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<ノベル>
市役所に送りつけられてきた、大量のサンタの衣装。
スタンダードからミニスカまで、量・種類ともに様々で、何者がどんな意図で送りつけてきたのかはまったく不明である。
それを着てみようという勇者が、クリスマス当日、市役所「会議室1」に集結した。
無機質な合成木材の机とパイプ椅子、それにホワイトボードだけの部屋が、急に色彩豊かになる。
香玖耶・アリシエートに針上 小瑠璃といった大人の女性の綺麗どころに、若さあふれる浅間 縁という顔ぶれもさることながら、少女の姿になったコーディ、リャナ、成瀬 沙紀たち少女が嬉しそうにサンタ衣装の箱を覗き込む様子もクリスマスの華やぎにふさわしい。
そんな空気をぐっと引き締めているのが、迷わず正統派のサンタ衣装を選び、きっちりと白ひげに白い付け眉毛も完璧な真船恭一先生。
それにルドルフの存在も、このクリスマスイベントのいわば総仕上げというにふさわしい。
なんたって、ホンモノのトナカイである。
今回はサンタ衣装は着られないが、トナカイのクリスマス用正装というやつをびしっと着こんで登場し、市役所員たちの注目を一身に集めている。
真紅のマントに同色のハーネス。首の部分には金の鈴が着いている。
右側のツノには柊の飾りが結びつけられているといった様なのだから、クリスマスムード満点といったところ。
……にしても、市役所の女子職員たちが彼を取り囲み、
「カワイイ! カワイイ!」
を連発しているのはいかがなものか。
ルドルフ(推定年齢48歳)、さっきから憮然とした表情を浮かべている。
「へぇ、可愛いのがあるじゃん!」
浅間 縁は、現役の女子高生だけに好奇心いっぱいに箱の中を覗き込む。
「でしょう? 送り主不明ってとこが何だけど、一応点検したところ、どれも品質は悪くないし、本物のサンタさんがジョークで贈ってきたんじゃないかなんて噂もありまして」
若い市役所員が、テーブルの上に次々と箱の中から衣装を取り出し、広げて見せる。
「これ、うちのサンタ服って感じやな」
小瑠璃があまり迷わずに、ツナギ風の地味めなサンタ服を手に取った。
「えーっ。せっかくの機会なのにえらく地味な……こんなのもあるんですよ」
市役所員が大人の女性に似合いそうな、ドレス風サンタコスチュームを広げて見せる。
「ええわ。動きにくいのん、あんまり好きちゃうし」
色気方面へのお誘いをあっさり蹴って、小瑠璃はてきぱきと女子更衣室に向かう。
一方、あれでもないこれでもないと、箱から服を放り投げるようにして物色していたリャナは、セーラー襟っぽいジャケットとプリーツスカートの組み合わせという制服風の一着を見つけて歓声を上げた。
「ぅわーい!きらぼしのせーふくだ!これきてがっこうにいくー!」
確かに、綺羅星学園の中等部制服にデザインが似てなくもないが、色が違うしそもそもサイズが……
「えっとリャナちゃん? 今、学校は冬休……」
職員の制止もスルーして、うっしっしとほくそ笑みながら更衣室に向かうリャナ。
「うわー、サンタの衣装なんて初めて着ますよ。この街は面白いですねー!」
と、スタンダードなサンタ衣装を手に取り、体にあててサイズを確認しつつ小嶋雄が言うと、市役所員は微妙な表情になった。
「こば……いやその、小嶋さんもサンタ服、着られます?」
「? 着ますけど、何か?」
「いや……なんとなく神社関係の行事の方ががお好きそうな気がして。……初詣とか」
市役所員はわたわたと手を振りながら言葉を濁す。
神社ですかー? と首をかしげつつ雄は衣装を着替えに行ったが、「だって鳩だから」という言葉を、職員はぐっと飲み込んで抑えたようだ。
香玖耶が長手袋つきキャミソールドレス風の、ちょっぴりセクシーでありつつも胸やミニスカートの裾にリボンが飾られたかわいさのあるサンタスーツを選び、緑がショートジャケットとミニスカがセットになったサンタツーピースと帽子とブーツを合わせた元気いっぱいのコーディネートを選択。
コーディは大きな純白ファーのボタンがついたサンタワンピースを、成瀬沙紀がツインテールに似合う、リッチな雰囲気満点のふわふわなファーで縁取られたケープ付きの可愛らしいミニスカートサンタ服を選び、早速着替え。
沙紀は皆のサンタ姿に、
「みんなすごく似合ってるし、可愛い! ママに写メール送るから、撮っていい?」
と、常に持ち歩いている携帯で撮りまくり乙女モードに入っている。
「うーん、やっぱハロウィンよりクリスマスの方がしっくりくるなぁ」
男前女子高生との呼び声高い縁も、鏡を見てミニスカブーツのサンタ姿をためつすがめつしている。
「よっしゃ、雪だるま作っとる皆に、炊き出しでもしたるかなぁ」
と、小瑠璃は早速スーパーへ買い出しに。
ルドルフが縁、香玖耶、真船、コーディ、沙紀を背にのせて、クリスマスの空に飛び立とうじゃないかと申し出た。
すると、市役所員が頼んだ。
「せっかくなので、皆さんクリスマスツリーの森に行かれる前に、銀幕市を一巡していただけますか? 何より子供たちが喜ぶでしょうから‥‥」
「子供がいないからサンタ役はできないと思っていたところに、このお誘いだからね。喜んで手伝わせてもらうよ」
と、完璧なサンタ衣装の正装姿の真船恭一は鷹揚に受け止めた。
「といっても銀幕市を一巡となると結構な距離ですから、住宅の密集している●●地区だけでも……」
遠慮がちに続ける職員の肩に、ぽむっと偶蹄目の蹄が置かれた。
「おいおい、忘れちゃ困るぜ。……ここにいるのは運びのプロだってことをな」
まぁ見てな、とクリスマス正装のルドルフはぐっと脚をふんばると、背を低くしてサンタガール+ナイスミドルなサンタを背中と、ハーネスに連ねた赤いソリにのせた。
「さあ、パーティといこうじゃないか!」
緑がひらりとミニスカートのすそをひらめかせ、ソリに乗る。
「ルドルフさんのソリ乗るの久し振り! よろしくねー!」
電脳イルカの化身であるコーディは、誰かを乗せることはあっても誰かの背に乗るのは初めて。はしゃいでトナカイの飛び乗り、勢いあまって向こう側へ落っこちかける。
重くないのと心配する声に、ルドルフは「カワイ子ちゃんなら8人ぐらいなら乗っても大丈夫さ」と、某物置のごとく頼もしく受け止めた。
「では、失礼。……女性でなくて申し訳ないけど」
最後に真船がゆったりとそりに乗りこんだ。
「しっかりつかまってろ!!」
ルドルフは力強く床面を蹴り、市役所の窓から飛び立った。
ルドルフの背に乗るにわかサンタたちを、小嶋雄はちょっとさみしげに見送る。周囲の市役所員に、彼はぽつりと洩らしていたそうな。
「俺も乗りたかったんですけど、『自分で飛べ』って乗せてもらえなかったんですよ。なんでですかねー?」
多分鳩だからですよと言う返事を、職員はぐっと飲み込んだようだ。
そして、制服風サンタさんリャナは意気揚々と出かけた。職員の、
「あのね、おともだちに会ったらクリスマスツリーの森のイベントのこと、詳しく話してあげてね。市の広報とかホームページにも載ってるけど、森は広いしね」
という声を背に受けて。
「はぁーい」(半分ぐらいしか聞いてない)
リャナはじめてのおつかい、成功なるか!?
◆
「えへへ、きっとだれにもバレないのだ〜!」
と、綺羅星学園に意気揚々と乗り込んだリャナちゃん。
「あれ〜? なんでだれもいないのかな〜?」
校門はあいているものの、がらんとした校舎に目を丸くする。
おーい今日から学校は冬休みなんだぞーと突っ込んでくれる相方が幸か不幸かいなかったので、リャナは人気のない校舎をてくてく歩いて、生徒のいる教室を探して歩いた。実は、
「やっほー。誰かいませんかあ〜?」
と呼ばわり歩く彼女の声が、「誰もいないはずの冬休みの教室で叫び声が!」という、学校の怪談のひとつとなったりした(ちなみに本人は気付いていない)。
しばらく巡り歩いて、ようやっと……
「やっほー。誰かいま……」
「わ!?」
冬休み中も飼育小屋のうさぎなどの世話をしにきていた、数人の飼育委員の生徒たちをしぬほどびっくりさせた。
「キミ、だ、だれ?」
「ここのせいとだよー」
制服っぽいセーラー風スーツとはいえ、真紅に純白のファー付きと、明らかにクリスマス仕様な姿のリャナは、明らかに学園生ではなく。
それ以前に体長30センチ、蝶に似た羽でふわふわ浮かんでるので、何らかのムービースターであるのは誰の目にも明らかだ。
なので、生徒たちは不思議そうに彼女を見守る(ちなみに本人は気付いていない)。
「うそぉ。キミ、妖精のムービースターでしょ」
「それどこの制服かしらないけど、ダブダブじゃん?」
口々に聞かれて、きょとんとしていたリャナはややあって、
「あっそうだ、しやくしょのおつかいできたの」
「市役所の?」
「うん。クリスマスツリーの森いこうよって、おともだちをさそうおつかい」
「へーえ」
生徒の一人が興味を示すと、リャナはスノウマン1号の仲間が続々増えて大行進状態であること、パーティーがあってケーキやらカレーやらローストチキンやらがたくさん供されていることを説明した。
「へえ……妖精からのクリスマスパーティーのお誘いかあ」
生徒たちは飼育小屋の掃除とえさやりを終えると、銀幕市ならではのファンタジックなハプニングに、心躍らせつつリャナを囲むようにして森に向かった。
リャナはじめてのおつかい、成功だーー!!
◆
そして上空、ルドルフの背中。
♪ I wish white X’mas ♪
CDラジカセを持ち込んだ緑が、大音量でクリスマスソングを流し始めた。
「あー、あー、テステス。マイクもあるけど皆で一緒に歌っとく?」
上機嫌の緑。サンタドレスから華奢な肩を出し、レースに縁取られた可憐なイメージもありながら、ちょっぴりセクシー風味の香玖耶がミニスカ膝を乗り出す。
「『あめにはさかえ』ってあるかしら?」
「残念、ないよ」
「いいわ。雪の精霊たちを呼んでコーラスしてもらおうっと」
香玖耶が呪文を唱えると、たちまちすきとおるほどに純白の少年たちの姿が空中に粒子が凝縮するようにあらわれ、澄んだ声で歌い始めた。
香玖耶のしっとりと芯のある声が高らかに、けれど優しく夜の静寂を揺すり広がる。英語ではあるが、現代のものよりも少し古風な発音で、どこか懐かしい響きを人々の耳に残した。
「うわぁ超クリスマス!」
テンションあがりまくった縁は女子高生らしく意味不明な言葉を吐いた。だがそれ以上にこの、聖なる夜にふさわしすぎる情景を形容する言葉があっただろうか(反語的表現)。
盛り上がるサンタガール達に、真船先生がおもむろに、教え子たちに会った時のために用意したものか、赤と緑の包装紙に美しく包まれたお菓子を差し出す。
「君たち、よかったらキャンディはどうかな。フランスの老舗、LEFEVRE−UTILEのものなんだ。妻が選んだんだけど……」
「わーい♪」
「あ、二曲目、私歌っていい?精霊さんのコーラス、オクターブ下げてもらえる?」
「いいわよ」
「じゃ、二番浅間、行きます! みんなもコーラスよろしくね! あ、新曲なんでわからなかったら適当にハミングで」
「俺の背中はカラオケボックスかい!」
トナカイの言葉は、サンタガール達には届かなかったようだ。
「あのねあのねコーディもうたう! せぇの♪」
香玖耶の聖歌、縁のいまどきクリスマスソング(フリつき)と続いて全員で童謡の大合唱。
「じゃ次、沙紀ちゃんね」
「はいっ。『魔法少女ビューチー3』歌います!」
そしてアニソン。
真船先生は無理やりマイクを向けられて、勤務先の校歌を斉唱。
「きゃあ、楽しいノヨネ!」
はしゃぎすぎてコーディがそりから落っこちかけるハプニングもあり、さながら空飛ぶパーティーといったところ。
コーディはトナカイに乗るのも楽しいが、一緒に空を泳ぐのも楽しいと気づいたらしく、メタリックに輝くイルカの姿になり、ソリを抜きつ抜かれつしながら空中を泳いでいる。
ただしサンタ気分はなくさないように、サンタ帽をかぶり、金銀のモールを体にまとわせている。
星と月の輝きを受けて、金銀と七色の光を放つ彼女を、地上から見る人はクリスマスが起こした奇跡……夜の虹と錯覚したかもしれない。
銀幕市上空、トナカイは飛ぶ。プロの技で、見事に銀幕市を一巡し、諸事情でクリスマスの森へ行けない、オフィスで残業中のサラリーマンやOL、客待ちのタクシー運転手、風邪をひいた小さな子供のいる家族、などなどあらゆる人々を喜ばせた。
そんな中、ある病院の窓から、ぽつんと一人、空を見上げている少年が香玖耶の目を引いた。
「あの子に、みんなで一曲プレゼントしてあげるのはどうかしら?」
窓の近くまで寄ると少年は目を丸くして一同を見つめた。
「メリークリスマス!」
皆で声を合わせてクリスマスソングを歌う。
仕上げに真船がお菓子包みを渡す。
「クリスマスの過ごし方は人それぞれ。……大切なのは『誰かに幸せを願う心』だからね」
「生きてる限り、どんな状況でだって喜びはつかみとれる。沈んだ顔しないで笑って、貴方の命を精一杯輝かせてね」
香玖耶の言葉は、ただの慰めとは違う。限りない時を生きるエルーカなのだから。
少年は、おずおずと言った。
「あ……あの、ボク、病院でいなくちゃいけないから、クリスマスなんてずっと嫌いだったんだけど、おかげでなんだかクリスマスが好きになれそうです」
「ちゃんとサンタも来たもんね」
縁がピースサインとベストスマイルを贈る。
「ほんとにありがとう……貴方達は、誰なんですか? ……もしかして、ほんもののサンタさんなの?」
期待を込めた少年の瞳に、いえいえ通りすがりのセクシーサンタです。と言ったかどうかは知らないが、謎めいた微笑を浮かべて、香玖耶はルドルフの背に運ばれて遠ざかって行った。
やがて一同はクリスマスの森上空へ。
「目的地だ、降下するぜ!」
「あ、ちょっと待って」
ビッグツリーの木を通り過ぎる瞬間、香玖耶は手をのばしてオーナメントをひとつつかみとった。
香玖耶はそのオーナメント……陶磁で作られた愛くるしい天使の像をしっかりと胸に抱きしめた。
いとしい人の手を握るかのように。
「みんな、いいか? さあ、急降下だ!」
ルドルフの号令で、サンタガールと真船サンタはしっかりとルドルフの背中やそりの手すりにつかまり、トナカイは急降下する。
一生懸命にスノウマン1号の友達になる雪だるまを作っていた人々、特に子供たちはすぐに空飛ぶトナカイに気づき、わあっと歓声をあげた。
「メリー・クリスマス!」
声をかけて、真船が託されたプレゼントと、自ら用意してきた洒落たお菓子の包みをばらばらと投下する。クレープペーパーで美しく包まれたそれは口の部分をリボンで結ばれ、リボンの先には小さな鈴がついている。
子供たちの手に落ちるまでの間に、プレゼントの包みはしゃらしゃらと繊細な、けれど澄んだ楽しげな音をたてた。
受け取れば幸せそのものが掴めそうなそれを、争うように子供たちは受け取るが、
「あれっ? せんせい?」
「まふねせんせいだ!」
「サンタって、まふねせんせいだったんだ!」
付けひげや白い付け眉毛で完璧にサンタになりきっていたものの、教室で聞きなれた声や見慣れた体格と動作で気づいた子供もいて。
子供たちの中には、聖夜には真船先生がトナカイに乗り、セクシーサンタやロリっ娘サンタやおねえちゃんサンタをつれて煙突から家に入り、プレゼントを置いてくれて、ついでに冷蔵庫の残り物でおいしいシチューを作ってくれるんだよ。とまことしやかに噂する者もいたそうな。
なんで残り物でシチューなのかはよくわからないが、都市伝説とは時として意味不明な展開をするものです……とゆーことにしといてください。
やわらかな雪の上も、ルドルフは軽やかに進んだ。トナカイの蹄は柔軟性を持ち、幅を広げて重力を分散し、泥や雪の上でも沈まずに歩くことができるのだ。
ルドルフはサンタガールや真船サンタを降ろした後、特別サービスを披露した。
子供たちをこの夜一番興奮させたのは、ルドルフが口に花火をくわえて空に飛び上り、空中で発火させてから投げ落とした光景。
ほろほろと淡雪の降る空から、花火が光の河のごとき残像を描きながら、地上に落ちて雪に埋もれ消える。
BGMは「クリスマスツリーの森」主題歌。
縁がCDラジカセで持ち込んだ音楽に合わせて、縁や香玖耶ばかりか、雪だるまを作っていた人々も歌った。
その歌もなおのこと観客の興奮を誘う。
予想もしなかったプレゼントに、何度も何度も子供たちはルドルフに花火をせがんだ。
だが同時に子供たちは……いや童心にかえった大人たちも、ルドルフに触ったり話を聞きたがってもいて、ルドルフはようやく地上に降り、わっと人々に取り囲まれた。
「クリスマスは楽しんでるかい?」
「はいっ。うわあ、トナカイさんってしゃべるんだぁ!」
「あっあの、ボクもサンタさんになって空飛びたいですぅ!」
「いい心がけだ。……体重は増やしすぎるなよ」
渋すぎトナカイ・ルドルフは子供たちに取り囲まれてしばし「サンタさんになりたいよい子のためのQ&A大会」を繰り広げる。
「……やれやれ、仕事の後は一杯やりたいところだったんだが」
ようやっと子供たちから解放されたルドルフを、可愛いプレゼントが待ち構えていた。
「ルドルフさん、お空の冒険をありがとう」
沙紀が感謝をこめて、ほっぺにちゅ。
そのころ、ちょうど皆の祈りが通じてスノウマン大行進が始まり……
縁達はその大行進に巻き込まれ、魔女っ子雪だるまにタックルされたり、やけにさわやかな美少年雪だるまにテニスに誘われたり、口のうまい雪だるまに記念写真を買わされそうになったり、大騒ぎであったそうな。
で、その騒ぎの中には、綺羅星の生徒たちとリャナもいた。
「これ、宿題の作文に書けるよね!」
生徒たちは冬休みの宿題である、作文のネタにぴったりだと喜んでいて、
「あたしもさくぶんかくー」
現実はどうあれ綺羅星の生徒になりきってるリャナも澄まして話を合わせるが、
「……ハイハイ」
生徒たちは、苦笑してリャナの銀色の髪を撫でてやるのだった。
「ほい、お疲れー」
騒ぎが少し落ち着いたころ、小瑠璃が皆にトン汁を運んで現れた。
「あったかーい」
ふうふうと皆であたたまる。
「おねいさん、おれの分まだぁ?」
待ちかねたように、小瑠璃の傍にいた若者がお椀を手に声をあげた。
小瑠璃のトン汁はなかなかの人気商品で、湯気をたてる業務用鍋から小瑠璃は忙しそうに離れられないでいる。
「ちょっと待ってえな。ほら、皆、順番に並んでやぁ? まだまだ有るで?」
「僕のんはゴボウ多めにしてや。ネギはちょっとだけ」
「何いうてんのん、好き嫌いしてんのやない! うちのトン汁はなぁ、中身はみんな平等や!」
姐さんの啖呵に、客たちは首をすくめてお行儀よく並び、嬉しそうに味噌の香りのするお椀を受け取るのだった。
クリスマスツリーの森の中心部、切り株のテーブルと呼ばれる場所では皆が持ち寄ったごちそうでパーティーが開かれていたが、小嶋雄がそこを通りがかった。
サンタ服姿で銀幕市役所から託された銀幕市特製名所写真絵はがきを配り歩いていた雄は、人気CMキャラの実体化ということもあり、
「あ、『小嶋家のお兄さん』だーー!」
カレーの鍋に行列したり、無敵のおばちゃんに煮物を食べさせられたりしていた人々が注目し、雄はさっそくパーティー席に引っぱり込まれた。
しかも雄、営業マンだけあって人当りがいい。
「大根の煮物ですか、いただきます。あ、これは出汁が効いて……」
どうやらCMでみたとおりの好人物らしいと見てか、周囲の人々が雄にいろんな料理を持ってくる。
「黒豆食べません?」
「甘納豆は? 豆、好きでしょ?」
既成事実といわんばかりに人々は雄に豆菓子や豆料理ばっかり食べさせようとする。特に好きではない豆料理を、断れずに口にする雄だが、
「俺って、なんで豆料理の差し入ればっかりもらうんだろう?」
とのちに親しい友人たちに漏らしていたようだ。
鳩だからですよという返事を、関係者達はぐっと飲み込(略)。
なぜサンタ服なのかと市民に問われて、
「このサンタ服ですか、市役所が貸し出してましてね。市役所の人に、神社関係の行事の方が似合うみたいなこと言われたんですけど、そうですか?」
「……いやいや似合ってますよ」
その「……」はなんだ、という一抹の疑問はあったものの、雄は嬉しそうに携帯電話を取り出し、サンタ服を着た自分の写真や花火をくわえて空を翔けるルドルフ、ツインドリル雪だるまを作ろうとしている沙紀、小さな雪うさぎ兄弟をつかまえようと駆け回っているコーディ、などを撮影し始めた。
ブログにUPしてかまいませんかと念を押しているところを見ると、雄はなかなかのこまめなブロガーであるらしい。
写真を撮るうちに、ブログいつも拝見してます、楽しみにしてますと声をかけてくる市民たちもいて。
雄はノッてきたのか、ついに「ハト☆ダンス」を披露。
ハトのように首の柔軟な動きがポイントとなるこのダンス、CM中でも人気が高く、振りもすでに知っている人が多かったため、一緒に踊りだす人も。
♪POPOPO POPOPO
だがダンスは雄の特技であると同時に、特殊能力でもあった。
もちろん周囲は彼のロケーションエリアと化し、クリスマスの森にミラーボール出現、地面には五色に輝くフットライトが光りだす。
かくて銀幕市のクリスマスはダンスフィーバーで締めくくられた……らしい。
くるっぽー。
そして後日……
サンタ服を返しに市役所に現われた雄、縁、コーディ、香玖耶、真船、リャナ、小瑠璃、沙紀を、市役所員はニコニコ顔で出迎えた。
「お疲れ様でした。いやー本格派のトナカイに美女美少女サンタ、癒し系おじさまサンタとは、銀幕市住民冥利につきますな」
「美女美少女って、私が数に入ってないみたいじゃん」
縁がふくれるが、実は、冷気で頬がほんのり紅らんで、瞳は高揚のためきらきらと、本人が気づかないだけで、本当は……
「いや美少女ですとも! 黙ってる時と食べてない時」
一人の市役所員が力説し、微妙に墓穴を掘った。
「……って何か? 私が大食いでしゃべり過ぎだってこと?」
縁の問いかけに、市役所員は、
「そうですねぇ、おしゃべりは女の子の特権としても、まあ大食い女王って言えば『銀幕ジャーナル』のあの写真で……へぶっ! あがっ、ネクタイはなひへ! ぐ、ぐるじい!」
まあなんだ、空気嫁。
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クリエイターコメント | クリスマスに間に合わず涙目でしたが、楽しく書かせていただきました。小田切こんなクリスマスに行きたかったっすよ! ミニスカで!(ヤメレ 弄り過ぎな予感もありますが、小田切にとって愛と弄りは同義語です。特に女子高生さんは褒めたり大食い言われたりいろいろスミマセン。 ※このパーティーシナリオは、イベントに関連した特別なシナリオですので、ノベルの文字数が規定以上になっています。
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公開日時 | 2009-01-08(木) 18:30 |
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