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<ノベル>
クリスマスツリーの森に踏み込むと、やわらかな雪の感触がクッションのように足裏を支える。
空からはきらめきながら雪片が降りそそぐ。
視界がさえぎられる程でもなく、かといって雪が降っていると気付かないほどでもなく、ゆっくりと。
まさに完璧なクリスマスの光景そのものだった。
さて雪だるまづくりに取り掛かろうとしていると、クリスマスツリーの森にふさわしくない、実用一点張りの野暮なミニバンが森の入口に停車した。
降りてきたのは植村だ。
雪が積もっていてもこの森は不思議と寒くないので、結構薄着である。
植村は慌ただしげな足取りで貴方に近寄ると、
「ひとつ伝え忘れていました。この森が実体化したということは、『アレ』も可能なわけですよ」
「……『アレ』?」
貴方はこの森の原典たる映画についての記憶をたどる。
だが、思い出すまでもなく、植村は映画のクライマックスの一場面の、ナレーションをすらすらと暗唱して見せた。
クリスマスツリーの森で みんなはスノウマンたちといっしょに
テーブルをかこみます
テーブルはおおきな木の切り株 このテーブルにのせたお料理やおかしは
ふしぎなことに
どんなに大勢でわけあっても みんながじゅうぶん食べられるぐらいの量に
いつのまにか増えているのでした……
「せっかくのクリスマスツリーの森ですから、フル活用して皆さんで楽しんでいただければ、と思いまして」
植村がちょっと照れくさそうに付け加える。
切り株のテーブルはビッグツリーから少し離れた場所にあった。
◆
そんなめるへんちっくな背景に、似つかわしいような似つかわしくないような一団が、まっ先にテーブルに陣取った。
ギャリック、ブライム・デューン、それにルークレイル・ブラック。ギャリック海賊団の三名である。
赤毛の隻眼、おまけに海賊帽を斜めにかぶったいかにも海の暴れ者といった風情のギャリックが、「「「だんっ!!」」」とテーブルにどくろマークの黒い瓶を置く。
「さあ、飲むぞ野郎ども!このキャプテン・ギャリック様が持ってきたのは、海賊ビールだ!しこたま酒が飲めて騒げるなんて、こんな幸せな事はねぇな!」
がっはははと同じく切り株のテーブルにいったお嬢さんに勧めるが、そのお嬢さん……森砂 美月は首を横に振る。
「私‥‥お酒はちょっと」
見るからに儚げタイプの美月はピンクを基調にしたロリータファッションに身を包んでおり、クリスマスの森にいるとまさに絵本の登場人物が抜け出したようだが、酒の誘いは断固として拒否するのがポリシーだ。
防衛本能からか、強要されたら15分ほどフリーズしたのち倒れてしまう伝説のお嬢様体質なのだが、幸いなことに赤毛の海賊は意外とフェミニストであり、無理強いはしなかった。
「じゃ、そっちの嬢ちゃんは」
と、進められたのは茅ヶ崎 ありさ。まだ未成年だからと断ると、ギャリックは、
「おっと未成年の飲酒はこの街じゃ禁じられているんだろ?残念だったな。はっはっはっ、その分この俺が飲んでやろう!」
豪快な飲みっぷりでぐいぐいとビールをラッパ飲み。
その連れであるルークことルークレイル・ブラックの飲みっぷりもまた凄い。
「おまけにこのテーブルに置いてある限り、何人分でも分け合えると来た。結構な話だよな、団長」
まるで水を飲むようにクイクイと飲みあげてゆく。
しかも、どこから酒が出てくるのやら、ルークの袖から襟からズボンのポケットから、いくらでも酒びんが手品みたいに出てくるのだ。
「ぷはっ、うめぇ」
ギャリック達の飲みっぷりがあまりにうまそうなので、酒好きらしい他の市民たちが寄ってきて味見をしたいと申し出る。
「おう。飲め飲め」
ギャリック、気前よく注いでやる。
「ドクロマークだから一瞬劇薬かと思ったけど、地ビールぽくてうまいよこれ!」
盛り上がってるところへ、佐藤 きよ江おばちゃんが割って入る。
「あらあらあらあら、お酒飲む時は何かおなかにたまるものを食べないと、悪酔いするじゃない。これ食べて? いーのいーの、遠慮しなくっても。夕飯に大根と豚バラの煮物炊いたんだけど、作り過ぎちゃって。今日は主人が忘年会で夕食いらないって言ってたの、すっかり忘れちゃってたのよ〜」
しょうゆとだしの香り漂う鍋を、長身の男衆で存在感もただならぬギャリック海賊団をおばちゃんならではの遠慮のなさでよいしょとかきわけて、どんっとテーブル中央に置く。
ついでに中央の椅子も占領だ!
きよ江母さん、美月の持ち込んだお菓子と紅茶、ありさの持ち込んだブッシュ・ド・ノエルを鋭くチェックし、
「飲み会だからって甘いものばっかり? これじゃあ胃腸に悪いわよ。最近の若い子はねぇ〜」
しかし煮物を無理やり食べさせられた美月やありさが味を褒めると、とたんに上機嫌に。
「こういう、おふくろの味のわかる若い子っていいわねえ〜。しっかりしてるじゃない」
対抗意識でもあるまいが、ブライム・デューンが自作の創作ブッシュ・ド・ノエル、フランスパン、ピザ、そしてドルチェの数々をだんっとテーブルに差し出した。
ありさが興味深げにブッシュ・ド・ノエルを見て、
「あ……私もブッシュ・ド・ノエルを持ってきたんです。スポンジはアーモンド入りのココア生地で、クリームはガナッシュと生チョコレートのを」
「俺のはプラリネクリーム、飾りはイタリアン・メレンゲだ」
「あとでレシピを聞いてもいいですか?」
「もちろんだ」
見た目がちょっと「男の豪快料理!」ふうで、ピザの具なんかも「どどーん!」と盛り上げられるだけ盛り上げた感じなのだが、ブライムの料理はけっしてまずくはない。
手料理も種類豊富だし、もしかしたらこの人食通? なんて思ってしまいそうになるが、実のところブライム、クールな外見に似ずわりと無節操になんでも食べる人らしく。
「おいっ、大飯食い。てめぇ、フランスパンに大根のせて食ってんじゃねぇよ」
酔いがまわって口調がラフになってきたルークに突っ込まれていたりする。
しかしブライムもしっかり、切り返している。
「団長、あまりルークに飲ませ過ぎるなよ。こいつ、たださえ方向音痴なのに酔っぱらったら寝床に帰りつけなくなる」
「何ぃ!?」
海賊たちの口論は、まあ親しい間柄の軽いジャブみたいなものだろう。
「あの……このお菓子、賞味期限近いのだけど、かまわない?」
美月の差し出した残り物のお菓子もブライムはしっかり食す。
そのお菓子、美月がスクールカウンセラーとして勤務する綺羅星学園の相談室に、訪れる相談者たちをリラックスさせるために常備しておくものである。
その間に、スパイシーな香りがテーブル周辺に漂いはじめ。
「おい、『GORO』の出店もあるんだってよ!」
テーブル周辺の市民たちが持参の手にスプーンや皿を持って、いい香りの元である、槌谷 悟郎の持ち込んだ大鍋の前に行列を作る。
「何を持ってこようか考えたんだけど、やっぱり一番得意な料理にしたよ。ちょっと辛口だけど、よかったら食べてみてくれ。サフランライスとナンも用意したからね」
行列する人々にカレーを忙しくよそう一方、手際よく雪の中にシャンパンの一瓶を埋めて冷やしていたりする。
かつては冷徹な仕事人間だったとは信じられないほどの、こなれたパーティーホストぶりだった。
そんなカレーももちろんブライムは食す。3人前ぐらいはしっかり食す。
酒席が急ににぎやかになったのは、旋風の清左が和風ローストチキンを持ち込んで参加したのと、赤城 竜が「日本酒、気合、無礼講の精神」という、日本人の宴会にとっての三種の神器を持参して参加したため。
「っいっやあ、盛況で結構、結構! まずは駆けつけ三杯っ!!」
赤城はごっきゅごっきゅと大ジョッキを飲み干し、ついでに、
「では景気づけの一発芸っ!」
「うぉおぉぉ、すげえ!!」
スーツアクターならではの運動能力でバック転を披露して宴会の盛り上げにこれ務め、大喝采。
江戸時代末期の人間である旋風の清左はクリスマスというものがどうにも解せない様子で、
「伴天連の仏さんか何か生まれたんだか死んだんだかの日と聞きやしたが、宴会をするもんなんですかい?」
と、周囲に質問する。
「えーと、確かこの日にセント・ニコライとやらが死んだんだ」
「違うだろ、団長。キリストの野郎が水の上を歩いた日じゃねえか?」
賑やかにちぐはぐトークなギャリック海賊団の面々。
スクールカウンセラーという職業柄か、美月がきっちりとイエス・キリストの誕生日を祝う日だと教えて事なきを得たが。
そこへきよ江母さんが割り込んで、息もつかせぬマシンガントーク。
「キリストさんって何でもマリア様が結婚もしない清い体で生んだっていうじゃない? 似たような話がご近所でもあったのよ、結婚して半年で赤ちゃんが生まれてね、『奇跡です!』って言い張ってる若い奥さんがいるのよ〜。奇跡じゃなくてできちゃった婚よねぇ、これは」
どこへ話持っていくねんと突っ込むスキさえ与えぬマシンガントークである。
美月はアルコールの飲めない人用に、と植村が置いて行ったノンアルコールの炭酸飲料をつつましく飲みつつ聞き上手を発揮しているが、そのせいかきよ江母さんのマシンガントークが加速しまくるのであった。
「まま、細かいことは気にするなっ! 今日は楽しく飲むっ!」
赤城はといえば仏さんの誕生日と宴会の関係性が腑に落ちないといった表情の旋風の清左にビールを勧め、ルークの飲みっぷりが気に入ったといっては肩を組んでデュエットに誘う。
カオスな状況下、しとやかなガールズトークもひそかに進行中である。
「このブッシュ・ド・ノエル、美味しいわ」
美月がありさの持参したケーキを褒めると、ふとありさの美しい顔に影がさした。
「本当は、彼のために作ったんですけど……すっぽかされちゃいました」
怜悧な美貌と完璧なボディラインを持つありさだが、涙ぐみながらそんな言葉を口にすると少女のように無防備に見えた。
「そう……だけどこんなにおいしいケーキをみんなで分け合おうとここへ持ってくるなんて、ありささんは優しいわ」
美月は恋愛相談は苦手だが、落ち込んだ同性を励ますことなら申し分ないスキルがある。いかんなく美月がそれを発揮したせいで、どうやらありさにも笑顔が戻った。
「嬢ちゃん方、あっしの和風ローストチキンの味見もしておくんなせぇ」
旋風の清左がゆずの香りを漂わせつつ、手造り料理を運んでくる。
あっさりした味付けが好評で、皆の褒め言葉を聞いた旋風の清左、まんざらでもなさそうだ。
「味の秘訣? そんな上等なもんはありやせんが、醤油と味醂と蜂蜜に漬けこんで味をつけ、あとはゆずの皮を散らして焼くだけでござんすよ」
料理に興味があるらしいありさはレシピをメモっている。
旋風の清左もまた、ほかの人たちの持ち込んだ料理に興味があるらしく、
「この『ぴっざ』ってぇのはどうやって作りやすんで?」
等と、熱心に質問している。
無数のクリスマスツリーを背景にした宴、というファンタジックな条件もあいまってか、男たちはいつしかそれぞれの夢を語りはじめ。
「海に沈んだ財宝もだが、地の底に眠る財宝を見つけ出すってのも悪くねぇな。暗い土の底で、宝石や金貨が太陽の下でぎらぎら輝きたいって、俺に呼びかけてる気がするぜ」
熱く語るのはルークだ。
同じ海賊団に属するくせに、ブライムは淡々としている。
「お前はどうなんだ? かなえたい夢とか、やりたいことがあるだろ?」と話を振られ、
「風呂」
答えてかっくんと皆を脱力させる。
「俺は、そうさなあ……今日は綺羅星学園の騒動だのなんだの不安な事は、今日ぐらいパーッと忘れて楽しもうと思って来たんだが……忘れたい出来事がないくらい平和になればいいな、なんてな」
豪快一直線の赤城が、ふと柔らかい表情を見せたり。
「そっちの連中、サフランライスのおかわりはどうだい?」
槌谷 悟郎がひょいと顔を出し、
「おや、かれぇ屋の親分さん。こんな日まで忙しく給仕するこたぁない、さあお掛けなすって」
旋風の清左に椅子を勧められる。
「……おっと、今夜はわたしもお客だったね」
苦笑して、座った悟郎は、冷えたシャンパンの瓶を開けようとして、
「そういえば、呑みっぷりのいいもう一人の海賊さんはどうしたんだろうね。ほら、黒い服の」
「『この森にもお宝が眠ってるに違いない!』って、どっか行っちゃったわよ」
と、目一杯トークしながら決して他人の動静を見逃さないきよ江母さん。
しかしそこへ、スノウマン1号が、皆の祈りによって命を持って動き出した雪だるまたちをつれ、宴に乱入。
「皆さ〜ん、ボクにもこんなにたくさん友達ができたんです! みんなで乾杯したいんですけど、いいですか?」
切り株のテーブルにいた面々も、急きょスノウマン1号の友達たくさん出来た祝いのために、グラスを持って起立する羽目に。
そしてかの、スノウマン1号が生まれるもととなった映画のワンシーンのように、切り株のテーブルを囲み、人も雪だるまも入り乱れて、ルネッサ〜ンス、♪と乾杯するのであった。
●つはものどもの夢のあと
お話変わって、宴の翌朝。
(ケーキづくりって、結構ストレス解消にいいかも)
おしゃべりと大勢での食事で心癒されて、眠たげな表情で帰宅してゆくありさ。
美月は夜明けに帰途につき、途上で痴漢にあって必殺シャイニングウィザードで撃退したとか、しなかったとか。
クリスマスツリーの森にあるはずの財宝を探し出す、と行方をくらましたルークは……
「ここの出口ってどっちへ行けばいいんだ?」
恥を忍んで、森であそんでいた小さな雪だるまの兄弟に道を尋ねていた。
つまり迷子。
雪だるま兄弟、顔を見合せて、
「つまり、みちがわからないんでしゅかー?」
「おとななのに、まいごでしゅかー?」
「う、うるせー!! 火ぃつけて溶かすぞてめぇら!」
切り株のテーブルの一隅には、酔いつぶれて爆睡中のギャリック船長と、そして……
「……でね、四丁目の竹下さんのね、お姑さんがキツイ人だったのよ。……ってあんた、話聞いてるっ!?」
爆睡中の船長をゆっさゆっさとゆさぶり起こしつつご近所の噂をマシンガントークし続けているきよ江母さんがいた。
佐藤きよ江、47歳。ある意味最強。
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クリエイターコメント | はう……書いてるうちにごっついおなかすいた……
きゅるきゅるきゅると鳴く腹の虫に悩まされつつ小田切がお届けいたしました。
※このパーティーシナリオは、イベントに関連した特別なシナリオですので、ノベルの文字数が規定以上になっています。 |
公開日時 | 2008-12-28(日) 10:40 |
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