★ ヤクザと怪盗と映画館 ★
<オープニング>

「た、大変っす! 大変っすっ!」
 ばたばたとCafeスキャンダルに此花慎太郎が駆け込んできた。
「あ〜ら、商売敵さん。今日は敵情視察かっしらぁ〜ん」
 営業スマイルに何か別のものを含んだような笑みを浮かべて、常木利奈は出迎えた。
「いや〜、おかげさまで名画亭も盛況っす!」
 慎太郎は頭をかきながら、てへへと答える。皮肉が通じた気配はない。
 事実、リニューアルしてからは隠れた名所として観光客が足を運ぶようになっていたのだ。
 バッキーグッズは売っているところが少なく、女子高生たちに人気らしい。
「冷やかしなら帰ってくださらなぁい」
 ずんと仁王立ちをする利奈に思い出したように慎太郎は握り締めた紙を広げてみせた。
「何々……『一週間後、名画座のレトロフィルムとついでに権利書を頂きに参上するby怪盗キネマトロン』うわぁ、あの怪盗が銀幕市にくるんだ……」
 ぐしゃぐしゃになった予告状を眺めると、利奈はふむと唸った。
「怪盗が来るって……ウチはそんなに裕福じゃないっすよ〜」
「キネマトロンが狙うのは、レトロフィルムなのよ。そういう収集家なのよね。決まり文句は『いい映画はお金で買えない価値がある』っていうの」
「物知りっすねぇ〜……って、ウチの権利書を取りにくるってヤバイじゃないっすか!」
「まぁ、どうしてそうなったのかはわからないけれど……常連さんに協力してもらったら?」
 慌てふためく慎太郎をよそに利奈は客席の方をずらっと見渡した。

 一方、その頃……。
 薄暗い室内で、二人の男たちがひそひそ話しをしていた。
「おやっさん、あんなチンケな怪盗に任せてもいいんですかね?」
「レトロフィルムのありかを教えてやったわけだし、その礼に権利書を俺はもらうだけだ。「取引」としてはフェアーじゃねぇか」
「そうっすね、しくじったらボコりゃいい……」
「こっちには俺たちのシマがねぇからな……あそこを拠点にしてこの銀幕市を手に入れる」
 野太い声が響き、グラスをぐっと握る手が天井からのライトに照らされている。
「どんな手を使ってでもな」
 パリンとグラスは砕け散った……。

種別名シナリオ 管理番号40
クリエイター橘真斗(wzad3355)
クリエイターコメント怪盗がレトロフィルムのついでに権利書を盗みにきます。
これを守るのが主な目的ですが……何か別の事件がおきそうな予感です。
名画座の警備を担当してください。

《怪盗キネマトロン》
ムービーファンで、職業は怪盗。
年齢は10代後半。
怪盗ブレットシリーズの大ファンで、マジシャンを経て怪盗へ。
常に美しく優雅に、そしてフェアである英国紳士精神を持っている男です。
他の街を転々としていて、今は銀幕市をターゲットにした模様です。

参加者
秋津 戒斗(ctdu8925) ムービーファン 男 17歳 学生/俳優の卵
浦瀬 レックス(czzn3852) ムービースター 男 18歳 ミュータント
岡田 剣之進(cfec1229) ムービースター 男 31歳 浪人
柊木 芳隆(cmzm6012) ムービースター 男 56歳 警察官
ヘンリー・ローズウッド(cxce4020) ムービースター 男 26歳 紳士強盗
<ノベル>

「まず、警察いかないか普通」
「それでも、かかわった限り放っておくわけにもいかないだろ?」
 ぼそっと漏らした秋津戒斗(アキツカイト)の一言に浦瀬レックスは突っ込みをいれた。
「そんなことはおいておいて、張り込みの打ち合わせに協力してくれー」
 ここは名画亭の一角。
 喫茶店でもあるここに、不釣合いな図面がテーブルを占領していた。
 現在、怪盗キネマトロン対策会議の真っ最中であった。
「この名画座の間取りからすれば、逃走経路はこんなところかな」
 柊木 芳隆 (ヒイラギ カオル)が図面にマルをうち、意見を聞いた。
「そんなところでいいんじゃないか」
「この辺を最後に塞げばおしまいってとこだな」
「俺はこの此花殿の部屋の前でガードしよう」
 岡田 剣之進 (オカダ ケンノシン)も自らのポジションの確認をした。
 同意しているメンバーの中一人違うことをしようとする男がいる。
「悪いけど、僕は別行動をとらせてもらうよ。名画座はそんなに広くないし、巡回はそれくらいでいいと思うからさ」
 ヘンリー・ローズウッドはいつもと変わらない笑みを浮かべる
「妙なことをするつもりではないだろうなぁー?」
「それは秘密。準備があるから、これで失礼するよ」
 柊木の突込みをするりとかわして、ヘンリーは名画亭を出ていった。
「なんつーか、相変わらずだよな。アイツ」
「それよりも、『ついでの権利書』が気になるよな……」
「それは俺も同感だ」
 浦瀬の疑問に柊木も同意する。
「他の市での活動を聞くと、どうも狙うのは映画に関係するものばかりだ」
 柊木は新聞の切り抜きでできたスクラップブックを指差す。
「今回に限って権利書が絡むのがなぁー」
 柊木は歯がゆいと思いつつ、首をかしげた。
「まっ、どっちにしろ名画座復興に関わったものとしては、放ってはおけねーし」
「最もな話だな」
「予告日まで、まだ時間はござる。準備のほうをやろうか。捕り物であれば、縄なども必要だな」
「おう、それじゃ、がんばりますか」
 一同はうなずき、おのおのの準備にとりかかるのであった。

 その頃、ビルの陰から彼らを見る人影があった。
 「厳重に警戒してきているね……」
 格好はタキシードにシルクハット。
 年は10代後半くらいの男が怪しい仮面をつけている。
 怪盗キネマトロンその人だった。
「善良な市民からレトロフィルムをかき集めて映画館とするなんて美しくないね」
 ふっと、キネマトロンは笑いマントを翻す。
「レトロフィルムを救いつつ、そこの権利書も市役所の方へ提出させてもらうよ」
 それだけ言い残すと、キネマトロンは闇へ消えていくのだった。

 予告日の夜。
 物々しい警備が始まる。
 予告時刻まで5分をきったころ、剣之進が警備をしている支配人室の前を慎太郎が通りかかった。
「やぁ〜、剣之進さんお疲れ様っす」
「これは慎太郎殿。ここは俺が守りとおすので安心してほしい」
「そうだね、でもあと5分もたてば時間だから、そんなに気合いれなくてもいいと思うよ」「武士として、油断はしない。俺の棒捌きでお縄を頂戴してやる」
 そういうと、剣之進は2mもあろうかという木の棒をぶんぶんと素振りした。
「それは頼もしいや、ぜひよろしく頼むっす」
 にっこりと笑い、口笛を吹きながら、慎太郎は立ち去っていく。
 その姿を妙と感じながらも、剣之進は警備を続けるのであった。
 そして、予告時刻である21時。
 名画座のロビーにある大きな古時計がときを告げだした。
 館内に響きわたるその音は、気を引き締めさせた。
 時報の鐘が鳴り終わったあとの静寂を、バタンとドアを開ける音が打ち破った。
 そこから出てきたのはシルクハットにタキシード。マントまで翻し仮面をつけた男。
 怪盗という言葉がふさわしい人物がでてきた。
「予想通り。つまらないくらいだけどね」
 怪盗が出てきた従業員用トイレ付近の曲がり角から黒髪の美女が姿を現した。
 怪盗はそちらを向いて驚いたように身構える。
「そんなことする必要はないよ、私は貴方のファンなの」
 美女は両手を上にあげながら、怪盗へ近づいていく。
 だが、その二人を巡回中の戒斗が見つけた。
「そこの二人、何をやってる!」
「あら、見つかっちゃったわね」
 美女が戒斗の方を見て、呟く。
 怪盗はそんなことなど気にしないかのように戒斗から逃げ出す。
「ちょっと、まってよっ!」
「ったく、キネマトロンに助手がいるなんて話きいてねぇぞっ!」
 戒斗は舌打ちをして、仲間へレシーバーで連絡を取る。警備用品のレンタルである。
「こちら、戒斗。業務員トイレで怪盗らしいのを見つけた。急いで着てくれ!」
 急いで逃げていく怪盗と黒髪女を戒斗は追いかけだした。

 逃げる怪盗を追いながら、黒髪の美女は問いかけた。
「サインをくれたら、おってどうにかしましょうか?」
 怪盗は何も言わず逃げ続ける。
(警戒しているのか、そこそこ頭は回るみたいだね)
「おい、こっちにいるぜ!」
 従業員用の通路を走っていると、横からレックスの声がした。
「すばらしく整った警備体制だこと」
 美女は呆れるようにいいながらも、今はおとなしくついていくことにした。
 夜の映画館で、奇妙な鬼ごっこが続いている。
 怪盗が支配人室までいくと、そこには剣之進がいた。
「ふふ、ここまで来たか。だが、連絡はすでにもらっておる覚悟っ!」
 2mの棒を振りかざして剣之進はこちらへ迫ってきた。
 怪盗は少し考えると剣之進から逃げ、正面玄関の方へ向かいだした。
 
 それを確認すると、剣之進はれしーばーで仲間へ連絡をとる。
「目標は正面玄関のほうへ向かった。こちらもおうぞ」
『了解、こっちの準備はOKだ』
『それじゃあ、俺のほうも追い立てるようにする』
『ああ、こっちもそれでいくぜ』
 レックスと戒斗の答えを確かめると、剣之進は捕り物へをするため、怪盗を追いかけだした。
 侍は支配人室から駆け出していく。
 彼を見る人影があったことに、剣之進は気づかなかった……。
 
「どうやら、逃げおおせたようね」
 黒髪美女が後ろを見て確認し、一息つく。
 怪盗は依然無言で出口へと進む。
 だが、その背に冷たいものが突きつけられた。
「鬼ごっこにも疲れたからね、そろそろおしまいにしようか怪盗クン」
 美女の姿からは想像できないような、さめた声。
 びりりと顔を剥ぐとそこから出てきたのはヘンリーだった。
 怪盗に突きつけた拳銃がカチリと鳴る。
 その音と同時に、怪盗は駆け出した。
「逃がすかっ!」
 逃げようとした怪盗の前に、柊木が現れる。
 怪盗は驚き、方向を変えようとする。
 しかし、間に合わない。
「あまいっ!」
 柊木がタキシードの襟首をつかむ。
 崩れた怪盗へ柊木は前回りさばきで、踏み込む。
 体が沈み、右腕を脇の下へいれる。
 肩に乗せ、怪盗の体を一気に背負い投げた。
「ぎゃふんっ!」
 背中を激しく打ちつけた発した一言。
「なんか、聞き覚えのあるような声じゃなかったか?」
「怪盗らしくないのは確かだね」
「お、やったみたいだな」
「どれどれ、怪盗のお顔公開といこうか」
 ぞろぞろと仲間達がやってきた。
 ヘンリーが怪盗のマスクを剥ぐ。
「うきゅ〜」
 そこにあったのは、目を回した此花慎之介だった。
「犯人は支配人なのか?」
 剣之進が顔を覗かせ、唸る。
「ちょっとまて、剣之進がここにいるということは……」
「ちっ! やられた!」
 レックスが舌打ちをすると、館内放送が流れ出す。
『諸君、楽しいショーをありがとう』
「お前はっ!」
『予告状どおり、レトロフィルムと権利書の方を【返して】もらうよ』
 ブツンと放送が着られ、静寂がその場を包む。
「怪盗め、やってくれたな……」
 悔しがる柊木たち、だが一人違和感に気づいたものがいた。
「ちょっと待ってくれ、返してといわなかったか? あの怪盗」
 その真意はわからない。
 だが、こちらとしても【返して】もらわなければならない。
 一同は外へと駆け出した。

 そのころ外では……。
「約束通りの品だよ」
 怪盗キネマトロンが権利書とレトロフィルムを目の前のやくざ風の男に渡した。
「こうまであっさりいくとはな。待ったかいがあるというものだ」
 男はニヤリと笑う。
「毒島の親方。準備できやしたぜ」
 毒島の後ろにチンピラ風の男が話しかけた。
「ああ、パーティの準備さ……お前さんも好きだろ?」
「僕は遠慮させてもらうよ」
「そうはいかねぇ、邪魔になっちゃこまるからなっ!」
 ゴツンと後頭部を殴られ、怪盗は気を失った。

 レックスたちが外へでると、そこには多数のチンピラが名画座を囲んでいた。
「っととと、おいおいこれみんな怪盗のオトモダチ?」
「多分、いや絶対違うだろうな……」
 レックスの呟きを戒斗が否定する。
 柊木や剣之進。変装をといたヘンリーが続いた。
「おう、ガキども道をあけてくれ」
 のしのしと前にでてきたのはヤクザだった。
 ドウジのようではあるが、ドウジ以上に危険な香りがしている。
「そこのチンケな映画館はわしら毒島組のショバになったんじゃ」
「ショバ?」
「場所のことだよ……しかし、レトロなヤクザもいたものだ」
「わしらはこっちに着たばかりで、トチがないんじゃ」
「怪盗に盗ませたのも君達か? だまされる彼も彼だな」
 ヘンリーは舌打ちをする。
 こんな手に引っかかる怪盗に乗せられてしまった自分が悔しいからだ。
「御託はこの辺で……どかないなら、力づくでとらせてもらうぜ」
 話つづけるヤクザが長ドスを構えると、周囲が変化した。
「これは!」
「ロケーションエリアか」
「ということは……」
「遠慮はいらないな!」
 レックス、剣之進、ヘンリーは各々が能力を全開にして、ヤクザたちに向かっていく。
「やろうども、やっちまえ!」
 長ドスをもったヤクザが白刃を振りかざし、手下を総動員して攻勢にでた。
「そんな台詞、ヤラレ役だぜ!」
 レックスが一瞬で消え、空中から一気に突風共にチンピラたちに体当たりをして吹き飛ばす。
「この名画座は汚させない!」
 ざざっと、スニーカーで自らのスピードを殺しつつ、レックスは不適に笑った。
 20人ほどが一気に吹き飛んだ状況に困惑するチンピラたち。
「この勝負、俺達の勝ち!」
 剣之進がひるんだチンピラたちの間を駆け抜け、ばっさばっさと斬って行く。
 だが、血は流れず剣之進が刀を納めると同時にばたばたと倒れた。
「安心せい、峰うちじゃ」
「くそ、こんなに強い護衛がいるって聞いてねぇぞ!」
 長ドスを持ったリーダー格は逃げ出そうとする。
 だが、その顔面にぷにょとしたものがぶつけられた。
「む〜」
 気が抜けるような泣き声をあげたそれは長ドス男にかぶりつく。
 見る見るうちに食べられていき、その場にはフィルムだけが残った。
「ふぅ、俺の腕もまぁまぁだろ? よくやったぜ山吹」
 へへと笑い自分のバッキーを戒斗は拾いあげた。
「ここらは片付けたが……あ、フィルム!」
 そこに捨てられていた名画座のフィルムを剣之進は拾いあげた。
「でも、権利書のほうは見つかってないようだね」
「こいつら一人一人たしかめるしかないのか……」
 気絶した約50人近くはいるであろうチンピラをみて、一同はため息をつかざるをえなかった。

 暗闇のなか、権利書を持って走る人影がいた。
 毒島である。
「用心棒があんなに強いのがいるなんてな……出直しだ!」
 ぜぇぜぇと息を荒げて走る毒島。
 その前に人影があらわれる。
「悪いな、権利書にも発信機をつけてあってね。追いかけさせてもらったよ」
 柊木だった。
「渡さないぞ! この権利書はわしのものだ!」
「その権利書は名画座のものだ!」
「ふざけるな! あのチンケな映画館のどこがいいというのだ」
 近づく柊木に対して、権利書を大事に抱え、下がる毒島。
「それは大量消費では味わえない劇場の味があるのだよ。ミスター」
 毒島の背後にはいつの間にかタキシードにシルクハットをかぶった人影がいた。
「おまえは……キネマトロン」
「予告状どおり、レトロフィルムはいただいていくよ」
 キネマトロンの肩にはバッキーが座っていて、一瞬で毒島をフィルムにした。
 そのフィルムをキネマトロンは拾い上げる。
「こんなレトロ思考なフィルムはそうそうない。確かに、レトロフィルムはいただいていくよ」
「そして、権利書のほうは私には必要はないから返すよ」
 つかつかと柊木に近寄り権利書を手渡す。
「盗んでいかないのか?」
「権利書のほうは、毒島氏の要望でね。本来私がすべき仕事ではない」
 キネマトロンはそれだけ言い残すと振り返り、闇の中へかけていく。
「楽しい街だから、しばらく過ごさせてもらうよ。また会うときまで、アデュー!」
 闇の中にキネマトロンの声だけが静かに染み渡っていった……。

クリエイターコメントどうも、参加ありがとうございました!

長らくお待たせして申し訳ありません(汗)
どうだったでしょうか?今回のお話。

個性的な皆さんで、いい意味で頭を悩まさせていただきました。

これ終了後、名画座を担当させていただくこととなりました。
リクエストなどありましたら、遠慮なくどんどんお申し付けください。

それでは、またお会いする日まで、ごきげんよう。
公開日時2007-01-12(金) 20:40
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