«前へ
次へ»
[79] |
with you
|
| ハイユ・ティップラル(cxda9871) 2014-02-22(土) 00:18 |
「というわけで! 第1回ハイユさんのご奉仕を賭けて一発ギャグ大会の優勝はゼロちゃんです!」 「ええっ、なのですー」 トラベラーズカフェの一席で唐突に始まった勝負は、主催者にして景品であるハイユによって結果が告げられた。 優勝作品『ねこがねこんだ』のクオリティに一部がざわめく。するとハイユは目をぎらつかせて断言した。 「あたしが面白いと思ったんだからそれがジャスティス。文句のある奴は面白いギャグの定義を作ってから出直してこい。べ、別にゼロちゃんならメンテナンスフリーだから実質ご奉仕とかしなくていいんじゃね? とか思ってなんかないんだからね!」 「なのです?」 「さあゼロちゃん、とりあえず二人っきりになろうか。ご奉仕まみれにしてあげる」 ゼロはハイユの後をついて、とてとてとターミナルを歩く。 「どこに行くのです?」 「お嬢のチェンバー。学校って設定だからさ、とりあえずランドセル背負ってみて! 服はワンピースとか私服みたいなのでもいいけど制服もあるよ。革の地の色のランドセルに暗色系のブレザーとか合わせたらゼロちゃんの白さが際立つと思うんよね」 すでにご奉仕とはかけ離れていた。 「ハイユさんも同じ服を着るのです?」 上機嫌だったハイユの表情が一瞬だけ引きつる。 「ごめん、学生服はさすがにキツイわ。ああ、胸のサイズの話ね。年齢的にどうとかじゃなくて」 「年齢ならハイユさんはお母さんなのです」 「なんでだよ!? 学校なんだから先生にしとけよ! あとゼロちゃん8歳だから18歳の時の子の計算になるだろ! ヤンママか!」 「ハイユ先生がノリノリなのです」 「今、先生で認識してたよね?」 ゼロは元気よく手を挙げた。 「先生、ゼロは生徒として質問があるのです」 「専門分野は愛と家事だからその範囲でなら答えよう。何?」 「1+1がいつでもどこでも2になるのはどうしてなのですか?」 「あれ、あたしの話聞いてたかな? 明らかに愛でも家事でもないよね?」 「e^iπが-1になる理由でもいいのです」 「レベルがあがった!?」 ちゃららっちゃっちゃっちゃー、と短いファンファーレがどこかから聞こえてきた。 「ちなみにこれは虚数単位のiとハイユ先生の専門分野の愛をかけた上で『いーのあいぱいじょう』という響きがハイユさんぽいので聞いてみたのです」 ゼロはいたずらめいた可愛らしい笑顔を浮かべた。 「そんなフィーリングで出していい内容じゃねえよ」 今のハイユにゼロの笑顔を鑑賞する余裕はなかった。先生と生徒の甘い禁断シチュエーションが轟音を立てて崩れ去る。そっとトラベラーズノートを取り出し、 『お嬢、ゼロちゃんの通訳しろ。いーのあいぱいじょうがマイナス1って何?』 返信は早かった。 『状況が皆目不明。説明を求む』 『わかんないならそう書け』 今度の返信は更に早く、それでいて長かった。 『壱番世界で言うところのオイラーの等式だな。この式においてeは』 ハイユはノートを閉じた。シュマイトが通訳にならない事だけはわかった。 「ゼロちゃん。オイラーのことは忘れるんだ」 「ハイユ先生のことを忘れるのです?」 「何その唐突な基本への忠実さ? オイラなんて一人称使ったことないし」 「ところでハイユ先生、1+1は」 「えーとね。一人と一人が会っても二人のままで三人以上にはならない。つまり、百合薔薇異種族器物その他の子作りを含まない関係こそが真理なの……よ……」 自分のペースを取り戻せずしどろもどろのハイユにゼロは得心顔で返す。 「なるほどなのですー。ゼロは聞いたことがあるのです。結婚より同性愛の方が純粋という文化が壱番世界にはあるそうなのです」 「なんかすげえこと言い出した。さっきから言動が黒いと思ってたけど、まさかあんた、ゼロちゃんじゃなくて裏キャラのイーアールオー エロちゃん」 「ふっふっふ、そのまさかなのです」 闇が降り注いだ。ゼロの髪が、肌が、ドレスまでが黒く染め上げられる。その頭頂には黒のペンキの缶が逆さまになって乗っていた。 「すいませーん」 ペンキ塗りの男の声が頭上から飛んできた。 「言ってみただけなのに、本当に真っ黒けなのです?」 黒ペンキまみれになった自分の体をきょときょとと見回すゼロ。ハイユが目を不穏に輝かせてガッツポーズをした。 「ありがとうペンキ屋。学園とかもういいからウチに寄って服を洗濯して一緒にお風呂に入ろう!」 「ゼロはメンテナンスフリーなので放っておけば元通りになるのです」 ハイユの顔が悔恨にゆがむ。 「そうだった。それさっきあたしが言ったやつだった。むしろゼロちゃんにとってのご奉仕って何?」 「ゼロはお昼寝の時に添い寝してもらえればそれで充分なのです」 「はい復活スイッチ入りました! なんだよもー、なら最初からそのルートで良かったじゃん!」 「ハイユ先生、学校はお昼寝をするところではないとゼロは思うのです」 「学校の設定はもうええっちゅうねん」 使えもしない関西弁がなぜか滑り出す。 「とにかく! ゼロちゃんと添い寝してふにふにしたりぎゅーぎゅーしたりすればお互いハッピーになれるんだからぜひそうしたい」 「なのです。ハイユさんのおうちにGOGO!なのです」 「うちって言ってもあたしの専用スペースは屋敷の中の一部屋だけどね。あの部屋を愛の巣にしよう」 「お部屋なのです?」 「ああ、ほら、あたしお嬢の屋敷でメイドやってたじゃん? だから今もお嬢の屋敷に住んでるんよ」 「じゃあゼロもシュマイトさんのメイドさんになるのです?」 「後輩幼女メイド!」 「それはお断りせざるをえないのです」 「……なんで?」 ハイユのテンションに従順についてきていたはずのゼロが唐突に言う。 「ゼロのお仕事はまどろむことなのです。なのでメイドさんとの兼任は難しいのです」 「そんなことか。そんなの平気だって! どうせあたしの仕事だって昼寝が大半だしそもそもメイドじゃなくてあたしの個人的な愛玩用途でも」 「ハイユさんはもはや本当にメイドさんなのです?」 「これ以上ないほどにメイドさんだよ!」 「そうだな」 「そうだよ!」 「ところで当家のメイドよ。書庫の整理を手伝ってほしいのだが」 「うるさいな、今それどころじゃ……」 下方にずらして振り向いた視線の先には、これ以上ないほどに見慣れた顔がいた。 「なんだ、お嬢か。今忙しいから後にして」 シュマイトがギアの拳銃に手をやった。ハイユは不敵に微笑んでギアのナイフを引き抜き、構えた。 「お嬢、銃と剣が対決すると剣が勝つっていう漫画アニメあるある、聞いたことない?」 「残念ながら、ないな」 「けんかはだめなのですよー」 ゼロがその間合いにのんびりと入り込んだ。向き合ったハイユとシュマイトの視線がゼロに集中した。 「ところでハイユさん」 ゼロは頓着しなかった。 「ハイユさんは年齢性別種族その他一切を問わない愛の持ち主だとゼロは認識しているのです。なのにどうしてシュマイトさんとはらぶらぶしないのですか?」 「ゼロちゃんは全部わかってて聞いてくるからタチ悪いわ」 苦笑を浮かべてハイユは言った。ナイフを鞘に放り込んで「ねー、お嬢?」と笑いかける。シュマイトはやり場のなくなった手をぶらぶらとさせながら、 「いや、わたしは別に……」 「シュマイトさんはつんでれなのです?」 ゼロの首がこくりと傾く。 「それ否定ができない論理トラップじゃん」 「そ、それよりゼロ、その格好は何事かね?」 にやにやと笑っているハイユを前に、シュマイトが強引に話題を変えた。 「なんだよー。お嬢もゼロちゃんのお風呂シーンとか興味あるんじゃん」 「そんな事は一言も言っていないだろう!」 「あー、はいはい。要するにお嬢もゼロちゃんをお持ち帰りしたいんでしょ? あたしもだからそれでいいじゃんか」 「いいのですー。ゼロはシュマイトさんとハイユさんのおうちに一緒に行くのです」 「……その点に関しては異論はない」 渋々のていでシュマイトが頷いた。 三人で屋敷に向かった結果、書庫の整理がまったく進まなかった事は語るまでもない。代わりにロストレイル学園では「仮眠室」が設置されるなど、若干の進展があった。 |
[80] |
謝辞
|
| ハイユ・ティップラル(cxda9871) 2014-02-22(土) 00:18 |
シーアールシーゼロさん、ご出演ありがとうございました。 イーアールオーエロさんは実在しないロストナンバーです。 |
«前へ
次へ»