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[38] Ice sculptures (幸せの魔女の演武)
幸せの魔女(cyxm2318) 2011-12-02(金) 22:45
「私の名前は幸せの魔女。」

空中に敷かれた線路の上に堂々と出で立ち、名を高らかに宣言する。
いつもと変わらぬ白いドレスに、そのドレスの左腰にはドレスには不釣合いな…朱鞘に収められた小振りな剣が二振り。

「御機嫌よう、あまり幸せそうでは無い方々。」

そして審査員席に向かって笑顔で一礼。
余計な一言が後からついていっているが、本人は全く気にしない。
事実なのだから。
常に幸せに溢れている私から見れば、私以外のモノは不幸な存在でしかない。
その溢れんばかりの笑顔はそう自己主張していた。

「今の私はとても幸せなの。」

それは当然だ。私は幸せの魔女なのだから。

「…だから、その幸せを邪魔する奴は容赦なく始末するわ。」

それは必然だ。私は幸せの魔女なのだから。

目の前には、布に覆われた長方形の箱のようなものがひとつ。
縦長で、大の人間がすっぽり納まってしまう位の大きさがある。まるで立て掛けられた棺桶のようだ。

幸せの魔女は躊躇する事なく、被せられた布に手を掛けてそれを取り払う。
中から姿を現したのは巨大な氷の塊だった。
一体何処から持ってきたんだと言わんばかりの巨大な氷の塊が、日の光に当てられて表面が宝石のように輝いている。

今度は腰鞘に収められていた1本の剣を右手で引き抜き、軽く一振り。
残ったもう1本の剣を左手で引き抜き、軽く一払い。
その剣の刀身は真っ赤に燃えていた。
刀鍛冶が刀身を鍛える為に、鉄は熱い内に打ち付けるように、その刀身は今まさに"それ"の状態とも言うべきものだった。
『灼熱の剣』、高温の刃で敵を焼き斬る魔法の剣。
滅多に御目にかかれない宝剣だが、幸せを容易に見つけられる私にしてみればそれをたった二振り用意する事など造作もない事だ。

その高熱の刃を、そっと氷の塊に押し当てる。
ジュウゥーという水が蒸発する音とともに湧き上がる湯気。それは刃がいかに高熱を帯びているかを表していた。
刃を押し当てた箇所が綺麗さっぱりに削れているのを確認すると、幸せの魔女はフフッと軽く含み笑う。

「See well. Silly people. You can't understand my beauty!!」

声高らかに宣言し、2本の灼熱の剣を華麗に振り回して氷の塊と対峙する。
刃が空を切る度、あまりの高熱に空間が歪む。自慢の長い金髪は波打ち、お気に入りの白いドレスのスカートは風に揺蕩(たゆた)う。
カキン、カキンと、振り下ろす過程でぶつかり合った刃同士が激しい火花を散らした。

空を斬る事に飽きた刃が、今度は氷の塊へと振り下ろされる。
氷はいとも簡単に削られ、削がれ、幾重にも及ぶ輝く破片が空を舞う。
一振り、もう一振り、又一振り…。2刀からなる連撃は留まる事を知らず、ジルバを踊る恋人同士の如く忙しなく舞い続ける。
吹雪のように散り、飛び続ける破片の中で、幸せの魔女は笑う。きっと私のダンスの相手は舞い散る吹雪だ。
ならばどうやって丁重にお断りしようかしら。冷たい相手と冷めたダンスに興じる趣味はなくってよ。
…吹き荒ぶ氷の破片の数々は幸せの魔女に触れる事は無い。そのどれもが彼女を避け、遠巻きに逃げてゆく。
私はこの純白のドレスのように、決して穢れる事はない。何故なら、私は幸せの魔女だから。そして、その私が求めている幸せは…。

削られてゆく氷の塊が徐々に人の形に整形されていく。
あれは長い髪の毛だろうか、あれはドレスだろうか、…気が付けば、それがひとりの女性の形をしているのだと容易に想像出来た。

「How are you?」

吐き捨てるように呟き、今度はワルツのように緩やかに、小刻みに刃を突き続ける。
情熱を出し尽くし怠慢となった刃が、荒々しい氷の表面を優しく撫で、弄び、氷の人物は形成されつつあった。
あれは腕だ、あれは足だ、あれは胸だ、あれは模様だ、あれは瞳だ、あれは唇だ、…おぼろげな印象は、時間と共に鮮明なイメージへと変わる。

「I'm still happy. Witch of Unlucky.」

不幸の魔女…、そう名を冠されたその氷の彫像の完成に満足するように、2本の灼熱の剣を鞘に収める。
その氷の彫像の人物は、幸せの魔女によく似ていた。けれども、それは似て非なるもの。幸せの名を冠する資格は無い。
『不幸の魔女』。
せいぜい、お前には不幸がお似合いだ。何故ならそれがお前の名前だからだ。

「愛してる。」

そっと囁き、唇を奪う。

氷のように冷たい微笑を浮かべ、幸せの魔女は瞬く間に完成された氷の彫像と見つめ合う。
その瞳は最愛の人を哀れむ悲しみを、宿敵を忘れぬ憎悪を、後悔を、満足を、…いずれの感情を宿しているのか、それはきっと誰にもわからない。
しかし、それも束の間。クスクスと小さく笑い、幸せの魔女の顔は元の通りの幸せな微笑みを浮かべる。
まるで楽しい玩具を与えられて好奇心を抑えられない子供のように、氷の彫像を視線で愛でる。

そして…。

キィンッ!と一閃。
何処からとも無く現れた"幸せの剣"を横薙ぎに居合い、氷の彫像の首を刎ね飛ばした。
[55] 【審査結果】
事務局(maaa0001) 2011-12-04(日) 00:33
翡翠の姫・エメルタ
「氷を削って彫像にしてしまうなんて。驚くべき技です」
評価:★★★★

蒼き雷鳴・ザクウ
「美しいが、戦いには向かなさそうなあの衣裳で、よくあれほどの動きを……」
評価:★★★

首狩り大将・オウガン
「上品でしゅっとした姉ちゃんが多いよな」
評価:★★★

異端児・アドン
「見ていてちょっと寒くなる気がするな。氷だからっていうだけじゃなくて」
評価:★★

総合評価:12点(20点満点)

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