★ 【Love is Beautiful Energy!】チョコレートと赤い顔 ★
クリエイター犬井ハク(wrht8172)
管理番号102-6663 オファー日2009-02-12(木) 15:06
オファーPC 昇太郎(cate7178) ムービースター 男 29歳 修羅
ゲストPC1 ディズ(cpmy1142) ムービースター 男 28歳 トランペッター
ゲストPC2 ミケランジェロ(cuez2834) ムービースター 男 29歳 掃除屋
<ノベル>

 二月十四日。
 特に何の変哲もない土曜日。

 いつものようにのんびりと散歩に出た昇太郎(しょうたろう)が、多種多様なチョコレートやその他のプレゼントが入ったたくさんの紙箱を手に、首をかしげながら戻ってきたのは、午後二時半を過ぎた辺りのことだった。
 山のようなチョコレートは、それ以外の贈り物ともども、昇太郎と出会った友人知人が、皆、何故か計ったかのように、綺麗な紙で包装された箱に入った状態でプレゼントしてくれたのだ。
 どれも、ごくごく自然に、さっと手渡されてしまったので、断ることも返すことも出来ず、また友人知人に贈り物をされるというのは悪い気分でもなく、ありがたくもらってきたのだが、釈然としないのも確かだ。
「おお、大漁だな」
 感心したように言ったのは、友人のディズだった。
 どうやら、遊びに来ていたらしい。
 昇太郎が居候しているこの場所、親友のミケランジェロが構えている事務所に、家主の他に、友人のディズもいることだからと、昇太郎は、ちょうど午後のお茶の時間だということもあり、ミケランジェロが淹れてくれたコーヒーのお供に、もらってきたチョコレートを提供した。
 コーヒーは、チョコレートの甘味が引き立つよう、少し酸味の強いキリマンジャロをチョイスしたとのことだった。もちろん昇太郎はその辺りに執着がないので、説明されても頷くことしか出来なかったが。
「しかしまァ……たくさんもらったみてェじゃねぇか」
 赤青黄色、紫緑、白にピンクに金に銀。
 色とりどりの包み紙に飾られて、小さなものから大きなものまで、全部で二十はあるだろうか。そのどれもが、独特の、甘くて深い、鼻腔を誘惑する香りを漂わせている。
 ちなみに、一際大きい籐編みの籠は、昇太郎が大変慕っている人物から問答無用で手渡されたものだ。
「せやな、よぉけもろたわ」
 ラッピングを丁寧に解き、箱のひとつを開けながら昇太郎は頷く。
 中身は、六つ入りのトリュフチョコレートだった。
 三人で食べるには少ないので、もう二つ三つと箱を開けていく。
 事務所の、くたびれたソファに腰掛けて、その前のやはり少しくたびれたテーブルにチョコレートたちを載せ、食べてくれ、と手で促すと、ディズがチョコレートのひとつを嬉しそうにつまんで、口の中へぽいと放り込んだ。
「んー、美味い」
 にかっと笑う無邪気な顔に笑いかけ、昇太郎も手を伸ばしてチョコレートをつまむ。
 昇太郎が手に取ったのは、ボンボン・ショコラの基本とも言えるトリュフチョコレートだった。
 生クリームで滑らかさを増したチョコレートに、ラム酒を少し聞かせ、粉砂糖で彩ってあるそれは、甘くほろ苦く、薫り高い。
「……へえ、美味いな」
「お、こっちのジャンドゥヤもいける」
 ミケランジェロが指先についたチョコレートを舐めながら言い、その隣の、細長いチョコレートに手を伸ばした。
「あ、これ、オレンジピールかと思ったら、グレープフルーツピールなのな。いい仕事してるぜ……この酸味と苦味がなんとも言えねェわ」
「オレはこっちのが好きだな。中にナッツが入ってて、すげぇ香ばしいんだ」
「そりゃ、ロッシェって奴だな。砕いたナッツをジャンドゥヤとかプラリネでまとめて、チョコレートでコーティングしてあるんだ。ロッシェってのは、フランス語で岩を意味するんだが、何となく判るかたちだよな」
「あー、言われてみりゃそーかも」
 チョコレート・クリームを挟んだマカロン。
 コーヒー豆をチョコレートでコーティングしたもの。
 香ばしいチョコレート・ワッフル。
 手作りのチョコレート・マフィンにパウンドケーキ、ガトー・オ・ショコラ。
 滑らかなパヴェ、ナッツとドライフルーツをふんだんにトッピングしたマンディアン、ハート型のチョコレート・クッキー、貝殻のかたちのプラリネ、薫り高いシャンパン・トリュフ。
 色とりどりのボンボン・ショコラは、そのひとつひとつに風味があり、顔立ちがあり、味わいがあって興味深い。
「……チョコレートて、案外奥の深い食いもんなんじゃな」
 チェリー・ボンボンを頬張った途端、中から薫りのいいさくらんぼ酒が飛び出してきて、目を白黒させたあと、昇太郎はコーヒーを啜って息をひとつ吐いた。
 ひとつひとつ、一粒一粒に、作り手の愛情とか、プライドとか、そういうものが見て取れる。きっと、これらを作ったショコラティエたちは、自分の作ったチョコレートを食べた人々の笑顔を想像して、胸を熱く誇らしくしているのだろう。
「……せやけど」
 ひとつ、腑に落ちないことがあって、昇太郎は首をかしげる。
「ん、どしたよ?」
「いや……今日はなんぞ、祭でもあるんじゃろか? 何で皆、俺に、こげにぎょうさんチョコレートをくれたんじゃろ?」
 そこが判らん、と昇太郎が言うと、ミケランジェロとディズが顔を見合わせてぷっと吹き出した。
「……何ね」
「いや、お前って、ホント色んなこと知らねぇんだなァ」
「ショータのそういうとこ、見てて微笑ましいけどな」
「……?」
 わけが判らず、また首をかしげる昇太郎。
 ミケランジェロとディズが笑い、
「今日はな、バレンタインって言う日なんだよ。本来は、まぁ、とある宗教で聖人が殉教した日なんだけどな、今では、愛情のあかしにチョコレートやプレゼントを贈り合う日になってるんだ」
「この国じゃ、女の子が好きな奴に告白するための一大イベントにもなってるらしいぜ?」
「この国のバレンタインは企業戦略に踊らされてるとこもあるけどな、身近な相手に、日頃の感謝とか好意を込めて贈るって意味や意義に変わりはねぇと思う」
 丁寧に説明してくれる。
「……っちゅーことは、つまり、」
「まぁ、お前がこうしてチョコレートやらプレゼントをもらったってのは、皆が、おまえを大事に思ってるってことだろ」
「……!」
 満面の笑顔で手渡された、たくさんの贈り物たち。
 そこに込められた意味と、向けられた好意に気づいて、昇太郎は耳の先まで真っ赤になった。
 修羅と呼ばれ忌み嫌われた自分が、この街ではたくさんの愛情に包まれていることを、昇太郎は自覚しているが、それをこうやって、かたちにして示されたことで、照れと喜びとが交互に押し寄せ、どう反応していいのか判らなくなる。
 幸せで幸せでたまらない。
 同時にそれが、とてつもなく照れ臭い。
 嬉しいけど、恥ずかしい。
 そんな気持ちが言葉に出来なくて、歯痒くて、昇太郎が押し黙ると、
「……そういやァ」
 マカロンをつまみながら、ミケランジェロが昇太郎を見遣る。
「お前、俺には?」
「……は?」
「だから、チョコレートだよ」
 一番大事な親友だろ? と、にやりと笑ったミケランジェロに手を差し出され、昇太郎は眉根を寄せてその手をぺちりと叩いた。
「チョコレートなら、勝手に食うたやろが、あの船で」
「はァ? ありゃバレンタインの贈り物に入んねぇだろ」
「……そういう自分はどうなんじゃ、ミゲル。お前こそ、友達言うんじゃったら、何ぞ寄越せ」
「バレンタインなんか柄じゃねェっつの」
「は、ほんなら最初から言いな、アホウ!」
「誰がアホウだこの天然ボケ!」
「ボケじゃ言うのんがボケじゃこのタマ!」
「ちょ、それ悪口に使うのかよ!?」
 平和な午後のお茶が、何故か大人気なさ100%の口論になっていく。
 見ているものがいれば馬鹿馬鹿しさに呆れるようなやり取りをして、ソファから立ち上がり、ファイティングポーズまで取ってミケランジェロと睨み合った昇太郎だったが、
「ふたりとも、仲いいよなー?」
 勝手にキッチンからナイフを出して来て、ガトー・オ・ショコラを好きなように切り分け、かぶりついていたディズがそう言ったので、思わず脱力して彼を見下ろした。
 と、同時にミケランジェロもディズを見ている。
 ふたりの視線に気づいて、ディズが首をかしげた。
「どした?」
 昇太郎はミケランジェロと顔を見合わせたあと、
「「ディズ、お前は?」」
 異口同音に、そう尋ねていた。
 バレンタインデーは、親しい人に贈り物をしてその友愛を示す日。
 ならばディズはどうなのか、と。
 するとディズは、あの、人好きのする笑みを浮かべ、
「……かたちのある贈り物じゃねぇけど?」
 青く輝くトランペットを手に取った。
 高く遠く響き渡る、軽快で楽しげな音楽。
 思わず踊りだしたくなるような、気持ちを軽やかにする、晴れ渡った空のような音楽が、事務所を包み込み、昇太郎はミケランジェロと顔を見合わせ、肩を竦めてから、笑った。
 昇太郎は残念ながら、彼の奏でるそれが、何という名前なのかも判らなかったが、
「……かたちがのぉても悪ないな。気持ちがこもってるのんが判るけぇ」
 ディズの与えてくれる友愛を全身に感じ取ることが出来たから、これもまた幸せだ、と、思っていた。

 そうして過ぎていく、二月十四日の午後である。










 おまけというか、オチ。
「……ところで昇太郎、さっきからずっと気になってたんだが、そこの籐編みの籠には何が……って、いい、やっぱりいい! なんか悪寒がするから開けんな……っぎゃあああああああああ!?」
「ん? どないした、ミゲル。誰がくれたかは判るじゃろ? お前、前から欲しがってたけぇな、ミゲルチョコレート。見てみい、この精巧さ……感心するわ」
「感心するっつーか戦慄するわ! つぅか生まれてこの方欲しいなんて言った覚えはねェぞ畜生!? なんだその夜になったら動き出しそうなそっくりぶり! 十分の一サイズなのがせめてものアイツの優しさなのか、そうなのか……!」
「いや、しかしいい出来じゃな。物凄くいい匂いじゃ……ええ材料使(つこ)た言うてたもんなぁ……ん、ちぃと味見でもしてみよか。……んー……ほな、この辺りを……」
「本人の目の前で無造作に折んなよ……っていたたたたたたたたッ!? ちょ、何か今腕に激痛が走ったぞオイ!? え、何だソレ、呪いのチョコレートか!? ……って、やめ、人が痛がってんのに普通に食うな……っ痛ェ痛ェマジで痛ェ!?」
「おお、ホンマに美味いわ……ちゃんと礼をせんといかんな、これは」
「頼むから人の話を聴けえええええええええぇッ!」
「ははは、ふたりともホント仲いいなぁ」
 ……頑張れ、ミケランジェロ。

クリエイターコメントオファー、どうもありがとうございました!
そしてその節は大変ご迷惑をおかけいたしました……!

ともあれ、バレンタインのワンシーンなプライベートノベルをお届けいたします。

チョコレートのことが書けて、ほのぼのとか仲良しさんな口喧嘩とかワンコな方とかボケとかツッコミとか色々書けて楽しかったです。
最後のアレは……うん、その、出来心で……(しかし後悔はしていなさそうな笑顔)。

あっさりした短編になりましたが、お三方の間を通う友愛と、愛されることへの歓び、くすぐったさ、愛せることの幸いを感じ取っていただければ嬉しいです。


それでは、素敵なオファー、どうもありがとうございました!
また機会がありましたら、どうぞよろしくお願い致します。
公開日時2009-02-14(土) 00:00
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