★ 【銀幕市民運動会】HEARTtoHEART ★
<オープニング>

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 銀幕市民運動会

 参加者募集!!
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 そんな貼り紙が、市役所の掲示板にあらわれたのは、10月に入った日のことだった。
「ええ、そう、運動会です」
 植村は、ポスターについて聞かれると、ニコニコと、手元の資料を広げてみせる。どうやらこれも彼の仕事のようで……また多忙も甚だしいわけだが、それでも楽しそうなのは、なんだかんだいって、この男はこういうイベントごとが好きなのだろう。
「ムービースターの方も含めて、市民なら誰でも参加できます。会場は自然公園の競技場がメインですが、種目によっては、他の場所を使います。全市をあげたイベントだと思って下さい。紅白2陣営に分かれて競争するんですが……組分けは市役所のファイルの整理番号で行うことにしました。たとえば私は「cmba8550」、灰田さんなら「cvtn8683」。末尾が偶数なら紅組、奇数なら白組ですから……この場合、私が紅組、灰田さんは白組ですね」
 広げられた案内には、さまざまな競技種目のリストが並んでいる。
 運動会と言えば欠かせない玉入れや綱引きといったものから、中には、ちょっと見慣れないものまで。
「いろんな種目がありますよ。当日、飛び入り参加できるものもありますが、参加者を事前に募集しているものもあります。よかったら、あなたも出場してみませんか?」

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 銀幕市民運動会の準備に職員達が慌しく動く中、植村は灯里と一緒に、古ぼけた洋館が映し出された数枚の写真を難しい顔で見ていた。
「これが例のお化け屋敷ですか……」
 悲しげに植村が言うと、灯里は黙って頷き、鞄からSF映画『スターフォース』のパンフレットを取り出し、写真と同じ洋館が映し出されているページを開く。
「これ見た時、私、物凄い腹が立ちました」
 灯里の声には怒気が含まれていて、彼女を宥めながら植村は紹介文を読んでいく。今回、実体化した洋館は、敵の大ボス『ベルゼウブ』が、自分の部下である1体の機械兵のAIを組み込んだ物で、主人公達が数々の罠に苦しめられる様子が描かれている。
「これは見た事がありますけど、このエピソードは賛否両論激しい物でしたからね」
 パラパラとページをめくり、植村が開いた先には洋館の頭脳となった機械兵の事が書かれていた。機械兵達はベルゼウブが世界征服の為、作られた量産型の物だったが、ある日バグが発生し、処分させられそうになった1体の機械兵を主人公達が助け、彼は主人公に感謝し、仲間になる様子が描かれていた。
「主人公達は機械兵に『ロイド』と名付け、色々な事を教えた……」
 映画の世界に入り込み、植村は小さく呟きながら続きを読む。色々な知識を吸収し、様々な経験をしたロイドは1つの疑問を感じる。彼は『心』がどう言う物なのかを知りたがり、その結果1人暴走し、仲間達から離れてしまう。
「そして捕まり、心を理解出来ないまま、絶望に打ちひしがれたまま死んでしまう……」
 ロイドの結末を灯里が悲しげに話すと、植村はパンフレットを閉じ、深い溜息を吐く。
「仲間達は最後まで抵抗したが、最後は撃破せざるを得なかった。もしかしたら、無念な思いがロイドを実体化させたのかもしれません」
「でも、今行っている彼の行動は問題です!」
 灯里は叫びと共に数枚の紙を鞄から取り出し、机の上に叩き付ける。そこには悪戯目的で入った少年、偶然迷い込んだ一般市民などが、屋敷の襲撃によって被害に合い、怪我の状況が描かれていた。
「今はまだ軽傷で済んでいますが、このまま放っておいたら、最悪の事態にも……」
「分かっています! 救いたい気持ちは私も一緒です!」
 話していく内に興奮していく灯里を植村は止め、鞄から銀幕市民運動会に関する資料を出す。
「彼は心を知りたがっている。なら皆で教えましょう、心と言う物を」
「まさか!」
 植村のやろうとしている事が分かり、灯里は素っ頓狂な声を上げるが、彼は真剣な表情で資料を出し、灯里に見せる。
「障害物競走の案が出ていたんですが、場所を迷っていた所です。彼に心を教える良い機会です。救出も兼ねて、皆様には障害物競走に参加してもらいます」
 『救出』と聞き、灯里の顔に安堵の色が見え、半泣きのまま笑顔を浮かべると、植村の手を取り、固い握手を交わす。
「それを聞いて安心しました。皆でロイドを救いましょう!」
 灯里の言葉に植村は力強く頷き、2人は運動会と1人のムービースターの救出に向け、決意を固めたが、その様子を1匹のコウモリが見つめていて、2人に気付かれる前に飛び立つ。



 ロイドのAIが組み込まれた屋敷の中央部には、黒一色で纏められた服を着た老人が光り輝く玉をジッと見つめていた。
「ククク。苦しめ、苦しめ、お前の苦悩が力を強める」
 老人は禍々しい光が強まるたびに、歪んだ笑みを浮かべていたが、使い魔のコウモリが屋敷に入り報告を受けると、苛立ちが顔に出て、部屋を飛び出す。
「愚か者どもが……ここは渡さんぞ! ここは俺に取って最高のおもちゃ箱だ!」
 部屋の主ベルゼウブは肩にコウモリを乗せると、屋敷の中にある罠を点検する為、歩き出した。全てを動かしているロイドのAIは青く輝いていた。自分の中の悲しみを表現する様に。

種別名シナリオ 管理番号767
クリエイター天海月斗(wtnc2007)
クリエイターコメント<ご案内>
このシナリオは10月18日から開催予定のイベント「銀幕市市民運動会」に関連するイベントシナリオです。ノベルでは「当日の競技の結果」が描写され、会期中に公開されます。競技の結果、配点があり、他シナリオや掲示板イベントなどと合わせて、大会の全体結果に影響します。

なお、組分けは「キャラクターID」によって次の通りに行われます。
・キャラクターIDの末尾が偶数……紅組
・キャラクターIDの末尾が奇数……白組
※組分けを間違えないように十分注意して下さい。



ロイドは心と言う物を理解出来ないまま、ベルゼウブによってモンスターハウスに改造させられてしまいました。皆様は障害物競走を兼ねたロイド救出をお願いしたいです。障害物競走の舞台になるから、罠は一杯です。ベルゼウブが用意した物から、ロイドが異分子と見て排除しようとする物、自然と出来た物とあります。ゴールの中央制御室に向かう為、ルートは多々あります。初めのスタート地点と、それを選んだ場合、襲い掛かる罠をこれから紹介していきます。



ルート1 正面玄関
一番の近道ですが、庭には番犬代わりのロボット犬が沢山居ます。掻い潜って屋敷内に入っても、ロイドと同型の機械兵が皆様の侵入を阻止します。腕っ節に自信のある方はどうぞ。



ルート2 裏口
ロボット犬も機械兵も居ませんが、ベルゼウブが主人公達を苦悩させる為に作った、ロイドの苦悩・悲しみのみを抽出して心に持たせた、大型機械兵が居ます。その名は『サイクロプス』怒り・悲しみしか心に無く、パワー・スピード共に群を抜いています。サイクロプスをどう対処するか、皆様のプレイングに期待しています。



ルート3 2階の窓
わざとらしく壁に梯子を付け誘っていますが、これはベルゼウブの罠です。カメラアイが常に見つめていて、人間を見ると見境無くレーザー砲で攻撃をします。これはロイドが人間を見て苦悩し、自分から遠ざける為に行っています。威嚇の為に行っていますが、当たれば結構痛いです。こちらからロイドと会話する事も出来るので、彼と会話をしてみたい方はどうぞ。



ルート4 地下通路
銀幕市に実体化してから、自然と出来た物です。なので、ベルゼウブもロイドもノータッチですが、凶暴化したネズミのたまり場になっていて、自分達の住処に侵入してきた皆様に対し、容赦なく襲って来ます。彼等をどう対処するか期待して待っています。



これらの罠を通り過ぎれば、後はガードロボットが数名居るだけの一本道です。ここでロボット達の攻撃力を書いておきます。

ガードロボット
攻撃方法は電磁警棒と電磁銃のみ、攻撃がパターン化しているので楽な相手だと思います。

ロボット犬
突っ込んで牙で噛み付いてきます。敏捷性が高く、集団で行動するので、ある意味ガードロボよりも苦戦させられる相手です。

サイクロプス
全ての攻撃力がガードロボットの約5倍になっています。怒り・悲しみに任せて攻撃してくるので、動きが読みづらい部分もありますが、攻撃その物は大雑把です。



そしてベルゼウブをどう倒すかですが、遠慮は要りません。思いっきりやっちゃて下さい。因みに彼の戦闘力ですが、コウモリを操り、フェンシングの腕は立ちますが、自衛程度の実力なので、大した事はありません。

中央管理室に居るロイドに対して、どんな心を伝えるかは自由です。寂しい思いをしていたので優しく慰め、暖かい心を教えるも良し。脆弱な心を叱るも良し。どうロイドに接するか期待しています。では最高の運動会と共に1人の悪党を倒し、そして1体の機械を救ってあげましょう。

参加者
サマリス(cmmc6433) ムービースター その他 22歳 人型仮想戦闘ロボット
四幻 アズマ(ccdz3105) ムービースター その他 18歳 雷の剣の守護者
<ノベル>

 人々の応援する声が響き、和やかな空気の中始まった銀幕市民運動会だったが、1軒の洋館前で佇む人型ロボットと黄色い髪の青年は険しい表情だった。
「赤組の皆様は無事なのでしょうか?」
 人型ロボットのサマリスは女性の様な優しい声で、同じ白組の四幻アズマに話しかけた。青年は軽く笑いながら彼女の目をまっすぐ見て話し出す。
「対策課も控えていますので最悪のケースは無いと思います。それよりも……」
 アズマの視線は眼前の正面玄関に向けられる。その先にはロボット犬が徘徊していて機械音だけが空しく庭内に響いていた。サマリスは悲しそうな顔を浮かべながら左腕に内蔵されたサブマシンガンをセットし、アズマは体全体を金色に光らせる。
「私が出来る限り援護をしますので、アズマ様はロイド様の救出をお願いします」
 切なる願いを聞くとアズマは庭に突っ込む。侵入者を見るとロボット犬達は爪を立てて襲い掛かるが、次の瞬間には弾丸の雨が降り注がれて黒煙を発しながら倒れ込む。アズマはサマリスの方を向いて拍手を送った。
「前方来ます!」
 サマリスの叫びを聞き、アズマが前を見ると自分に襲い掛かるロボット犬が見えた。彼は焦る事無く胸に手を置き、1本の偃月刀を取り出すと口に向けて剣を振るうと、番犬は真っ二つになり地面に落ちて行く。
「私だって戦えます。せっかくの運動会で同じ組なんです。出来ればサマリスさんと一緒に私は歩みたいです」
 アズマは笑いながらサマリスに言うと、彼女は真剣な表情のまま近くにあった木に登ってマシンガンを構え、飛び掛るのをためらっているロボット犬の足元に威嚇射撃を放つ。
「私はあくまでロイド様の救出を第一にしたいです。それに無駄な破壊活動は行いたくありません。ここの皆様が通してくれるのなら話は別ですが……」
 目を伏せて辛そうな顔を見せるサマリスに、アズマは黙ってロボット犬達を指差す。侵入者を排除する為に作られた番犬達は後ずさりを始め、2人に対して一本の道を作り上げていた。
「自衛本能はあるみたいで安心しましたです。競走です!」
 元気一杯に言って走り出すアズマを見ると、サマリスは慌てて木から降りて彼の背中を追いかけた。子供の様な彼の態度に苦笑しつつ、彼女の頭には救出した後の楽しげな光景が浮かび、それを現実にする為にアズマを追い越す様な勢いで走り出す。



 屋敷内に入る為のドアを2人で開けると、ガードロボット達は目を赤く光らせて侵入者達を排除しようと電磁棒を手に持って突進し、アズマの頬を棒で突くと同時に大量の電気を流し込む。
「アズマ様!」
 体全体が金色に光り輝き電気音が響くアズマを見て、サマリスは悲痛な叫び声を上げるが、アズマは彼女に対して右手を突き出し、左手に雷で作り上げた柳葉飛刀『雷柳』をガードロボットの顔面に投げ付ける。カメラアイを雷の刃が貫くと、黒煙を上げガードロボットは膝を付いて動かなくなる。
「言ってなかったけど、私は雷の剣の守護者。ちょっと痛いけど、電気系統の攻撃は効かないんですよね、ただ……」
 戦闘不能になった同型を見てもガードロボット達は威嚇行為を止めず、電磁棒と電磁銃を構えて今にも飛び掛ろうとしていた。
「私も動けなくなるだけにしたいんですが加減が難しいです。ですので援護をお願いします」
 アズマは雷柳をロボットの脚部に投げ付けて動きを止めた。それを見るとサマリスは右腕を突き出し、内蔵されたライフルを出して同じ様に脚部を狙い撃つ。
「急ぎましょう! 総司令さえ抑えれば、彼等も分かってくれるはずです!」
 真剣な顔で言うサマリスにアズマは黙って頷き、雷柳をロボットの足元に投げながら走り出し、サマリスもマシンガンで地面を撃ちながら後を追った。それでもロボット達は追跡を止めなかったが、2人は構わずにゴール地点である中央制御室に向かう。その様子を監視カメラは機械音を上げながら収めていた。



 モニターに映し出された2人の侵入者の快進撃を見ると、ベルゼウブは乱暴に画面を殴り飛ばし、サーベルを手に持ってロイドのAIが組み込まれた球体の下に向かう。
「このポンコツが! 情けないと思わないのか?」
 ベルゼウブは物言わぬ球体をサーベルで斬り付けた。目を見開いた状態で攻撃する老人に恐怖を感じて室内は真っ青に変わる。
「そんな事をしても無駄だ! 話す事も出来ない鉄くずに生きる価値など無いわ!」
 サーベルを突き立てて球体を突き刺そうとした瞬間に後方から轟音が響く。ベルゼウブが振り返って見た物は大量のガードロボット達に羽交い絞めにされながらも、彼に怒りの視線を向けていた2人の侵入者だった。
「ロボットにも心はあります……私は貴方を絶対に許しません!」
 叫びと共にサマリスの左腕からマシンガンが飛び出して弾丸の雨が降り注がれるが、ベルゼウブが手をかざすと大量のコウモリが現れ、弾丸を代わりに食らい地面に落ちて行く。
「何て事を……あなたには良心と言う物が無いのか?」
 コウモリの死骸を抱きかかえながらアズマは叫ぶが、ベルゼウブは何食わぬ顔でコンピューターの前に立ち、キーボードを叩きながら話し出す。
「貴様は実験動物のモルモットに情が湧くのか? 子供じみた意見なども聞きたくも無いわ!」
 ベルゼウブがEnterキーを押すと同時に、2人の体を押さえ付けていたガードロボット達は頭から黒煙を発しながら倒れ込んだ。自由になった2人は立ち上がりながらも心配そうに皆を見つめた。
「言っておくが、ソイツ等はもう只の爆弾だ! 私のプログラミングで全機能を停止する代わりに、5分後には大爆発を起こす様になった! これで貴様等は終わりだ!」
 腕を組んで高笑いをするベルゼウブに、サマリスは両腕を突き出し、アズマは胸に手を置いて命の源である剣『雷月』を取り出すと、双方共に老人を睨む。
「ベルゼウブ……貴方の心は最低です!」
 憎しみが篭った叫び声と共にサマリスの両腕から大量の弾丸が放たれ、その間を縫ってアズマは体を金色に光らせながら雷月を持ってベルゼウブに突っ込むが、ベルゼウブは慌てずに手を突き出してコウモリを呼び出そうとする。
「どうした? 早く出て……」
 ベルゼウブの叫びも空しく弾丸を体中に浴びると同時にアズマの剣で切り付けられ、老人は体中から黒煙を発しながら前のめりに倒れ込んだ。コウモリが出ない事をおかしく思い2人が辺りを見回すと、天井の隅で怯えている一団を見付けた。
「もしかして……ロイドが危険だって教えたの?」
 アズマが聞くと部屋全体が黄色い光で覆われて優しい気分にさせた。ロイドの返答を聞くと、サマリスはにこやかな笑顔を浮かべながら武器をしまってコウモリ達に近付く。
「怖い思いをさせて申し訳ありません。もう皆様は自由ですよ」
 優しい声で言われてコウモリ達は我先に飛び出して行くのを見ると、サマリスはメインコンピューターに向かい、キーボードを叩き出す。
「AIが破壊されているから修理は無理ですが、せめて爆弾の解除だけはしてあげたいです。このまま道具として終えるのは哀れです……」
 悲しげな顔でキーボードを叩くサマリスに、部屋は赤と黄色が入り混じった光を発してベルゼウブへの怒りとサマリスへの感謝を表現した。
「じゃあ、私とお話しましょう」
 アズマはロイドのAIが組み込まれた球体を引き抜くと、愛しむ様に抱き締めて微弱な電流を放つ。
「大丈夫。あなたの気持ちは私が同時通訳するです。だから安心して話して下さい」
 電気の力でアズマとロイドの心は繋がり、彼の中にロボットの心情が伝わった。穏やかな表情を浮かべながら球体を撫でるアズマを見て、サマリスは作業を止めて2人の下に近付く。
「大丈夫です。ロイド様の気持ちは同じロボットの私は痛い程分かります……」
「待って下さい。ロイドが話したい事あるみたいです」
 アズマに言われると、サマリスは屈んで球体をまっすぐ見て彼の話を聞こうとする。自分の話を聞いてくれる相手が現れたのを見ると、ロイドはアズマの脳内に自分の気持ちを伝えた。
「ふむふむ、なるほどなるほど。機械が心を持つのはいけない事ですか? 心とはどう言う物なのですか? だそうです」
 ロイドの疑問を聞くとアズマはサマリスの方を見る。サマリスは球体を取ると優しく抱き締めて撫でながら話し出す。
「今自身が感じている物が心だと私は思います。大丈夫、私はロイド様を責めません。もし、これからの銀幕市での生活が不安なら一緒に謝りますから……」
「そう。ゴメンなさいってね」
 アズマは立ち上がると球体を少し乱暴に撫でて雷月を突き出す。
「私も人間じゃありません。この剣が無ければ、ただの肉塊です。でも私は生きているし、心も持っている。だから機械が心を持っても良いと思うんだ」
 淡々とした口調で話すアズマにサマリスは軽く微笑みかけて彼に球体を渡し、メインコンピューターの前に戻って作業を再開する。
「フフフ。私達3人、良いお友達になれそうですね。でも勝負は別です!」
 そう言ってEnterキーを押すと、画面に自分達が中央制御室に入った様子が映し出された。その様子はスローモーションになり、2人が真剣な目付きで見ると、若干ではあるが先にサマリスの顎が室内の地面に付いたのをアップで映し出した。
「今回の障害物競走、私が1位です! やりました!」
 得意げにVサインをするサマリスを見て、アズマは苦笑いを浮べると懐から携帯電話を取り出して対策課に電話をする。
「もしもし、こっちの方は終わりましたので、人をよこしてもらいたいんですけど……」
 アズマは冷静に現状を伝えて職員にベルゼウブの引渡しと、行方が分からない他の参加者の救出要請を求めた。サマリスが操作をして映し出された画面には、力なくグッタリと倒れ込んでいる参加者達を映し出された。
「そうです。皆、凄く疲れていますが、怪我人は出ていませんので……」
 モニターを見ながらアズマはサマリスに向けて親指を突き出す。それに彼女は微笑み返す事で応えると、他におかしな所は無いか確かめる為に操作を続けた。2人の様子を見ていたロイドは自分の気持ちを伝える為、部屋全体を黄色く光らせて2人を労った。



 運動会から1週間後、サマリスとアズマは1体のガードロボットを引き連れて洋館が解体される様子を見つめていた。
「サマリスには本当に感謝しています……」
 ガードロボットはサマリスに向かって深々と頭を下げた。スクラップになるだけのガードロボットの体を再利用してロイドのAIが組み込まれ、彼は生まれ変わった。サマリスは指先で頭を触り、お辞儀を止めさせる。
「良いんですよ。これはロイドさんが新しい生活を送る為に必要な物なんですから、それよりも……」
 サマリスは壊されていく屋敷を指差す。ショベルカーが壁や柱を壊していく度に、ロイドは複雑な顔を浮かべてアズマの方を向いて話しかける。
「私はあの屋敷には良い思い出が1つもありません。なのに何故でしょう? AIが刺激されてしまいます……」
 辛そうな顔を浮かべて俯くロイドの頭をアズマは優しく撫でると、真剣な表情で屋敷を見た。
「例え嫌な思い出しかなくても、それは自分が自分だって言う証明なんですから、悲しいのは当然です。でも受け止めないと……」
 アズマの脳裏に嘗て自分と戦った1匹の蛇が思い浮かび、彼は辛そうな顔を浮かべて屋敷から目を背けた。負のオーラを纏いだした2人を見て、サマリスは彼等の肩を叩くと屋敷とは別方向を指差す。
「長く生きていれば悲しい過去だって出来てしまいます。それは仕方が無い事です。でも未来はいくらでも変える事が出来ます。私は信じたいです」
 そう言うとサマリスは屋敷に背を向けて笑顔で走り出した。彼女に続いて2人も壊れ行く屋敷を振り返る事無く走り出した。自分達が理想とする未来に向かって。

クリエイターコメントお2人には感謝しています。ロイドに心を教えてもらった事と大切な仲間になってくれたんですから。これから先、苦難があっても乗り越えられる力、それが絆です。絆を作る手伝いが出来た事を光栄に思います。これからも頑張ります。よろしくお願いします。
公開日時2008-10-18(土) 07:40
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