★ 【カレークエスト】リオネとチーズナンと緑色のカレー!? ★
<オープニング>

 おお、見よ。
 聖林通りを地響きを立てて駆けているのは、なんとゾウだ。
 そのゾウには豪華絢爛たる御輿のような鞍がつけられており、その上に乗っているのがSAYURIだと知って、道行く人々が指をさす。彼女はいわゆるサリーをまとっており、豪奢なアクセサリーに飾られたその姿は、インドの姫さながらである。
 きっと映画の撮影だ――誰もがそう思った。
「SAYURI〜! お待ちなさい! あまりスピードを出しては危ない」
 彼女を呼ぶ声があった。
 後方から、もう一頭のゾウがやってくる。
 こちらの鞍には、ひとりの青年が乗っていた。金銀の刺繍もきらびやかなインドの民族衣裳に身を包んだ、浅黒い肌の、顔立ちはかなり整った美青年である。
「着いてこないで!」
 SAYURIが叫んだ。
「いいかげんにしてちょうだい。あなたと結婚する気はないと言ったでしょう!」

 ★ ★ ★

「……チャンドラ・マハクリシュナ18世。インドのマハラジャの子息で、英国に留学してMBAを取得したあと、本国でIT関連の事業で国際的に成功した青年実業家。しかも大変な美男子で、留学時代に演劇に興味をもち、事業のかたわら俳優業もはじめて、インド映画界ではスターだそうですよ」
「はあ……。で、そのインドの王子様がSAYURIさんに一目ぼれをして来日、彼女を追いかけ回している、とこういうわけですね」
 植村直紀の要約に、柊市長は頷いた。
「事情はわかりましたが、そういうことでしたらまず警察に連絡すべきじゃないでしょうか。ぶっちゃけ、それってムービーハザードとか関係ないですよね?」
 植村がすっぱりと言い放った、まさにその時だった。
 低い地響き……そして、市役所が揺れる!

 突如、崩れ落ちた対策課の壁。
 その向こうに、人々は一頭のゾウを見た。
 そしてその背に、美しいサリーをまとったSAYURIがいるのを。
「♪おお〜、SAYURI〜わが麗しの君よ〜その瞳は星の煌き〜」
 彼女を追って、別のゾウがやってきた。誰あろうチャンドラ王子が乗るゾウだ。
 王子がSAYURIに捧げる愛の歌を唄うと、どこからともなくあらわれて後方にずらりと並んだサリー姿の侍女たちによるバックダンサーズ兼コーラス隊が、見事なハーモニーを添え、周囲には係(誰?)が降らせる華吹雪が舞う。
「♪私のことは忘れてインドに帰ってちょうだい〜」
 SAYURIが、つい、つられて歌で応えてしまった。
「♪そんなつれないことを言わないで〜」
「♪いい加減にしてちょうだいこのストーカー王子〜」
「なんですか、この傍迷惑なミュージカル野外公演は!」
 SAYURIの騎乗したゾウの激突により、壁が粉砕された対策課の様子に頭をかかえながら、植村が悲鳴のような声をあげた。
「おや、貴方が市長殿かな?」
 チャンドラ王子が柊市長の姿をみとめる。
「彼女があまり熱心に言うので、それならば余としても、その『銀幕市カレー』とやらを味わってやってもよいと思うのだ。期待しているよ。……おや、どこへ行くのかな、わが君よ〜♪」
 隙を見て、ゾウで逃走するSAYURIを追う王子。
 あとには、壁を破壊された対策課だけが残った。
「あの……市長……?」
「……SAYURIさんから市長室に直通電話がありまして。王子との売り言葉に買い言葉で言ってしまったらしいんですよ。この銀幕市には『銀幕市カレー』なる素晴らしいカレーがある。だから自分はこの街を決して離れない、とね――」
「はあ、何ですかそりゃ!?」
「チャンドラ王子は非常な美食家でもあって、中でもカレーが大好物らしい。それで『カレー王子』の異名をとるくらいだとか。……植村くん。市民のみなさんに協力していただいて、あのカレー王子をあっと言わせる凄いカレーが作れないだろうか。そうしなければ、SAYURIさんがインドに連れ去られてしまうかもしれないし……」 

 そんなわけで、今いち納得できない流れで緊急プロジェクトチームが招聘されることとなった。ミッションは、極上のカレー『銀幕市カレー』をつくること、である。

 ★ ★ ★

「ねえ、ねえ、ひさちゃん。カレーの王子様が来たって本当?」
 リオネが無邪気に言うと市長秘書、上井寿将が気怠そうに答える。
「チャンドラ・マハクリシュナ18世な。確かにインドのマハラジャの子息だから、王子様と言えなくもねーけど、こっちにしてみりゃ傍迷惑な王子様だぜ」
 続けて、
「そいつが、対策課の壁、ぶち破ってくれたもんだから、柊市長に請われて、俺がわざわざ壁の修繕屋の手配したんだぜ。まったく参るぜ」
 と、悪態をつく。
「ひさちゃん頑張ったんだね♪いい子♪いい子♪」
「バカッ、やめろって」
 寿将の頭を撫でようとしたリオネの手を寿将は思わずはらいのける。 
「んもう。ひさちゃんったら〜。折角なでなでしてあげようと思ったのに〜」
「いらねーよ!ガキじゃあるめーし!」
 ぶぅっと口を膨らますリオネに言い返す寿将。
「もう。ひさちゃんは、いつまでたっても子供なんだから」
「お前に言われたかねーよ!」
「ところで、そのカレーの王子様は何をしにここに来たの?」
 いつもの言い合いの最中、リオネがふと疑問を口にする。
「そうだな〜、俺が聞いた所によると、SAYURIに一目惚れしたチャンドラがSAYURIにプロポーズに来たって話だな」
「プロポーズ!ステキ!好きな人から結婚を申し込まれるなんて!女の子の憧れだよね〜♪リオネもプロポーズされてみた〜い♪」
 神さまの子どもと言ってもやっぱり女の子。
 プロポーズに夢を見ているらしい。
 特に、この銀幕市に来てからは、恋愛映画を見る機会も多く、それに影響されている部分も多々ある。
「所がそうでもないんだよな〜」
 寿将がぽつりと言うと、リオネが不思議そうに寿将の顔を窺う。
「何で?ひさちゃん?プロポーズは女の子の夢でしょ?」
「好きな相手からならな。当のSAYURIに結婚する気は無いってんだから、仕方ないだろ?」
 軽く溜息をつきながら寿将が言う。
「え〜、そうなの〜。相手は王子さまなのに〜」
「SAYURIにとっては、王子とか王子じゃないとか、関係ねーんじゃねえか?SAYURIだって、ハリウッドでも活躍する世界的なスターだ。結婚する気がありゃあ、何時でも結婚出来るはずだぜ。単にあの王子が気に入らないだけかもしれねーけどな」
 寿将が言うと、リオネは首を傾げ、
「そういうものなのかなあ?リオネ良く分かんないよ〜」
「お前は、別に分かんなくていいんだよ」
 そう言って、リオネの頭を軽くこつんとやる。
「じゃあ、カレーの王子様は、このままおうちに帰るの?」
 そう言われて、寿将が疲れた顔をする。
「そうなんだよ。振られたんなら、さっさとインドでも何処にでも帰ってくれりゃあいいのによー」
「何?王子様、帰らないの?」
 寿将の言葉にリオネが疑問符を出す。
「何でもな、SAYURIが銀幕市に滞在しているのは、『銀幕市カレー』とか言う、すげーカレーがあるからとかチャンドラに言ったらしい。それなら、その『銀幕市カレー』を喰わせろって事らしい。じゃないと納得いかねーって」
 本当に疲れた様子で寿将はリオネに話す。
「ねえ、ひさちゃん。『銀幕市カレー』って、リオネ聞いた事無いんだけど、何処で食べれるの?」
「そんなもんはねえ!」
 リオネの疑問を寿将が一蹴する。
「だから、柊市長が対策課に頼んでカレーを作る人員を集めてる。何品か作ってみて、その中から『銀幕市カレー』を決めるそうだ」
 寿将が説明すると、聞いていたリオネが少し考え込む。
「ねえ、ひさちゃん!」
 寿将の頭に嫌な予感がよぎる。
「……リオネ、何だよ?」
「リオネもカレー作ってみたい♪」
 嫌な予感が的中した。
「作ってみたいって、お前、料理した事あんのかよ?」
「無いよ♪」
 笑顔でリオネが言う。
「やってみたいの〜♪」
「やってみたいの〜って、お前に出来る訳無いだろうが」
「だから、ひさちゃんも一緒にカレー作るの♪」
 リオネの顔は笑顔全開でもう決まった事かの様に言う。
「何で、俺が!?」
「えーっ、ひさちゃん、お料理出来るでしょ?」
「……まあ、人並みにはな」
「じゃあ、決定♪カレーの王子様に食べさせてあげるカレーを作っちゃおうね♪」
 寿将の肩が、ガックリ落ちる。
 そこで寿将は考えた。
「リオネ、俺達だけじゃ美味いものが作れるか分からないぜ。だから、他の奴にも手伝ってもらおうぜ!人数多い方が楽しくカレーが作れるぞ!」
 そこでリオネの顔がパァッと輝いた。
「そうだよね!みんなで作った方が楽しいよね♪ひさちゃん、ナイスアイディア♪」
「そうか、そうか、それは良かった」
(よし!これで俺は楽、出来る!よっしゃ!)
 そんな、寿将の心の呟きをよそに、リオネはどんなカレーを作ろうか考え込んでいる。
「ねえ、ひさちゃん。普通のカレーじゃ『銀幕市カレー』になれないよねぇ?ちょっと変わってて美味しいカレーって知らない?」
「まあ、目指すなら一番だな。まあ、インパクト勝負だな」
 そう言って、寿将も考える。
「そうだな、ライスじゃなくって、カレーナンって手もあるな」
「ひさちゃん、ナンって何?」
「ナンってのは、小麦粉を練って窯で焼いた、まあ固いパンみたいなものだ。インドなんかは、ナンが主流だからインド人のチャンドラには丁度いいかもしれねーな」
 そしてまた、考える。
「そうだ!俺が喰って美味かったのは、チーズナンだよ!」
「チーズナン?」
 リオネの疑問に寿将が自信を持って答える。
「チーズナンってのはな、ナンの間にチーズが挟まってるんだ。チーズがとろっとしてて、マジうめーぞ!」
「聞いてたら美味しそう♪じゃあ、チーズナンを作ろうね♪でも、ひさちゃん、肝心のカレーはどうするの?」
 それを聞いて寿将が含み笑いを浮かべる。
「カレーに関しても、秘策がある。リオネ、カレーって何色だ?」
「えっ?カレーの色?茶色かな?黄色かな?」
 不意に聞かれてリオネは、普通に思った事を答えた。
「リオネ、緑色のカレーって見た事あるか?」
「緑色ー!?そんなの無いよー」
「それがあるんだよ。スパイスの配合とかで出来る緑色のカレー!アレは、美味かった!」
「え〜っ、緑色のカレーが本当に美味しいの〜?」
 不信気にリオネが寿将に尋ねる。
「マジ、美味いんだって!それに変わったやつじゃないと、『銀幕市カレー』になれないぞ!」
 そう言われて、リオネも、
「そうだよね♪王子様にカレーを食べてもらうんだもんね、ちょっとくらい変わっていた方がいいよね♪」
「そうそう」
「じゃあ、材料探さなきゃ。ひさちゃん材料は何?」
「そこまでは、知らん。俺は喰っただけだ!」
「ちょっと、ひさちゃ〜ん!」
 寿将にキッパリ言われて、リオネが寿将を下から睨む。
「そう、睨むなって。調べればいい事だろ。ナンはどっか焼ける窯を探して、チーズにも拘りたいな。緑色のカレーは大体、普通のカレーと作り方は一緒だろ。香辛料に何を使うかだな」
 寿将がすらすらと行程を述べていくと、
「ひさちゃん凄い!ちゃんと考えてたんだね〜♪」
 リオネが寿将を褒める。
「だけど、リオネ。これ、滅茶苦茶大変だぞ」
「大丈夫だよ♪みんなに手伝ってもらうから♪きっと、上手に出来るよ♪」
 そう言われて、仕方なくといった体で寿将は、
「ほら、じゃあ、手伝ってくれる奴、探して来い。リオネ」
 リオネを促す。
 そう言われてリオネも元気良く。
「は〜い♪じゃあ、リオネ、一緒にカレーを作ってくれる人探してくるね♪」
 パタパタと足音を立てて、走っていく。
(ふう、これで少しは楽、出来っかな?)
 そんな事を寿将が考えていると、リオネが振り返り、
「ひさちゃんもちゃんと手伝ってね〜♪」
 大きな声で言ってくる。
「……あ〜、はいはい」
(俺に安らぎはねーのかよ)
 そう、心の中で呟いて、寿将は大きな溜息をつくのだった。

種別名シナリオ 管理番号675
クリエイター冴原 瑠璃丸(wdfw1324)
クリエイターコメントはい、こんにちは&こんばんは。
冴原でございます。

今回は【カレークエスト】という事でリオネ(ついでに上井も/笑)と一緒にカレーを作って、是非チャンドラ王子に食べさせようと言うシナリオでございます。
リオネは料理をした事がないので初めてのお料理にワクワクしていますが、もの凄く危なっかしいです!
そして、今回作るのは、難易度高めのチーズナンと謎の緑色のカレーです。
まずは、美味しいチーズや小麦粉といった材料探しから始めて下さい。
ナンを焼ける窯も皆さんで見つけて下さい。
緑色のカレーの本当の材料は、あえて書きません(マテ)。
好きな物、放り込んで下さい!
美味しいカレーが出来たら、ある意味ミラクル!(マテって)
奇跡を起こして下さい!
そして、チャンドラ王子に緑色のカレーを献上しましょう!

そう言う訳で、豪気なチャレンジャー&リオネを見守ってくれる優しい皆さん、御参加、心よりお待ちしております。

よろしくお願い致します。

参加者
リカ・ヴォリンスカヤ(cxhs4886) ムービースター 女 26歳 元・殺し屋
森砂 美月(cpth7710) ムービーファン 女 27歳 カウンセラー
<ノベル>

リオネの呼びかけに、誘われて来た、森砂 美月は、リオネに誘われると、快く協力を申し出てくれた。
 そして、リオネに今回のカレーの内容を聞いて、グリーンカレーだと知り、綺羅星学園のパソコンのネット検索でグリーンカレーの検索を始めた。
「グリーンカレーね。あ、あった、これね」
 それを、すぐにプリントアウトするとパソコンを覗き込んでいた、リオネに微笑み、、
「リオネちゃん、グリーンカレーの作り方が分かったわ。上井さんの所に戻りましょうね」
「あっ、分かったんだ〜♪早くひさちゃんの所に行こっ♪美月ちゃん♪」
 リオネは、手を美月の方に出すと、二人は仲良く手を繋いで歩き出した。
 綺羅星学園を出ると、市長秘書、上井 寿将が校門の前で待っていた。
「よう。お疲れ。で、分かったか?」
 寿将が軽く聞くと美月が、
「はい。分かりましたよ。これがグリーンカレーのレシピです」
 そう言って、先程プリントアウトしたばかりの、グリーンカレーのレシピを寿将に手渡す。
「ふむふむ、グリーンカレーのペーストに結構な香辛料がいるな」
「スーパーまるぎんなら、揃うと思います」
 美月の一言に、リオネは、
「スーパーでお買い物だね♪」
「まあ、そうだな日が暮れない内にさっさと行くか」
「はい、じゃあひさちゃん♪」
 そう言ってリオネは美月と繋いでいる逆の手を寿将に差し出す。
「おい、俺にも手繋げってんじゃねえだろうな?」
 寿将がいかにも嫌そうに言うと、リオネは笑顔で、
「みんなで手を繋いで行った方が楽しいじゃない?ひさちゃん」
 そう言いつつ、何時までも引っ込められない片手に諦めて、寿将は渋々リオネの手を握る。
「ふふっ。上井さんもリオネちゃんには、弱いんですね」
 美月がちょっとおかしそうに上井に微笑む。
 それを聞いて寿将が、
「そんなんじゃねえよ!こいつが泣いたら、泣きやまねーから、仕方なくだよ」
「もう、ひさちゃんったら照れちゃって〜♪」
「リオネ!お前もうるせー」
 そんな、掛け合いをしながら歩く3人は、仲が良い家族の様だった。
 3人の影が少しずつ長くなっていった。

 スーパーまるぎんが見えると、リオネは繋いでいた手を離して、走り出した。
「美月ちゃーん、ひさちゃーん早く〜♪」
 そうやって、手を振りながら、二人を急かすリオネ。
「まって〜、リオネちゃん〜、前見て歩かないと、危ないわよ〜。って、危ない!」
 美月の声と同時に、リオネは、前を歩いていた女性にぶつかった。
「きゃっ!あらあら、大丈夫?あら、リオネじゃない?」
 リオネにぶつかられた女性は、すぐにリオネを助け起こす。
「いった〜い。ごめんなさーい……あっ、リカちゃん」
 リオネとぶつかったのは、長身の美女、リカ・ヴォリンスカヤだった。
「怪我とか無い?」
 リカがリオネの心配をするが、
「うん。大丈夫。ぶつかっちゃったね。ごめんね。リカちゃん♪」
 それを見ていた、美月と寿将が慌ててやって来る。
「リオネちゃん、大丈夫?」
「バカッ、だからちゃんと前見て歩かないと危ないっていつも言ってるだろうが!」
「リオネ、何ともないよ。ひさちゃん、怒らないでよ〜。ごめんなさ〜い」
 心配する美月と怒る、寿将その間に入ったのがリカだった。
「あんまり、リオネちゃんを怒らないでちょうだい、お兄さん。あら、あなた何処かで見た顔ね」
「お前は、リカ・ヴォリンスカヤだな?」
「あら、わたしの名前知ってるの?」
「これでも市長秘書何でね、大体のムービースターの顔と名前は覚えてる」
「そうなの、リカちゃん、ひさちゃんったら実は凄いの〜。みんなの顔と名前しっかり覚えてるんだよ〜♪」
 リオネが自分の事の様に自慢する。
「ひさちゃんって言うの?」
 リカの問に、ちょっと怒った様に、
「俺の名前は、上井 寿将だ。リオネが勝手に言ってるだけだ」
「そうなの?」
 と、リカがクスッと笑う。
「で、その市長秘書さんが、リオネちゃんとスーパーに何の用なの?晩ご飯の支度?」
「いや、面倒くせーな。リオネ、説明してやれ」
「は〜い♪あのね、リカちゃん……」

「……という訳なの、リカちゃん。リオネ達、『銀幕市カレー』を作らなきゃいけないの。だけど、ひさちゃんがすっごく大変だって〜」
 と、リオネがたどたどしく説明する。
「そうなの。仕方ないわね〜。わたしも手伝ってあげる♪」
「えっ!?いいの?リカちゃん?」
「リオネが、困ってるのに放っておけないでしょ」
「ありがとう♪リカちゃん♪」
 リカの申し出に、1人はしゃぐリオネ。
「美月ちゃん、ひさちゃん♪リカちゃんも手伝ってくれるって〜♪」
「お、おう。まあひとでは、多い方がいいからな。有り難いな」
 だが、寿将は気付いていなかった。
 リカのお手伝いで自分がどんな目にあうか。
 今は、知るよしもなかった……。
「それじゃあ、皆さんお店の方に入りましょう」
 美月が、優しくみんなを促した。
「おっかいもの〜♪おっかいもの〜♪」
「リオネったら、あんなにはしゃいじゃって」
 リカもリオネに続いて歩いていく。

「じゃあ、俺達は香辛料見てくるから、お前等は具材を集めてきてくれ」
 そう言って、寿将は美月と二人で香辛料売り場に行ってしまった。
 その時、リカの目がキラリと光った……気がした。
「リオネ、緑色のカレーって言ってたわよね?」
「うん。材料が分からなかったけど美月ちゃんがパソコンで調べてくれたよ♪」
「やーね、緑色って言ったら抹茶に決まってるでしょ」
「抹茶!?」
 リカの発言にびっくりするリオネ。
「抹茶って、お茶だよね?そう言うのをカレーに入れても良いの?」
 不思議そうに聞くリオネ?
「抹茶は健康ブームってのもあるし、最近の流行りなのよ、リオネ」
 と、したり顔で説明したあと、リカは抹茶を大量に籠に詰め込んだ。
「お茶は、緑色だもんね。緑色のカレーがきっと出来るよね♪」
「そうよ、リオネ。それじゃあ、次は具材を見なきゃ。あ、そうだ!ついでにカニクリーム・コロッケも買いましょ」
「カニクリーム・コロッケ?カレーの上に乗せるの?」
 リオネが不思議そうに聞いてくる。
「ううん。もっと言い使い方があるのよ♪」
 と、ウインクしてみせる。
「そうなんだ〜♪」
 リオネが無邪気に感心してみせる。
「それとね、リオネ。とっておきの隠し味があるのよ」
「隠し味?」
 リオネが首を傾げる。
「まるぎんの駐車場で、夕方になると買えるアレなんだけど……。アレがあれば間違いなく、『銀幕市カレーに選ばれるわよ。リオネ♪ここで、ちょっと待ってて」
「良いの。わたし、1人で買ってくるから、買い物籠見ててちょうだい。リオネ」
 と言って、ウインクする。
「うん。分かった♪リカちゃん、早く戻ってきてね♪」
「分かってるわよ」
(移動販売の屋台、もう来てるかしら?)
 リオネと分かれ、リカは駐車場に向かった。
 アレを買いに。

 一方、美月、寿将組は、何種類もあるスパイスをレシピ通りに選んでは、籠に入れていた。
「コリアンダー、クミン。ピューマックルーって、何だよ?」
「あ、ありました。上井さん。この、粉状のです」
「あ、あったか?にしても必要な香辛料多すぎだぜ。まあ、グリーンカレーにしようって言ったのは、俺だけどさ。とんだ、貧乏くじ引いちまったぜ」
 寿将のぼやきに、美月が微笑みながら言う。
「上井さんは、なんだかんだ言って、リオネちゃんが心配なんですね」
「バッ!そんなんじゃねえよ!ただ、お守りさせられてるだけだ!」
「ふふっ。それじゃあ、今度は、チーズと小麦粉を見に行きましょうか?」
「ああ、そうだな」
 美月が下に置いていた籠を持ち上げようとすると、横から手が伸びてきて、籠を持ち上げた。
「あ、有り難うございます。上井さん」
「別に、良いんだよ」
 そう言って、寿将は籠を持つと先を歩いた。
 材料を探して。
 まともなグリーンカレーを作る為に。

 二組は合流して、美月が提案した調理場、彼女が勤務する、綺羅星学園の調理室に向かった。
 そこなら、ナンを焼く窯もあるらしい。
「なあ、リカ。何かお前、買い物袋多くねえか?」
 リカが後ろ手に持っている買い物袋の数の多さに疑問を持った寿将が疑問を口にする。
「あら?そうかしら?これも、美味しいグリーンカレーを作る為よ」
「まあ、それなら良いが」
 寿将は、釈然としないものも感じたが、一応納得した。
「はい、調理室に着きましたよ、皆さん」
「わ〜い。お料理だ〜♪」
 美月の言葉に、早速ワクワクしているリオネが跳ねた。
「こらっ、リオネ。とりあえず手を洗え。料理は、それからだ」
「は〜い♪」
 そんなやりとりをリオネと寿将が繰り広げてる中、リカはビニール袋に隠していた礼のアレを袋から出し、そっとエプロンのポケットに忍ばせた。
 それを、偶然見た美月は、
「リカさん。今何かポケットに……」
「え?何の事?わたし何もしてないわよ?ほら、リオネエプロン付けなさい」
「は〜い♪」
 美月は、不思議に思いながらも、自分もエプロンを付けた。

 グリーンカレー作りは、順調だった。
 ……一見は。
 リカの包丁さばきは、プロの料理人の様で、ジャガイモや人参を綺麗に剥いて刻んでいくし、美月は優しくリオネに料理の基礎を教えていた。
「料理って楽しいね〜♪」
 と、思わずリオネが言う程だった。
 そんな中、寿将はチーズナンを作っていた小麦粉を練って、盤上に伸ばし、これまた盤上に伸ばした極上チーズを重ねていく。
「おっと、小麦粉が足りねーな」
 そう言って、寿将がその場を一瞬離れた時だった。
 リカは、先程買ってきた、カニクリーム・コロッケをナンとチーズの間に挟んで、寿将が戻る前にまた調理に戻って行った。
「美月ちゃん。お湯湧いたよ」
「そう、リオネちゃん。じゃあ、お野菜をこの中に入れて、材料が柔らかくなるのを待ちましょう」
 と、美月が優しくリオネを手伝う。
「おーい、こっちもナンの生地出来たぜー!窯で焼くぞー!」
 何も知らない寿将が、ナン生地を釜に入れて熱を入れる。
 リカはそれを見て微笑むのだった。

 それから数刻経ち、美月が各種スパイスをカレー鍋に入れていった。
 カレー独特の匂いが部屋に香りだした。
「美月ー、ナンの方もそろそろ良さそうだ。ちょっと手伝ってくれー」
「あ〜、はい分かりました〜」
 鍋の前にリカとリオネだけになった。
「今ね!」
 リカは、ここぞとばかりに大量に買い込んだ抹茶をカレー鍋の中に突っ込んだ。
 そして、エプロンのポケットに手を入れて、
「リオネ、ちょっと後ろ向いてて。隠し味を入れるから」
「隠し味って?」
 リオネが首を傾げる。
「企業秘密よ♪」
「うん。分かった」
 素直に後ろを向くリオネ。
 それを確認すると、リカはまるぎんスーパーで夕方になると買えるアレをカレー鍋に入れた。
 そしてカレー鍋を一混ぜすると、
「リオネ、もう良いわよ」
 と、満面の笑みで言った。
「リカちゃん、何だったの?」
「秘密よ♪」
 リカは、何故か楽しげだった。

 そんな感じで、調理を初めてから数時間。
 調理室にはカレーのスパイシーな香りが充満し、グリーンカレーとチーズナンは完成した。
「おーっ。初めてにしちゃ、美味そうに出来たじゃねーか」
 寿将がテーブルに並べられた、カレー達を眺めて言った。
 グリーンカレーは鮮やかな緑で逆に食欲をそそるし、チーズナンはチーズの香りが際だっている。
「で、これ、誰か味見したのか?」
 寿将が聞くとリオネが、
「まだだよ〜」
「一番最初は男性のあなたに食べてもらわないと」
 リカがいい笑顔で言うと、美月も、
「そうですよ、上井さん」
 そう言って、ナンを取りグリーンカレーを付けて寿将に差し出す。
「上井さん。あーん」
「ああ!いい!そう言うのは!」
 と、上井は照れた様に、美月の手のカレーナンを取ると、一口食べた。
直後!
「んー!あー!うぎゃー!」
「えっ!えっ!どうしたの?ひさちゃん!」
 リオネが尋ねるが、寿将は床をのたうち回っている。
「にが!抹茶かー!何でナンに蟹が……!」
「あっ!」
 のたうち回っている、寿将の目の前に包丁が突き刺さる。
「ゴキブリだわ。やーね」
 リカが包丁を投げつけていた。
 緑色だった寿将の表情が蒼くなった。
「……とりあえず水くれ」
「はい、上井さん」
 美月が微笑みながら寿将に水の入ったグラスを渡す。
 その美月の笑顔にちょっと脅えながら、上井はグラスを受け取り、一気に飲み干した。
「あー、死ぬかと思っ……」
 リカの目が光ったのが見えたので寿将は、それ以上何も言えなかった。
「ひさちゃん、美味しかった?」
「あ、ああ、美味かった。これなら、チャンドラも喜んでくれるだろう……」
「ホントにー!じゃあ、リオネも一口……」
「お前には、まだ早い!」
 食べようとする、リオネを寿将が必死で止める。
「何でー!」
「お、大人の味だからだ。大人になったらな」
「ぶー。ひさちゃんのけちー」
 ほっぺたを膨らませていたリオネだったが、落ち着きを取り戻し。
「美月ちゃん、リカちゃんお手伝いありがとうね♪これできっと王子様も喜んでくれるよ♪」
「リオネちゃんが喜んでくれて嬉しいわ」
「リオネのお願いじゃ断れないからね♪」
 
そんな和やかな会話を聞きながら、寿将はカレーをじっと眺め1人考えていた。

(これが、『銀幕市カレー』になる事は、まず、ねえ!まあ、この不味いの喰ったらチャンドラも嫌でも国に帰るかもな……)

 寿将の思いを3人は知らないままで居た。
 幸せな事に。

クリエイターコメントこの度は大変納品が遅くなりまして申し訳ありません。
結果は凄いのが出来ました(笑)。
今回はご参加下さいまして有り難うございました。

誤字脱字、ご要望、ご感想等ございましたら、メールして頂けると嬉しいです。
今後の参考にさせて頂きます。
公開日時2008-08-21(木) 10:20
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