昔は鉄と炎だけが己の全てだった
物覚えが付いて初めて手にしたのは、玩具ではなく槌。気がついたら、ごく自然に 鍛冶修行をやっていた。 何の疑問も抱かなかった。 父や祖父の修行は厳しかったけど…諦めるなんて、辞めるなんて考えもしなかった。 だって、僕にとってはそれが当たり前。普通の日常生活。 数々の名品を作り続けてきた父や祖父、御先祖様の事は凄く尊敬してるけど… 目標にしてるかと聞かれたら、正直言うと分からない。 僕は唯、僕自身であり続けたいだけ。目の前の鉄を叩き続けるだけ。 何も考えない。何の感情も抱けない。 祖父は、それでは駄目だって言うけど…僕には良く分からなかった。
…だけど…彼女が僕の事を変えてくれた
彼女が工房に訪れたあの日。 父さんが鍛冶場から僕を呼び出して彼女に僕の事を紹介してくれて、 僕の中に新しいものが生まれた。 鉄と炎しか知らなかった僕に、彼女は人の暖かさを教えてくれた。 僕は彼女の力になりたくて。最高の武器を作ってあげたくて、必死に頑張った。 どれだけ頑張ったかは…必死になりすぎて、ちょっと覚えていない。 だけど、父さんと爺ちゃんは認めてくれた。 ヨソギの名を名乗ってもいいって。一族始まって以来の快挙だって。 僕は良く分からない。 だけど、今は誰かの為に鍛冶仕事をしたいんだって事は分かる。
今日も僕は、誰かの為に鋼鉄を鍛える だって、それが僕の全てだから |