記録者:蜘蛛の魔女
私の名前は蜘蛛の魔女。 蜘蛛を操り、蜘蛛を使役する事が出来る。
この前、蛇の魔女に馬鹿にされた。 「お前は蜘蛛の魔女を名乗ってるクセに蜘蛛の血を引いてないんだってな」って。 大きなお世話である。 うっとおしいので無視してたら「生きてて恥ずかしくないのか、蜘蛛の魔女もどき」とさらに悪口を言ってきた。 さすがにこれにはムカついた。ぶち殺してやろうと戦いを挑んだが、結果は惨敗だった。 肝心の蜘蛛たちは全く役に立たず、奴に一匹残らず食べられてしまった。 歯が立たないと思って逃げ出したのだが、その際に今度は私の右腕を食べられてしまった。 今も痛い。血は止まったが、失われた右腕は二度と私の元へは戻らないだろう。
悔しい…。思い出したら悔しさと情けなさで涙が出てきた。 幸い、家にはタイプライターがあったので、左腕だけでも文字を打つ事ができる。便利な世の中になったものだ。 今これを書いているのは単に日記をつける為ではない。 この蜘蛛の魔女様の偉大な計画を実行し、これを後世に伝える為である。
この前、面白い本を読んだ。「異種交配の書」だ。 その本によると、どうやら私達魔女は異なる種族の生き物と交配を重ねる事で、その種族の子を宿す事が出来るらしい。 原理はわからない。体質じゃないかな、とその本には書かれてあった。 もしこれが本当であれば、蛇の魔女が蛇の遺伝子を持っているように、私も蜘蛛の遺伝子を身体に取り込む事が可能かも知れない。 試してみる価値はある…。 私はこれから蜘蛛と交わり、蜘蛛の子を生み出そうと思う。 願わくば…その子が私の名を受け継ぎ、蜘蛛の魔女の名を確固たるものにしてくれる事を。 私の無念を晴らしてくれる事を心から期待するものである。
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記録者:2代目蜘蛛の魔女
私の名前は蜘蛛の魔女。 先代の意思を受け継ぎ、新たなる蜘蛛の魔女としての名を与えられ、この世に生を受けた。
無念の死を遂げた先代の記録を読んだ。どうやら異種交配を実行して、その結果として生まれてきたのがこの私らしい。 何ともハタ迷惑な話だが、蜘蛛の魔女の名を受け継いだ以上はその名に相応しい一生を送らねばならぬだろう。 しかし、どうしたものか…。確かに私の身体には蜘蛛の遺伝子は宿ってはいるだろうが、まだまだ不完全だ。 蜘蛛を操ったり使役したりは出来るものの、それだけでは先代と何も変わらない。蜘蛛の血を受け継いだ意味がない。
そこで私は考えた。「なら蜘蛛の遺伝子をより濃く受け継いでいけばいいんじゃないか」と。 恐らく、普通の蜘蛛と普通に交配を重ねただけでは駄目だ。遺伝子の結び付きを強くするには強力な蜘蛛の遺伝子を宿さねばならない。 強力な蜘蛛…、心当たりはあるが、あれは私の手に負えるような代物ではない。あんなのと交配をしろと言うのか。 そうなると私の身体も無事では済まないだろう。だが、生まれてくる子は私以上に蜘蛛の血を濃くした強力な存在となるのは間違いない。
短い生涯だった。 しかし、それが私の存在意義であり、使命なのだ。悔いはない。 願わくば、次に生まれてくる子が私の意志を受け継ぎ、蜘蛛の魔女の名を確固たるものにしてくれる事を。
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記録者:3代目蜘蛛の魔女
私の名前は蜘蛛の魔女。 先代の意思を受け継ぎ、新たなる蜘蛛の魔女としての名を与えられ…る筈だった。
先代の記録を読んだ。そして、私は先代を心から恨んだ。 今の私はもう魔女と呼べる生き物ではない。只の蜘蛛の化け物に成り下がってしまった。 蜘蛛の遺伝子を色濃く受け継ぎ過ぎたのだ…。今の私の身体はお気に入りのドレスを着られなくなってしまった位に歪みに歪みきっている。 もうじき、私は蜘蛛の遺伝子に完全に支配され、魔女の名を捨てなければならないだろう。 これも全て先代とその先代の蜘蛛の魔女のせいだ。私の華麗なる一生を台無しにしやがって。
しかし、このままでは終わらない。意識を保てる今の内に、私は私の出来る限りの事をするつもりだ。 …そう、異種交配だ。 誰でもいい。とりあえずは適当に見かけた魔女と交配を重ね、私の子をそいつに宿すのだ。 私は私ではなくなるが、その生まれくる子が私の名前を…蜘蛛の魔女の名を継いでくれればそれでいい。 願わくば、次に生まれてくる子が私の意志を受け継ぎ、蜘蛛の魔女の名を確固たるものにしてくれる事を。
さて…、私はこれから何て名乗ればいいのかな。アルケニーなんてどうだろうか。
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記録者:4代目蜘蛛の魔女
私の名前は蜘蛛の魔女らしい。 先代の記録を読み、私は私自身の本当の生い立ちを知った。
私は大地の魔女を親として生まれた。大地の魔女は、私を産んで間もなく衰弱死した。 そこで私は大地の魔女を名乗り、大地の魔女としての生を謳歌していたが、偶然立ち寄った家でこの記録を発見して自らの存在意義を悟った。 私の本当の名前は蜘蛛の魔女。先代達の意思を受け継ぎ、今ここにいる。
しかし、私はもう愚かなる先代達と同じ過ちは繰り返すまい。異種交配とは、そもそも単に交配を重ねればいいものではない。 無意味な交配は無意味な命しか生み出さない。無意味な命は無意味な行動を繰り返すばかりで無意味な一生を送るだけだ。 私は違う。賢い私はそんな無意味な生涯は送らない。折角この世に生まれてきたからには、自分の為に生涯を送るべきであろう。 これを先代の蜘蛛の魔女が聞いたら怒るだろうなぁ…。でも、仕方がない。
さて、これから何をしようかな。とりあえず美味しいものが食べたいな。 最近はロクに食べてなかったからお腹もペコペコだ。パインサラダなんてどうだろう。 …でも、おかしいな。私のお腹、ペコペコな筈なのに何でこんなに膨れてるんだろう。
あれ?今私のお腹がかすかに動いたような気がすr
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記録者:5代目蜘蛛の魔女
私の名前は蜘蛛の魔女。 「蜘蛛」の名と遺伝子を正当に受け継いだ誇り高き魔女である。
私を生んだ先代の蜘蛛の魔女は死んだ。いや、半分は大地の魔女だったらしいけど。詳しい事はよくわかんない。 先代はお腹が壮絶に張り裂けて死んでいた。どうやら私はここから生まれたらしい。 このまま放っておくのも勿体無いから食べた。美味かった。
そして、この記録を読んで全てを把握した。私の名前は蜘蛛の魔女で、先代達の苦労の甲斐あって私が生まれた。 見よ、私のこの美しい体を。背中から生えた8本の蜘蛛の脚は、蜘蛛の魔女が蜘蛛の遺伝子を完全に支配した証である。 最初はうまく動いてくれなかったが、今では私の思った通りに動いてくれる。この蜘蛛の脚はもう私だけのものだ。
見よ、この体から溢れんばかりの魔力を。私は蜘蛛の遺伝子を持ちながら、魔女を名乗る事を許されたのだ。 私は蜘蛛の魔女もどきでも蜘蛛の化け物でもない。私の名前は「蜘蛛の魔女」だ。 私は恵まれている。何の苦労もなしにこんな強大な力を持ってこの世に生まれてくる事が出来るだなんて。 これで無念を抱いてこの世を去った先代達も浮かばれる事だろう。感謝感謝。
さて。まずは何をしようか。 とりあえずは私こそが最強の魔女である事を証明する為に、そこらにいる弱っちい魔女連中でも虐めて遊ぼうかな。 お腹も空いたし、たくさん食べなきゃねぇ。
あっ、この記録書も私が持っておこう。もうこの記録書がこれ以上加筆される事はないだろうし。 これから新たに作ってやろうじゃないの。私の伝説の記録書ってやつをさ。キキキキキ! |