★ 交差点から接点へ ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-7451 オファー日2009-04-22(水) 17:20
オファーPC シグルス・グラムナート(cmda9569) ムービースター 男 20歳 司祭
ゲストPC1 香玖耶・アリシエート(cndp1220) ムービースター 女 25歳 トラブル・バスター
<ノベル>

 シグルス・グラムナートは「あれ?」と呟いた。
 特にあてもなく、ショッピング街を歩いていた。セールが近いらしく、ショウケース内は実に彩り豊かなことになっている。それをぼんやりと眺め、女性はこういうのが好きなんだろうなぁ、と何気なく思っていた。実際、ショウウインドウのディスプレイをじっと見つめる女性の数は、少なくなかったから。
 その中に、見知った銀色の髪があった気がして、シグルスは呟いたのだ。何気なく通り過ぎてしまったので、確認と称して振り返る。
 やはり、いた。ショウウインドウに釘付けになっている、香玖耶・アリシエートの姿がそこにある。
 シグルスは香玖耶の後ろに立ってみた。気付かない。
 後ろでひらひらと手を振ってみた。気付かない。
(夢中だな)
 苦笑交じりに香玖耶の視線を辿れば、そこにはひらひらのワンピースがディスプレイされていた。淡い薄紅色のワンピースは、桜を思い出す。
「……欲しいのか?」
 声をかけると、びくり、と香玖耶は盛大に体を震わせた。ぴょん、とその場で飛び上がったりもしていた。
 シグルスは感心し、小さく「ふむ」と頷く。
「初めて、驚いて本当に飛び上がる人間を見たな」
「な、何よ、いきなり。びっくりするじゃない!」
 香玖耶の顔が赤い。余程びっくりしたのだろう、ばくばくと鳴る心臓を服の上から抑え付けていた。
「色々アクションを起こしたんだが、気付かなかったのはカグヤの方だろう?」
「あ、アクションって何よ?」
 多少落ち着いたらしい香玖耶が、シグルスに尋ねる。シグルスは「ええと」と呟きながら、思い返す。
「後ろに立ってみたり」
「ストーカーみたいね」
「手を振ってみたり」
「背中に振ってどうするのよ……って、いつからいたの?」
 様々なアクションを聞かされた香玖耶は、改めてシグルスに尋ねる。
「いや、ついさっきだ。カグヤが夢中になって見ていたのを、ちょっと見たくらい」
「む、夢中になってないわ」
「興味津々なんだろ?」
「興味なんて、ないわよ!」
 ぷい、と香玖耶はショウウインドウから目を逸らす。が、横目でちらちらとショウウインドウを見ている。
(素直じゃないな)
 シグルスは思わず吹き出す。どう見ても、気になっているとしか思えない。
(そういえば、カグヤはフランス人形だったっけ)
 ふと、シグルスは人形師の館での出来事を思い出す。あの時鉢合わせした「フランス」の正体が香玖耶である事は、香玖耶が実体化していることを知って確信を持てた。使っていた精霊や、性格や、言動。それらは全て、あの「フランス」が香玖耶以外の何者でもない事を物語っていた。
(まだ、カグヤは気付いてないのか?)
 じっと、シグルスは香玖耶を見る。香玖耶は「な、何よ」と返してくる。香玖耶の性格を考えれば、あの時の「サムライ」が自分である事を知って、何も言わないはずが無い。
(となれば)
 シグルスは、にやり、と笑って口を開く。
「よっぽどひらひらした服が好きなんだな、フランス」
 え、という口の形で香玖耶は動きを止めた。
「フランスって……え?」
「あの時も、ひらひらしてたもんな。つまり、あれはカグヤの願望でもあった訳だ」
「ちょ、ちょっと待って。あの時の事を知ってるのって、サムライで。えっと……え?」
 思いも寄らぬ言葉を聞き、香玖耶は混乱していた。シグルスは満面の笑みを浮かべ、ぽん、と香玖耶の肩を叩く。
「ついでに縦ロールにしてみるか? フランス」
「し、シヴ……まさか、シヴが、サムライ……?」
 恐る恐る、香玖耶は尋ねる。シグルスは「なんだ」と言って、ふっと鼻で笑う。
「やっぱり、気付いてなかったんだな、フランス」
「シヴ……って、えええー!」
 思わず香玖耶は大声を上げる。シグルスは耐え切れず、ぶっと噴出す。
「ちょ、ちょっと待って! シヴ、いつから気付いていたのよ」
「あの依頼をこなした後、何となく。実体化しているかが分からなかったから確信は持てなかったんだが、実体化してるって分かったから」
「私、全然気付いてなかった」
「カグヤは分かりやすいからな」
 香玖耶は「そう、そっか」と言いながら、当時を思い出す。
「そういえば、サムライってば侍の癖に回復魔法使っていたっけ。しかも、あの冷静な口調がどこかの誰かを思い出すって思っていたのよ」
「どこかの誰かって、そりゃ俺か?」
「今思えば、色々とシヴっぽいのよね。ああ、もう。もっと早く気付けば良かった!」
 香玖耶はそう言って、ぐっとこぶしを握り締める。
「俺としては、今気付いてくれて良かったと思うが」
「何で?」
「面白いものを見れたから」
「シーヴー……あんた、本当に良い根性してるわね」
「まあな。そういうカグヤも、良い方向感覚してたよな。本能的な試みを感じたよ」
「そ、そんなに方向音痴じゃなかったわよ」
「あの時、俺が声をかけなかったら、何回見る羽目になったんだろうな……花の絵」
「いいじゃない、シヴが方向修正してくれたんだから! 終わりよければ、全てよしって言うじゃない」
「無事終わってよかったよな」
「もう、シヴってば!」
 当時の事を思い返しつつ、二人で言い合う。言い合っている割に、二人ともどこか楽しそうだ。
「あのぅ」
 そこに、二人とは違う声が入ってきた。二人がはたと気付いてそちらを見ると、そこには香玖耶が見つめていたショウウインドウの店員が立っていた。
 店員はにこやかに「何か、当店に不備でも?」と尋ねてくる。
「ふ、不備なんてとんでもないです。その、ごめんなさい。店先で騒いじゃって」
「すまない。つい、カグヤのひらひら好きを知ってしまって、頭がいっぱいに」
「もう、シヴってば!」
 あくまでも「ひらひら」を強調するシグルスに、香玖耶は突っ込む。店員は「そうですか」と良い、店の方へと指し示す。
「宜しければ、ご試着してみませんか?」
「え?」
「当店の服を見られてくださったんですよね? でしたら、是非」
 香玖耶は再び「え」といい、シグルスを見る。シグルスは「着てみろよ」と言い、ぽん、と香玖耶の背を押した。
「わ、私に似合うかな」
「似合うかどうかは、着てみてから判断すりゃいいじゃないか」
 不安そうな、だがどこか嬉しそうな香玖耶に、シグルスは言う。香玖耶は「そうよね」と頷き、店内へと足を踏み入れる。
「きっと、とてもお似合いになられますよ。さあ、こちらに」
 店員はそう言って、ショウウインドウに飾ってあった服を持って試着室へと案内する。香玖耶は照れくさそうに「じゃあ、行ってくる」と言い、試着室へと入っていった。
 暫くして、店員が試着室の中に居る香玖耶に「いかがですか?」と声をかける。
「あの、その……着てはみたんですけど」
「サイズはいかがですか?」
「サイズは、大丈夫、なんですけど」
 どうもはっきりしない。店員が小首をかしげ「失礼します」と言って、試着室の中に入る。
「まあ、お似合いじゃないですか」
「でも、なんだか、恥ずかしくて」
「もっと大きな鏡でご覧下さいませ」
 シグルスが何事かと首を捻っていると、試着室の扉が開いた。
 ふわり、と中から薄紅色のワンピースを着た香玖耶が現れる。照れくさそうに微笑み、シグルスを見て「どうかな?」と尋ねる。
 シグルスは、何も答えられなかった。何かを言ってやろう、恥ずかしがっているだろうから茶化してやろうかなんて、考えていたというのに。
 普段の香玖耶とは違うその服装に、シグルスは思わず言葉を失ってしまったのだ。
「……シヴ?」
 香玖耶が不思議そうに尋ねてくる。シグルスは慌てて「あ」と言葉を発する。
「いいんじゃないか?」
「そ、そうかな?」
「ええ、とてもよくお似合いですよ!」
 照れるシグルスの言葉を代弁するように、店員が褒めた。事実、ひらひらと風に乗るワンピースは、香玖耶によく似合っていた。
「いかがなされますか?」
 店員が尋ねる。香玖耶は少しだけ迷った後「じゃあ、頂きます」と言って微笑む。
「ついでに、このまま着ていっていいですか?」
「かしこまりました。それでは、タグをお取しますね。着られていた服は、お包みいたしますので」
 店員は深く頭を下げ、てきぱきとワンピースのタグを外し、香玖耶の着ていた服をショッピング袋に入れた。
 会計を済ませ、香玖耶はシグルスに「お待たせ」と声をかける。シグルスは「ああ」と頷き、二人揃って店を出た。
「あーもう、買っちゃった」
 えへへ、とどこか嬉しそうに香玖耶は言う。シグルスはというと、いつもと違う雰囲気になった香玖耶に戸惑ってしまい、ただ頷く事しかできない。
「もう、どうしたのよ、シヴ。もっと、何かいう事は無いわけ?」
 痺れをきらした香玖耶が、シグルスに尋ねる。シグルスは自らを落ち着かせるように大きく息を吐き出し、口を開く。
「良く、似合ってるよ。流石、興味津々だっただけあるな」
 ようやく、シグルスは考えていた憎まれ口を口にした。次に香玖耶から来る「何よ、それ」という突っ込みを期待して。
 だが、返って来たのはツッコミではなく「よっしゃ!」という力強いガッツポーズだった。憎まれ口をそのまま、褒め言葉と受け取ったのだ。
 そこでようやく、シグルスはぷっと吹き出した。雰囲気の違う香玖耶だが、やっぱり香玖耶は香玖耶なのだと思って。
「だから、その格好でガッツポーズはないだろう」
 どこかで思った事を、今度は口にする。本当に香玖耶は香玖耶だ、と思いながら。
「次はシヴがサムライになる番よね。その場合、やっぱり時代劇を疑似体験できるアミューズメントに行かないと」
「何で、あえてそういう場所に行こうとするんだ?」
「いいじゃない。サムライ姿、かっこよか」
 ぷっと香玖耶が噴出す。
「カグヤだって、フランスだったんだぜ? 今も、それに近いけどな」
「だったら、次はシヴよ。サムライの格好になってもらわないとね」
「もっと他にあるだろう。遊園地とか、普通に遊ぶ所が」
 シグルスが言うと、香玖耶は「そうねぇ」と言って笑う。
「そういうのも良いわね。でもやっぱりサムライは外せないわ」
「外せ外せ」
 思わず突っ込むシグルス。
 二人は、気付かない。何時の間にか、なし崩し的にデートになっているという事に。
「あ、シヴ。あそこのアイスクリーム、凄く美味しいのよ」
「食べたいのか」
「まあね。さ、行くわよ!」
 香玖耶はそういうと、シグルスの手を自然と取って走り出す。シグルスは思わず頬を綻ばせて「ああ」と頷く。
 繋いだ手を、きゅ、と強く握り返しながら。


<互いの手と手が接点となり・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。再びのオファー、有難うございます。
 前回のノベル「交差点」の後日談という事で、前作との接点もちょいちょい入れさせていただきました。何より、再びお二人が巡り会い、互いを認識できた事が嬉しかったり。おめでとうございます。
 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2009-05-13(水) 19:00
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