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[52] 無限のコロッセオ 在り得た可能性の一幕
「んだよ!笑いたければ笑えぇ!」
桐島 怜生(cpyt4647) 2012-12-18(火) 00:17
「視察上等、図書館ロストナンバーの実力見せつけちゃる!」
怜生は両手に装備したギアを打ち鳴らした。
「リュカオスさん、遠慮しないでどーんと強敵イッちゃってー!どんな相手だろうと俺が倒してみせる!」
天を指差しながらコロッセオで怜生は叫んだ。


―――――――その10分くらい後。


「ぎぃやああ!」
「ガォオオ!」
コロッセオに悲鳴と咆哮が響いた。必死に走る怜生を追いかけて、次々と赤い火柱が上がる。
「馬鹿じゃねぇの!馬鹿じぇねぇの!馬鹿じぇねぇの!強敵にも程があんだろ!!」
逃げる怜生に次々と火球を飛ばしているのは真紅の竜だ。手の平サイズなんて可愛いものでなく鱗も立派な巨大サイズだ。
「こういうのはどっかのドラケモ好きに回せぇぇ!」
次々と襲いかかる火の玉が途切れた。
速度を落とした怜生が振り返ると、竜はその口から赤々とした炎を吐き出した。
「デスヨネェェー!!」
怜生が気合いを入れて再び走り出す。吐き出される火炎がコロッセオの地面を嘗めながら押し迫る。
「長い長い!どんだけ吐くんだぁぁ!なんかチリチリすんだけどぉ!?」
怜生が足下でギアの気弾を爆発させる。その爆風と衝撃に押された怜生の体が一気に加速して飛び出す。
「ふぬぁ!!」
炎を振り切った空中で体の向きを変える。そのままコロッセオの壁面にぶつかるように体を止めた。
炎を吐き尽くした竜は再び青い火の玉を吐き出す。それを怜生はギアの気弾で撃ち落とす。
ギアの連射性は竜のそれを上回り迎撃の合間を縫って竜に気弾が命中する。しかし、竜にひるむ様子は全くない。
(敵の攻撃食らえば即死。こっちの攻撃はノーダメ。攻撃、防御、スタミナ、全部向こうが遙か上って無理ゲにも程があるだろ。相手がそんなに動かないってのがまだ救いだけども!こんなの同じ竜である清闇さん呼ぶしかなくね?!)
赤い火の玉を吐き出したのを見た怜生が再び走り出す。その後ろで赤い火柱が噴き上がった。
(青玉が通常、赤玉は炸裂使用のちょいゲージ消費技。さっきのブレスが使用するとゲージがりがり削る大技って感じか)
「おら、どうした!威勢がよいのは最初だけかー!」
「逃げてちゃ勝てねえぞ!」
「死ぬ気で一発かましてみせろー!」
逃げる怜生へと観客からの野次が飛ぶ。
「うっっさい!こっちは必死なんだかんね!!」
(とはいえ)
怜生が足を止めると、体を反転させて竜へと駆け出した。
「一発殴っとかないと気がすまねぇな!!」
怜生を狙い青い火の玉が次々に浴びせかけられる。それをギアの気弾の連射に任せて片っ端から迎撃する。
青い火の玉に紛れて赤い火が怜生の目に映る。反射的に危険と判断した怜生が赤い火の玉に気弾を集中させた。
(壊れねぇ!チッ、赤玉は避けるパターンにしても遠い。んが、やってやろうじゃんか!!)
不利な状況下で怜生の負けん気に火がつく。その闘志を糧にギアが力を生み出す。
飛び込み前転の要領で前方へと怜生はその体を投げ出した。
「ダイブ!」
両足のギアが気弾を爆発させる。その爆発力を利用して怜生は矢のように真っ直ぐに低く飛ぶ。
怜生の頭上を火の玉が次々と通り過ぎて、後方で火柱を上げる。しかし、竜まで距離はまだある。
そこで怜生は更に加速する。熱さで背がひりつくのを感じながら、再び足下で気弾を炸裂させた。
「第二エンジン点火!」
急激な加速で体の臓器が押し下げられるような感覚に襲われるも、怜生は歯を食いしばって耐えた。
さすがの竜も怜生の動きの急激な変化に対応しきれない。
竜の伸びた首の根本近くに、体当たりで怜生がぶつかった。
「オリャァァ!」
怜生の両手が目映い光を放つ。0距離からのギアの全力攻撃。轟音と体全体に感じる振動が怜生に手応えを伝える。
大きく揺れた竜の頭につられて、ぐらりとその巨体も揺れ動く。
「どうだぁ!0距離からの全力攻撃!」
成功の興奮がアドレナリンを大量に生み出し、怜生から気持ち悪さを忘れさせる。
怜生がにらみ付けたその先。竜の目は敵意に燃え盛っていた。
「あり?」
見れば、先ほど攻撃した箇所は多少焦げている程度。
「あ、あれー?も、ももも、もしかして、怒らせちゃっただけだったりー?」
「グルルル。ガオォォォ!!」
竜の返答は、地鳴りを起こすほどの怒りに満ちた雄叫びだった。
「ヒィィィ!!」
竜の怒号をまともに浴びた怜生は腰が抜けそうな恐怖を味わった。
(チ、チビるぞこれはぁ!?)
しかし、恐怖に震えている暇は怜生にはなかった。
竜が鋭い牙が並んだ口を開けば、その奥に真紅の炎が揺らめいていた。
「そらいかーん!」
向きも何も考えず怜生は空へとダイブした。
空へと撃ち上がった怜生と入れ替わるように真紅の火炎が雪崩込む。
ほっとしたのも束の間、空中の怜生へと竜が口を向ける。頭上に広がったコロッセオから炎の帯が迫るのが怜生の目に入った。
反射的に突き出した腕から気砲を放ち、真横へと体をスライドさせる。
しかし、竜も負けじと怜生を追って首を動かす。空へと吐き出される火炎の息を、UFOもかくやという動きで怜生は必死に避ける。
「ははは!いいぞ、兄ちゃん!」
「頑張って避けろー!」
野次に応える余裕もない、口を開こうものなら舌を噛む。さらに、無理矢理な方向転換とその度の加速が怜生をどんどん苦しめる。
(も、もうあかーん!!)
意識が飛びかかった頭に活を入れて、地面っぽい色をしている方へとどうにか体を撃ち出す。
「ぶるぁ!!」
どうにか四つん這いの体勢でコロッセオの地面に激突する。その衝撃で体全体が痺れた。
しかし、そんなことを気にする余裕は怜生にはなかった。
(せ、世界が回る!俺の三半規管のライフはもうマイナスよ!)
ぐるぐると回る視界の中に竜がいる。立ち上がろうと足掻くもまとも立っていることさえできなかった。
そこへ竜が赤い火の玉を吐き出す。
避けようと怜生は走り出す。つもりだったが、足がもつれて無様に転げた。
(ヤバイ、赤玉は壊せねぇ!直撃なしでも爆発で)
閃いた思いつきのまま怜生はギアへと意識を集中する。仰向けのままで弓に矢をつがえるイメージをする。応えたギアが放出する気を弓へと変化させる。
放たれた矢が赤い火の玉へと突き刺さると、赤い火の玉が火柱を上げて爆発した。
「よっしゃぁー、ビンゴ!爆発仕様なら風船みたいに針刺せば割れる!俺、天才!」
仰向けのまま怜生はガッツポーズを決める。
「ガオォォォ!」
吼えた竜が青い火の玉を次々と吐き出す。
「うわわわ!」
火の玉をギアで撃ち落としながら、よろよろと怜生は距離を取った。そこに追撃が来ない。
「およ?」
よく見れば竜は体で息をしている。
「竜が疲れてるぞー!」
「反撃のチャンスだ!兄ちゃん、イイとこ見せろー!」
(まぁ、そうなんだけどさ)
まず怜生はこっそりと股間に手を当てた。
(良かった。漏らしてない)
未だにしっかりとしない足下、疲れが溜まり出した体。
(赤玉、青玉は攻略できる。が、次に火吐かれたらアウト。ダイブで避ける体力はなし。当てにした攻撃は大して効果なし。あれ以上のは下準備必要。となると、攻めるにしても、生物共通の弱点っぽい目、鼻、耳、口ん中になる。けど、顔に近寄るのは自殺行為)
僅かな時間でも息を整えて体の調子の回復を図る。
(癪だけどここらが潮時かな。一発入れたんで良しとしとくか)
怜生はリュカオスへと降参宣言をしようと手を挙げた。
「ガオオオー!」
竜が力強い雄叫びとともに翼を羽ばたかせた。
「お?お、お、おおおおお!?」
驚いた怜生が動きを止めた僅かな合間に、コロッセオに暴風が吹き荒れた。
「ちょ!どんだけ!?風速おかしくない?!」
吹き飛ばされまいと前傾姿勢で怜生は暴風に耐える。
(羽ばたいてこんだけの風が起きるわけない!これだからファンタジー生物はぁ!降参するからいいもののこれでさらに火吐かれたら詰むじゃ)
その思いつきで怜生の心は一気に冷えた。
「ちょ、降参!降参!俺の負けで終了!」
しかし、怜生の叫びは暴風にかき消された。
「イヤぁぁ!?試合中の選手の声はもっと細かく拾ってぇぇ?!」
暴風の向こう側に小さな赤い光が灯るのを怜生は見た。
(あ、詰んだ)
怜生の脳裏に今までの人生が過った。
(結構好き勝手してきた人生だったなぁ。ってこれ走馬灯?!縁起でもねぇ!!律ならギアで火を斬れる、永光なら術で防げる、バのおっさんはどうにかできそう、ルイスとエイブラムはーーー、考える間が惜しい!ああもう、律のギアならイイのにぃ!俺のギアなんてたかが)
怜生は唾を飲み込んだ。
(あった。んが、ぶっつけ本番失敗は死ってどんだけハードなんだっての!)
緊張感に怜生の体にぶるりと震えが走る。
(しっかし、この感じ癖になりそ。やっべ)
怜生の顔に不敵な笑顔が浮かぶ。
少しずつ大きくなる赤い火を見据えてタイミングを見極める。極限状況下で、怜生の集中力が跳ね上がり意識が研ぎ澄まされる。
真紅の炎が怜生を飲み込む寸前、眼前に重ねた両手から巨大な気弾を膨らませる。しかし、炎に巻かれた気弾はほぼ一瞬でかき消される。
「アクセル全開!!」
同じ気弾が怒濤の勢いで連射される。泡のように膨らみ弾ける気弾が炎を受け止めて勢いを削ぐ。
右手のギアで高速連射、左手のギアで気弾の膨張。一瞬で壊れる盾だが、壊れるそばから新しい盾を用意する。そうすれば、炎を押し返せずとも、巻かれるまでいくらかの時間を稼げる。
その時間が竜の炎を吐く時間より長ければーー。
「んぎぃぃぃ!!」
決死の表情で歯を食いしばって怜生は堪え忍ぶ。視界を埋め尽くす真っ赤な炎とじりじりと狭くなる気弾の範囲が、怜生の精神を容赦なく削る。
(ヒィィィ!これ焼かれる前にSAN値0で発狂するぅぅ!!いっそひと思いに殺ってぇぇ!?律の前で子猫虐めるよりキツいぃぃ!?)
涙で滲む怜生の視界がいきなり開けた。そして、その先には大きく体で息をしている竜がいた。
(チャンス!)
連射を止めた怜生は熱気に包まれた。
「あっち!あっち!!夏の浜辺よりあっつい!!」
ぴょんぴょん跳ねながら焦げていない場所まで怜生は避難した。
「宣言通り今から倒してやんよ!」
着ていたパーカーを脱ぎ捨てると怜生は竜へ駆け出した。
火に巻かれた選手が生きていた事実にコロッセオの観客席から歓声が上がる。
ふらつく竜が青い火の玉を次々と怜生へ浴びせかけるも、気弾で相殺しながら怜生はどんどんと距離を詰める。
(これが最後の)
「ダイブ!」
急加速した怜生の体が矢のように飛び出す。
しかし、今度は竜の体にぶつかる直前、真下へと気弾を撃ち出し反動で真上へと跳ね上がる。
そして目の前にあった竜の首に手を掛ける。
「おらぁぁ!」
勢いのまま回転した体を無理矢理動かして竜の首に後ろから抱きついた。
「我慢比べじゃあ!!」
両手両足のギアが高速連射で気弾を炸裂させる。竜の首で炸裂する気弾の振動が竜の頭部に伝わり激しく揺さぶる。
「ギャオオオ!」
苦悶する竜が張り付いた怜生を剥がそうと首を振り回す。
「に゛に゛に゛に゛!」
振り飛ばされそうな体に必死に力を込めて、怜生は首にしがみついてなおも気弾を炸裂させ続ける。
暴れる竜に加え、ギアの気弾の衝撃はもちろん怜生にも響く。
(おごふっ、色んなもん吐き出して全部台無しにしそう!)
「グギャオオ!」
今までないほど首を真上に伸ばして竜が吠えた。すると、力を失った頭がぐらりと落ちるのに合わせて、その巨体も地響きを上げて倒れ込んだ。
硬直した体を無理に動かして怜生は倒れた竜の上に立ち上がった。
そして、頭上に拳を突き上げて高らかに宣言した。
「ギブアーーーップ!」
その意味を理解した観客席から一斉に大ブーイングが巻き起こる。
「うっさい!宣言通り倒したっての!こっちはもうヘトヘトで減らず口叩くだけでも辛いんだからな!」
「それで構わないのか?」
落ち着いたリュカオスの声が怜生に確認を求める。
「いいっていうか、むしろお願い。こっちはもう歩くのさえしんどいけど、竜は目を回しただけ。復活したら瞬殺されるのがオチでござんす」
「解った。この勝負、桐島怜生の負けとする!」
乗っていた竜の実体化が解除される。そうなれば、上に乗っていた人物はもちろん落下するわけであり。
「え?」
言った通りに歩くことさえままならぬ怜生は、受け身も取れず地面と激突し意識を飛ばした。
「医療班、回収を頼む」
リュカオスの要請を受けた医療班がコロッセオから怜生を回収していった。

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螺旋特急ロストレイル

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