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虎京劇(リエ・フーの演武)
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| リエ・フー(cfrd1035) 2011-12-01(木) 10:08 |
眼下には遥か彼方まで連なる緑翠の稜線、大自然が覇を唱える雄大な眺望。
虚空に設けられたのはロストレイルの超重力で生み出された不安定な足場。さながら空中楼閣と化したその線路の中央に、年端もいかぬ少年が落ち着き払って歩み出る。
癖の強い黒髪、未だ熟しきらぬ華奢な体躯。 あどけない容貌には不釣り合いに老成した光を宿す黄金の眼光が、彼が閲した歳月が見た目相応ではないと暗喩する。
どこか危うい色香と精悍さとが不思議と溶け合った少年だった。
少年の名はリエ・フー。 昭和初頭上海出身のコンダクターである。
今、線路上に降り立った少年は、いつもの簡素な人民服ではなく漆黒の長衫を羽織っている。 中国では晴れ着や礼服とされ、正式な場や祝賀の催しに着ていく衣装だ。
少年のそばには供であり友である、フォックスフォームセクタンが付き従う。
「-行くぜ、楊貴妃」
傾城の美姫の誉れ名を冠したセクタンを呼ぶ。 満を持し、演武の幕開けだ。
それは唐突だった。 リエの姿が観衆の眼前から消失する。 しかしそれは目の錯覚、動きの素早さに動体視力が追いつかなかったが故の錯視。 鍛え抜かれた瞬発力と反射神経をいかんなく発揮し、地面すれすれまで屈んだリエが、長衫の裾を剃刀の如く翻し伸び上がる。
京劇の基礎にのっとった舞踊を、柔軟かつ大胆な発想でもって発展させた演武。
放埓に奔放に舞踏のような武闘を演じ、武闘のような舞踏で魅せる。
楊貴妃が吐いた火の玉が輪を描いて乱舞、虚空で無数に分裂、躍動感あふれるリエの振り付けを引き立てる。
黒い長衫に火の玉の朱が鮮烈に照り映える。
瞑目、気息を正す。
鳩尾に溜めた息を鋭く吐き、呼気に乗せて上段から蹴りを放ち、体勢が崩れる前に迅速に引き枕木に突いた手を軸に反転、側転、バク転の連続技。
『國破山河在』 国破れて山河在り
烈風を従え舞いながら口ずさむのは耳馴染んだ漢詩の一節。
見事な連続技に繋げたのち飛燕の如く後方跳躍、拳法を模した動作で掌底を撃ち出す。
詠唱は続く。
『城春草木深 感時花濺涙 恨別鳥驚心』
詠唱が響くごとに精神が澄んで研ぎ澄まされ、空気も浄められたような心地になる。
『烽火連三月 家書抵萬金 白頭掻更短 渾欲不勝簪』
体重の乗った中段蹴りから猫の如く身を捻り、回転の加速を殺さず
跳躍。
四肢が撓う。黒髪が舞う。 脈動する。拍動する。躍動する。
演武は最高潮に達する。 平生皮肉っぽい黄金の瞳がこの時ばかりは真剣な色味を帯び、鼓動と共に巡る覇気が身の内を熱く火照らせる。
その演武はまさしく彼の本名に由来する通りの激しさ、猛々しさでー……
『ー汝、虎の如く鋭くあれー』
長衫の裾と袖が風を孕んで激しくはためき捲れ、やがて静かに舞い降りる。
演武が、終わる。
「リエ・フー改め楊 虎鋭(ヤン・フールイ)の演武、これにて終劇だ」 |
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【審査結果】
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| 事務局(maaa0001) 2011-12-04(日) 00:32 |
翡翠の姫・エメルタ 「気迫を感じますね。あの異国の装束も目を引きます」 評価:★★★
蒼き雷鳴・ザクウ 「荒削りなところもある気がするが、動きにはキレがある」 評価:★★★
首狩り大将・オウガン 「なかなか威勢がよくていいんじゃないか?」 評価:★★★★
異端児・アドン 「まだ若いみたいだけど、すごいな……」 評価:★★★★
総合評価:14点(20点満点)
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