★ ギャングスターは静かに笑う ★
<オープニング>

 夜も脅える闇の中。
 黒いスーツの男が、とある報告書を方手に立っていた。
 それはいずれも魔法によって生み出された生物――バッキーについての事柄が記されたもの。男はまるで機械のように淡々と、それを読み上げていく。 

 バッキー。
 ――それは幼き神が生み出した、獏のような姿の魔法生物。

 バッキー。
 ――それは夢を主食とし、ムービースターやムービーハザードを喰らってしまう我らの外敵。

 その後もいくつか続き、残るは最後の項目。男はそこで小さく息を吐くと、今までとは違い、一語一語を強調するように読み上げた。

 バッキー。
 ――それは飼い主に『特殊な薬』を使えば、対ムービスター戦にて絶対的な威力を発揮する、我らの、友達。

 男の視線の先に座った老人が、僅かに笑った。
 色の薄い、しかし強かに輝く老人の瞳が宙を見据え、闇に同化するように消えていく。
 男は静かに一礼すると、そのまま部屋を後にした。


◆◇

「緊急事態です」
 いつもにも増して慌ただしく動く人々。電話はテロのように暴発的に鳴り、デスクの上に山積みにされた書類は天井に届くほどに達している。
 もう何日も寝てない対策課の植村直紀は痩せこけた顔で、集まったものたちに端的に話した。
 ムービーファン達が襲われている。
 それも、拉致だ。
 事件が発覚し、よくよく調べてみたところムービーファンの失踪届はここ三ヶ月で十件もあったということ。勿論警察も動いているのだが、太刀打ち出来ず対策課に協力を求めてきたらしい。
 今回の依頼は被害者達の解放、及びマフィアの殲滅だ。
「襲われ、なんとか逃げのびた被害者からの証言を元に調べてみたところ、犯人は『偽善の沈黙』というマフィア映画に出てきた者達のようです。彼は裏世界でその勢力を着実に伸ばしてきており、海沿いにある廃工場に三桁は下らない部下を従えて居座っています」
 植村は一枚の写真を取り出した。
 哀愁漂うセピア色の写真には、白髪の老人が写っている。見たところ六十前半、しかしそれにしては恰幅のいい紳士風の男だった。これがボスの男だという。
 写真に並べて、銀幕都市の地図を取り出す。地図には、ベイエリア、工業地帯の外れに大きな印が打たれていた。
「マフィアというだけあって銃器は当然のように所持しています。それに彼らのことです、拉致したムービーファンをなんらかの形で操り、バッキーを使ってくるかもしれません。被害者のことは傷つけないよう、加えてムービースターの方々はバッキーに喰われないよう細心の注意を払ってください。では」
 植村はそう言い残し、慌ただしい対策課の人々の中へと溶け込んだ。


種別名シナリオ 管理番号788
クリエイター門倉 武義(wmxx4075)
クリエイターコメント はじめまして。
 門倉といいます。処女作です。以後お見知り置きを。

――
 
 今回の依頼は、拉致されたムービーファンの救助、及びマフィアの殲滅です。
 被害者を傷付けず、加えてムービスターの方々はバッキーにも注意しながら、マフィアの殲滅にあたってください。



参加者
エリック・レンツ(ctet6444) ムービーファン 女 24歳 music junkie
キスイ(cxzw8554) ムービースター 男 25歳 帽子屋兼情報屋
トリシャ・ホイットニー(cmbf3466) エキストラ 女 30歳 女優
神月 枢(crcn8294) ムービーファン 男 26歳 自由業(医師)
新倉 アオイ(crux5721) ムービーファン 女 16歳 学生
ジェイク・ダーナー(cspe7721) ムービースター 男 18歳 殺人鬼
<ノベル>

 部屋を横に区切る錆の塊――ベルトコンベアー。そこに、長い耳まですっぽりと隠したトリシャ・ホイットニーは大きく溜息を吐いた。
 ここは、脇道の一室。
 きれかけの蛍光灯がちかちかと点滅し、薄暗いを部屋を照らす。コンクリートで造られた部屋の壁はひび割れ、蔦草も走っていた。所々に置かれた機械が錆び付き、独特の金属臭を放っていた。
 横を見れば赤毛の女子高生――新倉アオイが、さらに奥には紳士風の青年が同じようにベルトコンベアーに身を隠していた。その青年――キスイはお気に入りの帽子を取ると、湿ったように艶やかな黒髪を露にしながら機械から顔を出す。
 トリシャも奥を覗いた。
 十人程度の、人相の悪い男たちがその顔に似合わないスーツを着込み、ずらりと並んでいる。いずれも手には黒光りする拳銃を持ち、それに加えて、一番奥の男は拉致した少年までも抱えていた。
「ベタな展開ですわね」
 溜息をもう一つ。そして、押し寄せる弾丸に頭を下げた。
 突撃出来ない理由がこれだ。
 不用意に攻撃を仕掛ければ被害者を殺されてしまう。かといってキスイが用意していた、被害者を魚の妖魔に飲み込ませて胃の中で保護するという作戦も、被害者がマフィアの男に抱き抱えられてたら使えない。飲み込む最中に、被害者が殺されてしまうからだ。
 被害者の保護――その依頼内容が、三人の行く手を阻んでいた。
「どうしましょうかねぇ……」
 トリシャは頬に手を添え呟く。 
 そこに横槍。
「トリシャさんとキスイさんはムービースターなんでしょ。ロケーションエリアかなんかで、なんとかしてよ」
 この状況に飽きてきたのか、鈴の音のような声に不機嫌を加えてアオイが言った。元々、彼女も以前拉致られそうになった事があり、怒り心頭なのだ。
 トリシャは少し困ったような顔で自分の長い耳に掴み、それを引き抜く。長い耳は取れ、小ぶりの形のいい『普通』の耳が現れた。
「ごめんなさいね、言い忘れてたわ。私、こんなエルフみたいな格好してるけど、エキストラ――『一般人』なの。スターはバッキーでなんとかなると油断させられたらと……」
「…………し、ししししし、知ってたわよ! 冗談よ、冗談!」
 裏返った声を上げ、明らかな動揺を見せるアオイ。それを隠すように、「おやおや」と静かな笑みを浮かべながら状況を眺めているキスイに矛先を変える。
「じゃあキスイさんなんとかしてよ!」
 キスイは思案するように顎を手に置く。
 ややあって、ふとキスイの笑みに黒い悪意のようなものが滲んだ。
「……仕様がないですね。使いますか」
 その瞬間、周囲が湖に切り替わった。



 ヘッドフォンから流れる大量の音楽が、バックミュージックとしての役割も果たせていない。今や、完全に意識の外へと出されていたのだ。常に音楽の中に身を置く彼女にとって、それはとても稀なことであった。
 肩にバッキーを乗せた、少年のようにも見える少女――エリック・レンツは音楽そっちのけで、眼の前で起こる光景に心奪われていた。
 彼女の視線の先。そこには顔が隠れるほどフードを深被りした男――ジェイク・ダーナーがいる。彼は剣スコップ片手にマフィアたちの相手をしていた。
 ジェイクがマフィアに向けて剣スコップを振るうと、マフィアの体はまるで風船のように弾けた。
 血吹雪が上がり、悲鳴がうねる。
 憧れの殺人鬼――ジェイク・ダーナーが一人倒すたびに、エリックの体には纏わり付くような刺激が走っていた。
 横を見る。
 こっちも凄い、とエリックは思った。
 児童向け番組のお兄さんのような好青年が、いかつい男を平然とのしている。それも表情は変わらず、にこにことした人のいい笑みを浮かべたままだ。
 神月枢――彼は素早く相手の懐に入り込むと、拳で空気を軋ませ、マフィアを後方に吹き飛ばした。マフィアは顔の形を変え、床に転がる。
 枢はふぅと息を吐き、辺りを見回した。横でジェイクが剣スコップを捨て、こきこきと首の筋肉をほぐしている。
「終りですね」
 正面突破を挑んだエリックたちは今、正面玄関にいる。広い正面玄関には、二人によって倒されたマフィアたちがあちこちに転がっていた。
 敵は全滅、三人に怪我はない。まさに完璧な勝利だった。
 それでも枢は、どこか腑に落ちていないように目を細めている。
「しかし、増援もなにも来ないんですね……」
 実際、歩哨――監視兵は結構な人数がいたのだが、敵の増援は一人も来ていない。正面玄関に侵入者などいたら、山ほどの増援が来てもよさそうなのだが――
 枢は少し考え、意見を求めるようにエリックとジェイクを見る。
 が、
「――スゲェよ! あんたらスゲェよーッ!」
「……」
 エリックは内に貯まる興奮を叫び、ジェイクは無言。枢は困ったように頬をかいていたが、エリックは叫ぶのをやめない。
「えっと……」
「ああああああああああああッ!」
「……とりあえず、進みます?」
 ジェイクが小さく頷いた。



 再び、脇道の一室。
 部屋は、地平線まで広がるに湖に切り替わっていた。そして、キスイの背後に巨大な鏡が浮かんでいる。
 透明度の高い水であり底まで見れそうだが、下は光が届かなく昏く深い奈落を思わせた。
「不様ですね」
 キスイの足下には氷のナイフが胸に刺さった数人のマフィアが、ひゅぅと息を漏らしてうずくまっている。
 トリシャ、アオイもそれぞれにマフィアを倒し、残っているのは、一番奥で被害者を抱えている男だけとなった。
「被害者をはなせ!」
「はなしてください」
 トリシャとアオイの説得も耳に届かず、がくがくと足を震わせた男は、発狂し、被害者の頭に突き付けた銃の引き金を引いた。
 発砲音が鼓膜を突く。
 銃弾は被害者の頭を貫き、しかしすぐに再生する。
「おやおや」
 薄い笑みを浮かべ、キスイはつかつかとマフィアに歩み寄った。手には具現化されたクリスタル・ブレードが持たれ、怪しい光を放つ。アオイは目を伏せていた。
「終りですよ」
 マフィアの男は被害者を放り出し、キスイに向かって銃を放った。銃弾はキスイの瞳を貫き、だがやはり再生する。
「このロケーションエリア内では不死身――もう、分かってますよね?」キスイはクリスタル・ブレードを振りかざした。「まぁ、私はこの能力がなくても死にませんけどね」
 投げ捨てられた被害者がキスイに向けてバッキーを投げるが、彼はそれを軽く払う。無駄な悪あがきだ。
 鋭利な氷の剣は、音も立てずマフィアの男を両断した。
 被害者は暴れだしたので手錠をかけて部屋に残し、三人はロケーションエリア内の敵を掃討した。そして、ジェイクたちと合流するために正面玄関に行く。



 一方その頃。
 奥へと進むと周りの景色は工場に変わり、やがて二階に続く吹き抜けの階段が見えてくる。
 フードを深被りした男――ジェイクは、先頭を切って足を進めていた。
「……なんだかすんなり行き過ぎてて、気味が悪いですね」
 背後で枢が言う。ジェイクも同感だった。
 玄関での戦闘から敵は一人も現れていない。
 多分――いや、必ずといっていいほど、この先に罠はあるだろう。分かっていながら、しかしジェイクに恐怖はなかった。
 胸元を見る。
 服には、さっきの戦いで受けた銃弾が空けた、小さな穴があった。だが、体にはもう傷さえ残っていない。どうやらジェイクは死というものから、少し離れた位置にいるようだった。
 ジェイクは階段に足をかけ、動きを止める。
「……下がれ」
 ジェイクの言葉で察知し、枢はエリックを抱えて後方に大きく飛び下がった。
「うぁ?」
 音楽で耳をふさいでいるエリックはジェイクの声が聞こえなかったようで、驚き、気の抜けた声を上げる。
 次の瞬間、ジェイクの体の半分以上は吹き飛んでいた。
 吹き抜け状の階段の上では、アサルトライフルを構えたマフィアたちがジェイクのその様子を静かに眺めている。
 ジェイクは、吹き飛び、しかし凄まじい速さで再生する身体を起こした。
 すると階段の上、いかつい男たちの中から一人の老人が姿を表す。それは対策課で見せられた、写真に写っていた男。恰幅のいい紳士風の老人――マフィアのボスだ。
 ジェイクは、彼をぎろりと睨みつけた。
「……俺は死なない」
「そのようだね」
 老人は腰元から銀に輝く拳銃を取り出し、ジェイクに向ける。
「……なんでムービーファンを――バッキーを拉致った?」
 向けられた銃を気にする様子もなくジェイクが言った。
「ムービースターには君のような不死身など、厄介な奴が多くてな。それを倒すにはバッキーが一番手早いだろう」老人がニヤッと笑う「怒ってるのか?」
「……あんたらに礼が言いたいくらいだ。この街じゃ、殺してもいいヤツしか殺せないんでね」
 ジェイクは老人に向け、駆けた。
「知っているか? 私も君と同じ、ムービースターなのだよ」
 老人が放つ弾丸はジェイクに向かって一直線に飛ぶ。ジェイクはそれを避ける様子はない。避ける必要がないと思っていた。
 老人がにやりと笑う。
「このロケーションエリア内で私の弾丸をくらったものは、肉体的ダメージはないものの、必ず気絶する――君も例外ではないよ」
 弾丸はジェイクの体にめり込む。ジェイクは、ばたりとその塲に倒れ込んだ。
「いい能力だろう。バッキーとは相性が抜群だ」
 その声はジェイクには届かない。
 ジェイクの意識は彼の放った弾丸に、奥深く閉じ込められていた。
「そいつをこっちに持ってこい。バッキーにエサをやらなくちゃいかんからな」
 老人の指示で、いかつい男たちがジェイクの元へと走る。



 吹き抜けの階段にキスイたちが着いた時には、土砂降りの鉛の雨が降っていた。
「戦況はどうなってます?」
「敵がロケーションエリア展開中のようですね。不死身のジェイクさんが倒されていたので、キスイさんも気をつけてくださいね。では、ジェイクさんが捕らわれましたので、今から救出に向かいます」
 キスイの問いに、枢は振りかえらず端的にそう言った。すると枢はどこからか取り出した煙幕弾を振りかぶり、敵陣に投げつける。
「ハイ良い子の皆さん、少し煙たくなりますよー。着いて来たい人は気をつけてしてくださいねー」
 煙幕弾が破裂し、階段全体が煙が覆われた。敵の弾幕が弱くなる。
 枢はふっと短く一息吐き、荒い咆哮を上げた。彼曰く、スイッチを入れる――筋出力の制限を外すことで人外な行動が短時間可能な状態へとなり、凄まじい跳躍で敵陣の中へと飛び込んでいく。
「私も行きましょうか」
 枢が敵陣に突入し敵が混乱した隙に、トリシャも突入する。
 キスイは意外にも、まだ突撃していなかった。
「……キスイさんは行かないの?」
「敵のロケーションエリアの能力が、なかなか厄介そうですからね」
 キスイはちらっと、残りの二人を見た。
 エリックはうろちょろと武器となるものを探している。アオイはスチルショットを片手に、適当なものを遮へいに取って援護の体制に入っていた。
「ふむ。お二人には少し、お手伝いしてもらいましょうか」
 ヘッドフォンで耳をふさぎ、中途半端な読唇術で会話を成立させようとするエリックにも分かるよう、キスイはゆっくりと口を大きく動かして言った。



 敵陣に突入した枢は『スイッチ』の入った状態を解いた。スイッチを入れると強力が得られるが、反動も大きいのである。
 枢は着地ざまに一人蹴りつけ、息をつく間もなく拳を放った。敵陣のど真ん中に突入した彼の周りには、腐るほど敵がいる。しかし、さすがに同士討ちを恐れないトリガーハッピーはいないようで、マフィアたちは武器を捨て、枢に素手で殴りかかった。
 怒号が飛んだ。
 枢は襲い来る攻撃を巧みに避け、人中――鼻と口の間に鋭く拳を入れていった。人中――人体の弱点を突かれたマフィアたちは、次々に意識を失う。
 ふと気配を感じ、枢は上を見た。
「援軍ですわよ」
 トリシャが空を舞っていた。
 マフィアの頭を蹴り、それを踏み台のようにしてさらに高く飛ぶ。あさにアクション映画で鍛えられた、派手な動きだった。
「援軍感謝です。それより、ジェイクさんどうなってますか?」
 トリシャが敵の頭を足蹴に、再び高く舞い上がる。一番奥に、老人が薄い笑みを浮かべている姿が見えた。ジェイクは彼の足もとに倒れている。
「……少し危なそうですよ」
「え?」
 トリシャは音もなく着地すると、振りかかる攻撃を避けながら言う。
「ジェイクさんの近くに、バッキーを持った少年が見えました」
「……これは、がんばるしかなさそうですね」
 と、枢が気合いを入れた瞬間、再び背後から声がかかった。
 キスイだ。
 彼に守られるようにアオイとエリックも着いて来ている。
「ボスを倒しに行きますよ」
 そう言うキスイの口元は、相変わらず笑みを浮かべていた。



 アオイとエリックを囲うような隊形で、五人は敵陣を駆けていた。
 先頭のキスイがクリスタル・ブレードと魔法を駆使して、林立する黒スーツを切り開き道を作る。後ろを守るトリシャと枢は敵の攻撃をさばき、アオイとエリックを擁護していた。
「ねぇ、まだ〜!?」
 スチルショットで援護をしながらアオイは言う。隣では、さっき拾った鉄パイプをぐるぐる回すエリックがいた。 
「もう、抜けますよ」
 キスイの視線の先。黒スーツの景色が終わり、老人の姿が見える。
 そして、抜けた。
「アオイさん、お願いします!」
 枢の声に、アオイはスチルショットを構えた。狙いは、ジェイクの体に張り付くバッキーだ。
 枢とトリシャ、キスイは背後から迫りくる無数のマフィアを抑えにかかる。
 アオイは深く息を吐き、狙いを定めた。
 力なく床に転がるジェイク。奥には写真で見たマフィアのボスが、周りには眼の虚ろな被害者の姿が見える。そして、腹部にはジェイクを食べようとしているバッキーの姿が見えた。
「ごめんね」
 パチンと音を立ててスチルショットが当たり、バッキーが気絶する。
「ちっ」
 同時に、老人――マフィアのボスは舌打ちし、銃を構えた。
 照準がアオイに定まる。 
 その照準を、エリックがずらした。
「しゃああああああ!」
 エリックは鉄パイプを掬いあげるように振い、老人の手から銃を弾き飛ばす。老人は飛び下がった。
 老人とエリックの間に割り込むようにして、虚ろな目をした被害者たちが襲いかかる。彼らに向けてエリックは鉄パイプを投げつけ、怯んだ隙にボスの元へと駆け寄った。
「ローラは俺の言葉がわかるし、俺を心配するし、勝手に動くし、たまに言うコト聞かねーし、あんま見たことねーけど、喜ぶし、哀しむし、だから、あんたの友達じゃない、武器じゃ
ない、……ローラはッ!」
 強く拳を握った。
 マフィアのボスがもう一丁の拳銃を抜こうとしている。だが、それよりも早く殴りつけ、悶絶する彼にバッキーを投げた。
 後方のアオイもバッキーを投げつけ、二匹のバッキーがもぐもぐと彼の体――夢の力を食べ始める。
「や、やめろ……」
 ゆっくりと、静かに彼の姿は消えていく。
 やがてプレミアファイルへと姿を変えた。
「エリック、手伝って!」
 せかせかと暴れる被害者たちに手錠をかけていたアオイが、エリックにも聞こえるよう大きな声で叫んだ。
 だがその声はとどかない。
 エリックの関心は、アオイの背後で起こる惨劇へと移り変わっていた。
「スゲェよー!!!」
 廃工場に、マフィアたちの悲鳴が響き続けたのだ。
 
 

クリエイターコメント 初シナリオ緊張しました。
 いたらないところもありますが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
公開日時2008-11-05(水) 19:30
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