★ ときめきギャンブル・アワー ★
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
管理番号95-5532 オファー日2008-11-30(日) 23:03
オファーPC 簪(cwsd9810) ムービースター 男 28歳 簪売り&情報屋
ゲストPC1 信崎 誓(cfcr2568) ムービースター 男 26歳 <天使>
<ノベル>

 私は記録者である。よって名は秘す。
 さて。銀幕市は新年を迎え、広場ではとんでもない餅つきが行われている今日この頃なのだが。
 実は……、私の心はまだ、真夏を彷徨っている。
 それほどに、銀幕市平和記念公園で行われたあのイベント、「銀コミ夏の陣・改」は衝撃的だった。
 嗚呼、熱気あふるるあの空間。綺羅星のごとく、という表現が相応しすぎるサークル群。
 銀コミ銀コミ銀コミ。Bonnouが私を呼んでいるわ這ってでも取材に行かなくちゃ止めないで編集長〜〜!
 開催期間中、記録者は、鼻息荒く駆けつけるつもりだった。
 ついでに本やグッズも買い込んじゃうつもりで、小銭をたくさん用意したほどだ。だってどのサークルさんも大盛況過ぎて釣り銭足りなくなっちゃうだろうから、細かいお金で買うほうが喜ばれると思うの。
 なのに〜〜〜。
編集長に、マジに羽交い締めにされ、待ったを掛けられてしまったのだ。
――あの場所に行けば、おまえの暴走システムが発動し、オーバーヒートして制御不能になってしまう。そうなったら、俺にはもう為すすべがない。
 ……あたしゃどこぞの人型機動兵器ですかい? ぼやきながら記録者は、編集長の制止を振り切って強引に現地に行ったのだが、到着したときにはイベントは閉会しており、へんてこな学園ハザードに取って代わられていた次第である。
 そして私の夏は終わった。しくしく。銀コミ。
 Bonnouの Bonnouによる Bonnouのための祭典は2月始めにも行われるらしいがそこはそれ。
 買いそびれちゃったよ、カタログに蛍光ペンでチェック入れてた『偽形』の兄×弟本も『X.Y.Z』の天使×社長本も『Michael-Angelo』の助手×所長本もみけしょ本もレビたんのぬいぐるみも。
 このうえは、せめて他の記録者のレポートで臨場感を得ようと、ジャーナルのバックナンバーの中から、簪さんと信崎誓さんコンビの銀コミ一般参加記録を何度も何度も読み返して心を慰めていたのであるが。
(……おんや?)
 ちょうど、編集部がある建物の前を、ふたりが連れだって通り過ぎるのを目撃してしまった。
 偶然、顔を合わせたようだ。久しぶりにご飯でも食べにいこうか、という風情である。
 折しも、今はランチタイム。
 まだ銀幕市に慣れていない簪さんを、誓さんがエスコートしたりするのだろうか。さりげに萌えるシチュである。
 ターゲットロックオン。無名の記録者、いきまーす!
 記録者はすちゃっとサングラスをかけ、黒ショールを真知子巻きにし黒コートを引っかけて、ふたりを追いかけた。

  ○  ○○  ○  ○

「お久しぶりです。銀コミ……以来ですね」
 冬の冷気にうっすらと頬を紅潮させ、笈を背負い直して簪さんは微笑む。吐く息が白い。
 仄かに柔らかな云い回し。独特の雰囲気を持つ間合い。……嗚呼、なんということだろう、私のがさつな表現力では簪さんの魅力を伝えきれない。
 なにせ私めは、簪さんには「カレークエストおつかれさまでしたァァァァ!」としか言えない立場である。あのときの賞品のゾウは動物園に預けているようなのでこっそり様子を見に行こうとしたら、飼育係さんに「ゾウがおびえますので……」と牽制されてしまった。
 なので読者諸氏には是非、他の筆力ある記録者たちの記事をご参照いただきたい。どれも素晴らしいが、中でも『偽形』シリーズ三部作【It rains cats and dogs.】【like a PUPPY】【凍て蝶 - to walk with the black dog -】をご覧くださればと思う。
 読者をして作品世界をたゆとう一羽の蝶に変えるかのような、嫋々と匂い立つ情景描写。行間にあふれる感情のゆらめき。簪さんだけに見える異形の妖しい美しさ。担当記録者はきっと『偽形』の原作者に違いない。いいえ隠してもだめよ私にはわかるッ! 
 さて、かたや誓さん。<天使>である。括弧つきである。
 まだ<天使>さまと面識がない記録者だが、実は時々ベイエリア倉庫街の事務所を張り込んだりしている。所長さんとのマシンガントークにうっとりし、「いやん、かっこいい〜〜」と目をハート型にしながらもとても自分から声を掛ける勇気はなく、放課後の校庭を走るサッカー部のキャプテンを木陰から見つめる片思いの乙女のようにドキドキときめいている次第である。
 しかし実際、誓さんに話しかけようと思ったら、最初の一声はどう言うのがふさわしいのだろうか。
 ――私に最後の祝福をお願いします、とか? 
 うん、いいわ、ロマンチック!
 ぽんと手を打った記録者だが、はたと、重大な事実に思い至る。
 や、ちょっと待って。
 ……それだと、最初にして最後の一声になってしまうんでは?
「ほんと久しぶり。銀幕市には、もう慣れた?」
「少しは。でもまだまだ、この街はわからないことが多くて……」
 おっとり小首を傾げる簪さんに、誓さんは頼もしく請け負う。
「どこか行きたい場所があったら案内するよ」
「それはご親切に。あちきは一度、『ぱーらー』というところに行ってみたいのですが」
 ほほう、パーラー。
 それはステキ♪
 簪さんの言葉の響きから、記録者は銀座の資生堂パーラーをイメージした。
 明治35年、パリ万博を見学しアメリカ経由で帰国した資生堂の創業者は、店舗の一部に「ソーダファウンテン」を設置。それは日本で初めての、ソーダ水やアイスクリームの製造販売を行うお店であった。
 当時の顧客は柳橋の芸者さん。ソーダ水1杯につき、化粧水「オイデミルン」を1本景品としてつけたのが大当たり。一躍、銀座の名物になったそうな。
 その後、本格的にレストランを開業し現在に至っておるようですが、柳橋の芸者さんではない記録者としては、現資生堂パーラー「サロン・ド・カフェ」の1月のおすすめスイーツ、「白胡麻アイスクリームの風味豊かなパフェ」や「金柑のコンポートと柚子のムース」や「旬のイチゴとバニラアイスのミルフィーユ仕立て」や「銀座で採れた蜂蜜で味わうフレンチトースト 〜アイスクリームと季節のフルーツを添えて〜」にものっそ心惹かれるでありますよ。
 とはいえ、飲食店のバラエティと充実度において、おそらくは現在世界一と思われる銀幕市のこと、銀座など足元にも及ばない素敵カフェが綺羅星の如くひしめいているのもまた事実。未だ記録者もその存在を知らぬパーラーがあるに違いない。
「パーラーか。いいよ」
 誓さんはにこやかに頷く。
 <天使>さまは、とてもお店に詳しそうな感じがするし、きっと簪さんを知る人ぞ知るステキなお店にご案内するんだわ。記録者もついて行こうっと。どこ連れてってくれるのかしら。フルーツの美味しいお店だといいな。こっそり隣のテーブルに陣取ってパフェ食べちゃうんだ、うふ。

 と こ ろ が 。

 わくわくする記録者をよそに、誓さん、超イイ笑顔でこう仰った。

「そうだな。『パチンコパーラー銀竜伝説』とかどう? 新装開店で新しい台が入ったばかりだから、クギがいい感じに甘めの設定になってて狙い目だよ」

 ……。
 ……〜〜〜……!!
 ちょー!
 誓さァァァァん、それ違う。パーラーと違う。
 いやそれもパーラーって言うけどね。パーラー違いですぅ〜〜!

 記録者は慌てたが、すぐに思い直す。
 簪さん、気づくよね?
 ツッコむよね? 断るよね? 軌道修正するよね?

「『銀竜伝説』ですか。素敵ですね。良い感じの狙い目な甘味処なのですね」
 ……。
 ………ぁぁぁあぁぁぁぁ…………。
 気づかない。
 か、かんざしさん、 こっちのパーラーはですね、「パチンコ」という遊技を行うお店でしてね、多数の釘が打たれた盤面に小さな鋼球を弾き入れ、特定の入賞口に入れるゲームでございまして。最初の店舗が開店したのは昭和5年のことで、第二次世界大戦により全面禁止になったんですが終戦後に復活しましてね、などと、物陰で無駄知識を披露しながら引き留めようとする記録者の気も知らず。

 そう、あれは18の冬。一度パチンコというものをしてみたくって入ってみたらいきなりビギナーズラックが来てどんじゃら出て、豪快にドル箱積み重ねているところを、ほのかにラブだった彼が偶然店の前を通りかかって見られちゃって「そんな子とは思わなかった」とか言われてラブははかなく消えたの。でもさパチンコしてる姿を見たくらいで醒めるなんてどうなのよ、むしろ惚れ直せ――って、記録者が誰に対して何を主張したいのかそろそろ意味不明になってきたところで。

 おふたりは、行ってしまったのでありますよ。

 ****〜〜**〜〜〜**〜〜****
 
    新年爆走! 出玉最高!
      『総力祭』第1弾! 

   新台入替12時スタート!

    本年も『銀竜伝説』をよろしく!

 ****〜〜**〜〜〜**〜〜****

 ……ええ。
 アグレッシブなのぼりがはためいている、18歳未満お断りのほうのパーラーに。

  ○  ○○  ○○  ○  ○

「えー、そんなこんなで、パチンコパーラー銀竜伝説の店内より、わたくし無名の記録者が実況レポートいたします。大丈夫、この騒音ですから大声で話してても気づかれません。只今、簪さんと誓さんはご自分の台を選び、遊技に入られた模様です。あ、18歳未満のよい子の読者さんは、この記事は今の時点ではナナメ読みして、18歳になったらじっくり読み返してくださいね♪ 記録者からのお願いです。ちなみに記録者は精神年齢だけは永遠の15歳ですが世間的にはとっっっっくに成人してますのでノープロブレム」
 おふたりとは背中合わせの席から取材用のICレコーダーにがなりたてつつ、記録者はリアルタイム取材を開始する。
「さて。パーラー違いにも気づかずというか、まぁいいかという案配で、さりげに大物ぶりを発揮し初パチンコに挑戦することになった簪さん。機械の使い方がまるっとわからないので、ひととおり誓さんから手取り足取りご指導いただいた模様です。そんでもって誓さんの鋭いチェックにより今の台を選んだわけですが……、ああこれ、10年以上前に一世を風靡した人気アニメの台ですね。ざーんこーくなてんしのように〜♪ あんまり歌うと著作権的にナニがアレなのでほどほどにしときますが」
 記録者の独自調査メモによれば、この機種の大当り確率は1/346.8、大当り時の出玉は約1500個、確変突入率は65%といったところである。何をどう取材したかはヒミツ。
 しばらく打ち続けていた簪さんは、やがて、ふぅとため息をついた。
「……なかなか、難しいものですね」
 玉は次々に機械に吸い込まれていく。
 今のところ、リーチを意味するムービーが何度か流れてはいるものの、まだ大当たりにつながってはいない。
 画面に現れた「あんたバカぁ?」が口癖の少女キャラクターは、 とうとう「あ〜あ、ハズレばっかでつまんない」と呟いた。

 ……ん?
 ちょっと待って、今の台詞。
 メモを見直して、記録者は息を呑む。

【あ〜あ、ハズレばっかでつまんない………大当たり確定時の台詞】

「ああああ、当たってます当たってます簪さん。来ますよ来ますよどどーんと。誓さん誓さん、店員さん呼んで。この台、大当たりだから早めにドル箱持ってきてもらったほうがいいわよ早く……って、誓さんとこも確変確定の4号機リーチがきてるじゃん! わかった店員さんは私が呼ぶからふたりは台に集中して。店員さーーーーん!!!」
 ご本人たち以上にエキサイトした記録者は、もう取材どころではなくなった。
 そして、何が起こったのかわからずに首を傾げる簪さんと、余裕の笑みで打ち続ける誓さんの傍には、ドル箱がどどどどーんと積み上げられていき――
 
 やがて、青ざめた店長が、ふたりにそっと近づく。
「申し訳ございませんがお客様。今日はこの辺でご勘弁ください……」
 簪さんと誓さんは、分厚い金一封入りの封筒を押しつけられ、お引き取り願われてしまった。
 どうやら、凄腕のパチプロと勘違いされたらしい。

  ○  ○○  ○○  ○……○

 んで。
「どうして追い出されてしまったのでしょう。少しだけ、コツがわかりかけてきたところだったのですが」
「そうだねぇ。もの足りないよね」

 というわけで、2軒目。
 おふたりが向かったのは、「パーラー・ポジティブパワー」という、無駄にハイテンションになりそうなパチンコ店だった。
 こちらでも、銀竜伝説で打った台と同機種のものを試してみたところ。

 またしても。
 大フィーバーだったのでありました。

【じゃあ、さよなら………大当たり確定時の台詞】※零号機の操縦者の少女
【風呂は命の洗濯よ………大当たり確定時の台詞】※女性戦闘指揮官
【劇場版も宜しく!………大当たり確定時の台詞】※主人公の少年

 そしてまたまた店長が土下座せんばかりの涙目で、
「あの……。名のあるプロのかたとお見受けしますが、どうかお許しを」
 謝金入り封筒を差し出されてしまったのである。

  ○  ○○  ○○  ○……○ …○ ……○

 3軒目。
 銀幕市限定の最新機種が多種揃っている『パーラー銀幕大戦』にて。
 
 確変確定のテオナナカトル降臨イベントムービーや、親衛隊『漢魂』の切り込みシーンムービー、大当たり確定時の台詞「この戦いに大義はあるか」「その心に正義はあるか」をまるっと堪能したあたりで、記録者は気づいた。

 常々、おふたりは、具体的にどのようにして生計を立てているのだろうと思っていたのだが。
 ……なるほろ。
 ここ一番のギャンブルに強いのですね。

 そおっとこちらを伺っていた店長が、ガクガク震えながら腰を上げる。
 どうやらこの店を追い出されるのも、時間の問題のようだった。

 
 ――Fin.

クリエイターコメント おっっまたせいたしましたァァァー!
「ただれた大人を見守る感じ」とは素晴らしい表現。PLさまの突き抜けた大人ぶりをぎゅんぎゅん感じるオファーでございました(親指立てながら)。小ネタ満載でお送りしました。
 ただ、この記録者、典型的なダメな大人でございまして、見守るというよりはおろおろくっついていっただけのような気がします。
 これからも物陰からつきまといます。ギャンブルが強い殿方って素敵。
公開日時2009-01-11(日) 11:20
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