★ そうじきぞうさん ★
<オープニング>

 高台から見下ろす銀幕市。
 質素ではあるが、今宵も美しい。
 ぼんやりと通路を照らす街灯。
 満天の星空、浮かぶ銀の月。
 初夏の風を頬に感じて……何て素敵な夜。

 って、酔いしれてる場合じゃない。
 うん。やっぱり変だ。
 変でしょ、これ。絶対に。
 確認すれば、時刻は七時半。
 本来なら、鳥のさえずりが聞こえる時間。
 朝。そう、朝なの。

 なのに、何で? 何で真っ暗なの?

種別名シナリオ 管理番号624
クリエイター櫻井かのと(wdhu3592)
クリエイターコメント 夜明けず事件。
 七時半だというのに真っ暗。
 ちょっと早起き出来たのが嬉しくて、
 ウキウキで部屋のカーテンを開けたのに、真っ暗。
 しかも、どういうわけか家族(あるいは同居人?)は、
 全員ぐっすり眠っています。熟睡中です。
 ※一人暮らしの場合は、ペットだったりバッキーだったり。
 叩いても、ゆすっても起きません。
 何事かと外に出たものの、静寂。
 誰一人、歩いていません。
 高台に登り、確認してみたものの、やはり真っ暗です。
 一体、何が起きているのか。

 同じように目を覚まして高台に赴く住人は、全三名。
 選ばれし三名様。この事件を解明して下さい。

 ヒント ---
 ・三名が合流した直後、
  巨大な掃除機を持った少女が目の前を駆けていきます。
 ・うさぎの着ぐるみのようなものを纏っている少女。十二歳くらい?
 ・アニメ映画 『そうじきぞうさん』※幼児向け
   ⇒ 主人公の悪魔少女は、太陽の光が嫌い
   ⇒ 太陽を巨大な掃除機で吸い取ってしまう
   ⇒ 映画では、反省して謝り、太陽を元に戻す

参加者
香玖耶・アリシエート(cndp1220) ムービースター 女 25歳 トラブル・バスター
真船 恭一(ccvr4312) ムービーファン 男 42歳 小学校教師
フェレニー(csap5186) ムービースター 女 8歳 幼き吸血鬼
<ノベル>

「ふぁぁぁ……」
 大きな欠伸をして、のそのそと起き上がったフェレニー。
 隣には、大好きなパパ。パパの手元には、昨晩、途中まで読んで聞かせてくれた絵本。
 コシコシと目を擦り、フェレニーはカーテンを開けた。
 今日の朝ごはんは、何かな。トーストにブルーベリージャム?
 それとも、和風に、お味噌汁と納豆? もしかして、昨日のカレー?
 朝食、パパと一緒に過ごす大切な時間の一つ。
 フェレニーにとって、それは、かけがえのない楽しい時間だ。
 そんなことを考えつつ、ワクワクしながらカーテンを開けた。
 だが、窓の外、飛び込む光景に、彼女はピタリと動きを止めて、ニ、三度の瞬き。
 どういうことだ。外が、真っ暗ではないか。
 もしかして、早起きし過ぎた? いやいや、まさか。
 いつも、決まった時間に目を覚ます体質なのだ。
 時計を確認してみれば、やはり、時刻は午前七時。
 おかしい……そう思ったフェレニーは、タタッとパパに駆け寄り、頬を叩いた。
「ねぇ、パパ。朝なのに暗いの。ねぇ、パパってば」
 ペチペチと何度も頬を叩いてみるものの、反応なし。
 大好きなパパは、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。
 熟睡している、にしては、度が過ぎているような気がする。
 ちょっと身体を揺すれば、いつもパッと目を覚ますのに。
 おかしい……おかしなことばかりだ。
 異変、そして事件の匂い。
 それを嗅ぎ取ったフェレニーは、いそいそと可愛らしい服に着替えた。
 そして、大きなうさぎのヌイグルミを持ったまま、外へ。

 おかしいよな。これは、うん。絶対におかしい。
 腕を組み、自宅をウロウロしている男。真船 恭一。
 彼もまた、この異変に首を傾げている一人だ。
 いつものように、きっちりと七時に目を覚ました。
 目覚まし時計で起きた。あぁ、いつもどおりさ。
 それなのに、どういうことか。外が、真っ暗ではないか。
 小学校にて、教鞭をとっている彼は、今日も今日とて、準備をしていた。
 授業で使う予定の、手作り資料集を鞄に詰めて、生徒達の笑顔を想像しては微笑み。
 皆、喜んで、楽しんでくれると有り難いんだがなぁ……。
 だが、準備の途中で恭一はハッと気付いた。
 今日は、日曜日ではないか。学校は、お休みではないか。
 何をやってるんだか……と、自分に苦笑した恭一。
 今日が初めてのことではない。彼は、何度か同じ失敗をしている。
 真面目ゆえに、とも言えるが、ただ単に、ちょっとヌけているところがあるようで。
 休日出勤してしまいそうになった時、そんな彼を見てクスクス笑う女性がいる。
 そう、いつもなら。妻が、何やってるのよと笑うのだ。
 だが、おかしなことに、その妻は、いまだに夢の中。
 いつもなら、自分よりも早く起きて朝食の支度やら、掃除やらをしているのに。
 疲れているのだろうか、始めのうちは、そう思っていた。
 よし、今日は俺が朝食を作ろう、そう意気込みもした。
 けれど、その決意と裏腹に、外では異変が起きていた。
 窓の外から見やれば、街を闇が包んでいたのだ。
 家中の時計を、しらみつぶしに確認したのだが、どれも一緒。
 時刻は、間違いなく、午前七時を示している。
 何度、身体を揺すっても起きない妻に危機を感じ、救急車を呼ぼうとした矢先のことだ。
 背後から聞こえた波のような音に振り返って、彼は『不自然』な有様に気付く。
 波のような音は、さきほど点けたテレビから。
 ニュースなり朝のアニメなり、この時間なら、確実に何か番組が放映されているはずだ。
 それなのに、どのチャンネルも、ザザーッと波を放つのみ。
 おかしい。これは、おかしい。絶対に、おかしい。
 異変、そして事件の匂い。
 それを嗅ぎ取った恭一は、お気に入りの白衣を纏い、外へ。

 *

 高台から見下ろす銀幕市。時刻は、午前七時半。
 それなのに、どういうことか、街は暗く、ポツポツと外灯が灯っているだけ。
 人が行き交う様もなく、風の音だけが響いて、それが止めば、静寂。
 一人暮らしをしていて、いつものように目覚めた女性、香玖耶・アリシエート。
 彼女も、この異変に首を傾げている一人。
 精霊の音が、いつもより、ざわめいている。
 どうしたの、と声をかけてみても、何を言っているのか理解らない。
 彼等の言葉を聞き取れないなんて、初めてのことだ。
 いや、正確には、聞き取れないわけではない。
 ただ、彼等の放つ音が、支離滅裂なだけ。
 例えて言うなれば、そう、まるで寝言のような……。
 異変を感じ取った香玖耶は、一人、高台へ赴き、うーん……と首を傾げていた。
 そんな彼女のもとへ、駆け寄ってくる人物が二人。
「おっ。動いてるな」
「やっと、見つけた……」
 駆け寄って来たのは、フェレニーと恭一だ。
 二人は、街中を駆け回り、異変を自分の目で確認していた。
 誰も歩いていない、まるでゴーストタウンのような銀幕市。
 誰か、話せる人物は、自分と同じように起きて、動いている人物はいないか。
 それを求めた結果、彼等は高台で合流を果たした。
 誰が集合をかけたわけでもない。あそこになら、誰かいるかも、とも思っていない。
 ただ、何となく足を運んだ、その先で合流したことは、奇跡と言えるだろう。
「いやいや、参ったな。あぁ、俺は真舟 恭一だ。よろしくな、同士さん達」
 参ったね、とは言っているものの、笑顔を浮かべて言った恭一。
 だが、彼のその言動が、不安や恐怖をサッと取り払った。
 フェレニーと香玖耶も、後に続いて自己紹介。
 真っ暗すぎて、互いの顔がわからないからと、香玖耶は精霊を召喚した。
 陽光の精霊『ルース』 召び出された途端、精霊の眩い光が周囲を照らす。
「どうすれば、いいのかな」
 うさぎのヌイグルミをギュッと抱いて、首を傾げたフェレニー。
 香玖耶は、再び銀幕市を見下ろして、呟くように言った。
「悪戯……にしては、度が過ぎるわよね」
「だな。まぁ、悪戯的には、かなりハイクオリティだが」
 苦笑し、ベンチに腰を下ろして言った恭一。
 同じように、この異変に首を傾げている人物が三人、合流を果たした。
 だが、これから、どうすべきか。原因やら犯人やら、一切が不明だ。
 また、犯人の目的も、さっぱり理解らない。
 真っ暗にする理由、朝にしたくない理由でもあるのだろうか。
 何にせよ、犯人を見つけ出して、直接聞かないことには、どうにもならないな。
 その結論に行き着き、三人は手分けして犯人捕獲へと乗り出した。
 だが、たった三人で捜索するのは、ちょっと無理があるのではないか。
 長期戦覚悟で取り組もうと、三人は作戦会議。
 夜が明けないイコール、犯人は夜を好む?
 もしかしたら、モンスター的な存在が犯人かも?
 だとすれば、単独で動くのは危険かもしれないな?
 あれこれと意見交換している三人。その背後から、妙な声が聞こえてきた。
「げっ!」
 驚くような、不快を露わにするような、たった一言。
 パッと同時に振り返った三人は、また同時に、可笑しな少女を視界に捉える。
 その少女は、白い、うさぎの着ぐるみを纏っていた。
 少女の傍には、戦車のようなデザインの巨大な掃除機も確認できる。
「大きい、うさぎさんだ……」
 ポツリとフェレニーが呟いた瞬間。少女は、一目散に逃げ出した。
 巨大な掃除機を引き摺る、ガラガラという音が響き渡る。
 可笑しな少女の出現に呆けていた、恭一と香玖耶。
 あからさまに怪しいではないか。姿格好はともかく、逃げたことが何よりも。
 一行は、慌てて少女の後を追った。

「待ちなさいっ。ちょっとっ」
「足、速いね」
 全力疾走で少女を追いかける香玖耶とフェレニー。
 恭一は一人、二人の後を追うように走っている。
(速いのは、お嬢さん方も一緒ですよ。はぁ〜……歳はとりたくないねぇ)
 必死に追いかけるものの、少女の逃げ足は半端ない。
 また、少女も必死に逃げている為、それに合わせて巨大な掃除機が出す騒音も酷い。
 近所迷惑とか、そういう問題ではない。心なしか、地が揺れているような気さえも。
 このままでは埒も夜も明かない。そう判断した香玖耶は、風の精霊を召喚しようとした。
 スピードを誇る風の精霊ならば、きっと、即座に捕えられるはずだ。
 そう思い、ポッと風の精霊を召喚してみた。のだが。
 残念なことに、風の精霊も深い眠りの中にいるようで。
 出現してはくれたものの、ぐぅぐぅと鼾をかいている。
(…………)
 可愛らしい精霊の寝顔に苦笑する香玖耶。フェレニーは、可愛い……と見惚れている状態だ。
 ほのぼのとした雰囲気に、二人の時間が一瞬、止まったときが好機。
 少女はピタリと立ち止まり、掃除機のスイッチをオンにした。
 グオオオオと鳴り響く音は、掃除機の音ではない。悪魔の鳴き声のようだ。
「そいつ、邪魔だから。飲んじゃうよ〜!」
 クスリと笑い、少女が掃除機を向けたのは、精霊『ルース』
 眩い光を放っているのが、彼女にとっては『邪魔』という見解にあるようだ。
 まずい。即座に、そう判断した香玖耶は、慌てて精霊を戻す。
 ヒュッと消えた精霊を確認し、少女は「ちぇっ」と舌打ちした。
 まぁ、いいんだけどね。いなくなれば、それでよし。
 それにしても、しつっこいなぁ、こいつら。
 全員、飲んじゃおうかな。うーん。でもなぁ、人間を飲むと壊れるんだよね。
 どうしようかなぁ。このまま逃げ続けてもいいけど、疲れるし。
 あぅ〜。めんどくさいなぁ。っていうか、どうして寝てないのさ、こいつらってば。
 ひとまず逃亡再開と、駆け出した少女。
 そんな少女の背後に迫る……巨大な蝙蝠。
「!?」
 ハッと気付いた時には、既に手遅れ。
 巨大な蝙蝠は、フェレニーが影を特変させて放った存在だ。
 蝙蝠は上空から、大きな翼を広げて、少女を覆い包んだ。
 スッポリと包み込まれ、身動きの取れない少女。
 ジタバタと、もがいてはいるようだが、脱出することは出来ない。
 犯人らしき少女の捕獲が完了すると同時に、恭一が追いついた。
「つ、捕まえたか……」
 肩を揺らして笑う恭一。早朝の全力疾走は、低血圧な人間には酷すぎる。
 
 *

「出せー! 出せってばー! 飲むぞ! おまえら全員、飲んじゃうぞ!」
 ギャーギャーと文句を言いつつ、ジタバタと暴れている少女。
 束縛したまま問い尋ねれば、少女もまた、ムービースターであることが理解った。
 誰もが一度は目に耳にしたことがある、人気アニメ『そうじきぞうさん』
 その主人公である悪魔少女こそが、今、ジタバタもがいている、この少女だ。
 作品内で、少女は『太陽の光を嫌う悪魔』として描かれている。
 彼女が持っている掃除機は、嫌いな太陽を吸い込む、秘密兵器のようなものだ。
 実体化して早々、少女は作品と同じように、太陽を吸い込んでしまったのだろう。
 巨大な掃除機を確認すれば、それは明らかだ。
 真っ黒な掃除機の中、紅く輝いている光が確認できる。
「太陽の光って、暖かくて素敵だよ?」
 少女の前でしゃがみ、諭すように言い放ったフェレニー。
 ポカポカしてて、優しくて。元気になれちゃうんだよ。
 ひなたぼっことか、したことないの? あれ、凄く気持ち良いんだよ。
 それからね、太陽の下で食べる、お菓子やお弁当は最高に美味しいの。
 ピクニックとか、したことないの? あれ、凄く楽しいんだよ。
 それからね、それからね……。
 必死に、太陽の素晴らしさを伝えるフェレニー。
 彼女に続くかのように、恭一は言った。
「たった四人じゃ寂しいだろ。もっと友達、欲しくないかい?」
 実際に、自分で観たことはないが、子持ちの知り合いから話は聞いている。
 そうじきぞうさんは、大人でも楽しめるアニメなのだと。
 ゆえに、観てはおらずとも、作品の内容も、主人公である少女の目的も知っている。
 結末さえも知っているがこその、計らいだ。
 作品では最後、太陽を飲んでしまったが故に、人が消失してしまい、少女は一人ぼっちになる。
 その孤独に耐え切れず、太陽を元に戻すのだ。
 実体化して尚、作品と同じ行動に出た。
 それは、すなわち、結末も同じことになってしまうことを意味する。
 だが、こうして、俺達三人は、消失(睡眠)せずに、キミと接触できた。
 これは、すなわち、キミを救う為なんじゃないかと。俺は思うんだ。
 せっかく、外に出れたんだ。楽しく過ごしたいだろう? 友達、たくさん欲しいだろう?
 わからないのなら、教えてあげるよ。友達の作りかた。
 まぁ、教えずとも、俺達三人は、既にキミの友達だけどね。
 え? じゃあ、解放しやがれって? そうだね、矛盾してるね。
 でもね、太陽を元に戻してくれないと、解放できないんだ。
「困る人も、たくさんいるのよ?」
 恭一に続き、香玖耶が諭す。職業(?)柄、光を嫌うのは、やむなきこと。
 けれど、それを大っぴらにしちゃ駄目。
 この街には、あなた以外にも、たくさんに人が生きて、生活してるの。
 あなたと同じように、外に出てきた人も、彼等のファンである人も。
 皆、仲良く、手を取り合って生きているのよ。
 だからね、あなたも、その手を取らなくちゃ。
 ワガママばかり言ってちゃ、本当に、誰もいなくなっちゃうわよ?
 一人ぼっちは嫌でしょう? あなた、泣いてたじゃない。
 一人は怖いよ、って。泣いてたじゃない?
 私ね、観たのよ。あなたの泣き顔。
 たくさん泣いた後の、あなたの笑顔が最高だって、友達に薦められてね。
 三人に諭され、すっかり、おとなしくなった少女。
 恭一の言うとおり、少女は『理解らなかった』のだ。
 外に出てきたものの、どうすればいいのか、わからない。
 それならば、作品と同じように動くしかないではないか。
 そう、少女は、まっさらな状態だったのだ。
 同じように、悲しい結末になるかもしれない。それは何となく想定していた。
 それは嫌だなとは思っていたけれど、どうすればいいのか理解らない。
 結局、悲しい想いをするならば、外になんて出てきたくなかったのに。
 外に出たことを、後悔し始めた矢先、三人と遭遇した。
 げっ、とは言ったものの、内心、ちょっと、いや、かなり嬉しかったんだ。
 消失(睡眠)していない奴等がいる。何故なのかは、理解らないけど。
 実際、楽しかった。逃亡している最中、少女はワクワクしていた。
 彼女にとって、はじめての『おにごっこ』だったから。

 太陽の光は、やっぱり、どうしても嫌いで苦手。
 けれど、三人が、そこまで言うのなら、と少女は太陽を元に戻した。
 仕方ねぇな! と粋がってはいたものの、実際は照れ臭かったようだ。
 自分のことを考えてくれた三人の優しさが、くすぐったくて仕方なかった。
 眩く、優しく、暖かい、太陽の光に包まれた銀幕市。
 あたりまえの光景なのに、何故だろう。
 高台から見下ろした、明るい銀幕市は、いつもより美しく見えた。
 ワンディ日曜日、午前十時半。
 それぞれの自宅へ戻り、三人は所違えど、口を揃えて言った。
 フェレニーはパパに。恭一は妻に。香玖耶は精霊に。
 自分の帰りを待っていた、大切な存在へ。
「太陽は、好き?」

 *

 後日、三人は、揃って海へと赴く。
 そうじきぞうさんの主人公、悪魔少女『ミオ』を連れて。
 三人にプレゼントされた可愛い日傘に、ミオは大喜びするのだが。
 それはまた、別の御話。

 END


クリエイターコメントあれこれ作業が重なり、
製作期間を、めいっぱい使ってしまいました。
御待たせしました。気に入って頂ければ幸いです。
参加、ありがとうございました。 櫻井くろ
公開日時2008-07-15(火) 19:40
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