★ 同位界での邂逅 〜トリガーを引くのは〜 ★
クリエイター竜城英理(wwpx4614)
管理番号341-7497 オファー日2009-04-28(火) 20:18
オファーPC ヘンリー・ローズウッド(cxce4020) ムービースター 男 26歳 紳士強盗
ゲストPC1 ダニエル・リッケンバッカー(cymd7173) ムービースター 男 29歳 花嫁殺し
ゲストPC2 ヘーゼル・ハンフリー(cbsw5379) ムービースター 女 29歳 美しき殺人鬼
<ノベル>

 世界が、変わった。

 世界を認識したのは、香り。
 何処から漂ってくるのかと視線を動かせば、広がる色とりどりの彩を持つ薔薇。
 馨しい薔薇の香り。
 咲き時に合わせて整えられた庭。
 空は澄み渡って見上げれば、しばらくは空の景色の虜になりそうな位、美しい模様で続いている。
 英国式庭園は自然と人工が調和した、さり気ないながらも計算された箱庭。
 小さな滝から流れ落ちる水と飛沫が空気に溶け込み、涼やかな気温を保っている。
 園内を巡る小川には小魚も放たれ、生態系が成り立って小さな世界を作っている様は、この世界は優しい世界で出来ているのだと思わせる。
 小さな花弁を持つ花々が咲き乱れる庭園の中央、円形の屋根を持つ四阿に白い椅子とテーブルがセッティングされ、3人の人物が席についていた。
 どの席に誰が座るのかあらかじめ指定され、席の僅か左にカリグラフィで美しく名が書かれている。
 1人はヘンリー・ローズウッド。
 この中ではただ1人の探偵。シルクハットとステッキは後方にある四阿の形に合わせて内側に設けられたベンチに置いている。
 巻き毛の黒髪に青い瞳、口元に笑みを浮かべれば、目を奪われる人も居るはずだが、その表情は陰鬱さを醸しだし、四阿の外に広がる空とは対照的だ。もしかすると、持ち前の推理力と洞察力から、これから起こる事を予期しているのかもしれない。
 もう1人はダニエル・リッケンバッカー。
 優しげで繊細な容貌。金髪に青い瞳の美男。口元には甘やかな笑みを浮かべている。
 花嫁殺しと呼ばれる殺人鬼。見つめられれば心奪われ、白い服装の女性ならば、心を奪われたまま身も奪われてしまうだろう。これまで、花嫁の白い衣装の胸元を赤く染めてきたレイピアは身体の一部である様に、剣帯で腰に差している。剣だけでなく、懐には銃のデリンジャーが収めてあった。
 最後の1人はヘーゼル・ハンフリー。
 この中では唯一の女性。アッシュブロンドの長い髪を繊細なレースで飾って美しく編み上げ、結い上げている。
 ハシバミ色の瞳は優しい印象を与え、笑みを浮かべれば文字通り花咲く様な笑顔と讃えられるだろう。けれど、美しいものには棘がある、という言葉通り、ヘーゼルも類に漏れない。美しき殺人鬼。それがヘーゼルのもう一つの貌。花嫁衣装であるウェディングドレスの中には鋭い銀のナイフに銃のデリンジャー、長手袋を嵌めた指には極小の仕込み針が仕掛けられた色石の指輪が煌めいている。
 テーブルには真っ白なクロスが敷かれ、中央には3段に皿がセットされ、その皿を彩るのは小振りのケーキにクロテッドクリームとラズベリージャムの添えられたスコーン、生ハムやチーズを挟んだサンドイッチ。
 3人の前にはティーカップには、赤みを帯びた琥珀の液体が満たされている。
 ティーポットには蔦を可愛らしく刺繍したティーコゼーが三種三様の色で区別出来る様に被せられていた。
 各々の茶葉は違うのかも知れない。微かに色合いも香りも違う。
 主張しすぎない茶葉の香り。
 先ずは砂糖は入れずに紅茶本来の味を口内で楽しむ。
 静かな時間。
 聞こえるのは葉の揺れる音と、ティーカップを皿に戻す時の陶器が触れる微かな音。

 これから始まるのは死の遊戯。

 自主製作映画の一作品。
 メジャーにはない緻密な状況描写と登場人物の心の動きを捉え、フレーム内の一場面、庭園内という固定した世界の映画でありながら、狭いと思わせる事もなく、フィルムが上映される間も退屈さを感じさせる事もない、趣向を凝らしたものだった。
 フィルムは編集行程を経て、観る者へと供給される。
 けれど、この作品は未編集であるにも関わらず、作品として完成していた。
 脚本には大まかなあらすじと、演者に割り振られた役割だけで、台詞もなにも書かれては居なかったという。
 世界観を把握するのは演じる場所と、身に纏う衣装と、大まかな役割の説明だけ。
 演者が監督の用意した舞台にあがり、作品を作り上げる。
 信頼に応え、素晴らしい化学変化はフィルムに空気も写し取ったと、絶賛された。
 随分と過激な内容で、観る者にとってはスリルのあるものであったという。
 映画館という箱の中では上映される事はなかったが、個人が映画が好きという情熱だけで撮影されたものだったから、本当に純粋に望む者にしか貸し出す事はなかった。
 その為、興味本位、商売本意で近づく者は、観る事は出来ないといわれていた。
 時折、幸運にもその映画を観た者が感想をウェブ媒体にあげれば、観たいと望む者が次々と書き込みをするほどに。
 勿論、詳しい内容には触れては居ない。
 楽しみは観た者だけが、体感することの出来る感情だから、楽しみを削ぐ様な事は書かれては居ない。
 それでも、時折、映画の輪郭に触れた内容を語ったものがあった。

『死なないと抜け出せない』

 映画を観た者が、その感想に気づいて、削除する様に要請した為に、ウェブ上にあがっていたのは、数日だったけれど。
 興味を抱き、それが恋の様にドキドキ、期待感へとかわり、映画に出会った者は満たされ、少しずつ少しずつ海の波が引いていく様に、静かになっていった。
 観た者の感想があがらなくなって、フィルムは無くなったか、焼失、盗難にあったのかと微かに噂が立ったりもした。
 月日が過ぎた頃、別の形を取り、現れた。
 ハザードという驚異となって。

 今から始まるのは、その再現。

 カードホルダーに挟まれた名札の下にカードがそっと挟み込まれているのを、ヘーゼルは手袋に包まれた細い指でそっと引き抜き、カードを開く。
 四隅を剣の意匠を施した金の箔押しで縁取られた文面には、少し癖のある字で書かれていた。
『2人を殺せ』
 と。
 ヘーゼルは表情を変えずにカードを名札の下に戻す。
(「楽しそうですわ」)
 ぽつっと胸元が温かくなる気持ちに、ヘーゼルは内心嬉しくなる。
「お2人にも、わたくしと同じようにカードが挟まれているみたいですわね。お読みになれば?」
 きっと楽しいと思いますわ、と言外に含めるような幾分楽しそうな声音で言葉を紡ぐ。
「そうか……」
 ダニエルは、興味を惹かれたように、緩やかな動きでカードを開けば、金赤の箔押しに兎の影絵が描かれ、文字も赤で書かれていた。
『2人から逃げ切れ』
 ふっと口元に笑みを刻み、ダニエルは胸元の内ポケットにカードを収める。
(「穏やかな内容ではありませんが……、こういう状況もたまには良いかもしれません」)
 ヘンリーは2人の様子を見ていたが、ヘーゼルが見つめ返し、その視線がカードホルダーの下にあるカードだと気づくと、しょうがないなという風にカードを引き抜いた。
『2人を殺せ』
 内容はヘーゼルと同じ。
「面白い」
 だが、自分以外の2人には何が書かれていたのかは分からない。
 口外しても良い、悪いとは書かれては居なかったが、自分のカードに書いてある文字から、残りの2人に良い事を書いてあるとは思えない。
 創造主はどうやら悪巧みを考えている?
 この用意された状況下でなすべき事は、カードに書かれた通りに演じる事だろう。
「この場を離れるのは、もう少し後にしましょう? 折角並んでいるものに手を付けないというのは、誰が用意して下さったのかは分かりませんけれど、料理人の好意はむげにしたくありませんわ」
「ここに俺らが現れた時には既に用意されていたものだが、まぁ……これを逃すと、何時食事にありつけるかわからないからな。賛成だ。あんたは?」
「君たちに合わせるよ」
 ヘンリーに振られたダニエルは、スコーンを皿に取り分ける。先程口にしたミルクティも満足のいくものだったから、もう少し居てもいいと思う。
「気づいたら、ここに居たのですわ」
「一緒だよ」
 ジャムをスコーンに塗りつける。
「スタートはここからということか」
 ヘンリーは、探偵らしく周囲に広がる庭を眺め、その奥にある洋館に注目した。
「テーブルに並んでいるのは、あの洋館で用意されたものなのかもな」
「設定上ではそうなっているのかも知れませんわね。この中では、わたくしたちが居る場所が最初のシーンということなら、洋館には誰も居ないという場合もあるのかも、と」
「可能性は高いね。そういえば、まだ僕は君たちの名を知らない。自己紹介をしていいかな」
「構いませんわ」
「そうだな。この世界に3人しか居ない可能性があるし、どれ位一緒にいるか分からないからな」
 自己紹介を済ませると、気づいた事をぽつぽつと口にし、受け答えから徐々に各々の人となりを掴み始める。
 笑みを浮かべていたとしても、用心しなければならない、油断出来ない相手。
 皿の上の食べ物があらかた無くなった頃、ナプキンで口元を拭い、3人は視線を交わす。
「随分時間が経っている気はするが、空模様が変わってない、ってことは、さっさと次のアクションに移れって催促なのか」
 地味に嫌な感じだとヘンリーは思う。
「時間をわたくしたちの手で動かさなければ、世界は動かない、そういうことですわね?」
「では、取りかかりましょうか」
 立ち上がりざまにダニエルはレイピアを鞘から抜き、ヘーゼルの真っ白なレースに包まれた胸元に赤い華を咲かせようと切っ先が縫いつけてあった真珠が弾け幾粒かが、宙に舞う。
 切っ先はヘーゼルの胸に納まることはなかった。
 ヘーゼルの掌に収まったデリンジャーの銃口から発射された銃弾が、無防備な首元を撃ち抜いていたのだから。
 響き渡る銃声。
「ご機嫌よう、花婿様」
 うっとりとした笑みを浮かべ、冷たい石タイル床に倒れ伏すダニエルを見送った。
 ダニエルの流す血だまりにヘーゼルは立ち、平然とその様子を見ているヘンリーに、先程と変わらぬ声音で言葉を紡ぐ。
「ねえ、探偵さん。私はお先に失礼するわね?」
 そう言って、デリンジャーに装弾された最後の一発を、自身のこめかみに押しつけ、発射した。
 同時に響く銃声。
 ダニエルの身体に重なるように、ヘーゼルはウェディングドレスのシフォンをゆらゆらと揺らして倒れた。
 紅い血だまりに真っ白な華を咲かせているよう。
 ヘンリーは、静かになったその場所から、2人が倒れる場所へとゆっくりと歩み寄る。
 心中を図った恋人同士の様に横たわるダニエルとヘーゼルを見下ろし、静かに、溜息のような微かな声音で語りかけた。
 今はもう、聞く者は居なかったけれど。
「……口約束だが、約束がある。これ以上、これに付き合っているよりは、有意義だろう」
 2人の後は自分の番だという風に、ヘンリーはダニエルが懐に収めていた銃を奇術で取りだし、掌に収め、同じようにデリンジャーを発射して、自身の命を刈り取った。



 涼やかな風が吹き抜ける英国式庭園の中央にある四阿の下に居るのは2人の男女。
 ダニエルとヘーゼルだ。
 四阿の外では給仕が2人控えていた。
 仲睦まじく、時折笑い声を響かせてお茶を楽しんでいる。
 蔓薔薇のアーチを潜り、歩み寄ってくる人影に気づいたヘーゼルは、微笑みを浮かべて、話し掛けた。
「あら、探偵さん。一緒にお茶は如何かしら?」
「よろこんで」
 ヘンリーはシルクハットをとり、くすんだ金髪を僅かに撫でつける。帽子とステッキをベンチに置くと、席に着く。
「ありがとう」
 ティーカップに紅茶を注ぐ給仕に礼を言い、口を付ける。
 和やかな雰囲気の中、時間は過ぎていく。
 いつの間にか、給仕は居なくなり、ワゴンだけが残っていた。
 ダニエルは、かさりと鳴る紙の音に気づき、ワゴンへと歩み寄る。
 銀の盆に並べられているのは半貴石のペーパーウェイトを乗せられた3通の封筒とペーパーナイフ。
「3通ありますね。名は書かれていません。どれを取っても良いという事でしょうか」
「レディが一番最初に選んで下さい。僕は、後で構いません」
「どれにしようかしら……」
 悩む仕草をしながら、封筒を取りあげた。続けて、ダニエル、ヘンリーと封筒を取り、ペーパーナイフで封を切った。

 始まるのは死の遊戯の再演。
 塗り込めていく油絵の様に、殺し合いが繰り返されるのだ。

クリエイターコメントオファーありがとうございます。
竜城英理です。
殺伐というよりは、日常的な感じになった様な気がします。
かなり遅れて仕舞いましたが、楽しんでいただければと思います。
公開日時2009-06-24(水) 18:20
感想メールはこちらから