★ エドガーとレオンハルト ★
クリエイター西(wfrd4929)
管理番号172-8493 オファー日2009-06-30(火) 23:08
オファーPC エドガー・ウォレス(crww6933) ムービースター 男 47歳 DP警官
ゲストPC1 レオンハルト・ローゼンベルガー(cetw7859) ムービースター 男 36歳 DP警官
<ノベル>

 エドガーとレオンハルトは、DPオフィス近くのオープンカフェで食事を取っていた。エドガーは成人男性としては標準の、ランチ・セットを頼んでいたが、レオンハルトはコーヒーとサラダのみである。
 彼の小食は割と有名で、今更あれこれとお節介を焼くつもりは、エドガーにはない。二人とも静かに食事を終えると、コーヒーカップを手に、雑談を始めた。
 同僚、という点以外、まるで接点など無いかのように思える二人だが、実は共通項がある。
「……レオンは、強いな」
「動じない、ということを強いというなら、確かにそうだろう。だが、実際に武力を競えば、私はエドガーには敵うまい」
 お互いにDP警官と言う特殊な職についており、心に闇を住み着かせている、という点がそうだ。
 ゆえに、二人には共通の話題が持ち上がる。すなわち、いかにして己の弱さを打ち負かすか、という問題について。彼らは、議論しようと思えば幾らでも出来る立場にある。
「そんなことに、意味はないさ。……重要なのは、精神だよ。私は、時折自分の未熟さが憎くなる。シャドウに負けてしまう己に、嫌悪さえ抱くこともあるんだ」
「建設的な思考を持つことだ。反省は意味のある行為だが、自虐は何も生み出さない。望みの強さを得たいなら、まずは正確に己を知り、弱点を把握することだ。でなければ、同じ失敗を繰り返すだろう」
 レオンハルトの精神に、ぶれは見えない。彼はすでに克服しているのだと。そのように、エドガーには見えた。
「……そうだね。まさに、その通りだ。ありがとう」
「礼には及ばん。心の不調から、仕事に影響を出されるよりはましだろう。私は、自分のために、できるだけリスクを少なくしようとしているだけだ」
「だとしても、相談に乗ってくれたことは、やっぱりありがたいと思うよ。……なかなか、人には話しづらいことだから。少なくとも、俺にとってはね」
 エドガーは、自らが危険な存在だと承知している。だからこそ、自分からそれをさらけ出すようなことは、言いづらい。
 ただの同僚には、話せないことでもある。まったく同じと言うわけではないが、似たような境遇であるレオンハルトだからこそ、話し合えることだ。
「今日は、珍しく穏やかな日だね」
「午後からは、どうせ忙しくなる。休めるうちに、休んでおくことだ」
 オフィスに戻れば、日々の仕事に忙殺される。レオンハルトは、それを確信しているようだった。
 エドガーにしても、特に暇だというわけではない。ただ、DP警官が動くということは、惨事の前兆でもある。午前中だけでも、その兆候が見えなかったのは、喜ばしいと思うのだ。
「正論だね。……コーヒーのお代わり、持ってこようか?」
「結構だ。嗜好品は、一度に何度も味わう物ではない。特にコーヒーは、一杯をゆっくり楽しむのが一番だと思うのでね」
 休憩時間が終わり、二人は仕事へと戻る。そしてレオンハルトが予感したように、また今日も彼らは、忙しく立ち回ることになるのだ。


「まさか、戻った直後に助けを求められる羽目になるなんて。……穏やかな時間は、もう終わりなのか」
「平穏など、儚いものだ。特に、我々にとってはな。――行こう」
 今、オフィスには彼ら二人だけしかいなかった。よって、救援などを求められては、はねつけることなどできない。
「お願いします! 仲間が、やつらに捕らわれて……」
「何度も言わなくていい、状況は理解している」
 超能力者で編成された犯罪組織に、他の部署の刑事が潜入捜査をしていた。だが、正体がバレて、囚われ……今は、生死さえ定かではない。
 まともな手合いであれば、情報を吐き出させるために、簡単には始末するまいが……仲間の刑事が危機にあるのだ。一刻も早く救い出したいと、救出を願う気持ちはわかる。
「さっそく、出向こう。組織のアジトは、判明しているかい?」
「は、はい。直前に連絡が入りましたので、それくらいは……」
 プリントアウトした地図を手に、助けに向かうべき場所を特定。こうして、彼らは動いた。

――救出、か。犯罪者たちを刺激しないように……いや、違うな。可能な限り、死人を出さないようにしなければ。

 エドガーは、仲間のみならず、敵であるはずの組織員たちも、できるだけ傷付けたくなかった。
 理想論に過ぎないが、警官は犯人を信じ、更生させることが仕事だ。逮捕と言う、強引な手段を取るにせよ、その本質には美しい物がある。
 だが、エドガーのなかにいるシャドウが、それを踏みにじる。悪党を信じることに意味はなく、善人もまた価値がない。あのシャドウにとって、存在価値があるのは己だけだろう。

――レオンは……どう、考えているのだろう。俺ほど甘くなく、しかし合理的で規律に篤実な彼は、どう判断するのだろう。

 不安がある以上、慎重に事を運ばねばならぬ。万に一つも、あれの独走を許したくはないと、エドガーは思っていた。
 心に闇を抱えているという点では、レオンハルトもまた同類だが……彼の心意は、外見からは想像もつかない。現場へと向かう車の中で、エドガーはその点を、率直に聞いてみることにした。ハンドルを握ったまま、口だけを動かす。
「どうした、ものだろうね?」
 己の中で、さまざまな感情が渦巻く中、口に出せたのはそれだけだった。これに対し、レオンハルトは単純に一言。
「行って、仕事をするだけだ」
 どうやら、レオンハルトには、感慨らしき物は何もないらしい。不安もなければ、自信も見せない。その有様に憧れさえ抱きそうになるが、もっと他に言いようはないのかとも思う。
「具体的な手順については、今から検討していこう。……どうした」
「いや、安心したよ。あの一言で済まされて、現場までずっと無視されてしまったらどうしようかと」
「非効率的だな。私は、出来る限り合理的な仕事をしたいと思っている。君も、そうだろう?」
 心底同意したい所ではあるが、やはりあのシャドウには、別の見解があるだろう。

――そろそろ、出てきそうな感じではある……が、前よりもさらに陰湿になったな。気配を表に出しながらも、意識だけは浮上させない、か。

 エドガーは外だけではなく、内にも警戒を怠れない。大きな負担となるが、もしどこかで不覚をとれば、それはシャドウの利となり、即座に精神を塗り替えられてしまうだろう。
 最悪の事態を避けるためには、なにをすればよいか。これについては、任務を遂行する上で、なるべくリスクを減らしていく……という当たり前の手段しか、思い浮かばない。
 堅実だが、確実ではない対策。不安ではあるが、他に方法は思いつかなかった。
「そうだね、じゃあまずは、救出の手順について。対象の刑事がどこにいるのか、最初にこれを探らなければならない」
「偵察は、私に任せてもらおう。幽体離脱の能力を使えば、組織内部を探るのは容易だ。……そうだな、連中の隠れ家から怪しまれない程度の距離を保って、車を止めてくれればいい」
 それくらいならば、造作もない。エドガーは問題が一つ解決したと知ると、さらに話を進める。
「次に突入路の決定と、退路の確保。これは、人一人を連れ出すことを前提にしなくてはならない」
「それも、足手まといをな。……生かされているにしても、五体満足とは限らない。ひどく傷付いているようなら、運び出すだけでも一苦労だ」
 悩ましい部分ではある。途中で見捨てるくらいならば、救出を行うこと事態が無意味となる。
「潜入自体に問題がないなら、いかにして見つからずに助け出すか……それが最重要課題だね。見つからなければ、あるいは見つかってもすぐに対処できれば、騒ぎを起こさず、外まで連れ出せると思う」
「私に、そこまでの技術を期待されても困る。君と違って、潜入任務の訓練は受けていない」
「……だろうね。しかし参ったな。そうなると、戦闘が前提になってしまう。こんなときに、テレポーテーションが使える仲間が居れば――」
「ないものねだりは、不毛なだけだ」
 レオンハルトの言い草は冷徹だが、反論の余地がない。とすれば、やはり自分たちの能力で切り抜けるほかなく、そのためにはお互いの連携が不可欠である。
「すると、有効なのは陽動かな。外に戦力を集中させ、その隙に内部に侵入、速やかに救出する……」
「まあ、それが無難だろう。だが安易にアンチ・サイは使うべきではないな。能力を封じるDP警官の存在は、割と有名だ。その君が出張ってきていると知れば、こちらの目的を知られる恐れがある」
 DP警官が出てくる以上、囚われた仲間を無視して、組織の壊滅を図ることはできない。その刑事さえ確保しておけば、今後の交渉に使えるかもしれないのだ。なんとしても、逃がすまいとするだろう。
 こちらの正体を気取られる、ということは、それだけリスクが上昇することでもあるのだ。逆に、これが敵対する組織の攻撃、もしくは個人的な怨恨からの行動と思わせれば、それだけ陽動の効力が増すことになる。
 そういう手合いであれば、中に刑事が囚われていようがいまいが、お構いなしに攻め込んでくるもの。見張りに使っていた人員を割いてでも、外の敵に対抗しようとするだろう。救出するには、この展開の方がやりやすい。ただ、こちらにも問題がなくはない。
「相手に危機感を覚えさせるほどの活躍が、私に出来るかどうかだな。エドガーでなくては、速やかな救出は出来ない。となると、必然的に私が陽動を受け持つことになる」
「……応援を、呼ぼうか?」
「賢くない選択だな。他のDP警官は手一杯のはず。でなくては、二人だけで対処するような事態にはなっていない。かといって、普通の人間では、能力者に勝てまい。死人が多く出るだけだ」
 殉職者に対する責任まで、エドガーは負えない。だが、ここでレオンハルトを失うことになっては、同じことである。エドガーは深く悩んだが、彼は心配無用だと答えた。
「私は、銃弾を受けた程度では死ねん。銃の扱いについては、多少の自信もある。任せてくれていい」
「――無理は、しないでほしい。俺はまだ、君と話したい事があるんだ」
 嘘だと思ったわけではない。ただ、本心を述べただけだ。エドガーは、それだけ仲間を大切にする男であったし、レオンハルトは信頼に値する人物であったから、なおさら失いたくはない。
「物好きなことだ。……さて、そろそろだな」
 犯罪組織の隠れ家まで、もう程近い。適当なところに車を止めると、レオンハルトが幽体離脱を行った。
 この状態の彼に、心配することは何もない。万が一と言うこともありえるが、今更案じてもどうにもならぬ。どうせこれから、更なる危険へと飛び込んでいかねばならぬのだから。


 偵察は成功した。レオンハルトは的確に内部の構造を把握し、紙面にその内容を記していく。突入と脱出につかう通路についても、詳細にわたり描き続けた。
 エドガーは、持ち前の記憶力で、短時間にこれを暗記。お互いの行動についても細部まで煮詰めた後、いよいよ、二人は動き出すこととなる。
「私が見張りを挑発する。適度に騒ぎが大きくなったところで、潜入すればいい」
「わかった。……幸運を」
 そして、レオンハルトは犯罪組織のアジトへと、無造作に近づいてゆく。
 銃は、すでに抜いていた。あまりに無防備であり、挑発的な態度である。見張りに見つかれば、警告なしに撃たれても文句は言えないほどに。
 エドガーは、そんな彼の様子を見守りながら、潜入のタイミングを計る。彼は、撃たれても死なない体であるらしいが、実際に目にするまで安心は出来ない。同僚としては、レオンハルトがそこまで化物じみた存在であるなどと、思いたくはないのだが――。
「――う」
 発砲。消音機のついていない、銃撃の音がこだまする。即座にエドガーはレオンハルトを見やるが、傷付いた様子はない。
 ここから先は、多対一の銃撃戦。彼は初撃を意に介さず、一度反撃してから遮蔽物に移動。騒ぎを聞きつけた構成員が、アジトの中から続いて出てくる。

――不安ではあるけれど、今が好機か。

 エドガーは後ろ髪を引かれる想いで、裏へと回った。……裏口自体には、まだ見張りは健在だ。
 しかし、正規の入り口から、侵入することもない。塀を乗り越え、人気の少ない部屋の窓に、器具を使って静かに穴を空ける。この手の作業は、何度も経験のあることだった。まるで自分が泥棒にでもなったような気分だが、贅沢は言えない。ともかく、内部に入り込んだのなら、後は救出対象まで一直線に向かうだけだ。
 レオンハルトが事前に調べてくれたから、警備の甘いところを突けた。この点、彼の功績は計り知れない。エドガーとて、無思慮に大胆な行動には出れない。今回もひどく大味な手を用いたが、いくらかでも上手くいくという目算がたっていないと、彼もここまでの行動は取れなかっただろう。
「いやな、感じだ」
 レオンハルトは、予想以上にいい仕事をしてくれているらしい。敵に見つかることなく、順調に目標に近づいてこれている。
 だが、胸の奥が騒ぎ出すのだ。これはちょうど、シャドウが出てくる、あの感覚に似て――。

『やあ、エドガー。今日も仕事かい? 精が出るね』

 思わず、声が出そうになる。足を止め、身を隠し、心の内へと意識を傾けた。
『大変そうだね。代わろうか? なに、案ずることはないさ。救出すべき相手にまでは、手を出さないであげよう。それなら、構わないだろう?』
 シャドウの声を振り切って、再びエドガーは歩み出す。……仲間が囚われている部屋まで、もう少し。ここで下手を打つわけには行かない。
『最近、退屈でさ。強引に表に出るのも考えたけど、結構疲れるからね。出来れば、許可がほしいんだよ』
 無視。
 ほどなく、目標の目の前までたどり着いた。ここまで敵との接触を避け、見つからないでこれたのは幸運といえる。
 とはいえ、流石に刑事を野放しにはできないのか、ドアの前には見張りが一人いた。これはどうしても、避けられぬ障害である。刀に手をやり、エドガーは思い切って相手に躍りかかる。
「――ク」
 殺意を押し殺しながら、エドガーは相手を殺さず、昏倒させる。みね打ちするつもりであったのに、刃を剥き出しにして、刺し貫くところだった。直前で返し、打ち下ろさなかったら、確実に殺していただろう。

――シャドウめ、余計な事を……。

 だが、それでもシャドウの動きを制御できたという事実は、喜ぶべきことであった。多少なりとも、自分は成長しているのかもしれないと、エドガーは実感する。
 ともあれ、これで救出まで後一歩である。ドアの中にいる連中は、見張りが倒れたことに気付いただろうか。もし、この中に敵が待ち構えているとすれば、なかなか厄介だ。それが、もし能力者であったなら、なおさらである。
 ここまで迫ったなら、アンチ・サイは封印せずともよかろう。後は、発動するタイミングが問題だった。
『俺のサイコキネシスなら、ここからでも中を探れる。試してみてもいいんじゃないかな?』
 シャドウの戯言は放っておき、エドガーは精神を集中させ、ドアに向かう。鍵は、かかっていない。
 負傷を覚悟の上で、彼はドアを開け、身を乗り出す。これを待っていたかのように、銃声が一発、二発。

――やはり、いたか。

 低い姿勢で、勢い良く飛び込んだのが幸いしてか、ダメージはない。瞬く間に一人を叩き伏せると、もう一人にアンチ・サイを展開。能力を使わせることなく、返す刀で気絶させる。
 他に敵がいないことを確認した上で、エドガーは椅子に縛り付けられている男を救出した。
「大丈夫か? 怪我は……」
「見ての通り、五体満足だよ。――助けに、来てくれたのか」
「そうだ。手間がかからずに済んで、何よりだね。とにかく、急ごう。仲間が外で頑張っている。早く戻ってやらないと、心配なんだ」
 これで任務は、半ば終了したも同然だった。対象が深刻な負傷を負っていなかったことも、この場合は幸いする。
 レオンハルトは、どこまで粘ってくれているのか。その仕事振りに感心すると共に、やはり一抹の不安が拭い去れないでいる。早く戻って、加勢してやりたかった。そうして、適度なところで切上げて、逃げればいい。今回の任務は、このアジトの壊滅ではないのだから。


 レオンハルトは、自分の仕事を淡々とこなしていた。次々と湧いて出てくる敵を、急所を外して撃ち、苦しめる。
 止めを刺さないのは、慈悲からだともいえるが、それ以上に足手まといを増やす為でもある。足を押さえて呻いたり、腕をぶら下げてアジトへと戻っていく連中は、敵の士気を実に良く下げてくれた。
 彼自身、狡猾な事をしているという自覚はあったが、当面の間はこの方針のまま、戦闘を続けることになるだろう。次々と撃ち殺して、死体が山と積み重なるような事態になるよりは、まだ救いがある。
 出血がひどくなりすぎる部分は撃っていないから、すぐに手当てをすれば死ぬことはない。エドガーのことを考慮すると、相手が犯罪者であっても、流れる血は少ない方が良いのだ。
 彼自身、何度か『撃ち抜かれた』が、すでにその名残は服の痕だけとなっている。戦闘は思いのほか長く続き、残弾も心許なくなって来ていたが、丁度良いところで連絡が来た。
「……む」
 ポケットに収めた、携帯電話が震える。どうやら、エドガーは首尾よく救出に成功したらしい。それと同時期に、この場がアンチ・サイの領域となり、連中の能力が封じられた。

――タイミングは、完璧だ。では、そろそろ締めるとしよう。

 エドガーのアンチ・サイは、敵側にだけ作用するよう、設定できる。もっともレオンハルトの場合はかなり特殊だから、完全なアンチ・サイの影響下でも、案外力の発動は可能かもしれなかった。
「力を借りるぞ、無価値の名を冠する者よ」
『よかろう。耐えられるものならば。……いや、今の汝ならば耐えるか。面白みのない男よ』
「……いくぞ」
 集中し、『力』をアジトの内部へと向ける。そして、彼は悪魔の能力を用いて、小規模の爆発を引き起こすのだ。
 炎がはじけ、ガスに引火するように。そのアジトは木っ端微塵に吹き飛んだ。外にいる者も、中にいる者も、皆が皆気を失うか、腰を抜かしている。

――見えるところに、死人は、いないな。

 レオンハルトは速やかに携帯に手を伸ばし、依頼された部署へと連絡、ついでに事態の収拾も頼んだ。
 戦意のない悪党を捕まえるくらいなら、並みの刑事にも出来るだろう。能力を使われると厄介なので、エドガーにも付き合ってもらう必要があるが……。
「レオン!」
「そちらも、上手くやれたようだな」
「ああ、君も……やりすぎるくらいだけど、良くやってくれたと思うよ」 
 応援が来るまで、数分と言う程度だろうか。それまでの短い間だったが、二人はこの場に残り、事後処理を行った。
 エドガーは当初、ここまで犯罪組織が脆いものだとは思っていなかった。事のついでであるし、敵意の消えた犯罪者を確保するくらいは構わないと思うが、それにしても彼の思慮を超えた成果といえる。
 後の始末を後発の刑事たちに任せると、二人はオフィスへと戻っていった。今度は、レオンハルトの運転で。
「死んだ者は、一人もいなかったそうだな」
「うん。たとえ悪人であっても、生きて罪を償う方が理にかなっている。レオンのおかげだね、感謝しないと」
 あの中の何人が更正し、何割が元の悪人に戻るのか。そこまでは、責任はもてない。
 どれほど犯罪者を思いやり、生かそうとしても、当人にその気がなければそれまでである。感謝など、果たしてどこまでされているものやら、わかったものではない。
「結果だけ見るなら、一応丸く収まったと見て良い。……ご苦労だった」
「レオンほど苦労はしていないさ。……詳しくはわからないけど、あの『力』。相当危ないものなんだろう?」
「……ああ、後でうるさいことになるかもしれんな。だが、これはずっと付き合っていかねばならないことだ。この程度の些事で、あれこれ気に病むこともなかろう」
 以前、あの力に負け、体を乗っ取られかけた。それを考えれば、完全に使いこなせたという実績は、レオンハルトにとって非常に大きなものとなる。
 もっとも、無価値の名を冠する者は、意図的に力を小さくしていたようでもあった。彼は彼なりに、レオンハルトの事を気に入っているのかもしれない。あれは気まぐれだが、どうせこれから長い付き合いになるのだ。お互いに、よく知り合うことは重要なことであるだろう。いずれ、追求しなければならないと思う。
「エドガーこそ、上手く加減できるようになったものだ。前の事件は、聞いている」
「……そう、だね。俺の方も、何とかできるようになったよ」
「喜ばしいことだ。影に囚われて、そのまま帰ってこれなくなるケースもあるらしいが、君はそうではない」
「それを思うと、まだマシなんだろうね。……出来るなら、ずっと閉じ込めて置きたい位だけど」
 先のことなど、わからないものだと、エドガーは思う。しかし、それでもこの頼もしい同僚がいれば、少しは安心できる。
 心の闇と戦っているのは、自分だけではない。その想いが、いくらかでも彼の精神を慰めた。
「戻ったら、一息つこうか。今日はもう疲れたよ」
「まだデスクワークが溜まっている。――が、それもいい。コーヒーの一杯くらいは、大目に見よう」
 そして、二人は仕事へと戻る。今日を凌いでも、また明日から、新たな戦いが待ち受けているのだろう。
 けれど、彼らの心は折れはしない。エドガーとレオンハルトは、これからも戦い、必ず勝つ。己の闇に、あるいはそれ以外の者に。
 最強の敵はいつだって、自分の中にある。それを肝に銘じている彼らだからこそ、DP警官であり続けられるのだろう。
 最後の瞬間まで、自分自身であり続けるために、成長し続ける。その業を背負いながら、生きていく事を選んだ二人は、どこまでも強く、そして美しかった――。

クリエイターコメント このたびはリクエストを頂き、まことにありがとうございました。

 これで、エドガーとレオンハルトを描くのも、最後となります。そう思うと、少し、寂しくなりました。

 また次の世界で、出会うことがあれば……と思いますが、ともかくこれで、私の仕事は終わりです。
 ご満足、いただけたでしょうか。だとしたら、幸いに思います。
 では、これにて。
公開日時2009-07-22(水) 18:20
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