 |
|
 |
|
<ノベル>
+ 1 +
一足先に館へと至っていた者がいた。
クレイジー・ティーチャーである。レディMの依頼を受けて……、と言う訳ではなく、迷い込んでしまい森の中を歩いている内に辿り着いた、というのが正しかった。
森の中、鬱蒼と茂った木々が鳴らす無気味な音をBGMにクレイジー・ティーチャーは彼にしか見えない可愛い教え子達と会話をしながらやってきたのだが、館を前にして暫く考え込んだ。
「ふむ、ボクの可愛い教え子達、見学したいのかい? まぁ、何事も経験は必要だからネェ……」
そう言いながら、館の中へと身体を滑り込ませる。エントランスに立ち、辺りを見回すが、人が現れる気配がなかった。
……今の所は。
「安全なようだヨ、行こうか可愛い教え子達」
両開きの扉を開き、教え子達を迎え入れる。教え子達が館の中に入ったのを確認すると、クレイジー・ティーチャーは扉を閉め、館の奥へ奥へと足を踏み入れた。
+ 2 +
「綺麗なのは表だけのようだネ……、奥は血の染みがあちこちにある」
クレイジー・ティーチャーは、白衣のポケットに手を突っ込み、赤い絨毯の敷かれた廊下の奥に赤い瞳で見やった。
はっ、はっ、は……っ!
獣が荒い息づかいで石の階段を駆け上がってくる。現れたのは、2頭のドーベルマンだ。涎を垂らしながら石床を蹴り、クレイジー・ティーチャーに襲いかかる。
1頭は上から飛びかかり、もう1頭は少しテンポをずらし、足へと噛みつこうとする。頭上から襲いかかり、倒れた所を足に噛みつき動きを止めて、じっくりと食べようという事だろう。
「ウ〜ン、いいネェ!」
ぞくぞくする。
クレイジー・ティーチャーは白衣のポケットから取り出したメスを継ぎ接ぎだらけの身体とは思えないなめらかな動きで、犬の急所である鼻先を切り飛ばす。
ぎゃんっ……!
鼻の先が切れる所か、頭部が吹っ飛び、壁に前衛的な芸術を完成させる。床に落ちた身体は床に血の海を作る。
「さぁて……」
足に噛みついた1頭を足を振って振り解く。クレイジー・ティーチャーの脹ら脛の肉をお土産に飛んでいく。ドーベルマンは床に着地すると、涎を垂らしながら、肉を飲み込んだ。
「痛いじゃないカ!」
一応、痛みは感じては居るのだ。不死身人生長いとはいえ。
互いが獲物と認め、対峙する。
が、それも一瞬の事。
クレイジー・ティーチャーはドーベルマンの背後を取り、メスで首を撫でた。
すっぱりと首と胴が離れ、白衣に赤い血が飛び散った。白髪にも血が飛び、疎らに赤が混ざる。
階段へと足を向け、蝋燭の灯す光の中、人影が階段を上がって来る。
躊躇いなく、刃を振るう。享楽が身体を満たす。身震いする快感に口が三日月型になる。
人がのけぞりが転がり落ちていく。
ぬめる血で足跡を付け、地下一階へと至ったクレイジー・ティーチャーは、異変に気付いた主、殺戮卿として名高いルードヴィッヒ・エマヌエル・ジングシュピールと鉢合わせをした。一つきりの深い切り傷のある右目で、殺戮卿を視界に収めると、本能で悟った。
このままでは可愛い教え子達に危険が及ぶ。
「逃げて……、逃げろっ!」
魂の教え子達へとクレイジー・ティーチャーは振り向き、叫んだ。
棘の付いた鞭が首に巻き付き、床へと引きずり倒す。
すかさず、殺戮卿は手斧でメスを持った右手を切り落とした。
「招かれざる客にはお仕置きが必要だ……。そうは思わないか」
高揚感で揺れる殺戮卿の声。
彼だけの教え子達が館の出口へと向かったのを感じ、安堵する。
これで思い残す事はない……。そう内心呟く。
死ねないけどネ、と自分に突っ込みを入れたクレイジー・ティーチャーだった。
+ 3 +
ぎゃぁぎゃぁ。
遠くから聞こえる犬の遠吠えや鳥のざわめきを危機ながら、三人は歩を進めていく。
「生き物がいるのは矢張り、館か……」
シュヴァルツ・ワールシュタットが、周囲に注意を払いながら呟いた。
「うわぁ……!」
取島カラスが歓声をあげた。バッキー専用ポケットに入った黒刃も釣られて見上げる。
洋館の屋根にはカラスが数多く留まり、洋館の無気味さに一役買っていた。
「『黒の公爵』シリーズは一通り観たが……、やはり、実物には敵わない」
ロングコートに身を包んだ、来栖香介がにやりと笑みを浮かべる。
「殺戮卿、か……。蝋人形なんて美味しくなさそうな物を作る為に人を殺すなんて、趣味悪いねー。どうせなら、ハムとかソーセージとかにすれば良いのに……。まぁ、とにかく、そういう迷惑な相手なら、オレが食べても構わないよね?」
ハムやソーセージにする趣味というのもどうかと思うが、シュヴァルツは喜色を浮かべて、カラスと香介を見る。
「ルシフと黒刃のご飯」
目つきの悪い真っ白な香介のバッキーと、真っ黒なカラスのバッキーだ。
シュヴァルツは自身の食事に、香介とカラスはバッキーのご飯を。三者の意見は一致している。
「人肉、久しぶりなんだ。オレ的には肉が多く付いている方、まぁ、太ってる方が良いんだけど、…美形って言うからには痩せてるんだろうなぁ」
食べられるだけでも満足しておこうと自分に言い聞かせる。
「さて、中へ入るのに囮役で行くのは、俺と香介だな。シュヴァルツは少し後で殺戮卿が現れたら、戦闘開始ってことで」
「構わないよ」
二匹のバッキーが殺戮卿の目に入らないようにと、そっと身を潜めた。
+ 4 +
コンコン。
扉の据え付けられた獅子のノッカーが鳴らされる。
数分が過ぎても、扉が開く気配が無い。
「誰も出てこない場合は、仕方ないよな」
来栖香介は溜息をつき、悪びれた風もなく、扉を開いた。
「ふふ、血の匂いだね」
シュヴァルツが、嬉しそうにいう。
「地下は左の通路の奥のようだ。右側の方は綺麗なもんだ」
ドーベルマンの死体が2頭廊下に転がり、血が絨毯に染みこみ地図を作っている。シュヴァルツから影が伸び、ドーベルマンを取り込んだ。
「食材は大切にしないとね」
うっすらと血の跡だけが残った廊下をゆき、地下へと下っていく。
石作りの館のせいか地下では声が通らない。階段を降り初めて、うめき声が聞こえてきた。
血の匂いに満たされた空間。
中には、殺戮卿と使用人が3人。犬は居ない。犬は廊下にいた2頭だけだったようだ。
一方の壁全てが牢屋、数ある中の牢に一人の男性が囚われていた。
蝋燭が光源の中、ぼんやりと白く浮かぶのは白髪と血に染まった白衣。壁から伸びる鎖に繋がれ、左手だけで吊されている。床には血だまりと、切り落とされた右手首。
反対側の壁には蝋人形がずらりと並び、中央には手術台という名の解剖台。側には鉄の処女に焼きごて、斧にメス、鞭に長い針、鎖に荒縄、ボウガンやダーツの矢、肉切り包丁まで揃っている。木箱には切り落とした肉片、開け放たれた棺桶には失敗作を入れる為だろうか、肉片のこびり付いた骨の山が入っている。腐臭の発生源だ。
床は常に血で染められて赤黒い。中央から外へと走った小さな溝に血が流れるようになっている。
「ごふっ……」
喉から血が溢れ出る。
「ふむ、これはなかなか皮を剥ぎやすいか」
殺戮卿が拷問をしやすいようにと、使用人が側につき、白衣の男の身体を引き上げ、壁に凭れ掛けさせる。殺戮卿は白い革手袋を填めた手で、手に持ったレイピアで白衣を引き裂いた。
その時。
「すっげぇ、骨が艶めいてリアルだ。一度、手にとって使ってみたかったんだよな……」
香介が、注意を引くべくわざと明るくいった。
突然の訪問に殺戮卿は驚くでもなく、新たな犠牲者が来たとばかりに、喜色を表に表しゆっくりと振り向き、歩み寄ってくる。
「興味があるかね?」
「ああ、どうやって作ってるのかってな」
「君はなかなかの美声をしているね……、どのようなものか、今すぐ見てみたいね。だが、生憎と来客は君一人ではないようだ。残念だよ、私は二人きりで楽しみたい主義なのだよ」
そこに使用人がいても数に入っていないのは、さすが貴族というべきか。
「血に興味があるんですね。俺の血はどうかな……」
カラスがサバイバルナイフを鞘から引き抜き、自身の掌に傷を付ける。掌から流れ出た血がぽたりと床に落ちた。
「濃密な血の香りだ。君はとても美味しそうだ……」
殺戮卿の目が、爛々と輝く。
血の香りから、解剖をする様を想像したのか、手は歓喜で微かに震えている。
「キャストは揃ったようだ。上演開始だね」
シュヴァルツが、牢の中、鎖で繋がれたクレイジー・ティーチャーの側に立ち、上演開始の宣言をした。
「いつまで、瀕死を装っているのだね、クレイジー・ティーチャーは」
鎖を鋼糸で鎖を断ち切り、拾った右手を差し出す。
「不死身っていったって、痛いんだヨ? 少しくらいゆっくりさせてくれてもイイじゃないか」
そういいながら、クレイジー・ティーチャーは白衣のポケットから針と糸を取りだし、自分の右手首を繋げる。
「うん繋がった」
ぷらぷらと手を振ってみる。かなりめちゃくちゃな作りである。不死身の醍醐味とでもいおうか。
「さあ、たっぷりとお返しをさせて貰おうかナ……!」
「では、此方も始めようか」
クレイジー・ティーチャーの言葉を合図にシュヴァルツも同時にロケーションエリアを展開する。
そこには廃校になった学校と黄昏時の校舎があった。地下の半分が浸食されている。
「ああああ、やばい、やばい……っ!」
カラスは自分に暗示を掛けるように、言葉を繰り返す。一瞬の間のあと、そこに居たのはさっきのカラスよりかなり好戦的な面を持つ、ダークサイドのカラスが居た。
シュヴァルツのエリア能力により、与えられる魔法と超能力、身に纏う服さえも学生服へと変化している。
手にしているのはダーツの矢だ。小さな物でも、魔法による加速が付けば、それは破壊の矢と化す。
指の間に3本挟み、一斉に投げつける。矢は使用人の一人である身体を貫通し、ゆらゆらとふらつき、くずおれる。貫通した矢は背後にずらりと並んでいた蝋人形を数体破壊した。
「うわ……人体バラバラ事件」
それをいうのなら、蝋人形バラバラ事件。骨は本物だが。
首がもげ、胴体が床に転がる。足は胴体が離れた事により、引力の法則に則り、倒れていく。
「面白そうだな、オレも」
香介が手にしたのは茨の鞭だ。びゅん、と風を切る鞭のしなり具合に満足し、そのままの勢いで、倒れていない蝋人形をなぎ倒した。一体倒せば、ドミノ倒しだ。
「気持ちい〜!」
破壊衝動の赴くまま。
鞭の慣らしを終えると、香介は使用人を茨の鞭で切り裂く。肩の上にいる三白眼のルシフが虎視眈々と狙っている。
そろそろだと、宥めつつ、最後の使用人へと鞭の先を向けた。
「肉ですよ、肉っ!」
シュヴァルツは、嬉々として倒された使用人の身体(肉)を蜘蛛糸で捕らえ、影に引き込む。
「なかなか脂肪分多めですよ」
と、グルメな一言。
「さて、獲物はキミだけです。頂きましょう」
まるでメインディッシュにとりかかるように。
「やられた分は返すのですヨ!」
痛めつけられた分のお返しをシミュレート済だ。
「いけっ、ルシフっ!」
言うまでもなく、超戦闘態勢です。
「黒刃っ! ……って、黒刃、どこだ」
カラスが頑張って食べるんだ、と応援すべく名を呼んだが、普段からふらふらとしている黒刃。
ただ今、クレイジー・ティーチャーのエリアの机の上でのんびりとしていた。
「ご馳走だから、戻ってこーい!?」
きゅ、と声が聞こえてきそうな可愛らしい仕草で振り返ると、ふよふよと戻ってきた。
「という訳で、だ」
しきり直すカラス。
肩をすくめる殺戮卿。
「君たちは負けないとでも言うような口ぶりだね……!」
殺戮卿は、使い慣れた斧を手にして、斬りかかってくる。
既に結果は決まっていたが、自身の敗北を受け入れる程の矜持は無いらしく、それならばと派手に散るという選択肢を取ったようだった。
潔い死を選んだ殺戮卿は、その選択を直ぐに後悔する。
「もう遅い、最後だヨ」
この夜、殺戮卿を構成していた世界が消えた。
+ 5 +
「なかなか美味だったな、こう脂ののった肉は矢張り肉食動物(人間含む)でないと」
「蝋人形ドミノ、人には言えない遊びだけど、楽しかったな。みんな、ご苦労様」
「帰ろうか、ボクの可愛い教え子達」
「上手く行ってよかったですね」
|
クリエイターコメント | お待たせしてしまいまして、申し訳ありません。 竜城英理です。 全てのプレイングを反映することが出来ませんでしたが、お気に召すカ所があれば幸いです。 何だか、殺戮卿の方が可愛くなってしまったような……。
それでは、又お会いできると嬉しいです。 ご参加ありがとう御座いました。 |
公開日時 | 2007-02-07(水) 23:40 |
|
|
 |
|
 |