★ Crossover ★
クリエイター陸海くぅ(whxr5851)
管理番号458-4931 オファー日2008-10-11(土) 20:56
オファーPC 黒光(ctmb7023) ムービースター 男 18歳 世界の外側に立つ者
ゲストPC1 白闇(cdtc5821) ムービースター 男 19歳 世界の外側に立つ者
<ノベル>

 白く美しい髪を風に揺らせながら男が一人、聖林通りを歩いている。ゆっくりと歩く男のその瞳には、物珍しさと不安が同居しているような、そんな光が宿っている。
「本当に私の知る世界ではないようだな、ここは」
 ポツリと呟き、辺りを少し見回して再び歩き出す。先ほどから、これの繰り返しであった。
 いつもの時間に、いつもの道を通って、いつものように仕事に赴く。そのはずだった。しかし、気が付くと彼――白闇――はここにいた。
(『世界の外側に立つ者』になって長いけど……まさか、本当に世界の外側に来るとは思ってなかったな)
 それが、白闇がこちらの世界に辿り着いた後の率直な感想であった。
 さて……と白闇は思案する。幾千・幾万の知識を持っているとは言うものの、さすがに別世界の知識があるわけではない。まずは情報収集とばかりに歩き始めた彼の視界に一つの看板が入ってきた。
 “銀幕市役所 100m先の交差点を左に入ってすぐ”
(役所というからには、公的な機関なのだろう。すると銀幕というのがここの名前なのか? どちらにせよ、行ってみる価値はある……か)
 心の中でそう結論を出して、白闇は銀幕市役所へと向かって歩き始めた。


「……ここはどこだ?」
 緑に囲まれた、木々の揺れる公園。その中にあって一人、呆然と佇みながら呟く男が一人。
「俺は黒光。いつものように仕事場の書店に向かう途中だった。うん、それは間違いない」
 何かを確認するかのように、ポツリポツリと呟き続ける。
「で、いつも通る公園に差し掛かったところで光のようなものに包まれて……そして、ここだ」
 一つ一つ指差し確認で思い出しながらそう言うと、黒光は辺りを見回す。
「いつもの公園に似てはいる……が、やはりここは違うな。…………あ、そうだ! 白闇は? 白闇はどこだ!?」
 突然思い出したように、先程とは違って激しく辺りを見渡す。しかし、そこに彼の知っている顔はなかった。あるのは、奇妙な行動をし続ける彼を、様子を見るように見つめるいくつかの知らない顔ばかりだった。
「とにかく、移動しよう。このままここいにても時間の無駄そうだし」
 黒光は公園を後にして歩いた。ここがどこなのかもわからない彼にとって、歩く以外の状況把握法が思いつかなかったのだ。
 それから数刻。いつの間にか目的が状況の把握から白闇の捜索になっているなんて事には、本人はまったく気付いていなかった。そもそも、白闇も自分と同じようにこっちに来ている保障など、どこにもないというのに。
 いや、彼も目的が変わっている事や白闇が来ていないかもしれない事に或いは心のどこかで気付いているのかもしれない。ただ、それに気付かないフリをしているのだ。たった一人、彼を知る者のいない世界に放り出されたのではないか? という不安が正常な思考力を失わせているのだ。
「不安……? 永劫ともいえる時間を生き続ける運命のこの俺が、不安だって?」
 チクチクと心の隅をつつくその気持ちに、自分に言い聞かせる如く声を出す黒光。『言霊』という言葉があるように、言葉には力が宿っている。それを知っているからこそ、声に出すことで自分の中にある不安を拭い去ろうとしたのだ。
「……よしっ!」
 気合の言葉と共に再び歩き出す。
 歩き始めてしばらくすると黒光の前に大きな建物が姿を現した。ひっきりなしに人が出入りしている玄関の上には大きくこう書かれていた。
 “銀幕市役所”
 役所ならば、何らかの情報が入手できるだろう。黒光は多少悩んだ末、そう決断して市役所内へと足を踏み入れた。
(さて、どこへ行くべきか……)
 建物内に入ったはいいが、どうすればいいかと黒光が思案していると、ある案内表示が目に入った。そこには“初めて銀幕市に来られた方は住民登録係へ”という文字と矢印が記されていた。
「郷に入りては郷に従えと言うし……」
 言うと、黒光は案内表示にしたがって歩き始めた。
「ようこそ銀幕市へ! 住民登録ですね? お名前は……黒光様? あ、ムービースターの方ですね。役柄は? 『世界の外側に立つ者』……と。はい、登録完了いたしました。ではいくつかの注意事項を申し上げさせていただきます。これは銀幕市に滞在するに当たって重要な事項ですので、しっかりと覚えて置いてください。あ、心配しなくても大丈夫ですよ。そう難しい事じゃないですから。まずは…………」
 住民登録係の窓口にいた男が、まくし立てるように本当にわかりやすく当たり前の注意事項をいくつか言い終わると、大きく息をついた。疲れるほど話し続けなければいいのに……と思ったが、黒光は言わないでおいた。
「あー、そういえば」
 一呼吸おいた後、窓口の男が口を開く。
「先ほど、貴方とまったく同じように、役柄を『世界の外側に立つ者』と答えた方がいらっしゃいましたよ」
 世間話のような口調で話し始めた男だったが、それは黒光にとっては重大な話だった。
「白闇だ! それで、白闇……いや、その人は今どこに!?」
「え……あ……その方も住民登録して、その後すぐに市役所を出て行かれたみたいですけど。ほんの数分前ですから、ひょっとしたらまだその辺りにいらっしゃるかもしれま……」
 窓口の男の言葉を聞くのもそこそこに、黒光は急いで入り口まで走った。白闇がこっちに来ている。その事で黒光は頭が一杯だった。
 勢い良く市役所を飛び出し、白闇を探して辺りをキョロキョロと見回す。が、どうやら視界に入る距離にはいないらしく、見覚えのある白い髪を見つける事はできなかった。
(白闇……!)
 心の中でそう叫び、黒光は走り出した。闇雲に走り続け、どこをどう来たのかさえ覚えていない。
 何故白闇を見つけられないのか。足を止めてそう思った時、今いる場所に見覚えがある事に気付いた。ゆっくりと、黒光が歩き出す。
 公園……結局戻ってきたのか。そんな思いを胸に、公園内へ足を向ける。
(そう、丁度あの辺りが、俺が最初にいた場所だ)
 視線を上げる。黒光がこの世界へやってきて一番最初に立っていた場所。今、そこには人が一人、立っていた。
(あれ……は)
 見覚えのある、白い髪。もう一人の『世界の外側に立つ者』……。
「白闇!」
 叫んで、黒光は駆け出した。向こうも彼に気付いたようで、走りよってくる。


「じゃあ、俺の時とそんなに違いはなかったんだな」
 公園の芝生に腰を下ろし、黒光と白闇はお互いがこちらの世界、即ち銀幕市へやってきた経緯を話し合った。『気付いたら、こっちに来ていた』というのが、二人に共通した実体化の瞬間の記憶だった。
 黒光が銀幕市を彷徨っている間、白闇は情報収集をしていたようで、この銀幕市では自分たちは映画の登場人物である事やそれが何故か実体化している現実がある事、それでも映画の登場人物――ムービースターたち――は、なるべく穏便に銀幕市で生活をしている事などを黒光に話した。映画が実体化することで事件が起こったり迷惑がかかったりしている場合もあるけどね、と付け加えてはいたが。
「とにかく、まずは住む所と仕事を探さないと。私たちの世界でも、この銀幕市でも、生活するのにお金が要ることに違いはないんだから。それで、これからの行動の指標だけど、まずは……」
 現実的な問題を話し出す白闇。反面黒光は安心していた。銀幕市で生活していけるのかという事も生活費の不安も、今の黒光には些細な事だった。
 自分の側に白闇がいる。共に歩んでいける。ただそれだけで、黒光は安心できた…………。

クリエイターコメントいかにして白闇さんの出番を多くするかで悩みました。それでも多少黒光さんの出番の方が多かったでしょうか。
考え甲斐のある話をありがとうございました。また機会があれば、よろしくお願いいたしますね♪
公開日時2008-10-15(水) 18:20
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