★ 【銀幕ウォーカーズ】新人ムービースターを助けて! ★
<オープニング>

●銀幕市内にて
「ここは、どこだ……?」
 紫色の狩衣を着た青年が銀幕市のダウンタウンを歩く。
 しかし、彼は何処へ行けばいいのか、分からず、行くあてもなくふらふらを歩いていく。
「あの、そこの方、ここは何処なのでしょうか?」
 青年は、不安そうな表情を浮かべ、近くを通る若者に尋ねる。
「ここは、銀幕市だよ。
 あんた、ムービースターか? それとも、単なる迷子か?」
「いえ、実は、映画の世界にいたのですが、こちらの世界に出てきてしまったんです。」
「と言うことは、あんた、ムービースターか?」
「むぃびぃすたぁ? さて、どんな意味なのでしょうか? あいにく、私のいる世界ではそう言う言葉がなかったもので……」
 紫の狩衣を纏った青年は、扇をパンと開いて、青年に尋ねた。その青年は、きょとんとした表情を浮かべて、話した。
「あ、ああ、何も分からないのか……。まぁ、あんたみたいに、映画の世界からポンと飛び出した奴のことをここでは『ムービースター』っていうんだ」
 そう言われた紫の狩衣を纏った青年は、暫く熟考したのち、こう答えた。
「そうなのか……、何か行かなければならないところはないのでしょうか?
 例えば、侍所とか、問注所とか、それから、政所とか……」
 青年は、困惑した表情で尋ねた。「彼は、自らがいるべきではない世界にいるのでは?」と思い始めたからだ。
「まぁ、家とか借りられるところに、顔を出して、それから、あれだな。まぁ、自分の仲間達に、声かけてみたらどうだ?
 家具とか、一切無いだろう?」
「ええ、まぁ、そんなところだな。せっかく出てきたんだ。この町の生活が楽しくなることを祈ってるよ」
「私と同じ境遇のものがいらっしゃる? この町は一体……どうなってるんです?」と声高に叫びたくなるものの、何とかそれを抑えつつ、紫の狩衣を纏った青年は、彼に尋ねた。
「あ、そう言うのも知らないのか?」
「ええ、朝廷に鎌倉の町での家はあてがわれていたので……」
「って、事は、あんた、本当、何も知らないんだな?」
「ええ……」
 ややあって、冷や汗を垂らしながら、青年はこう呟いた。図星らしい。
「そうかぁ、ま、この町は色々面白い奴らもいるし、不動産屋へ行って部屋を借りてきな。あんたなら、この町で何とかやってけるだろう。不動産屋は、この先の『佐々紀不動産』ってところが結構良心的だから行ってみな?」
「ありがとうございます。では、早速そちらへ伺ってみます。わざわざ、ご親切にありがとうございました」
 紫の狩衣を纏った青年は、こう、礼を述べて、一礼をし、不動産屋へと向かった。

●で、ものは相談なのですが……
 カフェスキャンダルで、常木 梨奈は奇妙な噂を耳にした。
 曰く、「ダウンタウンに、紫の狩衣を纏った『平見 舞音』と言う青年がいる」
 曰く、「その青年は、最近、こっちへやってきたらしい」
 曰く、「現代について知識があまりないため、ひょっとしたら、ムービースターかもしれない…」
「ふぅ〜ん、こんな人もいるんですねぁ…」と彼女はそのうわさ話を耳にしていた。
 そして、最後のうわさ話を聞いた彼女は、一瞬にして目の色を変えた。――「その青年は背が高く、声を出せば涼やかで、顔は今風のイケメンらしい……。最近、この町に来たらしく、色々と困っているらしい」
 閉店後、彼女が来店していた関係者を呼び、こう告げた。
「ねね、最近、ダウンタウンに新しいムービースターが実体化したらしいのですけど、誰か、見てみませんか? すんご〜く、イケメンらしいですよ。それに……」と彼女の発言が一端途切れると、関係者が「それに……」と相づちを打つ。
「彼、色々と困っているみたいですから、彼のサポートもして欲しいんです。そうすれば、みんなと一緒に生活できるでしょ? 皆様、宜しくお願いしますね。」
「で、あなたは?」と誰かに突っ込まれた彼女は、こう答えた。
「こっちが忙しくて、行けないんです。みんなで、彼を助けてあげてね!」
 前半は、申し訳なさそうに告げ、後半は、うきうきした表情で告げた。

種別名シナリオ 管理番号751
クリエイター小坂 智秋(wrcr4918)
クリエイターコメント 御世話になります。小坂智秋でございます。
 いきなりですが、全4回で終了予定のシナリオを組んでみました。シリーズシナリオ【銀幕ウォーカーズ】開幕戦でございます。
 今回は、新たにこの町にやってきて、ダウンタウンにいるムービースター「平見 舞音」に接触して頂き、彼の悩みを解決していただきたいとおもいます。また、舞音も皆さんと一緒に同行いたしますので、宜しくお願いいたします。
 どんな悩みかは、彼の服装か時代を推理して頂き、現代とどういうギャップがあるか推理して頂きたく思います。因みに、現在、彼の部屋は、服と畳以外何もありません。
 それと、皆さんから彼にこの銀幕市内で生活するために必要なアドバイス等をして頂けると幸いです。
 ただし、デマはダメですよ、デマは!
 私が担当いたしますNPC舞音のデビュー依頼、皆さんと一緒に楽しく描きたく思いますので、宜しくお願いいたします。
 それでは、皆さんからの「様々な物語」なプレイング、心からお待ちしております。

参加者
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
山本 半兵衛(cuya9709) ムービースター 男 32歳 萬ず屋
那由多(cvba2281) ムービースター その他 10歳 妖鬼童子
<ノベル>

●初めての出会い
 銀幕市内のとある街角、見慣れない地図を片手に、紫色の狩衣を纏った背の高い青年が居た。
「えっと、ここが八百屋で、ここが魚屋で……」
 憶えることがいっぱいあるようで、色々呟きながら、憶えようとしているようだ。
 彼が、平見 舞音。最近、銀幕市内に実体化しムービースターである。
 そんな彼に、書生風の格好をした山本 半兵衛が声をかけた。
「君が平見さんかな?」
「はい……そうですが?」
 紫の髪に切れ長の青い瞳、そして、遠い異国の人のような引き締まった顔と、はっきりとして鼻と口、そして、その当時の日本人には思えないほどの背の高さを持つ長躯の青年は自らの姓を呼ばれ、そう答えた。
「美形さんだなぁ……」と思いつつ、半兵衛は舞音を見つめていた。
「いかがされました? 何か、私の顔についています?」
「いやいや、平見さんみたいな素敵な方とお会いするのは、初めてなんでね。うっとりと見入ってしまってね。いやぁ、失敬、失敬。
 初めまして、僕は山本 半兵衛と言う者。どうか、一つ宜しくお願いするよ。
 僕もこの町に来たばかりで、色々分からないから、一緒に散策でもどうだい?」
「私は、平見 舞音と申します。最近、この町に来たばかりで右も左も分かりませんが、宜しくお願いします。
 散歩ですか? そうですね。是非、ご一緒させて下さい」
 そう言うと半兵衛は笑みを浮かべてこう言った。
「こちらこそ、宜しくお願いするよ。ところで、平見さん、市役所へは行ったのかい?」
「え、市役所ですか? そこは、まだなのですが……。何か大切な手続きが必要なのですか?」
「そこなら、生活に必要な情報を得る事が出来るし、それに、対策課と言うところへ行ってみるかい?
 今後、僕たちが色々な仕事を受ける必要があるかもしれないからね。
 ひょっとしたら、平見さんや僕のように、この町へ新しく来た人たちやこの町に住んでいる人たちとかに会えるかもしれないよ」
「ええ」
 舞音が首を縦に振ると、半兵衛は「では、早速、市役所へ行こうかね?」と笑みを浮かべながら言った。
 その表情に併せ、舞音も不思議と笑みがこぼれていた。
 銀幕市内を歩いているうちに、自動車というものがあったり、バスという乗り物があったり、コンビニエンスストアーについても、色々舞音は半兵衛から教わったりしていた。
「まったく、文化が違いますね。私が居る時代からはとても想像できないものばかりです」

 銀幕市役所――銀幕市内の行政を取り仕切る銀幕市の行政の中心地――にたどり着いた舞音は、半兵衛の案内で対策課へ赴く事となった。
「あなたが平見さんですか……。凄く背が高いのですね……」
「ええ、みなからよく言われます。それに、鎌倉では、ちょっと変わった人と見られていましたから……。所で、ここでは、どういったことを?」
「まぁ、色々業務はありますが、皆さんとの関わりで言うと、実体化してしまった悪のムービースターを退治して頂くとか、映画の中でしか起こりえない災害が実体化してしまったのを止めて貰うとか、そう言った類の事件の解決を皆さんに依頼する所になります」
「そうですか……」
 舞音も半兵衛もそれ以上、深く聞くことを止め、銀幕市の商店街についての地図などを貰って、立ち去ろうとしたとき、一人の少年が、二人に声をかけてきた。
「ぽよんす!」
「ぽ、ぽよんす……?」
 とりあえず、舞音が返してみる。
「もういっちょ、ぽよんす!!」
「ぽ……、ぽよんす?」
 疑問系で返事をする半兵衛。
「おまえら、ここに来たの初めてか?」
 トレーナーに紺のジーンズを身に纏い、狸の尻尾と耳を出した少年が二人に尋ねる。
「まぁ、そう言ったところだけどね。ところで、君は?」
「俺か? 俺は太助っていうんだ。任せろ、俺は銀幕市生活のベテランだぞ」と胸を張りつつ、自己紹介する太助。
「そうなんですか……」と平見は頷きつつ、まじまじと太助を見つめていた。
「だ、大丈夫だ。俺にかかれば、この町の生活は簡単になじめるぞ。
 色々、悩み事があるなら、『カフェ・スキャンダル』って所があるから、そこで色々な悩みを聞いてやるぞ」
「あ、ああ……。太助さん、一つ宜しくお願いするよ」
「え、ええ、宜しくお願いします」
 そして、太助が加わった一行はカフェ・スキャンダルへと向かう。また、たまたま、市役所近くの公園で遊んでいたものの、舞音の姿が気になった那由多も加わり、四人で行くこととなった。
「初めまして、僕は那由多っていうんだ。これから、宜しくな。これ、挨拶代わりに、やるよ」
「初めまして、私は平見 舞音と申します。こちらこそ、宜しくお願いしますね。所で、これは、何でしょうか? いえ、こう言うのを見るのは、初めてなので……」
 那由多が舞音に多角形状のトゲのついたお菓子を手渡し、それに、不思議と思った舞音はふと尋ねた。
「これは『金平糖』っていって、砂糖のお菓子なんだよ。ところで、あなたの時代って、今で言うところ何時代になるのかな?」
「そうですね。私の場合、先ほど山本さんに教わったのですが、鎌倉時代と言うことになりますね。
 砂糖は薬として使われていましたし、こんな美味しいものの材料になるとは、私にはとても想像できませんし……」
「そうなんだぁ。僕も人から教わったんだけど、僕が居た時代は『戦国時代』なんだって、あなたは僕よりも前に生きているんだね。
 そうそう、この町には、色々調味料があるから、あとで、スーパーとか行ってみようよ。あなたもびっくりすると思うよ。」
「そのスーパーっていうのは……」
 金平糖を食べつつ、舞音が那由多に尋ねると、すぐさま彼?はこう答えた。
「色々な食べ物が売られている市場みたいなものだよ」
 そう言っている間にも、4人はカフェ・スキャンダルへとたどり着いた。
「ここだよ。せっかくだし、ここでおまえの悩みを聞いてやるよ」
 太助がそう言うと、舞音からは「ええ、宜しくお願いしますね」と笑みをこぼした。
 各々席に着き、太助や那由多はデザート類を、半兵衛はみんなで食べられるようピザやパスタ類、それにグリーンサラダを、それぞれ注文する。一方の舞音はただ、飲み物を注文するので精一杯だった。
 彼らの卓に並べられる様々な料理、それらを見るのも初めてな舞音にとっては、ただただ、驚きでしかなかった。
 ピザに乗っている焼けたチーズの香ばしい匂いが広がり、チーズとレモンの甘酸っぱくも美味しそうな味を漂わせ、トマトの赤で彩られたパスタに、その湯気と共に現れるトマトの甘酸っぱい香り、そして、様々な野菜に彩られたサラダ。舞音にとって見れば、初めて見たり、匂いや香りを嗅ぐもの、そして、食べるものであった。
「こんなに、色々な野菜がありますし、料理も様々なものがありますね。
 私の居る時代なんて、野菜類もそんなに多くないですし、それ以外ですと魚、果物しかなくて、お菓子の類なんてそんなに多くなかったですから」
 舞音がこう言うと、半兵衛はこう告げた。
「一口食べてごらんよ。きっと、平見さん好みの味だと思うよ」
 そう言われて、おそるおそるピザを軽く一口食べる舞音。
「あ、美味しいです。私の居る所にはこう言うのは、まったくありませんでしたし……」
「ね?」
 那由多がモンブランを美味しそうにそう言うと舞音も、幸せそうにこう言った。
「ええ、全然文化が違いますけど、こういう風に食が色々揃っていると、本当に幸せだと思います」
 太助も美味しく、チーズケーキを食べつつ、舞音にこう尋ねた。
「ところで、おまえ、何か悩みはないか?」
「そうですね、まずは部屋に寝具類や調度品を買いそろえたいですね。
 色々生活していく上で、困りますし……。
 あと、色々、食べ物とか、どういったのがあるか、分からないですから……」
「そうだ。ねぇ、あなたの部屋ってどんな感じなのかな?」と那由多が舞音に尋ねる。
「普通の畳の部屋があり、それ以外ですと、お風呂とか、台所、厠があるといった感じですね」
「そうなんだ。木の板が敷き詰められて部屋なら、『べっど』っていうのが良いかもしれないけど、畳ならお布団の方が良いかもしれないよ。
 それから、枕なんだけど、あなたの時代は固いものが主流だったとおもうんだけど、今の時代は柔らかいのが主流だから、気をつけてね」
 那由多がこう助言すると、舞音は礼を述べた。
「礼儀正しい人なんだなぁ」と舞音を見つめつつ、那由多は思った。
「そうだね。となると、家具屋か寝具屋になるのかな。飯を食べたら、早速行ってみるかね?」
 半兵衛はそう言うと、舞音は「そうして頂けると助かります」と述べつつ、手はパスタへと伸びていた。
 こうして、食事を済ませた4人はミッドタウンにあるショッピング街「聖林通り」へと足を運ぶことにした。

●ミッドタウンでお買い物
「ここだと良いものが見つかるかもしれないね。ちょっと寄ってみるかい?」
 聖林通りにある小さな寝具店を見つけた半兵衛は、舞音達に尋ねてみる。
「ええ、こう言ったところですと、良いものが見つかるかもしれませんし、入ってみるのも良いかもしれませんね」
 小さな店に色々ありそうだと直感で思った舞音は、3人を連れて店内に入っていった。
 色々、品定めをしつつも彼が居る時代より、若干変わってしまった布団に違和感を憶えつつも自分に合う布団を探す。自分の身長に合う布団を見つけた舞音は、肌触りを確認し、その掛け布団と敷き布団、シーツやカバーなどの一式を購入した。
 因みに、ここだけの話、舞音は実体化したときに持っていた昔のお金などを古銭商などに売り、食いつないでいるらしい……。
「大きい荷物はさすがに私だけでは無理ですし……」と言うことで、半兵衛が「宅配便で送ってもらったらどうだい」と告げる。舞音はそれがなんなのか尋ねつつ、同意した。
 この後、半兵衛や那由多、太助の教えで、彼の頭の中で「宅配便=色々大きいものや遠方の人に荷物を送るときに使うもの」という図式が出来たようだった。
「次は、家具だよね? 僕は新しい物を買うよりも、中古のものを買った方が良いと思うけどどうだい?」
 半兵衛が意外なことを言う。
 舞音もそれには、疑問を持っていた。
「家具屋の方が良いのでは……。確かに、私は趣のあるものが欲しいと言いましたが……」
「まぁ、話しだけでも聞いとくれ。今の平見さんの財力では、新しい物を買うのは難しいだろ。金策がないのだから、中古のものを使うというのが一番賢い方法だと思うんだけどね。それに、中古なら年代物の良いものが見つかるから良いかと思うんだよ」
「え、ええ……」
 金策がないと言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
「そうか、それなら、良いかもしれないよな。俺は、あいつの考えが良いと思うぞ」
「僕もそれで良いと思うよ」
 太助も、那由多もそれに同意して。
「分かりました。家具の中古を当たってみましょう」
 舞音も、それに従って、中古の家具屋を当たってみることにした。
 たまたま、聖林通りを歩いている途中、自転車屋を見つけた太助が、舞音に声をかける。
「なぁ、あの乗り物、『自転車』って言って、馬の代わりに自分でこぎながら、移動するものなんだぞ。この町は、結構広いし、移動も大変だから余裕があったら、買ったらいいと思うぞ」
「自分でこぐのは大変そうですけど、買ってみようと思います」
「僕も自転車に乗ることがあるけど、風を切って走るって、とても気持ちいいよ。
 それに、あなたなら、すぐに馴れると思うよ」
 那由多もそれに同意して、舞音も「それなら、気持ちよさそうですね」と笑みを浮かべて応えた。
 その後、彼らは中古の家具屋を見つけて、そこに入り、安価で舞音の要望に合う家具が見つかり、それを購入することにした。
「皆は、夕飯はどうするんだい? ここで会えたのも何かの縁だし、今晩、一緒に食べないかい?」
「良いのかよ。いきなり見ず知らずの人を、招いて?」
 心配そうに太助が問うと、半兵衛は「大丈夫だよ。それに、今日のお礼をしないといけないだろ?」と笑みを浮かべた。
「あ、ああ、それはそうだけど、おまえ大丈夫なのか?」と心配そうに太助が言うと、「心配要らないよ。僕の家は結構広いんだよ」と笑みをこぼした。
「な、なら、言葉に甘えようかなぁ……」と太助が言えば、那由多も「僕も、混ざって良い?」と言うと、半兵衛が「歓迎するよ。せっかくの機会だものね」と返した。
 そして、スーパーへたどり着いた一行に半兵衛はこう告げた。
「さてと……、今宵の夕餉のおかずでも探しますかね。皆さんと一緒に美味しいものを食べたいからね」
 そう言って、半兵衛は太助や那由多、舞音を連れて店内へ入った。
「そういや、俺がスーパー行かないかって言ったんだよな?」と店内に入るとき、太助は一人呟いた。
 店内に入り、舞音がまず驚いたのは、様々な種類の野菜、そして、香辛料や調味料の充実ぶり、何より、最も驚いたのは、肉類を食べることが出来ると言う事であった。
「野菜って、こんなにあるんですか!?」とあちこちにある色とりどりの野菜に驚いている。
 自分が知っている種類の野菜が幾つかあるものの、それ以外にも様々な野菜があることに驚いていた。
「そうそう、あなたがいた時代よりも、野菜も種類増えてるよね、『とまと』とか『にんじん』、『じゃがいも』とかさ」とあちこち野菜を見つめる舞音に、那由多が言う。
 舞音も「そうですね。その前に、長刀、隠された方が良いのでは?」と彼が持っている長刀をみて、那由多にふと言ってしまった。
「う、うん……」と彼は急いで持っている長刀を小さくし、それを隠した。
 一方、太助はと言えば……。お菓子に夢中だった。
 菠薐草に、ジャガイモ、にんじん、タマネギ、豚肉、白滝、油揚げ、豆腐にわかめ、それに味噌。色々な材料を買っていく半兵衛。他の面々にも協力して貰い、買い物を済ませていく。ちゃっかり、お菓子を買っていく太助や那由多の姿もあった。
 その光景は、普通の子供と似ていて、とてもほほえましく。
 半兵衛が「二人とも買い物を済ませるよ!」と言う声が聞こえ、とてとてと二人の側に戻ってきた。
 レジというものも初めてで、何もかもが初めてな舞音にとっては、貴重な経験となった。
「今日は、ここまでありがとうございました。本当に色々食べ物や調味料がありましたね。ここまで、日の本は豊かになったのはなぜでしょう?」と舞音が尋ねると、半兵衛はこう答えた。
「まぁ、文明開化のおかげって所だね」
「『文明開化のおかげ』? それはどういう事でしょう?」
 舞音が不思議そうな表情を浮かべて、半兵衛に尋ねた。
「平見さんがいた時代から600年後ぐらいに、国を閉ざして他の国と友好関係を結ばない状態を止めて、他の国と友好関係を結んだんだよ。その結果、他の国から様々な文化が入ってきて、今のこの町の様な状況になったんだよ。
 だから、醍醐のようなチーズという食べ物も食べられるようになったし、それに、スーパーで見たと思うけど、色々な香辛料が本格的に入ってきたのも、その時代からだからね」
「それに、夜、明るいよね? 僕のいた世界でもろうそくとかくらいしかなかったのに、今は『電気』って言うので灯りがつく『けーこーとー』とかあるんだよね。夜道も明るいのは、そのためなんだって」
 那由多がこう言うと、舞音はこう言った。
「そうなんですか。夜明るいというのは、色々ものを書く身としては有り難いことです」
「さて、急ぐかね。うちにつく頃には、夕飯まで時間が無くなりそうだね」
 半兵衛がこう言うと、急いで、4人は彼の自宅へと向かった。夜のとばりが落ち始め、様々な看板に灯りがともされ始めた夕暮れの街を駈けながら……。

●夕餉とお礼と……
 半兵衛宅にやってきた太助、那由多、舞音は、軽く挨拶を交わした後、半兵衛の夕飯の手伝いをしていく。
 那由多は自分の妖刀を包丁サイズに切り替えて、油揚げや菠薐草をきざんでいく。
 舞音は、米の支度に精を出す。意外と慣れた手つきで作業するので、半兵衛は思わず、「舞音さんって、料理できるのかい?」と言ってしまった。
「ええ、鎌倉では、いつもこんな生活ですから……」
「家来に任せないのかい?」
「任せても良いのですが、せめて自分の飯ぐらいは、自分で炊かないと……。それに鎌倉は意外と美味しいものもありますから……」
「例えば、何があるんだい?」
「そうですね。鰹とか、鎌倉海老がありますよ」
「鎌倉海老? それは初聞きだね」
「鎌倉海老……って凄く高級な魚だよね。僕が居た時代だと大名が食べるようなものなのかな? スーパーで伊勢海老を見たとき、舞音さんが『鎌倉海老』って言ってたから、多分、伊勢海老のことを言うんだと思うよ」と那由多が二人の話に割り込む。
「へぇ、それは、またいい話を聞かせて貰ったよ。平見さん、那由多さん、感謝するよ」
「いえいえ、こちらこそ、世話になりっぱなしの身ですし……」とちょっと苦笑いしつつ、舞音は言う。
 太助も、タマネギ、ジャガイモやにんじんの皮むきに精を出していて、「おい、おまえら、皮むきが終わったぞ!」と声を上げていた。
 細かい部分は彼の家にいる付喪神に任せて、今宵の夕食となった。

 今宵の夕食は、菠薐草と油揚げの炒め物に、肉じゃが、そして、豆腐と若布の味噌汁。加えて、家に残っていた野菜やベーコン、卵で、もやし、ベーコンと卵焼きの中華風サラダの4品と漬け物と美味しいご飯である。
「じゃ、早速頂くとしようかね」
 半兵衛がこう言うと、夕餉の時間となる。
 肉じゃがの美味しい香りや、お味噌汁の匂い、炊きたてご飯の香ばしい香りがあたりを包む。
 太助が肉じゃがのジャガイモを軽く一口ほおばる。
「う、うめぇ!」と幸せそうな表情を浮かべた。それに、ほっぺが落ちそうだったのも追記しておく。
「平見さん、今日一日、銀幕市内を歩いてみて、どうだった?」
 半兵衛が舞音に今日一日銀幕市内を感想を求めると、舞音はこう答えた。
「そうですね。文化が全然違うことにまず驚いたのと、食べ物や調度品の類が色々あるのには、驚きました。これから、色々と歩いてみようと思います。皆さんと共に、この町で生活していくことになるのですけど、何か困ったことがあったら、色々宜しくお願いします」
「料理であれば、いつでも教えるから、遊びに来なよ。そのときは歓迎するよ」
「俺も出来ることがあれば手伝ってやるからな」
「僕も何か出来ることがあったら、手伝ってあげるよ」
「皆さん、ありがとうございます。これから、宜しくお願いします」
 楽しい会話が弾み、夕餉が進む。太助や那由多は余程ご飯が美味しかったのか、ご飯のおかわりをしたり、味噌汁をおかわりしたりしていた。
「ところで、平見さん、働き口はどうするんだい? 口が無ければ、僕の所を手伝って貰いたいんだけどね」
「管理人さんから、この背の高さを生かして、『もでる』をやってみないかって言われています」
「へぇ〜、平見さんなら、顔立ちも綺麗だから、多分、モデルとして行けるかもしれないね」
「すげぇなぁ……。おまえ、足も長いもんな。モデルとやらなら、きっと行けるぞ!」
「僕も、その背になれるのかなぁ?」
 那由多が舞音に尋ねてみる。
「食べ物の好き嫌いをしないことが一番大切です。そうすれば、私みたいになれるかもしれません」
 笑みを浮かべた舞音は、こう言うとすうっと立ち上がった。
 軽く窓を開けてみる。窓からは月を見ることが出来た。
「今宵は月が綺麗ですね。今日のお礼に、詩吟を一つお見せしましょう」
 こういって、舞音が漢詩の「楓橋夜泊」の一説を歌い始めた。
 その声は、凜として、そして、透き通っていて、聞くもの全てを魅了していた。
「下手な詩吟で、失礼しました」
 舞音が歌い終わり、こう言うと、3人は拍手喝采で彼を迎えた。
 その後、半兵衛と舞音は、太助や那由多を自宅に送り、舞音のアパートで別れることとなった。
「彼らと、また会えると良いねぇ」
 帰り道で一人、半兵衛はこう呟いた。
 月は満月、雲もなく、星が燦然と輝く夜空の下、のんびりと彼は歩き、帰路についた。

クリエイターコメント ご参加頂きまして、ありがとうございました。
 皆様の思い、キッチリ受け止めて書かせて頂きました。
 色々、反映できてないところもあり、申し訳ございません。
 まだまだ、至らないところもありますが、今後とも平見 舞音共々宜しくお願いいたします。
公開日時2008-10-11(土) 16:00
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