★ 公園にて ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-7703 オファー日2009-06-01(月) 20:57
オファーPC ヨミ(cnvr6498) ムービースター 男 27歳 魔王
ゲストPC1 那由多(cvba2281) ムービースター その他 10歳 妖鬼童子
ゲストPC2 神威 左京(cwte5818) ムービースター 男 13歳 九尾妖狐(白)
ゲストPC3 神威 右京(cevt3718) ムービースター 女 13歳 九尾妖狐(黒)
<ノベル>

 いつものように、那由多は公園を訪れた。大切な友達とであった場所でもあり、なじみの遊び場でもある。その日も、いつもと同じように訪れただけだ。
 だが、足を一歩踏み入れると、違和感があった。何かがおかしい、と。
「何かな?」
 辺りを見回す。特に、変わった風景はない。ないはずなのに、違和感が離れない。
「何なんだろう?」
 今一度、那由多は呟く。すると、後ろから「確かに」と声がする。
「何か、おかしい気がしますねー」
 振り返れば、そこにはヨミがいた。たまたま、散歩で通りがかったのである。ヨミも那由多と同じく、辺りをきょろきょろと身馬渡ながら違和感の原因を探っていた。
「あなたも感じているなら、僕の気のせいじゃないんだね」
「でも、はっきりとは分からないんですよねー」
 ふむ、と口元に手を当てながらヨミは言う。そこに後ろから「あの」と声をかけられる。
「いきなりすいません。私も、何かおかしい気がして」
 声をかけてきたのは、神威 右京だった。右京は首からかけているタオルで額の汗を軽くぬぐいながら、二人に言う。右京にとって、公園はいつも走っている場所だ。そこが、どことなくおかしい気がしてならないのだという。
「俺も、そう言われたらって感じなんですけど」
 右京の後ろから、神威 左京が言う。いつもはついていかないのに、今回に限って珍しくついてきての出来事だった。
 そうして、那由多は「あ」と声をあげる。
「あそこの地面、変に盛り上がってる」
 那由多の言葉に、ヨミが「本当ですねー」と言って頷く。
「あっちのブランコも、動きが変に早いですよー」
「向こうにある滑り台もです。あんなに、急でしたっけ?」
 右京が、はっとしたように言う。左京は「ああ」と頷く。
「本当ですね。この公園全体が、だんだんおかしいものになっていくような」
 左京の言葉どおり、公園のいたるところが「おかしく」なった。
 広場はたくさんの凸凹が出来ており、サッカーに興じていた子ども達が悲鳴を上げた。ボールが上手く動かぬ上、出来た穴や山にけつまずいたり、上手く立つ事が出来なくなったりしていた。
 ブランコは振りが激しくなっており、誰も乗れなくなっていた。たまたま乗ってしまっていた子は、あまりの激しさに地面へと飛ばされてしまった。芝生の上に投げ出されたのが幸いし、かすり傷で済んでいたが。
 滑り台の傾斜は、大きくなっていた。滑り落ちる事が困難な上、階段の一段一段が大きくなってしまっている上、上に取り残されている子ども達は大声で助けを呼んでいた。滑り落ちるには急すぎており、階段を下りるには困難だ。
 公園のいたるところで悲鳴が上がっていた。突如起こったこの異変に、誰もがパニックに陥っていた。
 そんな中、那由多、ヨミ、右京、左京の四人は冷静に状況を見つめていた。辺りを見回し、何処がどのように変わっているかを見極めている。
「ムービーハザード、かな」
 ぽつり、と那由多が呟く。
「可能性は、高いでしょうね」
 右京は頷きながらそう言い、ちらりと那由多を見る。那由多は「なに?」と尋ねるが、右京はただ「いえ」と首を振った。
「不思議な縁だと、思っただけです」
「確かにそうですねー。この公園で、パニックに陥ってないのは、私たちくらいのものでしょうしー」
 ヨミはそう言い、辺りを見回す。こうなった原因が、公園内の何処かにいるはずだ、と目星をつけて。
「ハザードなら、原因があるはずですよね?」
 左京がそういった瞬間、那由多が「あ」と声を上げた。そうして、公園の中心にある噴水を指差す。
 異変の起きている公園の中で、噴水だけは殆ど何も起こっていない。水の噴出す所から、水が出ていないくらいで。
「あそこ、何かいるよ」
 ぱっと見、よく分からない。だが、那由多の指差す方を見つめると、なるほど。何かが、いる。
「丸い球体、みたいですねー」
 ヨミが「ふむ」と頷きながら言う。
 噴水の真ん中に、四つの球体がいた。大きさは、バレーボールくらいだろうか。赤、青、白、黄の四色の球体が、ぐるぐると噴水の上を回っている。
「あれが原因でしょうか」
 右京の言葉に、左京は「かもしれませんね」と言って頷く。
「もしそうなら、やめさせないと」
 那由多はそう言って、駆け出す。それに、ヨミ、右京、左京も続く。
 四人の動きに、四つの球体が気付いたようだった。赤が光ったと思うと、いきなり地面が凹んだ。それをいち早くヨミが気付き、ふわりと宙を浮いて回避する。他の三人も、穴が空いている事に気付き、軽々と飛び越えていく。
 次に青が光る。その途端、花壇に生えていた草花が大きくなって襲い掛かってきた。それに対し、那由多が「たぁ!」と言いながら、刀で草花を切り裂く。
 相変わらずパニックどころか、驚きもしない四人に、白と黄が苛々したようにぐるぐると回り始め、右京と左京に向かっていく。二人揃って、ギリギリのところでひらりと避ける。何事もなかったかのように。
「そんな事したって、無駄なんだからね!」
 那由多がびしっと言い放つ。四つの球体は、尽くパニックに陥れる事も、驚かせる事もできずにいる。それどころか、至近距離に四人はいる。
 球体はぐるぐると回る。最初に回っていた、公園をパニックに陥れてやろうとしている時の動きとは違う。苛立っているのだろうと思わせる、不規則な動きだ。
 そして、球体は一斉に空へと飛び上がる。一つずついって駄目ならば、四つ同時に攻撃をしかけようとしているのだ。
 球体は、那由多、ヨミ、左京、右京の周りをゆるりと回り始める。誰から攻撃するか、見極めるかのように。
「あ、そうなんですねー」
 ヨミは笑う。ぴたりと球体が止まった先に、ヨミがいたからだ。
 球体は、外見からヨミを標的に決めた。見た目、ヨミが一番、力がなさそうに見えたから。弱い方から倒していくのは、定石ともいえる。
 あくまで、見た目は。
 ヨミに向かって、球体が向かっていく。ヨミは、ゆらりと手を伸ばす。
「……破壊を」
 ぽつりと影に向かって呟く。影はゆらゆらと震えたかと思うと、あっという間に赤い球体を飲み込んだ。
 一瞬の出来事に、他の三つの球体はぴたりと動きを止めた。ヨミは、口元に笑みを携えて立っている。
 一歩たりとも、動いていない。動いたのは、影だけ。
 三つになってしまった球体は、再びぐるぐると回り始める。今度はヨミ以外を狙う為に。
 そうして次に選ばれたのは、右京だった。球体は一斉に右京へと向かっていく。
「仕方ありませんね」
 右京はそう言い、くるりと体を翻す。すると、あっという間に九尾の狐へと変化した。右京は、すうっと息を吸い込み、火炎弾をごう、と吐き出した。バレーボール大くらいの大きさの火炎弾は、同じくらいの大きさの青い球体をあっという間に包み込み、跡形もなく燃やし尽くしてしまった。
「右京さんに、何をするんですか!」
 左京はそういうと、懐に手を突っ込み、呪符を取り出して放つ。呪符はまっすぐに黄の球体に向かっていき、ぴたりとくっつく。
「雷撃」
 ぽつりと左京が呟くと、天から雷が黄の球体に降り注いだ。そして次の瞬間、プスプスと煙を放ちながらその場に焦げた球が転がった。
「残るは、一つだね」
 那由多が言うと、残された白の球体は勢いよく那由多へと向かっていく。
 弱いものから順に、驚かせ、パニックにさせ、倒していく筈だった。見た目で選んだのが間違いだったのか。
 いや、違う。公園にこの四人が訪れていた時点で、球体のハザードは阻止される運命にあったのだ。
 それを裏付けるかのように、白の球体は半分に切り裂かれて、ぽとんと地に落ちていた。那由多が刀を握った、次の瞬間に。あっという間の出来事だった。
「終わり」
 那由多がそう宣言すると同時に、球体は全て姿を消した。球体が全て消えると、公園内で起こっていた異変はあっという間に元の通りになった。
 凸凹になっていた地面は平らになり、再びサッカーをしようと子ども達が集っていった。
 ブランコは元の振り方に戻った。恐る恐る女の子が近づいて乗ってみるが、変に揺れる事もなく、すぐに楽しそうな声が響いた。
 滑り台に取り残されていた子は、歓声を上げながら滑って遊び出した。新たに階段を登る子もいる。
 もう、何もパニックを起こす原因はないのだから。
「あ」
 ふと気付き、ヨミは地面に落ちていたものを拾い上げる。フィルムだ。
「これが、今回のハザードだったんですねー」
 透かして見ると、パニック映画の一幕のようだった。四つの球体がぐるぐると回る事によって、パニックを引き起こしていたようだ。
「被害が少なくて、良かったよ」
 那由多はそう言って笑う。再び人型に戻った右京も「そうですね」と言って頷く。
「公園は、楽しむ所でしょうから」
「俺は、右京さんについてきて本当に良かったです。俺の知らない所で何かあったら、どうしようかと」
「いつもは、一緒に来てなかったよね?」
 いつもの公園を思い返しながら、那由多は言う。よく一人で走っている右京は目撃していたが、左京が付いてきているのを見たのは初めてだ。
「虫の知らせ、と言う奴でしょうね」
 いたって真面目に返す左京に、右京は「左京さん」と言って小さな溜息をつく。ほんのり頬が赤いところ見ると、少し照れているようだ。
「それじゃあ、私はこれを対策課に届けますねー」
 ヨミはそう言ってフィルムを握り締める。那由多が「僕も行く」と手をあげる。
「僕も関わったんだし、一緒に行くよ」
「それならば、私達も一緒に」
 右京の言葉に、左京が「はい」と言って頷く。
「それにしても、右京さんが危ない時の左京さんは凄かったですねー」
 ヨミが言うと、左京は「それほどでも」といって笑う。
「そうそう。僕達が危ない時は、全然動かなかったのに」
 那由多画言うと、左京と右京は顔を見合わせ、くすくすと笑う。
「お二人に、助けの手は必要ないと思いましたから」
 左京の言葉に、ヨミと那由多は顔を見合わせる。確かに、手は必要なかった。球体が一気に襲い掛かってこようとも、軽く跳ね除ける事も出来た。
 それを、何となくとはいえ、分かられていたのだ。
「私にも手は必要なかったんですけれど……」
 右京が言うと、左京は「仕方ありません」と言って微笑む。
「右京さんには、指一本触れさせたくなかったですから」
 左京の言葉に、右京は再び「左京さん」と言って息を吐き出した。それを機に、四人は一斉に笑う。先程まであったムービーハザードの事も、何もなかったかのように。
「折角ですから、対策課からの帰りに、お茶でもしましょうかー?」
 ヨミの提案に、那由多は「賛成」と言って笑う。
「ファーストフードがいいな」
 那由多の言葉に、右京が「それなら」と口を開く。
「ナゲットがあるところがいいです」
「右京さんは、ナゲット好きですから」
 左京が言うと、右京がこっくりと頷く。那由多は「決まりだね」と言ってにっこりと笑う。
「それじゃあ、皆で対策課にフィルムを届けて、説明をして、帰りにファーストフードによりましょうかー」
 ヨミが纏める。皆こっくりと頷き、対策課に向かって歩き始めた。
 四人が背にした公園は、いつもと変わらず平和な景色が戻っていた。あのパニックに陥れた四つの球体は、もう何処にもいない。
 いつもと同じ笑い声が、公園に響いているのだった。


<談笑しつつ対策課に向かい・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。
 この度は、オファーを頂きまして、有難うございます。

 起こったムービーハザードに対する皆様があまりにも強いので、戦闘シーンがかなり味気なくなってしまってすいません。
 皆様でしたら、パニックにはならないなぁと思いつつ、書かせていただきました。むしろ、相手がパニックに陥っていそうです。

 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
公開日時2009-07-07(火) 18:40
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