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<ノベル>
人々の応援する声が響き、和やかな空気の中始まった銀幕市民運動会だったが、1軒の洋館前で佇む人型ロボットと黄色い髪の青年は険しい表情だった。
「赤組の皆様は無事なのでしょうか?」
人型ロボットのサマリスは女性の様な優しい声で、同じ白組の四幻アズマに話しかけた。青年は軽く笑いながら彼女の目をまっすぐ見て話し出す。
「対策課も控えていますので最悪のケースは無いと思います。それよりも……」
アズマの視線は眼前の正面玄関に向けられる。その先にはロボット犬が徘徊していて機械音だけが空しく庭内に響いていた。サマリスは悲しそうな顔を浮かべながら左腕に内蔵されたサブマシンガンをセットし、アズマは体全体を金色に光らせる。
「私が出来る限り援護をしますので、アズマ様はロイド様の救出をお願いします」
切なる願いを聞くとアズマは庭に突っ込む。侵入者を見るとロボット犬達は爪を立てて襲い掛かるが、次の瞬間には弾丸の雨が降り注がれて黒煙を発しながら倒れ込む。アズマはサマリスの方を向いて拍手を送った。
「前方来ます!」
サマリスの叫びを聞き、アズマが前を見ると自分に襲い掛かるロボット犬が見えた。彼は焦る事無く胸に手を置き、1本の偃月刀を取り出すと口に向けて剣を振るうと、番犬は真っ二つになり地面に落ちて行く。
「私だって戦えます。せっかくの運動会で同じ組なんです。出来ればサマリスさんと一緒に私は歩みたいです」
アズマは笑いながらサマリスに言うと、彼女は真剣な表情のまま近くにあった木に登ってマシンガンを構え、飛び掛るのをためらっているロボット犬の足元に威嚇射撃を放つ。
「私はあくまでロイド様の救出を第一にしたいです。それに無駄な破壊活動は行いたくありません。ここの皆様が通してくれるのなら話は別ですが……」
目を伏せて辛そうな顔を見せるサマリスに、アズマは黙ってロボット犬達を指差す。侵入者を排除する為に作られた番犬達は後ずさりを始め、2人に対して一本の道を作り上げていた。
「自衛本能はあるみたいで安心しましたです。競走です!」
元気一杯に言って走り出すアズマを見ると、サマリスは慌てて木から降りて彼の背中を追いかけた。子供の様な彼の態度に苦笑しつつ、彼女の頭には救出した後の楽しげな光景が浮かび、それを現実にする為にアズマを追い越す様な勢いで走り出す。
屋敷内に入る為のドアを2人で開けると、ガードロボット達は目を赤く光らせて侵入者達を排除しようと電磁棒を手に持って突進し、アズマの頬を棒で突くと同時に大量の電気を流し込む。
「アズマ様!」
体全体が金色に光り輝き電気音が響くアズマを見て、サマリスは悲痛な叫び声を上げるが、アズマは彼女に対して右手を突き出し、左手に雷で作り上げた柳葉飛刀『雷柳』をガードロボットの顔面に投げ付ける。カメラアイを雷の刃が貫くと、黒煙を上げガードロボットは膝を付いて動かなくなる。
「言ってなかったけど、私は雷の剣の守護者。ちょっと痛いけど、電気系統の攻撃は効かないんですよね、ただ……」
戦闘不能になった同型を見てもガードロボット達は威嚇行為を止めず、電磁棒と電磁銃を構えて今にも飛び掛ろうとしていた。
「私も動けなくなるだけにしたいんですが加減が難しいです。ですので援護をお願いします」
アズマは雷柳をロボットの脚部に投げ付けて動きを止めた。それを見るとサマリスは右腕を突き出し、内蔵されたライフルを出して同じ様に脚部を狙い撃つ。
「急ぎましょう! 総司令さえ抑えれば、彼等も分かってくれるはずです!」
真剣な顔で言うサマリスにアズマは黙って頷き、雷柳をロボットの足元に投げながら走り出し、サマリスもマシンガンで地面を撃ちながら後を追った。それでもロボット達は追跡を止めなかったが、2人は構わずにゴール地点である中央制御室に向かう。その様子を監視カメラは機械音を上げながら収めていた。
モニターに映し出された2人の侵入者の快進撃を見ると、ベルゼウブは乱暴に画面を殴り飛ばし、サーベルを手に持ってロイドのAIが組み込まれた球体の下に向かう。
「このポンコツが! 情けないと思わないのか?」
ベルゼウブは物言わぬ球体をサーベルで斬り付けた。目を見開いた状態で攻撃する老人に恐怖を感じて室内は真っ青に変わる。
「そんな事をしても無駄だ! 話す事も出来ない鉄くずに生きる価値など無いわ!」
サーベルを突き立てて球体を突き刺そうとした瞬間に後方から轟音が響く。ベルゼウブが振り返って見た物は大量のガードロボット達に羽交い絞めにされながらも、彼に怒りの視線を向けていた2人の侵入者だった。
「ロボットにも心はあります……私は貴方を絶対に許しません!」
叫びと共にサマリスの左腕からマシンガンが飛び出して弾丸の雨が降り注がれるが、ベルゼウブが手をかざすと大量のコウモリが現れ、弾丸を代わりに食らい地面に落ちて行く。
「何て事を……あなたには良心と言う物が無いのか?」
コウモリの死骸を抱きかかえながらアズマは叫ぶが、ベルゼウブは何食わぬ顔でコンピューターの前に立ち、キーボードを叩きながら話し出す。
「貴様は実験動物のモルモットに情が湧くのか? 子供じみた意見なども聞きたくも無いわ!」
ベルゼウブがEnterキーを押すと同時に、2人の体を押さえ付けていたガードロボット達は頭から黒煙を発しながら倒れ込んだ。自由になった2人は立ち上がりながらも心配そうに皆を見つめた。
「言っておくが、ソイツ等はもう只の爆弾だ! 私のプログラミングで全機能を停止する代わりに、5分後には大爆発を起こす様になった! これで貴様等は終わりだ!」
腕を組んで高笑いをするベルゼウブに、サマリスは両腕を突き出し、アズマは胸に手を置いて命の源である剣『雷月』を取り出すと、双方共に老人を睨む。
「ベルゼウブ……貴方の心は最低です!」
憎しみが篭った叫び声と共にサマリスの両腕から大量の弾丸が放たれ、その間を縫ってアズマは体を金色に光らせながら雷月を持ってベルゼウブに突っ込むが、ベルゼウブは慌てずに手を突き出してコウモリを呼び出そうとする。
「どうした? 早く出て……」
ベルゼウブの叫びも空しく弾丸を体中に浴びると同時にアズマの剣で切り付けられ、老人は体中から黒煙を発しながら前のめりに倒れ込んだ。コウモリが出ない事をおかしく思い2人が辺りを見回すと、天井の隅で怯えている一団を見付けた。
「もしかして……ロイドが危険だって教えたの?」
アズマが聞くと部屋全体が黄色い光で覆われて優しい気分にさせた。ロイドの返答を聞くと、サマリスはにこやかな笑顔を浮かべながら武器をしまってコウモリ達に近付く。
「怖い思いをさせて申し訳ありません。もう皆様は自由ですよ」
優しい声で言われてコウモリ達は我先に飛び出して行くのを見ると、サマリスはメインコンピューターに向かい、キーボードを叩き出す。
「AIが破壊されているから修理は無理ですが、せめて爆弾の解除だけはしてあげたいです。このまま道具として終えるのは哀れです……」
悲しげな顔でキーボードを叩くサマリスに、部屋は赤と黄色が入り混じった光を発してベルゼウブへの怒りとサマリスへの感謝を表現した。
「じゃあ、私とお話しましょう」
アズマはロイドのAIが組み込まれた球体を引き抜くと、愛しむ様に抱き締めて微弱な電流を放つ。
「大丈夫。あなたの気持ちは私が同時通訳するです。だから安心して話して下さい」
電気の力でアズマとロイドの心は繋がり、彼の中にロボットの心情が伝わった。穏やかな表情を浮かべながら球体を撫でるアズマを見て、サマリスは作業を止めて2人の下に近付く。
「大丈夫です。ロイド様の気持ちは同じロボットの私は痛い程分かります……」
「待って下さい。ロイドが話したい事あるみたいです」
アズマに言われると、サマリスは屈んで球体をまっすぐ見て彼の話を聞こうとする。自分の話を聞いてくれる相手が現れたのを見ると、ロイドはアズマの脳内に自分の気持ちを伝えた。
「ふむふむ、なるほどなるほど。機械が心を持つのはいけない事ですか? 心とはどう言う物なのですか? だそうです」
ロイドの疑問を聞くとアズマはサマリスの方を見る。サマリスは球体を取ると優しく抱き締めて撫でながら話し出す。
「今自身が感じている物が心だと私は思います。大丈夫、私はロイド様を責めません。もし、これからの銀幕市での生活が不安なら一緒に謝りますから……」
「そう。ゴメンなさいってね」
アズマは立ち上がると球体を少し乱暴に撫でて雷月を突き出す。
「私も人間じゃありません。この剣が無ければ、ただの肉塊です。でも私は生きているし、心も持っている。だから機械が心を持っても良いと思うんだ」
淡々とした口調で話すアズマにサマリスは軽く微笑みかけて彼に球体を渡し、メインコンピューターの前に戻って作業を再開する。
「フフフ。私達3人、良いお友達になれそうですね。でも勝負は別です!」
そう言ってEnterキーを押すと、画面に自分達が中央制御室に入った様子が映し出された。その様子はスローモーションになり、2人が真剣な目付きで見ると、若干ではあるが先にサマリスの顎が室内の地面に付いたのをアップで映し出した。
「今回の障害物競走、私が1位です! やりました!」
得意げにVサインをするサマリスを見て、アズマは苦笑いを浮べると懐から携帯電話を取り出して対策課に電話をする。
「もしもし、こっちの方は終わりましたので、人をよこしてもらいたいんですけど……」
アズマは冷静に現状を伝えて職員にベルゼウブの引渡しと、行方が分からない他の参加者の救出要請を求めた。サマリスが操作をして映し出された画面には、力なくグッタリと倒れ込んでいる参加者達を映し出された。
「そうです。皆、凄く疲れていますが、怪我人は出ていませんので……」
モニターを見ながらアズマはサマリスに向けて親指を突き出す。それに彼女は微笑み返す事で応えると、他におかしな所は無いか確かめる為に操作を続けた。2人の様子を見ていたロイドは自分の気持ちを伝える為、部屋全体を黄色く光らせて2人を労った。
運動会から1週間後、サマリスとアズマは1体のガードロボットを引き連れて洋館が解体される様子を見つめていた。
「サマリスには本当に感謝しています……」
ガードロボットはサマリスに向かって深々と頭を下げた。スクラップになるだけのガードロボットの体を再利用してロイドのAIが組み込まれ、彼は生まれ変わった。サマリスは指先で頭を触り、お辞儀を止めさせる。
「良いんですよ。これはロイドさんが新しい生活を送る為に必要な物なんですから、それよりも……」
サマリスは壊されていく屋敷を指差す。ショベルカーが壁や柱を壊していく度に、ロイドは複雑な顔を浮かべてアズマの方を向いて話しかける。
「私はあの屋敷には良い思い出が1つもありません。なのに何故でしょう? AIが刺激されてしまいます……」
辛そうな顔を浮かべて俯くロイドの頭をアズマは優しく撫でると、真剣な表情で屋敷を見た。
「例え嫌な思い出しかなくても、それは自分が自分だって言う証明なんですから、悲しいのは当然です。でも受け止めないと……」
アズマの脳裏に嘗て自分と戦った1匹の蛇が思い浮かび、彼は辛そうな顔を浮かべて屋敷から目を背けた。負のオーラを纏いだした2人を見て、サマリスは彼等の肩を叩くと屋敷とは別方向を指差す。
「長く生きていれば悲しい過去だって出来てしまいます。それは仕方が無い事です。でも未来はいくらでも変える事が出来ます。私は信じたいです」
そう言うとサマリスは屋敷に背を向けて笑顔で走り出した。彼女に続いて2人も壊れ行く屋敷を振り返る事無く走り出した。自分達が理想とする未来に向かって。
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クリエイターコメント | お2人には感謝しています。ロイドに心を教えてもらった事と大切な仲間になってくれたんですから。これから先、苦難があっても乗り越えられる力、それが絆です。絆を作る手伝いが出来た事を光栄に思います。これからも頑張ります。よろしくお願いします。 |
公開日時 | 2008-10-18(土) 07:40 |
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