オープニング

 公然の秘密、という言葉がある。表向きは秘密とされているが、実際には広く知れ渡っている事柄を指す。秘密とはこの世で最も脆いもののひとつ、それを打ち明け共有出来る友を持つ者は幸いである。胸に抱えた秘密の重さは人に話してしまえば軽くなるものだし、更には罪悪感を連帯所有することで深まる絆もあるだろう。

 ……さて。あなたはそんな、誰かに打ち明けたくてたまらない秘密を抱えてはいないだろうか?それなら、ターミナルの裏路地の更に奥、人目を避けるように存在する『告解室』に足を運んでみるといい。
 告解室、とは誰が呼び始めたかその部屋の通称だ。表に屋号の書かれた看板は無く、傍目には何の為の施設か分からない。
 ただ一言、開けるのを少し躊躇う重厚なオーク材のドアに、こんな言葉が掲げられているだけ。

『二人の秘密は神の秘密、三人の秘密は万人の秘密。それでも重荷を捨てたい方を歓迎します』

 覚悟を決めて中に入れば、壁にぽつんとつけられた格子窓、それからふかふかの1人掛けソファがあなたを待っている。壁の向こうで聞き耳を立てているのがどんな人物かは分からない。ただ黙って聴いてもらうのもいいだろう、くだらないと笑い飛ばしてもらってもいいだろう。

 この部屋で確かなことは一つ。ここで打ち明けられた秘密が部屋の外に漏れることはない、ということ。
 さあ、準備が出来たなら深呼吸をして。重荷を少し、ここに置いていくといい。

品目ソロシナリオ 管理番号2640
クリエイター瀬島(wbec6581)
クリエイターコメント乙女の秘密、それはもはや秘密ではない!
こんにちは瀬島です。

さて、秘密を打ち明けてみませんか。
独り言によし、愚痴によし、懺悔によし。
どシリアスからギャグまで幅広く対応いたします。

【告解室について】
OPの通り、一人掛けソファと小さな格子窓のついた狭い部屋です。
西洋の教会にある告解室をご想像ください。
採光窓はありますがすりガラスになっており、外から見えることはありません。

話を聴いてくれる人物は声以外の全てが謎に包まれています。
プレイングにてご指定いただければある程度人選を行います。
優しい女性がいい、同世代がいい、説教されたいなどお気軽にどうぞ。
お任せや描写なし、過去納品された中からご指定頂くなども歓迎です。
特に指定がなければプレイングの雰囲気に合わせて適宜描写します。

【ご注意】
格子窓の中を覗く、格子窓の中に入るなど、
話を聴いてくれる人物と声以外で接触するプレイングは不採用といたします。
中の人など居ない!(ピシャッ)

参加者
シーアールシー ゼロ(czzf6499)ツーリスト 女 8歳 まどろむこと

ノベル

 おや、いらっしゃい。

 ようこそ、全ての秘密が守られる部屋へ。
 告解室? まあ、そのように呼ぶ者も居るね。すると君は、何か人には打ち明けられない罪の告白をしに?

 ……ふむ、自らが犯した罪ではない。成る程。
 ところで君、ひどく興奮している様子だが大丈夫かね。そこのサイドテーブルに水差しがあるだろう、喉を潤して少し落ち着くといい。そうだ、何かを話すのに喉が乾いていてはね。

 何? 窓に? 窓に何だって?
 ……ははあ。いや安心したまえよ、君がこの部屋を訪れていることなど、知りうる者は誰も居ない。ここはそういう風に出来ているのだから。君が目にしているであろう窓からは光が差し込んでいるだろうけれど、そこは通りに面しているわけじゃあない。そういうものだと思ってくれ。さあ、落ち着いて座って。そう、深呼吸も必要ならばするといい。ここは君がどんな秘密を持っていたとしても、それを受け入れ守るだけの度量を常に備えている。大丈夫だ。

 ああ、秘密ではなく、告発か。成る程確かに、厄介だね。
 ……我々の常識を脅かす程の、ん? 汎世界群的な……陰謀?
 すまない、私には君が一体何について語っているのか今ひとつ……おかしいな。言葉そのものは通じていると思いたいのだけれど。

 ……うん、ああ。ターミナルで、とある少女を見かけたと。そこまでは理解した。豊かな銀色の髪を靡かせ、年の頃はコンダクターでいうところの七歳か八歳程度、ふむ。言葉で聞く限りではたいそう可愛らしい感じがするね。で、その少女が一体どうしてそんな風に、壮大な計画を立てていると思い至ったんだい。

 配っている?
 そして君はそれを持っていると?
 その、何だ。少女がその……食べ物と言い張る何かを君に手渡したわけだね。うん、少しずつ理解してきたよ。謎団子という名称なのか。団子なら食べてみればいいと思うがね。そも、少女は何故君にその謎団子を手渡してきたのだろうか。

 ああ、そうか配っているのだったね。それにしたって何の為にという疑問は消えないわけだけれど。少女は何か君に言っていなかったのかい?

 ……はあ、『ランダム性の検証を目的として手始めに100個の謎団子を配布し、試食後はアンケートにご協力をお願いしているのです』と。少女がそう言ったんだね。で、その謎団子を受け取ったはいいが、彼女の超宇宙的な恐るべき企みに気がついてしまった君は、アンケートどころか謎団子を食べるという選択肢からも逃げ出してきたと。しかし謎団子はその手にしっかりと握られていた……。

 彼女は君が、彼女の悪魔的な陰謀に気づいてしまったことに気づいて、謎団子の行き先をトレースしたうえでここをいずれ突き止めやってくると、そう言いたいわけだ。なるほど興味深い。

 ……私はね、人の秘密について多寡や価値の重い軽いを断じようだとか、罪の重さをはかってやろうだとか、そんな風に思いたくは無いのだけれどね。
 ……君のそれは何というか……ああいやすまない、言わないでおこう。何しろ、君は感じているんだろう? 少女が今にもこの格子窓を破って、言葉では言い表しようのない、形状を口にすることすらおぞましい、あの冒涜的な食物……そう、食物とは決して認めたくない何かを手に迫ってきているのを。

 何? もうこの部屋を出たい?
 そうだね、それがいいかもしれない。すぐにでも人の多い場所に向かったほうがいいだろう。そう、すぐにでも。

 ……おや、誰か……。





「…………というような夢をゼロは見たのですが、そんなお客様がこちらにいらっしゃらなかったです?」
「だからそれはこの部屋の秘密なんだってば」

 シーアールシー ゼロは不思議そうに小首をかしげ、配りきれなかった数十個の謎団子のうちひとつを取り出して告解室のサイドテーブルに置かれた茶菓子用の小皿にそおっと載せた。

「それではただの夢だと思うことにするのです。それよりも中の人さん、ゼロは中の人さんに折り入ってお願いがあるのです。ゼロは世界群における深刻な食糧難を救うべくこの謎団子を作成したのです。万人がおいしいと思えるものにするべく鋭意ブラッシュアップ中なのです。そのためには実際に食べた方の感想を定期的にリサーチする必要があるのです。そこで、たくさんの人が訪れるこの告解室に、お茶請けとして謎団子を置かせていただきたいのです。アンケート用紙と回収用の箱はこちらで用意してあるのです、いかがです?」
「……もう一度言おうか、この部屋で言葉にしたことの全てはこの部屋を出ることのない秘密になるんだ。いいね?」

 ここでは謎団子のモニタリングが出来ない理由をこんこんと説明され、ゼロはしぶしぶながら納得したのか席を立った。
 ……サイドテーブルに置き去りにされた謎団子(故意か過失かは神のみぞ知る)。それを誰が食べたのかも、この部屋が受け入れる秘密の一つなのだろうか。

クリエイターコメントお待たせいたしました、『告解室にて』お届けいたします。ご参加ありがとうございました!

きっとゼロさんの夢に出てきた告解室では、お茶請けに名状しがたい落とし子のオリーブオイル煮が出ていたんではないでしょうか。
公開日時2013-05-04(土) 19:50

 

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