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<ノベル>
夕暮れ。
あと、ほんの少しの時間が経てば日は落ち、夜が訪れるだろう。
しかし、今日だけは、ただ日が暮れるのを待つ訳にはいかなかった。
何故なら、夕焼けの元に現れた災いを駆逐しなければ、平穏な夜はやってこないのだから。
対策課で集められた、4人は少年が襲われた場所へと、急いだ。
少年を襲ったものは、赤トンボ。
秋に見られる長い羽を持った昆虫。
特に害の無い虫。
だが、惨劇は実際に起こった。
襲われた少年は、今日は中央病院のベッドで過ごす。
これ以上、被害を出さない為、4人は急いだ。
そんな中。
「あれ?この前の文化祭で一緒だった、コレットさんとファレルさんじゃない?」
那由多が無邪気に二人に問いかける。
だが、その足は休めない。
「那由多さん、この前の文化祭は、楽しかったね。だけど今回は、あまり楽しくない仕事ね」
コレット・アイロニー がスカートを持ち上げながら走りつつ、那由多に言う。
そう言うコレットの背中には、ガードゲージが担がれていてその中には、コレットの友達、バッキーのトトが入っている。
「そうですね、この前の文化祭のような楽しい再会だったら良かったんですけどね」
そう言って、ファレル・クロスも答える。
「そうだよね〜。もう、怪我人も出ちゃってる。これ以上、僕の友達が怪我するのは嫌だから、僕は友達の安全の為に戦うよ」
那由多は拳に力を込める。
「それにしても真冬に蜻蛉…銀幕市ってホントに何でもアリだねぇ」
シュヴァルツ・ワールシュタットがしみじみと言う。
「広場に居た人はゴキブリがどうとか言ってたし、最近は虫の大量発生が流行ってるのかな?」
「そうね。虫の大量発生。嫌な予感しかしないわ」
コレットが言うと、ファレルが心配気に、
「大丈夫。コレットさん。私達が赤トンボを倒せば狂気の時間は終わるから」
「そうね、そうよね。頑張らなくっちゃ。仮にムービーハザードならトトに食べてもらえば一件落着だもの」
ファレルの励ましに、強い意志を込めるコレット。
「ありがとう。ファレル」
「いや、そんなことは……」
ファレルが照れていると、
「お二人さん、現場はもうすぐだよ。いちゃつくのはその辺にしておいた方がいいよ」
シュヴァルツがからかうように言う。
「いちゃつくって、そんな私は」
慌てるファレルをよそに、那由多がコレットに、
「コレットさんはファレルさんと恋人同士なの?」
無邪気に聞いてくる。
「そ、そんなこと無いわよ!ファレルは、私の良き理解者ってだけよ」
コレットも慌ててそう言う。
それを聞いたファレルの方が少し下がった気がした。
「で、これからどうする?真っ正面から全員で突っ込む?」
シュヴァルツが3人の顔を見渡す。
「私に考えがあるわ」
コレットが言うと、ファレルの顔が心配気になる。
「私、赤トンボの現れたマンホールから少し離れたマンホールから入って、下水道を進んで……トンボさんたちの出てくる場所を、確かめようと思うの!」
「それは、危険です!」
ファレルが強烈に反対する。
「だって、ムービーハザードなら、トトに食べてもらうのが一番手っ取り早いでしょ?」
「その前に、トンボ達が構えていたらどうする気ですか?それに、それだけでは、終わらない気がするんです」
「終わらないって?」
コレットがファレルに疑問符を投げかける。
「いえ、ただの感なのですが、赤トンボが襲ってくる映画など聞いたことがありませんし」
「そう言われてみれば、オレも無いなあ」
「僕もないー」
ファレルの発言に、シュヴァルツと那由多も思考を巡らせ答える。
「じゃあ、こうしよう。ファレル、君もコレットと一緒に近くのマンホールから、下水道に潜入するんだ。そうすれば、お姫様は守れるし、ムービーハザードならすぐに対応出来る」
「そうね。行きましょう。ファレル!」
「分かりました、一緒に行きます」
コレットの呼びかけに素直に、しかし何かを思っているかのような顔つきでファレルが頷く。
「シュヴァルツさん、僕達はどうするの?」
シュヴァルツの顔を覗き込むように那由多が尋ねる。
「那由多、君とオレは、このまま真っ直ぐ少年が襲われた、マンホールまで行って、外に出てきている赤トンボ達を全て根絶やしにするんだ。いいね?」
「うん。分かったよ。僕、頑張るよ!」
那由多が元気良く答える。
「それでは、二手に分かれることになりますが、気を付けていきましょう。それと、気休めかもしれませんが、私の力で皆さんに空気の壁を張らせてもらいます」
ファレルがそう言って、3人に1人ずつ空気の壁を纏わせる。
「ありがとう、ファレルさん。僕達も頑張るから、ファレルさんとコレットさんも負けないで」
「もちろんよ、那由多。夕陽が沈むまでに決着をつけようね」
コレットが微笑んで言った。
「それでは、もう少し走って二手に分かれましょう」
ファレルがそう言い、4人はまた走り出した。
★ ★ ★
夕焼けの中、飛ぶ沢山の赤トンボ。
平時ならば純粋に綺麗だと思っただろう。
……その本性を知らなければ。
「タダで食べられる食料が増えてくれるのはオレとしては有り難かったりするんだけど…」
シュヴァルツがそう言うと、那由多が、
「シュヴァルツさん、トンボなんて食べるの?」
と、那由多が不思議そうに聞いてくる。
「虫は、美味しいんだよ。生が一番かな?」
「えーっ、僕は金平糖の方がいいよー。それに、このトンボ達、普通の昆虫なのかな?」
「どうかな?まあ、食べてみれば分かるでしょ」
そう言う、シュヴァルツの声は、危機感に乏しい。
「それじゃ、戦闘開始だね。おっきいやつも居るはずだから、気を付けなきゃ」
そう言いながら那由多は、自分の妖刀二本を小刀に変化させ、二刀流の構えを取った。
そして残り三本の妖刀は、鎧に変化させる。
シュヴァルツは、硬質の糸を出す。
「じゃ、行くよ。那由多!」
「うん!」
戦闘態勢を調えた二人は、赤トンボ達に向かって走り出す。
それに気付いた悠々と飛んでいた赤トンボの群が、狂気の本性を出して、襲いかかってくる。
牙を剥き出しにし、硬質の羽は夕陽に煌めいて輝いている。
「話通りだ。こんな危険な奴等が居たら僕の友達達がまた傷つくことになる。絶対倒さなきゃ!」
言いながら、那由多は小刀をトンボ達に振り下ろす。
『ベチャ』
嫌な音を上げて、赤トンボが地面に叩きつけられると、黒い炭のようになり、崩れ去った。
「!」
崩れ去る。
「フィルムにならないよ!何だ、こいつ等!シュヴァルツさん!」
動揺する、那由多。
シュヴァルツは、硬質の糸を網状にして一斉に捕まえると、それを一気に潰した。
その、網から零れ落ちるのは、黒い炭のようなものばかり。
「これは……」
そう言って、シュヴァルツは襲ってくる赤トンボの一匹を手掴みした。
ファレルが纏わせてくれた空気の壁のお陰で、赤トンボのカッターナイフのような長い羽で手が傷つくことはない。
そしてシュヴァルツは、一匹のトンボを口に入れた。
噛み砕く。
だがそれは、食感が無く、消し炭を食べているようだった。
消し炭となった、赤トンボを吐き出すシュヴァルツ。
こんな生き物を自分は知っている。
「シュヴァルツさん!」
「那由多!急いで、ここのトンボ達を蹴散らすんだ!こいつ等は、ただの赤トンボでもムービーハザードでも無い!こいつ等は……ディスペアーだ」
「えっ!ディスペアーって、魚の形をして居るんじゃないの!?」
「分からない。だけど、間違いなくディスペアーだ」
そこでシュヴァルツは、思い出す。
「マズイ!ファレルが危ない!こいつ等がディスペアーって事は、何処かにネガティヴゾーンの入り口があるんだ。このまま近づいたら、負のエネルギーでムービーキラー化するよ」
シュヴァルツが深刻な顔で、那由多に告げる。
「そんな!じゃあ、早く助けに行かなきゃ!ネガティヴゾーンの入り口ってバッキーじゃ塞げないんでしょ!」
那由多の問にゆっくり頷くシュヴァルツ。
「チッ!のんびり、昆虫食べ放題かと思ったら厄介なことになったな」
シュヴァルツが考えていると、那由多がマンホールを指差し、
「シュヴァルツさん!あいつ!」
そこには、赤い赤い赤トンボ。
その大きさは通常の5倍程の赤トンボが潜んでいた。
指を差されると意志が伝わったのか、マンホールから勢いよく出てくると、その長い羽をヴヴーンとはためかせる。
「こいつがちょっと大きいやつね。時間がないのに!那由多、早くこいつをやっつけて、ファレル達の所へ行くんだ。こいつ等がディスペアーならいくら倒しても多分キリがない!」
「分かったよ、シュヴァルツさん!全力で行くよ!」
赤トンボの集団をくぐり抜け、巨大赤トンボに斬りかかろうとする、那由多。
「待っててよファレルさん!」
★ ★ ★
一方その頃、下水道内では。
「下水道の中で増殖するなど、ゴキブリ並に繁殖能力が強い蜻蛉ですね」
「そうね、トンボさんが、喋れたら、一番いいんだけどなあ・・・。そうしたら、どうしてこんなことになってるのか、聞くことが出来るのに。・・・少しだけ、お話しようとしてみようかな?」
ファレルが言うとコレットがファレルが思いもしなかったことを言う。
コレットは、下水道に入る前に他の小さなマンホールから蓋を拝借して盾のようにしている。
「多分、話は出来ませんよ。昆虫ですから」
「あら、昆虫や動物がお話しする映画って結構多いのよ」
ファレルの発言をコレットが訂正する。
「そうですか。それにしてもコレットさん。なんだか匂いがきつくありませんか?」
「それは、下水道ですもの多少匂いは、キツイわよ。あら、ファレル。あなた顔色真っ青よ。気分悪いの?」
コレットが、ファレルの顔を覗き込むと、
「すみません。この下水道に入ってから、気分が優れなくて。でも心配しないでください。あなたは、私が守ります」
そう言われるとコレットは、頬をポッと赤くして、
「期待してるわ。頑張りましょう」
そんな会話をしていると、ヴヴーンという大量の羽音が聞こえてくる。
「どうやら、赤トンボ達がこちらに近づいてきているようです。コレットさん、後ろに下がって下さい」
「ええ、気を付けて」
そう言って、ファレルは戦闘能力のないコレットを後ろに下げる。
「この蜻蛉の正体が何か分かりませんが、取り合えず蜻蛉と名の付くからには、蜻蛉達の周囲から空気を奪ってしまえば飛行する事は叶わなくなる筈」
そう言い、ファレルがトンボ達の周りの空気を奪っていく。
しかし、トンボ達は床に落ちる事はなくスピードを下げず、ファレルに襲いかかる。
「ファレル!」
コレットが叫ぶ。
「空気がなければ生きていけないはずなのに……これならどうですか!」
そう言ってファレルは空気を圧縮させ周りの赤トンボ達を圧死させていく。
空気の重りに押し潰され赤トンボ達は、次々と死骸に……ならなかった。赤トンボ達は全て、黒い消し炭になって風に流されて行った。
「ファレル……これは……」
「……分かりましたよ。空気を奪っても空を飛んでいた理由。赤トンボ達は生きていなかった」
「ファレル……まさか……」
コレットの問に、ファレルが、
「……ディスペアーです」
「そんな!ネガティヴゾーンは閉じたはずよ!」
「しかし、こうしてディスペアー達が襲ってきています。それに、コレットさん、あなたは感じないかもしれませんが、私はこの下水道に入ってから強烈な負のオーラを感じています。気分が悪いのもきっとその所為です」
「それじゃあ、この先にネガティヴゾーンの入り口があるって言うの?」
コレットが問うと、
「ええ。ですが、私達は今回ゴールデン・グローブを持ってきていません。入り口をこの無数の道が張り巡らされた下水道から探し出すのは多分無理です……それに」
「それに?」
「ムービースターの私は、ゴールデン・グローブ無しにネガティヴゾーンに近づけば……あなたを襲う存在になってしまうかもしれません。それが私は、恐ろしい……」
「そんな!」
コレットも思い出す、ネガティヴゾーンに入ってムービーキラーになってしまった、ムービースターのことを。
「赤トンボの正体は、分かったわ。早くこの下水道から出ましょう……ファレル歩ける?」
「大丈夫です。……あの天井から光が漏れています。私達が歩いた距離から言って、あそこが件のマンホールでしょう。あそこから出ましょう」
「じゃあ、早く行きましょう那由多君達も心配だわ」
「その前に、一つだけやっておかなければ」
「何をするの」
心配するコレットに優しい笑顔を見せて、ファレルは赤トンボ達が襲ってきた方を向いて手を伸ばす。
ファレルは自分の異能力を最大限に引き出す、分子分解の対象をコンクリートに変え、コンクリートの壁を作り、赤トンボが襲ってきた道を塞ぐ。
「……これで多分、上に残っている赤トンボ以外は大丈夫です。……早く行きましょう」
そう言って、がくりと膝をつくファレル。
「ファレル!」
コレットがファレルの名を呼び駆けよる。
「……大丈夫です。コレットさん。少し眩暈がしただけです」
「ファレル!私の肩に捕まって。早く、上に行きましょう!」
「しかしそんな訳には……」
「いいから!私はファレルを失いたくないの!」
「……コレットさん」
半ば強引にコレットがファレルに肩を貸す。
観念したようにファレルは、少し力を抜く。
「早く上へ」
コレットは大事な人と、共に生きる為に光を目指して歩いた。
★ ★ ★
夕陽が陰に隠れ始めた。
そんな中、シュヴァルツと那由多は、苦戦を強いられていた。
ファレルにかけてもらった空気の壁も無くなり、赤トンボの牙や羽の攻撃を確実に喰らっていた。
何よりも数が違う。
しかし、何故か先程から追加の赤トンボが出てこない。
先程までは、切り無く赤トンボが出てきていた為、ひたすらに消耗戦になっていた。
ここにいる赤トンボ達だけを倒せばいいのなら、勝機はある。
しかし、巨大赤トンボと言う強敵もまだ残っていた。
巨大赤トンボと視線が合うと、気力が吸い込まれていくような感覚に襲われるのだ。
目を合わせないようにヒットアンドアウェイで闘っている那由多にも限界があった。
小刀を確実に急所に決めるには、相手を見ざるをえない。
少しずつ少しずつ、気力を奪われ、小刀を持つ腕も重くなってきた。
「くっそお!こんな所で負けられない!」
必死の思いで、小刀を振り下ろす。
その先端は、巨大赤トンボの大きな右目に突き刺さった。
途端、のたうち回る、巨大赤トンボ。
だが、小刀が抜けず、那由多は巨大赤トンボに張り付く形になってしまった。
「那由多!」
シュヴァルツが叫ぶ。
巨大赤トンボをしとめるには、今が好機。
しかし、下手な攻撃をすれば那由多も巻き込んでしまう。
「シュヴァルツさん、僕は大丈夫だから攻撃してー!」
「くっ!」
シュヴァルツが迷っていると、巨大赤トンボの後方から何か、50cmくらいの円盤が飛んできて、巨大赤トンボの後頭部を直撃した。
その反動で那由多の小刀が抜け、那由多は空に放り出されたが、生来の敏捷さで着地する。
そして、円盤が飛んできた方を見ると、マンホールから、コレットとファレルが出てきている。
巨大赤トンボの後頭部を直撃した、円盤はコレットが盾代わりに拝借したマンホールの蓋だった。
それをコレットは、フリスビーの要領で思いっきり投げたのだ。
「那由多君、大丈夫?もう赤トンボは来ないわ。シュヴァルツさん、そいつをやっつけちゃってー!」
「了解♪」
シュヴァルツもファレルとコレットの無事を確認し安心する。
そして、シュヴァルツは長い硬質な糸を巨大赤トンボにぐるぐる巻きにする。
翼も封じると、一気に締め上げた。
『キィィィーーーーーーーーーーーーーーーーー!』
巨大赤トンボは、初めて鳴き声を上げると、全身を締め上げられ、絶命……いや黒い炭になって消滅した。
それと、同時に周りに居た赤トンボ達もボロボロに崩れ去った。
そして、そこには4人だけが残された。
夕陽は沈もうとしていた。
★ ★ ★
夕陽が落ち、周りを闇が覆う。
「ファレル、無事だったか?」
シュヴァルツが言うと、ファレルが、
「はい、どうにか。……しかしネガティヴゾーンの入り口が何処かで開いているようです」
「そうだね……赤トンボ達、ディスペアーだったんだよね」
那由多が言うと、皆が頷く。
「また、ネガティヴゾーンの戦いをしなければならないのね。私達……」
コレットの呟きに、那由多が元気良く、
「僕は、闘うよ!僕の大事な友達の為に!」
「そうだね〜、平和が一番だしね〜」
「はい、私も闘います。大切なものがありますから」
シュヴァルツとファレルも言う。
「そうよね。弱音なんて吐いてられない。私達で銀幕市を守りましょう」
コレットも力強く言う。
「それじゃ、対策課に報告して、次の闘いに備えましょう!」
「女の子は強いね〜」
シュヴァルツが冗談めかして言うと、みんな笑った。
「大丈夫。私達は、負の力になんて絶対に負けない。みんなが居るもの」
そう言う、コレットをファレルは眩しいものを見るように、見るのだった。
★ ★ ★
闇が近づいている。
ゆっくりと確実に。
しかし、その先には光がある。
小さな光でも見つけられれば前に進める。
そう、信じるものだけに、光は現れるのだ……きっと。
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クリエイターコメント | はい、どうも。 冴原です。 まずは、今シナリオ御参加有り難うございました。 皆様、思いのこもった、プレイングでした。 そんな感じで、赤トンボの正体は、ディスペアーでした。 新たなネガティヴゾーンは、これから色々展開していくと思いますので、これからも頑張ってください。
誤字脱字、感想、ご要望等ありましたらメール下さると嬉しいです。
それでは、また銀幕の世界でお会いしましょう。 |
公開日時 | 2009-02-08(日) 11:10 |
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