★ 【Be Happy Campaign】鋼鉄の秩序とあわれみのうた ★
<オープニング>

 降下するエレベーターは十四階で停まり、乗員を増やした。
 海見(うみ)は壁際に寄る。邑瀬(むらせ)は反対側の壁にもたれかかった。
 ダウンタウン北に建つ高層マンション、タワーブロック銀幕。富裕層を対象とした贅沢な物件で、最盛時には空き待ちが出るほどだった。
 だが今、入居率は十パーセントを切っている。実際に住んでいる人間はさらに少ない。
 ――リオネの魔法がかかってから、風向きが悪い。
 キラー、タナトス、ネガティヴ、レヴァイアタン。危機が訪れると退去者が増え、新規入居者はなかなか現れない。
「大家さん。余計なお世話ですが、このマンションは売却しないんですか?」
 邑瀬が言う。海見はじろりと睨んだ。
「大きなお世話」
「すみません。ここを後生大事に抱え込んで、赤字補填に優良物件を手放している様子が気になりまして」
 何故知っている、と問うだけ無駄だろう。この住人は、対策課職員という肩書き以上に深い。犯罪歴が明記されていないだけで、闇の世界との関わりもありそうだ。
「…………」
「値段の面でご心配なら、優良な買い手を紹介しますよ」
「売らない」
「では海見さん。仮定の話ですが、さらに状態が悪化しても維持管理できますか?」
 このペースで損失がかさめば遠からず破産する。それでも手放すのだけは嫌だ。
 海見は邑瀬にきつく言った。
「私が言うのもおかしいけど、そこまで心配してるんなら引っ越さない?」
「引っ越したくないからお尋ねしています」
「何も知らないくせに。私が――」
 邑瀬が発言を遮った。
「知っていますよ。海見さんの過去や苦労について。ですが、興味ありません。私は奥さんとの甘い生活を続けたいだけです」
「性格悪い」
「いくら大家さんでも、『連中』の仲間に優しくできません」
 邑瀬は目を細めた。
「怒っていますよ。『連中』にイベントを潰されて。報復の手段を選んでいるところです。治外法権なのか日本憲法が適用されるのか、判断に迷う部分がありまして」
「あれはフィンチの単独行動。私も『みんな』も知らなかった」
 彼が望んだ通りに切り捨てる。すべての汚名は彼に被せて、団体は清廉潔白な被害者のふりをする。効果的な事件だった。スターに対する悪印象を与え、楽しみを奪う。ついでに海見は『仲間』に戻してもらった。
 ……だが、あれは失敗だ。同じ概要の事件を重ねすぎた。不自然な一致に気づかれれば、非難の声を上げる者は疑問を持たれるだろう。
 邑瀬は壁から身を起こし、ドアを背に立った。エレベーターが一階に到着しても、海見は逃げられない。
「取り引きをしましょう。フィンチの身柄を預かっています。返して欲しければ、集団について解説をお願いします」
「捨て駒のために、『仲間』を売るわけないじゃない」
「拷問は趣味ではないので、情報を差し出しやすい条件を提示したのですが」
 残念です、と邑瀬は首を振った。
 海見は激しく後悔し、フィンチを憎んだ。危険人物を敵に回した。目的のためならば、平然とした顔で手を汚す人物だ。
 その報復に、正義も倫理もない。
「ダンナの本性を知ったら、奥さん失望するんじゃない?」
「本性ではありませんよ。怒りに我を忘れているだけです」
 精一杯の皮肉は、堂々とした嘘で返される。
 海見は諦めた。尻尾を掴まれるのは時間の問題だ。自分が吐かなければ、邑瀬は別の『仲間』を尋問するだろう。手段を選ばずに。
「団体の名称は『Be Happy Campaign』。規模は二百人ってとこ。ほとんどがエキストラで、ファンが少し。スターはフィンチだけだった。右手をこういう形にして、『Be Happy』って言えば仲間か協力者の合図。主催は後藤枸橘(ごとうからたち)。私の貸してる家に住んでる、七十過ぎのおばあさん」
 銀幕市からスターを消せ、という主張で一つになった、歪んだ仲間達。身を寄せ合っていると、次々と起こる事件に対する怯えが薄らいだ。スターという、漠然とした共通の敵がいることで連帯感はさらに強くなった。
 海見は腰に手を当てた。他に何を聞きたい? と目で促す。
「カラタチさんが、反スター団体をまとめたきっかけは?」
「知らない。滞納した家賃を取り立てに行ったら、もう団結させてたわ。カラタチさんの話はすごく納得出来――」
「スターを嫌う理由は何ですか?」
「……色々。聞いて回ったわけじゃないけど、真っ当な理由はほとんどなくて逆恨みや八つ当たりが多かった」
「いえ、統計ではなくカラタチさんの理由です」
「知らない」
「どうやったら仲間になれますか?」
「カラタチさんと話して、認めてもらえれば仲間よ。特にエキストラは大歓迎」
「そうですか。ありがとうございます」
 邑瀬は軽く頭を下げて、エレベーターを出る。敵である海見の事情など斟酌しない、特大の悪漢だ。
「そうそう、フィンチは後ほどお返しします。処分する手間が省けました」
 思い出したように付け加え、市役所職員は歩き去った。
 海見は操作パネルに駆け寄り、最上階のボタンを押す。必要なものを持って逃げなくては。
 裏切りに対する罰が怖い。邑瀬の報復に巻き込まれることが怖い。それに比べたら、スターなんて無害な存在だ。





 数日後、邑瀬はダイニングレストランでテーブルを囲んでいた。
 集まった人々に一礼する。
「お集まりいただきありがとうございます。まず、個人的な依頼であることをご承知ください。……手加減したくなかったので」
 ほの暗い笑みを浮かべた。
「反スター団体、『Be Happy Campaign』を壊滅させることが目的です。団体に参加するふりをして油断を誘い、叩きのめします」
 よどみなく言い切る。どちらが悪役だかわからない。
「尊厳や人道なんて踏みにじって息の根を止めてやる――つもりでしたが、主催者の後藤枸橘に関して、気になる情報を得ました」
 ウェイターが料理の皿を置く間、邑瀬は口を閉ざした。
 彼が去ってから、話を続ける。
「バッキーと一緒にいる姿が、何度か目撃されています。スターと同じくバッキーも毛嫌いしていたそうですから、劇的な心境の変化があったんでしょうね。……ちなみにそのバッキー、濃い黄色をしているそうです。市役所に内緒で新色追加でしょうか」
 冗談めかした口調だが、その顔はまったく笑っていなかった。

種別名シナリオ 管理番号682
クリエイター高村紀和子(wxwp1350)
クリエイターコメント「スターに対する憎しみ」をテーマとしたシリーズ第三弾、そして最終話です。

今回は、邑瀬にスカウトされて例の団体を潰しに行く――という体裁になります。
敵はスター嫌いの連中ですので、特徴的な外見の方は風当たりが強いかもしれません。
参加者制限はありませんが、どす黒く重いシリアスになることをご承知ください。

邑瀬は暴走気味です。顔面を殴ってでも止めるべき場面があるかもしれません。

参加者
本陣 雷汰(cbsz6399) エキストラ 男 31歳 戦争カメラマン
ヘンリー・ローズウッド(cxce4020) ムービースター 男 26歳 紳士強盗
刀冴(cscd9567) ムービースター 男 35歳 将軍、剣士
鳳翔 優姫(czpr2183) ムービースター 女 17歳 学生・・・?/魔導師
<ノベル>

 見慣れぬ色のバッキー。鳳翔優姫は即座に可能性を指摘する。
「ムネモシュネの友達って路線?」
 自主映画制作代行サービスの社長を操っていた、【不穏の種】の撒き手。あれの同類と仮定すれば、とてもシンプルな仕掛けだ。
 本陣雷汰は豪快に笑って、キツめの冗談を飛ばす。
「どこぞの研究所を真似した神様が、新色の実験をしてるんじゃなければな」
 邑瀬が愛想笑いで追従する。
「データの使い道は言葉通り、神のみぞ知る、と」
「…………」
 優姫は邑瀬の態度に警戒心を抱く。悪意に悪意で報いた、後は。連鎖の果てに、どうなる。
 雷汰にも同種の危惧があった。連中からは火種の匂いがする。邑瀬からも。燃え始めれば、便乗して騒ぎ出す連中が出てくるだろう。こんな愉快な場所を、焦土にするのはつまらない。
「では明日。よろしくお願いします」
 邑瀬は慇懃に頭を下げた。





 翌日は快晴だった。
 雷汰と優姫は、邑瀬の運転するルノー・ラグナに乗っていた。中心部から二十分ほどかかるという。
 煙草をくわえて、雷汰は窓枠に肘をついた。辛気くさいが興味深い仕事だ。楽しめる部分は楽しもう。流れる景色を眺めていたが、窓ガラスに注意が移る。
 同乗者の横顔が映りこんでいた。思春期の少女にしかできない表情だった。深淵を見るような目をしている。
 雷汰はカメラを取り出し、過ぎ去る一瞬をシャッターで切り取った。
 優姫はまばたきをして、彼を見る。目を細めて笑いかけた。優姫はつられて緊張を解く。
「……ファンもスターもエキストラも皆、仲良く出来たらいいと思う」
「そうだな」
「夢のような理想だけど。叶わない、かな」
「叶うぜ? まずはあんたが、世界中の人間と仲良くすればいい」
「無理だ」
 優姫は即答した。世の中には相容れないタイプの人間がいる。
 雷汰は苦笑を浮かべた。若さに由来する頑固さは、彼にも覚えがある。
「なら無理だ。ところで邑瀬、カラタチの家とは方向が違うが?」
「熱烈な協力者が増えました。お伝えするのを忘れていました、すみません」
 口先だけ謝って、邑瀬は公園の前で停車する。
 車に少年が駆け寄った。これといった特徴のない、小学生ぐらいの子供だ。助手席のドアを開けて乗り込み、シートベルトを締める。
 ふたたび動きだした車中で、少年は邑瀬に尋ねた。
「あんた、どうして俺に声をかけなかった?」
「刀冴さんは、肝心な部分で嘘を吐けない方だと思いましたので」
「必要な嘘なら吐くしかねぇだろ。そんぐらい承知してる」
 強い口調で、刀冴は言い切った。
 邑瀬はバックミラーに目をやり、刀冴の覚悟を試す。
「例え話ですが。優姫さんに『スターなんか死ね』と言えますか? もっとひどい罵倒語でも構いませんが」
 刀冴は後部座席を振り返った。表情は迷い揺れたが、口は動かなかった。動かすつもりもなかった。
 優姫は悲しさと嬉しさを感じた。甘い人だ。そして優しい。お互い承知の嘘なのに、彼女を傷つけまいと葛藤している。
「その程度の演技、自然に出来るようお願いします」
 厚顔な邑瀬に対して、雷汰はため息の代わりに紫煙を吐いた。
「おまえ一人で連中を潰せるぜ、充分。優秀な幹部なんだろ?」
「そんな、折り目正しい近所付き合いをさせていただいているだけですよ。過大評価をありがとうございます」
「あんたは、」
 刀冴は言葉に詰まった。押し寄せる怒りが、喉を塞いだ。



 着いたのは、人でにぎわう集会所だった。市境にほど近い地区だ。
 広い駐車場は遊び場も兼ねているらしく、子供達が走り回っている。木陰では、老人が缶ビールを片手に雑談していた。
 撮影に使われたのか、洒落た外観の建物にはひっきりなしに人が出入りしている。
 刀冴は驚いた。危険な集団の本拠地には見えない。盆の帰省で賑わう田舎、そのものだ。
 四人は車を降りた。邑瀬が会釈をすると、老人の一人が叫んだ。
「キタダの三男坊! お客さんが来たぞ」
 建物の陰から、気弱そうな青年が転がり出た。水まき中だったのか、ホースを握っていた。
 そのまま一直線に走るから、伸びきったホースに引っ張られて転ぶ。ギャラリーが爆笑した。遠慮ない子供からは、バカだと指をさされる始末だ。
 照れ笑いをふりまき、キタダは車まで走ってくる。邑瀬は改めて頭を下げた。
「遅れてすみません」
「とんでもない。邑瀬さんが来てくれて、仲間達は大喜びしてる」
 刀冴はなんともいえない顔で邑瀬を見上げた。何が近所付き合いだ。待望の人材ではないか。
 優姫は確認を取る。
「仲間じゃないんだよね?」
「おおかた、警察関係で恩を着せたんだろうよ」
 雷汰の推理に、邑瀬は曖昧な笑みを浮かべた。
「かーくん、ちょっとちょっと」
 キタダが呼ぶと、一人の少年が遊びの輪から抜けた。
「案内頼む。カラタチさんに会いに来た人達」
「オッケ、ばあちゃんとこ連れてってやるからついてこいな。あとお前」
「俺か?」
 指名されたのは刀冴だ。
「遊ぼうぜ。大人の話なんかつまんないからさ」
「行っておいでよ」
 優姫は背中を押した。
「情熱をぶつけるのは、後のお楽しみだぜ」
 雷汰もひらひらと手を振る。刀冴の性格は、嫌いではないが御しがたい。
「後でな!」
 刀冴はいったん別れて、遊び仲間に加わった。団体の人間から話を聞きたいと思っていた。仲間に子供が含まれるなら、彼らの意見も貴重なものだろう。
 かーくんに腕を引っ張られ、優姫と雷汰は建物へ向かう。
「後で合流します。それまで、ご自由にお過ごしください」
「了解」
 優姫も承知した。――合流が、行動開始の合図だ。
 残った邑瀬とキタダは、エアコンと防音を求めて車に乗った。
「仲介ありがとうございます、ヘンリーさん」
「どういたしまして」
 ヘンリー・ローズウッドは、邑瀬が画策する前から集団に潜り込んでいた。
 最高の観客席から、悪化する対立関係を観察していた。使いやすく害のない人物だったのが幸いしたのか、『キタダ』はそれなりの地位を得ている。
 邑瀬に声をかけられたのは、ヘンリーが一人目だった。すでに内部にいると告げた時の、驚いた顔は滑稽だった。だから仲を取り持った。
 観客としては過ぎた行為だ。この一幕が終わったら、キタダは消えよう。
 内部の人間模様を思い出し、ヘンリーは微笑を浮かべる。
「面白い集団だね。実体は武装した地域コミュニティ。近所付き合いの延長で殺人をしている」
「催眠商法にひっかからないか心配です」
「ひっかかりそうだね」
 ヘンリーはくすくすと笑った。
 ところで、と邑瀬は話題を変える。
「新色のバッキーを、ご覧になりましたか?」
「不自然な黄色だったね。また操られている、なんてオチかい?」
 自主映画制作代行サービスのように。
「可能性はあります。反スター団体が結束し、武力行使を始めたのは最近の出来事です」
「ワンパターンだね。お約束と言えば聞こえがいいけれど、結局は同じことの繰り返しか」
「仕掛けは同じでも、アレンジ次第で目新しいものになりますよ」
「腕の見せ所だね、舞台監督」
 矛先を向ける。邑瀬は笑ってはぐらかした。
「あのバッキーはスターの仕業かな? それとも、他の何者かが関係している?」
 邑瀬はわざとらしく眉を寄せて、首を左右に振った。
「一介の公務員にはわかりません。ともかく、お礼は後日」
「どうも」
 邑瀬の食えない笑顔に促され、小さな密室から出ればキタダに戻る。
 ヘンリーはずっと上機嫌で、ずっと不愉快だった。
 楽しいクライマックスはすぐそこだ。
 だが、この演目は銀幕市を弄ぶ存在が用意したものだ。隠れた姿を引きずり出せない。



 優姫は途中で女性陣に捕まり、たどり着いたのは雷汰一人だった。
 後藤枸橘は二階で、同世代の友達と世間話をしていた。七十代とは思えぬ元気な身振りだ。
 雷汰は違和感をくつがえす違和感に気づいた。バッキーが一匹もいない。人外の姿もない。
 確かに、反スター団体だ。
 枸橘は人の輪を抜け、雷汰と握手する。そのまま部屋を出て、ベランダに向かった。
「あんたはなんで、加わりたいんだい?」
「スターのせいで商売あがったりさ。あいつらを排除するんなら、協力したいと思ってね」
 用意してきた嘘を並べる。
 会話は及第点だったようで、すぐに仲間として認められた。
「配給会社と俳優組合の奴を紹介するよ。情報以外にもね……頼んだプレミアフィルムを持ってくれば、高く買い取るよ」
「闇の賞金稼ぎか。それも悪くないね」
「人が足りないんだ。すぐにでも仕事を任せたいよ」
「そんなに依頼が?」
「大繁盛さ」
 意外だった。だが、あり得ることだ。スターは映画にない行動をする。映画にいない人物に感情を持ち、関係を築く。映画の人物と違った個性を持つ。
 生きているのだから、変化する。その変化が映画にふさわしくなければ――宣伝効果はマイナスだ。
 カラタチは声のトーンを落とした。
「雷汰、政治家か警察に知り合いはいるかい?」
「必要なら知り合いを当たってみるが……何故」
 調べた限りでは、資金繰りや法律関係の問題はないようだった。
「腕力でスターを排除するのは効率が悪いからね。権力で排除してもらうのさ」
 カラタチには迷いがない。
 雷汰は素直に感心した。ここまで思い切りがいいなら、点在していた悪意をまとめ上げるぐらいたやすいだろう。七十過ぎの老婆という先入観に惑わされてはいけない。
 となると、始まりを知りたくなってくる。
「なんで、スターが嫌いなんだい?」
「あいつらなんにもわかっちゃいない。しきたりを無視して、我が物顔でのさばりやがって!」
 憎しみを全力で叫ぶ老婆は、銀幕市が抱える闇の一角だった。



 裏山に場所を移し、子供達は遊び続ける。刀冴は木登り対決で優勝し、すっかり人気者だ。
 アイスの差し入れを受け取り、沢で休憩となった。
 体の火照りが収まると、しんみりした雰囲気になる。
 ミホと名乗った少女が呟く。
「アイリ、今年帰ってくるって言ってたのに。いないんだ」
「討伐の話聞いて、親がビビって帰ってこないって」
 かーくんが答えると、堰を切ったように質問があふれた。
「神社の向かいが更地になってたのは?」
「なんか一瞬で建物が消えたんだって。スターのせいだろ」
「コウもいなくなったな」
「スターに家を壊されたから、親の仕事場近くに住むって。あっち家賃高いけど、安全がいいって」
「渡辺木材店が潰れてて、びっくりした」
「ロケーションエリアってやつを使えば、セット組むより安上がりなんだって。あと、解体の手間もいらないからって。スターの奴ら相手に商売したくないから畳んだって」
「磯崎の旅館、去年以上に客がいなかったね」
「キャンセル続出だって。スターしか来ないから閉めてたけど、おまえらが泊まる間は営業するんだって。補助金じゃ食ってけないって女将さん言ってた」
 淡々とかーくんが説明する。
 刀冴は黙って聞いていた。
「どうしたの?」
 ミホが声をかける。かーくんは肩をすくめた。
「よくある話だから、気にすんなよ。ここは過疎りすぎだけどな」
「正月は三十人ぐらいいたよね」
「ゴールデンウィークは十五人だっけ。そん時、減ったって思ったけど」
「お盆の今日は八人だね」
 刀冴も人数に含まれていた。嬉しいような、泣きたいような気分になる。
「なんで、スターが憎いんだ?」
「スターが秩序を乱すんだ。放っておいたらめちゃめちゃになる」
「スターがいなくなったら元の暮らしに戻るって、大人が言ってるもの」
 かーくんは最後を引き取った。
「だから退治するんだ」
 刀冴は億千の敵がすくみあがった眼光で、一人一人を見据える。
「……なぁ。スターだって、痛みは感じるんだぜ?」
「は?」
 彼らは胡乱げな顔になった。タケトが口をとがらせ、極論に走る。
「痛いから何。家畜が痛いからって肉食べんのやめるか? 食うじゃん。それと一緒」
「そうそう」
「巫山戯るなッ!」
 腹の底から一喝し、腰掛けていた石に拳固を落とした。砕けこそしなかったものの、破片が飛んで水流を乱す。
 子供達は青くなって沈黙した。
「スターも人間だ。それを忘れんな」
 刀冴は立ち上がった。残酷な現実を告げる。
「俺達はあんたたちより強い。人間を滅ぼしてスターだけの町にすることだって出来る」
「……でも、トーゴは僕達を殺さなかった」
 事実に気づいたかーくんに、てらいのない笑顔を向ける。
「友達を傷つけるわけねぇだろ」
 子供達は囁きかわした。
 親や友達と一緒に育ててきた、スターへの憎悪。花を咲かせる前にしおれていく。
 彼らは引き返してくれるだろうと、刀冴は信じた。



 優姫は準備の助っ人に駆り出され、台所と広間を往復していた。
 近所付き合いの宴会だと言うが、団体の集会だろう。雰囲気に共通点のない人達が、他人行儀な敬語で話している。危険な内容もちらほら聞こえた。
 大皿料理を運んだ時、広間の隅に座るバッキーに気づいた。禍々しい黄色だが、色以外におかしな点はない。
「あれは?」
 一緒にいた女性に尋ねる。
「たんぽぽって名前よ」
「こんなところにバッキーがいるんだ。カラタチさんは知ってるの?」
「連れてきたのはカラタチさんだからね」
「どうして大嫌いなバッキーを連れてきたのかな?」
「理由があるんでしょ」
 あっさりしたものだ。
 台所に戻る彼女から離れ、優姫はバッキーに近寄った。
 仮にムネシュモネのムネーメと同種の存在であったとして、退治するだけでは収まらない。波紋は広がりすぎた。呼び起こされた感情は簡単に静まることはないだろう。
 だが、倒せば解決が始まる。
 幸いと言うべきか。バッキーに注意している者は一人もいなかった。
 優姫は好奇心を隠せないふりをして、バッキーの姿をした『何か』に近寄る。撫でる仕草で手を伸ばす――すみやかに殺すつもりで。
 『何か』は瞬時に姿を変えた。
 ねじれた一対の角に、にゅうるりと伸びた尻尾。
 尖った尻尾が、優姫の手に刺さった。肉に埋まった箇所から、毒がまわる。

 人は守るべきもの。守ることは誇らしいこと。鳳翔優姫の『設定』だとしても、彼女はそれを是とする。領域を侵しているのはスターの側、秩序から逸脱した者は狩られて当然だ。至極当然のことだ。
 二年前にあった秩序は、誰が乱した?
 ――魔法だ。それを排除するという『Be Happy Campaign』は正しい。
 それなのに、自分は何をするつもりだった?

 世界が不安に染まった。



 刀冴は少年の姿をしたまま、集会所に戻った。人数はかなり増えている。
 数人ごとに固まり、共通の話題で意気投合している。聞くに堪えないスターへの悪意だ。
 子供らしさを必死に保ち、刀冴は大人に尋ねた。何故スターを憎むのか、と。一人が話せば、それが呼び水になり過激な意見が続出する。
 そのうち、誰かが言った。
「偽物なんて消すべきだからだよ」
 その発言に対する反応は、賛同のみ。
 刀冴はやるせない怒りを感じた。それに、これ以上耳を傾けても得るものはない。
「俺達が偽物だとして、あんたの命が本物だって誰が証明できる?」
「仲間じゃないぞ、このガキ」
 刀冴は魔法を解いた。長い耳に、刺青が左半身を覆う偉丈夫。目立つ姿だし、ジャーナルにもよく登場するスターだ。
 牙城を侵されて、集団は混乱に陥った。興奮が事態の悪化に拍車をかける。
「スターだ!」
「敵だ」
「敵だ」
「殺せ!」
 先に暴力に訴えたのは、集団側だった。数に物を言わせて、素手で襲いかかってくる。
 刀冴は殴り、肘を見舞い、蹴飛ばした。数秒で五人が地面に転がった。警戒からか、包囲の輪が広くなる。
「殴られるって、骨が折れるって、痛ぇだろ?」
 刀冴は鼻をおさえてうめく男に言った。
 手加減はしている。殺すつもりはない。殺したら同類だ。
 刀冴はぐるりと見渡して、連中に叫んだ。
「俺達だって、おんなじ痛みを感じてんだ!」
 自分がされて嫌なことを、他人にしない。子供でも知っている、当たり前のことだ。
 だが、正論は連中を煽った。自分が正しくないと知っている者ほど、指摘されると逆上する。
 彼らが暴徒になる――
「どいて」
 寸前。少女の声が冷静さを呼び戻した。
 人波が左右に割れ、優姫が歩いてくる。手には黒塗りの日本刀、肩には真っ黄色の異形。
「私は人を守るんだ。……だから」
 優姫は鞘を取った。白刃が光をはじく。
 少女神のように、純粋で邪悪な姿だった。
「人の秩序を脅かす刀冴を、狩る」
 風を斬る一撃。
 刀冴は覚醒領域を解放した。瞳に白金色が宿る。避けて、蹴りを放つ。
 優姫は後方に跳んだ。着地と同時に車のルーフを蹴って、舞う。
 刀冴は車止めの支柱を抜いた。落下の勢いが加わった斬撃を流し、腹を突く。
 軽い体は飛ばされ、はずみながら転がる。止まるとすぐに立ち上がり、彼女は走る。
 先の潰れた支柱を捨て、刀冴は迎え撃った。手加減は死を招く。

 格の違う戦いを、人々は遠巻きに見守っていた。
 共倒れになりますようにと、祈りながら。



 外の喧噪が種類を変えた。
 二階のベランダにいた雷汰は、何気なく駐車場を見下ろす。瞬時に血相を変えた。
 派手な戦いが繰り広げられている。
「おいおい」
 片方は一緒に来た優姫だ。停まっていた車や建物の玄関付近、近辺の設備がかなりの被害を受けている。
 カラタチは鬼の形相で、手すりを握りしめる。
「スターの分際で、舐めた真似を!」
「行ってくる。残った方を仕留める役が必要だろう?」
「頼むよ。助かる」
 カラタチは駐車場を凝視していた。だから気づくのが遅れた。
 雷汰が出ていってすぐ、人が来たのを。
 シルクハットを被ったその人物は、手すりに肘をつきオペラグラスを覗く。
「あちらは面白い展開だね」
 カラタチが事態を飲み込むのに、時間を要した。
 ヘンリーは芝居がかった仕草で彼女を振り返る。
「レディの肩にいるバッキーもどきも、よく見える」
「スター! スター! スターめ!」
「実のある話をしよう、ミセス・カラタチ」
 紳士的な態度に拳銃のオプションがつく。殺してやりたい、と顔に書いてカラタチは叫ぶのをやめた。
「『アレ』の正体に興味があるんだが、話してくれるかい?」
「言わないよ」
「例えば団体内部にいるスターの情報を、僕は掴んでいる。少なくない数だ」
「言わない」
 カラタチは頑迷に繰り返す。黙秘はもちろん、スターと取り引きしたくないようだ。
「お互いにとって損はないと思うけど」
「黙っていても状況は悪化するばかりですよ、カラタチさん」
 第三者が割り込んだ。邑瀬がベランダの戸口に立っていた。
 計画が台無しになった怒りを綺麗に隠し、業務用の笑顔に毒を混ぜて、カラタチに向ける。
「お話しいただければ、『Be Happy Campaign』について警察に説明せずに済みます」
「裏切るのか!」
「そもそも仲間ではありませんし、先に危害を加えたのはそちらです。姿を変えた新色のバッキーについてお話しくだされば、穏便に収めるよう考えますが」
 ヘンリーは卑怯な言い草に、笑いを禁じ得なかった。
 このタイプは悪役会で腐るほど見ている。実力とはったりの境界を見抜けば、扱いやすい手駒になる。邑瀬のそれがどこにあるのか、まだ判断がつかないが。
「言わない」
 カラタチは言い切った。何度も室内を気にしている。
 ヘンリーは親切に教えるふりをして、邑瀬に鎌を掛けた。
「時間を稼いでも、誰も来ないよ。ミスター・邑瀬がそう仕組んだから」
「ええ、無駄です」
 余裕たっぷりの邑瀬の笑顔に、動揺が滲んでいた。実際に仕組んだかどうかは、興味がない。どんな材料でも武器に変えるしたたかさが、邑瀬にあるか確認してみたかっただけだ。
 一方、追い詰められたカラタチは反撃の機会を探っている。
 ヘンリーは中だるみした幕間を切り上げた。狙いを定め、引き金を引く。
 破裂音。邑瀬が膝を折った。銃弾は太腿を貫通している。
 カラタチは目を見開いた。
 ヘンリーは優雅に一礼した。カーテンコールの緞帳が下りるとき、役者が自然とそうするように。
「逃げるチャンスが出来たよ。戦略的撤退、と言葉を飾る方がお好みかな?」
「外道が!」
 老婆は叫び、そして逃げた。
 ヘンリーはゆっくりと、邑瀬に歩み寄る。
 足を抱えて丸まり、邑瀬は紳士強盗を睨んだ。分厚いメッキがはがれ、本性が覗く。
「何故」
「身の安全を優先したから。窮鼠に噛まれる被虐趣味はなくてね」
「貴様も、土壇場で裏切るか」
「ミスター、自分で言ったはずだよ。仲間ではないから裏切りに当たらない、と」
 協力関係は一時的なもので、すでに終わっていた。だから非難するいわれはない。
 揚げ足を取られた邑瀬は、反撃の糸口を探している。
「誰かに訴えるかい? 反スター団体を潰しに行って、スターに撃たれた――おかしな話だね。きちんと説明すれば信じてもらえるかもしれないけれど」
 先回りして封じる。邑瀬は顔を歪めた。負けを受け入れた。
 集団にいたのは『キタダ』だ。ヘンリー・ローズウッドではなかった。両者をイコールで繋ぐには告解が必要となる。聖職者ではなく、法の番人に対して。
「そう。僕の実在は証明不可能だ」
 ヘンリーは自分の言葉に失笑した。スターは架空の存在だ。最初から『ありえない』という前提なのだ。
 BGMとなっていた地上の騒音が途絶え、パトカーのサイレンが高らかに鳴り響く。
 血溜まりを踏まぬよう、ヘンリーは客席を立った。
「僕はね、スターもエキストラもムービーファンも嫌いだよ。……知っていたかい?」
 最初からあった感情は、死に至る病に育まれて大きくなっていく。
 絶望は、内側から彼を蝕んでいる。



 返り血か、自分の血か、わからない。
 優姫は一個の兵器となって、刀をふるっていた。
 彼女には無尽蔵の体力がある。四肢をもがれでもしない限り戦える。
 刀冴は頑丈な肉体の持ち主で、傷つくことにためらいがない。
 そして互いに、負けられない。
 同等の実力が災いし、戦闘は長引いている。
「目を覚ませ! あんたはそいつに操られてんだ!」
 刀冴は肩の異形を指した。
 首に触れる真っ黄色の毛皮が、優姫の不安を増長させる。
「僕は人を守る。だから刀冴を倒す!」
「俺達も人だろ!」
 刀冴には、迷いがない。
 また、優姫の信念が揺らいだ。
 ここは映画とは違う場所。だから、人の定義も違う。スターは人だろうか。
「人なのかな……? 守る必要のある、人なの?」
「人だ!」
 刀冴が正面から飛び込んできた。
 優姫は反射的に突きを繰り出す。確かな手応えがあった。
 だが、彼は止まらない。体で刀を封じ、優姫の腕を掴む。鳩尾に膝を乗せて押し倒す。
 地面に触れた背中が、二人分の体重にきしんだ。
 刀を捨てても手首を取られ、封じられる。
 膠着した。
「俺達、スターも人だ」
 刀冴は繰り返した。白金色の瞳から、涙が落ちる。
 頬の傷がちりりと痛んだ。
 その時、異形が動いた。
 食いちぎるチャンスと、刀冴を狙う。
「そうはいかないぜ?」
 見守っていた雷汰が、出番とばかりナイフを投げた。
 数本が身をかすめる。
 異形は吠え、跳躍した。したたるよだれが糸を引く。

 ざぶり、とナイフが異形に致命傷を与えた。
 確かな手応えだった。異形は地面に落ちる。
 バッキーに擬態していた『何か』は、よどんだ煙になった。

 涼しい風が煙を掃いた。何も残らなかった。集会所の人々は、崩れるように倒れる。
 優姫の心にあった不安も、吹かれて消えた。
 雷汰は投擲したナイフを回収する。
 サイレンが近づいてきた。
 雷汰は笑って、二人に携帯電話を見せる。
「事件が起きたら警察の出番だ。説明が面倒だがな」
 刀冴は覚醒領域の展開を終了した。途端、反動に襲われる。
 指先までみっしり鉛を詰められたような疲労感。刀冴は優姫の上に倒れた。
 優姫も似たような状態だった。最後は気力だけで戦っていた。終わった今、骨折やら内臓破裂やらで重傷なのを自覚する。
 刀冴が申し訳なさそうに言った。
「重くて悪ぃな」
「仕方ないよ」
 謝るポイントを間違えているが、優姫も女性という自覚が乏しい。
 駆けつけた警官は、現場に怯えた。
 気持ちいいほど破壊された駐車場と、気絶した人々。
 雷汰はそつない話術で事情説明をしている。
 折り重なって倒れる二人に、及び腰の警官が近づいた。何をしていたのか、と尋ねられる。
「「喧嘩」」
 とっさの言い訳が重なった。
 笑いがこぼれる。口の中が鉄の味に満ちていた。





 後日。
「邑瀬はいるか?」
 刀冴が顔を出すと、対策課に微妙な空気が流れた。
 邑瀬が独断で『Be Happy Campaign』と話し合いに行き、その場で騒動に巻き込まれた。一般職員はそう知らされている。
 その現場で大暴れした片方が、元気な姿で現れれば平静ではいられない。
 灰田が申し訳なさそうに答えた。
「邑瀬は負傷のため入院中です」
「植村さん大噴火で、頭の血管ぶっちぎりそうでした」
 山西が駆け寄り、声をひそめて告げる。怒鳴り声を思い出したのか、首をすくめた。
 刀冴はなんだかわかる気がして、頷いた。
「それで、敵の正体はわかったか?」
「後藤枸橘さんは、何かが自分の中に入ってきたと証言しています。『鉄の粛正・イアペトス』と名乗っていたとか。スターは嫌いだけれど、反スター団体をまとめあげたり、過激な行動に出たり……なんてしない、と主張しています」
 灰田は神妙な顔になった。
 銀幕署も困っているらしい。団体は、スター狩り以外にも犯罪の疑いが山ほどある。だが、代表の証言が得られず捜査が難航している。
「そうか」
 敵の片鱗を掴んだ、と感じた。掴んだ手を離さず、引きずり出せば本体が現れる。
 これから、だろう。いつかはわからないが、遠くない未来にそいつらと戦うことになる。
 刀冴は山西に伝言を頼む。
「邑瀬が戻ったら、言ってくれ。いい同僚に恵まれてんだから、困ったら相談しろって」
「俺、いい同僚っすか!?」
「ああ」
 太鼓判を押して、刀冴は去った。
 邑瀬の扱いをめぐって政治的な駆け引きがあったことを知るのは小数だ。
 限りなく黒に近いグレーは、戒告処分で済まされた。
 誰かにとって必要な人材なのだろう。――今は。



「元気か?」
 雷汰は銀幕市立中央病院に、見舞いに訪れた。
 暇をもてあましていた優姫にとって、ありがたい来客だ。
 治ってきたのに、気軽に出歩けないのはストレスが溜まる。
 パイプ椅子を引き寄せ、雷汰はベッドの脇に座った。
「気にしてた連中のこと、調べて来たぜ」
「うん」
 優姫は身を乗り出した。
「海見はマンションを売って引っ越した。そこでフィンチと暮らしてる。近所では仲のいい夫婦って評判だ」
「そうなんだ」
 優姫は胸をなで下ろした。
 悪人だけど、スターを殺していた人達だけど、反省して謝ってやり直してくれるなら、いい。
「皆が、仲良くするのは無理だってわかったよ」
「そうか」
「でも、仲良くなくても一緒に住んでいられるんだね。今の銀幕市みたいに。ちょっとだけ譲り合って、優しさを忘れないでいれば。だから」
 優姫は雷汰に向き直った。
「もう少しだけ、貴方達の居場所を貸してください」
 手をついて、頭を下げた。
 雷汰はうめいて、頭をかく。
「お互い様だ、改まりなさんな。……それはそうと、現像出来たぜ」
 雷汰は写真を差し出した。行きの車中で撮影した、優姫の横顔。
 自分ではないような表情に、彼女は照れくさいものを感じた。
「一歩間違えれば盗撮だね」
「間違えてないから結果オーライだろ?」
 そうだね、と優姫は納得した。



 雷汰は次いで、邑瀬の病室へ向かう。
 優姫とはフロアが違い、警戒のレベルが違う。悪徳公務員がどんな秘密を持っているのか知らないが、好奇心を持てば人生が変わるだろう。
 病室に入ると、邑瀬はいなかった。窓際に、黒い巻き毛の男が立っている。
「ミスター・邑瀬は診察中だよ」
「それは失礼」
 雷汰はきびすを返す。事件の時に撮影した写真を、売るつもりだった。出直そう。
「稚拙な二番煎じだったね」
 彼は事件を評した。他人事のように。
「同じ仕掛けに同じ結末。張りぼての大道具ばかり立派だった」
 雷汰は優姫から聞いている。この事件は『自主映画制作代行サービス』の時と、共通していると。
「見ていたのか」
「ああ」
「争いを見るのが面白いのか」
「いや」
「そうか」
「……けれど」
 雷汰は産毛が逆立つのを感じる。
「迫真の舞台は、楽しかったよ」
 振り返ると、ヘンリーの姿はなかった。





「イアペトスの、ジイさん、失敗したー。でー、他に、誰がいた。かな?」

クリエイターコメント大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。
悪意と対立を好む記録者により、相当歪んだ表現となってしまいました。

「時代遅れの古くさい老人」のあがきが無駄になりますよう。
公開日時2008-09-10(水) 22:40
感想メールはこちらから