その日、紫上緋穂の司書室に呼ばれたのは、セリカ・カミシロとスイート・ピーの二人だった。緋穂はいつもの様に明るくはあるが、どこか影を落とした様子で二人をソファに座らせて導きの書を繰る。「あのね、ヴォロスで竜刻が暴走するって事が導きの書に出たんだ。だからその竜刻を回収して、封印のタグを張ってほしいんだけど……」「だけど?」「何か問題でもあるの?」 言葉を濁した緋穂を、二人は不思議そうに眺める。すると緋穂は言いにくそうに口を開いた。「うん……話せば長いんだけどね、その竜刻はエマリアっていう少女の持っている指輪に付いているんだ。だから、この少女から譲ってもらうなりなんとか盗みだすなりしなくちゃならないよ。で、彼女なんだけど……」 緋穂は言葉を切って、導きの書を見て、また顔を上げた。「人里離れた山奥の小屋で一人で暮らしているよ」「なんで一人で暮らしているのぉ?」 甘いボイスでのスイートの問い。緋穂はそれがね、とちょっと困ったように微笑んで。「彼女、生まれつき特殊な体質で……好意を持って相手に触れると、その触れた部分を爆発物にしてしまうんだ。触れてすぐに爆発はしないんだけど、火気のある場所に近づくと……ボンッって。子供の頃は相手をやけどさせるくらいだったらしいんだけど……12歳を超えたあたりから、今みたいになったらしいよ」 生活上、火は必需品だ。火を使わないということは少ないはず。最初は原因不明の人体爆発として処理されたかもしれないけれど、数回続けばそうもいってられなくなるし、怪しまれるだろう。彼女自身が自分が原因だとはっきり気がついたのは、村で行われた祭の時。大勢の人に炊き出しの料理を配って周り、焚き火を囲んで踊った彼女。焚き火に近づくと彼女が触れた者達はボンッという音とともに手が爆発したり、肩が爆発して腕が落ちたり。 その祭りは阿鼻叫喚の地獄絵図となった。「それから彼女はね、一人で山奥で暮らしているんだよ。一人でいれば好意をもつこともなければ、誰かを傷つけることもない。だけど、自分はどんどん傷ついていったんだ。孤独に耐え切れなくなっちゃって……やがて自らの命を断ってしまう」 緋穂によれば、彼女が命を経つのと同時に指輪になっている竜刻が暴走するのだという。「だから、竜刻を回収して……出来ればエマリアさんの自殺を止めて欲しいの」 難しいかもしれないけど、と緋穂は呟く。 その時二人は、どこか重なる境遇を持っている自分を思い浮かべていた。 その少女とどこか重なる境遇を持つ二人は、何を思って依頼に臨むのか。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>セリカ・カミシロ(cmmh2120)スイート・ピー(cmmv3920)=========
エマリアの住むという山奥から離れた場所にその村はあった。そう、二人が最初に訪ねたのはエマリアの元ではなく、彼女が12歳まで過ごしていた村だった。 「スイート知ってる。独りぼっちは寒くて寂しい。エマリアちゃんの気持ちは痛い程わかる。スイートもずっと独りぼっちで……死ぬほど寂しかったから」 呟いたスイート・ピーの表情をじっと見つめていたセリカ・カミシロは、そっと彼女の手をとった。スイートが、凄く寂しそうな、痛そうな表情をしていたから。 「行きましょう」 きゅっと手を握って、引く。手袋越しだが伝わっているだろう、セリカの暖かさが。 二人はエマリアに指輪を送った幼馴染に会うつもりだった。出来れば、村人にも彼女をどう思っているのか聞くつもりだった。 「可愛らしい旅人さんだね。何もない村だけど……」 「エマリアを覚えてる?」 村の入口で声を掛けてきた男に尋ねると、彼はそれまでのにこやかな表情を崩してぎょっとした。その動揺は『知っている』といったも同じ事。しかしその様子からはとても二人が期待したような言動は得られそうになかった。 「い、今更なぜあんな子のことを……」 「エマリアちゃんのことをよく思っていないのなら、話はないの。時間がないから」 「スイート、あの人!」 詳しく語るのを断ったスイートに、辺りを見渡していたセリカが声をかけた。 セリカが指したのは、一人の少年だった。年の頃はセリカやスイート、エマリアと同じくらい。複雑な形をした木材を運んでいる。 「あれ、義手、かなぁ?」 「声をかけてみましょう」 二人は小走りで少年へと駆け寄った。すいません、声をかけると穏やかそうな少年はこんにちは、と返事を返してくれた。半袖から伸びた腕には数箇所、古い火傷の痕があった。 「エマリアって少女のこと、覚えてる?」 「!?」 セリカがその名を口にすると、少年は驚きの表情で固まった。 「知ってるみたいだねぇ」 「エマリアは……」 少年はゆっくりと表情を崩した。泣くのを我慢している、そんな表情に。 「……数年前に喧嘩別れしてしまった、僕の大切な幼馴染の名前です」 「アナタがエマリアちゃんに指輪をあげた幼馴染だよね?」 スイートの確認に、少年は頷いて、二人を村の広場にあるベンチへと導いた。 *-*-* ヴァロと名乗った少年は二人が祭での惨事とエマリアが村を出た事を知っていると話すと、驚いた。けれどもこの近隣では有名な話だからと納得したようだった。そして話して聞かせてくれた。幼馴染として何人かの子供達と村で一緒に育った二人は自然と惹かれ合ったという。指輪はごっこ遊びで結婚式ごっこをやった時に、こっそりヴァロが家から持ちだした指輪を使ったのだと。いつか本当の結婚式を挙げようね、そう誓って二人は仮初の結婚式を上げた。 だが、祭の直前。隣町から町長一家が遊びに来ることになって、その一人娘のエスコートをヴァロがすることになった。穏やかで優しく、そして村長の息子だからということで適任とされたのだったが、エマリアはヴァロと一緒に祭を楽しめると思っていたのでヤキモチを焼いてしまい……喧嘩にまで発展してしまった。町長一家が滞在している間、エマリアは彼と目も合わせないし口もきかなかったのだという。 「だからヴァロは無事なのね」 彼は火傷の痕こそはあれども彼の身体は大きな怪我の痕跡は見えなかった。 「僕は今、義手や義足を作る人の弟子をしています。少しでも、村の人が過ごしやすくなるように……エマリアが帰ってきやすくなるようにと思って」 彼は木でできた義手を軽く撫でて、そして遠い目をする。彼はエマリアがどこかで元気にしていてくれると信じているのだろうか。しかし彼女は……。セリカとスイートは顔を見合わせる。頷き合って、そしてスイートはヴァロへと視線を移した。 「アナタはエマリアちゃんの事どう思ってる? 怖い? バケモノ? 会いたくない?」 「……! エマリアの居場所を知っているんですか!?」 「知ってるよ。でも、教えるかどうかはスイートの質問に対する答え次第」 「そんなっ……」 ヴァロが向けたのはスイートを責める視線やがっかりした視線ではない。むしろ。 「今でも大切に思っているに決まっているじゃないですかっ」 思わず力がこもって立ち上がったヴァロの膝から義手が落ちる。それを拾ったセリカはまっすぐに彼を見て。 「もし、エマリアがここには戻ってこれないとしたら、どこか別の場所で一緒に暮らす覚悟はある?」 「……エマリアが、まだ僕を望んでくれるなら……!」 ヴァロの瞳には、今までとは違った光が灯っていた。 (エマリアちゃんの心を溶かすのは 大切な人の言葉) 「もしアナタにその気があるのなら、スイートと一緒に来て」 「無理なら手紙だけでもいいわ。他にもエマリアのことを未だに案じている人がいるなら、その人も紹介して。手紙を書いてもらいたいの」 「……どういうことですか?」 二人の言葉から切羽詰まった様子を感じ取ったのだろう、ヴァロは訝しげに眉を動かした。スイートがゆっくりと口を開く。 「あのね、エマリアちゃん自殺しちゃうかもしれないの」 「え?」 突然のことに、ヴァロがその言葉を理解するまで数瞬かかった。その間にもスイートは続ける。 「皆に迷惑かけるのが嫌で、独りで我慢してたけど、寂しさに耐えきれなくて……もうこれっきり会えないかもしれないの」 「そんな……」 「エマリアちゃん、アナタから貰った指輪を今でもとても大切にしてる。だから」 愕然として膝を落としたヴァロに、スイートがゆっくりと、語って聴かせる。セリカはベンチから立ち上がって、彼と視線を合わせて懇願する。 「お願い。エマリアの心を動かすために力を貸して」 自分のためにではなく、エマリアとヴァロのために願う。それはスイートも同じだ。 「……」 ヴァロは少しの間、考え込んでいるようだった。それは時間としては短かったかもしれないが、エマリアに時間がないと知っている二人にとってはもどかしく、長い時間だった。 「ヴァ……」 「わかりました」 セリカが催促するように口を開いたその時、ヴァロが顔を上げた。その瞳には光が讃えられていた。それを見れば、二人にも彼の決意が伝わってきた。 「急ぎましょう。確かアリスおばあちゃんとルーシーおばさん、ダンテおじさんにセタクもエマリアのことを今でも気にかけていたはずです。僕と違って一緒に行くのは難しいかもしれませんが、手紙なら協力してくれると思います!」 「じゃあ、手分けした方がいいかな」 「そうね、急いで回りましょう」 三人は顔を合わせ、頷いた。ヴァロにそれぞれ目的の人物の居場所を教えてもらい、村の中に散る。 一刻も早く、エマリアの寂しさを癒したくて。 *-*-* 事前に教えられていた山は険しくて、その険しさはエマリアの決意のようにも感じられた。決して人とは触れ合うまい、幼い身で体験した衝撃と自責の念とに囚われた彼女が、すべてを拒否しているように見えた。 暫く登ると木々の隙間に青が見えた。小さな澄んだ泉だ。 「水の音が聞こえるね」 「えっ……?」 スイートは焦ったようなセリカを置いて、木々の隙間に駈け出した。セリカはヴァロに「ここで待っていて」と告げると、スイートを追いかける。 「あっ……」 「エマリア、ちゃん?」 そこには水際に膝をついて木のバケツに水を汲んでいる一人の少女の姿があった。やせ細ってはいるが鄙にあっても栗色の髪は艶を失わず、木漏れ日に輝いている。 「……!?」 スイートに呼ばれた少女、エマリアはバケツを放り出し、立ち上がって踵を返す。 「待って!」 「エマリア!?」 スイートの様子で彼女がエマリアであると悟ったセリカも、その背中へと声をかけた。だが、地の利のある彼女は、木々を上手く避けて駆けて行ってしまう。 「追おう?」 「そうね。多分家に帰ったんだと思うわ」 スイートとセリカは顔を見合わせて頷き、ヴァロを連れて当初向かう予定だった道程を進んだ。 私は人を好きになってはいけない。私は人に触れてはいけない。私は――。 程なく三人がたどり着いたのは、小さな古びた山小屋だった。山小屋の前には畑があって、大きなものではないがそこで自給自足していたのだと知れた。 「ここにエマリアが……」 ヴァロは感極まって今にも飛び出しそうだったが、二人はそれを制してまずは二人だけでエマリアと接触することにした。ヴァロは切り札なのだ。 小屋の扉は固く閉じられていて、それが拒絶の証のように思えた。けれどもここで諦める訳にはいかない。スイートはトントントンと扉をノックして、優しい声で呼びかけた。 「エマリアちゃん、いる?」 ……カタン……。 小さいが、扉の向こうから物音が聞こえた。自分の名を呼ぶ見知らぬ少女に動揺したのだろう。中に人がいることに 間違いはなかった。 「そのままでいいから聞いて」 スイートは扉の向こうに話しかけるように、声を出す。 「逃げちゃダメ。死んじゃダメ。アナタが死んだら竜刻が暴走して、もっと沢山の人が死ぬの」 「!? どうして……」 どうして私が死のうとしているとわかったのだろう、エマリアの心の中はきっと混乱している。その混乱で出来た隙間に入り込むように、セリカも扉に近づいた。 「エマリア、あなたの身を案じている人がいるの。残念ながら村人全員ではないけれど、少なくともここにある手紙を書いてくれた人達は、エマリアのことを心配しているわ」 「……手紙?」 「そうよ。アリス、ルーシー、ダンテ、セタク、そして……ヴァロ」 「!?」 キィ……細く木戸が開いた。その隙間からおずおずと顔を出したのは先程泉にいた少女だった。不安そうな瞳が二人を見つめている。 「これ、読んで」 すっと隙間に差し出された手紙の束に一瞬ビクッと後ずさったエマリアだったが、手を伸ばし、セリカの手に触れないように注意しながらその束を受け取った。スイートは扉の隙間に足を挟んで再び締め切られてしまわないようにしておいた。 「……、……」 黙々と手紙を読むエマリア。時間がなかったからそんなに長い手紙ではないけれど、何度も何度も目は文字を追っている。 「ありがとう……これで思い残すことはないわ」 涙ぐむんだエマリアはくるりと部屋の中へと踵を返した。スイートがそれを追う。 エマリアは台所に合った包丁を手にした。予定とは違ったけど、小さく呟いて逆手に持ったそれを振り上げる。 「だめっ……!」 ザシュッ…… その刃が振り下ろされてもエマリアは死ななかった。竜刻は暴走しなかった。 鮮血がぽたぽたと古ぼけた床に落ちる。 スイートが、エマリアを抱きしめるようにして庇い、その刃を受けていた。 「なん、で……」 「エマリアちゃんの事、ほっとけない」 目を限界まで見開いたエマリアにスイートは笑顔を作って。 「だって……同じだもの」 零れた血に誰も触れないように、エマリアの包丁を奪い、自分で止血して近くにあった雑巾で床を拭く。スイートの血は、毒そのものだから。 「スイート!」 「エマリア!」 小屋に駆け込んできたセリカとヴァロが惨状を目にして叫んだ。エマリアは突然色々なことが起こったからか、力が抜けたように床に座り込んで。それでも瞳は4年ぶりに出会った幼馴染を見つめていた。 「……ヴァロ」 *-*-* アリスお婆さんは惨劇の暫く後に気がついたのだという。エマリアが手袋をしている時に触れられても、何も起こらなかったことに。 簡単すぎて誰も信じてくれなかったけれど、お婆さんの記憶違いだと誰もが言ったけれど、お婆さんはずっと信じていた。きっと、手袋越しならば大丈夫だと。 勿論、エマリアはいなくなってしまった後だったし、再会しても誰も命を張って確かめようとする者はいないだろう。けれどもお婆さんは作り続けた。毛糸の、シルクの、皮の手袋を幾つも、いくつも。 手紙と一緒にそれを預かってきていたセリカはヴァロに託した。ヴァロは今、小屋の中でエマリアと話をしてる。セリカとスイートは夕色に変わりゆく空を眺めながら二人、丸太に座っていた。 「これでもう、誰も不幸にしなくて良くなるといいね」 「ええ」 セリカはスイートの口元から視線を逸らさずに、同意を返す。 スイートは手袋をはめることが根本的解決になっていないと知っている。でも……エマリアには幸せになって欲しかった。人と違ったって幸せになっていいんだよって言ってあげたい。それは――スイートが言ってほしい言葉かもしれなかった。 場に沈黙が降りる。セリカはスイートの横顔を見つめながら思う。 自分の境遇なんてエマリアやスイートに比べれば遥かに生易しいものだと思う。けれど、普通の人と違うせいで周りに迷惑を掛けてきたことは事実で。 (だからいずれ、エマリアのようにひっそり暮らそう、って……) そう思っていたけれど、でも好きな人と共に生きるほうがずっと幸せになれる、その権利は誰にでもある。最近、そう思えるようになってきた。 (スイートは、以前、過去や秘密を話してくれた……でも、私は) セリカは秘密をずっと隠し続けている。それは心苦しくて。 (インヤンガイへの帰属の兆候が現れた今、こうして依頼を受けてヴォロスへ来るのはきっと最後……スイートとも後何回話せるか分からない) 隠していてはいけないと思う。だけど秘密を知ったスイートにどう思われるか……それを考えるとずっと怖かった。 こんな身体の自分にできることは少ないかもしれないけれど、それでも誰かの幸せのための力に少しでもなれれば本望、そう思った。エマリアだけでなく、スイートに対しても。 セリカは手の中にある、封印のタグを貼った指輪をぎゅっと握る。今日はエマリアの力になれた。スイートの力には、なれる? スイートの心はフワフワしていた。喜びや楽しみではなく、不安や恐怖で。 育ての母を殺した記憶が蘇ってから、自分でもわかるくらい精神的に不安定になっていた。ママに人殺しの道具としてしか思われていなかった事実を突きつけられた今、帰属先や自分の価値さえ見えなくなっていて。セリカやエマリアを助けるためなら自分なんてどうなってもいい――そう思っていた。 包丁で刺された肩の傷がズキリと疼いたが、全く痛みも後悔も感じられない気がしていた。紅く染まる空はまるで、ママを殺した時の炎の色みたい――ぼんやりとそんなことを思った。 「ねぇ、スイート。聞いてほしいことがあるの」 「なぁに? セリカちゃん」 声を掛けられ、スイートは夕空から視線を戻した。陽を受けたセリカの顔が真剣そのもので、なんとなくスイートも居住まいを正す。 「あのね」 セリカの口から飛び出してきたのは、意外な事実だった。 「私、耳が聞こえないの」 「……え?」 頭の中で今の言葉を何度も何度も反芻してみせる。 「ごめんなさい、今まで隠していて。どうしても、言えなかったの……どう思われるか怖くて」 セリカは不安を表情に浮かべてスイートを見てくる。スイートは今までセリカの耳の異常には全く気がついていなかった。けれども、言われてみれば、思い返してみれば思い当たるフシがあるような……。 「話してくれてありがとう。嬉しい。スイートは、セリカちゃんに幸せになってほしいって思うよ。スイートにできることがあればなんでも言って欲しいの。人と違ったって、幸せになっていいんだよ」 言葉が溢れ出てきた。親近感が増した。ますます、セリカのために何かしてあげたいという気持ちが溢れる。 「スイート、スイート!」 セリカは彼女の流れる言葉を止めるように、その手をとった。彼女が沈んでいるような、様子が変だというのはなんとなく気がついていた。だから、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。 「あなただって一人じゃない。ターミナルに沢山友達いるでしょ? 皆スイートを大切に思ってるし心配してる。勿論私も同じ。話したくないなら無理に聞かないけど、できることがあれば力になりたい」 そのままそっとスイートを抱き寄せて、セリカはテレパシーを使った。 『あなたには笑っていて欲しい、幸せになって欲しい。あなたは大切な友達だから……これからもずっと。それを忘れないで』 「セリカちゃん……」 スイートの瞳に涙があふれる。伝わる温もりが愛しい。 「でも……スイート、自分の幸せが何なのかわからないの」 セリカの胸元に顔を寄せたまま呟かれた言葉。それが伝わったのか伝わらなかったのか、セリカはもう一度ぎゅっとスイートを抱きしめ返した。 この子が幸せになれますように、幸せをつかめますように。ずっと笑顔でいてくれますように、彼女を苛む『何か』が彼女から消えてくれますように。 沈みゆく夕日が、じっと二人を見つめていた。 【了】
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