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[3] 【練武場】
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-01(水) 00:42
【練武場】と看板に書かれたゲートの先は通路だった。
石造りの廊下を抜け、黒曜石で作られた上に治癒術式を天井から床まで一言一句隙間なくひきつめた休憩所たる広場を通り抜けた先。
そこにあるのは、様々な環境や敵を想定して戦闘ができる魔術空間だ。
決闘空間として作られたその空間内で、主はいつも神代の敵と戦いを続け、技量を磨いている。

今、一番の標的となっているのはホワイトタワーの番人のようで、
キルレートが魔術によって刻まれている。

神格開放時:1対2勝利。1対3は魔術息切れ早い。要制御と訓練。
魔術禁止時:1対1で辛うじて勝てる程度か。身体能力を伸ばせばもう少し行けるだろう。

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戦闘ロールなどご自由にどうぞ。
お望みならディラドゥアの幻影と戦うこともできるかと思います。
[4] 身体を動かしたいが故に

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-02(木) 02:16
コツ、コツ、コツとブーツの音が響く。
黒曜石の床を歩きながら、周囲を眺める。
「…これが魔術、ねぇ」
一面には理解できない魔術的な記号が刻まれている。
魔術の心得があれば少しは分かったのかもしれないが、科学が発展した世界の住人である彼女には理解できない。
それでも、彼女がここに来た理由は至って簡単である。
「さて、訓練用プログラムの外部入力装置(コンソール)はどこかしらね?」
[5] 主は微笑む。 ――戦場へようこそ、と。
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-02(木) 02:34
――訓練を求めて来た者に対して、主はその幻影で答える。
それは、多次元にある主の存在の一つだ。
青白き幻影と分かるその姿が、兎の来訪者の出迎えを果たした。幻影は告げる。

「――コンソール、か。
 あるにはあるけれど、そう言うのは使わないように作ってあるんだ。
 使い方は簡単さ。戦いを望むなら、思考し、思うだけでいい。
 どんな環境で、どんな敵と戦うか。
 あとは、全て魔術が答えを示してくれるから。」

幻影での歓迎となる主人は、軽装甲冑を纏う戦場での姿で、微笑んだ。
[6] 宣戦布告

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-03(金) 06:54
眼前に出現した3D幻影(ホログラム)の竜人を一瞥。
「へぇ、思考反映機構(ダイレクトシステム)ね。」
科学技術知識から該当しそうなものを1つ思い出す。
「脳波のI/Oは難しいものだと思っていたけど、
 魔術ならそういうのも出来るのかしら?興味深いわ」
興味深さに周囲を見回し、ふと元々の用事を思い出す。

「宣言するわ」
きっ、と幻影を見据え
「お手合わせ願いたい」
[7] 戦場より来たりて
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-03(金) 09:12
幻影との手合わせを願う相手。その望みを聞いた幻影は、笑顔で答えた。

「――OK。
 戦いを望むなら、答えよう。戦地は、自由かな?
 望むなら切り替えるのだけれど。」

言葉を返す主。その姿は時として不敵にさえ映る。それは、歴戦ゆえの余裕なのだろうか。

幻影がぱちんと指を鳴らす。
すると、幻影は溶けるように消えて、仮初の肉体――。
本物の主とみまごうばかりのゴーレムが具現する。
ほぼ同じ形のコピー。幻影では武器も何も持てないからなのだ。
ほほえみを忘れぬ主は、言う。

「――こっちは準備完了。
 戦地の指定だけしてくれればいつでも行けるよ。」

そう、歌うように。
[10] メインシステム起動、

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-04(土) 07:04
3D幻影(ホログラム)の代わりに出現した実体を一瞥。
「今度は四次元空間からかしら?それともその場に光学迷彩を纏わせてステルスさせたものか…まったく、興味が尽きないわね」
そう言いつつも腰のホルスターからレーザーガンを取り出し、挿してあるエネルギーパックの残量を確認する。
エネルギーは満タン。出力的には20発撃てば尽きる程度だろう。
ベルトポーチから数本ショートブレッド(しかもかなりカロリーが高そうだ)を取り出し、一気に食して…
「こちらもいけるわよ?場所はお任せするわ。」
[12] Der in Srafe
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-04(土) 12:52
自由でいいとの相手の返事が、空間に響いては消えて行く。
それを受けた主の形代は、言葉を返した。

「ふむ、了解。 じゃ、フェアな戦場で戦おう。
 有利な場所で戦ってもつまらないからね。」

そう答えた主は、指を一つ鳴らす。
すると、今までいた場所がパズルのピースをバラバラにしたように砕け、
見る間に再構成が行われた。

次に意識する時、そこは荒涼とした荒れ野だ。
どこまでも広がる枯れ果てた大地と風が、戦場にはふさわしい。
形代は、この場所を持って戦闘に臨む。
見にまとう武具は、真の主のものよりはいささか弱い物。
しかし、本物と半ば同じ力を与えられた形代からすれば、ハンディは特に無い。
戦型を知る者からすれば、十分なのだ。

「――さ、始めようか。
 この地で、決闘という名の舞踏会を。」

言葉と共に始まる決闘。
その開幕の一撃は、テレポートからの強化無しの袈裟斬りだった。
まずは、小手調べ。
[15] 戦闘モード起動します

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-05(日) 01:09
「テレポート…!」
識っている。超能力のカテゴリの1つ、テレポート。
タイムラグなく発動するそれは体内へ凶器をテレポートさせることも出来るし、
連発すれば相手に索敵のための時間をかけさせたりすることも出来るだろう。
迫る刃を、「小手調べ程度で落ちるものじゃないわよ」
時間を止める。目に映る世界が色褪せていく。
止まった世界を認識でき、干渉できる存在でもなければ世界の中で色褪せるが…目の前の男は色褪せる様子はない。
バックステップで緊急回避をし、時間停止を解除。色褪せた世界が色彩を取り戻す。
時間干渉の代償で止めた分に相当するカロリーが消費される。
予め食い溜めしておいたので、後数回は使用の度にショートブレッドを早食いする必要もなさそうだ。

「…見えてるわね?」
止まった世界において色褪せなかった男に向け、トリガーを引く。
エネルギーパックに内蔵されたコンデンサーからエネルギーが回路に送られ、発振器で光学エネルギーに変換され、解き放たれる。
[17] 時のらせんの中で
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-05(日) 04:40
時間が止まる時。
その感覚は、心拍の一時停止という現象によって伝えられる。
それは、一番厄介な敵であるという感覚なのだ。

相手の時間停止に体が止まる刹那、
バックステップを返す相手の動きを見送って後は慣性に体を任せる。
空振りの形で残る攻撃に、形代は思わず笑みを浮かべるのだった。

「無論、見えるさ。伊達に場数は踏んでない。

 ――時間操作者(タイム・コントローラー)か。
 今までこの手合いは数殺ってきてるから知ってる。
 神格を得た者が権能を選べと言われる中では真っ先に選ばれる位の強力な能力だ。

 ……久しぶりだね。面白くなってきた!」

(言い終わるやいなや、形代は相手のトリガーから放たれる光線に意識を集中し、
 自らの体内の水分を媒体に、水の壁を生成することで光を強制的に曲げていく。
 入射角と反射角の関係の利用だ。
 これにより、放たれる次の瞬間には、あさっての方向に光線は飛んでいるだろう。
 攻撃をやり過ごし、瞬間的に水分を元の体に戻せば、次の手として発動するのは、魔法だ。
 呪文を転がさず、意識の中で公式を描き、発動する。)

――『多重念動詠唱』(マルチパラレル・サイキャスト)
――『二重加速』(デュアル・スピード)
――『混乱の刃』(コンフューズ・ブレード)
――『次元の扉』(ディメンション・ドア)


(加速の魔力を自ら付与することで一気に速度を上げるとともに、
 混乱の魔力を付与した一撃を相手に浴びせるべく、彼は動く。
 混乱の魔力。それは、相手の思考を混乱させ、汚染する魔力。
 赤色に、時として七色に輝くその刃は、まさしく混沌として見えるようだ。
 それを確認するように彼は、次元の扉を開き、背後を取って斬撃を浴びせようと狙う。
 どこまで行けるのか。それを探るかのように。)
[18] 決められた速度を通り越して針は回る。

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-05(日) 09:26
「ま、時間操作なんて燃費が最悪な上にスーパーレアなものだけど」
科学技術が発展し、脳のブラックボックスエリアが解明されたことで超能力開発が現実のものとなった世界。
ブラックボックスの中身はヒトによって違うため、開発で得られる能力は異なってくる。
「…あら」
水の壁でレーザーが曲げられた。
テレポート、止まった時間の認識に加え水流操作。
「まったく、面白いわね。魔術も、あなたも」
赤く、そして変色する刃。
「美しい色合いね。まあ、綺麗な薔薇には棘があると言うのだけれど。
 その万色の薔薇はどんな棘を持つのかしら?」
急加速する敵は虚空へと消失。合わせてこちらも全身加速。
「テレポーターなら、大抵は後ろから狙おうとするわね」
急速に消耗するカロリーと引き換えに、180度回転。
手首の角度を少しづつ変えながら、牽制のためにトリガーを3度引く。
[19] 空間のくびきから解き放たれて
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-05(日) 13:52
相手の明察がよくわかる。
思考に枝を付けずとも、それは経験がよく物語っているものだから。
扉の向こう。相手の牽制のレーザーが飛び交うのを確認すれば、
自分は回避行動と共に常に空けておくべきスロットから、
『概詠唱』(プレキャスト)で魔法を回避のために放つ。
それは、自らの保身のための防御的回避だった。

「――『概詠唱』(プレキャスト)
 ――『変転の門』(ターンネイション・ゲート)

『変転の門』。開かれたゲートの中にレーザーが吸い込まれ、
別の世界を経由してあさっての場所より飛んでいく。
受けられない攻撃は、攻撃の行き先を変えてやれば回避が効くという算段だ。
しかし、そのうち一撃が膝を掠め、ジッという熱線の感覚を肌に伝えるのがよくわかる。
状況は劣勢だ。現状、このままでは負けるのが見える。
けど、これでいい。これくらいでなければ、楽しくない。

「刃の効果が知りたければ、一度切られてみればいい。
 天国が、見れるよ? なんてね。

 それに、なかなかの明察を持っている。 いい実力者のようだ。
 実は、手加減をいくつか加えていたけれど、本気を出してもいいね。
 じゃっ――楽しませてね?」

形代の笑いめいた声がこだまする。
呪文を解放する。その宣言は、なかなか仲間相手にはできないものだから。
魔術のロックを切り、一気に戦場をより激しい物へと変えよう。
相手も、より望んでいるだろうから。

――『念動詠唱』(サイキャスト)
――『不可視の鏡』(アンシーン・ミラー)

空間に一度、不可視の鏡を設置する。
それは、一気に魔力をブーストするための、下準備だ。
準備が終われば、一瞬で詠唱の形式を切り替えようか。
戦略は、此処から始まる。

――『多段鏡界詠唱』(マルチパースド・ミラーキャスト)
――『次元刃』(ブレーデッド・テレポート)
――『空間からの開放』(フリー・エアスペース)
――『鎧化』(アーマー・スキン)

不可視の鏡から魔力を引き出し放つ、『空間からの開放』。
それは、空間を掌握し、重力のくびきから自らを解き放つことを意味する。
それによって得る空中制動などの能力。それらを一挙にまとめて発動し、
今度は一気に距離を取る動きを見せた。
そこから飛ぶのは、テレポートしてくる斬撃だ。
自らは離れながらも、刃の一撃だけが飛んでいく。
タイムラグが有り、かつ次元の歪みが予兆となるのは承知の上。
しかし、それをカバーするように、角度と向きが様々に切り替わりながらも飛んでくるそれは、
まさしく死への道筋にふさわしいだろう。
鎧を体にとり込み、魔力で強化することで成り果てる化け物じみた姿。
しかし、それはある種の本気の表れである。
[21] 不確定要素を確定要素へと変えていく

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-06(月) 00:50
「あら、これが本気ではないというのね。
 まあ、僕も不確実な切り札くらいなら持ってるけどね。」
尤も、不確定要素が多すぎて現状頼りにならないのだけどね、とぼやきつつ、不確定要素を1つづつ消すために目の前の魔術事象を観測する。
切り札は可能性を観測し、結果として一つに絞り込むもの。だが、予想外の不確定要素が入れば前提を崩された結果は無意味なものになってしまう。
「しかし、魔術とやらはチートのようなものばかりね。
 ブレードホーミングとか、誰が考えだしたのかしら」
歪みを観測し、その場からズレることで飛んできた斬撃をかわす。しかし、同じ刃が何度も襲い掛かる。喰らいつくまで追うその様は鮫と言えなくもない。
ならば…

「維持がきついから使いたくなかったのだけど…《時の棺》」
歪む地点を基点に、小規模な時間停止を引き起こして斬撃を封じ込める。
停止空間の維持のためにカロリーを犠牲にしていく。
カロリー補給のため、ベルトポーチから数本ショートブレッドを取り出し、口にくわえつつ異形化した敵の装甲を確かめるように一度トリガーを引く。
[22] 伏せ札の1枚目
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-06(月) 11:42
相手の《時の棺》によって時間が止められ、剣が振るえなくなる感覚が分かる。
それは、まるでコンクリートに突き刺した剣がそのまま固まってしまうような感覚に似ていて、
非常に*嫌*な感覚だった。
剣が使えない。それは、剣によって立つものからすれば非常に迷惑だ。
しかし、それを表情に出すこともなく、
魔術師は手持ちのカードの一枚目を容赦なく切っていくことで解決をはかろうとしている。

「チート、か。たしかにチートかもしれないね。
 …けど、こちらは戦っている相手の次元が違うんだ。
 『魔空王』、『混沌の宮殿』、『九層地獄の諸侯たち』……。
 チートバリバリの、想像もつかないような連中が揃い踏み。
 だから、チートでもデュープでもなんでもやらなくちゃ、やってられないのさ。
 それに、「本気を出す」と言っても「切り札を出す」とは言ってないし……ね。」

ハハハ、と笑う形代。
そんな紛い物の主は、相手の銃口が向いたのを視認すれば、
次の一手を容赦なく詠唱によって紡いでいった。

――『多段鏡界詠唱』(マルチパースド・ミラーキャスト)
――『水鏡の盾』(みかがみのたて)

――『解念』(ディスペル・サイ)

紡いだのは、鏡魔法の中位に相当する盾の召喚の魔法。
不可視の鏡を媒体にして、水銀のような鏡を生み出す魔法だ。
しかし、それはその詠唱を終えるだけにしてストックする。
次に使う呪文の準備だ。そう。これが伏せ札の一枚目。

それが終われば、剣を我が手に取り戻すべく、相手の《時の棺》を解除に掛かることとしよう。
時計の歯車を一段だけずらし、かけ合わせるだけで、効果はあるのだ。
思念波を送る。
――時間の流れが元に戻り、剣が我が手に戻る感覚が、あるだろうか。

相手のレーザー光線。それに付いては、形代は甘んじて受けることにした。
鎧と、魔力によって強化された皮膚の力を試すように。
ジリジリと熱線が身を焼く。火傷の痛みと、苦しみが伝わるのが分かった。
肉が抉れ、黒く焦げて見える着弾点。
その痛みを無動作で打てる少治癒で殺し、
二段加速の加速に任せて強襲気味にかけるのは、横薙ぎの斬撃だ。
決着を狙う、獲物の目がギラリと、光った。
[25] シーン攻撃《星屑の雨/スターダストレイン》

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-07(火) 00:03
『魔空王』、『混沌の宮殿』、『九層地獄の諸侯たち』といった単語を聞いても、幻想(オカルト)を否定した科学の住人には何もさっぱり分からないようだ。
ただ、パワーインフレした連中だということは分かる。
「まったく、想像もできないわね。
 幻想(オカルト)なんて、僕の世界じゃ駆逐されて久しいものだけど。
 世界1つ違えば強さのスケールが段違いね」

《時の棺》への干渉を感じる。カロリーを追加消費して対干渉強度を足すことは出来るが、燃費の悪い能力では短時間しか持たないだろう。
《時の棺》を停止させ、停止空間を解除する。
正直、消耗が予想以上に激しい。
カロリー補給のための隙も与えてくれそうにないようだ。
「そろそろ決着といこうじゃない」
不確実な切り札は、まだ使えぬまま。なら確実な手でチェックメイトをかけるしかない。
回避にカロリーを無駄遣いできない。回避を投げ捨て、自身を加速させる。
2倍。足りない。3倍。まだ。4倍。
過ぎた力の代償として、体内からカロリーが猛烈な勢いで消費されていくのを感じる。
限られた時間の中で、懐から正三角形のプリズムを投げ、そしてそれに向け、コンデンサーが限界に達するまでトリガーを引き続ける。
幾多も放たれたレーザーは、プリズムを通じて分散。前方を制圧する《星屑の雨》のように猛威を振るう。
[26] シーン攻撃《剣気/ソード・インパルス》
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-07(火) 16:39
「全くだ。
 世界がもう少し平和だったら変わったのかもしれないけどね。」

回避された一撃を慣性に任せ、再度剣を手に戻す。
相手の消耗と、自分の消耗の度合いを比べあいながら、
形代は相手の意図を読み取った。

「決着、か。
 ――良かろう!地獄の門にかけて! 明日はお前か、私かだ!」

相手の決着を望む声。それに応えて出る言葉は歌劇の台詞の一つ。
歌劇の名こそ、『魔弾の射手』。
相手の持つその武器にどこか照らし合わせるように、
その言葉は口を衝いて出た。

相手の加速に合わせるように、こちらも魔術の粋を結集する。
すでに詠唱した魔術の上にさらに魔術を加え、この決着に花を添えよう。
決着は、美しくも儚いものだ。それを、存分に味わうように。
「時空刃」、「混乱の刃」の魔力を解除し、最後の一撃に全てをかける。
この時を、待っていたかのように。

――『概詠唱』(プレ・キャスト)
――『水鏡の盾』(みかがみのたて)

――『念動詠唱』(サイ・キャスト)
――『剣気開放』(ブレードソウル・オープン)

今、手にする剣の全てを引き出す魔法と、伏せておいた札の一枚を引き出す。
乱撃の光線に対する反射の盾だ。完全に防ぐことは叶わない。
四股を、胸を、そしてこの数瞬後に頭部を、光の矢が貫いて消えていく。

しかし、こちらの戦闘不能だけで、終わらせるつもりもさらさらなかった。
剣気の形をした魂の一撃が、クロスカウンターのように相手に飛んでいくだろう。
決闘空間の中だ。死に至ることも心配ない。
傷だらけで弾きだされるだけで済む。そう、知っているから。
[28] 決着

アーネスト・クロックラック(cyaw7336) 2011-06-08(水) 00:17
カロリー消費が危険域にまで及び、生命維持のためのリミッターが能力を強制停止させる。
そして、《星屑の雨》の一部が反射され、制服を貫いて身体を10箇所も焼く。
分散した1つ1つは威力が抑えられ、それを一部反射されただけではたいしたダメージにもならない。
だが、クロスカウンター狙いの《剣気》は避けられない。回避のためのリソースは使い切った。
「…引き分けかしら、ね」
《剣気》が直撃し、吹っ飛んで地面に転がり、気を失う。
アーネスト・クロックラックの戦闘不能を感知した空間がその身体を休憩所たる広場へと強制転送させ、治癒術式で体力を回復させてゆく。
[30] A Finale....
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-08(水) 15:31
形代の体がうち崩れ、元のマテリアルに還っていく。
うち崩れた破片はチェンバーに消え、また新たな挑戦者を待つのだろう。
その数瞬後。空間が捩れる音と共に、戦闘空間も元に戻っていったのだった。

そして、入れ替わるようにまた幻影が姿を表し、
手紙を一枚、生成しておいて行くのだった。
それは相手の労をねぎらい、互いにいいものとするためのものだ。

(…お疲れ様。強かったなぁ。こっちもいい練習になったよ。

 あ、そうそう。
 いくつかアドバイスを。ギアでの射撃はいいけれど、頼り過ぎもよくない。
 一番嫌なパターンだけど、封じられたら動けなくなる。
 バッテリー切れ狙いの逃げまくっての兵糧攻めとかね。
 ガン・カタみたいな打撃を練習するとか、攻撃のレパートリーを増やすといいよ。

 あと、時間操作の使い方だろうなぁ。
 逆転の発想、移動中に一瞬だけ相手を早めて行き過ぎを起こしたりとか、
 攻撃の瞬間に早めて慣性で相手の攻撃を空振らせたり。
 回避の一瞬だけ使って解除を繰り返して使う感じだと、消耗も少ないかも。
 ざっと見て、こんなところ。参考になると、いいなぁ。)

そんな、明るい口調でのアドバイスを彼は手紙で、相手に。
おせっかい焼きの面が、強く出てるらしい。
そんな、形代の優しさだった。
[47] まるで導かれるように。
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-06-24(金) 00:21
(石造りの廊下、影猫のレギオンに連れられて歩く青年が一人。)

 ――数分前、レイドさんのレギオンと久々に出会う。
 撫でようとしたら逃げられて、追いかけた先で……エアメールで書いてた<箱>に到達。
 レギオンは案内役だったらしい、この<箱>のどこかにレイドさんがいるのだとか。


(黒い石を口許の前に持ち、独り言を呟きながら進む、やがて魔術空間に行き着く。)

 広い場所に出た――っと、ここで一旦日記ストップ。
 メールによれば、ここのどこかにレイドさんがいるはずなんだけど~。
 ……転移の儀が済んで早々にやっと連絡を寄越したと思ったら――いきなり演習?
 あの人、というかあの猫さんの考え、未だに読めないんだけど、どうしましょう。

(石を懐に仕舞い、ここでやっと顔を上げる。
 この後に巻き起こるであろう戦いを知ってか知らずか、薄く笑んだ表情を浮かべていた。
 ――その表情も次の言葉を吐く頃には消え、代わりに浮かぶのは人形のような無表情。)

 ――あ、忘れてた。

 戦の鍵束が一人、ブレイク・エルスノール。
 我が使い魔、レイド・グローリーベル・エルスノールの迎えに参上しました。
[51] 若き鍵束に捧ぐ。
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-24(金) 11:49
(若き鍵束の来客を感じ、真っ先に応対に立つは主の幻影だ。
 空間が歪み、柔らかな光と共にそれは招来する。
 青白き幻影とすぐに分かるその姿は、初期の応対には十分だろう。
 若き鍵束を前にして、幻影は語る。)

――よく来たね。
君の使い魔ならこのチェンバーに部屋を借りているよ。
もうすぐ、「本体」が来るから少し待っていて欲しいかな、なんて。

そうそう。申し遅れたね。
レイド・グローリーベル・エルスノールから君に教えるように言われている者だよ。
ディラドゥア・クレイモアだ。よろしくね。

(柔らかに笑う主の幻影。
 しかし、その姿は何処か威風の漂う戦士の様相だ。
 もうすぐ、本体が来る。準備が終わり次第、サプライズと共に。)
[52] 又の名を、「心無き兵団」
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-06-24(金) 16:05
(にゃーと鳴く影猫のレギオンを抱き上げて、声のするほうを見る。
 目にした幻影に対しては――しばらく眺めていたままだった、人形のような無表情で。
 「本体」が来るまで待っていて、そう聞くと、今はその時ではないと、悟ったのか。)

 ……レギオン? いや、それともイマージュ、かな。

(先ほどまでの笑みを咲かせ、影猫の頭を撫で始めた。)

 ディラドゥアさん、でしたっけ、レイドさんがお世話になっているようで~。
 あなたのお話でしたら、レイドさんからエアメールで少々伺ってますよ。
 他にもまぁ、聞きたいことやりたいこと山ほどあるんですケド……その前に演習でしたね。

 ……?
 ディラドゥアさんの「本体」ってことは、今回の演習相手はレイドさん、ではない?
 あらー、てっきり影猫レギオンがこの部屋に埋まるほど押し寄せてくるモンだと。
 ……あー、だからメールにあなたのコトが書いてあったんですねー、分かりました。

 私の準備は出来てますので、どうぞお手柔らかに。
 それにしても……竜ってホントにいたんですねぇ。
 使い魔でのドラゴンしか見たことなかったので……なんだか、初めて尽くし。

(戦いの予感を察したレギオンが、魔導師の腕からぽーんと飛び出した。
 それを名残惜しそうに見送った後、いよいよもって準備に取り掛かる。)
[53] 物陰からレイドさん。 part.0

レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-06-24(金) 16:21
 ――ブレイク? なんとも面白味のない名を付けたなぁ。
 まぁ、彼のコトだ、フィーリングでちょちょいと付けた魔導師名なんだろうね~。

 しかし全く……手紙はちゃんと最後まで読めとアレほど言ってるのに。
 まさかとは思うけど、この演習で課した条件項目を読み飛ばしてないだろうね?

(魔法空間のどこか片隅、陰猫に紛れて覗き見る使い魔兼教官。)
[56] 戦鍵者の系譜
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-25(土) 17:22
(人形のような無表情を見るに、魔術師はふと見抜くものがある。
 心を抑制する戦士。それは、魔術のリソースとしての感情を捨てることを意味する。
 心を捨て、戦闘に特化した戦士の例を聞いたことは幾つかあるが――。
 果たして、そうなのだろうかと。ふと考えて。)

イマージュ、だね。ファントムとも言うけれど。

あ、聞いてたんだ。
へぇ……。 質問の中身も気になるけどなぁ~。なんて。
ま、教官さんも見てるだろうからね。お手柔らかに。

ああ、おそらく「本体」が来るよ。
うん、そういう事。

了解~。この会話自体も、主にも聞こえてるから。

大丈夫、大丈夫。取って食うわけじゃないしね~。
ターミナルにはいっぱいいるよ。こう言うのも。

(返答を終えて、少しした後のことになるだろうか。
 次元の歪みと共に、一人の人影が溶けるように具現し、現れる。
 その姿を見た幻影は、また言うのだ。)

――お、来たようだね。

(その言葉は、主を待つ使い魔の如きそれ。
 現れた主の姿。 それを見る前に、放たれた魔術は。)

お勤め、ご苦労さま。
じゃ、代わってもらおうかな。

――「念動詠唱」(サイ・キャスト)
――「開放の宣誓」(ディスコール・リコール)

(幻影を消し飛ばす、逆送還の呪文だった。
 幻影を消し飛ばすと同時、ゆったりと姿を門より表し出したその姿はまさしく、
 神狩りの時に使う『星々の武具』に包まれた戦鍵者のそれだ。

 ――『星々の武具』。
 アーティファクトともいわれるそれは、壷中天での一幕の時に使った装備。
 現実に既に形成して持っている、最大限の強化武装だ。
 『デミゴッド』とも言えるその凶悪なるまでの姿を、なぜ敢えて男は取ったのだろうか。
 ――それは、ある種の憧れとして在りたかったからだ。
 真の「戦鍵者」の道は遠く、辛い。どこまでも血に濡れた道を歩む。
 その時の支えとなるのは、英雄の姿であり、また本当の意味での憧憬で有ったりするものである。
 男にとって、自分はそうありたい。それが、一助となるのであるならば。
 そう、願って止まないからだった。

 魔力を抑制し、今はただの武具と変わらぬその装備をまとった状態で、主は言う。)

――教導には少しやり過ぎくらいかな?なんて。
まぁ、いいか。

さ、始めよう。戦鍵者の系譜を継ぐ為の修練を。

――COME ON!

(その言葉は、何処かおどけて見える。表情も、柔らかな笑顔だ。
 緊張もなく戦闘態勢を取る主。それは、何処か威風をまとって、見えた。)
[58] 開戦はファンファーレと共に。
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-06-25(土) 18:58
(幻影が消し飛んだ瞬間、魔導師の瞳から光が消える。
 『星々の武具』、アーティファクトとも言う武具に身を包んだ相手を見ても、瞳は揺れない。
 それは強がりでもなければ、恐怖でもなく、ましてや見惚れているわけでもなかった。
 ここに魔法局上層の者がいれば、「無知の成せる技」と嘲笑っただろう。

 ――しかし、それさえも違った。 魔導師が口を開く、先程の温和な口調などはかき消して。)

 戦闘行動を、開始します。
 オーダー、『戦鍵者』ディラドゥア・クレイモアとの一定時間交戦。
 サブオーダー、「戦の鍵束」の使用義務有り、トラベルギアの使用は自由。
 NGオーダー、逃走術「リターンゲート」並びに、全ての逃走行動は禁止。

(淡々と言葉を紡ぎながら、その右手に細剣型のトラベルギアを握り締める。
 それを縦に構え、一度軽く頭を下げた後――開戦の合図、術の詠唱、展開。)

 ――『石像楽団の召喚』
 ――『名も知られぬ師団の召喚』
 ――『従者“アルジャーノン”の召喚』

(魔導師の背後には、オーケストラに用いられる様々な楽器を持ったガーゴイル達が数体。
 前方に浮かび上がる巨大な魔方陣からは、三十体にもなるだろう石の騎士像が出現。
 魔導師の傍らに、戦旗を掲げる小さな悪魔……ユニークガーゴイルが一体だけ。
 それらを瞬時に呼び出した後――戦闘前の笑みを一瞬だけ浮かべ、緩い口調で言う。)

 ――教官さんを試すなんてふざけてるって、思われそうですが……ごめんなさい、試します。
 これ、自論ですけど、私との演習で油断していいのは、今のところレイドさんだけなので。
 あ、後ろのガーゴイルさん達は気にしないでくださいね、演出です、演出。

 ではお言葉に甘えて――突撃して。

(開戦の合図と共に、剣を前に向ければ。
 映画の戦闘シーンを思わせる音楽が流れ――騎士像達が剣を抜き、『戦鍵者』へと迫る。
 再び人形の面持ちに戻った魔導師の横では、悪魔がキィキィと鳴きながら旗を振っていた。
 その間、魔導師が剣を持たぬ左手で懐を探り、己の魔道具――「戦の鍵束」を握った。)
[59] 物陰からむっつりレイドさん。 part.1

レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-06-25(土) 19:27
 あーもー、全力でって言ったのにさっそく魔力のムダ使いして、もーっ。
 ……まぁいいか、演習だし、僕も彼もディラドゥアの力がどれほどか、知らないし。
 しっかし、彼からあんな大胆発言が飛び出るとはね、挑発の仕方を誰かに習ったかな。

 さて、と。
 ディラドゥア、君の『戦鍵者』としての力、見せてもらうよ。
 けど、コレくらいは突破してくれるだろ? そうでなきゃ――がっかりだ。

(三十の騎士像を見て。)

 ……あー、アレ見てるとボーリングやりたくなるんだよねー。
(※たまに攻略のヒントっぽいものを呟くレイドさんでした。)
[60] いいファンファーレだ。さぁ、伴奏をつけるとしようか。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-26(日) 02:38
(敵の魔法を視認、スペルを聴問し、知識の中である程度の目算を付ける。
 全ての呪文が召喚術であることが確信に変わった瞬間。男の本性が一瞬、覗いた。
 歯を剥き出して笑う男。その笑みは、嗜虐趣味者のまさしくそれで。
 ダイアの刃が抜き放たれ、金の瞳は紅の光に染まる。
 そこに立つのは、戦鬼。敵に災厄(スコルージ)を振りまくために立つ、悪魔だ。)

ほぅ……。面白いじゃないか。
なら、試される側としても試させてもらおう。

(相手を絶望に追い込む魔術にはとかく長ける男だ。
 30の軍勢とガーゴイル。召喚術師は護衛を剥ぎ取っていくのがまた追い込み漁としても楽しい。
 護衛が一瞬で消え去った時の絶望に歪む表情を見せてもらおうか。
 そんな邪な笑いと共に、相手の魔術吸収を前提として魔術が展開する。)

――『念動詠唱』(サイ・キャスト)
――『不可視の鏡』(アンシーン・ミラー)


(空間に不可視の鏡を設置する。魔力のリソースとしての下準備だ。
 そこから詠唱の形式を変え、一気に魔術の形成を早める。)

――『多段鏡界詠唱』(マルチパラレル・ミラーキャスト)
――『副詠唱形式:多段高速詠唱』(サブキャスト:マルチパラレル・ファストキャスト)
――『竜族加速』(ドラグノシス・スピーダー)
――『足かせ』(エンタングル)
――『縮地』(クイック・ダイブ)
――『開放の宣誓』(ディスコール・リコール)


(副詠唱形式も設定しての駆け引き込みの魔術詠唱。
 『鏡』が奪われても継続するように計画立てて詠唱を済ませる。
 魔術のチョイスは全て奪われることを前提とした補助や嫌がらせの類。
 竜族を加速する種族限定の加速術により、一気に自らの行動を加速する。
 その上で、足かせの呪文が像の楽団の足を止めんと飛ぶ。
 一気にドミノ倒しを起こさせる狙いが透いて見える。もし、これらが綺麗に倒れ、空間の上方が開いたなら。
 そこは縮地の呪文が通る道となるだろう。
 召喚された存在を逆送還する、その上でダメ押しとしての『開放の宣誓』。
 送還の成功率は相手の魔力に依存する。
 どれほど聞くのかは定かではないが、相応には効くと踏んだ。
 矢継ぎ早に打たれる、オーバーキルと言うに甚だしいほどの召喚殺し。
 『足かせ』後の起き上がり後まで全て計算のうちに入れた行動の数々だ。)

召喚よりは変化、または直接攻撃術。ディスペル抵抗も考えるんだ。
召喚されたものは魔法抵抗は皆無に近くなるからね。

――さ、その上で逆に聞こう。『何回、どんな死に方で死にたい?』

(鍵は笑う。戦場に立つ者の顔も含めた、何処か狂気すら滲む純粋な笑みで。
 縮地から接近し、一気に魔術師を狙うのは首を跳ねる軌道の斬撃だ。
 寸止めで止まるであろう、どこまでも無慈悲な一撃が、牙を向く。)
[61] 熱血な悪魔は好きですか。
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-06-26(日) 15:22
(突撃の合図の後、握り締めた「戦の鍵束」が戦鍵者の魔術を感知する……。)

 ――『戦の鍵束·施錠』
 >>>『不可視の鏡』(アンシーン·ミラー)、施錠

(まずは一つ――だが治まることを知らないとばかりに繰り出される高速詠唱。
 ここで改めて、対峙している戦鍵者との『次元』の違いを悟った――施錠が間に合わない。
 詠唱の形式を除いても、鍵束はあと『4つ』の魔術を感知していた。)

 >>>『竜族加速』(ドラグノシス·スピーダー)――施錠失敗。
 >>>『足かせ』(エンタングル)――施錠。
 >>>『縮地』(クイック·ダイブ)――施錠失敗。
 >>>『開放の宣誓』(ディスコール·リコール)――施錠。

(4つの内、2つ。 だが後の二つは時間が足りず断念。
 しかも施錠出来た二つも発動自体は防げず――音楽を奏でる石像楽団は足を取られた後、押し倒された騎士像部隊と共に消し飛ぶ。
 撃ち出された弾丸の如く加速し、己の首を目掛けて迫る刃。

 だが、その一撃は――例え寸止めされるハズのものでも――魔導師には届かない。
 魔導師はその場から一歩も動かなかった――代わりに動いたのは、一匹だけ残されたユニークガーゴイル。
 手にしていた旗の柄と己の小さな石の身体で、迫る刃を押し退けた。
 ただし代償が一つある、彼が先程まで振っていた旗が真っ二つに粉砕されてしまった。

 実践であれば首が飛んでいたかもしれぬ主は、光の宿らぬ瞳で戦鍵者の笑みを、狂気を見る。
 愛用の旗を失った従者がぎゃうぎゃうと喚く――まるで魔導師の意志を代弁するかのように。)

『ゴ生憎様ダナァ!! “死ヌノハモウ間ニ合ッテマス”ッテナァァァァ!!』

(発狂染みた声が轟くが、魔導師は口を動かした様子もない。 その間――三つの鍵を手に。)

 ――『戦の鍵束·開錠』
 >>>『赤の鍵:焔の鞭>>>アルジャーノン』開錠
 >>>『青の鍵:水の防護膜』開錠
 >>>『紫の鍵:痛みの共有』開錠

(赤、青、紫の鍵に予め封じてあった魔術を、瞬時に開放させた。
 事前にストックを鍵に溜めておくことで、魔導師にとって最大の弱点、詠唱中に生じる絶対的な隙を取り除いたのだ。
 赤の鍵から開放された紅蓮の色した鞭は、旗を失った悪魔の手に渡り。
 青の鍵から溢れる液状のそれは、魔導師と悪魔の身を飲み込むように覆い尽くす。
 そして、紫の鍵から伸びる鎖は、魔導師の右腕の甲と、悪魔の左腕の甲に突き刺さる。
 術の発動が成された事を確認すると、魔導師は僅かな色を得た細剣を戦鍵者へ向ける。)

『ギャハハハッ! ヤベェゼ、久々ニマジダゼェコイツヨォ! ソリャソーダヨナァ、オレッチノ旗ァ、壊サレチマッタモンナァァァ!!』

(『アレェ、ケッコーオキニダッタンダゼェ』と石の顎を動かし、下品に笑うガーゴイル。 先程の声はこの石造りの悪魔が発していたようだ。
 魔導師がちらりと、騒がしい石の悪魔を見る、そして顔を戦鍵者へと向けるよう促せば。)

『アンタノハナシィ、レイドサンカラカネガネ聞イテッゼェ! オレッチノ名ハァ、従者“アルジャーノン”! ヨロシク指導頼ムゼェ、『戦鍵者』サンヨォォォォ!!』

(紹介を言い終えると同時、アルジャーノンと名乗ったガーゴイルが焔の鞭を放つ。
 その傍らに立つ魔導師は、先程使った鍵の一色――赤に染まった剣を天に掲げる。)

 ――『赤:火の雨』

(名の通り、遥か空から無数の火線を落とす赤の術の一つだ、一つ一つは小さな火だが、それを数十、数百と受ければどうなるものか。
 右横から地を滑るように炎の鞭、上からは火のつぶて――魔導師と悪魔の連携が迫る。)
[62] 物陰から耳を畳むレイドさん。 part.2

レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-06-26(日) 15:32
 ストラーイク♪(ぱたぱたと手を振ってる)
 って、うわー、うわー、面倒なのが残っちゃったなー。(慌てて耳を伏せる。)

 しっかし、まさかユ――いやいやブレイクご自慢の「旗」が早速壊れるとはねぇ。
 コレでアイツは『軍師』としての役割を失った、大多数召喚術の精度が落ちる。
 従者“アルジャーノン”、アレ、ただウルサいだけじゃないから面倒なんだよねぇ。
 ブレイクとの連携は勿論、フォローもすれば庇いもする。

 …………で、なんで『アレ』使っちゃうのか。
 いやね、大事なのは分かるんだよ、分かるんだけどさぁ……。
(ちんまり、切ない表情を浮かべてるレイドさんでした。)
[63] 熱血は好きだが脳筋は嫌いだ。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-27(月) 05:25
(敵の魔道具の発動を魔力の流れの変化で知る。
 封印形式の魔道具であることは前から聞いていたが、ポテンシャルに少々驚いた。
 このクラスの魔道具は作るのが難しい。魔道具に関しては、進んでいるようだ。
 そう、考えながらも。

 リソースの一つが潰される。鏡は汎用的で使いやすかったが、封印されては仕方がない。
 代わりのリソースを探す。場の様子を経験と照らし合わせれば、
 映るのは全てが火で形成された攻撃だ。となれば、方法は決まる。
 発狂じみた相手の声。それに返される言葉もまた――)

ククク……。そうか、死ぬのは間に合ってるか。
なら……。死んだ方がマシな思いをさせてやろう……。

よろしくね。アルジャーノン。
だがしかし。悪魔には手加減しないと決めてるんでねぇ……?

(狂気が滲む。しかし、これは狂気だろうか。それとも戦闘を極めし者の行く末か。
 相手の炎の鞭を視認し、詠唱の形式を即座に決定する。
 魔法を潰される事も前提に入れて。速度によっては追いつけないらしいことも見えた。
 なら、形式を変えてより早くを目指すまでのことだ。まずは、回避術式を。)

――『瞬間詠唱』(クイック・キャスト)
――『短距離跳躍』(ショート・テレポート)

(かかとで1回強く地面を叩く。これだけの行動で起動する瞬間詠唱。
 大まかな位置だけ指定する形式のランダムテレポートで5m程後方へと飛んだ。
 鞭の一撃が空を切るだろうか。そこからさらに、魔法の詠唱形式を変えて魔法を紡ぐ。
 竜族加速の魔法が効いている。すべての行動が約2倍速の速さだ。)

――『多段高速詠唱』(マルチパラレル・ファストキャスト)
――『(魔毒:)炎との親和』((スペル・ポイゾニング)ファイア・サクション)
――『炎との親和』(ファイア・サクション)
――『石を肉に』(ストーン・イズ・ミート)
――『魔法共鳴』(エコー・スペルズ)

(盛大なる毒を盛り込んだ術式を組み込んでいく。
 同じ魔法が『二つ』ある地点で相手は気がつかなければおかしい話ではあるが。
 魔毒。それは、相手の魔道具に封印されると起動する特殊術式だ。
 相手に封印されると相手の魔法のライブラリを汚染する。
 今回の形式は多くの魔法のストックを奪う物だ。実際は記憶を奪う形式で多用する。
 それに紛れて詠唱をかけた『炎との親和』。相手の炎魔法を魔力に変換する術式だ。
 これで、幾千もの火線は自らの友となる。
 炎を身に浴びて、魔力を回復する構図は何処かシュールだろうか。
 さらに発動するのは『石を肉に』。対象はガーゴイルのそれである。
 石を肉に組み替えてやれば刃は気持ちいいくらいに通る。
 そうすれば、返り血をリソースに使うことも可能となるだろう。そう踏んだ。
 鍵は外堀から埋めていく。利用出来るものは全て利用しながらも。
 『魔法共鳴』が次の一手の準備を済ませる。連続魔を狙うのだ。
 潰されればそれはそれ。さらに方法を変えて相手に一撃を入れようか。
 主は呼ぶ。己の手に持つ獲物の名を。)

――『スコルージ』

(『災厄』の名を冠するダイヤモンドの刃のクレイモア。
 その刃は血を啜りて持ち手を癒し、魔力によってより深く敵に食い込む。
 その眠りを目覚めさせれば、自らの潤沢な魔力を刃に送る。
 さらに切れ味を増すダイヤの刃が、悪魔の体を両断せんと、迫った)
[64] What is it to be terrible than I die?
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-06-27(月) 14:35
(降り注ぐ火の線は、本来なら魔導師達にとっても害を成すものだが、水の防護でそれを防ぐ。
 ガーゴイル“アルジャーノン”の鞭の後、自身が火の雨と共に攻撃を加える予定ではいた。
 が、その段取りは一瞬のうちに成された戦鍵者の瞬間移動により却下となる。
 詠唱を必要としない瞬間魔法、それは戦の鍵束をもっても捉えることは出来ないようだ。
 魔導師の技量が未熟だから、と言う点もあるだろう、横で石造りの悪魔が笑う。

 ただ哂うだけで反論はない、論を唱えることを必要としない以上に、そのような暇がない。
 距離が開かれた、その隙を逃すわけにはいかなかった。 笑い声の横で――)

 ――『戦の鍵束·施錠』

(施錠、封印を施せなかった残り二つの魔術封印にかかる――だがその前に相手が動いた。
 相手にはまだ加速が掛かっている、その上から更に『4つ』の魔術を戦の鍵束は捉える。

 笑い声が止んだ、代わりに鋭い声が飛ぶ。)

『ダブッテル術ガアル、一ツハ罠ダ!』

(空を切った鞭を手繰り寄せながら、悪魔が赤い目を光らせ叫ぶ。魔導師は小さく頷く。
 その間にも迫る戦鍵者、悪魔は束ねた鞭を引き伸ばし、それで防御しようと構えた。
 だが、無理だと魔導師は判断する――旗を一撃で砕いた剣を、鞭で防げようか、否だ。)

 ――『戦の鍵束·施錠』
 >>>『竜族加速』(ドラグノシス·スピーダー)――施錠。
 >>>『縮地』(クイック·ダイブ)――施錠失敗。

 >>>『(魔毒:)炎との親和』((スペル・ポイゾニング)ファイア・サクション)――不施錠。
 >>>『炎との親和』(ファイア・サクション)――不施錠。
 >>>『石を肉に』(ストーン・イズ・ミート)――施錠。
 >>>『魔法共鳴』(エコー・スペルズ)――施錠失敗。

(現時点において厄介な加速を封印、ガーゴイルを弱体させる呪いの使用も封ずる。
 火線を吸収する加護は無視した、罠と知ったものに挑みかかる度胸もなければ時間もない。
 『石を肉に』の発動を封じ、石の身体を保ったが、それで従者に迫る刃が止まるわけではない。

 ――『戦の鍵束・開錠』
 >>>『紫の鍵:次元の穴』

(紫の鍵に招かれた穴が防御体制を保ったままの悪魔を飲み込み、振るわれた剣の届かぬ後方へと吐き出す。
 目をぱちくりとさせた後、『ナンダヨ、カッコヨクカウンター決メテヤロート思ッタノニヨォォ』と膨れっつらを浮かべる悪魔を尻目に。
 ほんの少し前まで、詠唱以外の言葉を発することが無かった魔導師が、ぽつりと。)

 ……死んだほうがまし?

(戦闘前の緩んだ調でなく、抑揚全てを失った機器的な声で呟く。
 けれどその瞳は、人形のような色の無いものではなく、微かに揺れ始めていた。)

 では……“死ぬよりも恐ろしいことって、何ですか?”

(機器的な声の語尾に、微かに悲しみが篭る。
 一瞬だけ潤んだ瞳はすぐに乾き、答えを待たずに魔導師は新たな鍵を手に取る。)

 ――『戦の鍵束・開錠』
 >>>『白の鍵:足かせ(エンタングル)』開錠
 >>>『橙の鍵:心の牢獄(術)』開錠
 >>>『茶の鍵:毒の雲』開錠
 >>>『黄の鍵:稲光の網』開錠

(先程封じた『足かせ』を開放し、術の主に発動させる。
 次いで繰り出す橙の鍵は他者の心に鍵をかけ、術の発動しようとする意思を封じる物。
 茶の鍵で招く紫色の気体は猛毒を含み、それを体内に取り込めば毒の苦しみを味わうだろう。
 そして黄色の鍵は万一こちらへ挑みかかってきた際の防護用、強い光で目を眩ませながら、電磁の網で動きを封じるものだ。

 横目でアルジャーノンが再び鞭を振るおうとするのを見て、それを手で制す。
 『焔の鞭』を赤の鍵に施錠した後、再び小さな悪魔の後ろに身を潜めた。)
[65] 物陰から目を細めるレイドさん。 part.3

レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-06-27(月) 15:06
 ――そうだね、避ける、逃げるが無難だろうね。
 あそこでならアルジャーノンの耐久を引き上げる術も使えただろうケド……。
 『スコルージ』か……、金剛石化したアルジャーノンなら耐えれるかもだけど、ブレイクが受ければ……。

 ブレイクはどうも、アルジャーノンを生かして共に戦う戦法を選択したようだね。
 魔術に秘められた罠を見破る目、固い身体は今のブレイクにとっては貴重かもしれない。
 共に戦う仲間というのは心強いけれど……時として、かせともなる。
 
 しっかし、ディラドゥア……キミの引き出しの多さには驚かされたよ。
 種族強化に瞬間移動、属性魔術の吸収に嫌がらせの罠まで……死角はいずこへ~。
 ふふっ、今度はどんな力を見せてくれるのかなぁ、嗚呼、楽しみだねぇ……♪
 けど、そんなに加護ばかりかけて……後で「天使様」に裏切られても知らないよ?

 あと……コレは僕が言い忘れてたコトなんだけどねぇ。
 ディラドゥア、君の世界には「死んでも甦られる魔法」があるようだけど……。
 僕たちの世界ではね、それは禁呪なんだよ。
 あるにはある……けれどね、一人の人間を甦らせるには、百人以上の生者の魂が必要なんだ。
 しかも、甦った人間が生きていられるのは、長くて精々三日、一時的な蘇生に過ぎない。
 そう易々と使える術じゃないんだ、キミの世界の蘇生術は知らないけど、一応言っておく。

 ただし……悪魔の力を借りれば例外、魔法局ではそれによって人間が一人蘇り、そしてその人間が今も生存していることを確認している。
 今、彼と対峙している君にこの話を聞かせたら、どんな反応を返すだろうね。

(ちょっとした警告と、ちょっとした問いかけを呟くレイドさんでした。)
[67] It's All friends will be forgotten.
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-28(火) 11:07
(使い魔が罠を見破る。まぁ、見破れなければ嘘になるのだが。
 使い魔頼みというのが現状の相手に対しては正当な評価だろうか。そう、鍵は思う。
 加速の強化と弱体化の魔力が封じられる。相手もさすがに見逃してはくれないか。
 やはり、一筋縄で行くようではつまらない。そう考える主も、何処か病んでいるのだろう。

 復活の魔法など存在しない。
 病的なまでの輪廻転生(リンカネーション)の早回しがあるだけだ。
 もし、完全な復活が存在するならば、己の苦しみは存在しなかった。
 全ては復讐のために。自ら望み、この世界に入り永遠を甘受した身。
 そう。この『空虚なる永遠』を生きてきた者からすれば、この程度で絶望などしていられないのだ。
 さぁ、さらなる反撃の手を打ちに行く。あくまで教導であるとの意識のみおいて。)

……それは。すべての仲間から忘れ去られてしまうこと。
自分がここまでこれたのも、覚えていてくれる仲間あってさ。

全ての存在から意識されなくなったとき。オマエは終わる。

(言葉と共に紡ごうとする、『記憶簒奪術』。
 しかし、その一瞬の過ぎりを無理矢理に押し殺す。自分にはできない。
 これが、どれだけ残酷なことであるかを自分は知っているから。
 『今は、教導だ。完全に好き勝手して良い相手じゃない。』

 その意識が術に鍵を掛ける。選択肢は増えるが、それ以上は行わない。
 歪む表情。悲しみか、苦しみか。それをむりやりに押し殺して、術を紡ぐ。
 飛んできた術に対しての対処が最優先だ。)

――『三重高速詠唱』(トリプル・ファストキャスト)
――『風の招来』(サモン・ウィンド)
――『束縛からの開放』(フリー・アクション)
――『心的攻性防壁』(マインド・ラビュリントス)

(魔術師の、いや、魔闘士の質は引き出しの多さで決まる。
 詠唱を三重とすることで詠唱の速度を上げ、速度の減少を補う。
 まず、相手の毒の霧を風で相手に返す。
 その上で、『足かせ』への回答として『束縛からの開放』を。
 足かせは戒めとなることもない。拘束しようとしては抜けていく。
 さらに。相手の心理攻撃にはそれにのしをつけて返すことに決めた。
 『心的攻性防壁』。敢えて術に侵入を許し、その効果を迷いこませることで抹殺する。
 心理攻撃は数をこなしている。神々との戦でなんどもそれは行われた手法だ。
 抹殺した術を魔力に変換し、主はさらなる攻撃の手を決める。)

――『二重高速詠唱』(ダブル・ファストキャスト)
――『意思疎通の抹殺』(タワー・オブ・バベル)
――『(魔線虫:)意思疎通の抹殺』((スペルワームド)タワー・オブ・バベル)

(やり口は簡単なことだ。相手の使い魔との意思疎通を抹殺する。
 『バベルの塔』の故事に習う名を冠する魔術を起動し、それにワームを忍ばせた。
 封印で起動する毒の二つ目。相手のライブラリを食い荒らすそれだ。
 古の聖書には神は人の傲慢に怒り、言葉の疎通を抹殺したと聞く。
 それがこの神を使わぬ術に付くのは皮肉以外の何物でもあるまい。

 魔法共鳴が効いている。加護と強化の違いを教えるにはいい機会だろう。
 神は居る。しかし、天使も、悪魔も、そして神も。
 刃の前には切り刻む対象以外の何者でもない。それが、戦場の掟であり答えだ。)

――『多重高速詠唱』(マルチパラレル・ファストキャスト)
――『二重加速:ディラドゥア』(デュアル・スピード:ディラドゥア)
――『雷翼石の髪飾り』(マリッジ・ライトニング)
――『次元の扉』(ディメンジョン・ドア)

(魔術署名による自己指定の二重加速。通常加速の二倍の加速を段階的に得る。
 慣れない者であるならば使えば体の限界が見えてくるレベルの加速。
 これに伴う著しい魔力の消費を雷の髪飾りで吸収に掛かり、
 さらに裏から攻撃をかけるべく、主は最大戦速で扉を潜り、背後からの攻撃をかける。
 魔術師を狩る者と狩られる者。一筋縄と行くかどうか。見ものだ。

 相手に迫るのは、高威力の縦に迫る斬撃。)
[69] 剥がれたモノは、二つ。
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-06-28(火) 23:46
 ――『戦の鍵束・施錠』
 >>>『縮地』(クイック・ダイブ)――施錠。
 >>>『(魔毒:)炎との親和』((スペル・ポイゾニング)ファイア・サクション)――除外。
 >>>『炎との親和』(ファイア・サクション)――除外。
 >>>『魔法共鳴』(エコー・スペルズ)――施錠。

(錠を掛けられなかった魔術二つを封印する、罠が潜む炎の加護は対象から外した。)

『オイィ見逃スノカァ? 丁度ドッチニ罠ガ仕込マレテッカ、見抜イタトコナノニヨォォォ?』

(問いに、頷いて返す。)

『ナニ泣イテンダ? ビビッタカァ?』

(こちらには首を横に振る。 この後、多重に掛けた魔術の中から戦鍵者の返答を聞いた。
 その中に含まれたとある言の葉に、揺れる、無感情を徹した心の壁が叩かれる。
 魔導師にとって、絶対に与えてはならない隙がそこにあった。)

『集中シロ、来ルゼェェェ!!』

(使い魔の警告が成される、だが遅かった、術の発動は見逃し、施錠の構えも取れずに過ぎる。
 次、間もなく繰り出される術の反応は『2つ』、この場で命綱を担う悪魔の声に耳を――)

『#$@⊿%¢!!!』

 ――!?

(人形の仮面は剥がされた、瞳に色は戻り、無だった表情に初めて戸惑いが浮かぶ。
 戦鍵者の推察通り、彼は使い魔との連携を駆使して――使い魔を頼りに――戦う、本質からの“召喚術士”だ。
 それが魔法局至上、究極の魔道具と謳われる戦の鍵束を手にした時、戦い方のバリエーションが幅広くなっただけであって。
 先程から連続して行われている『施錠・開錠』は本来の彼の力ではない、借り物の力。
 借り物はただ壊さぬよう使えばいいだけだ、だが彼にとって召喚術は違った――唯一にして無二の、信頼できる力。
 ――それを操る術を、封じられてしまったら。)

 ……っ!!

(鍵束が反応するまま――がむしゃらに――、借り物の力を振るう。 罠が潜んでいるかもしれない魔術に手を掛けた。)

 ――『戦の鍵束・施錠』
 >>>『意思疎通の抹殺』(タワー・オブ・バベル)――施錠。
 >>>『(魔線虫:)意思疎通の抹殺』((スペルワームド)タワー・オブ・バベル)――施錠。

(使い魔との対話を経つ術は封じた、それでも鍵は次の魔術を捕捉する。
 『後ロダ!』――響く声、振り返る動作に入る前に――前から石像の悪魔が魔導師を突き飛ばした。

 ふわり、左斜めに倒れる視界が捉えたのは、いつの間にか背後にいて、剣を縦に振るう戦鍵者。
 そして、剣に打ち砕かれた従者“アルジャーノン”、石の身体は金剛の刃に抗えなかった。
 本来ならばここで『痛みの共有』――術師、使い魔のどちらかが受けた攻撃を分割し、軽減しあう術が発動するはずだった。
 だが、その術の効果は先程施錠してしまったワームの餌食となり、跡形もなく消えた後だった。)

『ケッ……、桁ガ違ェッテナァ、正ニコノコトダナァ……ギャハハッ』

(活動限界を一撃で超され、己の存在を維持できなくなった悪魔が、今も尚も、笑う。
 粉々に粉砕され、身体のそれぞれがひとかけらの石塊と化した従者は散り際に、赤い目で戦鍵者を見る。)

『コッカラガ本番ダ……アトハアンタニ頼ンドクゼェ、“戦鍵者”サンヨォ……』

(悪魔の造形には似合わない祈りの言葉を言いかけて、冷たい石の瞳の光が消える、石塊が地に転がる。
 その瞬間、戦鍵者が魔導師の顔を見ていたなら――そこに彼の泣き顔を見ただろう。
 ただしそれも一瞬だけ、突き飛ばされた衝撃に乗って、地を蹴り転倒を逃れる。
 剣圧により舞い上がる塵埃や砂利、それらから顔を庇うようにして、微かに零れた涙を拭う。

 そこからはまた、戦闘中を意味する人形の顔に戻る――、けれどすぐに、緩く笑う。)

 ――仲間ですかぁ、素敵ですねー。
 コレが終わる頃、私が生きてたら、あなたのお仲間さんのお話、ぜひ聞いてみたいですねぇ。

 ああ、私にはそういった話、振らないで下さいね~。
 私には、そんな人、もうだれもいませんから、だれもいないんですよ?
 さっきの、アルジャーノンは貴方が壊しちゃったし……レイドさんはなに考えてるか、分からないし?

(表情こそは笑っていた。 だがその金色の瞳からは涙があふれ出て止まらない。
 それでも口調は戦いに出る前の緩い調子だった、泣いているのに嗚咽が一切混じらないのは、意地の成せる業だろうか。)

 じゃあ私は、転移の儀を受けた時点で二度目の死を迎えていたんですねぇ。
 『戦の鍵束』として勇敢に次元の歪みへと繰り出し、そして名誉の死を遂げる“生贄”として。
 まぁ、それでも構いませんけどねぇ……私の場合、“死んでいた方がマシ”だったんですから。

(涙に濡れた瞳の色が、金から深紅の色へと変わる――瓦礫と化した悪魔の目を思わせる赤。
 ふわりと身体が宙に浮き――肌の色は黒へと変化していく、背には蝙蝠を思わせる翼がローブを突き破って生えた。
 手にはナイフのように鋭利な爪、裂けた口から覗く尖った牙、鞭のように細長い尾。
 第三者がここを訪れ、今の“それ”を見たならば、多くの者がこう呼ぶだろう――『悪魔』と。
 身体そのものは肥大化することがなかった為、ローブを失うことはなかった。 これがせめてもの、人であった名残。)

 ……先に言いましたよね、私に手加減してもいいのはレイドさんだけだと。
 侮辱として取られたのなら、謝ります、ごめんなさい。 ですがこの言葉を訂正する気はないですよ。
 手加減抜きで、本気で来て下さいね。 でないと私、ここで死ねないじゃないですか――。

 ――『戦の鍵束:開錠』
 >>>『橙の鍵:天使の裏切り>>>炎との親和(ファイア・サクション)』開錠
 >>>『赤の鍵:火球』開錠
 >>>『赤の鍵:火柱』開錠
 >>>『赤の鍵:炎の嵐』開錠

(ワームに食い荒らされたライブラリの中で、まだ被害が広がっていない鍵を手にとる。
 橙の鍵は『天使の裏切り』、対象に宿る加護を一つ選択し、効果を逆転させる呪縛。
 火を吸収する加護『炎との親和』の場合、加護は失われた上に弱点と化す、加護殺しに適した呪いだ。
 それに追い討ちをかけるように、赤の鍵で『3つ』の炎術を繰り出す、何れも悪魔の力を得て強化されたものを。
 『火球』は大砲程の火炎弾を真っ直ぐ放ち、『火柱』は敵の立っているその位置から火山の噴火の如く、炎が吹き出る。
 そして『炎の嵐』は『火の雨』の上位変換、辺り一面を飲み込むように炎が湧き上がり、迫る。
 頬に伝う涙など一瞬で蒸発させる炎の群れを見送りながら、『悪魔』は大きな翼で羽ばたき、宙へ逃れた。)
[70] 物陰から祈るレイドさん。 part.4

レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-06-29(水) 00:35
 悩みの種は芽吹き、花まで咲かせていたようだ。

 一人の人間を甦らせた悪魔は、彼に余計な置き土産を添えていった。
 それはディラドゥア、君が今、目にしている悪魔の力と、その姿だよ。
 それは人々を恐れさせるには十分すぎて、魔法局の興味を引くのにも十分すぎた。
 その間にいろいろあったコトは割合させてもらうよ、想像は容易だと思うし。

 ところでディラドゥア、目の前に居る彼は『悪魔』の姿をしていると思うケド。
 君は、彼を悪魔だと思うかな? ちなみに僕の答えはNOだ。

 さてと、万一に備えて、いつでも動けるよう準備しておかなきゃね。
 そんなコトが、起こらないことを祈るけれどね……使い魔として。

(炎の嵐を結界で防ぎつつ、鈴に手を添えるレイドさんでした。)
[71] 生まれた物も、二つ。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-06-29(水) 08:37
(ガーゴイルの体をスコルージが抉るのが分かる。
 石となった体を打ち砕き、まずひとつの敵を打ち砕いた。
 戦場の掟に従うまでの話だ。今はしばしの眠りを。
 そんな、薄情な祈りの言葉を心に一つ浮かべてはすぐに消す。
 悪魔の言葉には、一つの頷きを返すにとどめた。また逢えるから。その時に。

 鍵とて弱点が全くないわけではない。男の弱い部分が思わず露呈する。
 それは、絶望的な魔力不足だ。 たしかに高速詠唱等隙はない。
 しかし、長期戦を戦うにはリソースがない。なさすぎる。何かしらのリソースが必要になる。
 自らの魔力の残余を鑑みる。吸収の魔術なしにはきつい物となるのは透いて見えた。
 『天使の裏切り』。地味にキツイ効果だ。 しかし、相手は忘れている。
 『この魔術の主導権はこちらが握っている』ということを。
 ただ潰すだけなら解除すればいい。『強化の強制』なしには長くは持たないのが強化反転だ。
 しかし、現実的には今は時間がほしい。対処のためのほんの少しの時間が。
 鍵の選択肢は一つだ。 自らの手首を刃にすべらせ、血と魔力を交換する。
 その上に慰みの代わりの止血の魔術を掛けた上で、魔法を紡いだ。
 二重加速の力を借りて。 超高速で詠唱を掛ける。)

――『高速詠唱』(ファスト・キャスト)
――『無傷の球』(グローブ・オブ・インパネラビリティ)

(わずか10秒しか持たない最高位の障壁呪文を起動する。『無敵化』とも呼ばれる障壁。
 この魔術にある『唯一の穴』を相手は知らない。ならば、と一時的な時間稼ぎに用いた。
 たかが10秒。しかし、10秒あればいい。この時間で戦況を一気に塗り替える。
 続けて詠唱を掛けるのは、相手の使用魔術への返答だ。
 まず、『束縛からの開放』、『雷翼石の髪飾り』を解除する。
 その上で浮いた魔力を新たな魔法へとつぎ込んだ。裏切りへの明確なる回答だ。)

――『二段高速詠唱』(ダブル・ファストキャスト)
――『効果反転:炎との親和』(スペルバウンド:ファイア・サクション)
――『変転の門』(ターンネイション・ゲート)

(裏切りが元の効果の反転を意味するのならば。
 呪縛への正式な答えとして男は自ら元々のコインを裏返す。裏の裏は表。
 逆転の発想とも思われるだろうが、これも主導権があってこそ。
 『強化の強制』の形で強制されていれば、できなかったことだ。
 『変転の門』が火球を吸い込んで相手へと進路をねじ曲げる。その刹那。

 3、2、1――0。

 『無傷の球』が時間の経過によって消える。
 その瞬間。火柱の中に自らの身体は消えた。しかし、ダメージを受けることはない。
 そのかわり。男は膨大な魔力を手にしている。 全てが炎に包まれた空間だ。
 付与の効果自体が生きてくる。
 相手の望みはこちらの本気だ。本気を望む相手に、本気を見せる。
 鍵としての本気。真の強さの幕を開けるとしよう。本来訓練では使わぬ実戦向けの術を起動して。
 「相手には後で種は明かさないとマズイかな」とそんな事を考えながら。)

――『多段高速詠唱』(マルチパラレル・ファストキャスト)
――『反魔法結界』(アンチ・マジック・シェル)
――『空中翔靴』(エア・シューズ)
――『英雄化』(アドレナリン・ドーピング)
――『祝福』(ブレッシング)
――『次元の扉』(ディメンション・ドア)

(実戦魔術のオンパレード。これでもかなりジャンルを絞る。
 『反魔法結界』。一定範囲空間内に居る相手の特定魔法行使を抹殺する封印結界を得た上で、
 『空中翔靴』によって男は空間に立つことを可能にした。
 その上で掛けるのは、いつも使う初級の強化呪文だった。
 まだ、本当の顔は見せるわけにも行かない。やはり、教導だから。

 次元の扉を潜る。出る先は相手の正面。反魔法結界の効果範囲内に相手を捉える。
 空間に降り立てば。これで相手はほぼ魔法行使は難しくなるだろう。
 その上で、男は語るのだ。)

ああ、しっかり聞かせてあげよう。でも。『君は死ねない』。
忘れているようだけど、ここはあくまで決闘空間。
模擬用に作られた空間だからね。臨死体験して弾きだされるだけさ。

――それに。仲間ならこれから作ればいい。
君は既に『ロストナンバー』だ。元の世界の束縛からは放たれている。
何時までも鎖を引きずるのは愚者でしか無いね。

そうかも知れないね。さすがに戦闘の時だから、あの口調にはなったけど。
ただ、逆に考えてもらえばいい。

放たれたのは「本当の意味で鍵となるべく此処に来たのだ」と。
その体がどうした? もっと酷いのなんか腐るほどいるのに。
それに。このターミナル内にはいくらでもいるよ。そんなの。

あと。一度や二度『死んだ』くらいでガタガタ言うのは無しだ。

――もう二桁は『死んでる』側から言わせれば、
死は終わりを意味しない。始まりでもあるのだから。

――じゃ、決闘空間の外で会おう。
『ここで死ね。三度目の死によって、新たなる戦鍵者として生まれるために。』

(死は終わりを意味しない。新たなる旅立ちの始まりでもある。
 足元を返した火球が抜けていき、男へ直撃のコースをたどる中。
 鍵は、残りのアーティファクトを揺り起こす。)

――『永遠の間の鍵』(キー・オブ・エタニティ・チェンバー)
――『フェアノール王の硬革靴』
――『カンベレグ』
――『刀返し』

(時間を遅くする鍵のアミュレット、風より速き行動すら可能とする革靴。
 そして、斬撃をさらに強化する革のグローブ。
 そして刃すら返す強力な鎧の四つを揺り起こす。装備を生かすのも鍵の強さだ。
 これらの装備チョイスを『パズル』と呼んで全ての@はより大事に考えてきた。
 ひとつでも欠ければ弱くなる。最適の装備を身につけられることもまた強さなのだ。

 斬撃の雨が飛ぶ。一切の情け容赦すら許さない乱撃の刃が。
 しかし、そこに残酷さはどこにもない。あるのは、痛ましいまでの戦士としての優しさだけだ。

 一切の感傷すら込めぬ刃の嵐。それは、新たなる誕生を祈る、男なりの花道。)
[72] 終戦は、今は届かぬ祈りとともに。
ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-06-29(水) 16:10
(鍵を握らずとも、今、炎の群れと対峙している人が術を行使しているのは分かる。
 けれど『施錠』の術は、罠に仕込まれていたワームに食われた後だった。
 あの人は向かってくるだろう、今の自分には理解も及ばぬ力を持って。
 教官から言い渡された条件は一定時間の戦闘のみだが、彼個人の目標はせめて、一撃を与えることだった。
 それは思い上がりだったと知る、望まぬに得た切り札――悪魔の力を持っても。
 結局、この力も悪魔からの借り物だからだろうか。
 一度目の死を迎える前の彼は、只の未熟な召喚術士でしかなかった。

 けれど、これで終わり、戦の鍵束に仕立て上げられた道化は、これで堕ちる。
 どこかの悪魔が仕組み、魔法局の誰かが描いた滑稽な御伽噺は、一つの死で閉幕を迎えるのだ。
 ――向こうに放ったハズの火球の後を追い、こちらに迫る人の声を聞くまでは、少なくともそう思っていた。)

 ――『戦の鍵束·開錠』――error.

(魔法局至上、究極とも謳われた魔道具は沈黙する。
 ならば己に在る一握りの召喚術をと思うが、それさえも『反魔法結界』に阻まれた。

 終わった、と思う。 けれど遥か次元に存在していた、彼にとって伝説だったウォーロックは、始まりだと言う。
 彼が言う『二桁の死』は、若き魔導師の理解を余りにも大きく超えていた、死よりも恐ろしいものの存在など、今まで知らなかったから。

 自ら放った火球の後に三度目の死が迫る、無慈悲とある情が入り混じった刃の嵐の中、悪魔の醜い手を伸ばす。

 ――四度目の生を受けた後、いつの日か、僕が本当の『戦の鍵束』になれたなら。
 あなたがいつか話す仲間のお話に、僕の名は――与えられた力でしか戦えぬ魔導師の名は出てくるのですか。

 その竜鱗の一つにすら触れられなかった鍵は、無数の剣に叩きつけられ、地に落ちる。
 死、それ以上の恐怖を知らない彼は、血と涙に濡れた祈りから新たな始まりを迎える――。)
[73] 物陰から現れ、深淵に消えるレイドさん。 part.5

レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-06-29(水) 21:57
(若き鍵束が落ちた場所、その数歩奥に行った所に猫の従者はいた。
 落下による塵埃、風圧にも揺れない羽根帽子に手を添え、上空にいる男を見る。)

 ――お疲れ様。 どうだった、何か感想はあるかい?
 言いたいことがあれば聞くよ、彼が目覚めた後、助言として伝えておくから。

 しかし、参ったねぇ。
 結局、君の装甲一つにすら触れられずに、僕たちの世界の鍵が倒されるとはね。
 くふふっ、僕が彼に施した鍛錬、教導はまだまだだったってコトかな?

 戦ってる際に感づいてるとは思うけど、いろいろとコンプレックスを抱えてる子でさ。
 よかったら助けになってあげて欲しい、『戦鍵者』の――仲間として。 勿論、強要はしないよ。

 ……彼はしばらく、僕が借りてる部屋で休ませるよ。
 一回この姿になっちゃうと、しばらく元の姿に戻れなくなるんだよねぇ。

 君の戦い方、いろいろ参考になったよ、見てて楽しかった。
 そうだねぇ、いずれはこの僕――『栄光の鈴』レイドさんとも、手合わせして欲しいかな。
 けど、今はそんな気分じゃない。 気が回ったら、僕がここに来させてもらうよ。
 君に戦いを挑む、決闘者として。

 それじゃ、また――。

(にこり、と小首を傾げながら微笑む。
 それからバサリ、と、マントを大きく翻して魅せる、使い魔と魔導師の姿が隠される。
 空間が歪む魔力を感じただろうか――マントの裏にいた二人の姿はいつの間にか、消えていた。)
[74] 声なき祈りを拾う者として。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-07-01(金) 22:03
(乱撃の刃が的確に相手の急所に叩き込まれる。
 相手を完全に殺す軌道の刃が肉を削り、引き裂き、唸る。
 その中で、伸ばされた悪魔の腕。それの持つ声無き声を主は拾う。
 声なき声、声なき祈りを聞き届け、それを守り、助けるのもまた鍵だ。
 そう、思うからこそ。伸びた腕をそっと胸に押し付け、血の通った、温かいその上の感触を確かめる。

 叙事詩は歌う。その願いは必ずや聞き届けられることを知っていると。
 ともに学び、ともに戦い、共に磨くならば、『お前はすでに鍵なのだ』と。

 息子を千尋の谷にたたき落とすかのように。全力でそれを切り刻み、
 やがて墜ちゆく鍵を見送れば、主の表情はいつしか日常のそれに戻り行く。
 優しい表情に悲しさを押し隠して、鍵は翼を広げる。
 術の終了と、ワーム自体に食い荒らしたライブラリの修復と自己消滅を命じながら。

 螺旋を描くような降下の中で、ふと輝く数粒のものが見えたのは、偶然だろうか。
 心の中に隠したはずの優しさの発露か。主は笑う。まだまだ、自分も甘いな、と。
 戦場の鬼は、ゆっくりと地上へ降り立てば、教官たる相手に正対するのだった。
 日常の、柔らかな笑顔で。)

戦った感じ、元々の能力が非常にいい。非常に光る原石だ。
少しレパートリーを増やすだけで自分と同等の力を持つだろう。

ただ、やはり魔道具に振り回されているね。
強い魔道具は自らのスタンスを忘れさせるに十分だ。しばらく封印して学び直すといいだろう。

魔法の面。最優先必修は調査魔法と基礎的な魔法の迎撃になると思う。
あと、「罠」とそれ以外の分別くらいはできるようにしておくことだね。
使い魔に助けてもらってるのでは護衛が剥げたとき辛くなる。

あと、彼にこう伝えてほしい。

「おめでとう。今日から君は『戦鍵者』だ。諸君の奮戦を期待する。
 Happy Birthday. Lord Blake Elsnorl.」 と。

教導の質は良いんだけど、偏りだね。
花形召喚もいいけど、補助魔法が見えなかった。強化ではなく、地味な妨害系。
あと少し体術学ぶといいなぁ。悪魔の爪あるならやらないほうがもったいない。

あと、「加護」と「強化」は分けてね。
神とか天使とか悪魔とかの上・下位存在や、他者を仲介して強化を受けるのが「加護」。
術者単体で完結するのが「強化」。よく言うでしょ?「神の御加護を」と。
今回使用した魔術で「加護」と呼べるのは実質『祝福』だけと言っていい。

駆け引きの領域としては、開幕あらかた召喚済ませたらいっその事「静寂」(ミュート)。
これで無差別で魔法封じてしまえばかなりいいとこいけたと思う。
念動詠唱や書いて発動以外の魔法封じてしまえるから、数の優位で結構いいとこいけるよ。

もちろん、協力させてもらうよ。
仲間だし、強くなれる要素はいっぱいだしね。
自分の持ってる物、すべて伝えてあげるつもりでやらせてもらうよ。

それがいいかもしれないね。
もう一人置いても問題じゃないから、一緒に住んでもいいし。

決闘者として、か。喜んで。
自分も今回はかなり絞らせてもらったからね。久しぶりだったよ、ここまで苦戦したの。
違う側面も、次なら見せられるかな。

また会おう。部屋に後で向かうね。

(相手の消える姿をそっと見送り、自分もまた戻ることとしよう。
 念動詠唱位の力は少し残っている。
 自らの残りの魔力をそっと移して。次元の門の先へと、消えよう。)
[134] 「記録の管理者」
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-07-20(水) 00:47
(練武場、もしくは決闘空間と呼ばれる間の隅に、一匹の猫妖精が佇んでいる。
 レイドが指揮するレギオンの様だが、影のように黒いそれの姿とは違っていた。
 毛の色はグレー、右目が銀色で、左目が金色の猫は、姿こそはレイドと瓜二つ。
 色合いの印象からして、レイドが陽ならば、こちらは陰と言ったところだろうか。)

 ……?
 ああ、私のことはお気になさらず。
 時期が来れば、私の役割を話すことになるでしょうけれど。

(今はそれ以上を語ろうとせずに、いずれ戦場となるであろう空間をただ見続けている。
 この場に起きる戦いの全てを見届ける、そのような誓いを立てたもののように、見続ける。)
[169] 冒険者としての戦い方。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-08-29(月) 12:11
(主の姿はついに戦場へと現れる。
 その装備はいつもの軽装備にクロークを纏い、
 物品を詰め込んだ腕輪を右手につけたような出で立ちだ。これが探索者の正装。
 いかなる戦場においても対応を可能にする魔道具の組み合わせ。

 剣は今はパスケースに入れてあるが、それを気にするということもない。
 必要なときにだけ使えばいいのだから。剣には魔術師の使い方が、ある。

 さぁ、始めよう。メモリーストーンを猫に渡して。)

おいで、ニッティ。

(『永遠に縋る夢』のメモリーストーンを影猫へ渡す。
 魔道具術士の力量は扱いの手法によって決まると聞くが、どうなるか。
 それを確かめるのも仕事だと、主はそっと笑顔を浮かべるのだった。)
[170] NowLoading...
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-08-29(月) 12:55
(メモリーストーンをそっと受け取る陰猫は、ゆっくりと顔を上げて戦鍵者を見る。
 しばらく見つめた後に記録の石へと見下ろし、何を再生すべきなのかを改めて確認した。

 『永遠に縋る夢』……ニッティ・アーレハイン様の記録を再生します。

(記録の石を大事そうに握り締めれば、空間に歪みが生まれる。
 彼が再生する記録はその人物だけではない、彼に纏わる戦場そのものを呼び起こすものだ。
 変わって行く環境を細目で眺めながら、陰は口を開く。 ストーリーテラーの真似事をするように)

 ……ニッティ様は、『戦の鍵束』の派閥内では最年少にして、天才とも称される戦鍛冶師。
 ウォースミス……とでも呼びましょうか、彼の手で作られた魔道具は、派閥内でも重宝しております。
 彼自身も自らの「作品」を身に纏っていることでしょう、何が飛び出すかは、お楽しみに。

(陰がにこり、と笑みを浮かべた頃。
 辺りは工場の跡地だろうか、錆び付いた鉄柵や壊れた機械が目の隅に見えるだろう。
 ただし戦うために必要な場は確保されている。 ここはその跡地から少し外れた空き地だ。
 障害物といえば、人一人入れる大きさの土管が3つほど、横になって転がされている程度。)

 ……お待たせ致しました。
 『戦の鍵束』No.5 三期生、『永遠に縋る夢』ニッティ。
 どうぞ、心行くまでお楽しみください。

(オレンジ色の毛を持つ主のように、帽子を取って礼をする。
 次の瞬間にはその姿もかき消えて……寝そべった土管の上に、別の人影が現れていた。)
[171] 始まりと終わりをいっぺんに楽しむ方法。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-08-29(月) 13:46
(魔導師と呼ぶには、そして鍛冶師と呼ぶには余りにもかけ離れた姿だった。
 その姿に当てはまる言葉を捜そうものなら、まず『道化師』という単語を猫は思う。

 まだ背を向けている人物は、黄色と水色は織り交ぜられた華やかな道化の衣装を纏っている。
 頭にちょこんと乗せられた帽子には、二つのボンボンが付けられていて、愛らしさすら感じる。
 土管につけている手には真白い手袋、戦いや鍛冶の痕跡を一切感じさせぬ真新しいものだ。

 左手の先に見えるのは、目元を覆うためのサングラス……道化の衣装に唯一似合わない代物。
 右手の先には大きな肩掛け鞄、こちらには焦げた痕や修繕の痕が見受けられ、唯一の年代物に見える。
 鞄の口からふにゃりと顔を覗かせているのは、煤のように真っ黒い毛色の猫だ。
 サングラスを装着し、鞄の取ってを握り締めた上で振り返り、土管を跨いで飛び立つ。 戦鍵者の前に立てば、口許に笑みを浮かべた。)

 あははっ、アーレハイン商店へようこそ! いらっしゃいませ、戦鍵者サマ!
 そして初めまして! ボクはこの商店の若きオーナーにして専属の魔道具鍛冶師、ニッティと申しマスです!
 魔道具製造のご相談でしタラ、どうぞこのボクへご用命くだサイ! オーダーメイド受付中デスよ?

(まず口にした言葉は、どう聞いても店の宣伝だった。)

 エッ、違う? あ、あぁ~、そうデシタ。
 今のボクは『記録のボク』、それを呼び出したと言う事はつまり……決闘をお望みデスネ?
 生憎ソチラは品切れ、と申し上げたい所ですが……致し方ありマセンねぇ。

(くいっとサングラスを掛け直し、笑みに歪む口元に邪を宿した。
 刹那に舞い上がる魔力の渦は、彼のものだろうか、それとも魔道具から発せられるものか。
 その答えを提示せぬまま、『戦の鍵束』の一人と成り行く彼は宣言する。 相手が誰であろうと構わぬとばかりに。)

 ボク、戦うのハッキリ言って嫌いなんで。
 なのでぱっぱと終わらせマショウ? 楽しい商談はその後で!
 きっと貴方のご自慢の武具なんて、終わる頃にはボロボロデスよ? 修理とか必要でショ?
 ウォースミス(戦鍛冶師)の名にかけて、きっちり修理してあげマスよ。 ま、高いケドネ!

 ではでは、恒例の名乗りから行ってみまショウか!
 『戦の鍵束』が一人――。

(『それ』が現れたのは、名乗りをあげる前。
 『それ』が行動を起こしたのは、名乗るために口を開いた瞬間。
 『それ』は戦鍵者の背後に突如現れ、握り締めた槌を、後頭部目掛けて振り下ろす。
 戦鍵者が『それ』に対し、どう動くかを眺めたまま、心境伺えぬ魔導師は続きを紡ぐ。)

 『永遠に縋る夢』。 またの名を『壊れた道化』。
 ニッティ・アーレハインが、貴方を叩き潰しマス。
 ……大丈夫。終わったらキッチリ直してあげマスよ? 高いケド。

(鞄から煤色の猫が飛び出し、魔導師の左腕に抱きかかえられる。 黒猫は血のように赤い外套を纏っていた。
 空いた右手を鞄に突っ込むと、鉛色の巨大なハンマーが――とても少年の腕力では持てそうにないほど巨大な――姿を現した。

 煤のように黒い猫がニャアと鳴く。 黄色い瞳を見開き、戦鍵者を眺めた上で。
 それは歓喜の声か、それとも不服を訴える声か。 答えは貴方の行動次第。)
[172] 止まる時間と、魔道具の併用。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-08-30(火) 09:21
(道化師、と呼ぶには少々遠慮がある姿だ、とは主の弁。
 相手の店の口上を聞きながら、主は笑顔を浮かべる。
 実力はあると見える。笑顔はあれど、油断は一切ない。

 相手の服装から大体の魔道具の能力を推察する。
 大体の大まかな魔力の内容に目処が付けば、
 それはもう戦いのイニシアチブ争いに目処がつくことでもある。
 戦いは、始まっているのだ。

 店の売り口上に主は、笑顔を浮かべて。)

オーダーメイドかぁ。
流石にまだそこまで武具には不自由してないものでね。

(そんなことを返す口は、もうすでに戦闘態勢の体に相反する。
 明るい口調と暴威たる体のコントラストが鮮明だ。
 相手の問に対しての答え。それは、一つの言葉だった。)

決闘というより、教導。
ま、ご自由に、さ。

(そんな言葉を返せば、相手の魔力と呼応するようにこちらも魔力を高める。
 初動はすでに決めていた。やるべきことは簡単だ。
 相手の名乗りと同時。後背に気配を感じた主は、素早くつま先で2回のステップを踏んだ。
 魔術の発動。間に合うとは思えぬ次の瞬間。衝撃音。)

――『瞬間詠唱』(クイック・キャスト)
――『完全なる世界』(ザ・ワールド)

(一瞬に感じられる2秒間の時間停止。
 認識できる人間の少ない世界の中で、主は2動作を行う。
 と言っても行動は簡単だ。
 少し右にずれて人形をそこにおいただけなのだから。

 時間が動き出した時。
 槌の下に居る筈の主は二歩ほど左にずれている。
 そして、その振り上げられた槌の下に有るのは人形だ。
 しかも、ただの人形ではない。)

……っ……! なんてね♪
いきなり手荒な歓迎じゃないか……?

(痛がる素振りを演技っぽくやるあたり確信犯である。
 かすっていたと思われる頭の辺りには小さな傷が見られるが、
 それは誤差の範囲内にすぎない。本当に小さなかすり傷だ。
 そして、主は本性をいよいよ持って表す。
 これは、まだ序章にすぎないのだ。)

――『魔術道具発動』(マジックアイテム・ライド)
――『短跳躍の巻物』(スクロール・オブ・ショートテレポート)
――『呪術人形』(ヴードゥー・ドール)

(思うだけでいい。詠唱もなく起動したのは2つの術具。
 スクロールを宙に広げれば、広げた瞬間燃え尽きると共に、
 主は一瞬にして5mほど近くにあり、
 その次には先ほどの槌の攻撃が実行者にそのまま振りかかるようになっている。
 道具を使用することで詠唱を省き、魔力の消耗を無くすのだ。
 これにより、攻撃と防御2つを同時にこなすことも出来る。
 これが、いい例だ。ここから更に攻撃をかけよう。)

さ、これから教導と行こうか。理性有る狂人に仕立ててあげよう。
ただ狂うだけでは脅威にすらならないからね。

(そんなことを言いながら、床を一度撫でると一気に踏み込み、
 空手だったはずの手にクレイモアを握り、袈裟懸けの斬撃を相手に。
 行動としては十分だ。逆転のための仕込みが出来ている。)
[173] 貴方サマのその栄光は誰の物?
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-08-30(火) 14:28
(不意打ちは……成功?
 衝撃を受けたらしい目前の相手のリアクションが、思った以上に薄くて疑問符を浮かべる。
 あの一撃をまともに受けていたのなら、すぐに口が利ける状態にはならないはずなのだ。)

 ……レイドサマお墨付きのお客サマだけあって、芸達者でいらっしゃるご様子。
 こちらの世界に招かれた際はご近所で有名な劇団をご紹介しマショウ。
 きっといい役者サンになれると思いマスよ?

(何か細工をされたのだと感じはするが、それを見抜く術を道化は持ち合わせていなかった。
 その心中を代弁するかの様に抱かれた猫が唸る、不意打ちの成功を喜んだ顔はどこへやら。
 さり気無く、衝撃音を受けてズレてしまったサングラスに手を掛ける。 自慢の『作品』に。)

――『預言者の眼鏡』

(それを起動させてから、初めて戦鍵者の用意周到な戦支度を悟り、ふっとため息をつく。
 なるほど目前に居る伝説は、その富と名声に溺れて酔い潰れた愚者ではないらしい。
 相手からしてみれば、こちらなど辺境世界の格下魔導師でしかないはずなのに――そう思っている間にも次の手は投じられていた。

 瞬時に接近してきた戦鍵者、そして後方に突如現る気配。
 いつの間にか取り出したのか、大剣を持って迫る相手の先――槌に打たれた人形を見る。
 だが見解は後回し、予想を上回る速さを持って迫る双撃に対する回答を示さなければ。

 黒猫は鋭く嘶いた、主に代わって一つの回答を示すために。
 少し前に戦鍵者の不意を突いた『それ』が姿を現し、後方より迫る槌を掴んだ。

 『それ』とは、手だった。
 ただし人のそれとは言い難く、皮膚があるべき面に黒い獣毛、指先に鋭い鍵爪を供えた、凶暴な肉食獣を象る手。
 何より目を見張るのはその巨大さ。 人間をも鷲掴みできる程の体積を持った獣の一部は、呪い返しによって生まれた槌を容易く握り潰した。

 そして目前の問いへは、通常の魔導師相手では滅多に使わない「作品」で答えを返す。)

 教導デスか? あははっ、ご冗談を。
 偉大なる魔導師サマが、ボクたち鍛冶師に何を残してくれると言うのデス?
 だって貴方達は、奪うだけ。 地位も名誉も幸福すらも、全て吸い上げてくお偉いサマが!

――『物反鏡』

(言葉通りの意味を持つ手鏡を鞄から出現させ、瞬く間に巨大化させる。
 向かいに居る魔導師の姿を隠しながら戦鍵者の姿を切り取った鏡は、物理的攻撃を反射させる魔道具だ。
 この道具を知るものならば誰もが予想するだろう、鏡の中の自分の刃によって我が身を抉られる人の図を。

 たんっ、と靴を高鳴らせて左後方へ飛び退き、先程取り出したハンマーを天高く掲げる。
 その上で再度前へ飛び立ち――物反鏡へ切り込む戦鍵者の右前方より、勢い良く踊りかかった。

 振り上げたハンマーもまた彼の「作品」、数多の愚者の慢心を打ち砕いたそれを、今度は戦鍵者にも振り下ろす。
 全身全霊の力と憎悪を込めて、処刑台の刃の如く頭上に迫るそれの名は。)

――『アムネジアハンマー』

(記憶の欠落。
 そう名付けられた金槌は、打ち付けた相手の記録を砕き、戦術、魔術、武術、あらゆる術を封印する。)

 ――なんて、貴方の世界じゃ関係のない話デスね。
 聞き苦しい話のお詫びに、修理代はちまっと負けてあげマスよ。
 そうデスねぇ……、貴方の龍鱗15枚ほどでどうデスか?!

(戦鍵者。 初めて聞いたときはよぼよぼのお爺ちゃんが出てくるかと思えば、違っていた。
 まさか龍だとは思いも寄らず……同時に好奇心が芽生える。 その力を宿した一部を素材にすれば、どのような魔道具を生み出せるだろう。
 抱えられた黒猫はただ忌々しげに唸る。 主の思うことに興味はない、ただ憎い。 目前で主へ襲い来る貴方が憎いとばかりに唸っていた。)
[174] 自分の物であり、みんなの物。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-08-31(水) 10:38
(相手のリアクションを受けて思う。
 魔術師とは芸達者でなくてはならない業種なのだと。
 奇術師の手腕が無くては戦場で生き残ることすら難しい。
 これも、地獄の中で身につけた手腕の一つだった。)

お褒めに預かり光栄の極み……ってね。
でも、魔術師すなわち奇術師なのだから、出来るところはやらないとね。

(そんなことを。相手のサングラスの魔力の流れから効果は読めた。
 そして、かなり嫌な効果だとも。二手先三手先を読んでくる。
 預言者エゴの系列は総じて良い思い出がない。
 使ってはありがたいのだが、敵にまわすと総じてキツイものだ。

 視界に移ったのは相手の猫の本性の垣間見える獣の手。
 推察は付いたが、正直単騎駆けだけで行きたい相手だ。
 さて、困った。複合で来られるとこれ以上の厄介さはない。

 鍵の選択肢はいくつかあった。しかし、まずは術士を先に沈黙させる。

 その中で、術士の悲痛な叫びが木霊したのは刹那の出来事。
 鍵も相手の心境を汲む事はあれど、
 今のそれは戦場の不文律にかき消されて儚い。
 薄情な同情の言葉が突いて出る。)

偉いさん、ねぇ。
悪いけど、自由身分なものでね。社会的地位は元からすでに捨ててるんだ。
ありすぎても贅肉になるだけだし。呼称と名誉は行動についてきただけさ。

そして――

(斬撃の刹那取り出される鏡。
 物理を反射するその効果はそのまま受ければ痛撃となるだろう。
 相手の魔力を帯びた槌の一撃も迫っている。
 それに対する答え。それは、仕込んだものに有る。
 詠唱よりも早いやり方で、瞬時にそれを完結させればいい。)

――『無詠唱』(ゼロキャスト)
――『聖なる御言葉:無』(ホーリーワード:ブランク)

(ステガノグラフィによって隠蔽と共に仕込んだブランクルーンの起動。
 それは、指定魔力の一時無効化。
 いかなる魔力を持つ物品でも魔力を奪われればただの物性となる。
 相手の力が物品の魔力に依存する以上、それをはぎ取ればただのメッキなのだ。

 起動したルーンの力が周囲の魔道具を一時無力化する。
 物理攻撃を返される心配が一時消え、一瞬の余裕を産んでくれる。
 さらに、コレを利用して相手に攻撃をかけよう。
 魔術師の本気を、見せる時だ。)

――『鏡界詠唱』(ミラード・キャスト)
――『鏡抜け』


(鏡があるがゆえの詠唱指定をしながらも詠唱を行わぬ発動。
 『鏡抜け』。それは、鏡魔術における『次元の扉』。
 この魔術の最大の優位性を主は存分に引き出して、対抗策を打とうというのだ。
 扉が開いた時、鏡に当たるであろう刃は扉に吸い込まれ、
 転移先で空振って掌から消える。パスケースの有効利用だ。
 転移先は相手の後背。ココから更に展開する。)

――残せるものはあるよ。
君の才能を引き出せるような魔道具の使い方とか、
今まで出会ったであろう悪しき教官に代わる良き教官としての後ろ姿をね。

……そう言えば忘れてた。
急な一戦はやはりするもんじゃないね。

(若き鍵へのメッセージと、紛れも無い本心がぽつりと。
 それと同時だっただろうか。
 腕輪から奇術のように薬の幾つかが瞬時に口に放り込まれ、
 『加速』と『英雄化』の効果を即時でもたらした。
 魔法薬だ。自己強化薬も当然のごとく持ち歩いている。

 そして、相手の仕込みを利用して、さらなる一撃を。)

――『高速詠唱』(ファスト・キャスト)
――『物質念動』(テレキネシス)

そうそう、修理の件。
高すぎるなぁ。 3枚に負けて?

(加速の力を得て輪をかけた高速で詠唱をかける、念動の魔法。
 鏡が物理を返すのならば。それをそのまま相手に向ければそれは凶器となる。
 逆利用をかけようというのだ。
 鏡が動き出し、槌を振り抜く相手の前に滑り込んだのを見るものは居ただろうか。
 そして、その滑りこんだ刹那、それは――。

 魔力の一時無効化が切れるベストのタイミングである。)
[175] ※本人(+猫)は至ってマジメです。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-01(木) 00:34
(「作品」から流れていた魔力が途絶えた。
 それは『物反鏡』が効力を失い只のアンティークに成り果てた証明と悟る。
 迫る刃によって鏡を砕かれる『預言』すら叶わない中、その予想にすら裏切られる。

 少なくとも、道化は予想していなかった。
 自慢の「作品」が、この場で自分を制するための道具として扱われるとは。
 ただし、あくまでも「この場」でのお話。

 鏡を砕くと思われた刃が、その鏡に吸い込まれる瞬間を見た時――背を押される。
 視界の端に写る見慣れた黒は、猫が操る「手」であるとすぐに理解できた。
 今回の相手は次元を操る能力を持つと聞く、まさかあの刃は背を狙ったのか。
 自然と、乾いた笑いが漏れる。

 振り落とした槌の前に滑り込んだ「作品」への対応など容易いことだった。
 鏡の中にいる自分が、こちらに向けて槌を下ろす時、左手を前へと翳す。)

――『グレムリンの御守』

(左の手袋の平に縫い付けた、悪戯好きな小悪魔を象った御守はあらゆる魔道具を破壊する。
 言わば魔道具を殺すために作られた魔道具、殺す対象は当然、目の前の鏡も該当者だ。
 自身で生み出した「作品」を破壊するのは気が進まないが、自爆などあってはならないのだ。

 鏡が牙を向く前に御守を押し付ければ、それはまるで飴細工のように脆く砕け散る。
 背を押す「手」が消え、破片の中を前屈みの状態で突っ切れば、顔に微かな傷がついた。
 戦鍵者の上を飛び越えるような形となり、頭から地面に突っ込む手前、「手」に受け止められる。
 左腕に抱いていた愛猫が操るもの故に、手の形状も猫の特性を引き継いで、ぷにっとした肉球付きだ。
 ふっ飛んだ勢いもねこクッションに殺がれ、それに寄りかかったまま道化は哂う。)

 あはははっ、さっきの鏡の転移はちょっと驚きマシタね!
 でもでもでも~、前にも言いマシタが、ボクはアーレハイン商店のオーナー兼魔道具鍛冶師デスよ?
 自社製作の「作品」でオーナー自滅! なんて恥ずかしい速報でお茶の間を飾るのはゴメン願いマス!

(じゃーん、と左手に縫い付けた御守を見せびらかしている時だ。)

 …………あら?

(視線は戦鍵者の少し奥、道化は「作品」よりも大切なモノをそこに“落としていた”。
 こちらは主を気遣うあまりに着地を失敗したらしい、地面に鼻っ柱を打ち付けて今にも泣きそうだ。
 赤い外套に身を包み、黒い毛皮をぶるぶると振るわせる、「手」の召喚者。)

『ううぅ~……いだい、いだいよぉ~、うええええんっ』

 うわ、やっば!? な、えっと、ど、どどどうしマショウこのシチュエーション!?
 あーっ! もしかして『物反鏡』壊したときに! あの時ぽろっと落としちゃいマシ……タ……?

(今、戦鍵者の目前には。
 この場で初めて人の言葉を――拙い少年の声で――話したが、黄色い瞳から大粒の涙をぽろぽろ零す黒猫がいて。
 その後ろ、距離にして3m程の地点には余裕の笑みを驚愕の表情に変え、まさかの状況に呆然とする魔導師がいる。

 大変、危機感に欠ける挟み撃ちがここに完成。

 魔導師は自らを若きオーナーと称した。 言葉どおりの若さゆえに、想定外のアクシデントに適切な対応が出来ない。
 だがオーナーを名乗るからには、動揺を胸に抱いたままでも行動に出なければと焦り、そして動く。)

 カイン、早く逃げて! 土管がある方! ……そぉーれぃっ!

(いたいいたいと泣きじゃくる猫に逃走経路を指示し、自身は握ったハンマーを戦鍵者へと投げ付ける。
 その後、ぐるぐると回転しながら飛ぶハンマーを追うように走り、その間右手は再び鞄へと突っ込まれていた。
 ちなみに土管がある方とは戦鍵者から見れば真正面。 この教導が始まる最初の場面で魔導師が腰掛けていたアレだ。

 だが、魔導師はあの時、左手で押してしまったのは鏡ではなくドミノ倒しだったのかもしれない。)

『うわあああんっ、ティぃぃ~、たしゅけてぇぇぇっ』

(戦鍵者――巨大な剣を持ち、例え逃げても転移して追ってくるだろう竜人――、それを前にして。
 ニッティ・アーレハインの従者“カイン・ヘカトンケイル・アーレハイン”は身を震わせ、その場から動けなくなっていた。)

 うわあ大泣き!? ちょっ……今日は厄日かなにかデスか!?
 ああもうっ! 戦鍵者サマ? ……その子に手出ししたら、鱗3枚にかけて――

(鞄から咄嗟に抜き取った特殊短剣を携え、近接戦闘に適した魔道具の発動を申請。)

 ――『ミラージュローブ』
 ――『ソード・ブレイカー』

(駆ける魔導師の姿が一つから三つへと増え、それらが戦鍵者へ同時攻撃を仕掛ける。
 手にした短剣にはノコギリ状の刃が備え付けられ、これも「作品」であるが故に強化を施されていた。
 並みの刃であれば無惨に破壊する短剣だが、あの大剣に通用するかもわからない。 ただ今は――。)

 ――鱗3枚にかけて、三枚下ろしデスよ!!

(従者との合流。 そればかりを考えて刃を振るう。)
[176] 迷い猫預かり所。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-09-04(日) 14:50
(鏡への返答を確認して主はふと残念な思いを巡らせる。
 せっかく媒体を相手が用意してくれた。なのにまた壊されてしまうのかと。
 しかし、今は破片がある。 後でコレは利用してやろうか。
 そんな、悪童の思考を巡らせる辺りは論理戦闘者の端くれである。

 相手の思考は兼ね外れていたといっていい。
 理由は簡単だ。それは、鏡の保護を目的としていたのだ。
 魔術媒体として、そしてこれからの戦闘ツールとしての有効利用が最大の目的だった。
 相手の商品紹介の口上を見ながらも、主は。)

いい商品だ。ま、持っていて当然だろうけどね。
制御用の魔道具幾つかくらいは・・・ねぇ?

そうそう、破片を残したりしないほうがいいよ?
破片でも残れば利用可能だからね。

(コレくらいの商品は魔術師ならば当然だろう。
 まぁ、破片が残ってる辺りはまだ未熟者なのかもしれない。
 逆転のカギは細部に宿っている。痕跡すら残さぬようにしておいたほうがいいのだ。

 そんな中で。

 緊張感に欠けた挟み撃ちが今目の前に広がっている。
 どこか和やかな殺し合いというのも相反する話ではあるが、
 これが現状なのだからある種仕方が無い。
 落としたかと悩む鍵のかけらに、主は。)

らしい、ねぇ……。
浮かせておくとかしたほうが良かったんじゃないの?
落としたくないものなら尚更ね。

(そんなことを。
 その中で、飛んでくる槌の一撃に、主は明確な回答を示す。
 軽々と抑えられるとは思わないことだ。とは主の弁か。
 防御と回避、そして従者の一時預かりのための呪文を準備する。)

――『高速詠唱』(ファスト・キャスト)
――『保持の門』(ホールド・ゲート)

(飛翔物を門の中へ取り込み、一時保持する魔術。
 コレを飛翔する投擲された槌に対する回答とし、
 一時的に魔道具を保有、保持することとする。これは、後で使うのだ。

 そして、孤立した相手に対しては、更に明確な形で一撃を。
 腕輪から手鏡が2枚ほど取り出され、魔術によって広げられる。
 そして、持続戦闘を想定し、対策を事前に取るのだ。)

――『魔法道具起動』(マジックアイテム・ライド)
――『不破鏡』(ヤブレズノカガミ)

(鏡魔術の良質媒体である鏡を2枚即時展開する。
 これを使い、一時的に使い魔を預かることとしよう。
 そして、合流を狙う相手の攻撃への回避手段を並行するのだ。
 合流など、させるものか。戦いが終わるまでの間、ご退場願う。)

三枚おろし、か。
3枚おろしで死ねるんなら楽だなぁ、なんてね。

従者は預かるよ。戦闘が終わったら返してあげる。
お茶会でもしててね?猫さん。

――『多重鏡界詠唱』(マルチパラレル・ミラード・キャスト)
――『物理転移』(アイテム・テレポート)
――『鏡の封印』(シール・ド・ミラー)
――『鎧化』(アーマー・スキン)
――『霧化』(ミスト・ボディ)


(孤立した従者へ鏡が転移する。
 その転移した鏡から放たれるのは鏡の世界への隔離魔術だ。
 高強度の封印。そしてこれは普通の鏡を使えば抹殺としても機能する。
 封印後に割ればいい。割ればその対象は即死する。
 それを許さないのは手腕だろう。従者には一時お休み願う。
 さしずめ……迷い猫預かり所といったところか。

 そして、合流を目論む相手に、明確なる回答を。
 装備を肉体と同化すれば、霧化したときにもそれは外れることが無くなる。
 防具の類と肉体を同化し、霧となることで攻撃を無効化したのだ。
 概念攻撃が可能な装備に弱いという魔術的な弱点はあるが、
 それは別な対処を行えばいい。

 主は言う。一番告げるべき一言を。)

守りたければ、強くなることだ。
両手に収まるレベルしかヒトは所詮守れない。

(霧の中で木霊する言葉。それは、ある種の言霊でもある。

 余談だが、鏡の中には一室が設けられ、
 紅茶とお茶菓子のセットが添えられている。普通ならやらないVIP待遇である。)
[177] 夢を折る、その先の可能性。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-05(月) 22:07
(それぞれが振るった刃は物質にぶつかることなく、空しく空を切るだけ。
 ミラージュとして出現した道化は二人、勢いをつけ過ぎたらしく、先程のように頭から地面へ倒れた。
 それを支える『手』はもう現れない。 空間を隔たれてしまった以上、従者の支援は期待できない。

 幻影の消える様を見届けず、霧に姿を変えた戦鍵者がいるだろう方向へ向き直り、屈託もなく笑う。
 彼の――戦鍛冶師としてのスタンスと拘り、そして過去を知る者ならば、その笑みは寂しげに見えただろうか。
 今回の相手は教導している立場なのだと認識を改めた後、覚えの悪い生徒のように視線を外し、口を開く。)

 カインを浮かせたらもれなく、中空で足をばたばたさせてにゃーにゃー泣くだけの使い魔となりマス。
 あの子、もともと戦闘用じゃなくて愛玩用の使い魔なんデス、ちっちゃい頃からの付き合いでして。
 昔っからめっちゃくちゃに臆病で……起きてる間はボクが常に抱えてないと、見てのとおり。

(鏡の世界に閉じ込められた従者がいる方へ、ふと視線を泳がせれば。
 お茶会の支度が整えられた空間の中にいても尚、こちらを見て泣いている煤猫が見える。
 悪いことしたなー、と思う中、鏡の中のリッチ空間に対し、やっぱり余裕あるな、と感じた。
 対しこちらは、「昔はジオラマにもハマった口デスか?」と軽口を叩く余韻は既に残されていない。

 守りたければ、強くなることだ。 戦鍵者が告げる言葉を受け止めて、サングラスに手を掛ける。
 そして、ゆっくりと外す。 黒いレンズの向こう側にある青い瞳に、光は宿っていなかった。
 その表情に、道化の笑みはもうない。 あるのは明白な敵意と、守るべきものを失った悲しみだけ。)

 それは……“強くなれる可能性”を何人からも奪われなかった人だけが言える、綺麗事デスか?

(カチッ、とサングラスが音を立てる。 同時に黒いレンズには「10」の数字が浮かび。
 「9」、「8」、「7」……静かなカウントダウンが始まり、それは宙に放り出された。
 心のうちに秘めた闇をこれから溢れ出させんとしていた少年は――、今度は花のように笑っていた。)

 ――なんて。 あの頃のボクならそういった嫌味を、いやーな笑顔を浮かべて言ったデショウね。

(「6」、「5」、「4」……華やかな道化衣装、ミラージュローブを左手で掴む。 小悪魔潜む手で。)

 見縊らないでくだサイ。 一応、可能性をもらえた「戦の鍵束」の一人デスから! ……答えなら、今から出しマス。

(「3」、「2」、「1」……綿のように引き千切られた道化衣装の下には、「戦の鍵束」であることを示すローブが見えた。)

 『守りたければ、強くなれ』。 悔しくないって言ったらウソになりマスが――そのオーダー、受け取りマシタ。

(「0」。 数十回の点滅の後、『預言者の眼鏡』は眩い光を放ちながら、消滅した。
 目くらましの閃光が放たれている間、戦鍵者は彼の呟く声を聞いただろうか。)

 アーレハイン、ごめん。 ボク達が見た“夢”……叶えられなかった。

(戦鍛冶師は、己の生み出した魔道具のみを駆使して戦う戦士。 それが魔術を扱うことなど赦されない。
 それは職人気質溢れる父の言葉だった、そして父は息子に最強の戦鍛冶師となる夢を託したまま、事故で亡くなった。
 そんな跡取り息子が魔術の発動を申請する――それは、代々受け継がれた教えを破り、戦鍛冶師の道を断つことを意味する。)

 ――『精霊契約(水)』
 ――『リジェネレート』
 ――『マナファウンテン』

(閃光が放たれている間、戦闘に必要な自己強化を施していく。
 自己治癒能力の上昇に伴い、頬についた傷が塞がる。
 内に秘めた魔力の泉を開くことで、術行使による魔力消耗に備え、さらに術を重ねる。)

 ――『ミラーキャスト:ピース(×5)』

(『破片でも残れば使用可能』。 これは戦鍵者自身が口にした助言だ。
 そして砕け散った『物反鏡』は、もともとは魔導師の所持品だ。
 これ以上使わせる気などなかった、戦鍛冶師が、他者に道具を奪われるなど、あってはならない。
 脳裏に鏡の世界へと呑まれた従者と金槌が浮かぶ、これも戦いの中で取り戻すと心に決める。
 もう、今後は戦鍛冶師を名乗ることは出来ないが……せめてもの意地を見せたかった。
 鏡の破片を操り、向きをこちらへと向けさせる。 鏡の中に切り取られた魔導師がそれぞれ口を開く。)

 ……はいはいっ、アーレハイン商店は一時休業!
 ここからは、魔導師と鍛冶師のハイブリット……ニッティのショウ、タァーイムッ!
 魔道具と魔術が合わさり最強に見える? そんな新たな可能性をチェキラーっ!

 ――『キャンセラー>>>『霧化』(ミスト・ボディ)』
 ――『タイムスロウ』
 ――『バロットゲイザー』
 ――『マジックアブソーブ』
 ――『アイテムリターン』

(キャンセラーは意味の通り、付加された術を解除する妨害魔術。 今回は霧化の解除を試みた。
 タイムスロウは対象の時間を歪ませて動きの減速を狙う、これもキャンセラーと同じ妨害魔術だ。
 唱えた5つの中で、唯一の精霊魔術となるバロットゲイザーは、大砲の如く打ち上がる間欠泉の出現を要請。
 水の精霊との契約を結んだことで効力の上昇が見込まれるが、代価として魔力の消耗が激しくなる。
 それを補う為のマジックアブソーブを、4つめの魔術として選択。 ここまで消費した魔力を、戦鍵者の魔力を奪うことで回復を試みた。
 最後、アイテムリターン。 戦場に散らばった、現時点で回収可能な「作品」を全て鞄に帰還させる。
 ミラーキャストに使用した鏡の破片は一つ残らず、術が発動する頃には魔導師が右肩に提げる鞄の中だ。)

 ……『永遠に縋る夢』、だっけ?
 この称号、そろそろ変えたいと思ってるんデスけど、どんなのがいいデスかね?

(あくまでも、明るく振舞う。 ボクにはもう縋るべき夢はない。
 けれど、この戦いではまだ、壊れた道化のままで居させて欲しかった。
 そうでもしないと、家系の夢を遂げられなかった悔しさと、約束を違えた不甲斐なさに押し潰されてしまいそうだから。


 一方、その頃。
 鏡の世界でお茶会に招かれた泣き虫従者は、まだまだ涙ぐんでいた。 涙の海で溺れそう。)
[178] 形なき夢のカタチ。超えた先にある地平へと。
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ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-09-09(金) 12:21
(攻撃の諸元を回避し、目前の危機を回避する。
 戦闘とはある種の綱渡り。一瞬の油断の先にあるのは冷酷なる死のみなのだ。
 それを主は痛いほど知っている。主もまた星の数ほど死を迎え、その中で学び続けた。
 それを知るがゆえに、相手の笑顔には寂寞すら感じない。

 戦闘。その全ては結果責任なのだ。古い束縛など捨ててしまえ。
 強さこそ正義であり、そして強さなき正義など所詮は空虚な戯言に過ぎないのだ。
 視線を外し、口を開く相手に言葉を投げ返す。手段は他にあるだろうと。)

なら、浮遊玉座(パランティン)でもいいんじゃないの?
手法はいくらでもあるはずだ。発想の貧困は弱さにつながるよ。

それに、確かに気持ちはわからないでもない。
でも、親離れのできない子供じゃあるまいし、ね。

(そんなことを主は言う。
 主は求めた。使い魔と鍵両方に、強くなることを。
 それは、いかなる世界においても生きることを許されるために必要なこと。
 それは心の強さであり、武力であり、同時に慈悲でもあるのだ。

 相手の瞳を覗き込む。悲しみと、明確なる敵意に満ち溢れた瞳。
 その瞳を覗き込む瞳は明らかなる戦人の、殺人者の瞳であり、
 主の二面性、そして『もうひとつの凶暴性』を隠した瞳でもある。
 「守るべき者がない」ということは、「枷がない」ということだ。
 これでやっと、相手の本気を見ることが出来る。そう思うとゾクゾクした。
 楽しもう。双方の全力を傾けて、この教導に隠された戯曲を。

 そして、その続く相手の言葉に対して、主は一つ、言葉で答える。
 言葉には、どこか優しさと期待が入り交じっていた。)

……委細、承知した。見せてもらおう。君の力を。
分からないなら教えてあげるよ。進んでごらん。

(唯一言。その言葉に全てが詰まっている。養父がそうしてくれたように。
 自らもまた、引いて見守ろう。戦場での答えのみ示して。

 放り投げられた眼鏡、それを視界に収めた時。すでに行動は決まっていたのだ。
 腕輪からガムボール大の小石を取り出し、一気に握りしめ、それを砕いた。)

――『魔法道具起動』(マジックアイテム・ライド)
――『角錐結界石』(ストーン・オブ・トライゴナル・バリア)

(三角錐の結界を展開する魔法道具の起動。
 三角錐の頂点を相手の攻撃方向にさえ合わせて展開すれば、
 それはいかなる障壁も凌ぐ最高効率の結界となる。
 結界が光の波を透過し、肉体が生体反応で目をつぶるのがよく分かる中で。
 主は笑っていた。相手の呟きを聞いて。

 そうだ、お前たちの見た夢の形なんて捨ててしまえ。
 形をひとつに限った地点で、お前は永遠に先人を超えられない。

 主も曲がりなりに創造者だ。ポリシーを抱くのもよくわかる。
 しかし、それは強さの段階を踏むためのものにすぎない。
 目的と手段が入れ替わった時、ヒトは硬直する。
 それを、良く、痛いほどに知っていたから。

 相手の第二詠唱が聞こえる。
 精霊召喚、リジェネレート、マナファウンテン。
 聴聞で魔法の種類はすぐに割れた。コレに回答を『差し挟む』。
 魔法を意識しての指慣らし三回。空に響いて、消える。)

夢の形は腐るほど有るよ。
限った地点で君は先代を超えられない。

――『瞬間・二重詠唱』(クイック・デュアル・キャスト)
――『強化の強制』(グロース・エンフォースメント)

――『割り込み:悪しき治療術』(カット・イン:バッドメディカル)

(強化の強制と治療術の逆転術。リジェネレートに対しての割り込み。
 徐々に肉体を癒す術を肉体を腐らせる悪疫の術へと書き換える。
 その直後。相手の口上を耳にすれば。)

それでいい。それで、いいのさ。
古い縛りとか、古い考え方とか、ジャマな束縛とか。
捨ててしまえ。そんなもの。戦闘はすべて結果責任で回ってる。

君の夢だって、形は無限大なのさ。見方を変えてごらん?

(そう、言葉を投げて主は道を指し示す。
 超えたければ枠なんて捨て去ってしまえばいい。
 枠を捨てれなければ、超えることなど叶うはずもないのだから。
 そんなことを言った。矢先。

 相手の間欠泉の発動申請が、耳を突いた。
 幾つかのデバフも有るらしい。しかし、タイムスロウは通常速度に戻るのみだ。
 あとの答えは、簡単だ。魔法を意識して歯を食いしばり、発動する。)

――『瞬間詠唱』(クイック・キャスト)
――『緩衝』(アブソーブ)

(簡単な答えだ。一瞬だけの衝撃緩衝呪文。
 パロットゲイザーの砲撃の一撃を和らげれば、あとそれは体を吹き飛ばすだけになる。
 砲弾の如き強力な一撃が和らぎ、持続的なエネルギーへと切り替わるその時。
 体が間欠泉によって吹き飛び、上空へと上がるのがよくわかる。
 その中で、主は――笑っていた。突いて出る言葉は、どこか歌劇じみたそれで。
 突いて出る中の魔力の簒奪は、させるがままにしておいた。枯渇にはならない。
 わずか残っていれば、良い。そう。次元の扉一回分残れば、逆転できる。)

――いいセンスだ。
あとは、時間と場数、そして憧憬が君を導いてくれる。
先を往く者として、目指す先を見せよう。追っておいで。この姿を目印に。

――『高速念動詠唱』(ファスト・サイ・キャスト)
――『多次元の扉』(アクト・ディメンション・ドア)

(それは上空に飛ばされ、天井にたたきつけられる刹那のことだ。
 主は魔力簒奪により枯渇寸前の残余の魔力をひとつの魔法に振り分けた。
 魔力の行く先は、高速での連発テレポート魔法。

 一つ、狙いがあった。主の体は一瞬で消え、高速でのテレポートを繰り返す。
 望む先、固定的な位置を掴ませることすら許さないブリンクにも似た状態の中で。
 高速で掌の中に光る棒状の魔道具が展開され、光を失っては消えを繰り返す。
 そう。主は今、魔力を食っている。魔道具の中の魔力をバッテリー代わりに吸収しているのだ。
 高速で満ちる魔力。自動充填式のロッドを10本以上持ち歩くのは酔狂ではない。
 高速のテレポートの中で、魔力が満ちたその時。
 主のクレイモアがスラリと、相手の後背に叩きこまれようと振るわれる。

 そして、称号の件の回答も、ほぼ同時に。)

 相応しい称号、か。 ――今の君は、『銀を鍛える者』。
 しかし、君には才能がある。『全を鍛える』にはそう遠くない。
 旧来の陋習を捨て、新たな地平に旅立つなら、ね。

(そう、主は言うのだった。

 そして、泣き虫従者の近くには、そっと立つ人影がある。
 敵意は皆無であることがよくわかる。しかし、その瞳には厳しさと優しさが混在しているだろう。
 石のごとく表情は硬く、今は何も語らぬ不思議な男だ。何者なのだろうか。)
[179] レニアーティの覚醒。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-10(土) 21:12
(閃光を己の右腕で防ぎつつ、下ろし様に傷ついていた頬に触れる。
 リジェネレートの効力で癒えていくはずの傷は乱れ、爛れるように広がった。
 ディシーズのカットイン。 脳裏に浮かぶスペルと同時に閃光が通じなかった現状に頭を抱えた。

 ミラーキャストの後も決して気は抜くことなく、次なる術を唱える体制に入る。
 左手に着けていた『グレムリンの御守』付きの手袋を外し、素肌を晒した手で右腕に触れた。)

 こう見えて、いろいろあったんデスよ?
 まぁ誰にだっていろいろあるとは思いマスけど……レイドサマにも、そして貴方にも。

 ……呟き、聞こえちゃいマシタ? あははっ、恥ずかしいデスねー。
 何はともあれこっから全身全霊、玉砕覚悟デス! ……一発くらい当ってくれてもいいデスよ!

(間欠泉が打ち上がる瞬間を隙と定め、間を空けずに詠唱を始める。
 じわりと疼く傷、これが自分の知るものと似ているならば体力も激減するもの。
 この状態で瞬間的に迫る剣を受けようものなら……想像はそこまでに留めた。)

――『オールクリアー』
――『造魔・ミリオンダガー(ソード・ブレイカー)』

(口早に紡いだ呪文は初期化を意味する。 強化や呪縛、精霊との契約をも全て断ち切る術。
 魔力の泉は閉じ、水精霊も目に見えなくなるが、肉体の損傷拡大はこれで防げる。
 間髪入れずに投げた短剣『ソード・ブレイカー』は、中空で爆ぜると小さな千の刃と化して視界に広がる。
 装備となる魔道具を消耗品へと変え、それを媒介に魔術を起動させる『造魔』は彼なりのアレンジ魔術だ。
 普通の魔導師相手であれば、これを無傷では凌げないはずだが……相手は転移魔術をも扱う以上、警戒は怠らない。

 ノコギリ刃の群れの中を連続で転移する姿を見ても、ある一点だけの警戒は解かなかった。 その一点とは、背後。)

 ……そら来た――ってうわ早っ!?

(減速妨害の効果を疑いたくなる速さで迫る刃、それに対し魔導師は右腕を我が身を庇うように掲げる。

 ガキィンと、高鳴る音は金属同士が激しくぶつかり合う、悲鳴に似た衝撃音。
 『悪しき医療術』で僅かとはいえ体力を削がれた魔導師は、剣で叩き込まれた勢いに負けて地に倒れる。
 肉を切った感覚はないだろう、証拠に鮮血が噴水の如く溢れ出ることも、有り得ない。
 刃に切られた袖の隙間から見える色は、人肌の色ではない。 冷たい金属が持つ魂無き銅色。)

 いたたた……今のは危なかったデス。
 ……しかし、全くもう。 まさかこんあトコでお披露目になっちゃうとは。
 ま……もう出し惜しみしてる場面でもなし、吹っ切れたってコトで!

(袖に刻まれた穴に手の指を引っ掛け、ビリビリと布を引き裂く。
 そうすることで右腕――ニッティ・アーレハインが自身の為だけに造った『作品』が明かされる。)

――『魔装義手レニアーティ』

(人の腕と差ほど変わらぬ銅の腕を晒した後、すたっと立ち上がり距離を開ける。
 数歩下がった後、戦鍵者の方へ最後の『作品』を翳し、手品を見破られた道化は儚く笑う。)

 コレが『壊れた道化』の名の由来。 ボクはもう既に壊れてるんデス。
 ……正確には、壊れてた、デスかね。 あの事故の日から、魔導師としても、鍛冶師としても。
 でも……『戦の鍵束』に触れてからは、この辺りの考えもちまっと変わってるんデスよ?

(語る間も、魔導師の全身から銅の腕へ集う魔力は増大していき――、そして、一言。)

 “壊れたものは、二度も壊せない。”

(ただ一言。 コレは自身に向けた言葉でもあり、起動の合図でもあった。)

――『レニアーティの覚醒』
 >>>『オート・デバックキャンセラー』
 >>>『オート・リジェネレート』
 >>>『オート・アイテムサモン』

(『作品』は合図に答えるように、その腕全体からおびただしい魔力の波を放つ。
 それと同時に義手の主の顔に苦悶の表情が浮かび上がる、必死の笑顔で隠そうとするが無意味だった。
 異常状態に対する抵抗の力や再生の力があれど、その魔力の負担は彼にとっては大きいものらしい。
 それ故に。 唇が「そろそろ締めマショウか」と動く。 周囲に別の新たな『作品』を出現させながら。)

 コレ、まだまだ改良が必要デスね……。
 身体が熱い……、けど、ボクの全力って言ったらコレくらいしか思い浮かばないので!
 覚悟してくだサイ? コレがボクの、新生アーレハインの第一歩! まだ試作段階だけどッ!

――『レニアーティの砲撃:アムネジアバースト』
――『ミリオンダガー・ロックオン>>>ディラドゥア』
――『ロックオン:オーダーフリーズ』
――『グラビティフィールド』

(掲げた魔装義手レニアーティから放たれる魔砲は、人一人を飲み込むほどの質量をもって戦鍵者へ飛ぶ。
 鏡の世界に封じられた槌と同等の力を秘めているが、効力はそれよりも高い。精霊の残滓を完全に消し飛ばすほどに。
 先程起動させたミリオンダガーを操作、戦鍵者を名指しで指定し千の刃を一点に集中させる。
 この時、オーダーを書き換えられぬようオーダーフリーズ、呪文命令の固定をするのも忘れない。
 グラビティフィールドは魔導師を中心に重力の渦を生む。 次元の扉を潜る速度さえ削れれば、傷を負わすことは叶うはず。)

 銀から、全、か……!
 全になれたら、ボクのお店でも何か買い物してってくれマスかね?
 けど今は……もうじき店仕舞いが近い……ケド……。

(マナファウンテンで得た魔力、マジックアブソーブで奪った魔力も総出で消費し勝負を掛ける。
 しかし魔力の消耗が激しく、この攻撃が終了する頃に立っていられるかどうかすら危うい。
 けれど『壊れた道化』と呼ばれた彼は、今は口に出す余裕がなかったが、心のうちに強く宣言する。

 壊れた夢、二度も壊させないと。)


(一方、その頃。
 鏡の世界でお茶会に誘われた従者は視線に気付き、ぐしぐしと涙を拭って振り返る。
 人影に気付いたらしい煤猫はわたわたと慌てふためき、ころころと逃げ惑う。
 やがて視線に敵意がないことを感づくと、まだ潤んだ瞳で不思議な男と外の戦場を交互に見て。)

『……みぃ』

(泣き止んだ今はただ心配そうに戦場を見ている。 従者の役割を果たせない我が身が小さく、悔しく思いつつ。)
[180] 覚醒と、その先へ。 赤絨毯を踏み抜き進め。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-09-13(火) 17:45
(閃光が効かなかったという訳ではない。
 音だ。相手のキャストの声の音をベースに判断、カットインを入れた。
 鏡界詠唱とて完全に鏡に依存するわけではない。念動化しない限りは音が生ずる。
 これはもはや熟練の技術。場数を踏んだ者故の聴聞術だ。

 目が慣れるまで時間は掛かるだろう。
 そのぼやけた視界の中で。相手の詠唱の位置を感覚で掴む。
 相手の言葉には、一定の回答を差し挟むべく行動を開始した。)

自分だって、色々有ったさ。
けど、戦場ではそれは言いっこなし。結果が全てなのだからね。

上等。攻撃入れたら入れたで、覚悟しててね。
こっちもまだ不完全だ。完全燃焼させてもらうよ。

(体は既に宙を舞う。実動がうまくいくかもわからない。
 しかし、術が入ったことはなんとなく知れた。
 物音の位置と感覚。そして、熟練の戦士の感でこの五感の分を埋めていく。
 敵のキャストを聴聞すれば、それはだいたい知れた。

 魔力初期化、千の刃の波。
 まるで唸る獣のように流れる刃は、転居先の自らの身体を追って迫る。
 高速での転移術との速度勝負。ドッグファイトの如き様相を呈した戦闘が続く。

 背後はやはり警戒されるようだ。
 刃を弾いた音がよく聞こえる。そして、相手が義手であることも今知れた。
 正直、気がついていなかった。しかし、こうでなくてはある種面白くもない。)

それでいい。それでいいのさ。
さぁ、作品の音色を、聞かせてもらおうか。

(口から突いて出る言葉は戯曲の如きそれだ。
 こうでなくてはやはり面白みもあるまい。そう、主は思う。

 相手のはかなき笑みの中で。鍵もまた、笑っていた。
 それは、戦士でなくては見せられない笑顔の一つでもあるのかもしれない。)

――壊れたら、直せばいい。でしょ?
自分も壊して、直してを繰り返してきた。スクラップ&ビルドの賜なのさ。

(そんな言葉もまた、突いて出た。
 本心。自分はプラスから始まり、一気にマイナスに落ち、ほんとうの意味で始まった。
 カリバーンとの出会いがなければ、今はない。

 相手の魔力の高まりをこちらも感じる。
 ちょうどこちらも魔力は許容量ギリギリまで満ちている。
 いい機会だ。見せよう。こちらも全力を。)

ああ。締めよう。
双方どちらか、音楽が鳴り止んだ時、立っていればいい。

(魔力を言葉と共に紡ぎ上げる。
 双方の切り札によって、この戦いに回答を。準備はもう、出来ていた。)

来い! ニッティ・アーレハイン!

――『高速念動詠唱』(ファスト・サイ・キャスト)
――『跳躍の門』(ジャンピング・ゲート)

(相手の砲撃への回答。重力による拘束には逆らうことはしなかった。
 潜る気にもならない。ただ、逆に砲撃の方を転移させればいいのだから。
 自らの眼前で砲撃は門へと入り、背後の出口から抜けていく。
 それは、まさしく跳躍だった。)

約束しよう。店仕舞いだけはしないでくれると約束するなら、ね。
そして……これが、ラストスタンド、かな。なんて。

(笑顔と共に紡ぐ言葉。そして、次の瞬間。

 ――鋼の雨が、降る。

 自らの肉体を切り刻み、暴威となって治癒すら拒む鋼の刃だ。
 心臓、顔、喉。体のすべてをハリネズミのごとく撃ち貫いて。
 鮮血が、床を染め上げるにはそう、時間を要しない。
 喉、目玉、腕、腹部。防具を持ってしても弾ききれない刃が刺さる。

 ――しかし、その一方。
 不思議な点がある。空間から弾き出されていないのだ。
 何故、出されないのか。その答えは、眼前に――。
 ――息が、既になくなっていてもおかしくはない筈なのに。)

       ――大量出血による魔術鍵解除――
      ――禁術発動における条件クリア――
     ――眼前敵沈黙までの間リミッター解除――

――『呪刻:血界魔術』(スペルカーヴド:ブラッド・スペル)
――『呪刻:血の呪い』(スペルカーヴド:ブラッド・オブ・アンバー)


(死に際の魔術師程恐ろしい物もない。
 相打ち覚悟の出血魔術。肉体そのものを食い荒らす完全な呪術だ。
 自らの血が意識を持つが如く脈動し、一気に相手を呪殺せんと襲う。
 主はただ死を無駄にするだけの事はしない。
 悪くても相打ちに持ち込むまでの手はずは整えている。
 その代名詞、真骨頂のような魔術だった。

 伝えたかったことは一つ。「ただ、死ぬな」それだけ。)

(鏡の中では。泣き回る猫にただ何も語らず静かに見守る男。
 困惑はしていても、それは表情に出ることが無い。
 やがて泣き止んだ従者に、ゆっくりと近づく黒い男が大きな手で頭を撫でる。
 その手は、父性に満ちた戦人の手だ。男は言う。

「――従者よ。 強くあれ。無念を噛み締め、その先へと進め。
 力を右手に。左手に勇気を持ちて気高く前へ出るがいい。
 大丈夫だ。恐れを知るお前ならば間違うことは、あるまい。」

 謎の男はそれ以上のことを語らない。
 しかし、その姿はある確信を抱かせるには十分だ。
 この男が、彼を育てる原動力になったのであろうと。)
[184] 道化は眠る、新たな夢へ目覚める旅路を行く。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-14(水) 17:56
(捨て身と言っても過言ではない選択だ、けれど無為に戦闘を長引かせる意味を見出せない。
 相手の……伝説の戦鍵者の実力の方が上だと、戦いに赴く前から分かり切っていたのだから。
 だから賭けに出た。 この一手で、後のことなど考えずに、終わらせると。

 壊れたら、直せばいい? ――わかってるくせに。
 いくら力を尽くしても、直せないものがあることくらい。

 鍵が自分の名を呼ぶのを聞いた。
 その後に次いで響く轟音、降り注ぐ刃、圧し掛かる重圧。
 けれど砲撃は素通りし、その場を動かずにそれを凌いだ人を見て思い、口にする。)

 未来のお得意サマのお名前は、ディラドゥア・クレイモア……サマで宜しいデスカ?
 特別会員サマには、いろいろサービスさせてもらいマスよ? お互いに、生きてたら。
 ……つか、そろそろ教導のレベル超えてマセン?

(千の刃の一点降雨、殺傷性の高い術を起動させた口で軽口を叩く。
 刃の一群が戦鍵者を捉えた、眼下に広がる血の池に恐れを抱き、一歩二歩、下がりながら義手を構える。
 致死量に達する傷と出血、それでいて尚戦場に留まっているということは、まだ何かがある。
 ある、と身構えても、出来ることはもうないのだけれど。

 あとは一瞬だった。
 自らの血が沸き立ち、勢いのままに我が身を貪り尽くす感覚が全身を巡る。
 相手に降らせたはずの刃に、自分も打たれているのかと誤認するほどの苦痛。
 脳裏に浮かぶ「死」は、あの過去の記憶を思い起こさせるには十分過ぎるほどの刺激を齎す。

 けれどそれさえも一瞬だった。 死、そのものが一瞬であることと同じように。
 重力の渦が静まり、刃の雨が止んだ頃、血溜まりの向こう側には。
 未だに『壊れた道化』と名乗る「戦の鍵束」が一人、仰向けで眠るように横たわっていた。)


(一方、その頃。
 「戦の鍵束」と誇る主が倒れ行く姿を見、黒猫の従者は黄色い瞳をぎゅっと瞼で覆った。
 視界を閉じ、闇の世界に身を投じていると、小さな頭に大きな手と声が被さる。
 主のそれよりも力強い言葉に一度二度、小さく頷きながら、そっと瞼を上げる。

 「永遠の縋る夢」の記録が終わり、ニッティ・アーレハインの記録体は間も無く消えようとしていた。
 それに伴い、従者“カイン・ヘカトンケイル・アーレハイン”の姿も透明度を増していく。
 従者は振り返らなかった。 被さる手をすり抜け、世界から隔離された鏡へと駆け出し。
 顔からぶつかる寸前、既に姿の見えぬ主の後を追うように、鏡の世界から消えていた。)



「ニッティへの教導は終わったようね。」
『戦鍵者様の仰る順の通りならば、次はドミナ様の番でございます。』
「…………。」
『今回も戦わぬおつもりですか、ドミナ様。』
「必要と感じたのなら、その限りではないわ。それに今回は、伝説とも謳われた戦鍵者様直々の教導ですもの。」
『その通りでございます。』
「ならば、お受けしなければ失礼に値するわ。 ……いい香りね、どんな茶葉を使えばこの香りが出せるのかしら。」
『ドミナ様。 珈琲は豆を使います。』
「……そうなの。ならば今の発言は惜しかったわね。」
『掠ってさえもいません。レイド様にまた叱られてしまいます。』
「その時はまた、反省したフリをしなくてはならないわ。」
『反省なさってください。』
[187] result.

ブレイク・エルスノール(cybt3247) 2011-09-15(木) 14:00
(記録の再生が終わり、周囲の景色も元の練武場へと戻り行く。
 陰猫の隣で戦いを見守り、学習に勤めていた魔導師が声を上げた。)

 お疲れ様でした、ディラドゥアさん。

(一度の礼の後、陰猫を抱き上げてから『永遠に縋る夢』の石を預かる。
 これはニッティがこの世界へ訪れた際、若しくはブレイク自身が元の世界に戻った際、本人に手渡される予定だ。
 抱き上げられたレイドの陰は、にこりと笑って結果を述べる。)

『ニッティ様への教導、お疲れ様でした。
 今回の教導でニッティ様は、新たな夢のカタチを築き上げるキッカケを得たでしょう。
 尤も、そのカタチをモノに出来るかどうかは、今後の彼の努力次第ですが……。

 次の記録再生の準備が整いましたら、先程と同じように私へ石をお渡しください。』

(陰猫は魔導師の腕の中で、ぺこりと一度頭を下げた。
 それを抱いたままの魔導師と言えば、先程の記憶を手に取り知識を引き出している様子。)
[191] 魔笛の音色に打ち勝つ策。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-09-18(日) 03:12
(結界から叩き出された体は血に塗れている。
 体を見れば、一部は既に骨から削ぎ落とされていた。
 既に死んでいてもおかしくない程の体の傷。
 もし仮想空間で死を欺いていなかったなら、今頃自分は居ないだろう。
 それは、己の体を見れば克明に理解できる事象であることは知れている。
 ――正直、やり過ぎた。三下相手にサービスのしすぎだ。
 そう、感じざるを得ない戦いだったと、振り返る。)

――肉体再構成術式開始。
――高速再生。

(叩き出された先の治癒魔術の敷き詰められたその部屋は。
 肉体再構成等の術式も全て揃った回復に特化した休憩室だ。
 魔力を少し送り、部屋全体を活性化。高速で肉体を再生させ、同時に魔力も補給する。
 フルポテンシャルで戦えるように回復させるには一番だ。

 肉体の再構成にはそう時間を要することはない。
 治癒が完了すればゆっくりと体を起こし、若き魔術師へ向き直る。)

ちょっとやり過ぎたなぁ。
仮想空間だからって無理しすぎた。

次戦は装備切り替えるから待っててね。

――宝物庫へ。

(そう言うと主は一時的に宝物庫へ転移し、そう時間を掛けずに戻ってくる。
 幾つかの装備を切り替えて戦うのだ。その中で、最善の装備で相手に当たる。
 持ち込まれたのは首飾りと鉄の仮面だった。
 その2つは禍々しい装飾が施され、何がしかの魔法に使われたのだろうと予想が付いた。

 主はその2つの装備を身に付けて、主は魔術のライブラリを整理、整頓する。
 魔法の引き出しはいくつも有る。しかし、その中から使用する魔法を考えて挑む今回の敵。
 呪歌はやはり苦手な部類。しかし、その穴を埋めるための装備パズルは組み換えが効く。
 いくつもの死の記憶の中に、その栄光は存在していたのだ。
 準備は整った。 さぁ、幕を開こう。)

――良し。
ドミナ、聞かせてもらおう。君の奏でる呪歌の音色を。

(そう告げて、渡す石。
 苦戦の覚悟は出来ている。しかし、その先にあるのは栄光だ。
 そうでなければ、主としての矜持が廃るというもの。
 そう、主は意思を強く決めていた。)
[196] NowLoading...
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-19(月) 13:49
(メモリーストーンをそっと受け取る陰猫は、ゆっくりと顔を上げて戦鍵者を見る。
 しばらく見つめた後に記録の石へと見下ろし、何を再生すべきなのかを改めて確認した。)

 『ただ一つの歌』、ドミナ・アウローラ様の記録を再生します。

(記録の石を大事そうに握り締めれば、空間に歪みが生まれる。
 『永遠の縋る夢』の再生時を同じように、この記録も対象人物に縁ある空間へと変わり行く。
 漆黒から新たなる部屋を築き上げる途中、陰猫は歌うように語り出す。)

 ……ドミナ様はその生まれと才能から、上層行きを約束されていた程のご令嬢でした。
 しかしあのお方はそれを拒み、当派閥“戦の鍵束”へと突然、転がり込んで参られたのです。
 まるで、何かの影から逃げ出すかのように。 そして、何かの光に惹かれるかのように。

(陰がにこり、と笑みを浮かべた頃。
 床に敷かれた絨毯は色鮮やかな草花が描かれ、壁は風や草木を思わせる彩色が施されている。
 彩色は天井にまで……空と見紛う青の中心には、太陽を抱く赤き翼竜が描かれていた。
 翼を逞しく広げ、優しい瞳で地を見下ろす太陽竜が住まう小さな鳥篭が、今回の戦場となる。)

 ……お待たせ致しました。
 『戦の鍵束』No.4 三期生、『ただ一つの歌』ドミナ。
 どうぞ、心行くまでお楽しみください。

(帽子を取って一礼をした後、影猫の姿が消える、その先に。
 部屋の中央に当る位置に置かれた丸いテーブル、その向こう側に彼女は居た。)
[197] 歓待の調べを。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-19(月) 13:53
(旋律が聞こえる。
 竪琴が奏でる音色はどこか足早で、時折ゆるやかなテンポへと移り変わる。
 物静かだが、部屋中に澄み渡る音の波はどこか忙しなく、右へ左へ、早くなったり、遅くなったり。
 まるで迷子のようだ。 この部屋はこんなにも狭く、逃げ場などどこにもないというのに。

 魔導師は戦鍵者の真正面にある、丸いテーブルの傍で椅子に腰掛けていた。
 長い黒髪を一束に縛り、黒淵の眼鏡を掛け直した彼女の身なりは、元令嬢と呼ぶには苦しかった。
 ふんわりとした白のネグリジェは愛らしいが、少なくとも客人に見せる姿ではないだろう。
 ましてや、これから教導官なる人物と会い、魔を交えた戦いを行うと、彼女は知っているはずなのに。

 テーブルの上に置かれたティーカップに指を掛け、暫く間を開けた後。)

 ……いい香りね、どんな豆を挽けば、この香りが出せるのかしら。

『ドミナ様。 本日の紅茶は豆など挽きません。』

(短いやり取りが聞こえた。 一般常識の欠けた令嬢の声と、間違いを指摘する執事の声。
 執事は彼女のすぐ傍にいた、灰色の毛皮を纏ったその人影は「クー・シー」と呼ばれる妖精郷の番犬。
 黒いスーツを着こなしているが、毛皮のボリュームのせいか風船のように膨らんでいるようにも見える。

 更に後ろへ目をやれば、先程から奏でられている旋律の奏者が見えるだろう。
 灰色の執事を同じような正装を着込んだ彼は白い毛皮を持つ、若き狼犬の従者。
 手にした白の竪琴の弦を鋭い爪で弾き、一房だけ黒い鬣を風に揺らしながら演奏していた。
 早くなったり、遅くなったりする、迷子の旋律が部屋中を満たしていく。)

『それはそうとドミナ様。 教導官様がお見えになられました。』

(クー・シーの執事の声を聞き、世間知らずのお嬢様が顔を上げる、視線が戦鍵者のそれをぶつかった時。)

 ……“あの方”かしらと思ったけれど、違うのね。 あの人は……紅い竜だったもの。

『それは、夢でご覧になられたという戦鍵者様のことでしょうか。』

 夢、だったのかしら。 ……そうね、夢だったのね。
 私はあの人の名前を尋ねたはずなのに、私はその名すら、覚えていないもの。

(眼鏡の奥の黒い瞳が微かに曇る。 目前に現れた教導者は、彼女の望んだ姿ではなかったらしい。
 そのことで憂いの感情を隠さず俯いた魔導師は、ふと顔を上げると淡い笑みを浮かべて囁く。)

 ……失礼しました、アウローラの間へようこそ、戦鍵者様。
 まさか私のような、辺境の魔導師へご指導頂けるなんて……夢にも思いませんでしたわ。

(黒淵の眼鏡をかけ直し、感情も篭らぬ声でそんなことを言う。
 すっと差し伸ばされた右手は、犬執事が出現させた黒い椅子に向けられていた。
 狼犬による演奏はまだ続いている。 滑稽な旋律は僅かながら音量が上がっていた。)

 さあどうぞ、お掛けになって。
 私、貴方のような魔導師様と出会えたら、まずお話がしたいと思っていたの。
 紅茶の銘柄は何がお好みかしら、教えて下さればロイ爺に用意させるわ。

 教導を施された後では、記録体である私はその間を与えられずに消えてしまう。
 ですから……その前に貴方様と、貴方様に纏わる伝承のお話、聞かせてくださると嬉しいわ。

(ゆるやかな口取りは、この後に巻き起こる戦など、微塵も感じさせぬほどに温和なものだった。
 だが事実、彼女はそのつもりだった。 戦を初めとする争いごとを自ら起こす気など、ない。
 その意志は既に、この空間に満ち溢れている。 ――部屋を訪れてから耳にしている旋律が、その証拠。)

――『呪歌:惑いの風見鶏』

(呪歌使いの従者もまた、呪歌の使い手。 狼犬がたった今まで奏でている演奏もまた、呪歌の一つ。
 風に翻弄され、右へ左へ、足早に駆けたり、途中疲れて歩き出したり、時には立ち止まる。
 やがて自らの目的を忘れ、惑う孤独な鳥。 それを象った旋律は聞き入る者の「目的」を忘れさせる。
 「教導」、その意識を忘却の彼方へ流そうとする旋律の中、彼女は悠々と。)

 ――この紅茶の銘柄、エスプレッソかしら。

『ドミナ様。 私めは本日、珈琲を淹れた覚えはございませんが。』

(紅茶を一口含んだ後、また執事に誤りを指摘されていた。)
[201] 受けた歓待と、悲しみの中で。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-09-20(火) 04:11
(――鳥籠の中のラプンツェル。従者と共に永遠を歌う。
 戦場に流れる美しい音色の調べ。その音色は主の心を打つには十分なもので。
 ――とても美しい。しかし、その迷いが時として己の心に引っかかる。
 なぜ、このような雑音が入り交じっては己の心を掻き毟るのか。
 主はそれがどこか無念でしか無かった。音は己を酔わせ、心のタガすら外すというのに。

 相手と執事のやり取りを聞きながら。主はしばし音に身を任せ、
 その呪歌の中にあえて深く没入した。策は既に練ってある。対抗するのは容易い、と。
 眼が蕩け、心はこの快楽に任せるままの状態の中で。主はゆっくりと籠の中へと歩み寄る。)

……美しいお嬢さんだ。まるで草原に咲く一輪の薔薇のよう。
此度の指導にお招きいただき、こちらこそ光栄の極み。

ディラドゥア・クレイモアだ。よろしく願うよ。

(そんな事をいう主。女癖の悪さが一部出る中で。
 美しい女性と見るや口説く癖のある主は仮面を上にあげて外し。
 相手に勧められた椅子にそっと腰をかける。
 心はどこか夢うつつの中にある。体は今は現実の中にあるが、その境すら今の己には曖昧だ。
 紅茶の銘柄を問いながら、こちらの伝説をせがむ相手に、そっと。)

お話をお望みかい? じゃあ、少しお話をしよう。

でも、君の望むような伝承と言えるかどうかは分からない。
なぜなら、こうやって生まれ、互いに生きていられることがある種の奇跡だ。
その奇跡からすれば他愛もない話さ。そして、君もまたその伝説の持ち主なのだからね。

――『隠蔽念動詠唱』(アンシーン・サイ・キャスト)
――『撤退禁止域』(アンチ・エスケープ・エリア)


紅茶の銘柄は……そうだ、アップルティーをお願いしよう。

(キザな言葉が突いて出る。
 相手も籠の鳥。ならば、それは己もまた籠の鳥でなくてはならないだろうと。
 詠唱、起動。存在すら気取られぬ隠蔽を施した魔術が一つ掛けられる。
 相手の意識を戦闘不能以外消滅を許さぬ状態に固定し、また自己の撤退も封ずる術。
 言い方を変えれば死闘の強制であるが、それは双方同じ事。
 これで互いに籠の鳥。相手は退場を許されぬし、己もまた退場を許されない。
 こうまでして双方同じ土壌で会話し、同じ目線での会話を望んだ。
 それは、ある一つのメッセージでもある。

 それは、「自分は君をありのまま受け入れる」という暗黙のメッセージ。
 実力はすでにある。足りないものは別にあって、それさえ足せばいいだけなのだから。
 まずは、双方会話と行こう。刃を交えぬ戦闘を、主もまた望んだ。)

それは、自分がこの世界に踏み入れる前、まだ子供の頃だったかな。
自分には父親と母親、そして兄弟が居たんだ。

――『隠蔽念動詠唱』(アンシーン・サイ・キャスト)

――しかし、それは……夢……だった。自分はその家族を……殺されたんだ。
殺しを遊びとする、害為す神に。

――『苦杯』

なぜ、あの惨劇の中に飛び込んで行けなかったんだろう。
自分は……自分は見るしか出来なかったんだ。己の無力さを呪った。悔しさだけが募った。

気がつけば英雄に出会って、命を助けてはもらった。
でも、自分は復讐がしたくて、したくて、たまらなかった……

(魔術の力はやはり強い。心のタガが既に外れている。
 言葉に詰まり、所々嗚咽が漏れる。物語は遡れば長く、そして血に濡れている。
 略歴を交えながらの悲しい記憶を思い起こすように、どこか悲しい表情をしながら。
 思わず流れる涙は偽の物ではない。しかし、その中で。
 物語は苦く、そして死は昏く。いつの間にか、口に含む紅茶すら仄かに苦くなる。
 その苦杯は、双方の杯へと向けられている。それは、まるで珈琲のように。
 目覚めを促す、苦味。物語は時として苦く。そして、甘い。

 その内に、呪歌の影響が強くなれば。
 一定の魔力濃度の上昇に応じ、上部に寄せた仮面はピリピリと震え出す。
 そして、その内に赤き涙を流し、反応を示した仮面。
 それは、仮面すらも涙していることを意味する。
 一部の魔力を吸収し、主へと還流。呪歌に抗する仮面の一つの力だった。
 しかし、これは本来の力では、ない。まだ、隠れている。)

――英雄……いや、自分の養父は道を示してくれた。
……だから、自分はここまで来た。……生き残った罪を償うために。
自分にとっては、強くなることが、正義だったんだ。

(枯れ果てた涙すら流れ出る。透明な涙。久しぶりの悲しみ。
 平常で涙することなど、幾度あろうか。既に忘れ去った感覚だった。)

……湿気た話でごめんね。
次は、君の番だ。もし良ければ、聞かせてくれるかな。
君の生い立ちの話を。

(そう、主は優しい泣き腫らした目で問うのだった。)
[204] 紅き夜の夢。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-21(水) 14:48
(『美しいお嬢さん』。 既に何度か聞かされた単語は既に聞き流していた。
 ずれてもいない眼鏡を掛け直す仕草でその場を凌ぎ、ただ簡潔に言葉を返す。)

 ……ドミナ·アウローラです。 この度はわざわざご足労頂き、ありがとうございます。

(“戦の鍵束”としての名乗りではない、自らの名を語るだけの自己紹介。
 差し伸べた手の先にある椅子へ、鍵なる人が腰掛けるのを見届け、カップを置いた。
 旋律に僅かな唸りが混じる、飾った言葉に何かを思った竪琴の奏者が零したものだ。

 好む銘柄の名を聞き、灰色のクー·シーは頭を下げてからその場を下がる。
 去り際に背を向け、竪琴を奏でる白き狼犬へ二言だけ、耳打ちをしてから。)

――『転移の鐘>>>機能停止』

『《非常口》を断たれました。 持て成しの用意を。』
『……分かってるよ、ロイ爺。』


(犬執事が裏へ姿を消し、そして瞬時に舞い戻り、客人へ紅茶を差し出した後。
 自らも紅茶の御代わりを頼んでいた魔導師は、組んだ両手を膝の上に置いて話を聞き入る。
 家族構成から始まる生い立ち――、彼が歩んだ一つの物語にこの身を委ねる。

 愛した人を害神に奪われ、それをただ見ていることしか出来ずに。
 己の無力を呪い、悔やみ、そして嵐過ぎ去る後に一つの出会いを得て。
 けれど心の内は黒に染まり切っていて、復讐の二文字だけを描いた少年の話。

 時折、泣き出してしまいそうな様を見れば、心苦しさに胸へ手を当ててしまう。
 その顔を覆う仮面の眼から、血と見紛うほどの赤が流れれば息が詰まる思いまでした。
 伝承などには残らないかもしれない、けれども重い歴史の頁を一枚一枚、静かに捲る。

 やがて一時のピリオドを打たれた後、存在を忘れかけたカップを取った。
 口に含んだ水は、何故だか苦く感じた。 ――お茶に煩いロイ爺がミス? 有り得ない。
 そして次は、君の番。 聞き手に回っていた彼女は戸惑いの表情を浮かべ、視線を横へ外した。)

 ……私の、話? まさか、私がそんなこと、尋ねられるとは思わなかったわ。
 お耳汚しになるだけかもしれないけれど……、それでもと仰られるのなら。

――『呪歌:紅き夜空』

(魔導師が語る時、曲が切り替わる。 彼女の“夢”を象る不思議な夜の一曲。)

 小さな頃の私に与えられた世界は、外の世界を象ったこの部屋だけだった。
 時折聞こえてくる風の音、木々の囀りに心を奪われたのは、四つの頃。
 同じ籠に仕舞われた白い鳥……真っ白ではないけれど。
 彼と共に秘密の約束をして、初めて夜空の下へ出たのは、八つの頃。

 ……その日、彼と初めて外へ逃げ出した時は真夜中だったわ。
 夜は暗いものだと思っていたのに、その日の夜だけ、明るい夜だった。
 ……この部屋の天井に、紅い竜の絵が見えるかしら。
 私はその日、あの竜と出会ったの。 いえ……“あの方”と出会う夢を見た。

(神秘的な夜を感じる旋律、けれどその中に日の光のような暖かさを感じる。)

 その日から毎晩のように、“あの方”の夢を見るようになったわ。
 初めは身体も大きいし、赤い鱗や鋭い爪牙を纏う姿を恐ろしいと感じたけれど。
 竜の顎から紡がれる音は、何かの言葉だったのかもしれないけれど、歌のように聞こえて。
 あれを歌と呼んでも構わないのなら……素敵、その一言に尽きる歌。

(竪琴の奏者が弦を弾きながら口を開く。
 獣の顎から紡がれる声は、人の言の葉ではなかった。)

 “あの方”と出会う夢の時刻は、決まって夜だった。
 出会いを何度も繰り返していたら、竜はいつか人に近い姿をして、私を迎えてくれた。
 ……“あの方”が初めて人の言葉で話してくれたのは、私が十一の頃……。
 ……変ね、生い立ちを尋ねられたハズはずなのに、夢の話ばかりだなんて。

(苦杯となった紅茶に口をつける、鍵なる人の力で変えられたものとは思わずに。)

 夢……夢だったのよ。 夢だった、はずなのに……。
 私は今も、“あの方”の声を、触れた感覚を、身体で覚えてる……。

(最後に紡がれた言葉は、自分自身へ問いかけるように囁かれた。
 呪歌、紅き夜空の旋律もここで途切れる。白き狼犬の爪が止まる。)

 シーファも、覚えてないのよね?

『ドミナが忘れてるんだ、僕が覚えてるわけ、ないだろ。』

(ふと尋ねられ、竪琴の奏者――シーファ·オルフェウス·アウローラは目を伏せた。
 彼女と同じ籠に入れられた白い鳥は視線を逸らし、主が知る以上の真相を語ろうとはしない。)

 そう、よね……。
 ……この後は貴方の耳に入っているかもしれないわね。
 レイド様が築いた“戦の鍵束”に加入したのは十九の頃……、つい最近の話よ。

(そして彼女も力のルーツとなる“呪歌”の話を伏せて、過去語りを締め括る。
 懐から上品な懐中時計を取り出し、時刻を確認した魔導師は、戦鍵者へ。)

 ……そろそろ時間ね。

(それだけを、告げる。何の時間か、それは貴方が答えてみせて。
 貴方がここを訪れた目的を今も覚えていられたのなら、私はそれに答えましょう。

 《非常口》と呼ぶ逃走経路を塞がれたことを、魔導師はお茶会が始まる前に気付いていた。)


 ――時は遡り、灰色の従者が裏へ下がった時。

『おじちゃん、たいへんなの。』『ロイ爺、たいへんだよ!』
『おやおやレイミ、ソラル。 どうかしましたか?』
『ごーん、て、ならないの。』『転移の鐘が鳴らないんだ!』
『やはり、先手を打たれていましたね。』
『え、おじちゃん、しってたの?』『さすがロイ爺、なんでもお見通しなんだね!』
『お客様が席に着き、ドミナ様がカップを置いた後に鳴る筈だった鐘の音が、聞こえませんでしたから。』
『んにゃー。』『あ、そっか。 じゃあドミナ様やシーファ兄ちゃんも』
『勿論、気付いているでしょう。 そこでレイミ、ソラル、予定変更です。』
『よてい?』『へんこう?』
『本日の教導官様を正式なお客様と見なし、持て成しを行います。鐘の修復は行いません。』
『えー、ごーん、なおさないの?』『でも、ドミナ様は……』
『……ドミナ様は戦の鍵束になられるお方。 戦の起こし方を知らねばなりません。 故に、ですよ。』
『……。』『うぅ~。』
『爺が合図をしたら、君たちの出番です。 それまでに準備を済ませて置いてください。』
『はーい。』『はーい。』
[207] 夢から醒め、冷酷なる戦場へ。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-09-27(火) 17:40
(相手の仕草にこちらへの気はないと知る。
 まぁ、当然の話だろう。軽く引っ掛けた程度の話だ。
 この男、女癖が悪いとは言えど未熟な女を抱き寄せるほど悪癖ではない。
 それに、本気で口説き落とすならムードの段階から作り始まる凝り性の男だ。
 この程度ではまだお遊びの段階だろう。魅了の魔術も使っていない。
 そんな中で、あくまで教導との一線は越えずに居るのだった。

 相手の足労への感謝を聞き、静かに会釈すれば。
 敵方の従者の唸りを耳にして、目で静かに視線を投げる。
 男の嫉妬ほど醜い物はないぞ、と。それはある種のイタズラであった。
 軽く引っ掛けた程度の話だと、同時に目線が嗤う。

 犬型の従者の耳打ちの動きもある程度は視認していた。
 内容を問うまでもあるまい。
 こちらもコチラで打つべき手を正しく打つだけの話だ。
 あとは、戦闘前の準備を残すだけのことだろう、と。

 犬執事が舞い戻り、こちらの指定した紅茶を差し出す中。
 それを受け取り、ゆっくりと相手に物語を聞かせ、こちらも物語を聞く。
 泣き腫らした目。その目は優しさに満ちたそれで。
 その物語の中で。赤き夜空の呪歌がそっと自分の中を包む。
 視界すら歪む酩酊の感覚。音に酔う体の体質が露骨に出。
 魔術の行使もままならぬほどの快楽が身を包む。

 赤き魔術と赤き竜。毎晩の相瀬と別れ。
 物語を語る言葉は魔術の言葉と混ざり、瞳の奥で物語を象る。
 夢の語り。しかし、それは夢であるがゆえに、儚くも美しい。

 ――呪歌。その快楽はマリファナのそれに似る。
 瞳孔の散大。魔術の力が加わることで肉体は本能的に忌避反応を示す。
 しかし、そのどうしようもないほどの快楽は、肉体を溶かすが如きだ。
 手先は震え、狂気よりも悦楽の感覚が全身を支配する。

 ――このままではまずい。

 それは、歴戦の中での快楽の制御以外にほかならない。
 体がそっと本能的にカップへと伸び、苦杯となった紅茶に口を付けさせる。
 現実へとそっと引き戻してくれる苦味。
 現在の苦味はある種のメッセージとなって肉体を揺り動かすには十分だ。
 そのメッセージ。それは、「現在を見ること」。
 恋人が串を手に取り、乱れた髪をとかすように。
 現在をもう一度見なおさなければ、勝利への道はないのだと。
 そして、それを伝えることが自らの役目であるのだという意識。
 それを意識させ直すかのように。仮面も赤き涙を累々と流し続けた。

 苦杯を飲み干し、旋律の途切れた時間へと意思を回帰させれば。
 従者の発言を耳で聞き流し。そっと、相手の発言を耳に入る。
 腕輪が一瞬、光を呼んだように見えたのは、気のせいだろうか。)

……なるほどね。君は夢を抱きながら生きてきた。
……そして、そのおかげで現在がある。
すごく素敵な物語だ。……いい話を有難う。

――『隠蔽二段念動詠唱』(アンシーン・デュアル・サイキャスト)
――『物理転移』(アイテム・テレポート)
――『ツキマーの舞踏』(ツキマー・ダンス)


(主はその柔らかな笑みを浮かべ、そっと杯を皿へ置く。
 魔術の気配で幾つかの数がいることは知っていた。
 これから魔術とは一時の別れを告げる事となる。その前準備だった。
 その中で、泣き腫らした目をそっと拭えば、ある種の覚悟をこの地点で固める。
 時間を問われた時。奥から、低い念仏のような音が聞こえてくる。
 ふと視界を向ければ。そこにいるのは青白い気を纏った和服の男だ。)

「……人会切之 我仇徳川 神会切之 魔会切之……
 幼子欲血 乙女欲血 我欲杯血 我切人之 無残無残……
 ……七念八倒 我名呪名 妙法村正 呼我誰主……」

(その男に生気はまるで無く、腕を見れば骨と皮が残るのみである。
 三度笠をかぶるがゆえに表情を臨むことはできない。
 しかし、その男からは只ならぬ存在であるとの予想が余裕でついていた。)

――おや。お迎えも来てしまっていたね。
時間も時間のようだし、それでは始めようか。 ――『教導』を。

――『高速詠唱』(ファスト・キャスト)
――『次元の扉』(ディメンション・ドア)

(教導を始めようとの言葉と共に紡がれる、この戦闘における最後の呪文。
 次元の扉を潜り、自らは籠の外へ飛び出し、距離を取る。
 共に並び立つは和服の男。右隣には男がいる状態である。
 数回の短い会話。その中では、濃厚な契約についての話が上がっていた。)

――契約の代金は血と日本酒で払う。(血は)100(ml)。
「300(ml)」
――空気読め。酒は大吟醸を出す。150(ml)。
「……乙女の血が条件だ……」
手を出すな。教導の相手だ。
「……食えぬ男よ……。 150、一升瓶で2本出してもらおう……。」
――成立だな。
「ああ……」

(やせ細った男の眼球は魔性のように光を増してゆく。
 刀を握る手は震え、目は血に飢えた獣の目を隠さない。
 それはその刀そのものがまるで意思を持つかのような存在で。
 スラリと抜き放たれた刀の刃は青白く、儚い色を発し始める。)

「……参る」

(構えた男はそれ以上の行動を取らず。ただ、静かに反応を待っている。
 そして、その召喚者である主も、一つの行動を開始していた。
 挙げられた仮面は顔に直され、流れ出る血の涙はついに止まり。
 瞳を赤に染める。その瞳は、血に飢えた獣のように、見えて。)

――『魔法道具起動』(マジックアイテム・ライド)
――『恐怖の仮面』(マスク・オブ・テラー)
――『暗黒の首飾り』(カラー・オブ・ダークネス)

――轟!!!!

(肉体のタガが既に飛んでいる。狂戦に近い状態の中での、咆哮。
 自らの肉体を強化し、空中での行動などを補助する首飾りと、
 肉体を強化し、魔を代償に魔に抗する力を与える仮面。
 この2つを主は呪歌への返答として持ち込んだ。
 それは、魔を代償に攻める完全なる近接戦の用意。

 肉体の筋力は今や魔力によって強化され、
 振り回される刃はまさに小枝のように軽くすら感じさせる。
 更にそこで加速薬と強化薬を服用し、極限まで肉体を強化。
 初手は様子をみる主だが、その動きは既に軽い。
 高速で動けるだけのカードを揃え、主は現在、静かに様子を伺っていた。)
[211] 大空の四重奏。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-09-28(水) 14:54
(過去語り、というよりも夢語りを終えた後。
 視線は赤い涙を流す仮面から、仄かに光る腕輪へと寄越す。
 魔道具の一種であることは見て取れるが、仮面は恐らく……。)

 ……お褒めのお言葉として、受け取っても宜しいのかしら。
 夢以外に、語れるだけの過去を持っていないだけですのに。

(どこか自嘲と取れる呟きを残し、手にしていた懐中時計を仕舞いこむ。)

『おや、お客様がもう一方。』

(時間の意を問い質した後、執事の向けた声の先を一瞥した。
 竪琴の奏者が一瞬身構えるのを、魔導師は手を翳すことで制する。
 執事のほうは『見る限り、緑茶のほうがお好みですかな?』と、対応を崩さない。

 三度笠を被る和服の人物から感じ取れたのは、只ならぬ力と明白な殺意。
 詠唱を主とする術師として、念仏は幾つか耳にしたことはある。
 けれど、今この場で聞く念仏は気味の良いものではなく、奏者が警戒の唸りを上げた。

 思えば、それも合図の一つだったのだろうか。
 現れた次元の扉を潜り、籠の外へ飛び出る二人の男を見届けて。)

 ……覚えて、いらしたのね。
 そう……それは……、残念だわ。

(とても残念、と。
 これから自分達がする行い、そして相手がその身に受ける不幸を悲しみながら。

 執事がそっとテーブルの淵に触れることでその存在を消し、後は魔導師が座る椅子しか残らない。
 未だに椅子から地に下りぬ主を見て、灰色の執事は小さく、本当に小さくため息をついた。
 その上で彼等も行動を始める、敵対行動を取るとされる客人から、親愛なる主を守護するために。)

『ドミナ様はどうも、ご気分が優れぬご様子。 では私めどもが前座を務めましょう。』
『いいや、ドミナが席を立つ必要なんでない。 僕達“アウローラ・カルテット”で退ければいいだけだ。』

(物腰の柔らかい執事とは裏腹に、苛立たしい様子を見せる白き狼犬シーファは二人の男を睨む。
 得体の知れぬ男達の契約に関する話に聞き耳を立てていた籠の鳥は、牙を剥き出したまま弦に爪を掛けた。)

『誰であろうと、ドミナには……指一本たりとも触れさせやしない……!』

 ――『調音:果てなく響く音流』
 ――『戦歌:アウローラの領域』
 ――『呪言:無慈悲なる空』

(弦と声に魔力を付加させ、音がこの空間の隅々まで行き渡るようにした上でシーファは戦に於ける序曲を奏でる。
 アウローラの領域。 それは“アウローラ”と名乗る者だけに向けられた、魔力の底上げを促す強化楽曲。
 そして口にする言葉はアウローラを名乗らぬ者へ向けられた、その身に痛みを植えつける呪われた旋律。
 この大空の下にお前達を味方するものなど存在しないと、明白な敵意を込めた歌が空間全土を埋め尽くす。)

『やれやれ、合図はまだだったのですが……。 では、これより開戦と参りましょうか。 ……ゴホン。』

 ――『開戦の咆哮』
 ――『サーヴァントイージス・トライアングル』

(魔導師の前に立ち塞がる犬執事は、対する戦鍵者と張り合うかのように吼え猛る。
 それは彼等における戦の合図、籠の外に居た二つの小さな影が魔導師の右後ろ、左後ろにそれぞれ現る。
 右後ろに控えた黒翼を生やす白猫は杖を携え、左後ろに飛び出した白翼を羽ばたかせる黒狼は洋弓を抱えていた。
 彼等二匹と執事を点にして線で繋ぐことで生まれる三角形の中に、魔導師と竪琴の奏者を残して結界が形成される。)

『合図なのよー、ソラルちゃん。』『おっけい、オイラたちの出番だ、レイミ!』

 ――『魔猫式詠唱術』
 ――『サンダークラップ』
 ――『ソニックウェーブ』

(どこかふわふわした口調の白猫――レイミ・アウローラは、これまたうにゃうにゃと鳴いてるような声で術を紡ぐ。
 だが見た目とは裏腹に、唱えられる魔術は上層部の使い魔が使用するに匹敵する範囲魔法だ。
 杖をぶんぶんと振るたびに中空から生まれるのは稲妻の塊、それらは籠の外にいる戦鍵者と和服の男へと降り注ぎ。
 黒い翼を用いてくるくるとその身を回転させれば、音の波に力を宿して接近するものを外へと押し出す。)

 ――『天罰の矢:掃射の構え』
 ――『加速のエンチャント>>>天罰の矢』
 ――『非情なる追撃の構え』

(それの対となる活気ある黒狼――ソラル・アウローラは、自慢のボウガンから矢を幾つか宙へ放った。
 白猫の雷弾、そして音の波を免れた侵入者へ落とされる天罰の矢を設置、掃射の構えを取らせる。
 その矢一つ一つに付加させたエンチャントは加速、通常の数倍と言える速度で撃ち漏らしを減らす。
 そして黒狼自身もボウガンを構え、その矢に射抜かれるだろう侵入者を嬉々とした表情で狙い射抜くのだ。)


(竪琴を奏でる白き狼犬、杖を振るう白猫、洋弓を構える黒狼を背にして。
 未だに己の武器を取らぬ灰色の犬執事は、目前にいる今日の客人へ淡い期待を抱いていた。
 故に従者達の長は宣言する、毛むくじゃらな毛皮に被さった視線は確かに戦鍵者の瞳を見ていた。)

『おっと、申し遅れました。 私めの名は、ロイド・アーレハイン・アウローラ。
 ドミナ様に仕えるこの従者隊、“アウローラ・カルテット”の指揮を任されている者でございます。
 主の準備が整うまでの、少しの間……。 前座として、貴方様方へお持て成しをさせていただきましょう。』

(そう、前座として。 私めどもはあくまでも前座。
 従者長として、手を抜くつもりなど毛頭ないが……戦の鍵となる主を思うが故に。
 彼だけは自らの敗北を望んでいた。 私めどもの親愛なる主は、戦を知らねばならぬ。
 毛皮により膨らんだ正装の懐を探り、“アーレハイン”の名を持つ得物を手繰り寄せながら。

 四人の騎士に庇護された夢見がちな姫君が、戦の鍵束として自らの手で剣を取る光景を、切に願う。)
[215] 惨劇の二重奏。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-10-19(水) 08:26
(鍵とて相手の目線の動きを見ないわけでもない。
 それ相応に気取られぬよう動いては居たつもりではあったが、やはりか。
 そんな事を考えふと思考を巡らせれば、相手の言葉が続き)

夢でも、語れるだけ良いというもの。
語ることすら叶わぬ夢を持つよりは、ずっとね。

(そう、主は言う。 見果てぬ夢を追い続けた、養父のことを重ねながら。
 相手の懐中電灯をしまい込む動作を視認し、己の仲間の存在を確認すれば。
 主も戦闘の準備は出来ている。 体は常に正直なものだ。
 相手が警戒の唸りを上げたのは、次元の扉を潜る刹那の話だ。

 唸り声の残響、乙女の嘆きを耳に残して、主は門の向こうへ掻き消える。
 戦いは、もう始まっている。

 賽は今、投げられた。

 相手の布陣が終わるのはそう遅い話ではない。
 開戦の咆哮が耳に残る。それは、従者としての防衛本能に基づくそれであろう。
 戦端が開き、今この戦場で行われる行為は、全て伏線が敷かれた戦闘劇である。
 それを、鍵はよく知っていたから。覚えていたことを嘆く乙女に、鍵は。)

……残念かい?
自分はそうは思わないけどね?

(そう、言葉を投げる。行いと不幸を嘆く余裕は、与えるつもりもない。
 姿を消す主、号令と共に降り注ぐ雷撃と音撃の雨あられ。
 なるほど、相手は確かに数が多い。呼んだのは正解だっただろう。
 攻撃の数と諸元を確認すれば、打つ手は自然と決まる。
 魔法道具をメインとした行動から始まればいい。
 まずは、少しだけ時間を頂だこう。対処のための時間を。)

――『魔法道具機動』(マジックアイテム・ライド)
――『歪んだ時計』
――『無音界石』(ノー・サウンド・ワールドストーン)
――『アイウーンの吸魔石:黄色』(ストーン・オブ・アイウーン:イエロー)
――『風界石』(ストーン・オブ・ワールウィンド)


(引き出したのは簡単な対処法だった。
 男の手に引き出された魔道具の数々がそれの答えを示し出す。
 歪んだ懐中時計は5秒間だけの時間停止を約束する。
 5秒あれば対処は可能だろう。まずは少しの準備期間が欲しい。
 その時の止まった世界の中で、起動する3つの石が魔術師の答えだ。

 1、2

 ――無音界石。
 その石は『音』の概念なき世界を一瞬生み出し、貼る。
 魔導の力を備えた石は音の概念を打ち消して完全に対消滅させ、音の波を砕く。
 攻撃するための経路が確保されれば狩りにいけるだけの余裕がある。
 相手の攻撃の波を封じれば、解決は可能だろうと踏んだ。

 3

 次に用意するのは保険。吸魔の力を持つ属性吸収の石だ。
 相手の雷撃の波を自らの力に吸収し、変換する力を授ける魔道具。
 サンダークラップへの明確なる回答だった。
 石は雷撃を吸収し、魔道具に送る魔力をより多くしていく。
 その贈られる魔力に比例して肉体もまた強化に強化を重ねるのだ。
 加速の力と仮面による肉体強化。反射神経もまたそれに含まれる。
 主にとって今、時間の流れは静かに流れる川のごとしだ。

 4

 次に飛ばすのは男への指示。
 自らが産み出した仮初たる肉体を持つそれに、従者への追撃を命じる。
 男の肉体は幻影だ。 相手の魔術そのものが通用するということもない。
 ただ、男の持つ刀への攻撃だけは気を配らねばならない。
 男の本体は刀そのものだ。それを気取らせぬようハンドシグナルが飛ぶ。
 それを受けた男もまた、行動を開始するにはそう掛かることはない。

 顔が映る鏡面の刃は、人間の血を求めて止むということはない。
 それは刃そのものが呪物であり、また人の血で冷やし固めたという出自にも因る。
 飢えた刃が、男の仮初を持って躍動する。 それはほんの少しの時間があれば、良い。

「虎眼流刀術ノ一 ――『無空刃』

 刃が煌けば、それは相手ヘの葬送の音と化す。
 空間を裂き、魔術の従者の肉体を食い破らんと襲う無空の刃。
 それは、波動を刃として撃ち出す乱撃の刃だった。

 5

 そして風界石が風の波を産み出すと同時。時が動き出す。
 乱撃の矢の雨は加速を得るが、それは等速にすら感じる速度だ。
 風の波で逸れる矢の一部は自らを正確に狙う。
 その中で主は手にした剣を一時消して、素手で矢を掴み折りながら猛撃する。
 十分だ、射撃の従者への密着までは3秒と掛からない。
 その中で密着すれば、あとは乱撃の刃が一瞬で手に収まり、暴風と化す。
 それは、戦局を次に繋げるための、葬送の音だ。
 主の口から思わず漏れる言葉は、まるで劇場に立つ役者のようで。)

――さ、いくつ聞かせてくれるかな。断末魔の音は。

(嗜虐の側面が思わず出る。従者の悲鳴は、己への賛美歌だ。)
[216] 往く道の先には。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-10-28(金) 13:30
 ――……ゼロ。

(断末魔の音は幾つか。 その返答は、ただ一言。
 手にしているのは、先程仕舞ったはずの懐中時計、開いていた蓋がカチリと閉じられた。)

 ――『真実の時計』

(それは身に着けているだけで、他者が操る時間操作を常時無効化する魔道具。
 周囲の従者達の時間は止まれど、この時計を所持していた彼女の時間だけは止まらなかった。
 故に、鍵なる人達だけが行動できた5秒間、その全てを魔導師は見ていて。
 それ故に、それらの返答として先ほどの呟きを残し――行動に出ていた。 返答を真実にするために。)

 『えっ……』『うわッ!?』

(時が動き出し、狙われた二人が驚きの声を上げるのは無理もなく。
 故にこの後、片や無空の刃に身を抉られ、片や葬送の風に討たれ落ちていただろう。

 けれど魔導師は言った。 「ゼロ」だと。
 時計持たぬ手の指に掛かったままのティーカップを、無空の刃迫る方へ投げ。
 視線は射撃の従者こと、ソラルへ向ける。 ソラルといえばそれでもと、洋弓を迫る敵へと向けていた。)

 ――『破壊効果:守護の聖杯』
 ――『位置交換:ソラル<-->天罰の矢』

(無空刃に触れ砕けたティーカップには、その身を砕く事で障壁を張る呪紋を施していた。
 散り散りになったカップの破片と共に呪紋が広がり、小さな白猫の身を包んで護り抜く。

 視線を向けた先の洋弓抱える黒狼は、呪文を唱えるやその身を一本の矢に変えていた。
 変化の類ではない、上空に未だ数本残っていた天罰の矢と黒狼の位置を入れ替えたのだ。
 鍵なる人の手中に収められる矢は粉々になれど、身を転じられた黒狼は遥か上空に逃げ果せる。
 尤も、逃げた狼自体はとっさの状況判断が出来ずに、しばし瞬きを繰り返すだけだったが。)

『ソラル!!』『わわっ!』

 ――『翼殺しの矢』

(竪琴の狼犬シーファが放つ一喝を受け、黒狼の瞳は一瞬だけ焦りの色を見る。
 声がした直後、間髪言わさぬ速さで放たれた矢は、鍵なる人の背にある翼を目掛けて落ちる。
 攻撃の動作に入った後だ、上空の、それもやや後方から落とされる矢への反応は困難だと思われた。
 難を上げるならば……、それを指示した狼犬の声が、攻撃を向けられている対象にも聞こえているということ。)

(その一方で。)

『私めなど眼中にないと。 寂しいものでございますな。』

(矢が落とされると当時、犬執事は小言をぼやきながらも前方へ。
 己の得物――、一丁の拳銃を引き抜き、三度傘の男へと踏み込んでみせた。)

 ――『瞬転の靴』
 ――『魔装銃アーレハイン』

『客人に罪はない。罪深きはその牙。』

(視界の内に収まる場所ならば、踏み込めば瞬く間に移動が出来る靴の効力を持って、男の前に立ち。
 引き抜いた拳銃を、同じ『戦の鍵束』に属する子が生み出した傑作の銃を、振り下ろされた後の刀に向け。)

 ――『零距離射撃術』
 ――『クイックドロー』

『罪深きモノへ、アウローラの名の下に裁きを下す。』

(銃口を突き出し、押し当て、トリガーを引く事、一度、二度、三度。 計六発を躊躇いなく撃ち込んだ。)


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 ……状況確認、レイミから。
『聖杯の破壊効果で、紋章結界の中だ。 しばらくの攻撃は防げるけど結界内では行動不可。』

 次、ソラル。
『教導者の上空よりやや後方から『翼殺しの矢』で攻撃に入ってる。』

 最後、ロイ爺は。
『レイミに刃を放った刀の男に特攻、零距離射撃で交戦開始。』

 ……今のところ、全員無事ね。
『けどアイツら、俺の呪歌やレイミの魔術に耐性……それどころか吸収張ってるみたいだ。』

 …………はぁ。
『……ドミナ、大丈夫か?』

(戦歌を奏でながら、白き狼犬の従者は主の身を気遣う。
 未だコレといった行動をしていない彼女の表情には、既に疲労の色が浮かんでいた。
 彼女と同一の世界に居る者からすれば、それは当たり前だと言えただろう。
 従者の扱う力の全ては、主から供給された魔力を媒介にして使用される。
 1体だけならばまだしも、彼女の場合は4体同時に行動している、その分魔力の消耗が激しい。
 それが分かっているだけに、彼女の傍らに立つシーファもまた、苦い表情を浮かべていた。)

 …………大丈夫。 シーファは調音し直してから戦歌を続けて。
『……分かった。』

 ――『調音:心揺さぶる音流』
 ――『戦歌:アウローラの領域』
 ――『呪言:無慈悲なる空』

(空間の果てまで響く音は、返事一つで音に触れる全てのモノの精神を蝕む音へと変わる。
 その経過を耳にしながら頭を抱える彼女は、進んで戦場へ身を投じる鍵なる人へ問いを呟いていた。)

 ……ディラドゥア様。
 貴方を戦いへ駆り立てるモノは……なに?
 復讐や贖罪、そして貴方の信じる正義が示した道の先には、なにがあるの……?

(問いを投げた彼女自身にもまた正義があり、その正義が示す道を歩んでいる。
 故に気がかりだった。 自らの世界では伝説であり、目標でもあった戦鍵者の言う「正義」とは、何か。)
[217] 安定と、平和を。
アイコン正面
ディラドゥア・クレイモア(czch7434) 2011-11-30(水) 09:15
(時間をゆがめる魔力の数々は自分もよく感じている。
 相手の時止めに対するカウンターの発動も魔力としては感じていた。
 己の魔法が使えないだけだ。感じることもできないわけではない。
 それに、戦略的観点からすればカウンターは問題にならない。
 準備のための時間稼ぎ。止め返しでなければ戦略には何も問題はないのだ。
 相手の返礼を見れば、動きに対する答えは自然と出る。
 男の表情からは、笑みが自然と溢れていた。計算の範囲内であるのだと。

 葬送の風が弾け、火花を散らす。『守護の聖杯』により守られた相手。
 魔道具の破壊効果による結界はしばらく放置を決め込んだ。
 一方的攻撃を可能にする類の結界でないと中身が早々に割れたからだ。
 魔力の流れを読めばそれは知れる。
 動けない相手を直ぐに潰す必要は、無い。
 ある種の割り切りが、戦場では己の身を助けるのはよく知っていたから。

 そして、矢と体を入れ替えた相手、後方に飛ぶ声と、己に進む矢。
 翼を撃ち落さんと狙うその翼に男はひとつの回答を下す。
 それは、首飾りに眠る一つの力を頼りにした、荒技。
 正面の結界を蹴り、強化された肉体を利用しての宙返り。
 くるりと体が宙に受けば、逆転する視界の中にその射手は収まる。
 収まれば、あとはしめたものだ。体を捻り、宙に対して立てばいい。
 『空間に対して立つこと』を、男は首輪の力で許されている。
 魔力が使えなくなる分、補助魔術はすでにあるものとして。
 一瞬覗く笑みに、恐怖さえ呼び起こされるような錯覚があるのは、
 気のせいだろうか。)

……つ か ま え た 。

(嗜虐の笑みがこぼれる。射手に対し、一気に翼を使い、接近。
 そのまま一気に突き刺しに向かうこととしよう。
 うまく突き刺されば、串刺し(スケアクロウ)の出来上がりだ。
 敗北主義者の敗残兵の死骸を見るものほど、楽しいものはないのだから。

 相手の精神を蝕む魔曲の響き。
 それへの回答は男の仮面の力が答えそのものである。
 仮面の力。それは完全なる『抗魔法』(レジスト)。
 断続的に流れる魔力を仮面そのものは遮断、吸収によって力に変える。
 それは、呪歌と呼ばれる魔力の流れに対する一つの完全回答だった。

 そして、それに付随する問の答えを示すべく、魔術師は口を開く。)

安定、だろうね。
均衡そのものが、自分の求めた先、だったのさ。

(それは、覚醒する直前の苦しみ。
 そこにあるのが、その答えだったのだ。今だから、分かること。
 それを込めるかのような、一つのつぶやきだった。

 その一方。三度笠の男だ。
 男もまた、窮地の中に居た。相手に本性が割れている。
 それはある種の恐怖を刀に抱かせるには十二分に過ぎたのだ。
 しかし、それに対して示す答えもまた、持ち合わせているそれであった。
 一発、二発、三発……。銃声が木霊する。

 しかし、その銃声とて刀を折るには、未だ至らず。
 振り下ろされた刀は、有ったはずの背ではなく、刃が上を向いていた。
 たとえ魔術で構成されたそれであろうとも断ち切る抹殺の刃を上に。)

――奥義、『刃返し』。
……断ち切れると思うてか……魔性の刃……。

(男の瞬間の判断が、戦況を返す。
 敵は密着状態、こちらは刀。接近の手間は、省けている。
 刃が唸りを上げるには、そう時間を要することもない。)

――虎眼流奥義――『無双三段』

(男の目が魔性のそれを帯びる時、刃は魂を吹き込まれ。
 3つの太刀筋がほぼ同時にその従者へと襲い来るだろう。
 そのうちの一つはより鋭利に相手を抉るべく生み出された殺人の刃だ。
 叫びと唸りが同居する、刃の太刀筋。
 その先にあるのは、絶望への葬送曲にほかならない。)
[218] 平穏、ただそれだけを。
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042) 2011-12-11(日) 00:59
(射撃の従者、ソラルはこちらに背を向けている竜人の翼を狙う時には既に悟っていた。
 なんせ相手は数多の矢の雨を潜り抜け、瞬く間に目前へ迫ってくるほどの速度の持ち主。
 射撃の腕に特化した使い魔である誇りあれど、今回は自身の腕の未熟さを思い知る結果になると。)

『こ、これじゃシーファ兄ちゃんに叱られる……!』

(結界へ迫る竜人を追ってボウガンを構え、結界を蹴って宙へ飛んだ先へ矢を向けてはいた。
 だが引き金を引く時間までは存在していなかったらしい、目前で宙に「立つ」竜が迫ると知った頃には。)

『……ッ!?』

(目前の相手に対し二分の一しかない小さな体が、竜の手によって貫かれていた。
 想像以上の痛みと、ぼやけた視界で見る嗜虐の笑みが幼い黒狼に刹那の死を予感させる。
 つかまえた、と、まるで鼠を捕らえた猫のように楽しげな様に対し、ソラルは精一杯の歪んだ笑みを返す。)

『……ソレ、こっちの台詞だよッ!』

 ――『破壊効果:破壊の咆哮』

(嘲る台詞の後、黒狼は自前の黒い毛皮に呪刻を浮かび上がらせながら、大きく開いた口から咆哮を上げる。
 使い魔もまた主の所持品とされる性質ゆえに、少しでも主の危機を減らすべく自身に破壊効果を付加させていた。
 咆哮の中より生み出された魔力は、死滅間際の彼にとって最期の隠し玉、衝撃の塊に触れる全てを押し潰す。
 けれど第三従者のソラル・アウローラは一撃の行く末を見届けることなく、活動限界を迎えたその身を消失させていた。)


(ソラルが消失したことにより、魔導師と竪琴の従者を囲っていた三角形の一角が滅んだ。
 それにより点が二つになった結界は直線の壁のみとなり、ソラルが関与していた他二面の結界は消える。
 この瞬間より、戦鍵者の攻撃対象に加えられるであろう魔導師はそっと席を立ち、ソラルがいた宙を見上げた。)

 ……『撤退禁止域』、やはり使い魔にも適応されるのね。

(四重奏の一角を失った魔導師の表情に影が差した頃、聖杯結界に護られていた白猫が彼女の背後に現れる。
 片割れの『死』を悟ったのか、初めはどこかふわりとした穏やかな表情に、微かな恐怖の念を浮かばせる。
 そんな女性二人を庇うように前へ立つのは竪琴の従者。 その瞳は最早「教導官」ではなく「敵」を見るモノに変わっていた。)

 ……私が望んでいたものは平穏、この様な血を流す争いが行われないような世界。
 けどそれは子供の頃の夢……、そのような夢見たいな世界、築くのは限りなく難しいことは分かってる。
 それでも……せめて、剣持つ必要の無い人が、本当に剣を必要としない世の中にしたいと想っているわ。
 私はその為の「戦の鍵束」でありたいと、そう思うから……。

 ――『戦衣装の招来』
 ――『魔笛ヴォルターナ』

(手にした黒の魔笛を構えると当時、彼女が纏っていたネグリジェの形は歪み、消える。
 代わりに身にまとうのは薄く淡い青の魔道服、風になびくマントの色は青空を思わせる色合いで、「戦の鍵束」の象徴とも言うべき鍵の紋章が刻まれたそれだった。)

 『戦の鍵束』が一人。
 『一つきりの歌』、またの名を『奏の竜姫』……ドミナ・アウローラの名にかけて……この地を、制圧します。

 ――『呪歌:竜語魔術』
 >>>『抗魔干渉(破壊)』

(凛とした宣言の後、呪歌使いの魔導師はそっと口を開く。 狭き鳥かごの中を満たす歌声は人の言語でも、失われた精霊の言葉でもない、『赤き夜空』……異界より現れた竜が彼女の残した言葉。
 この言葉が彼女に齎したものは、上層局員のそれを上回るほどの膨大な魔力の恩恵……、それを得た故に、こうして逃れることの出来ない戦いに巻き込まれてしまったけれど。
 今はそれを嘆くときではない、と自身を奮立たせるように唄う。 誰かが剣を取らねば、剣のない人々を護ることなど出来ないのだからと。

 紡がれる歌声は、先ほどから竪琴の旋律を吸収し続ける仮面に対する回答。
 『抗魔法』、それは最早シーファの力ではかき消せないと悟った彼女は『逸脱者(イレギュラー)』たる自身の力を持って消去しに掛かった。)

『レイミ、アイツをドミナに近寄らせるな!』
『うんっ、 ……ソラルちゃんのぶんまで、がんばる』

 ――『調音:鳥篭結界の音流』
 ――『戦歌:重装歩兵のファランクス』

 ――『サンダーストラック』
 ――『抗魔貫通:サンダーストラック』

(呪歌を唄う間、魔導師は己の防御が疎かになるが、それをカバーする為に4人の従者隊が存在する。
 竪琴の従者シーファが奏でる旋律は、一箇所に固まる自分達を包み込むかのような音流の元に効果を現した。
 重装歩兵のファランクス……旋律の元に生み出された数多の盾を、竜の鱗を思わせるほどに密集させ守護させる。

 魔術の従者レイミはその盾の内側から、対する教導者に目掛けて強力な雷を落とす。
 それに先程、主が竜の呪歌でこじ開けるであろう抗魔を貫く、対レジストの魔力を秘めた上で、幾つも、幾つも。)


(一方、その頃。
 計六つの弾丸を撃ち終えた毛むくじゃらな従者長は、銃口の先から消えた刃を視界に捉えていた。
 己の上に翳された魔性の刃は描く三つの太刀筋、うち一つは確実に殺しに来ていると分かれば既に行動していた。

 銃身をくるりと回し、グリップの部分を天へと向ける。
 それを殺人の刃へ繰り上げて、グリップで受け止める構えに入った。
 無視を決め込んだその他の二つ刃を身に受け、両肩から血が吹き出て灰色の毛を赤に染める。)

『やはり侮れぬお相手ですな、ご接待のし甲斐があると言うもの』

(そんな軽口を零す間、自身の危機と三番従者が討ち取られた事実を悟る。
 特に後者の事実は受け入れがたがった、自身が統率していた結界が剥がされ主が攻撃に晒されることを意味するから。
 主が戦いに赴く姿勢を見せたことには悦びを感じたが、近接に特化した相手では、相性が悪過ぎる。
 そういった相手に瞬間的な死を見せ付けられようモノならば、彼女はどうなるか……想像するのが苦しい。

 ともかく、この場の自身に出来ることは一つだけ。
 自身とすれ違った教導官に従い刃を振るうこの男を、主の下へ行かせぬことだ。
 自分が倒されれば、主の敵に刀の男が加わることは必然。 そうなればシーファの結界では最早凌ぎきれない。)

『……ではもう暫く、私めと時を共にして頂きましょう。 我が主は、教導官様のお相手にお忙しいので』

 ――『瞬転の靴』
 ――『銃技:リフレクトレイン』
 ――『破滅の咆哮:構え』

(栄光の鈴を持つ猫の使い魔と同等の靴のかかとで地を叩けば、その身は3m後方へと瞬間移動。
 その直後に拳銃を持ち直し、それを四方八方へと振り回しながら引き金を引き弾幕を生み出す。
 けれど乱雑に飛ばされた弾丸は、彼の生み出す瞬間的な結界に当たり兆弾、行き着く先が男の持つ刀に辿り付く様導いていく。

 そのうちで、密かに自身の腹の内に魔力を溜めておく。 かの敵に、妖精の番犬の名に相応しい獣の咆哮を振りかざす為。)

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螺旋特急ロストレイル

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