「こ……こっちきちゃめーーーーーーーー!!」 ゼシカ・ホーエンハイムが、動き出した戦車の前に飛び出す。 だが容赦なく、無人の兵器は音を立てて前進し―― 思わず目を閉じたゼシカを走りこんできた飛天 鴉刃が抱きかかえて戦車の進路から救出し、同時に高倉 霧人が魔力をまとわせた刃でキャタピラを穿つ。
「技術的に面白い仕組みもあったってのに、見学の邪魔しやがって……許さない、ッスよ?」 パワードスーツのゼノ・ソブレロが進み出て、走行車両に組み付く。 ロストナンバーたちが動き出した兵器に立ち向かう一方で、臣 雀は混乱する市民たちに向き直った。 「ここはあたしたちが食い止めるからそのうちに逃げて!」 「……さあみんな、ついてらっしゃい! ご心配には及ばないわ、これもセレモニーの一環だから。戦隊ショーみたいなもんよ」 ルッカ・マリンカがステッキを振りながら、避難誘導をはじめる。 脚をすくませたものたちは舞原 絵奈が抱えて運んだ。
「コノ暴走シテイル兵器ッテ…カンダータ軍ノ、所有物、ダヨネ…? 無闇二破壊スルノハ、止メテオイタ方ガ、良イカナ…?」 センサーで周囲の情報分析をしながら、幽太郎・AHI/MD-01Pがもっともなことを言ったが、言ったそばからPNGの発射したロケットランチャーが戦車の一台を豪快に大破させていた。 ……状況を収拾するためにやむをえなかったことにしよう。 大勢のロストナンバーたちがそれぞれの特殊能力を駆使して戦車隊に立ち向かう。
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「ヒャッホ――――――――札束ある――――――――!!」 「お札の掴み取り!? はっ、同類っ!?って何してんだよ!良い大人が、この緊急事態に恥ずかしくないのか!」 「悠々自適に親のすねかじってる未成年はすっこんでるね、これは労働と税金の値打ちを知る大人の戦い、そう、ここは十日で一割の利息が発生する流血のリング……チャンの金はチャンのもの、お前の金もチャンの金ーーーーーー!!」 地面に撒かれた金をめぐって、チャンと桐島 怜生が醜い争いを繰り広げていた。
「なにあの男?笑っているわ。しかも真理数がないっ」
ティリクティアの指摘に、チャンたちは我に返った。 「……チャンの嗅覚はごまかせないある、あのトランクの中には更なる大枚が眠ってるはずある! 誰かあの金ヅルもとい不審者を捕まえるあるーーーーー!!」 「解った!あの男の持ってるケースが金ヅルなんだな!」 「ああ、なるほど。ここで恩を売って今後1年カレー無料券フラグか! よし、私に任せとけ! なんか分からんけどスーツくんを捕獲すれば良いんだな!」 いつの間にか緋夏も加わっていた。
「そうか。わかった。……さっきの男、旅団のやつらしい。『金で買う』と宣言してものを支配する能力だってよ」 虎部 隆が、ノートから顔をあげて言った。ラス・アイシュメルの送ってきた情報だ。 「ティリクティア! 男の行く方向を予知できないか?」 「やってみるわ」 「それから、ここをどうするか……」 「ここにある戦車を 金塊とかスワロフスキーとか活アワビとか超高級品目でデコりまくったら、驚きプライスになって買い取り代が足りなくなって操れなくなるかもしれないのねー?」 マスカダイン・F・ 羽空が、ギアからわたがしを撃ち出しながら言った。 「それだ! 買われたんだったら買い戻す!」 虎部はポンポコフォームの毛をわしづかんでむしりはじめた。 「うおおおお! その戦車買い戻す! 全部は無理だけど一個くらいならどうだ!?」 真似マネーが宙に舞う。 ……止まった。一台の戦車の砲塔だけが止まったのだ。 「そ、それだけか……!?」 「じゅうぶんなのです」 頭上からの、声。 巨大化したシーアールシー ゼロが、ひょい、と砲塔の向きを変えると、だん!と一発の砲弾が発射された。
着弾――そして爆風! スーツの男がそのあおりをくらう。 「く……っ、どうして、全部買ったはずなのに……」 「待てぇ! カレー無料券1年分!」 土煙の向こうから緋夏が駆けてくる。 なんとか起き上がって、走り出す、男。しかし。 「っ!?」 男の脚を一本の矢が貫いたのだ。 コタロ・ムラタナがボウガンから放ったものだった。 もんどりうって倒れた男の体を、地を這うようにして集まった「影」が、拘束衣となって包み込んでゆく。鹿毛 ヒナタのわざだ。 「これはサービスな」 男を包み込んで視界も声も奪った影は、頭上でかわいいリボンの形になった。
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ラス・アイシュメルはネットワークへの侵入が行われた端末を特定したが、そこにいたらしい何者かはすでに立ち去ってしまっていたようだ。軍施設の端末からは、ラスのように能力のあるものが手順を踏めば、カンダータで手に入りうる情報ならなんでも調べられるだろう。誰が、何を知りたがったのだろうか。
捕縛されたのは、世界樹旅団のツーリスト「ミスター・バイヤー」と名乗る男だった。正確には、名乗ってはいないが、内ポケットに名刺があった。 目的などは黙秘しているが、ターミナルに連れ帰って尋問などをすることになるだろう。 ロストナンバーたちの尽力により、駐屯地において、人的な被害はなかった。兵器の何台かは大破してしまったが、市民に被害を出さなかったこと、原因が世界図書館にあるわけではないことから、問題にはならないだろう。
とりあえず、協力してくれた全員には、軍人カフェからカレーや、秘蔵の糧食がふるまわれたという。
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