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<オープニング>
なんという歌声。 神が愛でるあまりに、彼をさらい、天上へ連れていきはせぬかと思うほどの。 赦しの木漏れ日、癒しの羽毛が、虹の旋律となってその場を満たしていく。 心地よい響きは大いなる翼を得て、青空に溶け、太陽と同化する。 ――来てよかった。 神音の屋外コンサートに招待を受けたSAYURIは、最前列で耳を傾けていた。 酔いしれるままに時は過ぎていく。 秋空の色が次第に濃度を増し、しずしずと夕闇へ変わっていくことにも気づかぬほどに。
FahrenSire,Fahren Sirene Vidare Je Nahme. (愛しい人よ、あなたはどこに) FahrenSire,Fahren Sirene Ahdal Je Nahme. (愛しい人よ、あなたは誰) Nahme Je Il Signowerta,Da Ar Rila Nieme. (あなたが沈黙だとしても私はあなたを愛する) Tiera! Nahme Je Che Fosteallia Re Che Grouvia,Da Ar Rila Nieme. (そう、あなたが終焉だとしても) Ar Rila Nieme,Zare Arle,"Ar Rila Nieme Un Ar Theche Nieme Yelt Rilate." (私に愛を教えたあなたを)
――ソリティア・ウィステリアの献身。 今、歌われている曲はSAYURIにとっても印象的な、ある映画のテーマだった。 孤独な“知の魔王”リアティアヴィオラと、誇り高く誠実な“黒の勇者”ジグノヴェルトの戦い――公開されてから何年も経っているはずなのに、まざまざと映像が蘇るのは、他ならぬ語り部を演じた神音の歌声のちからだろうか。 たゆとう響きに、浮かぶ物語に、SAYURIは身をゆだねる。 常に何かに挑んでいるごとく、強い意思がきらめく女優の瞳が、つかのま閉じられたとき――
仕掛けられていた罠が、牙を剥いた。 邪悪な神の手が、パンドラの箱を無理にこじ開け、「希望」を逃がす。
制服姿の少女がゆらりと立ち上がったことに、気を止めるものはいなかった。 「始末、しなくちゃ……」 そう呟いた彼女の手から本が滑り落ち、代わりに1本のナイフが握られたことにも。 「あたしを殺さないで……」 レディMに似た金の髪の女に背後から近づいて、そのナイフを振り上げたことにも。 「殺さないで殺さないで殺さないで――っ!」 ステージに設置されていた巨大モニタが観客席を映しだすまでは。
鮮やかな血飛沫が、悲鳴とともに巻き上がる。 華やかで美しい女は少女の手で切り裂かれ、血まみれのプレミアフィルムに変わる。 高性能のモニタは残酷な鮮明さで、一部始終を伝えた。 駆けつけた警備員とスタッフが、少女を取り押さえ、連れ去ったところまで。
★ ★ ★
あの少女は、どうなるのだろう。 中央病院で眠っている、愛しいのぞみと同じ年頃のあの子は。 誰かに、裁かれるのだろうか。でも……誰に?
SAYURIは、昴神社に出向いた。 コンサート会場から帰る、その足で。 「あなたのいったとおりかも知れないわ、昴さん。わたしの罪は、赦されない」
★ ★ ★
「SAYURIさんが、ホテルに戻っていないようなんです。コンサートはとうに終わったと聞いたのですが」 ラベンダーの花束を抱えたまま、対策課に異変を伝えたのはユダ神父だった。 「今日のバスタイムに使いたいから、摘みたてを届けて頂戴と頼まれまして。気まぐれなところのあるひとなので、そういう気分ではなくなったのならかまわないのですが……胸騒ぎがして」 以前の私のようになっているのではないかと、ユダ神父は懸念を口にする。 「昴神社を調べて頂ければと思うのですけれど、なにぶんにも危険ですので」 もし、向かってくださるかたがいらっしゃれば、事前に教会へお越しくださるようお伝えください。 なにがしかの、お力になれればと思います。 ――そう、付け加えて。 ★ ★ ★
"Your children are not your children. They are the sons and daughters of Life's longing for itself." 「あなたの子どもは、あなたの子ではない。生そのものが自らを渇望する、その渇望の息子であり娘であるのだ」 ――ハリール・ジブラーン
種別名 | シナリオ |
管理番号 | 783 |
クリエイター | 神無月まりばな(wwyt8985) |
クリエイターコメント | なっんと、この度、高槻ひかるWR、犬井ハクWRの胸をがっつりお借りする機会に恵まれまして、3名によるコラボ企画とあいなりました。 皆様もびっくりでしょうが、私もびっくりです。
シリーズ2回目でもあるこのシナリオのテーマは、前回と同じです。 過剰な「罪の意識」に囚われた誰かが、自らを裁いてしまう悲劇を扱います。 前シナリオにおいてご尽力くださったかたがたのおかげで、ユダ神父は生きることを選択したのですが、今回、罪悪感の罠に囚われてしまったのは、皮肉にもユダの救出を求めたSAYURIです。
どうやら昴神社に関わると、PCさまの「罪の意識」が増幅する危険があるようです。 もし宜しければ、出発前に聖ユダ教会にお越しください。 何か心の整理をしておきたいことがらや、過去のとても苦しかった出来事、あるいは、増幅されたら辛いかもしれない、他人にとってはささやかでもご自身には罪と思われる気がかり、そういったものをお持ちでしたら、ユダ神父が個別にお聞きします。 ユダは、内容によっては助言のようなものができるかも知れません。 できないかも、知れません。 また、その必要がないと思われたかたは、教会にお寄りいただかなくともかまいません。 影ながら、祈らせていただきます。
SAYURIに対してどう思い、どう対処するかは、皆様のご判断におまかせいたします。
*お願いとご注意点* 今回の3シナリオはすべて、同時系列による事件でございます。 同一PC様による複数参加はご遠慮くださいませ。 また、募集期間も短めの4日間となっておりますゆえ、よろしくお願いいたします。
それでは、対策課にて、ご尽力くだるかたをお待ちしております。 |
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