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<ノベル>
対策課から予備のゴールデングローブを受け取ったヨミ、Nichol・Crifford、ピアニッシモ、フォルティシモの4人は走るよりも早いとヨミが歪めた空間を通り平和記念公園に移動した。
街のあちこちでは既に戦闘が始まっていたが、素早い移動が幸いしてこちらにはジズがまだ辿り着いていない。
非戦闘員にゴールデングローブの配布を頼み、共に守りたいと一緒に戦うことを選んだ現地の人達の先頭に立ち、ゆっくりと近づくジズを見据える4人。
(ココ壊されたら、にこるはどこでランニングする、イイデスカ?!! ミンナ、困りマス!!!)
……いやまあ、それは自然公園とかもあるかもしれないが多分そういう問題じゃない、はず。
(多くの人の、幸せの場所を守りたい)
そう、ここはかつて大いなる絶望の痕跡を沢山の希望で埋めた場所だから。
ピアニッシモは直接それに参加こそしていないが、人々の想いが込められたこの地を守りたいことには変わりない。
(安定と平穏を乱すものは許すまじ)
それは、フォルティシモも同じ。
人々の希望を再び絶望で蹂躙など、させてたまるものか。
ヴァザッヴァザッと羽音を立て、ジズが上空までやってきた。
奴が攻撃態勢に入ればこちらの攻撃も通用する、その情報は他の場所の戦いから既に得られている。
フォルティシモはジズと同じ高さまで浮かび、ピアニッシモは公園一帯を結界で覆う。
ジズの体表面の光が波打つように動き、そして、一撃目の衝撃波。
――負けられない戦いが、始まった。
衝撃波は、その破壊力自体はあっさりと打ち消された。
ヨミが「救おうとするが故に破壊を引き起こす力」で、公園を救うために衝撃波を破壊したのだ。
威力を失った衝撃波はどろどろとした光の塊となって力無く結界に当たり、そして吸収される。
「――あら?」
その僅かな間、ピアニッシモのゴールデングローブがちりちりと小さな音を立てた。
「ドウカシタデスカ?」
「いえ……少しだけ」
ゴールデングローブが、大した事はありませんでしたけれど、とニコルに返すピアニッシモ。
とはいえ、戦闘自体は圧倒的にこちらが有利だった。
ピアニッシモが結界を展開している関係で能力が抑えられているフォルティシモだが、その質量自体を生かしての格闘戦は威力充分で。後方からの援護射撃(同士討ちを防ぐため誘導魔法がかけられている)を得つつ、何度目かの衝撃波相殺のあと上手く隙を突いてジズを尾で跳ね上げ、次弾のエネルギー集束にジズが手間取った所にヨミの破壊の力が襲いかかる。
ヨミは自身の、魔王の「救おうとするが故に破壊を引き起こす力」に初めて感謝していた。
元の世界でのそれは、愛する人を救う為に世界を破壊することを意味していた。だからあまり使いたくない力だったのだが。
でもこの街では、純粋に守るためにその大いなる力を振るうことが出来る。
だからこそ。
「ジズなんかにこの街を破壊させないのですよー」
今はこの街を救うため、ジズを破壊することを選ぶ。
その力は迷うことなくジズを襲い、そして――ジズの体を覆っていた光は、弾け飛ぶように広がり不気味な空間を生み出した。
「中に入るしかなさそうですねー」
上空に広がった不気味な球体に幾つかの攻撃が試みられたが、それらはいずれもほとんどど効果が得られず。
あの光の球に突入するしかないということになり、選ばれたのはもちろん先頭に立って戦った4人で。
「あの、でも私は……」
結界使用の反動を気にしたピアニッシモだが、そこは外で待つことになったスター達の闇系や時空系の魔法などで解消して。
他の3人もそれぞれにありったけの回復魔法や補助魔法、祝福の祈りや救急セットまで渡されたりして。
「気をつけていくのじゃぞ」
最後に加護魔法をかけながら、残留メンバーを代表して告げるきのこの長老。
沢山の人に思いを託され、自力で宙に浮けるヨミ、そしてフォルティシモとその背に乗ったニコルとピアニッシモは球体へと突入した。
ジジジ……と、ゴールデングローブが音を立てる。
球体の中に広がっていたのは、暗雲立ちこめる荒野だった。
茶色い草藪の中、風化した人工物のなれの果ては、何だった物なのか――。
荒野に降り立った4人に、すぐさま襲いかかってきたのは無数の空飛ぶ蛇だった。
いや、よくよく見ればそれらは異様な長さの体を何かから伸ばしてきていて。
「あれはメデューサ・ハルピュリアでしょうかー?」
その発生元にはヨミの言葉通り、メデューサとハーピーを掛け合わせた大型の魔物の姿が。
「蛇と言うヨリ触手デスネ」
ディレクターズカッターで蛇を切り払うニコル。だが切り落とされた蛇は一度地面に落ちると、即座に羽を生やし再び飛びかかってきた。
とっさにヨミが羽蛇達を破壊するが、ゴールデングローブが発動しているため威力が半減し一撃では倒すまでには至らない。フォルティシモが炎による追撃を入れてようやく羽蛇は一掃された。
「しかしこれはやっかいだな」
そのフォルティシモも力が抑えられているのは感じていた。ジズの頭から伸びてくる蛇を炎で抑えているものの、押し返すことは出来ても焼き払うまでには至らない。
これではらちが明かない、と先に思ったのはジズの方なのか、不意に蛇達が引くと一斉に口を開いて破壊光線を放ってきた。
「手強いですねー」
ヨミが光線の破壊を試みるが、やはり減衰止まり。ピアニッシモが結界を張って防いだが、こちらも先の減衰がなければ防ぎきれなかったであろう威力を感じていた。
一方で、ニコルはジズの姿から視聴覚への攻撃を想定し、撃ち合いの膠着状態に陥っている間に偏光サングラスと耳栓を身につけた。メデューサと言えば視線による石化、ハーピーと言えば気が狂うような鳴き声が容易に想像出来たからだ。ちなみにサングラスも耳栓も、運動やお昼寝時に使うため常備している物である。
そして、直後にその攻撃は実行された。
破壊光線も防がれたジズは、今度は4人の後ろにまで蛇を回り込ませる。逆に正面はがら空きになったのでフォルティシモが炎攻撃を仕掛けたのだが、まさにその瞬間。
「「ギィィィィィィァァアアァァァァァァァァ」」
ジズ本体と蛇達の口が一斉に開き、吐き出されたのは壮絶な不協和音。
耳栓をしているニコルでさえ音による不快感は相当なものだったから他の3人はたまらない。
炎は音圧で吹き飛ばされた。
ヨミの破壊とピアニッシモの結界でも全てを防ぎきることは出来なかった。
そのダメージで巨大なフォルティシモがのたうち回っていたのが結果的に蛇の追撃を防いだのは不幸中の幸いだった。
全方位からの攻撃を防ぐため、ヨミは蛇達の頭を破壊することに専念していた。
ちぎり飛ばせは増殖するし、放っておけばすぐに再生するので非常に神経を使う。
そしてそんなヨミをジズが放っておく訳もなく、ジズの頭部に集中していたヨミはうっかり視線を合わせてしまった。
メデューサ相手なら、石化。でも相手はジズと名付けられた中型ディスペアーだったから。
視線を合わせた途端、ヨミの脳裏には様々な光景が引きずり出された。
元の世界に、愛する妻と生まれてくるはずの息子を奪われたこと。役目を果たさない自分をいつか世界のシステムが排除するのではないかという恐怖。魔王という肩書き故に相容れない存在に滅ぼされる可能性――。
「ヨミサン、大丈夫デスカ」
「どうなさったのですか?」
「大丈夫か、そなた……むっ」
呆然と立ち尽くしたヨミに集まる3人。集まる蛇達を尾でなぎ払いながら、ふとフォルティシモも。
「フォルティシモ、どうし……あっ」
そしてピアニッシモも、ジズと視線を合わせてしまう。
脳裏に引きずり出される光景。守護者の役割を果たせなかった場合の世界の光景。些細な仲違いから深い溝が生じ長きに渡り不信の日々を過ごす可能性――。
ジズが引き出したのは確率の高低等を別とした、あり得た絶望的な場面達。その可能性がある以上、思考する生物はその場面を考えてしまうこともあるし、普段は軽く流してしまうような可能性も絶望の中では流せなくなる場合がある。
「皆サン、シッカリシテ下サイ」
サングラスの効果かあらかじめ意識していたからか、視線攻撃を逃れディレクターズカッターで一人蛇達を牽制するニコルをあざ笑うかのように、再度不協和音攻撃が行われその圧力が4人を吹き飛ばす。
ここは絶望の世界。ディスペアー達の領域。
それでも。
「そうなっていた可能性は否定しませんけれどもー」
負けるわけにはいかない。
「未来を決めるのは可能性だけではありません」
銀幕市に生きる数多なる存在のためにも。
「その多くは、生きとし生けるもの達の意思によって左右されるものだ」
私達は、絶望を打ち破り希望と共に生きることを選ぶ。
無数の絶望的な結末の可能性。それはそれ以上の希望溢れる未来を想像して、それを目指せば減っていくものだから。
希望をしっかりと抱き続ける限り、絶望に押しつぶされたりなんか、しない――。
ジズの視線は、こちらと目が合わなければ問題はない。
交互に蛇達を牽制しながら応急手当を行った4人は、頷き合うと散開した。
ヨミはジズの後ろに回って蛇達を牽制。
ピアニッシモは結界で援護しながらの誘導役。
そして、フォルティシモは頭にニコルを乗せて上昇。ニコルの手には再充填したディレクターズカッターの柄が握られている。
ジズからちょうど正面斜め45度上の位置。当然ジズが睨み付けるが、今度は何も起こらない。
フォルティシモは、目を閉じていたのだ。
「そこですっ」
ピアニッシモの声を受け、フォルティシモが一転急降下を始めた。一直線に狙うのは、ジズの頭部。
ジズが口を開くが、ヨミの攻撃が効いているのか叫び声は間に合わない。
衝突の寸前、ニコルはディレクターズカッターを起動させ、即座に横に一閃。
直後のフォルティシモの体当たりでジズは激しく地面に叩き付けられた。衝撃でニコルも投げ出されたが向きを変えて目を開いたフォルティシモがしっかりキャッチする。
「上手く……行きましたネ」
起きあがったジズの目は、両方とも潰されていた。
再び空中に舞ったジズの喉元に、フォルティシモが真正面からかぶりつきニコルが口の穴にディレクターズカッターを突き刺す。
断末魔のような叫びの音圧はピアニッシモが結界で防ぎ、フォルティシモがそのままジズの喉元を食いちぎる。
転がり落ちたところをフォルティシモに押しつぶされ、軽い破裂音と共にジズの頭部は弾け飛んだ。
残った蛇達が一斉に羽を生やして飛び立つも、弱っていたそれらはヨミの破壊の力のみで一掃された。
だが、まだ。
頭を無くしたジズはまだ空を舞い、ちぎられた首からは血ではなく無数の触手が――もはや蛇ですらなかった――新たにわき出してくる。
「本当に、しぶといですね」
「絶望の化身が、そこまでしぶとく何を求めるか」
しかし強力な攻撃手段は、もうジズには残っていなかった。
ヨミが触手の頭を潰して、ニコルがフォルティシモに乗りディレクターズカッターでジズを切り裂き、フォルティシモが押しつぶす。
次第にジズの姿は人型の魔物から触手の塊へと変貌してゆき、その体も削られ、そして。
「これで……終わりだ」
最後は人間大にまで小さくなったジズを、フォルティシモが一気に押しつぶした。
最後までジズだったものは4人の居た荒野ごと、軽い音と共に弾け飛んだ。
一瞬視界が真っ白になり、続いて視界に飛び込んできたのは銀幕市の空。
空中に投げ出されたニコルとピアニッシモをフォルティシモが受け止め、ヨミと共に地上に降りる。
それなりにダメージを負っているものの、全員無事だ。
「おお、無事だったか」
念のため公園で待機していた人達と、互いの無事を確認する。
地面に描かれた回復の方陣にしばし癒されながら、ふと思う。
他の場所は、無事だろうか?
確かなことは、1体のジズが撃退されたこととこの公園が無事に守られたこと。
情報が混乱しているのか、他の場所の事は今は分からない。
でも、きっと無事だろう。まだ分からないけれど、そう思いたい――。
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クリエイターコメント | まずは参加して下さった皆様、ここまでお読み下さった皆様、 ありがとうございました。 楽しんで頂けていれば幸いです。
移動が素早かった事に加え防衛手段もしっかりしていたので 公園への被害は出なかった模様です。 長老含め現地にいた人達も皆無事です。 回復方陣を用意しましたので、 ご参加頂いた4名様にはゆっくりと傷を癒して頂ければ幸いです。 撃退、お疲れ様でした。
それでは、今回はこれにて失礼いたします。
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公開日時 | 2009-04-22(水) 19:30 |
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