★ What do you fight for? ★
<オープニング>

 夕焼けが男の横顔を赤く染め上げていた。
 ひたすらに遠くを見つめるその眼は、眩しさゆえに細められている。無骨な顔立ちに似つかわしい鋭い光が、ブルーの瞳にゆらめいていた。
「夕焼けは良い」
 無精ひげの浮き出た顎先を、指でなぞりながら男がいった。
 彼の背後には十数名の若者たちが控えていたが、誰ひとり言葉を発する者はいない。
 ふと自嘲的な笑みが男の口元に流れた。上官の許可がなければ発言は許されない。みずからが部下たちに教え込んだことだ。
 前を向いたまま、ひゅっと息を吸う。
「アースキン伍長!」
 腹の底から声を出す。
「イエス・サー!」
 名を呼ばれた若者が敬礼とともに一歩前に出た。たくましい体つきと整った目鼻立ちが他の若者たちと一線を画している。
 ブーツの踵をきゅっと鳴らすと、男は部下の方に向き直った。そして、おもむろに尋ねた。
「アースキン伍長、貴様はなんのために戦っている?」
 若い伍長は、わずかの逡巡もなく答えた。
「祖国のためであります!」
 まっすぐな視線を受け止め、男は自嘲から皮肉へと苦笑の質を変えた。
「祖国、か?」
「イエス・サー!」
「だが、銀幕市(ここ)には祖国などないぞ。我々の祖国は映画館の(あの)中だ」
 そういって、眼下にひろがる銀幕市の街並みを親指で指し示す。その先でパニックシネマの建物が小さく夕日に映えていた。
「我々は猟犬だ。狩るべき獲物も、従うべき主人も失った猟犬には、なにが残っている?」
 アースキンは動揺を押し隠すように唇を引き結んだ。上官に対する様々な返答が頭の中を駆けめぐったが、そのどれもが叛逆罪に問われてもおかしくない内容ばかりだった。
「貴様は正直だな」
 その様子を見て、男が大笑する。アースキンはもちろん笑わなかった。
 ひとしきり笑うと、男は急に真顔になり、ゆっくりと銀幕市全体を見わたした。
 ふたたび大きく息を吸い込む。
「『銀砂漠の大鷲』は、これより最後のミッションを実行にうつす!」
 上官の命令にやはり、若者たちはわずかの逡巡もなく答えた。
「イエス・サー!!」
「まず手始めにこのビルを占拠する。アルファ隊はセキュリティを押さえろ。ベータ隊は一階出入り口を封鎖。ガンマ隊はこのビルにいるすべての一般人を一カ所に集めろ」
「イエス・サー!!」
 それぞれの任務を帯びて散開していく部下たちの後ろ姿に、男は敬礼を送った。
「主人も獲物も失った猟犬でも、牙だけはまだ残っている。問題はその牙をどう使うかだ」
 男の――コンフォース軍曹の独白は、だれに聞き取られることもなく、夕闇に消えた。

 一時間後、謎の武装集団が約百名の人質を取り、有名デパート『にこにこタウン』に立てこもったというニュースが、号外とともに銀幕市全域を駆けめぐることとなった。

種別名シナリオ 管理番号177
クリエイター西向く侍(wref9746)
クリエイターコメント初シナリオとなります。西向く侍です。
初めてということで王道でいかせていただきたいと思います。

『銀砂漠の大鷲』は映画『沈黙の砂漠』に出てくるテロリスト集団です。核兵器で世界中をおびやかすミッションを遂行中に、不運にも、元陸軍特殊部隊である主人公に偶然出くわしたことにより壊滅させられてしまうという、お約束テロリストです。

さて、今回彼らのミッションの対象となったのはデパート『にこにこタウン』です。建物自体は二階建て。屋上は駐車場になっています。一階は主に食料品と日用雑貨売り場、二階には飲食店街と衣類や小物のお店が並んでいます。

セキュリティ管理室(一階)はメンバー二名によって占拠されており、すべての防火シャッターはおろされ、監視カメラで建物内をある程度見張れる状態です。
建物への入り口は、正面入り口を三名のメンバーがかため、裏口(荷物の搬入口)を二名のメンバーが守っています。屋上にはロケット砲を持ったメンバーが二名とコンフォース軍曹が待機しています。
人質はデパートの職員とお客の一部で、意図的に若い男性は逃がされており、老人と女子供ばかりです。二階の中央部にあるイベントスペースにまとまって座らされ、三名のメンバーが銃口を向けています。
残り五名のメンバー(アースキン伍長含む)が建物内を巡回しています。

義侠心を発揮するなり、血の臭いをかぎつけるなり、巻き込まれるなり、自由に参加し、人質を救出するもよし、見張りを倒すもよし、軍曹に戦いを挑むもよし、事件解決に向けて自由に行動してください。

参加者のみなさま全員に楽しんでもらえるよう最大限努力させていただきますので、よろしくお願いします。

参加者
続 那戯(ctvc3272) ムービーファン 男 32歳 山賊
RD(crtd1423) ムービースター 男 33歳 喰人鬼
アル(cnye9162) ムービースター 男 15歳 始祖となった吸血鬼
レナード・ラウ(cvff6490) ムービースター 男 32歳 黒社会組織の幹部候補
リカ・ヴォリンスカヤ(cxhs4886) ムービースター 女 26歳 元・殺し屋
ギリアム・フーパー(cywr8330) ムービーファン 男 36歳 俳優
<ノベル>

 デパートの屋上に立つコンフォース軍曹の眼下では、すでに何台かのパトカーが無機質な赤い光をまき散らしていた。入り口前の駐車場に陣取るそれらは、無秩序に並んでいる。
「動きがバラバラだな。しょせん日本の警察などその程度か」
「軍曹、やりますか?」
 そういって、ロケット砲をかついだ部下が砲身をかるくたたく。
「ふむ、ちょうどいい。今回の目的は、派手に騒ぐことだ。せいぜい目立つように、貴様の牙をぶち込んでやれ」
「イエス・サー!」
 すぐさまロケット砲をコンクリートの地面に立て、砲口から弾丸をセットする。上官からの命令というよりは、みずからの楽しみのためといった風情で、鼻歌すらもれていた。
 彼らは生粋のテロリストだ。「破壊こそ自分たちの生まれてきた意味である」と断言できる連中なのだ。
 落下防止用の鉄柵に片脚をかけ、スコープで狙いをつけた。
「弾を無駄にするなよ?」
 コンフォースの言葉に「的が大きすぎて、はずせってほうが無理な相談ですぜ」とトリガーを引く。
 兵士の腕にかるい衝撃が走ったが、破裂音などはない。まるで花火が夜空に舞い上がるときのような、いっそ優雅な響きをのこしつつ、砲弾がパトカーの屋根に吸い込まれた。
 炸裂する光、巻き起こる風、炎上する車体。
 警察にとって幸運だったのは、最初の一台にだれも乗車していなかったことだ。パトカーが狙われていると悟り、すべての警察官がいっせいに車から離れだした。
「予定どおりだな」
 コンフォースはもうもうと立ちのぼる黒煙を、満足げにながめる。ロケット砲をあやつる部下は破壊の快楽に夢中になっている様子で、彼のつぶやきを聞き取れなかったようだ。
「……若いな。おい!」
 その場にいたもう一人の部下を呼ぶ。
「なんでしょう、軍曹?」
「作戦をつぎの段階へとうつす。あの方もこの程度では満足せんだろう。アースキンに伝えろ。テレビ局の中継車が到着すると同時に人質を一人ずつ殺していけ、と」
「イエス・サー!」
 コンフォースの事務的な口調に、部下も事務的に応じる。命のやりとりなど、彼らにとっては崇高な目的を達成するための、ただの作業だ。
「さて、こうなってくると、問題は正義面した偽善者どもか」
 銀幕市ではムービーハザードが起こった場合、市役所の対策課がこれに対処することになっている。ところが実際には、市役所の職員でムービーハザードを収めるほどの能力を持つものはそれほど多くない。銀幕ジャーナルの紙面に踊るのは、バッキーと呼ばれる夢を食う不思議な生物を持つムービーファンや、ムービーハザードの元凶でもある、映画から実体化したムービースターの名前なのだ。
 そういった者たちが、この占拠劇をムービーハザードと解して、解決しようとする可能性は高い。化け物と呼ぶにふさわしいような人外の能力を有しているムービースターなどに出ばってこられては面倒なことこのうえない。
「はてさて、俺やアースキンにそいつらを倒すだけの技量があるかな」
 当然ながら、上官として部下たちに不安な姿を見せることはできない。指揮官の心理状態は兵士たちに伝染する。そのことをよく知っているコンフォースだった。
「今さら俺が自信をなくしてどうする」
 もう一度しっかりと心根に刻み込むようにつぶやいた。
 砲撃をやめて汗をふく部下を見て、下の様子がどうなったのか確認しようとしたとき、不意に全身が総毛立った。反射的に腰ベルトのアーミーナイフを抜く。
 注意深くあたりを見回してみるが、とくに敵影らしきものはない。
「軍曹、どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない」
 言葉とは裏腹にコンフォースの全身は冷や汗でぐっしょり濡れていた。たしかに彼は、恐ろしいほどの圧力を持った殺気をその身に受けたのだ。
 いらぬ心配などするものではない。えてして最悪の状況というものは、想像してしまったあとに現実になるものだ。それに、いざとなれば脱出する手はずは整えてある。
 コンフォースはロープで縛られ地面に転がされている女性を見た。気丈にも涙ひとつ浮かべていない。
「この俺が最初から逃げる算段とはな」
 コンフォースの笑みは苦りきっていた。



「ほぅ、気づいたやつがいるか」
 コンフォースらが守りを固める『にこにこタウン』の屋上を、遠くから見つめる異形の影がひとつ。
 彼もまた、とあるビルの屋上に立っているのだが、デパートからはかなりの距離がある。もしもコンフォースが双眼鏡を使っていたらその姿を確認することができたかもしれない。
「この距離で俺の殺気に気づくとはおもしれぇ」
 舌なめずりをする顔には鬼気迫るものがある。
 彼がしているのはコンフォースの反応の話だろう。すると、彼にはすべてが見えていたことになる。それほどの視力を有している存在が普通の人間であるはずがない。
 彼が人間ではない証拠は、ほかにもあった。五メートルほどもある身長、口元からのぞく鋭い牙、そしてなにより頭頂から伸びる二本の角。その姿はまさしく鬼(オーガ)だ。
 映画『狂える異形達』から実体化した食人鬼。それが彼の正体であり、RDというのが彼の名だった。
 RDにはとくに目的があったわけではない。ビルの屋上にやってきたのも、ただの気まぐれであり、デパート制圧のテロを発見したのもまったくの偶然だった。
 迷彩服の男たちなど銀幕市ではさほど珍しいものではない。しかし、公然と武器をたずさえ、闊歩する男たちとなるとさすがにまれだ。だれしもが注意を引かれることだろう。
 しばらくテロリストたちの行動を観察しているとなかなか面白いことがわかった。彼らは命を奪うことに躊躇しない。なにか目的があるのかどうか、そういったことまではわからなかったが、とにかく彼らには命を道具とみなしているような節があった。
 その中でも、RDはリーダー格らしい男、つまりはコンフォースにもっとも興味を持った。
 RDは食人鬼だ。人の命を喰らうことによって生きている。彼にとって命を奪うことと生きることは同義だ。
 彼は本能的にコンフォースに同じものを感じた。やつもまた命を奪うことと生きることが不可分である者だと。
「俺は喰らうが、やつは喰らわない。ただそれだけの差だな」
 同族の出現に、いいようのない興奮が胸を躍らせる。
「ちょっとメシの調達もかねて遊びに行くか!」
 と物騒なことをいいつつ、屋上から身を乗り出しかけて――
 ――はたと動きを止めた。
「おもしれぇことしてるやつがいるじゃねぇか。もうすこし高みの見物と洒落込むかな」
 RDの青眼には、トラックの荷台に寝そべっている作務衣姿の男が映っていた。



 続那戯(つづき なぎ)は暮れかけた茜色の空を見上げていた。
 彼は今、両手を組んで枕がわりにし、トラックの荷台に仰向けに寝そべっている。自慢の長槍『炮烙(ほうらく)』は、転げ落ちないように左足でしっかり踏みつけていた。
 荷台の側面には有名な運送会社のロゴが入っており、冷凍車とも記されていた。トラックは、今まさにテロリストたちに占拠されているデパートの裏口へ堂々と侵入していくところだった。
 屋上からの砲撃で混乱した警察官たちは正面入り口前であたふたしている。こちらまではまだ手が回らないのだろう。
 とはいえ、運転手もこの異様な雰囲気に、多少なりとも違和感を感じていいはずだったが。
「そこのトラック、なにをしている?! 止まれ!」
 とつじょ響いた誰何(すいか)の声にトラックが急停車する。那戯は器用にバランスを取り、転がり落ちるようなことはなかった。
 あわただしく駆け寄ってくるブーツの足音がふたつ。
「両手を頭のうしろに組んで、運転席から出ろ!」
 威圧的な口調に、運転席のドアを開ける音がつづいた。
「お、俺は荷物を届けにきただけです。撃たないで」
 弱々しい声は運転手のものだろう。
「そのまま地面に伏せろ。おい、フレッド。念のため荷物を調べろ」
「わかった」
 足音が車体の周囲をぐるりとまわり、荷台の扉が開くのが、伝わってくる振動でわかった。
 これでも訓練された兵士だっていえるのかよ。口には出さず胸中にとどめて、那戯はにやりと唇を歪めた。
 事前に電子スコープで確認したところ、裏口を守っている兵士は二人だった。一人は運転席を降りた運転手に銃口を向けている。もう一人は荷台をチェック中だ。必然的に助手席側が死角になった。
 那戯はこれまた器用に長槍をひょいと蹴り上げ、右手で受け取ると、背中をすべらせて音もなく助手席側の地面に降り立つ。
 素早く視線を左右に走らせると、だれにも気づかれることなく忍び足で裏口へと侵入を果たした。
 最後に入り口の陰からひょいと顔を出すと、地面に這いつくばっている運転手と目があった。口だけで「ありがとよ」と伝える。
 那戯の手下の一人は、してやったりの笑みを浮かべ、そのまま新たな人質として兵士に連れられていった。



 百名近くの人間が一ヶ所に集まればそれなりの騒々しさというものが生まれる。全員がまったくしゃべらなかったにしても、息づかいや衣擦れの音など自然と生じてしまうものが集まり、ざわざわとした雰囲気をつくりだす。
 ところが、『にこにこタウン』二階のイベントスペースには静寂だけがあった。ここまでくれば無音といっても差し支えないかもしれない。
 三つのサブマシンガンがつくりあげた、生と死を分かつ静謐だった。
 老人、女性、子供。身体的弱者のみで構成された人質たちは、たとえでもなんでもなくただの無機物と化していた。息を殺し、筋肉を硬直させ、思考を止める。そうせざるをえない。
「つまんねぇな」
 一人の兵士が愚痴をこぼした。こぼしながら、近くにいた老人を足蹴にする。老人は蹴られた左腕をおさえ、うずくまって苦悶した。
「さっきから聞こえてる爆発音。上は派手にやってるみたいだな」
 一人の兵士がにやにや笑った。笑いながら、足元にはべらせた女性の身体をさわる。女性は嫌悪感に身をちぢめた。
「俺も見張りなんて地味な役割よりも、ロケット砲をぶっぱなしてるほうがよかったぜ」
 一人の兵士がため息をついた。つきながら、マシンガンの銃口を人質たちに向け、わざとらしく「ばーん」と引き金をひくまねをした。何人かがちいさく悲鳴をあげ、頭をかかえてガタガタと震えた。
 このイベントスペースに集められてからというもの、ずっとこの調子だった。
 圧倒的な暴力と、それに起因する恐怖のため、心が折れ、なすすべもない。希望という二文字など、とうに忘れ去られてしまったようだ。
 そのような中で、やはりもっとも無理を強いられているのは子供たちだった。子供にとって動かずにじっとしていること自体が苦痛をともなう。さらには親とむりやり引き離された者たちもいるのだ。
「おかあさん……」
 八歳くらいの金髪の男の子がぐずりはじめた。
 最初はちいさく鼻をすする程度だったが、しだいに嗚咽がもれだす。両親といっしょに買い物にやってきたらしいが、はぐれてしまったのか近くにはいないようだ。かろうじて他人を思いやる余裕の残っていた数人の大人たちが、小声で必死になぐさめても、男の子の心にひろがる雨雲はいっこうに晴れない。
「そこのガキ、うるさいぞ」
 兵士が威嚇するようにサブマシンガンを振ってみせた。
 もちろん逆効果だ。
「うっ、うっ、おかあさん……」
 もともと短気な性分なのか、その兵士はいらだたしげに床を蹴ると、男の子へと近づいていく。
 みずから死にたいと思う者などだれもいない。この場には、大人だから子供を守るという当たり前の情愛さえも、存在が許されなかった。さっきまで男の子をなぐさめていた大人たちも、ここにきて、涙をこぼしながら沈黙を守るしかなかった。
 兵士と男の子との間に立つ者は、いない。
「うるさいといっている!」
 兵士が男の子に向かってマシンガンを振り上げた。近くにいた老婆が「ひっ!」と悲鳴を上げる。
 だれもが、銃の台座で殴られ、血を流しながら床に倒れ伏す男の子の姿を想像しながら、目をつむった。
 ごつ、という硬質の響きが耳にとびこむ。
「このガキっ! なにしやがる?!」
 ところが、つぎに聞こえてきた兵士の怒号が、すべての人々の予想を裏切った。
 状況を傍観していた全員が目をみはった。
 泣いていた男の子の代わりに、別の少年が殴られたのだ。
 肩口に殴られた跡が残っている。しかし、倒れ込むようなことも、悲鳴を上げるようなこともない。しっかりとそのちいさな背中で男の子を守っている。
 頭髪から肌まで、すべてが透きとおるような白だった。ただその双眸だけが紅玉色の鋭い光をはなっている少年。
「俺の邪魔をする気か?」
 少年は兵士の問いには答えず、ただ静かに見つめかえした。
 兵士の足が無意識に一歩下がった。少年が特殊な能力を使用したわけではない。意志の強さの問題だ。少年の瞳からはみなぎる決意があふれて出ている。
 だが、相手も様々な戦場を渡り歩いてきた一流の戦士だ。心の底の怯えをかくし、手にした銃をかまえる。
「ガキのくせに、死にたいのか?」
 冷たい銃口を額に当てられても少年は揺るがなかった。揺るがないどころか、あえて受けて立つように、じりと前に進み出さえした。
 死することのない肉体ゆえに恐れがないのか? いや、違う。死ぬことがなくても痛みはある。痛みを超えた怒りが彼の心を支えていた。
 独りきりでは百人もの人間を全員助けることはできない。たとえ、人智を超えた力を駆使しても、三人の敵と三つのマシンガンを同時に無力化できる可能性は低い。二人までを倒したとして、その間に最後の一人が手近な人質を一人でも傷つけた時点で、少年の負けなのだ。
 それゆえ、だれかが傷つけられたとしても、唇を噛みしめチャンスを待った。みずからの牙で皮膚がやぶれ、血が流れるほど強く――僕は無力だ。
 無意識に飛び出しそうになる身体を抑え、ここまで我慢してきたものの、ついに限界がおとずれた。
「この子は、まだ子供だ」
 静かなもの言いは、逆に激しい感情の高ぶりをあらわしている。
「子供だと? おまえだって子供だろうがっ!」
 兵士が引き金にかかった指に力をこめる。彼には少年の行動が理解できない。目的のために命を投げ出しているという点においては、兵士も少年も同じだ。理解できないのは、他人を助けるためにという目的そのものだ。
 自分の理解を超えた存在を放置しておくことはできない。それは人間の性(さが)だ。目の前から消してしまわなければ。
「おまえはさっさと消えてしまえ!」
 こうなってしまったら、どちらも退くことはできない。だれの目にもあきらかだ。
 先ほどよりもさらに悲惨な光景を想像して、ふたたびすべての人質が自分の意志で視界を閉ざした。周囲の悲鳴は先ほどより多く、また大きかった。
 と、そのとき。
「ねえ、わたしオシッコしたいんだけど」
 場に似つかわしくない明るい声が響き、すべての視線がそちらへ泳いだ。
 抜群のスタイルを誇示するかのように立ち、すらりとした細腕を挙げている赤髪の女性がいた。その美貌と発言とのギャップに開いた口がふさがらない者が数名。
 しんと静まりかえった空気に、ふぅとため息を落とし、
「聞こえてる? わたしオシッコしたいの。連れてってくんなきゃ、勝手に一人でいくわよ」
 と肩をすくめた。
「わ、わかった。わかったから待ってろ」
 そういって兵士が銃をひいた。
 去り際に「命拾いしたな」と告げたものの、本心では助かったと思っているのは彼の方だったろう。一方的に少年をなぶっているように見えて、実は精神的に追いつめられていたのは彼のほうだったのだから。
 背中からマシンガンを突きつけられ、両手を挙げて降参のポーズをとった女性が、少年に向かってこっそりウィンクする。
「リカさん」
 我知らず少年の表情が明るくかがやく。
 リカ・ヴォリンスカヤの優美な唇がそっと動いた。
「アル、あせらないで」
 唇の形から内容を読みとったアル少年は、安堵のため力が抜けていくのを感じた。同時にどっと嫌な汗が流れる。百人の命の重さが流させた汗だ。それを背負うには、アルの背中ではちいさすぎた。
 あのままでは良い結果は得られなかっただろう。冷静にならなくてはいけない。
 使い魔であるルビーに館内の状況を探らせているので、もうじき情報が手に入るはずだった。まずはその内容を検討することだ。
 それに、リカと二人ならきっとすべての人質を無事に解放できる。そうアルは思っていた。
「お兄ちゃん、泣いてるの?」
 アルにかばわれた男の子が心配そうにいう。
「ん? ああ、大丈夫だよ」
 知らないうちに涙があふれていた。無力感に対する悔しさが涙をつくり、独りではないという安心感がそれを押し出したようだ。
「君、名前は?」
「ユウキ。ユウキ・フーパー」
 自分の腕をしっかりとつかみ、不安そうにこちらを見上げる男の子に、アルは苦手な笑顔をつくって励ました。



「Fuck! さっさとナイフをぶち刺してやろうかしら」
「なにかいったか?」
「べつに。なーんにもいってないわよ」
 極上の笑みで応じる。
「黙ってさっさと歩け」
 額にぴくぴくと青筋がたっているのは見つからなかったようだ。
 リカは背後から腰のあたりを押され、すこしよろけたふりをした。今はか弱い普通の女性を演じるのが得策だ。
 今日は新しい水着を買うために『にこにこタウン』にきていた彼女だが、テロが発生するやいなや一人で対抗するのは不可能と考え、捕まったふりをしながら相手の戦力等を探っていたのだ。
 そして、リカもアルと同様に動けなかった。気にくわないテロリストどもをさっさと自慢のナイフで串刺しにしてやりたかったのだが、彼女の力では同時に二人までが限度だ。地団駄を踏みながら、ひたすらに機が熟すのを待った。
 彼女にはかつて殺し屋だった過去がある。そんな自分が他人の命を助けるなどおこがましいのではないかと思ったこともあった。しかし、銀幕市でさまざまな事件にかかわるうちに、他人を助けるという行為を自然に受け入れることができるようになっていた。
 だからこそ、テロリストどもの非道はゆるせない。
 アルと二人なら、きっかけさえあればみんなを助けることができる。
「ふふふ、今に見てなさい。おイタの時間はもうすぐ終わりよ」
「なにをぶつぶついっている?」
「もう漏れそうっていったのよ!」
 ナイフを投げつけたい衝動を抑え、リカはそそくさとトイレに入っていった。



 レナード・ラウはこのような馬鹿げた状況からさっさと抜け出すつもりだった。
 ちょっと買い物に寄っただけだ。それがこのようなテロに巻き込まれるとは思ってもみなかった。
 とりあえず、身を潜め、事の成り行きを見守っていたものの、らちがあかないと考え行動に出ることにした。
 ラウは戦闘のエキスパートだ。
 もちろん敵も戦闘のプロである。
 しかし、ラウとテロリストたちには決定的な違いがあった――
 一階の食料品売り場に、巡回する兵士の姿を認めると、ラウは陳列棚の陰で気配を絶った。
 敵がプロであれば必ず監視システムを掌握しているはずだ。カメラの真ん前で障害を排除するのはさけたい。兵士が監視カメラの死角に入るのを待っているのだ。
 完全に油断しているのか、兵士は陳列されている果物を物色しながら歩いている。天井に配されたカメラから見て、その姿が商品棚のうしろに隠れるかたちになった。
 ラウは商品棚と兵士の間にするりと身体を滑り込ませた。反応する暇もあたえず、プロレス技でいうスリーパーホールドの要領で首を絞める。
「ぐげっ」
 うめいたものの、兵士はしゃべることができない。ラウの腕をふりほどこうと片手で爪を立てるが、酸欠のためもはや力が入らなかった。銃を背後に向けようとしても、これまた力が入らない。
「おや、気持ち良すぎてトリガーが引けないのかい?」
 楽しそうに耳元でささやく。当然ながら返事はない。
「さよなら」
 ラウは一息に兵士の首をひねった。
 ぐったりとなった兵士の身体がすぐにプレミアフィルムへと変わる。
「おっとっと」
 ラウはフィルムが床に落ちて音が立たないように、右脚のつま先に引っかけた。
「死体を残しておくわけにはいかないからねぇ」
 ひょいと足を振って、フィルムを放り上げる。空中で受け取ったそれを手でもてあそびながらラウは次の標的を探しはじめた。
 ――テロリストたちが集団戦闘のプロなら、ラウは個人戦闘のエキスパートだった。
「さて、次の獲物は、っと」
 カメラの死角を移動しながら、次にラウが見つけたのはトイレの入り口にいる男だった。
 彼の位置からは顔までは見えない。金髪であり、がっしりした体つきであることだけ確かめることができた。身をかがめて外の様子をうかがっているように思える。どうやら丸腰のようだった。
「いくら生理現象でも、武器を手放しちゃいけないねぇ」
 いうが早いか、男性の背後にぴったりと張り付いている。左手で相手の腕をひねりあげ、右手で口をふさいだ。
「むぐっ!」
 男は必死に抵抗したが、完璧に極まった関節技が解けることはない。
「ん? おまえ、もしかして俺たちと同類じゃないのか?」
 ラウの眉がひそめられる。同類でないというのは、ムービースターではないということだ。
 一般人がこのような場所をうろついているわけがない。そういった先入観があったため、てっきりテロリストの一味だと思い込んでしまった。しかし、その男は迷彩服も着ていなければ動きも微妙だ。訓練を積んでいるようではあるが、本物の戦士というわけではなさそうだった。
「おい、まさか一般人に変装したテロリストってわけじゃないだろうが、いちおう断っておく。声を上げたり、少しでもおかしい行動をとったら、その場で殺す。いいな?」
 男は何度も首を縦にふった。
「ぷはっ! 死ぬかと思った」
 男はラウにひねられていた左肩をもみつつ、足元に転がっていたココア色のバッキーを抱き上げた。それを見たラウは「なんだ、ムービーファンってやつかよ」と多少侮蔑の混じった言い方でつぶやいた。
 それが聞こえているのかいないのか、男性は俳優独特の白い歯を輝かせた笑顔を披露する。
「どうやら君は悪者じゃなさそうだな。今度からはきちんと確認してから殺そうとしてくれよ? 俺の名前はギリアム。ギリアム・フーパーだ。ギルと呼んでくれ」
 そういって手を差し出す。
 ラウはちらっとそちらを見ただけで、なにもいわずに立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待てよ。これから人質を助けるんだろ? 俺も手伝うよ。俺にはこいつがいる。絶対に役立つはずさ」
 さらに爽やかな風が吹き抜けたかのような笑顔を見せると、肩に乗ったバッキーを親指でさす。
「人質を助ける? バカを言うな。俺はさっさとここから出たいんだよ。遅刻して大哥に新品のケツ穴をこさえられるのはゴメンだからな」
 ラウはギリアムをまったく相手にしない。彼は彼自身の主義にしたがって行動しているだけなのだ。
「おい、ちょっと待てよ」
 ギリアムがラウの肩をつかんだ。
 ラウはその手をいらだたしげに払おうとする。彼はムービーファンなどたいした力も持たないただの人間だと思っていた。だからこそ「人質を助ける」などという大言壮語を吐くギリアムのことが気にくわなかった。
 ムービースターであるラウにとって、ムービーファンであるギリアムの手を振り払うくらい造作もないはずだ。
 ところが、ギリアムの指先はしっかりと食い込んではなれない。
「はなせ!」
 舌打ちして振り向いたラウの黒い瞳と、ギリアムの灰色の瞳が真っ向からぶつかりあった。
 ギリアムの表情は険しかった。そこには俳優としてのギリアムはいない。
「人質を助けないのか?」
 もう一度ゆっくりと、一文字ずつ確認するようにたずねる。
「悪いね、俺は正義の味方じゃないんだよ」
 ラウは突き放すようにいった。
 しかしギリアムも引き下がらなかった。
「俺だって正義の味方なんかじゃない。ただの俳優さ」
「俳優なら俳優らしく、粋がるのは舞台の上だけにしとくんだな」
「たしかに、君のいうとおりかもしれない。だけど、俳優の仕事はみんなを笑顔にすることだ。目の前で苦しんでる人たちがいるのに見てみないふりはできない。君だってそうだろう?」
 ラウは沈黙する。
「俺とは違って君は力を持っている。もしかしたら人質を助けられるかもしれない力だ。持っているならなぜ使わない?」
「……俺は俺の勝手にするさ」
 けっきょくラウはギリアムの制止を振り払い、さっさと歩み去ってしまった。その背中はすべてを拒絶するように冷たく冴えていた。



 ギリアムが妻と息子とはなれ、トイレに行っている間にそれは起こった。
 武装した謎の集団が買い物客たちを一ヶ所に集めはじめたのだ。
 映画の中とはいえ、ギリアムは数々のマフィアやテロリストたちと戦ってきた。その経験から彼らの手際の良さを見てとり、相手がプロだということを悟った。
 迷ったのは数瞬。
「映画のように活躍できるとは限らないけど……やるしかない」
 そう決意して、トイレの中で人質を助ける算段を立てた。こういうときにもまた俳優としての知識が役立つ。
「スタバを連れてきてよかった」
 スタバとはバッキーのスターバックスのことだ。人なつっこく、息子にも慣れているので外出するときにはよく一緒につれていく。
 そのスタバとともに行動に移ろうとした矢先に、彼は敵ではないムービースターに殺されかけたのだ。
 これだけ騒ぎになっていれば頼りになるムービースターが駆けつけてくれるかもしれない。そういう期待を持ってはいたが、まさかあれほど薄情なムービースターに出くわすとは思わなかった。
 だけど……とギリアムは思う。
 テロ集団は意図的に女子供を人質として残していた。おそらくは自分の妻と息子も捕らわれているだろう。「人質を助けないのか?」などと、たいそうなことを言ったが、自分だって本当は身内である妻や子供を助けたいだけかもしれない。
 そこまで考えて、ぶるぶると頭をふった。
「今はそんなことを考えてる場合じゃない」
 自分に言い聞かせるように独りごつ。
 ギリアムは映画の主人公のように行動し、監視カメラに映らないようにしてセキュリティ管理室の前に到着していた。たいした苦労はない。しょせんは万引きを監視する程度のカメラ配置だ。
 ふぅと一息深呼吸すると、ギリアムはバッキーのスタバを抱きかかえて、力いっぱい入り口のドアを蹴りつけた。勢いよく開いたドアからすばやく中に侵入する。俳優業で慣れた動きだ。
「手を挙げろ! 動くな! 少しでも動いたら、こいつが君たちを攻撃する!」
 拳銃代わりにバッキーを差し向ける。相手がムービースターならば、バッキーが食べることができる。
 監視モニターの前で椅子に座っていた兵士二名が、泡を食って両手を挙げそうになる。だが、二人はバッキーの姿を認めると同時に腰のホルスターから銃を抜いた。
「クソっ! 吸い込め、スタバ!」
 横っ飛びに床に倒れながらバッキーに兵士を食べさせようとする。スタバが大きく口を開いたが、どちらを吸い込むべきか迷い、そのまま固まってしまった。
 兵士はまったく怯まず、今にもギリアムを撃つ勢いだ。
 ダメだ。撃たれる?! そう思ったとき、背後から聞いたことのある声が届いた。
「ギル、頭を上げるな!」
 とっさに両手で頭をかばう。
 なにかが二度、空気をふるわせた。ギリアムには乙女の吐息に聞こえたそれは、実際にはスチェッキン・オートマチック・ピストルの吐息だ。
 兵士二人の胸に血の花が咲き、椅子を巻き込みながら倒れ込む。そのままぴくりとも動かず、兵士たちはプレミアフィルムへと変わった。
 ギリアムはのそのそと起きあがると、気まずそうに頭をかきながら、それでも爽やかな笑顔で声の主を見た。
「やぁ、久しぶりだな」
 消音器(サプレッサー)付きの銃をかまえたラウだった。
「あんた、バカか?」
 嫌味でいっているのではない。どちらかというと呆れた口調だ。
「バッキーが消化できるムービースターは一日に一人だろう? どっちかが食べられても、もう一人があんたを殺すことができるのさ。だからあいつらは銃を抜いたんだよ」
「二人もいるなんて思いもよらなかったんでね」
 ギリアムは肩をすくめてみせた。ラウは呆れかえってそれ以上追求するのをやめた。
「それよりも、どうしてここに? ここは監視システムの管理室だよ。出口じゃない。急いでるんじゃなかったのか?」
「急いでいるさ。いちいち防火シャッターをさけて回り道するのが面倒でね。開けに来たってわけさ。なにニヤニヤしてんだよ?」
「べつに。さて、これからどうするべきかな?」
「ったく! なにも考えてないのかよ? あんたといるといちいち苛つくよ」
 ぶつぶついいながらも手際よく管理室の機器をあやつり、人質の捕まっている場所近くに設置された監視カメラの画像を、すべてのモニターに映す。
「まずは情報の収集さ。あまり時間はない。一階の兵士はすべて始末したが、いつ二階から応援がくるともかぎらないからな。なにより一階と連絡がとれないとわかれば、相手も動き出す」
 一階の兵士はすべて始末したという部分にギリアムが口笛で応える。もちろんラウは無視だ。
「人質を見張っているのは三人か。こういうとき台本ではどうなってたかな」
「台本なんかアテにならないさ。自分の頭で考えるんだな」
 そこでなにかに気づいたようにラウの表情が変わった。
「わざわざ俺たちが人質を助ける必要はなさそうだな。白い髪の子供がいるの、見えるかい?」
 ギリアムが目をほそめる。たしかに白い髪に白い肌の少年が映っている。そしてその隣にいるのは……
「ユウキ! 無事だったのか。よかった」
 ほっと胸をなで下ろす。
「あんたの息子かい?」
「ああ。きっと妻もどこかに捕まっているはずだ。っと、それよりその白髪の男の子がどうかしたのか?」
「吸血鬼のアルだ。あいつがいるなら、きっかけさえあれば人質を助けてくれるだろうさ」
 ラウは多少なりともアルという吸血鬼のことを知っていた。アルにとって人質を救わないという選択肢が存在しないこともわかっている。
「俺のほうも一人見つけた。赤い髪の女性がいるだろう? 『ロシアより弾丸を込めて』のリカ・ヴォリンスカヤだ」
 手練れのムービースターが二人もいれば、人質の救出は問題ないだろう。あとはこちらがきっかけを作ってやればいい。
「防火シャッターを開けよう。良いきっかけになってくれるはずだ。ええっと……」
 ギリアムはふと気づいた。よくよく思い起こすに、まだこの男の名前を知らないのだ。ラウもそれを察したのか、ぽつりと一言「ラウだ」とだけいった。
「じゃあ、ラウ。人質問題が解決したところで、悪のボスを懲らしめに行こう」
 二度目の握手を求めるギリアム。一度目と同じように、ラウはそこまで馴れ合うつもりはないとばかりに、背を向け管理室を出ていく。決まり悪そうに頭をかくと、ギリアムもまた防火扉の全開を操作して管理室をあとにした。



 閉じていた防火シャッターが上がっていく様は、さながら希望へと通じる一本道が開けていくかのようだった。光のとおりが良くなり、心持ち暗かった館内が明るくなる。
 その光が絶望という暗闇をすべて払拭できるかは、リカとアルの手にかかっていた。
「なにが起こった?」
 兵士たちが周囲を威嚇するようにサブマシンガンをかまえる。なにかしらの非常事態が起こっていることはたしかだ。そもそも防火シャッターを開けるなどという連絡はきていない。
 もちろん状況の硬直にふさぎ込んでいた人質たちも、なにごとかときょろきょろし出す。表情には期待と不安が半々にミックスされていた。
 リカはこの機を逃さなかった。
 トイレから戻ってきた彼女は、意図的に集団の中央に入った。敵は三人、味方は二人だ。どちらかが二人を相手にしなければならない。彼女の知るかぎり、アルには間接系の攻撃手段がない。いくら人間を超えた動きができるといっても、弾丸より速く走ることは不可能だろう。となれば、間接系の攻撃を得意とするリカが二人を相手取らなければならない。真ん中に居座ったのは、三人の敵すべてと等距離の位置にいるためだ。
 アルに一番近い場所にいない二人。常に居場所は把握している。
「さぁ、お仕置きの時間よ」
 灰白色の双眸が剣呑な光をはなつ。どこからともなく取り出した投擲用の細身のナイフが二本、その両手ににぎられていた。
 兵士たちの気は外に向いている。無力な女子供たちが自分たちの脅威になるとは、つゆとも思っていないのだろう。彼らにとって女子供は支配する対象でしかないのだ。
「女や子供が戦う牙を持ってないなんて、とんだ思い違いだってことを思い知らせてあげるわ」
 座ったままでは他の人間が邪魔になって射線がとおらない。すっと立ち上がり、そのままナイフ投擲の体勢にはいる。彼女のナイフ投げの速度は半端でない。そのモーションはだれの目にも映らない。
 リカの繊手が風を斬る音だけが聞こえた。
 もしこの世に勝利の神というものがいるならば、このとき彼女はその神に見放されてしまったのだろう。もしかしたら勝利の神とは女神であり、彼女がリカの美しさに嫉妬してしまったのかもしれない。
 とにかくその出来事は不運としかいいようがなかった。
 兵士に身体を触られていた女性が、シャッター音に驚いたのか、はたまた早すぎる希望を見いだしてしまったのか、その場を逃げ出そうと立ち上がってしまったのだ。
 兵士の姿は完全に女性のうしろにかくれてしまった。
「Shit!」
 たとえそれが自分の身体の一部であったとしても、一度動かしはじめたものを止めることは難しい。神速であればなおさらだ。
 急に制動をかけた右腕に負荷がかかる。骨はみしみしと音を立て、関節が悲鳴を上げる。
 それでもなんとか、抜け飛びそうになるナイフの柄に爪をたてて防いだ。
「ぐあっ!」
 リカの左方で兵士が右手を血に染めた。マシンガンを取り落とす。
 ナイフ投げの名手は、右手を止めつつも、左手では正確に的を射抜いたのだ。
「早く! だれか銃を拾って!」
 二人を同時にしとめることに失敗した以上、アルが間に合わない可能性も高い。せめて左の兵士はだれか勇気ある者が対処しなければならない。
 近くにいた老人や女性があわてて、うずくまった兵士を取り押さえにかかるのが見えた。
「どけっ!」
 右側にいた兵士が目の前の女性を突きとばした。兵士の姿があらわになり射線がとおったものの、右腕は痛みで動かない。左腕にナイフはなかった。これでは逆に敵の射線がとおっただけだ。
「死ね!」
 短い脅し文句だった。だが、それで十分。マシンガンの銃口がリカをとらえる。
 一瞬、床に倒れ込もうかとも考えたが、それでは周りの一般人に銃弾が当たってしまう。リカは覚悟を決めた。
「こんなことになるんなら、さっさと買っとくんだった。女の子らしくて可愛いワンピースの水着……」
 狂気に近い笑みを浮かべてリカを撃ったのは、アルと一悶着あったあの兵士だった。



 リカが立ち上がったあと、アルは自分の能力を全開にして一番手近な兵士のもとへと走った。彼の周囲を包んでいる紫の靄は、肉体強化のあかしだ。
「あなたたちには容赦はしないよ」
 人外のスピードで懐にもぐられた兵士は、ひどく冷めた声音と燃える深紅の眼光に戦慄した。
 まずアルの手刀が閃くと、マシンガンの銃身がきれいにまっぷたつになる。武器を失った兵士はさらなる恐怖に失禁してしまう。
 つづけて、みぞおちへ拳を打ち込む。本当にアルが本気ならば、あっという間に一編のフィルムへと身を変じるところだが、兵士は気を失ってフロアに倒れ込んだだけだった。
 アルは化け物である自分の能力を必要以上にテロリストたちに見せつけるつもりだった。それで彼らが戦意をなくしてくれればという思惑があったからだ。当然ながら人質たちが味わった恐怖をすこしでも味わわせたいという気持ちもあるにはある。
「あと二人」
 きっとリカが足止めしてくれているはずだ。おそらくナイフで武器を使用できないように傷を負わせているはず。武器をなくした兵士相手にあと二回同じことをくりかえせば終わるはず。
 そのはずだった。
 アルの目に飛び込んできたのはリカの華奢な背中と、その向こうで黒く光るサブマシンガン。想定外の光景にアルの顔面から血の気がひいていく。ただでさえ白亜の肌がさらに白くなった。
「リカさん?!」
 叫びながら走り出す。なぜか足が重い。空気が飴細工のようにねっとりとまとわりつく感じだ。いくら速く走ろうとしてもスピードが出ない。気ばかりがはやる。
 さっきはリカに助けられた。今度はアルの番だった。
 それなのに、リカの背中が遠い。永久に届かないかのように遠い。
「間に合えっ!」
 絶叫もむなしく、銃声は待ってはくれなかった。
「うあああああああああああああああっ!」
 そのとき、絶対にリカを助けるというアルの想いが女神に届いたのかもしれない。
 勝利の女神は気まぐれらしい。今度はアルとリカに微笑んだようだ。
「なんだ? このネコは?」
 燃えるような赤毛の猫が、兵士の腕に噛み付いていた。そのおかげで狙いがはずれ、リカはマシンガンの直撃をうけずにすんだ。
 アルの使い魔ルビーだ。主人の命令で館内を走り回り、情報を集めて帰還したところ、危機一髪の状況に出くわしたのだ。
「リカさん、大丈夫ですか?」
 リカの右腕から血がとめどなく流れていた。立ち止まって気遣うアルに、リカは苦痛に顔を歪めながらも気丈に答えた。
「わたしの利き腕って右なのよね。これじゃあしばらくケーキづくりはお休みね」
 この台詞にべつの意味で安堵を覚えた者もいることだろう。
「ルビー、もういい。あとは僕がやる」
 主人の命令に「にゃあ」と鳴くと、ルビーは兵士から跳びすさった。
「よくも、リカさんを!!」
 アルの細い指が、兵士の首をつかまえる。圧倒的な膂力で兵士はすぐに酸欠状態におちいった。
 恐ろしい。赤い眼も白い牙も。薄れていく意識の中で、吸血鬼の表情は彼の脳裏に深く刻みつけられる。
 やっぱりあのとき殺していれば。そういった後悔の念さえもはや浮かばない。ただただ恐ろしい。
「アル! それ以上はダメよ!」
 リカの言葉に「わかっています」と小さく答えて、アルは兵士を床に放り投げた。もちろんその身体がプレミアフィルムへと変わることはない。
 リカの笑顔が、アルの心に光をあてる。
「みなさん、すぐにデパートの外に出ましょう」
 人質たちにそう呼びかけたアルの表情は、皆を元気づけるかのように笑顔だった。
 


「策士ってのはなぁ、不測の事態まで予測の範疇にとどめてるもんだぜ」
 那戯が話しかけたのはアースキン伍長だった。
 アースキンがなにか行動を起こす前に、長槍『炮烙』の石突きが右手首を砕く。アルに狙いをつけていたライフルを取り落とし、アースキンは驚愕の表情でオレンジの髪の男を見やった。
 イベントスペースからすこし離れた紳士服売り場だ。防火シャッターの異常を察知し、いち早く応援に駆けつけたアースキンだったが、相手が自分の力のおよばない化け物だとわかると、作戦を遠くからの狙撃に切り替えた。
 さらなる応援を待つという手もあったが、なぜかこれ以上応援はこないような気がした。実際に、この時点で一階の見張りはラウの手で、二階の見張りはアースキン以外那戯の手で倒されていた。
「もうすこしだったものを」
 憎々しげなアースキンの言葉に、那戯はにやにや笑うばかりだ。
 リカが傷つけられた怒りのせいで、アルはアースキンの存在に気づいていなかった。アルがいかに不死身の吸血鬼とはいえ、頭を狙われていたらどうなったかわからない。またもや勝利の女神がテロリストたちに微笑もうとしたところを、未然にふせいだのが那戯だったことになる。
「なーにが『もうすこし』だよ。そもそもこの銀幕市じゃこの類の作戦は成功率が極端に低いってことくらいわかるだろう? 一個人で軍隊並の戦闘力を持ったやつらがゴロゴロしてるんだぜ? 銀幕ジャーナルをちょっとでも読んだことあるやつなら知ってるはずさ。そういった連中の活躍で、こういった事件がいくつも解決されてるってことにな。あんたら、この銀幕市で活動しちまったのが運の尽きさ」
 そこまでいって、にやりと口元を歪める。
「まぁ、銀幕市以外じゃ存在できねぇあんたたちにそんなこといっても仕方ねぇけどな」
 痛烈な皮肉だった。
 アースキンはなにも言い返せない。なんとか絞り出したのはつぎのような台詞だった。
「……いったい、貴様は何者だ?」
「台詞まで予測の範囲内だぜ? まぁ、俺のことは山賊って呼ぶやつが多いな」
「山賊? バカげてる。なんでそんなやつがここに」
「ちょいと心配事があってね。明日はデパートに買い物に行くなんていってやがったからな。もしかして、と思ってね」
 ちょっとした心配事。そのようなもので『銀砂漠の大鷲』最後の任務が崩壊しようとしている。アースキンにはとても耐えられなかった。
 歯ぎしりして腰ベルトに装着していた手榴弾を左手ではぎとる。右手は使えないので口で安全ピンを引き抜いた。
「祖国のために!」
 テロリストの十八番ともいえる自爆。たった三秒でアースキンもろとも那戯は吹っ飛ぶ。
「だから、予測してるっていってんだろ。お約束すぎんだよ」
 ふたたび『炮烙』の石突きが跳ね上がり、手榴弾を持った左手をはじく。アースキンの手をはなれた爆弾は、きれいな弧を描いて那戯の手中におさまった。
「はいよ」
 どこから取り出したものか、アースキンが抜いたものとまったく同じ型の安全ピンをさしもどした。これで爆発の心配はなかった。
「な、なんで、それを……」
「何回もいわせるなよ。テロリストのやることなんてワンパなんだよ」
 三度、『炮烙』の石突きが動き、アースキンを昏倒させる。
 那戯は、ほかの兵士を倒した際に、持っていた手榴弾の信管を抜き分解、念のため安全ピンを持ち歩いていたのだ。
「まったく、こいつらなにがやりたかったんだか。目的がさっぱりだぜ。ま、こっちの目的は達成したからな」
 那戯はそのまま人質たちと一緒にデパートを脱出するつもりだった。人質たちの中に彼の姪はいなかったのだ。



「軍曹! アルファ隊、ガンマ隊、ともに連絡がとれません!」
「警察とは思えない格好の連中、おそらく対策課と思われますが、かなりの数が建物正面に集まっています!」
「ひ、人質が! いま人質が正面から次々と逃げていきます!」
「軍曹! 軍曹!!」
 崩壊はどこからはじまっていたのか。
 オレンジ色の頭をした和服姿の男を発見したという連絡を受けたときからか。防火シャッターが突然開いたときからか。全身真っ白の化け物をライフルで狙撃するといったきり、アースキンから連絡が途絶えたときからか。
 おそらくオレンジ頭も真っ白な少年も、コンフォースが考えるところの『正義面した偽善者ども』なのだろう。
「やはり、我々では力不足だったか……」
 もしかしたら、最初から崩壊することが決まっていたのかもしれない。ここ銀幕市で事を起こした自分たちがおろかだったのだと。
 その思考は那戯がアースキンに投げかけた皮肉と重なった。
「だが、派手な作戦ではあった。あとは、幕引きか……」
「軍曹! ここは栄誉ある撤退を進言します! いったん身をかくし、次の機会にそなえましょう!」
 部下の諫言に対して、コンフォースがなにかをいおうとしたとき、突然地面が大きく揺れた。まるで直下型地震が銀幕市をおそったかのようだ。
 いや、違う。揺れているのは『にこにこタウン』だけだった。
「この威圧感は……」
 コンフォースの背筋に寒気が走る。
 逢魔が刻という古い言葉がある。昼と夜の狭間、太陽と月の境目で、人は魔と出会うのだ。
 赤褐色の肌が薄闇に溶けこんで全体がはっきりしない。ただその巨躯と頭頂部と思われる部分にある二本の角が、その影を魔物たらしめていた。
 屋上に降り立ったのはRDであり、一トンもの重量が落下してきた衝撃が先ほどの振動だった。
「うああああっ!」
 本能的な恐怖に負け、兵士がマシンガンを乱射する。RDは顔だけを両腕でかばうと、銃弾の雨を全身で受けて立った。
「せっかく遊びにきてやったのによぉ。手荒い歓迎だな、おい」
 彼の鋼の肉体には傷ひとつついていない。
「畜生! この化け物め!」
 今度はもう一人の兵士がロケット砲を発射する。
 RDの巨体がかすみ、遠くの夜空で砲弾が爆発四散した。
「さすがにそいつぁ、痛てぇからな」
 大きな身体に似合わない俊敏さでロケット砲をかわしたRDは、恐ろしい形相で兵士たちを睨みつけた。
 マシンガンやロケット砲がつうじないとなると、もはや白兵戦しかない。兵士たちはふるえる腕を叱咤しながらアーミーナイフを引き抜いた。
「なんだ、おまえたち全員男か? さっき見たときは女が一人いたと思ったんだが」
 敵にいわれて初めて、兵士もコンフォースも、逃げるときの切り札としてとっておいた人質女性がいないことに気づく。
「でっかい鬼さん、ありがとよ。あんたが派手に騒いでくれたおかげで、こいつの嫁さんを助けることができたよ」
 だれも気づかないうちに、人質は救出されていた。屋上の隅でギリアム・フーパーがその妻をしっかりと抱き、二人を守るようにレナード・ラウが立っていた。
「てめぇら! その女は俺の獲物だ!」
「あんたにはそいつらがいるだろう? 悪いがこの女は俺たちのもんだ」
 油断なく身構えつつラウ。
「おい、ラウ! ヨーコはおまえのものじゃない。俺のものだ」
 そこだけは譲れないとばかりにギリアム。
「そんなの言葉のアヤだろうが! あんたといると本当に調子が狂う」
 と、兵士が一人ラウに飛びかかった。最後の切り札であるヨーコ・フーパーを取り戻すつもりなのだろう。
 もう一人はRDの方へ走り寄る。
「甘いねぇ」
 突き出されたアーミーナイフを身をかがめてかわすと、ラウは立ち上がりざまに掌底打を顎にたたき込んだ。兵士は吹き飛んで気を失った。
「うぜぇよ!」
 ラウが技ならRDはまさしく力だ。圧倒的リーチの差であっさりと頭をわしづかみにすると、片手で軽々と放り投げた。こちらは地面に激突し、プレミアフィルムになってしまった。
「よく考えてみりゃあ、おまえらは死んだらフィルムになっちまうじゃねぇか! ってこたぁ、生きたまま喰うしかねぇな」
 たいそう物騒なことをRDがいう。
 すっかり夜になってしまった『にこにこタウン』の屋上に、残るテロリストはコンフォースのみとなった。
「一瞬で終わらせてやるから騒ぐなよ。主人も獲物もいなくなったんだからついでに命も無くしても別にいいだろ?」
 ずんずんと腹に響く足音とともに、RDとコンフォース、二人の距離がじょじょに縮まっていく。
 観念したのかコンフォースは逃げようともしない。ただ一言。
「貴様たちはなんのために戦っている?」
 コンフォースの問いかけ。作戦決行前、アースキンにしたのと同じ質問だ。
 コンフォースに見つめられ、ギリアムが妻を抱しめたまま答える。
「家族のためだ」
 それを受けて、ラウが歪んだ笑顔を見せつつ答える。
「んなこたぁ、どうだっていいんだよ。目の前に立ち塞がるものすべてを殲滅する、それだけさ。俺はね、地獄の底でどこまで踊れるか、それしか興味がないんだよ」
 アルであればこう答えたかもしれない。
「僕はだれかのために牙を振るっている。あなたたちもだれかのために牙を振るうことができるならこの市を守って欲しい」
 リカであればこう答えたかもしれない。
「要するにね、わたしは銀幕市の平和を守るために戦うボンドガールなのよ。そして、ステキなパティシェになるのが夢なの。だからこの町の平和を乱すやつは許さないわ。わたしのナイフでメッタ斬りにしてあげるわよ」
 那戯の目的は一握りの人間しか知らないことではあるが、あきらかだった。
 圧倒的な存在感で迫るRDは――
「てめぇはなんのために戦ってるんだよ?」
 問い返した。
「我々は猟犬だ。狩るべき獲物も、従うべき主人も失った猟犬だ。猟犬は今さらみずからの鼻で獲物を見つけることはできん。主人のいない猟犬ほど惨めなものはない。しょせんは我々も飼い犬なのだ」
「ケッ! そんなへ理屈を聞きたいわけじゃねぇ。だったら今度のこのバカ騒ぎはなんだよ? 飼い犬がなにをしでかそうってんだ?」
 RDが毒づいたのは、コンフォースの返答が気にくわなかったからだ。
「飼い犬は飼い犬でしかない。主人の命令で動くのみだ」
「主人?」
「いや、違うな。派手に。最後に派手に暴れたかっただけかもしれん」
 RDの怒りが頂点に達した。
「てめぇは猟犬じゃねぇのかよ? あぁ? 敵の首に牙を突き立てる! それだけが生きる目的じゃねぇのか? 俺は人を喰らうが、てめぇは喰らわない! 俺とてめぇの差なんてその程度だろうがよ?」
 コンフォースは無言だ。夜の闇がかくしているせいか、表情ははっきりとはうかがえなかった。
「さぁ、お望みどおり派手に戦おうぜ!」
 RDは右足を後ろにひき、半身の体勢で拳をかまえた。
「貴様は単純で良いな。貴様を見ていると昔の、独りだったころの自分を思い出す。だがな、今の俺には部下がいる」
「部下なんてほとんど死んじまったろうが!」
 RDの指さす先ではプレミアフィルムが暗闇に沈み込んでいる。
「違う! 死んでしまったのではない。俺が死なせたのだ。だからこそ責任をとらねばならん」
「おい! ちょ……」
 RDの怒声に一発の銃声が重なる。事件の終息を示すように、コンフォースの身体が一本のプレミアフィルムに変わった。
「……畜生。つまんねぇことしやがって」
 そうつぶやいたRDの声には力がない。
「まったく、なにがしたかったんだろうねぇ」
 ラウは疲れたように肩を落とした。



 こうして、夕刻に始まったテロリスト『銀砂漠の大鷲』による『にこにこタウン』占拠
事件は夜も更けぬうちに解決に至った。結局テロリスト側から銀幕市への交換条件の提示は一度もなされず、彼らの作戦目的は不明のままだった。
 人質の死者ゼロ名、負傷者数名。奇跡的ともいえる今回の解決劇に、対策課が間に合わなかったことは少なからず銀幕市民を動揺させた。それと同時に、こうした凶悪事件をも解決しうるムービースターやムービーファンが身近に存在することを、あらためて心強く思った者たちもいた。

クリエイターコメントお待たせいたしました。
西向く侍、初シナリオをここに後悔、いやいや公開させていただきました。

なにぶん初めてのチャレンジでしたので、何度もPC設定やプレイングを見直しては書き直し、締め切りに間に合うのか冷や冷やしながらも、なんとか書き上げることができました。

PL様方に楽しんでいただけるよう、せいっぱいアイディアをしぼったつもりです。
少しでも気に入っていただければ幸いです。
公開日時2007-08-15(水) 12:20
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