★ 暴走電車! 閉じ込められた美女30人を救え! ★
<オープニング>

 5才ぐらいの女の子が、わんわんと泣いている。
 オウ、ガール、泣きやんでおくれよ。そう言いながら大柄な映画監督、ロイ・スパークランドは困ったように少女の前に座り込んで背中を丸めている。そばには銀幕ジャーナルの七瀬灯里の姿もあって、二人の大人は、半ば焦ったように少女に話しかけている。
 彼らは電車の駅にいた。とはいえ、そこは電車よりもトロッコが走る方が似合うような場所で、まるでアメリカの鉱山のような雰囲気の駅であった。それもそのはず、このホームは映画撮影のセットとして使われていたもので本物ではない。
 背後には杵間山。正面には大海原が広がっている。断崖絶壁の駅。
「大丈夫、君のお姉ちゃんは絶対に戻ってくるから。だから、お兄ちゃんに何があったのか話してくれないかい?」
 ロイが必死にそう言うと、ぐすんぐすん、と鼻をすすり少女はようやく泣きやんだ。
「お姉ちゃんを助けてくれるの?」
 二人の大人がうなづくと、少女はじっとその顔を見上げて、おずおずと話をはじめた。
「あのね……あたしとお姉ちゃんは、電車に乗ってたの……」


 ★ ★ ★


 まるでオリエント急行のような、レトロな列車の中は香水の匂いにあふれていた。
 五輌編成の電車ながら、その客席を埋め尽くすのは女、女、女。皆、自分の美貌を武器にするモデルや女優などの若い女性たちである。
 ゴージャスなカウンターバーのついた車両の中で、ある者はグラスを傾け、ある者は手鏡で自分の美貌をチェックしている。
 そして、かしましくも美しい彼女たちは、口々にこれから行われるイベントのことを話していた。
 すなわち「ミス・銀幕コンテスト」のことである。
 それはいわゆる美女コンテストであり、映画のまち・銀幕市の観光キャンペーンのシンボルとなる女性を選ぶコンテストであった。今回はムービーハザード後の初開催ということもあって、例年に無い盛り上がりを見せていた。
 毎年、この杵間山の麓にある撮影所付近で行われるのだが、今回は趣向を凝らして映画のセットさながらの急行列車に乗って杵間連山をぐるりと回って、最上層の駅舎に向かうことになっていた。
「あら、ここって、こんな風景だったかしら?」
 異変に気付いたのは一人の女優だった。彼女は一度この列車に乗ったことがあるのだ。何人かが同調する。列車は山の中に入っていくはずが、海沿いの線路を走っている?

「さあて、楽しんでるかい? アバズレども」

 その時、車両のドアを開けて中に入ってきた者がいた。ダブルのスーツを着た背の高い東洋人の男と、紫色のチャイナドレスを着た眼帯の女である。言葉を発したのは女の方だ。
 女たちのお喋りが、フッとやんだ。
「ミス・銀幕コンテストなんて、クソくだらないイベントはお開きだよ」
 女は冷たく低い声で言い放った。
「これからは、金燕会主催の暴走列車ツアーの始まりさ。一番すごい悲鳴を上げたアバズレに一等賞をプレゼントしてやるよ。賞品は──」
彼女の手には、いつの間にか黒光りする拳銃が。「この拳銃の弾だよ。さあ、コイツが欲しいのば誰だい?」
 隻眼の女の名は、カレン・イップ。犯罪結社「金燕会」を率いる女ヴィランズであった。
 ざわめきが起こったのは、ほんの一瞬だった。彼女たちは青ざめ、ぎこちなくお互いの顔を見て黙り込む。
 カレンの言葉は、無視するにはあまりに真に迫りすぎていた。彼女たちは一瞬にして悟ったのだ。騒いだら本当に殺される──。

「何言ってるんだ! 出て行け! この列車にはガードマンだって乗ってるんだぞ!」

 そこで勇気ある発言をした者がいた。男の声。それは、この車両にいたバーテンダーの男だった。
 ちらりとカレンは彼を一瞥する。
「サイモン」
 女侠は、そのまま傍らの男の名を呼んだ。男はうなづき、ゆっくりとカウンターの方に足を進める。
「ひっ、ひぃぃ」
 彼の名はサイモン・ルイという。年齢は三十代前半ぐらい。銀縁の眼鏡をかけ、アゴ髭を生やした精悍な容貌の男である。腰まである長い髪を後ろで結び、縦縞のダブルのスーツにワインレッドのシャツ。ベージュのネクタイをかっちりと締めている。どこからどう見てもカタギには見えない。
 バリッ。サイモンは無言で、男と自分を隔てていた柵を蹴り破った。
 彼はそのまま、カウンターの上にあった小型トースターをガッと掴むと、それがつながっていた電源コードを引き抜いた。

「ガードマンというのは、先ほど窓から海へダイブした三人組のことかな?」

 静かな声でサイモン。彼はトースターを右手に持ち、余った電源コードをぐるぐると手の甲に巻きつけながらバーテンダーにゆっくり近づいていく。
 哀れな犠牲者は、やめて、と叫んだ。
 サイモンは彼に凶器を振り下ろす。
 誰かが悲鳴を上げた。
「うるさいんだよ! 黙んな」
 銃声。窓ガラスが割れ、破片が辺りに飛び散った。
 バーテンダーにちょうど五回目の打撃を加えたあと、誰かがすすり泣く声を聞いてサイモンは立ち上がった。右手の赤く染まったトースターを捨てて、泣き声の主を探す。
 居た。窓際にいる少女だ。連れの女の足にしがみつくようにして泣いている。
「葉大姐」
 サイモンはボスを呼んだ。「子どもがいる」
 チッと舌打ちしたのはカレンだ。銃を手にしたまま、彼女は長くため息をついた。
「仕方ないねェ、サイ。お前のそれは病気だよ」
 そうカレンが言うなり、サイモンは軽やかな身のこなしでカウンターを乗り越えると、泣いている少女の前に立つ。
「泣かないで」
 しゃがみ込んで、サイモンは大きな手で少女の頭を撫でてやるが、その手はたった今バーテンダーをしこたま殴りつけたものと同じである。少女はいっそう大きな声で泣きはじめた。
「大姐、この子を列車から降ろしてやってもいいか」
「そう言うと思ったよ。──好きにしな」
 肩をすくめカレンは、そう言うと凄惨な笑みを浮かべてみせた。

「──どちらにしろ、子どもじゃ売り物にならないからねェ」


 ★ ★ ★


「子どもじゃ売り物にならない、そう言ったのかい?」
 ロイが念を押すように尋ねると、少女はうんとうなづいた。
「ロイさん、やっぱり。カレン・イップは何か企んでますよ。30人で身代金の要求が3億円なんて少なすぎます!」
 灯里が息せききったように言う。
「彼女たちに何か危害を加えるつもりですよ、間違いない!」
「なんてことだ! イベントはぶち壊し。彼女たちの命まで危ないなんて」
 イベントのプロデューサーたるロイは頭を抱えた。銀幕市をあげての大イベントがこんなことに。出演者30人が丸ごと人質にされ、身代金を要求されるなんて──。
 ああ、こんな時、映画のように誰かヒーローが現れて助けてくれれば!
 二人は祈るような気持ちで、空と大海原を見つめた。

種別名シナリオ 管理番号122
クリエイター冬城カナエ(wdab2518)
クリエイターコメントこんにちわ。冬城カナエです。
またまたハリウッド系バカアクションをお持ちしました。

杵間山の撮影セットの列車が、カレン・イップ率いる金燕会にのっとられました。
列車は杵間山と海沿いに沿った危険な線路を猛スピードで走っています。
この列車の線路は基本的にはループになっていて、放っておくとずっと同じコースをぐるぐる走ることになるはずですが……。さあこの場合どうなってしまうのかは蓋を開けてみないと分かりません(笑)。

カレンは、銀幕市とコンテスト主催者に対し3億円の身代金を要求していますが、ひょっとすると目的が他にもあるかもしれません。とにかく美女たち30人の命が危険にさらされていることは言うまでもありません。

また例によって例のごとく、
「通りがかって事件に乱入」「たまたま列車に同乗していた」「美女コンテストに出るつもりで同乗」「ロイや灯里から事件を聞いて現場に直行」などなど、ご自由な理由で現場にいらしてください(笑)。

列車は五両編成。真ん中の車両に美女たちは集められています。
プレイングは、潜入の仕方、何をどうカッコ良く決めるのか、どうやって脱出or電車を止めるのか……。そんなところを中心にお願いします。

どういう出番や見せ場が欲しいのかも、書いていただけると助かります。

※今回は雑魚戦闘は少ないかも(笑)。強敵と対決したい方にオススメです。
※サイモン・ルイ以外にも敵キャラ出します。近距離から遠距離までいろいろ。
※サイモン・ルイ含め、NPCデータはサプライズにしたいのでシナリオ完成まで未掲載です。

参加者
ランドルフ・トラウト(cnyy5505) ムービースター 男 33歳 食人鬼
シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
八之 銀二(cwuh7563) ムービースター 男 37歳 元・ヤクザ(極道)
柊木 芳隆(cmzm6012) ムービースター 男 56歳 警察官
ブラックウッド(cyef3714) ムービースター 男 50歳 吸血鬼の長老格
<ノベル>

 
 ──── 駅 ────


 美女たち30人が列車ごと誘拐されてから約20分後。岩肌の見える杵間連山の尾根に、砂埃が舞い上がっていた。雲ひとつない空の下、何かがそこを猛然と駆け抜けていたのだった。
 山を駆けるのは、一人の巨漢。はちきれんばかりの筋肉を震わせ、彼は山肌をひた走った。
 この山を超えれば、あの列車に追いつくことが出来るだろう──。
 彼は駆けた。少女との約束を守るために。

 さて、時刻は数分後に戻る。

 「さあ、涙を拭いて。お嬢さん」
 撮影セットの駅。背後の断崖絶壁を控え、ひんやりした風に頬を撫でられて大人が三人。一人の少女を見下ろしている。その中で、スキンヘッドの男は、背を丸めしゃがみ込むようにしながら、幼い少女に目線を合わせていた。
「私はランドルフ・トラウト、と言います。君は?」
 ニコリと微笑む男、ランドルフ・トラウト。その近寄りがたい外見の通り、彼は『彷徨える異形達』で主演を張るムービースターであり食人鬼でもあった。
 だが、人を喰らう男は今は優しく。事件のあった列車から降ろされた少女に話しかけていた。脇には、ロイ・スパークランドと、七瀬灯里が彼らを見守るように控えている。
 カレン・イップが率いる犯罪結社、金燕会に乗っ取られた列車は今も暴走中だ。一刻も争う状態ではあったが、ランドルフは少女に向かって丁寧に話しかけていた。
 人は見かけによらない──。目の前のランドルフの目を見、そんなことを理解したのだろうか。ようやく、少女は口を開いた。
「わたし、ビー・ビヤワーン。ビビよ」
 ぐすん、と鼻をすすりながら言う。「わたしとお姉ちゃんは、『恋のセパタクロー大作戦』っていう映画に出てたの。名前はモク。……でもマーガレットって名乗ってたから、マギーって呼んであげて」
「マギー、ですね」
 一緒に映画に出ていた、ということは。この少女ビビと、姉マギーはムービースターなのであろう。名前の音感からして、タイ人か。
 アジア人の顔は自分には見分けがつきにくい。注意せねば……。そんなことを思いながら、ランドルフは立ち上がった。
「お姉ちゃんは、おじちゃんが必ず助けますから──」
 弱いものを苦しめ、子どもを泣かせる奴らは絶対に許せない。
「だから、ビビ。君はここにいて。必ずお姉ちゃんを連れ帰ります!」
 ザンッと地を蹴るランドルフ。心優しい食人鬼は、その場から猛然と走り出していた。
 山の斜面を駆け上がる彼の肩の筋肉が盛り上がり、シャツが破ける。彼は食人鬼としての力を覚醒させたのだ。いつもよりも二回りほど大きな身体になったランドルフは、吼えた。自らの高揚に呼応するように。
「あっ、ランドルフさん、待って。今、列車がどこにいるか分かってるん──」
 慌てて灯里が声をかけるも、すでにランドルフの姿は遠くなってしまっていた。「ああ、行っちゃった。大丈夫かな?」

「──ご心配は無用だよ、お嬢さん。彼は動物的とでも言うべきか。非常に感覚が優れているようだからね」

「えっ?」
 その時、耳元で男性の声がして、灯里は慌てて振り向いた。
 しかしそこにはロイが立っているだけだ。
「ロイさん。今、何か言いました?」
「? いや?」
 首をかしげる二人だったが、ランドルフに忠告しようにも彼の姿はとうに無い。一息ついて、二人は彼が走り去った方を見る。ロイが力を込めるように言った。「大丈夫。銀幕市にはたくさんのヒーローたちがいるんだ。きっと女性たちは無事に帰ってくるさ!」
「そうですね。彼らを信じましょう」
 ビビの手をギュッと握りながら言う灯里。
 その上空を、一羽の蝙蝠がひらりと舞い、そしてランドルフの後を追うように飛んでいった。


 ──── 五両目 ────


 手には、アーリー・タイムズのダブルをロックで。シャノン・ヴォルムスは優雅に列車の座席に横になり、周囲の様子を眺めていた。
 もちろん彼はミス・コンテストに出るためにこの列車に同乗していたのではない。
 彼は余暇を快適に過ごすために、この列車に乗ったのだ。SFアクション映画『Hunter of Vermilion』の主人公たる彼はヴァンパイアハンターであり、普段は殺伐とした世界に身を置いていた。だからこそ、余暇は美女に囲まれて、粋に過ごしたい。シャノンはそれを実行したのだった。
 ミス・コンテストに出場する美女たちをいち早く見ようとしたものの。彼女たちの話を聞いていると、何でも“戦闘態勢に入るまでの準備”が必要なのだそうで。しかもそれは殿方には見られてはならないものだそうで。
 仕方なく、シャノンは最後尾の五両目の車両でバーボンを飲みながら暇をつぶしていた。女とは厄介なものだな、とつぶやきながら。
 この車両には身支度の済んだ女が数人居る程度で、静かである。どうやら大多数がバーカウンターつきの三両目に集結し、化粧を直すなどして“戦闘”の準備を続けているようだった。
「ハァイ、浮かない顔ね。アナタ」
 ぼうっと外を眺めていた時、声を掛けられシャノンは急に現実に引き戻された。
 バッと顔を上げると、そこにはやたら体格のいい、東洋系のオカッパ頭の男が立っていた。桜色のワンピース姿だ。目が合って、男はパチと片目を閉じた。それはおそらくウィンクという所業であろうと思われた。
「ほーら。何してるの? 早く着替えないと間に合わないわよ」
「──誰だお前はァ!?」
 思わぬ不意打ちに叫ぶシャノン。
「あら……」
 しかしオカマは動じずに、口元に手をやった。「そんなにキツイ口調で言わなくってもいいんじゃなぁい? わたし、マーガレット。マギーって呼んで頂戴。あなたもミス銀幕・コンテストのお笑い部門に出るんでしょ」
「ハァ?」
「もう、照れなくたっていいのよ、あなた綺麗なんだからぁ。ドレスもきっと似合うわよ。──でもねえ、アタシ負けないわよ。オカマの命は、キャラの濃さなんだから! アタシだって負けないんだから!」
 唐突に現れたオカマに、思わぬ古傷を突かれて、うう、とシャノンは口ごもった。
 どうやらこのマギーというオカマはシャノンも女装してコンテストに出場すると思い込んでいるらしい。それは断じて違うと反論したかったが、脳裏を忌まわしい記憶がよぎり、彼の言葉を封じてしまった。そう、あの『楽園』での出来事だ。
「照れちゃって。カワイイー。アナタって、女王様系が似合いそう──」

 ──ガシャン! 

 その時だった。大きな音をさせて、いきなり車両前方の両脇の窓が割れた。降り注ぐガラスの破片。車内に飛び込んできた黒い影は、3人の黒服の男だった。
 滑り込むように降り立った彼らの手には拳銃。それはアトラクションと呼ぶにはリアル過ぎる出来事だった。
 男たちは見事な身のこなしで、あっという間に体制を立て直すと、それぞれ銃を構えた。
「おとなしくしろ! この列車は我々が制圧した」
「エエーッ! ウソォ!」
 突然の出来事に、両手で口を押さえ、見事なリアクションを見せるマギー。
 しかし、シャノンの身体はトラブルに反応し、動いていた。
 マギーを突き飛ばして反対側の座席に押しやると、座席の背もたれに手をかけて一気に通路を走る! 相手がこちらに銃を撃つ前に間合いを詰めるつもりだった。
「クソッ! 止まれ!」
 ダンッ。一人が撃ったがシャノンはそれも予想していた。軽やかにステップを踏むように脇の座席の方に跳ぶ。翻った彼のジャケットに銃弾の穴。
 キャー、という女の悲鳴。そんなものをバックミュージックに、シャノンは座席の上に両手をつくと前に回転しながら、一番手前の男に見事な踵落しをお見舞いした。ゴッ、という鈍い音がして男が崩れ落ちる。
 それはまさに幾戦もの死線をくぐり抜けた男の身のこなしであった。
 勢いもそのままに、シャノンは二番目の男の脇に着地すると、回し蹴りを相手に叩き込んだ。男は銃を向ける間も取れず、胸に強烈な打撃を受けて後ろに吹っ飛ばされる。
 ──次! シャノンが振り向くと、三人目の男はいち早く間合いを取り、一番身近にいた女を掴まえていた。彼女の首を後ろから閉めながら銃を頭に向ける。
「動くな、この女の命が惜しかったら、おとなしく──ヒ、ヒィヤァ!」
 男は最後までセリフを言うことが出来なかった。シャノンの力ある視線に囚われ、自分の脳が白く侵食されていくのを味わったからだ。男は白目を剥く。頭の中が、白く白く。自分のもので無くなるように。無に還っていく……。
 ゆっくりと後ろに倒れていく男。
「おっと」
 シャノンは人質の女の手をとって、自分の手元に引き寄せた。女優の卵と思われるその若い女は、恐怖のあまり顔を硬直させている。
「やれやれ。トラブルか」
 彼女の目の前で指を躍らせると、ふっとその瞳が閉じる。シャノンは彼女を眠らせてやったようだった。
「俺は、こんなことのために列車に乗ったんじゃないんだがな」
 だが、そう言うシャノンの口元は綻んでいた。


 ──── 四両目 ────


 さて、これは。いよいよもって慎重に事を運ばねば。
 柊木芳隆(ひいらぎ・かおる)は、愛用のシグP230を空撃ちして調子を確かめた後、そろりと実弾の弾倉(マガジン)をセットしていた。
 彼がいるのは、列車の三両目と四両目の間の連結部分である。古風なつくりをした列車のこの部分は屋根もなく、外にむき出しになっていた。
 簡素な鉄の手すりが付いただけの足場に立ち、三両目へと続くドアの窓の脇で。自分の姿が映らないようピタリと壁に張り付いた柊木は、三両目の様子を伺っていた。
 もちろん彼も、ミス・コンテストに出るためにこの列車に同乗していたのではない。
 柊木芳隆は『狼狩り≪外伝≫』という刑事映画に出演していたムービースターであり、銀幕市では“銀幕セキュリティ社”という会社に籍を置いていた。つまり、美女たちを警護するために彼はこの列車に乗っていたのである。
 数分前、彼は、最後尾の車両で紙コップのコーヒーを飲んでいたところ、女の悲鳴と銃声を聞いた。
 そのまま速やかに女性たちが集まっていた三両目に移動しようとして、彼は見たのである。あの金燕会のカレン・イップ本人と部下らしき男が現れ、女性たちを拘束しているのを。
 驚くべき光景であったが、それを見て柊木は瞬時に悟っていた。二両目にいた警備員と“あの男”が無力化されたであろうことを。
 事実、あの男に無線がつながらなくなっている。個人的に協力を頼み、同乗していてもらっていたのだが──。柊木は目を伏せる。今自分に出来ることは、彼の無事を祈り、そして女性たちを安全な場所にまで逃がすことだけだ。
 手早く無線等で情報収集をしたところ、金燕会が市長に対し3億円の身代金を要求していることも掴んだ。3億円が安すぎる、と思ったのは彼も同じだ。
 一体何を企んでいる──? 柊木は中の様子を伺う。
 カレンとサイモンと呼ばれていた男。そしていかにも三下風の男たちが二人、女性たち一人ひとりの親指をプラスチックのヒモで固定していた。
 加えてもう一人。痩せたスキンヘッドの男が現れ、女性たちを見回していた。サングラスをかけ、左手には重そうな銀色のジェラルミンケースをぶら下げている。薄手のよれよれの黒いコートを着、右手の指には碁石のような黒と白の石のついた指輪をはめていた。
「さて、陰陽(インヤン)。どのアバズレがお前の眼鏡に適うんだい?」
 カレンがその男に向かって言った。男は無言でニィッと笑う。
「まあ、焦りなさんな。まずはデータとの照合からだよ、葉大姐」
「5分だけ時間をやる。チンタラしてやがったら、置いていくからね。──それから、サイモン」
 女頭目はきびきびした口調で男、陰陽に言うと、そのまま傍らの腹心サイモンに声をかける。「お前はこの先にいる鼠どもを始末してきな。あたしは二両目にいるから、5分で戻ってくるんだよ」
 こくりとうなづくサイモン。通路に立つ女たちを眼光で退け、こちらに向かって歩いてくる。
 ──まずい。柊木は身を引き、銃を構えた。
 今の話によれば、恐らくカレンの目的は女たちそのものだろうと推測できた。数人の女を選んで連れ去り、自らのブラックマーケットを通じて、彼女たちを犯罪者などに売りつけるつもりなのだろう。
 それにしては、わざわざミス銀幕・コンテストを邪魔するほど、大掛かりな事件にする必要があったのだろうか。どうにも解せないが……。
 ドアを開けに来るサイモンの足を打ち抜くつもりで、彼は引き金に手をかける。
 柊木はそこで、ふと自問自答した。待て、芳隆。今ここでサイモンとやり合うのは得策ではないのではないか。人質の救出を最優先すべきであろう。自分は警察官なのだから。
 彼はパッと列車の側面に飛び移っていた。


 ──── 五両目 ────


 くそ。俺としたことが不覚をとったものだ。
 暴走する列車の外に男が一人。窓の外枠に手を掛け振り落とされないようしがみついていた。このままトンネルや狭いところに入る前に、どうにか中に入らないと本当に振り落とされかねない。
 彼の名前は八之銀二。『大組長-Dai Kumi Chou-』に出演していた元ヤクザである。柊木芳隆に声を掛けられ、警備員としてこの列車に同乗していたのがこのザマだ。無線で連絡を取るにも両手が開かないという状態である。
 自らを叱咤しながら、銀二は先ほどの一戦を思い出していた。

 扉を蹴り開け、突如車内に侵入してきた男。サイモンと言ったか。交わした言葉は短かった。
 ──そこをどいてもらおう。
 ──嫌だと言ったら?
 ──では、次の駅に着く前に列車を降りてもらおうか。
 ──そうかい。最近の車掌さんは荒っぽいんだな。
 手合わせは三回だった。銀二がサイモンの拳をかわし、身を屈めてからアッパーを放とうとしたところで、突然、顔に何かを当てられて彼はバランスを崩してしまったのだった。
 サイモンの背後に、紫色のチャイナドレスの女が立っていた。──カレン・イップだった。彼女が手にしていたキセルを銀二の顔に投げつけたのだ。
 ──卑怯だぞッ!
 しかしその言葉は、彼女をニヤリとさせただけであった。
 銀二の繰り出した蹴りをサイモンががしりと掴んでいた。足を取られた。このままでは足を折られてしまう!
 咄嗟に受け身を取ろうと、身体をよじり、銀二はサイモンの拘束から逃れた。だが彼はそのまま窓ガラスに顔を突っ込んでいた。
 ガシャァンと大きな音をさせて。顔に、身体に、ガラスが降り注いだ。それは彼にとって久しぶりの感覚だった。
 以前は映画の中でいつも経験していたことであり、降り注ぐガラスの破片が彼のヤクザとしての感覚を呼び戻しつつあった。とはいえ、敵は銀二に時間を与えない──。
 サイモンは渾身の力を込めて、銀二の背中を蹴る。
 そうして、彼は列車の外へダイブすることになったのだった。

「さしづめ俺は、退場したはずのガードマン1ってやつかな」
 銀二は、ようやく列車の屋根に登ることが出来た。自嘲気味に言いながらも、うまく屋根の上を匍匐(ほふく)前進で移動しながら、前の車両の方へ移っていく。
 無線も壊れずに使えるようだった。恐ろしいスピードで列車は、まるでグランドキャニオンのような谷へと差し掛かっていた。谷底を暴走する列車は静かな谷に轟音をもたらし、銀二には身を切るような暴風をもたらした。
 彼は目を細めた銀二は、さっそく柊木と連絡を取り合った。
 柊木は、銀二の無事を喜んだ。
「八之くん。今、二両目にカレン。三両目に女性たちが集められているんだが、陰陽という男がそこにいる。五両目の方が少し騒がしいようなんだが、シャノンくんが乗っていたから、今誰かと交戦中なのかもしれん。しかし優先すべきは──」
「分かってるッ。人質の安全確保が最優先だな。では俺は、一両目まで行って列車にブレーキをかけてこようッ!」
 移動しながら銀二は叫ぶように言った。暴風の中で相手の声も聞き取りづらい。こちらの声も届きづらいと思っての配慮だった。
「そうしてくれ。八之くん。君が無事で本当に良かった」
「よし、では柊木君。君も気を付けろよ? モテる男は何かと辛いからな。君は特にあのカレン・イップに目を付けられてるようだ。嫉妬深い女は手強く、怖いもんだ」
「はは。ご心配ありがとう」
 柊木の声は、こんな時でも少しも動揺した様子がない。
「君もそうだろうが、ああいう女は初めてじゃない。まあ、のらりくらりやるさ。……それはそうと、これが終わったら一杯ご馳走するよ。中華料理店で、餃子とビールでどうだい?」
「いいね。俺は黒生と、餃子にはラー油をたっぷりかけてやりたい気分だよ。燕の巣でも何でも、たっぷりと喰らってやるさッ!」
 

 ──ダンッッ!!


 無線で冗談を言い合っていた銀二だったが、その時唐突に目の前に起こった出来事を見て、さすがの彼もあんぐりと口を開けていた。
 いきなり、空から人が降ってきたのだ。それも筋肉隆々の男が、である。
 ほんの数メートル先に、屋根を凹ませて降り立ったのはスキンヘッドの凶相。銀二はその顔に見覚えがあった。銀幕ジャーナルで見かけた顔だ。
「君は、ランドルフ・トラウト君?」
 白目を剥いた状態で、食人鬼は足元の人間を見下ろした。
「女性たちは何処ですか!!!?」
 銀二はようやく落ち着いて相手を見た。ランドルフは自分の足で駆け、この列車に飛び乗ったのだろう。見るからに恐ろしい容貌ではあるが、本来は心優しい男なのだ。
 そしてもちろん彼の言葉には理性があった。銀二は一瞬にしてそれを察し、叫んだ。三両目と五両目にいるようだぞッ、と。
「ここは何両目ですか!!?」
「四両目の上だッ!」
 ランドルフは銀二の答えを聞くなり、吼えながら拳を振り上げた。慌てて伏せる銀二。
 物凄い轟音をさせて、食人鬼は拳で四両目の屋根をぶち破っていた。めり込んだ自分の拳を引き抜き、空いた穴から両手を入れて、屋根をバリバリと引き剥がしていく。
 彼の手にかかれば、鋼鉄の屋根もまるでダンボール紙のようである。そのあまりの怪力に、銀二はランドルフが敵でなくて本当によかったと胸をなでおろした。
「列車の中に侵入します!」
 自分が入ることのできるぐらいの大きさの穴をつくり、ランドルフは飛び降りながら、また叫んだ。
 思わず苦笑する銀二。穴を見下ろし、言う。
「──そういうことは壊す前に言うもんだぞ。ランドルフ君」


 ──── 二両目 ────


「フン、どうせムービースターどもをこっちに遣してんだろ?」
 金魚の絵が描かれた蓋碗を手に、カレン・イップは二両目にあるコンパートメント席(個室)の中で独り。茶を飲みながら、携帯電話を手にしている。
「お役人のお前たちが考え付くことって言ッたら、それぐらいだからねェ」
 会話をしている相手はどうやら、銀幕市の映画実体化問題対策課の課長のようだった。部下たちに現場を任せ、彼女は身代金の交渉を行っていたのだ。
「いいか、あたしが待てるのはあと5分だけだ。今から5分過ぎるごとに女を一人ずつ列車から降ろしてやる。分かってるだろうが、あたしが女を降ろすって言ってるのは、この列車の進行方向に放り出すって意味だ。いいね? 話はここまでだ。わかったらガタガタ抜かす前にあたしの指定した口座に三億円を振り込むンだよ!」
 チン、と蓋碗を置いてカレンは通話を切った。携帯電話を乱暴にテーブルに置くと窓の外を見る。口から出るのは舌打ちだ。
 携帯電話の代わりに片耳にイヤホンを差し込む。そこから流れてくるのは時報である。4分30秒。あと30秒で部下たちが戻ってくるはずであった。
 窓の外の風景は、傾斜の激しい岩山に入っていく。何しろ時間の限られているミッションだ。いつも以上にカレンは焦れたように鼻を鳴らしていた。
 晴れ上がっていたはずの空は、いつの間にか曇っていた。遠くでは雷鳴が轟いている。しかも辺りには霧まで立ち込めてきているではないか。こんなに早く天気が変わってしまうとは。
 おかしい。何かが起こっているのか? と、彼女が思った矢先だった。

「失礼。お嬢さん、ご一緒してもよろしいかな?」

 いつの間にか、コンパートメントの入口に一人の紳士が立っていた。年齢は50代ほど。三つ揃えの古風な黒いスーツをまとい、初夏だというのにさらに黒いコートを羽織っている。
 老吸血鬼ブラックウッド。映画『Blue Blood』に登場し、恐ろしい力を秘めた吸血鬼は、今はただにこやかに微笑み、金燕会の女頭目を見つめていた。
 カレンはスッと目を細める。
「──お前の、ロケーション・エリアか」
 答えず、ブラックウッドは恭しく一礼した。


 ──── 五両目 ────


「なんて強いの、シャノン!? ステキ! アタシあなたのことが好きになりそう!」
「それだけは勘弁してくれ」
「お友達からでイイのよ?」
「断る」

 シャノンは、隣りのオカマに名乗ってしまったことを後悔していた。まったく。何で美女と一緒に過ごすはずのバカンスが、オカマと一緒に銃撃戦に巻き込まれる羽目になるんだか。ワケが分からない。
「この列車の中で何かが起こってる」
 倒した黒服の男たちを縛り上げた後、念のため、シャノンは懐から取り出した拳銃──FN Five-seveNのマガジンをチェックした。
「俺は前の方に行って、トラブルを片付けてくる。マギー、ここに残ってその子たちを見てやってくれるか」
「いいわよ」
 決してマギーと別れたかったわけではない。ここはこの列車の最後尾だ。脱出するにもここが一番良い位置であるし、マギーと三人の女性が一番安全でいられる場所もここだと思われた。
 シャノンは同じ拳銃を両手に構え、四両目へと続くドアを見る。
 その時だった。
 ドアのガラスに影がサッとよぎる。向こう側ではない。ガラスが鏡面となって背後を映したのだ。
 ──後ろか!

 シャノンは振り返り、いきなり撃った。

「キャアア!」
 女三人と男一人が同時に悲鳴を上げる。最後尾の窓ガラスを割り、貫通力のある弾が車両内に惨たらしい傷をつけていく。ダダダダッ。撃ちながらシャノンは、列車の外側を何か小柄な人影が跳ねるように移動している姿を捉えていた。
 一体どういう運動神経をしているのか。人間技ではない。
 影はシャノンの弾をよけ、電車側面に回った。
「伏せろ!」
 反撃が来る──! そう察したシャノンは女たちに向かって叫ぶと自分も移動しながら両手の銃の引き金を引いた。
 窓ガラスが後ろから派手に割れていく。シャノンの弾もそうだが、窓の外を移動する何者かが外から銃で彼を狙い撃ちしているのだ。
「チィッ」
 なかなか正確に狙いをつけてきやがる。ヴァンパイア・ハンターは目を細め、座席の影に隠れながら、床の上をきれいに一回転し、体制を整える。
 起き上がったときには両手の銃からマガジンを落し、素早く新たなマガジンをセットする。
 そのわずかな間の間に、ひときわ大きくガラスの割れる音がし、何かが床に降り立つ音。敵が車内に侵入してきたのか。
 シャノンは音の方向を見、そして絶句した。
 相手は、スコーピオンと思われる小型のサブマシンガンを手にした、詰襟の制服姿の小柄な少年だったのである。
 いや、少年のようであると言い換えた方が良いかもしれない。……というのは、彼の容貌が全く分からなかったからだ。
 少年は頭に、ピンクのウサギのマスクを被っていたのだった。
 能天気に笑っているウサギのマスクは、もこもこした縫いぐるみのようである。まさに異様な風体だ。
 ただしシャノンが、その姿を見たのは一瞬だった。
 パッ。兎頭の少年は横に跳んだ。人間とは思えない身のこなしで、サブマシンガンを構え、雨のような銃弾をシャノンに浴びせてくる。
 しかし、このヴァンパイア・ハンターも人間ではないのだ。カメラに映らないほどのスピードでシャノンは駆けた。通路を走り一気に少年へと間合いを詰める。
 チィッ、と今度は少年の方が舌打ちをした。
 何を思ったか、彼は全く見当違いの方向へ跳んだ。──いや、違う! シャノンは思わず目を見開いた。少年が走る先には3人の女たちとマギーがいる。
「やめろ!」
「──足止めさせてもらうよッ」
 初めて聞いた声はやはり少年のものだった。ドンッと派手な音をさせて、彼は床に膝をつくと、座席の下にうずくまるようにしていた女たちに手を伸ばした。
 どこをどう掴んだのだろうか。それが全く分からないままに、二人の女が宙を舞った。彼女たちは自らが上げる悲鳴とともに窓に叩きつけられた。
 窓ガラスが割れ、女たちの身体が窓の向こうに消えようとする寸前に、黒い手が伸びて二人の身体を掴んだ。
 シャノンだった。
 彼は両手の銃を捨て、手を伸ばして彼女たちを助けたのだ。
「キャハハ! やっぱりそうすると思ったよ」
 嘲笑が背後から聞こえた。そう、シャノンは今、敵に背中を見せているのだ。
 ジャキッ。サブマシンガンを構える音。
「──ご苦労サマ。色男のお兄さん」

 シャノンの背中を、おびただしい銃弾が襲った。
 

 ──── 三両目 ────


 カレンとサイモンが居なくなった後、三両目で起こったことは実に珍妙な出来事だった。目撃者は銃を構えて、潜み続けている柊木である。そして彼と無線で連絡を取り合い、今は屋根の上にいる銀二だ。
「金燕会しゅさーい。車内美女コンテストー始めマース!」
 一人でテンションも高く。意気揚々と声を上げるのは陰陽だ。
 手に持った書類の束は、いずれかの手段によって入手したコンテスト出場者のプロフィールのようだった。
「審査員長の、ボク陰陽は健康的で体力のある女の人が好きデス」
 陰陽の脇には黒服の部下が二人いて、手を縛られ、床に座らされた女たちを見張るように仁王立ちしている。
「ニコラちゃん、ニコラ・ポーリィちゃんはいる?」
 顔写真入りのページを見ながら、彼はたくさんの女の中から該当者を選び出したようだった。一人の白人女性の腕を引いてカウンターの前に立たせる。
「ええと、それから──及川セリアちゃん。エルヴィラ・パデレスちゃん。ンンン、セリアちゃんは顔写真がないから、どのコかボク分かんないなあ」
 陰陽は、もう一人、ヒスパニック系の女性を一人立たせるとぐるりと女たちを見回した。かけていたサングラスを外し、もったいぶった仕草で胸ポケットにしまう。
「さあて、セリアちゃんはだーれ? はい! 返事して」
 女たちは、お互いの顔を見合わせた。当然ながら、恐ろしいのだろう。誰も声をあげようとしない。
「ああっ、もう。じれったいな。時間が無いんだよ。うちのボスがヒステリーを起こしたらどうしてくれるんだよ」
 陰陽はひょうひょうとした口調のまま、ポケットからガーゼのようなものを出すと立たせた二人の女の腕をサッと拭いた。
 その何の脈略もない行動に、物陰の柊木が目を細める。……一体、何をしようというのか。
「ボクは照れ屋さんは嫌いだな。ねえ、君そのコをちょっと立たせて」
 黒服に顎をしゃくりながら、陰陽は懐から何かを取り出す。

 それは2本の注射器だった。

 ひっ。と二人が息を呑むのもつかの間。陰陽は両手で二人の女性の腕に注射器を突き刺した。そのまま一気に中身を注入する。
 女たちは青ざめたが、何か体調が急変するということは無かった。麻薬でも打って無力化するつもりなのだろうか。柊木がそう思ったとき、陰陽は部下が捕まえている女の横に立った。
「はい。よく聞いて。セリアちゃんが名乗り出ないと、このコが死にマス!」
 そう言いながら、チャッ。陰陽はコートのポケットから出した細身のナイフ──外科医用のメスのようだ──を、彼女の首筋にぴたりと当てた。
 彼女は恐怖のあまり声も出ない。シン、と場が静まり返った。
「5秒だけ数えてあげるよ」
 陰陽は本当に時間がないと言わんがばかりに、早々とカウントを始めた。
「5!」
 誰かがピクリと動いた。
「4!」
 
 ──バン! その時、四両目へと続くドアが開いた。

 シグP230を真っ直ぐに構えた手。
 銃も、そしてその持ち主も。相手に反応する隙を全く与えなかった。
「3!」
 陰陽のカウントを引き継いだのは乱入した男の方だった。銃が轟音を発する。ガンッ、と何か硬いものに銃弾が弾かれる音。
「2!」
 女性を捕まえていた男が肩を撃ち抜かれ、後ろに吹っ飛ぶ。
「1!」
 そして、もう一人の黒服も肩を押さえ床に転がった。
 最後の銃声が響いて数秒後。銃の名手、柊木芳雄は全く乱れのない射撃の腕を披露した上で、冷たい瞳を陰陽に向ける。
「危ない危ない」
 陰陽はとっさに引き寄せた自分のジェラルミン・ケースで最初の銃撃を防いだ後、目の前の女の後ろに隠れ、柊木から遮蔽をとったのだった。ひひひ、と笑う。
「こうすりゃ撃てないだろう? 分かってるんだ」
「その女性を離したまえ」
「嫌だね」
 陰陽は女を捕まえ、背後からメスを首筋に当てたままじりじりと後ずさりした。
 少しでも隙を見せれば撃つと言わんばかりに柊木も間合いを詰める。
「悪いけどね、助っ人のキミ」
 陰陽はメスを片手に、もう一方の手に握ったものをわざと柊木に見せた。
 それは注射器だった。

「遅いんだよ。これで三人目だ」

 キャアッ。陰陽に捕らわれていた女性が絹を裂くような悲鳴を上げた。その首筋に注射器が刺さっている。驚くのもつかの間、陰陽は中の液体を一気に注入した。
「何を!」
 柊木が詰め寄ろうとした時、陰陽はサッと手を上げた。悲鳴。
 続けて彼は、右手のメスを近くの女に向けて放ったのだった。
 銃を構えたまま柊木は女を見る。短いスカートを履いた彼女の、むきだしの太腿にメスが突き立っている。嫌な位置だった。そのメスに彼女自身が手錠をされたままの手をかけているのを見て柊木はハッとした。
「駄目だ、それを抜くな!」
 だが、遅かった。
 彼女は自分の腿からメスを引き抜いてしまった。途端に血が、真っ赤な鮮血が勢い良く吹き出した。そのあまりの勢いに、彼女は驚き、悲鳴を上げながら自分の手で傷を押さえようとする。
 ヒャハハハハ! と、注射器を投げ捨て、陰陽が笑った。
「ボクはこう見えても医者なんでね。怪我人大好き! サイコーに儲かるからね。……さぁて、どうするの、助っ人さん? アンタの目の前で女の子が死にかけてるよ?」
 柊木は、恐ろしい目つきで陰陽を睨んだ。彼がこのように怒りの表情を見せるのは珍しいが、銃を構える手は動かず、ただ獲物を仕留める機会だけを窺っていた。
 ──ガシャンッ!!
 その時、窓ガラスが割れ、外から侵入してきた者があった。
 足でガラスを蹴り破り、枠に手をかけて床に着地する。派手な登場ではあったが、その動きは全くと言っていいほど、無駄がなかった。
 降り立った男は、陰陽から数歩の距離に立ち、言った。
「その子を離せ」

 ──八之銀二だった。

「ウヒョオ! 外からもう一人か。粋だねえ!」
 ビャッ。言いながら陰陽はメスを飛ばしたが、銀二はそれを無造作に腕を上げて受けた。メスは深々と彼の腕に刺さったが、元ヤクザは表情を変えず、ただその刺さったメスを引き抜いて、床にうち捨てた。
 そしてもう一歩。彼は陰陽に近づく。
「済まない、柊木君。俺はこいつを許せない」
 もう一歩。銀二は背中で柊木に話しかけた。
「女を痛めつけるような奴を見逃すことは、俺にはできん」
「謝るようなことじゃないよ、八之くん」
 静かに答える柊木。「私も同感だ」
「──クソッ!」
 メスを投げても微動だにせず正面から間合いをつめてくる銀二に気圧されたのか。陰陽はいきなり、柊木の方へ女性を突き飛ばすと、コートの裾を翻して窓の方へと走りだした。
「ボケが、逃がすか!」
 しかし銀二が反応していた。彼は、床に転がっていた窓枠の残骸を拾うと、陰陽に向かって投げつけた。しかも足元に、だ。
 足を取られ、バランスを崩しよろける陰陽。
 すかさず間合いを詰めた銀二は、その背中を踏み抜くように、蹴りを放った。
 ──あの、ヤクザ蹴りだった。
 チンピラごと襖を蹴り破る十八番のヤクザ蹴りを、彼は陰陽の背中にお見舞いしてやったのだ。
 悲鳴を上げた陰陽は、前のめりに窓に突っ込んだ。割れて降り注ぐガラスも何のその。振り向こうとした陰陽の襟首をガッと掴む銀二。自分の手がガラスで切れようがおかまいなしだ。
「教えてやるよ」
ぎりぎりと、相手の襟首を締め上げながら銀二は低い声で言い、鼻と鼻がぶつかるぐらい近くに顔を近づける。
「日本のヤクザは、女には手を上げないんだ。ええ? お前らとは違ってな!」
 ガン! 銀二は、陰陽の後頭部を力任せに残った窓枠に叩きつけた。


 ──── 二両目 ────


「ブラックウッド、か」
 カレンは、コンパートメントの入口に突如現れた男を見、ぽつりと言った。
 どこからどうやって入ったのか。彼女はそういった質問を一切せず、泰然とした態度でブラックウッドに、目の前の席に座るよう促した。
 先日、カレンがきまぐれに訪れた海辺のイベントで二人は出会っていた。初対面ではない。
 無言だった。老吸血鬼もただ、個室に足を踏み入れた。冷ややかな墓土の匂いを連れて。
「ご機嫌よう、葉大姐。貴女にぜひとも、もう一度お会いしたくてここまで足を運んでしまったのだよ。どうかこの年寄りの無礼を許してもらいたい」
 きちんと椅子に座ってから、ブラックウッドは落ち着いた深みのある声で静かに言った。
「無礼? 許す? ハッ、前置きしなけりゃ話もできないのかい、ブラックウッド。──何しにきやがったんだ? あたしは忙しいんだ。あたしに用があるなら回りくどいこと言い方はよしな!」
 不機嫌そうに鼻を鳴らし、カレンは目の前の相手をにらみつける。
「ふむ。仕方ない」
 ブラックウッドは肩をすくめ、懐から一枚の紙を取り出し、裏にしてテーブルの上に置いた。それではさっそく、と口にしながらひたと女侠を見据える。
「私は貴女にお願いをしにきたのだよ」
「女どもを返せってんじゃアないだろうね?」
「いや。正にその通りだよ」
 淡々と言い、老吸血鬼は自分が取り出した紙をスーッとカレンの方に寄せて、それを表に返した。
 それは小切手だった。
 数字が記入してある。一番左が6。そしてその右に0が8個並んでいた。
「これで、いかがだろうか。身代金の足しにはなるだろう」
 カレンは眉を上げて、その小切手を見つめていた。しばらく。やがてゆっくりと目を上げてブラックウッドを見る。
 ハン。カレンは口の端を歪めて笑った。
「おめでたいねェ、ブラックウッド。あたしが金目当てでこんな大掛かりなことをやらかしたとでも思ったのかい?」
 ブラックウッドは答えなかった。ピンッ、とカレンは紙片を彼の方に弾いて戻す。
「交渉は決裂だ。あたしは市役所の金しか受け取らない。奴らの無能さを銀巻市民たちに教えてやりたいんだからねェ」
「なるほど、貴女のターゲットは柊木市長と映画実体化問題対策課ということなのだね」
 静かに老吸血鬼はうなづき、身代金の二倍の金額が書かれた小切手を懐に収めた。
「そう言えば市議会が、対策課のありかたについて揉めていると銀幕ジャーナルで読んだことがある。ムービーハザードへの対策強化派と、穏健派に分かれているそうだが、その辺りも何か関係があるのかな」
「答える義理はないね」
「……さしづめ、貴女は対策強化派の方に、ご友人がおられるのではないかね?」
「へえ。いい読みしてるじゃないか」
「今回の資金もその御仁の支援を受けているわけだ?」
 カレンはニヤニヤと笑った。
「そこまでだ。あたしの後ろに誰がいるのか聞きだしたいンなら力づくでやったらどうだい? 化け物らしく、女を力でねじ伏せてみたらどうなんだよ」
「それは私のやりかたとは違うね」
 しかしブラックウッドは彼女の挑発には乗らなかった。優しく微笑みながら、目の前の女ヴィランズを見つめている。
「なら、邪眼でも使うッてのかい。上等だね、やってみな。あたしの功夫を舐めてもらっちゃ困るんだよ!」

「ああ──失礼。そうか、そこにいたのか」

 ぽつり。ブラックウッドはそう言って、破顔した。ぎくりとしたようにカレンは相手を見る。
「なに?」
「貴女のご主人だよ。ディーン氏と言ったかね。彼が──」
 言いながら、ブラックウッドは自分の左目を指し示した。
「──貴女の失った目の中にいる。いや、貴女が彼の思い出をそこに閉じ込めているといった方が正確かな」
「……な、何の話をしてる?」
 いきなり相手が切り出した話題に、困惑し顔をこわばらせるカレン。
 そんな女侠を見つめながら、老吸血鬼は机の上で悠然と手を組み、ひょいと眉を上げてみせた。
「以前にお会いしたときには気付けなかった。貴女があんまり巧妙に隠しているものだから、私といえど見つけられなかったのだよ。貴女の思いを」
 目を細めるブラックウッド。落ち着き払った彼は、あくまで優しく。心に直接問いかけるようなベルベット・ヴォイスで続ける。
「邪眼? いいや、そんなものは使わないよ。なぜなら、貴女の中にディーン氏が……今だ先客がいるというのに、土足で踏み込むような真似は、私には出来ないからね」

「──奴の話はやめろ」

 そう言ったカレンの声は低く、彼女の目はまさに人を射殺すようなものだった。しかしブラックウッドは微笑んだまま、まったく動じる様子はない。
「貴女が海辺で言っていた言葉が気になって。私は貴女の映画を見たのだよ」
 彼は、ゆっくりと話を続ける。
「ディーン氏は良い男だね。どんな逆境でも決して自分の信念を曲げない。だから貴女も彼の命を守るために、その瞳を失ったのだったね」
「黙れ……!」
 カレンは立ち上がっていた。
 その手にはいつの間にか小型の拳銃が握られている。無骨な黒いマカロフだ。
 真っ直ぐに伸ばした手で、ブラックウッドに銃口をピタリを向ける。銃口と彼の額の間はわずか数センチ。女侠は押し殺した声で続けた。
「言ったはずだ! ブラックウッド。ディーンは死んだ。人は死んだらそれきりなんだよ、あたしの中には何にも残っちゃいないんだ。これ以上、くだらないことをペラペラと喋りやがったら、この──」
 ブラックウッドは、ついと顔を上げた。

「では、なぜ? 彼のプレミアム・フィルムを捨てないのだね?」

 その言葉に、一瞬にしてカレンの顔が凍りついた。
「なぜ、それを──!」
 言いかけて彼女はさらに目を見開いた。自分の失言に気付いたからだ。どう考えても、目の前の男が夫のプレミアム・フィルムのことを知ってるはずがない。
 カレンはそれに気付き、心底悔しそうに歯をきしらせた。
「クソッ、カマをかけやがったな!!」
 対するブラックウッドは、ただ無言で微笑んだ。銃口を向けられていても何の動揺もしていない。
「やはり貴女はまだご主人のことを──」
「黙れ! 頭吹き飛ばしてやる、このクソ吸血鬼が!」

「──そこまでだ」

 カレンの側頭部につきつけられた拳銃。シグP230。
 コンパートメントの入口に立っていたのは柊木芳隆だった。警視長は、落ち着いた態度で女ヴィランズの頭に狙いをつけたまま、ブラックウッドに軽く目配せした。
 彼女は目の前の老吸血鬼に意識を集中するあまり、彼の接近に気付けなかったのだ。言葉もなく、ピタリと動きを止める女侠。
「銃を捨てたまえ。カレン・イップ」


 ──── 四両目 ────


 暴走する列車の四両目。そこは全ての座席が窓側に沿って設置してあるだけで、幸いにして最も広いスペースのある車両だった。
 ドンッと重い音をさせてそこに降り立ったランドルフは、血走った目を回りに走らせる。この車両には人がいないのか──いや、居た。
 ぐるりと振り向いた後ろに。女性たちがいるという三両目に続く方に、男が一人立っていた。
 ダブルのスーツを着た、長い髪を後ろで一つに結んだ東洋人である。天井を破った食人鬼の凶悪な目にさらされているというのに、恐れる様子を全く見せない。
 サイモン・ルイ。金燕会の幹部で、カレン・イップの腹心の一人である。
 構えも取らず。彼はただ、掛けていたメガネをきちんと直し、冷たい目でランドルフを見た。
「この列車を止めてください!」
 ランドルフが言った。フ、とサイモンは口の端を歪めた。
「簡単だ。先頭車両まで行って、ブレーキをかければいい。──ただし」
 言いながら、サイモンはゆっくりと腰をかがめ、近くの座席に残されていたグリーンの女物の革製のバッグを拾った。
「私を抜いていくのは、簡単ではないだろうな」
「そこをどいて下さい。私は貴方を傷つけたくない!」
「これはこれは」
 サイモンは笑ったようだった。女物のバックの中をあさり、中から何かを取り出す。
「意見の相違だね。私は君を傷つけたくてしかたがないんだが。どうしたらいい?」
 
 シャッ。

 ランドルフは慌てて身をよじった。何かが空を切り、後ろの座席に突き刺さる。それは──。
「──編み棒!?」
「車内では長モノを扱えないのでね」
 毛糸のセーターを編むためのもののはずが、サイモンの手の中では凶器となっていた。金燕会の雄は編み棒を二本構え、腰を落とし、初めて構えを取る。
 シン、という間。会話が終わりを告げる。
 ランドルフは吼え、床を蹴った。
 たったの一歩で間合いをつめ、繰り出したのは、文字通り岩をも砕く拳であった。
 しかしサイモンは、最小限の動きでゆらりと後ろに上体を傾ける。
 当たるか当たらないところで拳をよけ、サイモンが代わりに繰り出した編み棒が、ランドルフの拳をくぐり、わき腹に突き刺さった!
 かはっ。と巨漢は息をつき、拳を繰り出した姿勢のまま後ろに飛びのいた。
 サイモンも軽やかなステップで間合いをとり、残った一本の編み棒を構える。
「ナイフよりもこういった細いものの方が、肋骨に邪魔されずによく刺さるのでね」
 自らの腹を見、驚くランドルフ。鋼の肉体を持ち、銃や剣を受け付けないはずの彼の身体に、ただの木の棒が突き刺さっている。
「内勁(ないけい)だ。君たちの文化にはないものだろう。私の体内に巡る“気”を編み棒に乗せただけだよ」
 ランドルフは口の中に鉄分の味がすることに気がついた。分かっている。何でもない攻撃のように見えて、編み棒が自分の身体に確実にダメージを与えているのだ。
「──君のような男では、私には勝てん。その怪力は素晴らしいが、正面切って君と戦うほど、私は馬鹿ではないのでね」
 ずるり。ランドルフは自分の腹から編み棒を抜き、それを無造作に床に放った。血がどくどくと流れ出す。むしろそのまま刺しておいた方が、血を失わずに済むのだが、もはや彼にとっては自分の流す血など、どうでも良かった。
 彼にとって重要なのは、いかに目の前の男を無力化するか。そして、どうやってあの少女の姉を助けるか、ただ、それだけなのだから。
 ──ウォオオオオ!
 ランドルフは跳んだ。上空から渾身の力を込めて振り下ろす拳がサイモンを襲う。見上げた男がニィッと笑った。そんな読みやすい攻撃など……! と、彼は言ったようだった。しかしランドルフは攻撃をやめない。
 拳の軌跡から自分の身体を外し、サイモンは手すりに手をかけ、鉄棒の要領でクルリと回って座席の上を飛び越えて逃れようとする。
 しかし、サイモンの身体が手すりの向こうに入った、その瞬間をランドルフは見逃さなかった。

 ──ゴガッ!!

 食人鬼の一撃が、まさに飴のように手すりを曲げ、サイモンを巻き込んでいた。
 彼は、窓ガラスに叩き付けられ、パラパラと細かく降り注ぐガラスの洗礼を受ける。咄嗟に両手で顔をガードするサイモン。
 その一瞬。ランドルフは相手の足を掴んだ。
 ハッとサイモンが体制を立て直そうとする。──だが、遅い!
 恐るべき怪力はこのような時のためにあるのだ。ランドルフは手すりになっていたステンレスのパイプを曲げて、引き寄せたサイモンの足に巻きつけた。
 ──ば、馬鹿な!? サイモンが言った。
 サッと飛び退くランドルフ。虚空を飛ぶのは編み棒。足を絡め取られたサイモンは慌てて自分の足を振りほどこうとパイプに手をやるが、なかなか足を抜くことができない。
 次の攻撃を避けられない! そう思ったのか、覚悟を決めたような目をしてサイモンがこちらを見た。

「先に行かせてもらいますよ」
 ハァハァと息を整え、ランドルフもようやく答えた。
 すると、金燕会の幹部は心底驚いたような顔をした。
「な、なぜトドメを刺さな──」
 心優しい食人鬼は、その質問には答えず、三両目へと歩を進めた。


 ──── 二両目 ────


「──お早いお着きじゃないか、柊木」
 ゴトリ、と重い音をさせて、カレンはテーブルの上に自分の銃を置いた。
 柊木の銃が彼女の側頭部を完全にポイントしている。今、彼が引き金を引けば、女ヴィランズの頭は柘榴のように砕けてしまうだろう。
 座っていたブラックウッドは無言で二人を見つめると、そっと立ち上がり置かれていたカレンの銃を手にとった。
「そのままブッ放せよ、柊木。銀幕市の悪夢がこれで解消されたッて、市民どもが大喜びで喝采するだろうさ」
 カレンが静かに言った。
「あいにくだが、私は警察官であって殺し屋ではない。君を殺したりはしない」
「甘ちゃんだねェ。こんな絶好のチャンスだッてのにさ」
しかし彼女はニヤリと笑う。「だが、撃たないンなら、お前はそのまま引き金を引くことは無いッてワケだね」
「いや」
 サッと柊木は一歩脇へ足を踏み出し、銃の向きをやや下に変える。「抵抗するなら撃つよ。殺さずに無力化するなんてことは、私にとって朝飯前だ」
 クソッ、とカレンが言った。
「君の身柄は警察にゆだねる。君は逮捕され銀幕市の法で裁かれるのさ。──ブラックウッドくん」
「なんだね」
「彼女をこれで拘束してくれ」
 柊木が差し出したのは手錠である。ブラックウッドは、気が進まないといった顔をしながらそれを受け取った。
 珍しく眉間に皺をよせて、ブラックウッドは金燕会の女頭目を見る。
「失礼、レディ。貴女のような人にこんな無粋なものは使いたくないのだが。もし可能であれば私の腕で──」
「死ね、クソ吸血鬼」
 カチリ。ブラックウッドはカレンの細い手首に手錠をかけた。

「さて、一つ聞きたい。カレン」
 ようやく銃を持った手を下げ、柊木はカレンに向かって問いかける。
「君のところの陰陽という男が、数人の女性に何か薬を投与していたのを見た。あの薬が一体何なのか、教えてもらおうか」
「ああ、実行できたのかい。そりゃァ良かったよ」
 ククと喉の奥で笑うカレン。
「ただのドラッグだよ。連れていくのに暴れられたら困るから麻酔代わりに打ったんだろうさ」
「──嘘だな?」
 女侠は楽しくて仕方が無いという目をして、柊木を見る。
「知ってたとしても、お前にそれを教える理由はないね。……タイム・リミットだ」

 ──ダダダダダッ!!

 伏せるカレン。突然、窓ガラスが外から割られ、銃弾の雨がコンパートメントに降り注いだ。サブマシンガンの弾、あのシャノンを襲った兎頭の少年がボスの救出に現れたのである。
 柊木は咄嗟に脇に身を隠す。ブラックウッドに至っては、いつの間にか姿が見えなくなっている。
「大姐、無事かい?」
 粉々に砕けた窓枠に足をかけて車内に侵入しようとする兎頭。その姿を認めた柊木は銃を向けようとしたが、ハッと思いとどまり後ろに退いた。
 ──間一髪! 目の前を見事な白い足が。カレンの放ったハイキックが唸りを上げて鼻先をかすっていった。
 柊木はそれをやり過ごし、柔道の要領で彼女の身体を掴みにかかったが、カレンは手錠をしたままテーブルの上を転がり、窓際まで一瞬のうちに移動していた。
 不敵に笑うカレン。その手錠を、兎頭が掴んだ。ヒュッ。恐るべき身のこなしで、兎頭とカレンの姿が車両内から消えた。柊木の銃が撃ち抜いたのは、窓枠の一部だけだった。
「ふむ。上か」
 いつの間にか、柊木の隣りにブラックウッドがいた。ちら、と彼を見る。
 うなづく柊木。
 二人は、ヒュウヒュウと風が吹き込む窓を同時に見た。


 ──── 列車の上 ────


 トン。と、列車の屋根に降り立つのはブラックウッド。窓から外へ、よじ登ったわけでもなく、どのようにして突然現れたのか。とにかく、彼は列車の上にいる3人の人物を確認した。
 手錠の残骸を手につけたままのカレン・イップ。先ほど突如乱入してきた、兎頭のマスクをかぶった学生服の少年。そして、膝をつきゼェゼェと息を切らしているスキンヘッドの痩せた男。彼は頭をガラスに突っ込んだせいで、切り傷だらけであり、肋骨でも折られたのか立つことすらままならない状態だ。
「陰陽、生きてたのかい」
 カレンはブラックウッドを睨みながらも、傍らの部下に声をかけた。
「首尾は?」
「4人」
「まあ及第点か。お前はよくやったよ」
「──大姐」
 と、後ろから兎頭が差し出したのは二振りの刀。刃渡り50センチほどの幅広の刀──胡蝶刀であった。カレンはそれを受け取り、手馴れた動作で両手に構えた。
「さあて」
 彼女がそう言ったのと同時に、柊木が列車上まで到達していた。立ち上がった彼はスーツの汚れをパンと払い、銃を手にしている。瞳はじっとカレンに据えられたままだ。
 兎頭がサブマシンガンを構えた。
「やれやれ。あと5分しかない」
 他のどんな武器よりもそれが手になじむというように、片手の胡蝶刀をくるくると回して笑うカレン。
「お前らと女どもは、この列車と心中だ! 止めようとしたって無駄さ、ブレーキなんてものは最初から壊してあるんだからね。──次のカーブで曲がりきれずにこの列車は脱線する運命さ。クソどもが、岩山と熱烈なキスでもして昇天しちまいな!」
 フッ。その時、列車の屋根に大きな影が映った。

 ──ドンッッ。

 衝撃音をさせて、屋根に降り立ったのは一人の巨漢。通常の人間の二倍ほどに膨れ上がった筋骨隆々のランドルフ・トラウトだった。
 スキンヘッドには無数の血管が浮き出ており、完全に白目を剥いたその顔はまさに凶相。柊木とブラックウッドの前に舞い降りたそれは、まさに肉の壁であった。
「ランドルフくん!」
 柊木は彼が現れたのを見て、戦局を掴んだ。しかし巨漢はただ前方の金燕会の面々を見るだけで反応しなかった。彼は覚醒状態が長引き、そろそろ自らの食人衝動を抑えにくくなってきていたのだった。
 残り時間がわずかであるのは、彼も同じだった。
 止メナケレバ、ミンナ、死ヌ……?
 口の中で、そうつぶやくと、ランドルフは床を蹴って跳躍した。 
「兎頭!」
 カレンが叫んだ。
 その脇を稲妻のように少年が走り抜ける。タンッ。学生服姿の彼は飛び上がり、ランドルフの側面からサブマシンガンを向けた。彼の並外れた体術によるものか。まるで鳥のように宙を舞った彼はランドルフに容赦の無い弾丸の雨を浴びせようと引き金に手をかける。

 ダン、ダンッ。

 しかし、その兎頭の肩を銃弾がかすった。前方、11時の方向! 少年は空中で慌てて攻撃をやめ、手にしたサブマシンガンを上空に撃った。反動を利用して軌道を変えて素早く列車の屋根の上に降り立ち、三発目の銃弾をかわす。
 チッ。舌打ちした彼は、見た。
 三両目の方、列車の上にぽつんと黒い人影。
 ポタポタと赤い血を落としながら立つ満身創痍の男。──シャノン・ヴォルムスだった。FN Five-seveNを構え、ゆらりと顔を上げる。
「──お前みたいなイロモノに負けたとあったら、俺の男がすたる」
 彼は、笑っていた。
 その笑みは、味方をもゾクリとさせるような凄惨なものだった。
 ──と、そのシャノンの姿が消えた。
 アッと思ったときには、兎頭が後ろに吹っ飛んでいた。まさにカメラに映らないほどの動き。シャノンは少年の頭に蹴りを放ったのだった。
 クソッ! と、悪態をつきながらカレンが動いた。
 ランドルフの拳をかわし、シャノンの死角から滑り込むようにして刺突を繰り出す。狙いは彼の顔だ。
 鼻を削がれかねないほどの至近で、ヴァンパイア・ハンターはその一撃をわずかな動きでかわした。カレンはシャノンの懐に入り込んだまま、残った左手で下から振り上げるように斬撃を放つ。
 バック転するように背後に跳び、二撃目をやり過ごすシャノン。その勢いを生かし、カレンの左腕を蹴り上げる。上体のバランスを崩され、カレンはサッと後方に飛び退いた。
 兎頭は体勢を立て直しているが、陰陽は怪我がひどく全く使い物にならない。
「時間が……!」
 さすがの彼女の顔にも、焦りが見え始めていた。

「完了したよ。柊木君」
 ふと、列車の上で優雅に戦いを見守っていたブラックウッドが言った。
 うなづく柊木。銃を構えながらも、彼は無線で連絡を取り合っていたのだ。相手は決まっている。あの男だ。
「一両目、二両目にはもう女性はいない。今、使い魔から報告を受けた」
「怪我をした女性は?」
「問題ない。私の使い魔のことだ。止血に関しては、専門分野だからね」
「ありがとう。私はそれだけが気がかりだったんだ。三両目の女性たちも全て最後尾に移動したよ。彼が動いてくれた」
「さて。なら、いよいよジョーカーの出番かな」
「そのようだ」

 ガコッ。
 列車が揺れた。


 ──── 五両目 ────


 四両目と五両目の連結部分に、男が立っている。
 暴風にスーツの裾をはためかせ、八之銀二は上空を見上げた。ブラックウッドのロケーションエリアが展開されているというその曇った空を。
 今か。
 無線を切ると、銀二はスゥと息を吸い込んだ。
 そして、右足を振り上げ、蹴る。狙いは列車の連結器であった。
 鉄筋コンクリートまで踏み抜いてしまったヤクザ蹴りは、見事、目的を果たした。ゆっくりと四両目と五両目が離れていく。
 すかさず銀二は、自分の身体を使って全身バネの要領で渾身の力を込めた。ゆっくりと五両目が離れていく。
「よしッ」
 銀二は五両目に飛び乗った。
 手の甲で汗を拭き、不敵な笑みを。
「取った不覚は、これで返すぞ金の燕ッ!」


 ──── 列車の上 ────


「最後尾が……!」
 カレンは列車が揺れた理由を瞬時に察し、眉を寄せた。
「ランドルフくん、シャノンくん!」
柊木が前方の二人を呼ぶ。「列車があと数分で激突する! 早く最後尾に飛び移るんだ!」
 言いながら彼はカレンに向かって銃を撃つ。牽制のためである。彼は自分以外の全員が最後尾の車両に飛び移るまで、そこを動くつもりは無かった。
 ただし、シャノンとランドルフは別々の理由で、一瞬の逡巡を見せた。
 ヴァンパイア・ハンターは先ほど受けた屈辱をまだ完全に晴らしていないと、あの兎頭を振り返る。彼はいざとなれば蝙蝠に姿を変えるなどして列車から逃れることは可能だ。しかし、受けたダメージから完全に回復しておらず、要らぬ心配をかけられるのも不本意だ。
「クソ餓鬼め、次に会うときは必ず仕留めてやる……!」
 仕方ない。憤懣やるかたない気分で、シャノンは身を翻す。
 しかし食人鬼の方は、柊木の言葉を聞いて首をかしげていた。
 激突する? 飛び移る? 何故? 自分は目の前のニンゲンタチヲ喰ッチマエバ、ソレデイイジャナイカ。
「しっかりしろ、ランドルフくん! 君は女性たちを助けに来たんだろ!?」
 柊木がいち早く彼の異変に気付き、声を上げる。
 ランドルフの耳にその声は届いていた。彼の紅潮した顔から滝のような汗が流れ落ちていた。動きを止めたままの彼に気付いて、兎頭が銃を向ける。柊木がそれを撃ち牽制をするが、まだランドルフは動かぬままだ。
「ランドルフ!」
 叫ぶ柊木。
 そのランドルフの脇を、シャッ。黒い影が横切った。
 飛び上がった影は、長い刀を手にしていた。
 タンッとカレンの前に着地する、その姿はスーツを着た男。サイモン・ルイ。
 一拍遅れて、ランドルフの胸から鮮血が噴き出す。横一文字に斬られた傷。その痛みが──皮肉にも、彼の精神を正常に引き戻す。
 ランドルフは振り返り、見た。
 自分が先ほど足止めした男、サイモンが向こうに立っている。
 手には日本刀──いや倭刀というべきか。一振りの刀を手にした男は、肩に一人の人間を担いでいた。目が合い、サイモンは担いでいた人間をゴロリと投げ出す。気を失っているらしく、その人物は、力なく床にあおむけに倒れた。
 それは桜色のワンピースを着た──おかっぱ頭の男だった。

「マ、マギー!?」
 
 驚いたのはシャノンである。最後尾に残してきたはずのオカマのマギーが、なぜここに?
「嘘だろ!? 何で? えええ?」
 助けるには距離が遠すぎる。彼はすでに離れていく五両目に飛び移っていた。

 ──マギー?

 ランドルフの脳裏を、一人の少女の姿がよぎった。ビビと名乗った少女。お姉ちゃんを助けて。約束します。私が必ずお姉ちゃんを連れ帰りますから──。
 ビビ。
 ──守らねば! 彼は吼えた。
 ランドルフは床を蹴り、猛然とダッシュする。胸に受けた傷はあっという間に治っていた。正面から堂々と。正気を失う寸前の巨漢は目を血走らせ、刀を手にしたサイモンに向かって走った。
「くっ」
 その咆哮に気圧されて、サイモンはマギーを拾い上げるのが遅れた。そんな彼の一瞬の判断ミスがランドルフに好機をもたらした。
 サイモンはマギーを諦め、撤退する。
 食人鬼はその豪腕で列車の天井ごとマギーをすくいとると、それを両手に掲げて走った。五両目に向かって、である。兎頭が銃を撃ってきたが、幸いにしてマギーを包み込んでいる列車の屋根だった鉄板がそれを防いでくれた。
 
「柊木君、早くこちらに!」
 いつの間にか五両目に移動していたブラックウッドが声を上げた。彼が手をひらりと返すとそこに蝙蝠のような姿の黒い生き物──彼の使い魔が乗っていた。
 老吸血鬼がそれをフリスビーのように投げると、使い魔はゴムのように身体を伸ばし、長いロープ状になって柊木の腕に絡みつく。
 柊木はこちらに走りこんでくるランドルフの様子を見て、安心し、カレンたちに背を向けた。助走をつけながら四両目の床を蹴り、見事五両目に飛び移る。
 ランドルフはというと、四両目の端までくると足を止めた。受け取ってくれ! と叫び、マギーを五両目へと放り投げる。その距離は、みるみるうちに10メートルほどにまで広がっている。
「……なるほど。頼むよ、心優しき食人鬼君」
 彼の意図を読み取ったのか。進み出たのはブラックウッドだ。
 まるで飛んできたパイ皿を受け取るかのように、あくまで優雅に。老吸血鬼は右手でマギーの鉄板を受け取り、左手を添えて勢いを殺す。
 そのまま彼がマギーを屋根の上に下ろすと、ランドルフは線路に向かって飛び降りていた。
「みんな、掴まれッ!」
 ランドルフの意図を察した男がもう一人。屋根の上に登っていた銀二が、中の女たちに向かって叫んだ。そして彼も身を伏せる。
「ランドルフ君! 任せたッ!」


 ──── 線路の上 ────


 線路に立つランドルフが両手を構える。息を殺すその他の面々。
 時速80キロほどの速度で走っていたのであろうか。列車の最後尾はドンッという鈍い音をさせ線路の上にあった障害物に衝突した。
 その衝撃音の中で、唸るような声を聞いた者が数人。
 5メートルほどの大きな身体に膨れ上がり、本来の食人鬼の姿になったランドルフは列車を止めるために全身に力を込めていく。
 ギャギャ、ギャギャギャ……ッ!
 肉の焦げる匂い。彼の足が砂利を摺り、砂埃が巻き上がる。
 列車の中から女の悲鳴が聞こえた。
 まるで世界を支えるギリシア神話のアトラス神のように、ランドルフは両手でしっかりと列車を固定し、足を踏ん張った。
 グオォォォッ! 彼の咆哮が衝撃波を放つ。地面を掘り、地面を盛り上げていきながら列車はだんだんとスピードを落としていく。
 そして、20メートルほど引き摺られただろうか。ようやく列車は動きを止めた。
「止まった、か?」

 そうつぶやくと、ランドルフは力尽き、その場に崩れ落ちるようにして倒れていた。


 ──── 途中下車 ────


 顔を上げる銀二。彼は屋根から飛び降り、中の女たちの無事を確認した。
「八之くん!」
「大丈夫だ、みんな無事だよ」
 上からかかる声に銀二は、返事を返す。そして視線を倒れたランドルフへ。微笑んだ彼は、ごくろうさん、とつぶやくように声をかける。
「ドルフ君はお休み中だ。みんな、起こすなよ?」
 ランドルフは力を使い果たし、そのままいつもの人間のサイズに戻って、うつ伏せのまま寝息を立てていた。
「とりあえず、これで一件落着か?」
 シャノンが言う。続いて、屋根の上にいた面々が全て地上に降り立つと、遠くで爆発音が聞こえた。
 見れば、山の向こうで煙が上がっている。
 あの列車が衝突し、爆発、炎上したのだろう。
「さて、葉大姐たちは……」
 言いかけたブラックウッド。その煙が上がっているあたりから、ヘリコプターが急旋回して現れ、去っていくのを見る。
 なぜか、彼はそれを見て微笑んでいた。
「……やあ、また逃がしてしまったよ」
 和やかな口調に戻りつつ、柊木が言った。去っていくヘリコプターを見送りながら、彼はなぜか微笑んでいる。
「次回こそは捕まえてやりたいものだねー」
 フ、と無言で笑うブラックウッド。そうだね、と言う。

 一方、シャノンは鉄板にくるまれたマギーを引き摺りだしながら起こしてやっていた。
「おい、起きろ。マギー」
「──キャッ、シャノン。アタシいったいどうしちゃったの?」
 意識を取り戻すマギー。幸いなことに彼はかすり傷程度しか負っていなかった。
「お前、さらわれそうになってたんだぞ」
「エエッ! アタシが?」
 驚いて目を白黒させたオカマは、やがて胸の前で両手を組み合わせシャノンを見た。目をうるうるさせながら。
「シャノンが助けてくれたのね!?」
「違う」
「照れなくてもいいのよ?」
「本当に違う。お前を助けたのはそこに倒れてる──」
「シャノン、好き。アタシあなたのことが好きよ!」
 一人で盛り上がり、マギーは彼に詰め寄ろうとして、シャノンが銃を構えてるのを見た。
「……ちょっと、何それ?」
「それ以上言ったら、マジで撃つぞ」
「まあ、シャノン可愛いのね。照れ方も半端なくて、男らしいわ」
「うわっ、よせ!」
 ギャアアと悲鳴を上げながらマギーから逃げ回るシャノン。それを見て、和やかな笑い声が上がる。
 

 かくして、ミス・銀幕市候補者30人が列車ごと誘拐された事件は、列車が一台大破した程度の被害を出し、途中で線路途中に投げ出されていたガードマンたちも助けだされ、奇跡的にも死者は0人。事件は未然に防がれたのだった。
 ただその場にいた者たちは、皆、心の奥底で漠然とした不安を感じていた。対策課をめぐる陰謀、女性たちに注射された謎の薬物。これから先一体何が起こるのか。
 それぞれの思いを胸に、彼らはカレン・イップが去っていくのを見送っていた。




                 (了)




クリエイターコメントまたまた長くなってしまいました。お読みいただいてありがとうございます。
今回はお強い方が多く、また舞台となる場所にかなり制限がありまして。全てのPCさんに平等な展開になっているかと問われるとビミョーなところありまして。申し訳ない限りです。
ただ、わたしが思う「カッコイイ」を全員のキャラクター様に対し書いてみたつもりです。

>シャノン・ヴォルムス様
プレイングからはそう離れていないとは思うのですが……。
すいませんイロモノばかりぶつけてしまって。苦情等々受け付けております。。

>ブラックウッド様
ひとつ使えなかったプレイングがありまして、申し訳ありません。
カレンとの会話に重点を置きましたが、いかがでしょうか。。

>ランドルフ・トラウト様
ほかの方とプレイングが被らず、はからずも最も登場回数が多くなりました。
気に入っていただけたら幸いです。

>八之銀二様
プレイングが裏方ご志望でしたので、出番が地味で少なくなり、申し訳ありません。
ですのでプレイングにない部分を少し追加してあります。
わたしも大変気に入っている部分なので、楽しんでいただけたら幸いです。
陰陽を取り逃すシーンを省略してしまってスイマセン。
でも、きっと女性たちの手当てを優先するだろうな、と。そういうわけで。。

>柊木芳隆様
また今回も意外に銃撃戦は少なくなってしまいました(泣)。
やはりカレンとの接点に重点を置きました。
短めでほんとにスイマセンでした。


ではでは。
ご参加いただいた皆様、そしてお読みいただいた銀幕の皆様。
ありがとうございました(^^)。

p.s.
個人的にアンケートもやっております。
よろしかったらお答えください。
http://talkingrabbit.blog63.fc2.com/blog-entry-255.html
できればOKなのかダメなのかだけでも教えてくださると今後の参考になりますので、大変助かります。
公開日時2007-05-27(日) 13:40
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