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【一葉の栞と一条の矢】 演武者:明日葉・ティアラ・アレン・上城弘和
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| 上城 弘和(cnvs6158) 2011-12-02(金) 23:16 |
ロストレイルのプラットフォームによって作られた円形の舞台に、荷物を持った三人が歩み出てきた。 まだ幼さをその容貌に残している少年を先頭に、若い女性とフレームレスの眼鏡を掛けた青年が続いて舞台の中央に進み出る。 持っていた荷物を置いてから、三名は横一列に並び、深々と礼をした。 「それでは、私たちの三名で演武をしたいと思います」 最初に口を開いたのは、フレームレスの眼鏡を掛けた青年、上城弘和であった。 「演武を行うのはこちらに控える少年、明日葉になります」 上城に紹介された明日場が一歩前に出て会釈する。その右側頭部からは赤黒い一本角のような瘤が伸びている。 「そして、助手を務めるのが、こちらの女性、ティアラ・アレン。進行役は私、上城弘和が務めさせて頂きます」 名前を呼ばれた時点で、ティアラも一歩前に進み出て会釈する。 「それでは、私たちの演武をお楽しみください」
すぐに弘和とティアラは袋から取り出した小道具を組み立て始め、明日葉は持ち込んだトラベルギアのまろばいの具合を確かめる。 そして、組み上がったものは、簡単なお手製の的であった。 「それでは、まずは肩慣らしでございます」 明日葉が的の正面に立つ。的までの距離30m。審査員席からは明日葉の姿が見えている。 明日葉がまろばいに矢を番え、構え、射る。 それは、気負った風もなく、無駄のない洗練された射の動きであった。 たん。と軽やかな音を立てて的の中央に矢が生えた。 「はい、見事に命中でございます! では、難易度を上げたいと思います」 弘和がティアラへと目配せをしながら、的から矢を引き抜いた。 「次は、明日葉には目隠しをした状態で的を狙ってもらいます」 ティアラは明日葉へと小走りに駆け寄った。 手に持った黒い布で明日葉の目を覆ってしっかりと結び付ける。 「大丈夫? キツかったら言ってね?」 「これくらいなら平気だ」 準備が出来たティアラは弘和へと手を振った。 「では、目隠しの準備ができたようです。本当に見えなくなっているかどうか怪しいと思われるかもしれませんが、そこは私たちをご信用ください」 そして、明日葉が射れば、先程と全く変わらず的の中央に矢が刺さった。 「はい、また見事に命中です。よろしければ、拍手のほどをお願い致します」 弘和は拍手を促すように審査員たちを振り返った。 「では、肩慣らしはここまで。これから明日葉の本領をご覧に入れましょう」 弘和は両手を大きく振って、二人に合図を送った。 ティアラは明日葉の目隠しを外すと、的の傍に立っている弘和の方へと小走りに近寄ってきた。 しかし、明日葉は的から離れるように走り出した。 走る、円形の舞台から飛び出し線路へと着地。 走る、分岐している線路を跳び移り、さらに遠くへ。 そして、トラベラーズノートに連絡が入った時点で足を止めた。 振り返れば、的は米粒のようであった。
「今、明日葉が居る場所は的から250mほど離れた場所でございます。明日葉には、あそこから矢を見事命中させてもらいましょう」 「姿が見えないほどの離れた場所から矢を命中させたら凄いでしょう?」 明日葉と的の距離を真眼で計測した弘和に、ティアラが付け加えた。 「矢を射るタイミングは、私の目でお教えしますので、命中の瞬間をお見逃しなく」 弘和の両目は青く染まっていた。
明日葉はまろばいの弦を調整し、張りの強さを確認していた。 「良し」 自分の望む張り具合になったまろばいに満足そうな笑みを小さく浮かべた。 そして、数回深呼吸を繰り返してから、おもむろに明日葉は瘤を握り潰した。 僅かに走るの頭痛と息苦しさ。 いつもの感覚が過ぎれば、明日葉の五感は冴え渡り、世界が広がる。 的へ目を向ければ、矢が刺さっていた穴さえ解る。 矢を番えて、弦を引き絞る。 絶対に外さない、と強い想いをまろばいに込める。 ぎりり、ギアが明日葉の想いに応じて力を高めてくれる。 少年の筋力では届かない距離を超えて、矢を飛ばすために。
「来ますよ、的に注目してください!」 弘和が叫んだ瞬間、風を切り裂いて飛来した矢が的の中央を貫いて止まった。 「見事命中しました! 審査員の方々、拍手をよろしくお願い致します!」 弘和は矢に貫かれた的を指し示した。 「これにて演武は終了、としたいところですが、最後にもう一度だけ明日葉に頑張って頂きます」 「しかし、明日葉だけに頑張ってもらうのでは不公平になりますので、私、アレンと上城の両名も演武に加わりたいと思います」 ティアラが荷物から持ち出してきたのは大量の白い栞であった。 「これから明日葉には、この栞の中の一枚を狙い撃ちしてもらいます。もちろん、全て同じ色をしていたら、どれを狙ったものか解りませんよね」 ティアラは栞の山から一枚だけ指で挟んで取り出して、そっと自分の口元に近付けた。 「赤く色付け」 ふっと息を吹きかけた場所から、栞が赤く染まった。 「そこで、この無数にある栞の中から、この赤い栞だけを射抜いてもらいますね」 ティアラは悪戯っぽく微笑んだ。その横で、弘和は的を新しく変え終えていた。 「それでは、これから私とアレンの両名で栞をかき混ぜたいと思います」 背広の内ポケットから出した護符を大量の栞の上に置いて、弘和は印を結んだ。 「湧き起これ、風よ」 弘和の術によって吹き出す風に巻き上げられ、大量の栞がくるくると空中で踊り出す。 その中へ、ティアラは赤いを栞を放り込めば、赤はすぐに白へと埋もれてしまう。 「栞よ、栞よ! 我が意志を受け舞い踊れ!」 ティアラが両手を翳せば、吹き上がるだけだった栞に流れが生まれる。 的を中心にした球状に栞が舞い踊る。弘和の術にティアラの魔法を合せて栞の動きを制御する。 紙吹雪ならぬ栞吹雪の完成であった。 目まぐるしく飛び回る白色の中に、時折赤色が掠める。 「さあ、この動き回る栞の中から、見事赤い栞を射抜くことができるでしょうか?」 「最後は、私からの合図は無しにさせてもらいますので、目を凝らしてよーく見ていてください」
的の周囲で何かが飛び回っているのが明日葉に見えた。 打合せ通りに準備ができたようである。あの中から赤い栞だけを狙うのが明日葉の最後の仕事だ。 目を閉じて深く呼吸をして、心を落ち着ける。 そして、明日葉は再び瘤を握り潰した。 僅かに走る頭痛と息苦しさは、一度目よりも強くなっているような気がする。 それを気のせいだとやり過ごして、明日葉はゆっくりと目を開いた。 的の周囲を旋回する大量の栞が解る。目を凝らしていれば、時折赤い色が走る。 その赤だけに意識を集中させる。 目を細め、呼吸は深く、意識は絞る。 広がった世界を細く深く絞り、自分と獲物だけの世界を作り出す。 目は赤を見。耳は音を聞き。指は弦を絞り。鼻は息を吸い。口は息を出す。 自分と赤に必要なものだけを残して、全てを集中していく。 (狩りと同じように、行く先を狙うんだ) 与えられた仕事は全力でやり遂る。自分の在り方は行動で示してみせる。 (そのための力なら、ここに在る!) 明日葉の信念にまろばいが応える。少年の体に再び力が篭る。 ぎりりり。まろばいの弦が限界まで引き絞られるが、明日葉の体は微動だにしなかった。 求める瞬間を待ち、明日葉は狙いを定める。耳元で静かに脈打つ鼓動が聞こえている。 そして、赤い色が浮き出た刹那、明日葉は矢を放った。
空を裂いて飛来した矢が、再び的を貫いた。 それに合せて、飛び回っていた無数の栞が一斉に地面へと落ちた。 矢は的の中央を貫いてはおらず。そして、的を突き出したその矢じりには何も付いていなかった。 それを見た審査員たちに失望したような空気が流れた。 「おや、ここは拍手だと思いますよ」 弘和は的に手を掛けて、審査員たちが良く見えるようにと向きを変えた。 すると、そこに赤い栞があった。 的の裏へと突き抜けた矢じりを通り越し貫かれた赤い栞は、矢の軸で的の表の部分に張付けられていたのであった。 「ご覧のように見事に成功でございます!」 ティアラは的を取り外すと、審査員たちに見せて回った。 「それでは、これにて私たちの演武は終了とさせてもらいます。少しでも楽しんで頂けたならば幸いでございます」 的を持ったティアラが弘和の元へと戻り、二人は姿勢良く立ち、深々とお辞儀をした。 そして、顔を上げた弘和は、数枚の名刺をゆっくりと空へと放り投げた。 何事かと見上げた審査員たちの前で、名刺は派手な火花を散らして花火のように爆発した。 驚いた審査員たちが二人へと目を戻せば、そこにはもう誰もいなかった。
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お疲れ様でした。
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| 上城 弘和(cnvs6158) 2011-12-02(金) 23:25 |
いやはや、どうにか上手く行きましたね。 こう言うとまるで私も演武をしたように聞えてしまうのは心苦しいですね。
>明日葉さん お疲れ様でした。 明日葉さんがいなければ成立しなかった演武ですからね。いや、本当にありがとうございます。
>アレンさん ご協力ありがとうございました。 最後の栞のコントロールはアレンさんがいなければ、扇風機で紙吹雪を飛ばしてる状態にしかできなかったと思います。
お二人ともご協力ありがとうございました。
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NPCをお貸しくださいました四月一日WR、鴇家WR、本当にありがとうございました! お借りしたのに、時間が作れずほぼぶっつけ本番で行ってます。おそらく絶対にあるだろう誤字脱字の指摘があれば遠慮なくぶつけてくださまし! 青田の方でも気づき次第こっそり修正掛けていきます。
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【審査結果】
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| 事務局(maaa0001) 2011-12-04(日) 00:34 |
翡翠の姫・エメルタ 「弓なら私も得意ですがここまで正確には射てません。見事だと思います」 評価:★★★
蒼き雷鳴・ザクウ 「よい腕だ。弓は技量もさる事ながら心のありようも映じるものだからな」 評価:★★★
首狩り大将・オウガン 「面白かったぞ。もっとガーッて感じでもよかったよな」 評価:★★
異端児・アドン 「すごいな。どれだけ練習すればあれくらいになれるんだろう」 評価:★★★
総合評価:11点(20点満点)
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お疲れ様でした!
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| ティアラ・アレン(cytz1563) 2011-12-04(日) 02:21 |
弘和さんも明日葉さんもお疲れ様! ちょっと緊張したけど、何とかなって良かったわ。
審査員の皆さんもありがとうございます! 楽しんでもらえたようで良かった。 |
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