★ 【ピラミッドアタック】ファントム・ハンディング ★
<オープニング>

 ピラミッドは、ファラオの墓ではなかった――。
 考古学上、今日では、その説が有力視されている。しかし、それでは、一体何のためにに造られ、何を意味する建築物であったのか? 肝心なところは、いまだに解明されていない。太古の謎が人の夢とロマンをかき立て、ピラミッドやファラオの呪いを題材にした作品は、星の数ほど作られてきた。『ハムシーン 〜ナイル秘法伝説〜』なるアドベンチャー映画も、そのひとつだった。
 しかし、スクリーンの中に在り、観客を楽しませたこの映画の呪いとファラオも、銀幕市では現実のもの。
 突如、砂とともにあらわれたピラミッドの中に、好奇心に駆られた冒険者たちは潜りこみ、適度なスリルを味わった。そして、謎めいた財宝をみやげに持ち帰ったのである。
 嶋さくらも、その冒険に加わり、多大な思い出を作って帰路についていた。脳裏によみがえってくるのは、映画館やDVDだけでは味わえない、肌で感じる臨場感と緊張感。けっして安全な探索ではなかったが、彼女は行ったことに後悔などしていなかった。
「ゲームよりずっと面白かったわねえ。なんだか夢みたい。写真もいっぱい撮ったし、帰ったらブログ更新しなくっちゃ」
 ピンクのバッキーを撫でながら、さくらはピラミッドに背を向ける。
 不意に、彼女の腕の中で、バッキーがぴくりと耳を動かした。
「……え?」
 影が……、
 不穏な影が、さくらを包んだ。影には、黴と砂の臭いが混じっていた。

  愚かにも禁忌を冒せしものどもよ
  王の怒りが命ずるまま、死の翼にふれるべし――

 ピラミッドは鳴動し、震え、咆哮した。銀幕市の住民の中には、涙のようにこぼれ落ちる青い光と、黄金のマスクをかぶった王が身体を起こす、砂色混じりのヴィジョンを垣間見た者もいる。
 そして、遠い異国の、失われた文明の怒りと呪いが、砂嵐のように銀幕市を覆っていった。


 電話の呼び出し音と怒号が相次ぐ中、マルパスは机の上に資料を広げ、腕を組んで立っていた。彼がこうして働く事態が、また起きてしまったのだ。
「ピラミッド内部の探検にも参加していた嶋さくら君が、ミイラ兵士に拉致されていったという目撃情報がある。……我々は、あのピラミッドの主を刺激してしまったようだ。いや、この設定では、我々が手を出さなかったとしても、同様の事件が起きていたかもしれないが……」
 マルパスがそこで言葉を切る――その沈黙を見計らったかのようなタイミングで、植村が飛びこんできた。
「新しく情報が入りました! ナイトファントムです!」
「!」
「ナイトファントムがピラミッドの中に入っていくのを見たと、監視係から連絡が!」
「……彼は怪盗だ。ピラミッドの財宝を狙うのは、むしろ自然な行動だといえるだろうが……」
 マルパスは目を伏せて思案に暮れる。厄介ごとが重なってしまった。これまで、善意のムービースターやムービーファンに敵意を向け、血を見るほどの騒ぎを起こしてきた要注意人物だ。
 嶋さくらを救わなければならないが、ナイトファントムを捨て置くわけにはいかない。怪盗の意図はわからないが、さくら救出作戦の妨害でもされたら問題だ。
 現在、銀幕市各所で呪いによるものと見られる事件が多発している。ピラミッドだけに人員を向けるのは難しい。しかし、少数精鋭ならば……。
「よし。部隊をふたつ編成する。嶋君救出部隊と、ナイトファントム追跡部隊だ。どちらも危険な任務となる。無理強いはしない、覚悟と自信のある者は作戦に参加してほしい」



 駆けてゆく、駆けてゆく。
 マントを翻し、仮面の男はピラミッドの奥へと向かう。
「どうやら、邪魔者がやってきたらしいですね」
 振り返り、男は笑みを浮かべた。
「ようこそ、諸君。まさか、麗しのレディをそのままに、僕のところに来るなんて……なんて馬鹿な奴らなんだ」
 男は楽しげに話を続ける。
「いいのかい? こっちに来て。この先、諸君が欲しがるものは何も無い。あるのは生死を分ける危険な罠ばかりのルート。それでも挑もうというのなら、僕はもう止めない」
 いつの間にか男の笑みが消えていた。
「だが、この僕の行く手を阻むと言うのなら、容赦しない。死んでもいいというのなら別だがね」
 そして、戻ってくる笑み。
「……どうやら、君達は僕と勝負をしたいようだね……いいだろう。受けて立とう。だが」
 じゃらりと、銀色に輝くロザリオを取り出した。
「このロザリオが生み出すゾンビ達を倒せたら……ね」
 男の笑い声が響く。
 男は駆けていく、駆けていく。
 ロザリオの力を解放し、その場に多数のゾンビの群れを残して。

 男はまだ走っていた。
 様々な罠をかいくぐり、ペンライトを頼りに奥へと向かう。
「奴らには渡さない。このピラミッドの奥に眠る『女神の涙』……ブルーダイヤモンドを……」
 その囁きはピラミッドの影に溶けていった……。

種別名シナリオ 管理番号115
クリエイター水樹らな(wnym5638)
クリエイターコメントこんにちは。水樹らなです。
また、あのナイトファントムが動き出しました!
気になる方はぜひ、ご参加ください。
そうでない方でも大歓迎ですので、秘宝を手に入れる為に一緒にピラミッドでの冒険を楽しみましょう!

今回のシナリオはちょっと特殊になります。
下記のクリアしていただきたい項目を元に、プレイングを考えてみてください。
まず、クリアしていただきたいのは、
●目の前にいるゾンビの群れ(30匹程度)
●行く手を阻む様々な罠
●ナイトファントムとの対決
この3つになります。

最初の障害となるゾンビですが、動作が鈍いです。また、必ず倒さなくてはいけない相手ではありません。色々な方法でゾンビの群れを突破してください。

罠ですが、ナイトファントムの言うとおり、下手したら死んでしまうかもしれない、危険な罠ばかりです。
どんな罠をどんなふうに突破したいのか、良ければプレイングに書いていただけると助かります。
なお、罠は一人が罠を突破すれば、全員助かりますので、知恵を絞って頑張ってくださいね。

ナイトファントムとの対決ですが、ナイトファントムの後を追っていけば、先にナイトファントムが秘宝に辿り着いてしまいます。ナイトファントムが手に入れれば、大変な事になる事は明白。なんとかそれを阻止する為に、いろいろと対策していただけると幸いです。ナイトファントムと戦う場合は、ロザリオの力を忘れずに。それとナイトファントムと交渉するのもよいかもしれません。とはいっても、内容によっては………?
おまけに、秘宝までのルートは1本のようですが、それが全てではないことをこっそりお教えしておきますね。

ナイトファントムに勝つ、または出し抜くともれなく、女神の涙を手に入れる事ができます。
この宝石はとある女神像の涙として、像に填められています。取り外しは難しくないので、見つけたらすぐに取れるかと思いますので、頑張ってください。

それでは、皆さんの参加を楽しみに待っています!

参加者
八之 銀二(cwuh7563) ムービースター 男 37歳 元・ヤクザ(極道)
崎守 敏(cnhn2102) ムービースター 男 14歳 堕ちた魔神
レイエン・クーリドゥ(chth6196) ムービースター その他 20歳 世界の創り手
ゴーシェナイト(crfs7490) ムービースター 男 24歳 泥棒(絵画・宝石専門)
<ノベル>

▼ちょっとした誤算
「ようこそ、諸君。まさか、麗しのレディをそのままに、僕のところに来るなんて……なんて馬鹿な奴らなんだ」
 仮面の男は楽しげに話を続ける。
「いいのかい? こっちに来て」
 仮面の男、ナイトファントムの声に応えるは、銀髪を揺らす青年、ゴーシェナイト。
「そう、囚われのレディを差し置いてまで、貴方を追うことを決意したのですよ、ナイトファントム。私も一応は、怪盗の端くれですのでね」
 そう言ってゴーシェナイトは優雅に一礼をする。
 ………ここだけの話、ゴーシェナイトの心の中では………。

 ――ん……? 何言ってるんだこいつ。おれは嶋さくら嬢のためにわざわざ出向いて……あれれ?
 ――うわ、しまった間違えたあー!

 来るべき場所を間違えていたりする。けれど、それを他の者達に一切見せないところを見ると、流石は人を欺き盗みを働く者というべきだろうか。

「……どうやら、君達は僕と勝負をしたいようだね……いいだろう。受けて立とう。だが」
 じゃらりとナイトファントムは、銀色に輝くロザリオを取り出した。
「このロザリオが生み出すゾンビ達を倒せたら……ね」

 目の前に立ちはだかるは、生ける屍、ゾンビの大群。
 ゾンビ達の体には幾重にも薄汚れた包帯が捲かれていた。
 いや、ゾンビではなく、ミイラと呼んだ方が相応しいかもしれない。
「これは、困った事になったね」
 ゴーシェナイトの隣に現れたるは、可愛いトラ猫を抱く、レイエン・クーリドゥ。
 困ったと言いながらも、そんな表情を見せず、優しげな微笑でミイラ達を見つめていた。
「危ないっ!」
 そんなレイエンに襲い掛かろうとしたミイラを銀色の鞭で払ったのは、崎守 敏(サキモリ ビン)。
「ありがとう、私のために……」
 抱えていた猫はいつの間にか消えていた。恐らくレイエンが逃がしたのだろう。
 レイエンは敏に感謝を込めて微笑みかける。
 その隣で、ミイラを立て続けに3体ぶっ飛ばすのは、八之 銀二(ヤノ ギンジ)。
「そういえば、名前を聞いていなかったな。俺は八之銀二。よかったら、聞かせてくれ」
 その銀二の言葉に皆が応えた。
「初めまして。私はレイエン・クーリドゥ。どうぞよろしく」
 地にまで届く淡いプラチナブルーの髪を僅かに揺らしながら、レイエンはそう名を名乗った。
「私はゴーシェナイト」
 静かに名乗るのはゴーシェナイト。
「僕は崎守 敏! よろしくねっ!」
 ミイラを銀の鞭で叩きながら、敏はそう自己紹介する。
 これで一通り自己紹介が終わった。
 後は、目の前にいるミイラをどうするか、である。
「先に行け。俺もすぐに追いつく」
 始めに動き出したのは、銀二だった。
「ですが、それでは……」
 言いよどむレイエンに銀二は続ける。
「この中じゃ俺は足手纏いのようだしな。分相応のことをさせてもらうよ」
 既に銀二は『何か』を感じていた。
 銀二以外の3人には、この先の罠を軽く乗り越えられるほどの力、いやそれ以上の力を持っていると見抜いていたのだ。
 だからこそ、足手まといになりそうな銀二がここに残る決意をしたのだ。
「……ならば、約束を。必ず戻ると」
 揺るぎない決意にレイエンは、一つの約束を交わす。
「ああ、必ず」
 銀二はレイエンの言葉に頷いた。
「行こう、レイエンさん!」
「ええ」
 敏が鞭でミイラを転がし、出来た道をゴーシェナイトが走り抜ける。迫り来るミイラを避けているのか、それともミイラが近寄れないのか、レイエンは二人の後を静かに付いていく。
 銀二は3人を見送りながら、ミイラ達の前に立ちはだかった。
「さて、勝負はこれからだ……ナイトファントム」
 沢山のミイラを前に、銀二は勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


▼失われたキオク
 それは悲鳴から始まった。
「ファントムっ!!」
 亜麻色の長い髪を揺らしながら、必死に手を伸ばす女性。
「ティーアっ!!」
 仮面の男、ナイトファントムも咄嗟にその手を伸ばした。
 もう少し、もう少しで彼女の手に届く。

 ――悲劇はこうも悲しいものか。

 突如襲う激しい振動。壊れていく崖。ナイトファントムがいるその足場が崩れていく。
 届くはずの手は、彼女の手を掠めて。
 彼女は微笑みだけを残して、深く暗い谷底に飲まれていった。

「ティーアっ!!!」
 生き残ったのは、ナイトファントムただ一人。
「お前だけでも助けられてよかったよ」
 ナイトファントムを助けた男は、そう声を掛けた。
 だが、男は気付かなかった。
 ナイトファントムの哀しみの中に生まれた黒い闇に。
 深い深い……この谷よりも遥かに暗く、深い闇に。

「ありがとう、助けてくれて」
 ナイトファントムは微笑みながら、そう男に手を差し伸べた。
「そう言ってくれるとうれし………」
 男はナイトファントムの手に握られた、銀のナイフによって、心臓を抉られた。
「が、がはっ!!」
 崩れ落ちていく男。そして男は、一本のフィルムへと変貌した。
 そう、男は銀幕市に現れたムービースターの一人だったのだ。

「こんな男に僕は助けられたのか……」
 血塗られたナイフを振り、血を払い落とすと、足元に転がるフィルムを踏み潰した。
「お前さえいなければ」
 ナイトファントムはなおも呟く。
「お前さえいなければ、僕は彼女と共に往けたものをっ!!」

 失ったものはもう戻らない。
 生まれたものは、もう消えない。
 月影が深い闇に飲み込まれた………。


▼果て無き暗黒への入り口
 3人が突き進んだ先には、巨大な穴が立ちはだかっていた。
 いや、穴と言うより谷というべきか。
 道を遮るように暗い空間が横たわっていた。
 その距離、およそ5メートル。
 普通の人間がジャンプして辿り着ける距離ではないのは、明白であった。
「どうしましょうか?」
 ゴーシェナイトの言葉にいち早く動き出したのは、敏。
「大丈夫、これくらいなら、僕の腕輪で何とかなるよ」
 手に持っていた鞭が、一瞬で銀色の腕輪に変化した。
「すごいね……」
 レイエンが感心したように敏の腕輪を見つめる。
「まだまだ、これからだよ」
 敏の言うとおり、腕輪の変化はまだ終わらない。
 今度は腕輪に銛のように鋭い矢に変化した。その矢には、ワイヤーのようなものまで付いている。
「なるほど、それを打ち込むのですね」
 ゴーシェナイトの言葉通り、敏はワイヤーのついた矢を天井に打ち込んだ。このワイヤーを使って、向こう岸まで行こうという考えだ。
「レイエンさんと、ゴーシェナイトさん、どっちから行く?」
「お先にどうぞ」
 レイエンはすぐさまゴーシェナイトに先へ行くよう促した。
「ですが……」
 レイエンはにっこりと微笑み。
「大丈夫だよ。これくらい、飛んでいけますから」
 ワイヤーを使って落とし穴を渡っていく、敏とゴーシェナイト。
 その隣で、ふわーっと優雅に飛んでいくレイエン。
「なんだか僕ら、結構イイ感じだね!」
 敏の嬉しそうな言葉に2人は顔を見合わせ、微笑むのであった。


▼イミテーションが導く道
 道はまだ長く、ナイトファントムの影も見当たらない。
 もう先へと向かっているのか。
 それとも………。
「待ってくださいっ!!」
 いち早く『それ』に気付いたのは、ゴーシェナイト。
「何か?」
 レイエンが尋ねる。
「この先に何かがあります……少し待ってください」
 そう言ってゴーシェナイトは、ばっと腕を横に振る。それと同時にイミテーションの宝石がバッと道に転がった。
 しゅんしゅんしゅん。
 宝石の重さに反応し、壁から矢が放たれる。
「嫌な罠だよ……」
 むっとした表情で壁に突き刺さった矢を見つめる敏。
「反応する床とそうでない床。宝石を捲けば、その差は歴然。さあ、先を急ぎましょう」
 ゴーシェナイトの宝石に導かれるように、彼らは先へと急ぐ。
 途中、レイエンが罠の床を間違って踏んでしまったが、その手で矢をへし折って、大事に至らず。
 まだ、彼らの行く手には罠が待ち受けていた。

▼最後に待ち受けるモノ
「………えっと……どうする?」
 敏の目の前には巨大な石像があった。石で出来た鎧に身を包み、石で出来た重く巨大な剣と盾を持っている。
 扉はその像の奥に見えていた。
「扉まで駆け抜けるしかないでしょうね」
 ゴーシェナイトはいち早く、その罠を見抜いていた。
 だが、それをどう躱すかが問題であった。
 ゴーシェナイトはその足に自信があるため、問題ないだろう。
 問題は、残り2人。
 敏とレイエン。
 彼らをいかにして、扉まで行かせるか。
「私が囮となって、石像をひきつけ……」
「それには及ばないよ」
 静かに石像の前に向かうレイエン。
 同時に石像が動き出した。
 振るわれる剣。それを静かに微笑みながら見つめるレイエン。
「危ないっ!!」
 それは誰の声だったか。
 しかし、そこで奇跡は起きた。
「こんな危ないものを振るっては駄目だよ」
 レイエンは片手で、巨大な剣を受け止めたのだ。
「さあ、道を通して。私達は急いでいるんだから」
 ひょいっとその石像を抱え、道の端へと避けてしまった。
「これでもう大丈夫。行こう」
 そう手を差し伸べるレイエンにゴーシェナイトと敏は。
(彼を怒らせないようにしよう……)
 心の中でそう呟き、2人は顔を見合わせ、頷いたのだった。

▼女神の眠る場所
 扉の先にあったもの。
 それは美しい女神の像であった。
 女神は両手で小さなナイフを持って、祈るように天井を仰ぎ見ている。
 そして、ナイトファントムが言っていた通り、その顔には青いダイヤモンドが輝いていた。
 どうやら、ナイトファントムよりも先に辿り着けたらしい。
 3人は急いで、その宝石へと駆け寄る。
「遅かったね」
 女神像の前に立ちはだかるのは、あのナイトファントム。
「美しい宝石には意思が宿る。静かに眠っている宝石を、いかなる理由をもって起こそうとする?」
 レイエンは子供を見守る親のように優しい眼差しで問うた。
「理由? 決まっているよ……お前らみたいな連中を、全て消す為さ」
 くくくと笑いながら、ナイトファントムはそう答える。
「理由があるとしても、この宝石にその理屈が通じるかどうかはわからないよ。意思を持つとは、そういう事だもの」
「この僕に説教か? 下らない」
 そんなナイトファントムの言葉を遮るように。
「……記事で読んだけど紅の雫! 白銀のロザリオ! ……僕、わざわざ盗まなくても同じくらいの力出すの作れるよ?」
 敏が叫ぶように問いかける。
「……何を言っているんだ?」
 興味なさそうなナイトファントムに、敏は続ける。
「それなら、何で君はスターが嫌いなの? 僕とか君より強いから? 君が弱くなるから?」
「ああ、そうだよ。お前らのような奴らを見ると反吐が出るくらい、嫌いさ! そう……僕の……僕の大切なティーアを僕から奪ったお前らが憎いっ!!」
 しゅんとその手から、レイピアが生まれる。
「だから、秘宝を手に入れる前に、お前らを消してやる!」
 ナイトファントムの瞳が赤く光った。
「ならば、宣言しよう。『女神の涙』は必ず、この『銀幕オールスター総天然色冒険活劇隊』が奪取してみせる!」
 ゴーシェナイトが高らかに宣言する。一部、突込みが必要な発言があるようだが、今は見なかったことにしよう。
 こうして、3人とナイトファントムとの戦いが幕を開けた。

▼女神の涙
「さあ、目覚めよ。そして、目の前の者どもを蹴散らせっ!!」
 ナイトファントムはすぐさま、ロザリオの力を発動させ、またあのミイラ達を呼び出した。
『おおおおおお………』
 手を伸ばし、ミイラ達が3人に襲ってくる。
 しかも、先ほどのミイラよりも早く腕力も上がっているらしい。放たれる拳は、地面に穴を開けるほどであった。
「強くなったとはいえ、相手は死せる屍」
「私達の相手には」
「ちょっと頼りないよっ!!」
 ゴーシェナイトはその身軽さと器用さを巧みに使い、ミイラの包帯で、その動きを封じる。
 レイエンは自ら戦わない代わりに、自ら生み出したバリアのようなもので、行く手を阻んでいた。
 敏は銀の腕輪を鞭に変えて、ミイラを転ばしていく。
「くっ……やはりロザリオだけでは無理か?」
 ナイトファントムはすぐさま身を翻し、側にあった女神像の宝石を手に取る。
「ふっふっふっ……これで、この秘宝の力は我が物にっ!!」
 同時に凄まじい振動が彼らを襲う。
「むっ……これはどういうこと……」
 突然の振動にナイトファントムも驚きを隠せないでいた。
 その隙を敏は見逃さなかった。
「ねぇ、それが君の言う、麗しのレディ?」
 敏が手に持った小瓶。そこから放たれるは虹色の蝶。きらきらとナイトファントムの周りを漂い、そして。
「う、うわああああっ!!」
 そう、敏の放った虹色の蝶には、相手に幻覚を見せる効果があったのだ。
 その幻覚に驚き、ナイトファントムは手にしていた宝石、女神の涙を手放した。
「しまったっ!!」
 ゴーシェナイトはすぐさま手を伸ばすが、間一髪間に合わなかった。
 女神の涙はミイラ達のいる場所へと転がり。
「逃すかっ!!」
 ナイトファントムもその手を伸ばす。
「残念だったな」
 その手よりも早く、ミイラがその宝石を手に取った。
 いや、ミイラではない。
「き、貴様はあのときの……っ!!」
「騙すのは慣れてても、騙されるのは慣れてないようだな」
 顔に捲かれた包帯を解き、そこに現れた顔は。
「銀二さんっ!!」
「約束は守ったぜ」
 そういう銀二にレイエンは嬉しそうな笑みで頷き返した。
「あっと、それよりもだ。……久しいな夜の幻影。相変わらず宝石フェチなようで何よりだ」
「黙れっ!! それよりも、その宝石を僕に渡せっ!!」
 叫ぶナイトファントムに、銀二はにやりと笑みを浮かべ。
 手にしていた宝石を……飲み込んだ!!
「好きにはさせんよ。これがただの人間の俺に出来る十全だ」
「き、貴様、貴様らぁ………っ!!」
 一層、激しくなる振動。
 気が付けばミイラ達は消えていた。
 代わりに天井からいくつもの瓦礫が落ちてくる。
 それを躱しながら、銀二を加えた4人がナイトファントムと対峙する。
「もう、こんなこと止めよう。こんなことをしても、あなたの失った人は甦らないのだから」
 優しい声で、レイエンが話しかける。
「うるさい、黙れ黙れ!!」
 暴れるナイトファントム。
 と、先ほど、ミイラ達が消えた理由が、今、気付いた。
 そう、あの銀のロザリオが壊れていたのだ。
 どうやら、使用回数に限界があったようだ。もう、ミイラを呼び出すことは不可能だろう。
「くっ、瓦礫が多くなってきましたね。これ以上いると危険です。どうします?」
「どうするって言っても、今更、ここで帰ることなんて、出来ないよっ!!」
 ゴーシェナイトの言葉に、瓦礫を躱しながら敏が答える。それでも、ナイトファントムの攻撃は止めない。
「さあ、どうするナイトファントム。お前はここで消えるのか?」
 ナイトファントムを殴りつけ、銀二は問う。
「うるさいっ!! 貴様らを全員消してやる、全て、消してやるっ!!」
 そういうナイトファントムの唇の端からは、赤い血が落ちていた。
 と、一際大きな揺れが、再びこの地を襲った。

 がたーんっ!!

 激しい揺れで、女神像が倒れ、その手のナイフは。

「「ナイトファントムっ!!」」

 ナイトファントムの心臓を貫いた。
「がはっ!!」

 崩れるピラミッド。
 4人は傷ついたナイトファントムを運びながら、崩れていくピラミッドから脱出した。

▼儚き幻は塵のように
 外は思ったよりも静かだった。
 相変わらず揺れていたが、先ほどの揺れと比べると遥かに小さい。
 気付けば少し離れた所でピラミッドが崩れていくのが見えた。
「しっかりしてください、ナイトファントム!!」
 レイエンが声を掛けるが、もう間に合わないことがすぐにわかった。
 ごぼりと、どす黒い血を吐きながら、虚ろな瞳でナイトファントムは空を見上げた。
「…………」
 何かを呟いた後、そのままナイトファントムは、がくりと息を引き取った。
「最後の言葉は?」
「いいえ、聞き取れませんでした……」
 後に残されたのは、黒いボロボロのフィルムだけ。
「あっ……」
 レイエンがそのフィルムを抱きしめようとしたが、ほんの少し触っただけで崩れ去ってしまった。
「最後に抱きしめる事ができたら……」
 その言葉にそっと、敏が駆け寄り、レイエンを抱きしめた。レイエンも敏を抱きしめ返す。
「ところで……銀二さん」
 ゴーシェナイトが尋ねる。
「あん? なんだ?」
「あなたの飲み込んだ宝石って……これですか?」
 そういって、取り出したるは、あのブルーダイヤモンド。
「あ、ああああっ!? ど、どうやって!? 俺は確かに飲み込んだはず……」
「それは青いキャンディーですよ。きっとね」
「キャンディーって、お前……まさか、すり替えたのか!?」
「まさか飲み込むとは思いませんでしたが」
 そういう2人を見て、レイエンと敏は思わず、笑みを浮かべた。
 その瞳には、僅かに涙が滲んでいた。
 ゴーシェナイトが手にしていた宝石のように澄んだ青い涙が………。


 光が見える。
 遠い光。
 手を伸ばす。届かない。ああ、そういえば、僕は君を助けてあげられなかったね。
 光の中でくすくすと楽しげな声が聞こえた。
「今度は私の番よ、ファントム。いいえ……カイル」
 その声はどこか懐かしく、愛しい声のように感じた。
 光は微笑み、手を伸ばす。
「さあ、帰りましょう。私達の故郷へ」
 ああ、帰ろう。君と一緒なら何処へでも。
 光の手を取り、促されるまま、ゆっくりと歩いていく。
 なんて、懐かしいんだろう。なんて暖かいんだろう。
 なんて……幸せなんだろう。
 こんな気持ち、忘れていたように思う。
 けれど、もう、忘れなくていいんだね?
 ずっと、ずっと一緒なんだから。
 光は微笑む。
「おかえりなさい」
「ただいま、ティーア」



クリエイターコメント 皆さん、ご参加いただきありがとうございました。
 ゴーシェナイトさん、銀二さん、2度目の参加、ありがとうございます。
 敏さん、レイエンさん、初めまして。
 皆さん、今回のシナリオは楽しんでいただけましたでしょうか。
 銀二さんの行動には驚かされました。ゴーシェナイトさんの行動を見て、ちょっと笑ってしまいました。敏さんの持つアイテム、私も使ってみたいと思いました。そして、レイエンさんの慈愛に満ちた行動に胸を打たれました。皆さん、素敵な行動をありがとうございました。
 これで、ナイトファントムの一連の事件は終了となります。皆さんの思い通りになったかどうか、ちょっと気になるところではありますが、楽しんでいただけたのなら、幸いです。
 また、機会がありましたら、お会いしましょう。
 今回は参加していただき、ありがとうございました。
公開日時2007-05-16(水) 20:00
感想メールはこちらから