまくワケにはいかない。砂まじりの風が吹き荒れていて、視界も悪いのだ。
 まあ、いい。
(多少の制限があったほうが面白いだろう)
 ティモネの笑みとはまったく違った微笑で、シャノンは弾を撃ち尽くしたオートマチック二丁を捨てて、ショットガンに武器を変えた。どこに隠し持っていたかは企業秘密だ。散弾の飛距離と範囲は頭の中に入っている。
 ボズン! ボフン! ボフッ、ボズン!
 独特の銃声が立て続けに起こり、散弾は瞬く間に7、8体のミイラを霧にした。砂の向こうからはめげずに兵士が次々と現れる。ショットガンの装弾数は多くない。すぐに尽きてしまったが、シャノンは慌てずにショットガンを放り投げ、銃身を掴んだ。連射で熱を持っている銃身を掴んだ手からは煙が上がったが、シャノンは顔色ひとつ変えなかった。彼は台尻で近場にいたミイラの頭を殴り飛ばした。
「ん?」
 シャノンはショットガンを捨て、サッと振り返った。どこに仕込んでいたのか、振り返ったシャノンはリボルバーを構えていた。
 ここまで戦ってきたミイラ兵士とミイラの猟犬は、言わばザコだ。しかし、シャノンがそのとき感じた気配は、そんなザコとは少し雰囲気と強さが違っていたのだった。
「兵ドモガ手コズッテイルト思エバ、咎人ニ組スル者ガイタトハナ!」
 ザラザラしたしわがれ声で、そのミイラは叫んだ。兵士たちも、ミランダも、彼女の助っ人たちも、一斉に手を止めて彼に注目した。
 声の主はヘビを象った黄金の杖を持っていて、エジプトの壁画で見たような風貌だ。神官だろうか。古代エジプトでは王の次に権力を持っていたと言うが。
 シャノンは銃の照準を神官の眉間に合わせたまま、ティモネもその鎌の刃が届く位置で腰を落とす。ある意味ミランダより話が通じそうだ、と踏んだランドルフが、ミイラ神官に尋ねた。
「この女性が一体何をしたと言うのですか?」
「愚カニモ、我等ガ王ヲ邪悪ト罵リ、刃ヲ向ケタノダ。大イナル王ノ墓ニ忍ビ込ンダ、ネズミノ分際デナ!」
「女さらったり町を呪ったりしてるんだ。充分邪悪だろ」
 梛織が一笑に付すと、神官は凄まじい呼気をつき、金の杖を振り上げた。
「ガァアアアアアアウウウウ!」
「ヴォハアアアアアアアアア!」
 ミイラの群れが、ときの声を上げた。乾いた声だったが、使命に燃える勇ましい兵士の叫び声だった。
「おおおうっ!」
 ランドルフも、咆哮した。
 ドン、と彼を中心に衝撃が広がり、周囲に舞っていた砂が吹き飛んで、肌寒い風が吹く街が現れた。今が使い時だと、彼はロケーションエリアを展開したのだ。
 ランドルフは目の前にあった道路標識をあっさりと引っこ抜き、津波のように押し寄せてきた兵士たちを、まとめて薙ぎ払った。
 ランドルフの剛力は、その場にいたすべての味方に付加されている。映画の設定上ではごく普通の人間である銀二も、ただ殴っただけでミイラの猟犬を粉々にできた。梛織も、いつもの5倍増しな自分の脚力に驚いた。軽く蹴ったつもりなのに、ミイラの兵士が高々と宙を舞っていく。ウッカリ調子に乗りそうだ。
「……と、……あれ?」
 梛織は気づいた。
 ミランダの姿が見当たらない。


 ミランダは、いた。
 ミイラに号令を出した神官の背後だ。爛々と光る赤い目で、二振りの長剣を振りかぶっていた。それまでほとんど体力を使い果たしていた彼女だったが、ランドルフのロケーションエリアのおかげで、疲れも吹き飛んでしまったらしい。
「貴様が邪悪だ。邪悪の手先め!」
「ガアウッ!」
 振り下ろされた剣が、神官の両腕を落とした。神官を助けるつもりだったのか、ただ単にミランダを殺すつもりだったのか、数体の兵士が彼女を囲んだが、わずか2秒で残らず消えた。彼らを一掃したのは、シャノンのリボルバーだ。
「マ、凶星……」
 神官は口を大きく開けてあえいだ。
「凶星ノ化身メ……」

 ザン!

 神官は脳天から真っ二つになって倒れた。地面には、ティモネが振り下ろした鎌の刃が、ガツンと突き立った。


 ティモネがとどめを刺した神官が、ミイラの群れを統率していたようだ。その場に残っていた兵士や犬を片づけると、ようやく静かになった。
「ふう。しかし、あんたも勇気があるんだなあ」
 パンパンと両手を払って、銀二はミランダに笑いかける。
「例のピラミッドに一人で乗り込んで、一人で王様をやっつけようとしてたのか」
「一人より二人以上のほうが楽なのに」
「……」
 梛織が茶化しても、やはり、女戦士はうつむいたまま何も言わず、長剣を手放そうとしない。こめかみや腕からは血が流れ、ポタポタ滴っている。
「大丈夫ですか? すぐ手当てをしたほうが――」
「ドルフさん! 離れろ!」
 純粋にミランダを心配して近寄ったドルフ。叫ぶシャノン。ミランダは――右手の長剣を振り上げていた。
「邪悪……!」
 女戦士が振り下ろした剣は、凄まじい風を起こした。ランドルフはシャノンの注意もあったおかげで、すぐに対応できた。驚きながらも、跳びすさる。
 ミランダの剣は、轟音を上げてアスファルトを割った。ランドルフがその場に留まったままなら、さっきの神官よろしく真っ二つになっていたかもしれない。
「最後の1匹まで……」
 5人の助っ人は、ワケがわからず、一歩後ずさった。
「殺しつくしてやる!」
 銀二と梛織は、ぞっとした。ミランダの赤い瞳に宿る光の異常に気づいた。闇の中でギラギラと光る赤の中、暗黒が渦を巻いている。
「梛織君、ミランダって、こんな危ないキャラなのか?」
「い、いや。敵には容赦ないけど、ちゃんと言葉は通じてたし……」
「じゃあ、同じですね」
 ティモネが、うっすらと微笑んだ。
「チョコレートキングと同じです」
 ミランダが跳躍した。ランドルフでも飛び越せそうなほどの大ジャンプ。大きく両腕を振りかぶっている。
 シャノンは懐から二本の小ぶりなナイフを出し、無言でミランダに投げつけた。ナイフはミランダの両手首を切り裂き、女戦士は空中でバランスを崩して、吼えながら地面に転がった。
「世界を脅かす力は! 邪悪はァ! 殺してやる! 殺しつくしてやる、あ゛ああああ!」
 ビシャビシャと彼女の手首から流れる血は、地面に辿り着く前に、黒い霧になって空気に溶けていた。シャノンは再びナイフを手にし、ランドルフは仕方なく身構える。
「あ゛ァアアア!! うわあああああ、ぎゃアアアアア!! 邪悪じゃない、邪悪じゃなああいっ、わたし邪悪じゃなああい!! あうわアアア!!」
 赤い目の光と血を振り回しながら、ミランダは5人の前で異様なダンスを踊った。ミランダの血を浴びた長剣が、どんどん黒ずんでいく。
 しかし彼女は、やがて頭を抱えて激しくのたうちまわり、叫びながら5人に背を向けて走りだした。
「あ、おい!」
 梛織にはわかっていた。こうして呼びかけたところで、彼女が立ち止まって振り向くはずがない。
「……はぁ、助け損だよ……」
 ほんのちょっとショックを受けたので、梛織はそう苦笑いしながら頭をかいた。
「何なんだ……何が起きてるんだ、一体?」
「まあ、俺はどうでもいいがな。なかなか楽しめたぞ」
 ジャケットについたミイラの粉末を軽く払い、シャノンは笑みをこぼす。それは負け惜しみではなかった。
 ランドルフは、黙って、ミランダが壊したアスファルトに目を落としていた。
「凶星……」
 ぽつりと呟いた彼の視界に、ティモネの白い笑顔が割り込んだ。彼女の瞳も血の色そのままに赤いし、その笑顔はどこか人形めいているのだが、あのミランダとは決定的な何かが違う。
「行きましょう、ドルフさん。もう終わりです」
「本当に終わったんでしょうかね」
「……」
 ティモネは、まるで答えを知っているかのように、にっこり笑ったのだった。

クリエイターコメントギリギリの提出になってしまいましたスミマセン! 龍司郎です。このシナリオは諸口正巳ライターの特別シナリオと合わせて読んでもらえると面白いかもしれないですよ。ちょっと理不尽な結果になってしまってスミマセン。『ブラックスター』がさりげなさすぎるヒントでした。皆さんにはハデに戦ってもらいましたが、何だか肺が黄色くなりそうな戦場でしたね。ミランダがらみでまた何かが起きるのはまず確実と思ってくださってOKです。もしよろしければ、龍司郎の今後のスケジュール、チェックしてやってください。ご参加どうもありがとうございました。
公開日時2007-05-18(金) 19:50
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