★ 際会 ★
クリエイター木原雨月(wdcr8267)
管理番号314-7051 オファー日2009-03-13(金) 22:33
オファーPC ミケランジェロ(cuez2834) ムービースター 男 29歳 掃除屋
ゲストPC1 昇太郎(cate7178) ムービースター 男 29歳 修羅
<ノベル>

 芸術を司る神がいた
 女神アテナの仔神
 神は見る者すべてに感銘を与え、時には奇跡さえも起こした
 神は芸術を司りながら
 芸術を神とした

 時はルネサンス
 神族はその生涯のうちにただ一度きり、人間界へ降りることを許されている
 芸術の神はとある画家として人間界へと降りた
 美醜にのみ執着する神は気難しく、かっとなりやすい性質であった
 取り掛かるに時間を多く費やし
 しかし着手すればたちまち素晴らしいものを世に送り出した
 それには誰もが感銘し涙した
 やがて彼は人間としての生涯を終え
 天界へと戻った

 それから時が過ぎること幾星霜
 芸術の神はとある街にその眼を留めた
 荒々しくも繊細
 静かながら激しい
 美しく汚らしい

 芸術の神は、この穢れた街を愛した

 下界に降りるは一度きり
 それが神の決まり事
 破ればその身を焼き尽くし
 その背の翼を焼き尽くし
 二度と空へは還れない

 それでも神は、舞い降りた
 天界の門をくぐる時
 その背の翼は焼け爛れ
 その身は神ではなくなった

 神は堕ちた

 天空に住まう神々は
 歴史を変え
 堕ちた神の名を消した
 空席を埋めるべく創り出された芸術の神
 だが堕ちた芸術の神には遠く及ばぬ

 悠々自適と下界を楽しむ堕ちた神
 戸惑いもあれど
 一度でも美しいと感じたモノの価値は揺るがぬ
 醜さもまたその一部
 堕ちた神は人間を愛した

 怒り狂った神々は
 その堕ちた穢れを滅すべく
 天の軍勢を送り込む

 堕ちた神は軍勢に向かう
 ただひとり
 鋭き爪が頬を掻き
 鋭き刃が身を刺し貫くとも
 決して折れはしなかった
 血を吐き
 眼が翳み
 稲妻が突き抜けようとも
 決して
 決して

 そして



「……ンだ、こいつァ」



 堕ちた神は、異なる世界へやってきた。
「くそったれがァ!」
 ミケランジェロは仕込み刀を振り回した。しかしそれは空しく宙を掻き、身体を支えきれずに罅割れた床に頭から突っ込んだ。
 口の中に錆びついた鉄の味が広がる。じくじくと腹の傷が疼き、低く唸って体を丸めた。
 ──此処は何処だ。奴らは何者だ。
 疑問は次から次へと浮かび上がるが、痛みと熱に思考は霧散していく。
 ──何故傷が塞がらない。
 ミケランジェロは驚愕と痛みでただ歯を食いしばるしかなかった。
 彼は、神に属する。通常では計り知れないほどの回復力を持っているのだ。それ故に、つい先程まで天の軍勢と渡り合えていたのだ。しかし見知らぬこの場所では急速に体は重くなり、傷が塞がるどころか蓄積され、今にも意識を失いそうになる。
 耳障りな奇声。紫暗の瞳を向ければ、翳んだ先に白い翼が見える。それは天使だ。ただし、その姿は神々しいであるとか愛らしいであるとか、そういったものはまるで無い。濁った赤の瞳が爛々とし、手足は骨に皮を被せただけのように干涸らびている。腕は奇妙にねじくれ、或いは長く、鋭い爪が伸びており、剣を握っている。発せられるその声は頭を揺らし吐き気を覚えた。およそ天使と呼ぶには似付かわしくないが、その翼だけは何故か純白で、それは異形の天使であるという認識に陥った。
 喉が酷く熱い。
 胸が焼けるように痛み、視界が白んだ。
 剣が、爪が、倒れたミケランジェロを容赦なく襲う。立ち上がろうとしたが、体は重くまるで言う事を聞かなかった。血を吐き、ただ頭を抱えて転がった。
 ──死ぬのか。
 ふとそんな事を思った。
 堕天したとはいえ、彼が神である事に変わりはない。しかしそれでも、ミケランジェロはそれを感じた。
 揺らぐ紫の瞳に、耳まで裂けた真っ赤な口が嗤いながらその爪を突き立てようとする姿が映る。死ぬのか。そう、思い。
 視界から、異形の天使の姿が消えた。
 ミケランジェロは目を見開いた。
 翻る赤紫。
 揺れる白銀。
 煌めく細身の西洋剣。
 それが眼前の異形を貫いたのだと気付いた時には、それは異形の天使の群れへと突っ込んでいた。
 右手に刃が潰れた日本刀。左手に細身の西洋剣。それは青年のように見えた。青年は群がる異形の天使共を二刀の元に叩き落としていく。人間では有り得ないそのスピードと破壊力に、ミケランジェロは我知らず震えていた。それは、恐怖からではない。その、あまりに凄惨な戦いに、言葉を失った。
 異形の天使の腕が刎ね飛ぶたびに、青年の頬が切り裂かれる。
 異形の天使の足が刎ね飛ぶたびに、青年の腕が千切れ飛ぶ。
 異形の天使の首が刎ね飛ぶたびに、青年の胸が血を噴き出す。
 ミケランジェロは藻掻いた。
 このままでは、青年は死ぬ。
 こんなところに、居合わせたが為に。
「……逃げ、ろ」
 舌が喉に張り付いたかのように、上手く声が出ない。
 青年に声は届いていない。 
 ミケランジェロは苛立った。
 また青年から鮮血が迸る。
「俺のことなんざ放っとけ! てめェはさっさと逃げろ!」
 叫んだ。
「放っておけるか!」
 強い意志。
 ミケランジェロは驚き、しかし次の瞬間、また言葉を失った。
 青年の、その腹に。
 深々と異形の天使が剣を突き立てた。
 叫ぶ。
 それとほぼ同時。
 高く高く澄んだ、悲痛な声が響き渡った。
 なに、と探す余裕はなかった。
 高く澄んだ声に応じるかのように、青年の体がそれこそ驚異的なスピードで再生していく。切り裂かれた頬も、千切れ飛んだ腕も、ただ引き裂かれた服だけが、そこを確かに斬られたのだと記憶し、彼の体は何事もなかったかのように駆け出した。
 襲い来る異形を転がって避け、落ちた剣を拾い様に振り上げる。一匹。振り下ろし、二匹。奇声と共に降下してきたモノに剣を突き上げ、三匹。鋭い爪が肩口に突き刺さる。剣を引き抜き、異形を振り落としながら四匹、五匹。
 それはまるで、荒々しい舞いを舞っているかのような姿だった。
 鮮血が青年を彩りながら舞い散る。
 ミケランジェロは歯噛みした。
「逃げろっつってんだろ、この馬鹿野郎が!」
「このまま死ぬっちゅうんか!」
「そりゃこっちの台詞だ、馬鹿野郎!」
 青年は、剣を振るう。
 舞うように、二刀の剣を鮮やかに扱う。
 しかし、他人には死ぬなという彼のその戦い方は、あまりに捨て身である。
 避けようとしないのだ。
 爪を突き出すをこれ幸いと言わんばかりにその身に受け、その首をはね飛ばす。空を飛ぶ異形共は重力を味方に急転直下し、それを避けもせずに剣を横薙ぎにしてその腕を飛ばすは良いものの、止まりきらぬ剣を肩口に突き刺す。群れの中に飛び込み、剣を爪を槍のように受けながら、それらを斬り捨てる。その度に、あの高く澄んだ痛切な泣き声がし、驚異的な早さで体の傷が癒え、そしてまた同じ事を繰り返す。
 ミケランジェロは唇を噛んだ。
 自分を守ろうと、死なせはしないと強固な意志で反論しておきながら、自分の身を捨てたがる青年に苛立った。
 いや、それ以上に。
 目の前で青年が何度も何度も崩れ落ち、再生し、戦っている中で、何も出来ずにただ這い蹲っているしかない自分に、自分の無力さに苛立った。
 唇を噛み、ただ眼を開き、拳を握る力しか残っていない。
 腹の底から叫びたかったが、喉が焼き切れてしまったかのように声を出すことすらままならなかった。
 青年の腕が、また飛んだ。鮮血を撒き散らしながら、音を立てて握っていた刀が床を叩く。青年に異形の天使が迫り。青年の体が、まるで紙切れのように吹き飛んだ。叩き付けられた衝撃で天井まであるステンドグラスが割れ落ちていく。
 ミケランジェロは目を見開いた。
 青年はまるで神の生け贄に差し出されたかのように。
 彼の十字架に磔刑とされた。

 咆えた。

 降り注ぐガラスに体中を引き裂かれながら、ミケランジェロは溢れ出るそれを“絵の具”とした。
 激しい吐き気と目眩に意識が吹き飛びそうだ。
 それでもミケランジェロは“絵の具”を掻いた。
 掻いて、掻いて。
 咆え。
 地獄の業火と耳障りな絶叫を聞きながら、世界は暗転する。


  ◆ ◆ ◆


 風がさわさわと流れていく音がする。瞼を通して眩しい光が差し込んでいる。ミケランジェロは眼を覚ました。
 気を失っていたのか。
 ぼんやりとした頭でそんな事を思って、唐突にあの異形の天使の群れを思い出す。
 飛び起きた。ずきりと腹が痛み顔をしかめたが、どうやら傷は塞がっている。再生能力が戻ったようだ。
「眼ぇ覚めたな」
 声に、ミケランジェロは振り返った。そこにはあの、左の髪の一房だけが白銀に染まっている青年。その肩に、金色の鳥がちょこんと乗っている。
「おまえ」
「ありがとうな」
 そう言って笑う青年は、まるで少年のように見えた。
「あァ?」
 思わず口を突いて出たのは、悪態で。思い切り眉間に皺を寄せていたのだろう、青年は軽く頭を掻いた。そこで初めて、ミケランジェロは青年が緑と銀のオッドアイである事に気付く。
「ハザードに巻き込まれてるよって、助けるつもりが最後は助けられた。ありがとう」
 奇妙な訛りのある青年は、そう言って踵を返した。
「おい、待てってコラ」
「此処の事なら、対策課に行くとええ。市役所ん中にある。俺も最近、実体化したばっかりじゃけぇ、よぉわからん事が多いんよ」
 屈託無く笑って、青年は去っていく。
 ミケランジェロは呆然と、ただその背を見送った。

 ミケランジェロが青年──昇太郎と再び目見え、背中合わせに立つのは、もうしばし先のことである。

クリエイターコメントお待たせ致しました。
木原雨月です。

この度はお二方の出逢いに立ち会わせていただけた事、大変嬉しく思います。
色々と悩んだ末に、芸術の神様視点で書かせていただきましたが、いかがでしょうか。また、捏造歓迎との事でしたので、芸術の神様視点にしたことも相まって思わず暴走してしまい……
ただただ、お気に召していただければ幸いに思います。

何かお気づきの点などがございましたら、遠慮無くおっしゃってくださいませ。
この度はオファーを誠にありがとうございました!
公開日時2009-04-11(土) 14:00
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